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千葉地方裁判所 平成7年(行ウ)30号 判決 1998年10月26日

千葉県鎌ヶ谷市東中沢二丁目一四番一〇―一三号

原告

石井稔

右訴訟代理人弁護士

小木和男

埼玉県三郷市高州三丁目一四二番地二

グリーンハイツ鈴木D―2

原告

石井初江

原告

石井昭彦

原告

石井正行

千葉県市川市塩焼三丁目二四番地一八

塩焼マンション三〇二号

原告

石井芙美江

原告

石井司

原告

石井守

千葉県市川市伊勢宿一番七号

原告

石井功

東京都江戸川区南篠崎町二丁目一〇四番地

原告

石井俊之

千葉県浦安市海楽二丁目四番五一号

原告

樋口礼子

千葉県市川市伊勢宿七番一九号

原告

石井靖雄

千葉県市川市南行徳四丁目一八番一

サンライズ宮崎一〇五

原告

保泉純子

右原告石井初江外一〇名

訴訟代理人弁護士

椛嶋裕之

千葉県市川市北方一丁目一一番一〇号

(送達場所 千葉市中央区中央港一丁目一一番三号 千葉地方法務局訟務部門)

被告

市川税務署長 登内正明

右指定代理人

前澤功

井上良太

神作昌嗣

細谷秀和

横尾輝男

南幸四郎

高梨晃弘

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告石井稔、同石井芙美江、同石井功、同石井俊之、同石井司、同樋口礼子及び同石井守に対し、被相続人石井浅次郎に係る相続税について平成五年四月七日付けでした更正のうち、課税価格二億一五一三万三〇〇〇円、相続税額八六三九万三〇〇〇円を超える部分、原告石井初江、同石井昭彦、同石井正行に対し、右相続税について亡石井聰の納税義務の承継人として同日付けでした更正のうち課税価格二億一五一三万三〇〇〇円、相続税額八六三九万三〇〇〇円を超える部分、原告石井靖雄、同保泉純子に対し、右相続税について同日付けでした更正のうち課税価格一億〇七五七万六〇〇〇円、相続税額四三二〇万〇三〇〇円を超える部分、及び、原告らに対し、同日付けでした右更正に係る各過少申告加算税賦課決定処分を、いずれも取り消す。

第二事案の概要

一  前提となる事実(1ないし4及び6については当事者間に争いがない。)

1  原告石井稔、同石井芙美江、同石井功、同石井俊之、同石井司、同樋口礼子、同石井守、同石井靖雄、同保泉純子、亡石井聰(以下「本件相続人ら」という。以下、原告を表示する際は「石井」の記載は省略する。)は、平成二年一月一一日に死亡した被相続人石井浅次郎(以下「亡浅次郎」という。)の相続人である。

2  本件相続人らは、平成二年七月一〇日、被告に対し、亡浅次郎の相続に係る相続税について、別紙1の更正税額等一覧表の「申告税額」欄記載の内容で申告をした。

3  亡石井聰(以下「亡聰」という。)は平成四年六月一九日に死亡し、原告初江、同昭彦、同正行が亡聰に係る右相続税の納税義務を相続した。

4  被告は、原告らそれぞれに対し、平成五年四月七日付けで、本件相続の総遺産価額を三三億一一七七万八八二三円、課税価格の合計額を二一億八二八一万八〇〇〇円、相続税の総額を九億二二七七万〇六〇〇円、原告らの各相続税額について別紙1の更正税額等一覧表の「更正税額」欄記載の内容とする各更正(以下「本件各更正処分」という。)及び同表の「過少申告加算税」欄記載の内容による過少申告加算税の各賦課決定をした(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各処分」という。)。

5  被告は、本件相続における課税価格及び原告らが納付すべき相続税額は、別紙2の「課税価格等の計算明細表」及び別紙3の「税額算出表」記載のとおりであるとし、その具体的内容について次のとおり主張している。

(一) 本件相続人らが取得した財産の価額

本件相続により本件相続人らが取得した財産は、土地、家屋、現金、預貯金、事業用財産、家庭用動産、未収金、貸付金及び電話加入権であり、被告は、その価額を、別紙2の順号1ないし10欄記載のとおり評価した(なお、後述する別紙5の順号1、5ないし8記載の各土地、別紙9の順号3、4記載の各建築中の家屋を除いて、その財産の詳細については当事者間に争いがない。)。

(二) 控除すべき債務の価額

本件相続人らが取得した財産の価額から控除すべき債務の価額について、被告は別紙2の順号11ないし15欄記載のとおりとした(これについても当事者間に争いがない。)。

(三) 課税価格の合計額

本件相続人ら各人ごとに、右(一)の価額から右(二)の価額を控除して課税価格を算出すると、別紙2の順号17欄記載のとおりであり(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数切捨て)、その合計額は、二二億〇六二四万二〇〇〇円となる。

(四) 本件相続人らの納付すべき相続税額

(1) 基礎控除額

相続税法一五条の規定に基づき計算された遺産に係る基礎控除額は、別紙3の順号2欄記載のとおりである(この点も当事者間に争いがない。)。

(2) 課税遺産総額

前記(三)の課税価額の合計額から右(1)の基礎控除額を控除した課税遺産総額は、別紙3の順号3欄記載のとおりとなる。

(3) 本件相続人らの法定相続分に対応する取得金額

相続税法一六条の規定に基づき、本件相続人らが法定相続分に応じて取得したものとした場合の課税遺産額で、右(2)の課税遺産総額に本件相続人らの法定相続分(別紙3の順号4欄)をそれぞれ乗じて算出した金額(国税通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数切捨て)であり、別紙3の順号5欄記載のとおりとなる。

(4) 相続税の総額 九億三六五六万一二〇〇円

右(3)の各金額に相続税法一六条の規定を適用して計算した金額の合計額であり、別紙3の順号6欄記載のとおりである。

(5) 本件相続人ら各人の相続税額

右(4)の相続税の総額に相続税法一七条の規定を適用して計算した金額であり、別紙3の順号7欄記載のとおりである。

(6) 納付すべき相続税額

右(5)の相続税額に国税通則法一一九条一項の規定を適用して一〇〇円未満の端数を切り捨てた金額(別紙2の順号19欄記載の金額)となる。

(7) 過少申告加算税

納付すべき相続税額から、本件申告書に記載されている本件相続人らの納付すべき相続税額を控除した税額(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数切捨て)に、同法六五条一項の規定に基づき一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額となる。

6  本件各処分に対する原告らの不服申立の経緯は、別紙4「本件課税処分等の経緯」記載のとおりである。

二  争点(本件各処分の違法事由)

1  更正事由の存否

(一) 土地の評価方法

(1) 不整形地による補正の要否、程度

(2) 租税特別措置法六九条の三の適用の有無

(二) 建築中の家屋の評価方法

2  本件各処分の理由付記の要否

三  争点に対する当事者の主張

1  宅地の評価方法について

(被告)

(一) 相続財産の評価について

相続税法二二条は、相続により取得した財産の価額は、同法に特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価により評価するものと規定し、右時価とは相続開始時における当該財産の客観的交換価値、すなわち不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額をいうものと解されているが、この客観的交換価値が必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、国税庁長官が各国税局長宛に発した「相続税財産評価に関する基本通達」(昭和三九年四月二五日付け直資五六、直審(資)一七国税庁長官通達(平成二年三月二八日付け直評三による改正前のもの。以下「評価通達」という。)及び毎年各国税局長が定める相続税財産評価基準(以下「評価基準」という。)に定められている評価方法により画一的に相続財産を評価することとしている。なお、東京国税局管内にある土地等で個別事情があるものの時価の算定については、「個別事情のある財産の評価等の具体的な取扱いについて」(昭和五五年六月二四日付け直評一五号、直資一〇五号。平成四年一月二八日課一評二八号、課一資二二七号により廃止されたもの。以下「東京通達」という。)に基づき行っていたから、本件相続財産は、原則として右評価通達、評価基準及び東京通達に基づき評価することとなる。

そして、相続財産の評価が右時価を超えない限り、当該評価額は適法なものであって、これを基に課税価格や相続税額等を算定することもまた適法である。

(二) 宅地の評価方法について

宅地の価額は、利用の単位となっている一区画の宅地ごとに評価することとされており(評価通達10)、原則としてその宅地の面する路線に付された路線価を基とし、所要の補正を行い計算した金額により評価する方法(以下「路線価方式」という。)または倍率方式により評価することとされ、当該宅地がいずれの方式によるかは評価基準の評価倍率表に示されており、本件相続により本件相続人らが取得した土地は、すべて路線価方式により評価する地域に存する土地である。そして、路線価方式による評価は次のとおり行う。

(1) 評価基準の路線価図に公表されている路線価を基として、当該宅地の奥行距離に応じて評価通達付表1(奥行価格逓減率表)に定められた逓減率を乗じて計算した価額に、当該宅地が面する路線の状況に応じて評価通達付表2(側方路線影響加算率表)及び評価通達付表3(二方路線影響加算率表)を適用して計算した金額の合計額に地積を乗じて計算する。

(2) また、宅地が路線に接する状況やその形状等から整形地に比して利用価値が減少するような場合、すなわち、間口の狭小な宅地や奥行の短小な宅地は、その利用において相当の制約を受けることから、評価通達付表5(間口狭小補正率表)ないし7(奥行短小補正率表)に掲げる補正を行い、また、その形状が不整形である宅地については、その不整形の程度、位置及び地積の大小に応じてその宅地が自己の用に供している土地(以下「自用地」という。)として計算した価額から一〇〇分の三〇の範囲内において相当と認められる金額を控除して評価する。

(3) 他に賃貸されている土地の価額は、それが地上権又は借地権の目的となっている宅地(以下「貸宅地」という。)である場合、その宅地の評価額から相続税法二三条の規定により評価したその地上権の価額又は借地権の価額を控除した金額によって評価することとされており(評価通達25)、借地権の価額とは、借地権の対象となる土地の評価額に借地権の価額の割合がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長が定める割合を乗じて計算した金額をいう(評価通達27)。

(4) 地上権又は借地権以外の権利の目的となっている土地の価額は、評価通達においてその評価方法が定められていないことから、東京通達において、貸し付けていないものとして評価した土地の価額から、次の区分に従い評価した賃借権の価額を控除した価額により評価することとされている(東京通達5―(5))。

<1> 地上権に準じる賃借権(賃借権の登記がされていたり、賃借権設定の対価として相当の権利金が授受されているといった事情のある賃借権)については、原則として、その賃借権の目的となっている土地の自用地としての評価額に、その残存期間に応ずる相続税法二三条に規定する割合又は借地権であるとした場合に適用される借地権割合のいずれか低い方の割合を乗じて計算した金額(東京通達5―(3)イ)。

<2> 右以外の賃借権については、賃借権の目的となった土地の自用地としての評価額に、その残存期間に応ずる相続税法二三条に規定する割合の二分の一に相当する割合を乗じて計算した金額(東京通達5―(3)ロ)。

<3> ただし、右<1>及び<2>に該当するものであっても臨時的な使用に係るものや賃貸契約期間が一年未満のものについては評価の対象から除く(東京通達5―(3)注書)。

(三) 本件相続人らが本件相続により取得した土地の価額は、別紙5の土地の価額の明細表の「価額」欄記載のとおりであり、原告らが評価額を争う別紙5の順号1、5、6、7、8記載の各土地(以下「本件係争宅地」という。)の評価額及び不整形地補正率の内容は別紙5の当該「価額」欄及び「不整形補正率」欄記載のとおりである。

(四) 不整形地補正率の算出方法の合理性について

(1) 不整形地補正率の算出根拠

評価通達20は、不整形地について、その不整形の程度、位置及び地積の大小に応じ、路線価に補正を施した上でその価額を評価することとしているが、これは、土地の形状が悪いことによって、整形地の価額に比してその価額が低くなることから、その程度に応じて減額補正をする余地を認めたものであり、あくまでそれぞれの個別事情に応じその不整形のためにその価値が減少していると認められる範囲で補正することとしたものであって、単に整形地でないということから必ず補正をしなければならないという性質のものではない。したがって、たとえ宅地の形状が整形でない場合であっても、その面積がおおむね適正規模か若しくはそれ以上の広さがある場合や不整形の程度が小さい場合など、宅地としての利用に特に支障がない場合には、不整形地補正は行われないこととなる。また、同通達では、不整形地について一〇〇分の三〇の範囲で合理的な金額を減額することとしているところ、これは、評価の対象になる不整形地の形状が多種多様であり、一律にその経済的価値の減少割合を見積もることが困難であることから、具体的な基準を定めないで、個々の不整形地についてその価値の減少していると認められる範囲内で補正することとしているものである。

しかしながら、同通達では、右のとおり具体的な基準が定められていなかったことから、課税実務上は不整形地について、過去の類似事例で適用された不整形地の補正率がどの程度のものであったか等、経験則に従い、ある程度達観的に不整形地補正率を決定していた側面があったため、課税の公平、簡素化の観点から、不整形地の評価上勘案すべき不整形の程度、位置及び地積の各要素を盛り込んだ補正率を求める指針として、「不整形地補正率について」(平成四年三月三日付け資産評価官情報第一号、以下「本件情報」という。)を公表し、不整形地補正率の算定を統一的に行っている。本件情報による不整形地補正率の求め方は以下のとおりである。

<1> 評価する不整形地の地区及び地積の別を本件情報の別表1の地積区分表(別紙6)に当てはめ、いずれの地積区分に該当するかを判定する。

<2> 右不整形地の画地全域を囲む、正面路線に面する矩形又は正方形の土地(以下「想定整形地」という。)の地積を算出し、蔭地割合を算出する。

蔭地割合=(想定整形地の地積―評価対象となる不整形地の地積)÷想定整形地の地積

<3> 右地積区分と右蔭地割合を本件情報の別表2の不整形地補正率表(別紙6)に当てはめ、該当する補正率を不整形地補正率とする。ただし、評価通達付表4「間口狭小補正率表」に定める間口狭小補正率の適用のある評価対象地については、右補正率に間口狭小補正率を乗じて得た数値を不整形地補正率とする。

本件情報は、右<1>において、評価対象地が存する地区と評価対象地の地積との関係を考慮するとともに、右<2>において、評価対象地が面する路線を基に整形地を想定し、想定した整形地と評価対象地との形状の差を蔭地割合として表し、形状面についても考慮している。

したがって、本件情報による不整形地補正率の算定方法は、不整形地の評価上勘案すべき不整形の程度、位置及び地積の各要素を盛り込んだものであり、不整形地補正率を求める方法として合理的なものである。そして、本件情報は、前記のとおり、従来経験則に従って行われていた不整形地補正率の算出方法を集約して、確認的に定型化したものであるから、本件情報を本件に遡及的に適用することは違法ではない。

(2) 本件各土地の形状、地積、不整形地補正率の算出根拠

<1> 市川市伊勢宿五番二及び六番(別紙5順号1記載の土地。以下「本件A土地」という。)

本件A土地は、東京国税局長が定めた平成二年分相続税財産評価基準の路線価図(以下「路線価図」という。)によれば、普通住宅地区に存しており、地積は一〇一八・一七平方メートルである。本件A土地は、東側と西側の二方がそれぞれ路線に接している土地であり、亡浅次郎所有の建物と亡聰所有の建物の敷地となっている。本件A土地の蔭地割合は別紙図面一記載のとおり四二・九パーセントであり、これらを前記不整形地補正率表に当てはめると、本件A土地の不整形地補正率は〇・九五となる。

<2> 市川市伊勢宿一〇六番七(別紙5順号5記載の土地。以下「本件B土地」という。)

本件B土地は、路線価図によれば、普通住宅地区に存しており、地積は五九〇・〇〇平方メートルである。本件B土地は、北東側、北西側及び南西側の三方がそれぞれ路線に接している間口が約三一メートル、奥行約一九メートルの土地である。本件B土地の蔭地割合は別紙図面二記載のとおり二四パーセントであり、これらを前記不整形地補正率表に当てはめると、本件B土地の不整形地補正率は〇・九八となる。

<3> 市川市伊勢宿一〇六番八及び一三(別紙5順号6記載の土地。以下「本件C土地」という。)

本件C土地は、路線価図によれば、普通住宅地区に存しており、地積は九五八・〇〇平方メートルである。本件C土地は、南西側が路線に接し、資材用材料置場として丸彦渡辺建設株式会社に対して貸し付けられている土地である。本件C土地の蔭地割合は別紙図面三記載のとおり二四・二パーセントであり、これらを前記不整形地補正率表に当てはめると、本件C土地の不整形地補正率は〇・九八となる。

<4> 市川市伊勢宿一〇八番二及び三(別紙5順号7記載の土地。以下「本件D土地」という。)

本件D土地は、路線価図によれば、普通住宅地区に存しており、地積は一六六九・二四平方メートルである。本件D土地は、北西側、南東側及び南西側の三方がそれぞれ路線に接している間口約六四メートル、奥行約二六メートルの土地であり、北東側の一部が突出している。本件D土地の蔭地割合は別紙図面四記載のとおり三一・三パーセントであり、これらを前記不整形地補正率表に当てはめると、本件D土地の不整形地補正率は〇・九七となる。

<5> 市川市伊勢宿一一一番三(別紙5順号8記載の土地。以下「本件E土地」という。)

本件E土地は、路線価図によれば、普通住宅地区に存しており、地積は三五四・〇〇平方メートルである。本件E土地は、北西側、南西側の二方がそれぞれ路線に接している土地である。右土地の形状は、一部すみ切りがある矩形であるが、すみ切りによって影響を受ける面積はわずかであり、土地の利用に阻害を与えるものとは認められず、また、本件E土地の蔭地割合は別紙図面五記載のとおり五・九パーセントであるから、前記不整形地補正率表に当てはめると、本件E土地の不整形地補正率は一・〇〇となり、不整形地としての減額は行わないで評価した。

(五) ところで、相続税法二二条の時価の意義については(一)に述べたとおりであるが、地価公示法においても、適正な地価の形成に寄与することを目的として、標準地を選定し、その正常な価格を公示することとしており、その正常な価格とは、土地について、自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格をいうものとされていて、右の正常な価格も相続税法にいう時価も、ともに同一の価格を指向する概念であって、時価の算定にあたって地価公示価格をこれに近似するものとして参考にすることは差し支えないものということができる。また、(二)で述べた路線価については、公示地の価格の七〇パーセント以内の水準を目途に定められるものとされているのである。

そして、平成二年一月一日時点での本件土地等の近隣の公示地の公示価格と路線価を比較すると、路線価は公示価格の六〇パーセント未満となっており、したがって、本件土地等の価額について平成二年分の路線価で評価することは、右時点での時価の六〇パーセント程度で評価したのに等しいものということができる。

しかるに、不整形地の評価における減価補正率は、評価通達においても、また土地価格比準表(昭和五〇年一月二〇日付け国土地第四号、国土庁土地局地価調査課長通達「国土利用計画法の施行に伴う土地価格の評価等について」をいう。)においても、基準地を普通とした場合の下限値を三〇パーセントの減額としているのであるから、仮に本件土地等について最大の三〇パーセントの割合で不整形地の減額をしたとしても、その価額は平成二年分の路線価を下回るものではない。

したがって、本件係争宅地について被告が行った不整形地補正率の算出の適正なことは前項までに述べてきたとおりであるが、仮にそれが認められないとしても、不整形地補正率の多寡にかかわらず、被告の算定した平成二年分の路線価に基づく本件係争宅地の評価額は、平成二年一月一日時点の時価を上回るものではないのである。実際にも、本件B土地及びC土地は、平成五年四月二八日に総額七億一六四五万三一〇〇円で売却されているところ、この価格を公示地を基準とした変動率により本件相続開始時点に修正すると一一億二〇八三万五四二二円となり、被告主張額の五億八一二八万〇一六九円を大きく上回ることからも明らかである。

(原告ら)

(一) 本件申告にあたって、原告らは、本件申告を担当した原告らの税理士小池幸造(以下「小池税理士」という。)が過去に申告に関与した類似事例に基づいて不整形地補正率を算出したが、それによれば、本件係争宅地の不整形地補正率は以下のとおりとすべきであり、その評価額は別紙8の順号1、5、6、7、8の「申告額」欄記載のとおりである。

(1) 本件A土地 〇・九(一〇パーセント減)

(2) 本件B土地及びC土地 〇・八五(一五パーセント減)

(3) 本件D土地 〇・八(二〇パーセント減)

(4) 本件E土地 〇・九五(五パーセント減)

(二) 本件係争宅地の評価根拠

(1) 本件A土地について

本件A土地は、小池税理士が作成した「過去の申告時の不整形補正率と情報の不整形補正率との比較及び評価額の差異」と題する書面(以下「差額表」という。別紙7)の物件A―2に類似しており、右物件の不整形地補正率について、小池税理士は一〇パーセントとして申告したが、何ら問題とはされなかった。したがって、本件A土地について不整形地補正率を一〇パーセントとして行った本件申告は合理的である。

また、被告は、伊勢宿五番の二の土地と同六番の土地とを一体として評価しているが、亡浅次郎の居住部分(四六六・一一平方メートル)と亡聰とが利用していた部分(五五二・〇六平方メートル)とは利用状況が異なる(亡聰利用部分には亡聰所有の建物があり、右利用部分の土地は亡浅次郎から使用貸借により借受けたものである。)ことから、区分して評価するのが適当である。

<1> 亡浅次郎利用部分(四六六・一一平方メートル)

路線価 四四万円

奥行価格逓減率 〇・八八

奥行長大補正率 〇・九八

評価額総額 一億七六八六万八二三六円

(四四万円×〇・八八×〇・九八×四六六・一一)

<2> 亡聰利用部分(五五二・〇六平方メートル)

路線価 二九万円

奥行価格逓減率 一・〇〇

奥行長大補正率 一・〇〇

評価額総額 一億六〇〇九万七四〇〇円

(二九万円×五五二・〇六)

したがって、本件A土地の評価額総額は三億三六九六万五六三六円であり、本件申告額である三億四五三八万〇五七二円よりも低額になるから、右土地を一体として評価し、かつ、不整形地補正による減額割合を五パーセントとして計算した被告の評価額は妥当性を欠く。

(2) 本件B土地及びC土地について

本件B土地及びC土地は、差額表の物件Fに極めて類似しており、右物件の不整形地補正による減額割合について、小池税理士は一五パーセントとして申告したが、何ら問題とはされなかった。したがって、本件B土地及び本件C土地について不整形地補正による減額割合を一五パーセントとして行った本件申告は合理的である。

(3) 本件D土地について

差額表の物件C、D―1、D―2は、本件D土地よりも明らかに不整形の程度が小さいにもかかわらず、いずれも不整形地補正による減額割合は二〇パーセントであるとして申告を行い、何ら問題とされなかった。したがって、本件D土地について不整形地補正による減額割合を二〇パーセントとして行った本件申告は合理的である。

(4) 本件E土地について

本件E土地については、差額表の物件Gに極めて類似しており、右物件について小池税理士は不整形地補正による減額割合を五パーセントとして申告したが、何ら問題とされなかった。したがって、本件E土地について不整形地補正による減額割合を五パーセントとして行った本件申告は合理的である。

(三) 小池税理士が過去に申告した事案に係る評価額と、右事案について本件情報に基づき計算した評価額とを比較すると、別紙7のとおり、申告時の評価額より本件情報に基づく評価額の方がいずれも高額となる。したがって、本件情報は、従来の実務上の経験則を確認的に定型化したものとはいえず、本件情報の遡及的適用は、結果として法律に基づかない増税となり違法である。

(被告の反論―本件A土地について)

評価通達10は、宅地の価額は、利用の単位となっている一区画の宅地ごとに評価することとしている。ここにいう「利用の単位」とは、自用地、貸宅地及び貸家建付地等として区分された評価単位をいい、事実上の利用状況ではなく、処分可能性によって定まるものと解される。そして、使用貸借で貸し付けられている宅地については、右使用借権が貸主、借主間の人的関係を基盤とするもので、借主の権利は極めて弱いことから、客観的な交換価値を有するものと見ることは困難であり、宅地の価額の評価にあたっては、使用借権の存在を減額要因として考慮すべきではなく、したがって、自用地と使用貸借により貸し付けられている宅地が一団の宅地を形成している場合には、これらの宅地を一体として評価すべきである。

また、本件A土地について原告らが主張する亡浅次郎と亡聰の各利用区分の面積は、単に市川市伊勢宿五番二と同所六番の土地の公簿面積に従ったにすぎず、実際の利用区分とは相違するもので、この点からも原告らの主張は理由がない。

2  租税特別措置法六九条の三の適用の有無について

(被告)

(一) 市川市末広一丁目一一番二の土地(別紙5の順号9の土地。以下「本件F土地」という。)の評価額は、別紙5の当該「価額」欄記載のとおりであり、本件F土地には、租税特別措置法六九条の三に規定する小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(以下「本件特例」という。)は適用されない。

すなわち、本件特例は、「個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人若しくは当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族の事業の用に供されていた宅地等で大蔵省令で定める建物若しくは構築物の敷地の用に供されているものがある場合には、当該相続又は遺贈により財産を取得した者に係るすべてのこれらの宅地等の二〇〇平方メートルまでの部分のうち、当該個人が取得をした宅地等で政令で定めるもの(以下「小規模宅地等」という。)については、相続税法第一一条の二に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める割合を乗じて計算した金額とする。」旨規定していること(昭和六三年法律第一〇九号による改正後)から、本件特例は、被相続人又は被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下「被相続人等」という。)が、相続開始の直前において事業の用に供していた宅地等で、かつ、一定の建物及び構築物の敷地の用に供されているものについて適用されるものである。

また、本件特例により相続税の軽減を図っている趣旨は、個人の生活基盤の保護という面とともに、個人事業の承継の保護の側面や事業が雇用の場であり取引先等との密接な関係を有することによる処分面での制約等をも考慮したものと解される。

(二) そして、本件特例における事業の意義については、法には定義規定が設けられていないため、税法の一般概念及び本件特例が制定された趣旨等を勘案して、社会通念にしたがってこれを判断するほかなく、事業といえるか否かは、営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無、自己の危険と計算における企業遂行性の有無、その取引の目的、その者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点を総合して、社会通念上事業といいうるか否かによって判断されるべきものである。本件F土地のようないわゆる青空駐車場については、短期間の貸付けで他への転用が容易であり、物的・人的な設備投資も殆ど行われず計画的な営利性がないなど、右に述べた営利性や継続性、反復性、企業遂行性等の判断要素に欠けるものであるので事業とはいえないのである。

さらに本件特例においては、当該土地が建物又は構築物の敷地の用に供されていることがその適用要件とされているところであるが、構築物の意義についても税法の一般概念及び本件特例が制定された趣旨等を勘案して解釈すれば、事業性を認識しうる程度の資本投下がされた、ある程度堅固な施設で有り、かつ、その施設上において、その施設を利用した事業が行われているような施設を予定したものと解すべきである。すなわち、構築物といっても、人的・物的施設に乏しく、その撤去ないしは除去が容易にできるようなものであれば、その敷地の転用もたやすく、したがって、処分面の制約は非常に少ないということができ、そのような場合にまで高い割合の評価減を行うことによって、個人事業の承継の保護を図るべき必要性は見いだせないし、また、それと同時に、右のような場合にまで雇用の場あるいは取引先等との関係からの処分面の制約が生じるものとも考えがたいのである。そうすると、本件特例に規定する構築物とは、ある程度、人的・物的な資本が投下された施設で、かつ、その施設上で、その施設を利用した事業が行われているような施設をいうものというべきである。

(三) しかるに、本件F土地は、借入金等の新たな資本投下によって取得したものではなく、金網のフェンス、車止め、看板及び外灯等の簡易な施設は設置されているが、建物は建築されておらず、敷地の大部分は、薄い砂利が敷かれている程度であって、右に述べた構築物といえるような施設も存在せず、しかも、借主ハイパーナカムラ株式会社(以下「ハイパーナカムラ」という。)が同土地の管理補修をして、亡浅次郎自身は管理しておらず、賃貸契約の期間も一年間とされ、返還に際しては原状回復が予定されているのである。これからすれば、本件F土地の貸付けには、継続性・反復性が認められず、資本投下による営利性に欠け、企業遂行性もないから人的・物的設備もないうえ、その貸付けのための精神的・肉体的労力の程度もわずかというべきである。本件F土地は、空閑地を一時的に貸し付けたものにすぎず、社会通念上事業の用に供されていたものとは到底いえない。

本件特例は、前記のとおり、雇用の場等処分面の制約を受ける土地であることに着目して相続税の軽減を図る目的で制定されたものであるところ、右のような利用状況に照らすと、本件F土地が「被相続人等の事業の用に供されていた宅地等で建物又は構築物の敷地の用に供されているもの」に該当しないことは明らかである。

(原告ら)

本件特例の解釈にあっては、個人事業の承継の保護の側面や事業が雇用の場であり取引先等との密接な関係を有することによる処分面での制約等を考慮するだけでなく、個人の生活基盤の保護という側面に重点をおいて解釈しなければならない。

本件F土地は、金網フェンスで囲まれた上、敷地には砂利が敷かれるなど、有料駐車場の用に供するための一定の措置が施されており、右本件特例の趣旨に照らせば、コンクリート舗装程度に至らなくても、本件特例にいう「構築物の敷地の用に供されている」ものと解することができる。

また、本件特例の「事業」の該当性については、営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無、自己の危険と計算における企業遂行性の有無、その取引に費やした精神的肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、その取引の目的、その者の職歴・社会的地位、生活状況等を総合して、社会通念上事業といいうるか否かによって判断すべきである。

ところで、亡浅次郎が駐車場として賃貸していた土地は、本件F土地を含め合計約二〇〇〇平方メートルに及ぶことから、その規模において大規模であり、これに伴い人的・物的な役務の提供も必要である。また、右駐車場からの収入は、被相続人の収入の約三分の二を占めている。したがって、右諸事情に照らせば、本件駐車場事業については、営利性・有償性、継続性・反復性があるだけでなく、自己の危険と計算における企業遂行性が認められるのであり、社会通念上「事業」といえる。このことは、通常、二〇〇〇平方メートル以上の貸宅地や一〇台以上の駐車台数の駐車場について事業性が認められていることの比較からも明らかである。そして、本件申告においては、被相続人が駐車場として賃貸していた土地のうち、二〇〇平方メートルまでの部分として本件F土地を本件特例の対象としたものである。

よって、本件F土地は本件特例の対象となり、被告主張の評価額から、本件特例による減額をして、別紙8の順号9の「申告額」欄記載の価額とすべきである。

3  建築中の家屋の評価について

(被告)

(一) 本件相続人らが本件相続により取得した家屋の評価額は別紙9家屋の価額の明細表の「価額」欄記載のとおりであり、原告らが価額を争う建築中の家屋の評価額は、別紙9の3、4の「価額」欄記載のとおりであって、その詳細は次のとおりである。

(1) 千葉県市川市伊勢宿一〇番に建築中の家屋の価額

四億三四〇〇万円

相続開始日までに右家屋の建築のため投下された左記費用現価の合計額に一〇〇分の七〇を乗じて算出した金額である。

<1> 株式会社吉原組(以下「吉原組」という。)に対する支払額

五億八〇〇〇万円

昭和六三年一二月二〇日付け工事請負契約(発注者亡浅次郎、請負人吉原組)に基づき支払われた金額

<2> 株式会社シグマシステム(以下「シグマシステム」という。)に対する支払額

四〇〇〇万円

昭和六三年五月二四日付け及び同年六月九日付け建築士業務委託契約(委託者亡浅次郎、受託者シグマシステム)に基づき支払われた金額の総額

(2) 千葉県市川市塩焼三丁目二四番一八に建築中の家屋の価額

四五五〇万円

相続開始日までに右家屋の建築のため投下された左記費用現価の合計額に一〇〇分の七〇を乗じて算出した金額である。

<1> 吉原組に対する支払額 六〇〇〇万円

平成元年九月一八日付け工事請負契約(発注者亡浅次郎、請負人吉原組)に基づき支払われた金額

<2> シグマシステムに対する支払額 五〇〇万円

平成元年三月六日付け建築士業務委託契約(委託者亡浅次郎、受託者シグマシステム)に基づき支払われた金額

(二) 課税時期において現に建築中の家屋の価額は、当該家屋の費用現価の一〇〇分の七〇に相当する金額によって評価することとされ(評価通達91)、右費用現価とは、課税時期までに投下された建築費用の額を課税時期の価額に引き直した額の合計額をいう。右評価通達が、このように投下資本をもととする方法により評価しているのは、建築中の家屋は未完成品であるため市場性に乏しく売買実例価額を求めることが困難であり、これに代わる販売価額や仕入価額も完成品でない以上その価額を求めることも困難であるのに対し、建築のため投下された資本の金額は把握可能であり、また、投下資本を回収することなく、それを下回る額で売買、交換等が行われることは、特別な事情がない限りあり得ないから、その建築のために投下された資本の額をもとに評価しているのである。

また、投下資本の額の七〇パーセントにより評価することとしているのは、建築中の家屋は市場性が乏しく未完成であることを考慮し、評価の安全性の面から三〇パーセントを控除したものである。

以上のとおり、評価通達による建築中の家屋の評価方法は、合理的なものであり、右評価方法に基づき行われた本件各処分は適法である。

(原告)

(一) 建築中の家屋の評価額は、当該家屋の固定資産評価額に建物の完成率を乗じて計算した額とすべきである。

そして、業者への既払額の契約金額全体に対する割合、全工程期間に対する着工から相続開始時までの期間の割合の双方の面からみて、本件家屋の完成率は多くても七割を上回るものではない。

(1) 千葉県市川市伊勢宿一〇番に建築中の家屋の価額 三億三四二三万二八七〇円

固定資産評価額四億七七四七万五五二八円に建物の完成率〇・七を乗じた金額である。

(2) 千葉県市川市塩焼三丁目二四番一八に建築中の家屋の価額 二三四七万七九九九円

固定資産評価額四億三三五三万九九九九円に建物の完成率〇・七を乗じた金額である。

(二) 本件のように、完成した家屋の評価額(固定資産税評価額)が、建築中の家屋について相続開始日までに投下された資本の総額を下回る場合に、建築中の家屋について、その投下資本の総額をもとにして評価をすることは、建築中の家屋の評価額の方が、完成した家屋の評価額よりも高額になるという逆転現象を生ずることとなって適当ではなく、このような場合には、固定資産税評価額を基準として、建物の完成率を乗じた金額をもって建築中の家屋の評価額とすることが合理的である。

そして、原告らの申告時の評価額は、右計算の結果得られた前記金額を上回るものであるから、合理性を有する。

また、被告は、建築中の家屋に投下された資本(費用現価)にシグマシステムに対する支払額を含めているが、家屋の設計等に係る費用は、建築中の建築代金とは別個に考えるべきである。

(被告の反論)

家屋の価値は、材料費、人件費等からなる工事原価と設計管理費及び一般管理費等から構成されているのであるから、建築中の家屋の評価は、費用現価に設計管理費等を含めた家屋の建築に投下された費用を基礎とすべきである。また、家屋の固定資産税評価額の算定についても、その評価に当たっては、設計管理費等による補正率をも考慮して計算することとしており、(固定資産評価基準第二章第一節の一、第四節の一)、法人税法上も、設計等に要した費用が原則として当該建物の取得価額に算入されるとしていること等からしても、建築中の家屋の評価にあたっては、設計管理費も含めて計算すべきであるといえる。

なお、固定資産税における固定資産の評価及び価格の決定にあたっては、固定資産評価基準の定めるところによらなければならず、家屋の場合は、再構築価額を基準として評価するものとされているが、ここにいう家屋とは、不動産登記法の建物とその意義を同じくするものであって、建物登記簿に登記されるべき建物をいうのである。したがって、固定資産税評価額の付されている右の意味の家屋と固定資産税評価額の付されていない建築中の家屋とを比較したとしても、固定資産税評価額と投下資本額とはそもそも同額となるものではない。すなわち、評価すべき財産の状態(家屋)での売買実例価額ないし調達価額の把握が困難なときに再構築価額等をもとにして、それから年々の減価ないし償却費の額を控除して評価する方法と、評価すべき財産がまだ未完成の状態(建築中の家屋)で、類似ないし同種の売買実例もないので、投下資本の現在価額で評価する方法とは、それぞれの評価対象たる資産の性質や状況に応じたものであるから、異なった方法で算出された評価額を比較して一方の方法を不合理ということはできないのである。

4  本件各処分の理由付記の要否について

(原告ら)

本件各処分は、いずれも理由を付さずになされたもので、憲法の定める適正手続に違反し、違法である。

(被告)

税務署長が更正する場合に、更正通知書に記載すべき事項は、国税通則法二八条二項に規定されているが、同条では更正理由を付記することは要求されていない。他方、所得税法は一五五条二項において、法人税法は一三〇条二項において、それぞれ青色申告書に係る更正については、「その更正に係る国税通則法第二八条第二項(更正通知書の記載事項)に規定する更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない」と規定しているが、これは、国税通則法二八条二項の例外規定であり、相続税法においては、相続税の更正通知書に理由を付記しなければならない旨の規定はないから、相続税の更正通知書には更正の理由を付記する必要はない。

(原告らの反論)

所得税に係る理由付記の区分については、所得税には青色申告と白色申告の申告区分があることから生じる所得税特有のものである。相続税においては青色申告と白色申告の区分はなく、また財産明細を提出して申告しているのであるから、相続税の更正における理由付記は自明の義務である。

第三争点に対する当裁判所の判断

一  本件相続における課税価格に関する被告の主張のうち、相続財産の内訳、本件係争宅地及び建築中の家屋以外の相続財産の評価額、控除すべき債務等の総額については、いずれも当事者間に争いがない。争いがあるのは本件係争宅地及び建築中の家屋の各評価額と本件F土地についての小規模宅地等による減額の可否であり、その争点は、不整形地補正の要否、程度(本件係争宅地)、有料駐車場用地(本件F土地)に対する租税特別措置法六九条の三の適用の有無、建築中の家屋の評価方法の各点に帰着する。

二  本件係争宅地の評価について

1(一)  相続税法二二条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によることと規定しており、いわゆる時価主義を採用しているが、右にいう「時価」とは、相続開始時における財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる客観的な交換価値をいうものと解される。

しかし、相続税法では、特別に定めのあるもの以外の財産については具体的な評価方法を規定しておらず、また、財産の客観的交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、特段の事情がある場合を除き、財産評価の一般的基準としての評価通達(乙一)の規定に基づく統一的、画一的な評価方法によって相続財産の評価を行っており、それによれば、市街地的形態を形成する地域にある宅地の評価は路線価方式によることとされ、本件係争宅地についても被告はこれによりその評価を行っている。そして、路線価方式は、道路に面する宅地の価額がおおむね同一と認められる路線ごとに、近傍の宅地の売買実例価額や精通者意見価格などを考慮して定められた標準宅地一平方メートル当たりの評価額(路線価)をもとに、奥行、形状などの差異等による所要の調整を施して評価額を算出する方式であり、しかもこの路線価は、適正な地価形成への寄与を目的に、選定された標準地についての正常な価格として公示される地価公示法による地価公示価格との関連においても、一般にその七割ないし八割を目途として定められていることからしても、相続財産たる宅地の時価評価の不均衡を解消し、客観的で公正な価格に資するものとして合理的で有効な評価方法というべきである。また、本件では、原告らも、本件係争宅地の評価を評価通達の定めにしたがって路線価方式で行うこと自体については、特に争うものではないと解される。

(二)  また、評価通達は、評価すべき当該宅地が不整形である場合には、その不整形の程度、位置及び地積の大小に応じ、近傍の宅地との均衡等を考慮して、路線価から一〇〇分の三〇の範囲内において相当と認める金額を控除した価額によって評価することとしている。これは、宅地の形状が悪いこと等により宅地としての機能を十分に発揮できず、その利用価値が減少することを宅地の評価額の算定に当たって考慮する趣旨であり、したがって、宅地の形状が、完全な正方形ないし矩形でなくても、その宅地の地積が宅地として有効利用することのできる広さを有し、宅地の有効利用に格別の支障を生ぜしめない程度の不整形にとどまる場合にはこれによる補正をする必要がないというべきである。また、宅地の形状が同一でも、その地積が大きければ有効利用するための制約を受ける程度も少なくなると考えられることから、不整形地の評価額の算定にあたっては、不整形地の形状だけでなく、不整形の程度、位置及び地積の各要素を考慮してなされるべきである。

(三)  ところで、評価通達に定める不整形地補正は、一〇〇分の三〇の範囲内で相当と認められる金額を控除すると規定するだけで、具体的な算定基準が定められていない。これは、評価対象である宅地の形状が多種多様であることに鑑み、一律にその経済的価値の減少割合を算出することが困難なため、個々の不整形地についてその価値の減少していると認められる範囲内で補正することとしているものと考えられる。そこで、課税実務上は不整形地について、仮に売買されたとして取引価格に対してどの程度の影響を与えるか、過去の類似事例で適用された不整形地の補正率がどの程度のものであったか、鑑定評価があった場合どの程度の補正率が適用されているのか、国土庁による土地価格比準表ではどの程度の補正率が適用されるのか等、経験則に従って不整形地補正率を決定していたが、課税の公平、簡素化の観点から、平成四年三月三日、本件情報が公表され、不整形地補正率の算定を統一的に行うこととされた。本件情報による不整形宅地の評価方法は前記第二の三1被告の主張の(四)記載のとおりであり、不整形地補正率の算定にあたっては、単に宅地の形状だけでなく、当該宅地の存する地区や不整形の程度、位置、地積の大小等の諸要素を考慮してこれを行っている(乙三)。

原告らは、本件情報が定める不整形地補正率による減額補正が従前の実態と比較して低額にすぎるとして、その内容の合理性を争い、また平成四年三月三日に公表された本件情報をその以前に開始した本件相続に適用するのは不当であるというのであるが、評価通達、評価基準、そして本件情報のいずれも、要するに相続財産たる宅地の時価評価の方法に関するものであることからすれば、それが時価評価の方法として合理的で有効なものと認められるか否かが問題であって、右に述べたように本件情報が、従前、不整形地補正率を経験則に従って決定していたのを、課税の公平、簡素化の観点からその算定を統一的に行うために公表されたものであることに照らしても、それが単に本件相続の開始後に公表されたものであるとの一事をもって、これに依拠して行われた被告による本件係争宅地の評価が直ちに違法ということはできない。

2  本件係争宅地の不整形地補正及び評価額について

そこで、次に被告が主張する本件係争宅地に係る不整形地補正率の算出方法及び評価額の合理性について検討する。

(一) A土地

証拠(甲七の1、乙四、二三の1ないし12、三四、弁論の全趣旨)によれば、本件A土地は、普通住宅地区にあり、その地形の概略図、地積、想定整形地及び蔭地割合は、別紙図面一記載のとおり、路線価は別紙5順号1の路線価欄に記載のとおりであり、三世帯三棟の建物の敷地として利用されていて、その形状は、細長い多角形の地形であるが、正面と裏面の二方が道路に面しており、また、地積も一〇一八・一七平方メートルと三棟の建物の敷地として有効に利用できるだけの十分な広さがあることが認められ、右によれば細長い形状による不利はあるとしても、宅地としての有効利用に大きな支障を与えるものとはいえないところ、被告は、評価通達に基づいて奥行価格逓減をなしたうえ、本件情報の地積区分表及び不整形地補正率表により、不整形地補正として五パーセントを減額しており、これ以上さらに減額する必要があるということもできないから、同土地についてより高い割合の補正(一〇パーセント)をすべきであるとする原告らの主張は採用できない。

ところで、原告らは、本件A土地は、伊勢宿五番の二の土地と同六番の土地の二筆からなるところ、同土地は、亡浅次郎の居住部分(四六六・一一平方メートル)と亡聰とが利用していた部分(五五二・〇六平方メートル)とでは利用状況が異なる(亡聰利用部分には亡聰所有の建物があり、右利用部分の土地は亡聰が亡浅次郎から使用貸借により借り受けたものである。)ことから、区分して評価するのが適当であると主張している。そして、評価通達においても、宅地は、一筆単位や所有者単位ではなく、利用の単位となっている一画地ごとに評価するとされており、これは宅地の現実の利用状況に即した評価を行うものとして合理的ということができる。しかしながら、利用状況の異なる部分が右のように使用貸借で貸し付けられている場合においては、使用借権が対価を伴わずに貸主、借主間の人的つながりのみを基盤とするもので、借主の権利は極めて弱く、そのため客観的な交換価値を有するものと見ることができないことからすれば、相続財産の評価として宅地の時価評価をなすにあたっては、このような使用借権の存在を減額要因として考慮すべきではないのであって、加えて本件A土地のように自用地と使用貸借により貸し付けられている部分とが一団の画地を形成している場合には、これらを合わせて、自用地として一体評価すべきものと解されるのである。したがって、被告が本件A土地の評価に当たって、亡浅次郎の居宅の敷地として利用していた部分と亡聰が亡浅次郎から使用貸借により借り受けて利用していた部分とを区別せず、これを自用地とし一体として評価することは妥当というべきである。

よって、別紙5記載の本件A土地についての被告の評価額は合理的に算定されたものであり、前述した地価公示価格と路線価の関係からしても、その時価を上回るものではないと認められる。

(二) 本件B、C土地

証拠(甲七の2、3、乙四、二三の1ないし12、三四、弁論の全趣旨)によれば、本件B土地及びC土地は、いずれも普通住宅地区にあり、その地形の概略図、地積、想定整形地及び蔭地割合は、別紙図面二、三記載のとおり、路線価は別紙5の順号5、6の路線価欄記載のとおりであることが認められ、本件B土地は、自動車三二台の駐車場として利用されていて(乙二三の1ないし12、弁論の全趣旨)、その形状は、四角形と同視できる程度の地形で、正面と両側面の三方が道路に面しており、また、三二台の駐車スペースがあり、有効に利用できるだけの十分な広さがある(五九〇平方メートル)ことから、宅地としての有効利用に大きな支障を与えるものとはいえない。また、本件C土地は、資材置場として貸し付けられていて(乙二三の1ないし12、弁論の全趣旨)、その形状は、台形に近い地形で、正面が道路に面しており、また、地積も有効に利用できるだけの十分な広さがある(九五八平方メートル)ことから、これもまた宅地としての有効利用に大きな支障を与えるものとはいえないところ、被告は、本件情報の地積区分表及び不整形地補正率表により不整形地補正として本件B土地及びC土地について、いずれも二パーセントを減額しており、これ以上さらに減額する必要があるということもできないから、同土地についてより高い割合の補正(一五パーセント)をすべきであるとする原告らの主張は採用できない。したがって、別紙5記載の本件B土地及びC土地についての被告の評価額は合理的なもので、時価を上回るものでもないと認められる。

(三) 本件D土地

証拠(甲七の5、乙四、二三の1ないし12、三四、弁論の全趣旨)によれば、本件D土地は、普通住宅地区にあり、その地形の概略図、地積、想定整形地及び蔭地割合は、別紙図面四記載のとおり、路線価は別紙5の順号7の路線価欄記載のとおりであり、亡浅次郎が建築中の伊勢宿マンションの敷地として使用されており、また、同土地の三角形の突起部分は右マンションの完成後、当該マンションの居住者の駐車場として利用されていることが認められ、その形状は、四角形と同視できる地形の一辺の中央部に三角形の突起部分の存する多角形の地形であるが、正面及び両側面の三方が道路に面しており、地積も一六六九・二四平方メートルとマンションの敷地として利用できる程の十分な広さがあり、右三角形部分も有効に利用されていることから、宅地としての有効利用に大きな支障を与えるものとはいえないところ、被告は、本件情報の地積区分表及び整形地補正率表により不整形地補正として三パーセントを減額しており、これ以上さらに減額する必要があるということもできないから、同土地についてより高い割合の補正(二〇パーセント)をすべきであるとする原告らの主張は採用できない。したがって、別紙5記載の本件D土地についての被告の評価額は合理的なもので、時価を上回るものでもないと認められる。

(四) 本件E土地

証拠(甲七の6、乙四、二三の1ないし12、三四、弁論の全趣旨)によれば、本件E土地は、普通住宅地区にあり、その地形の概略図、地積、想定整形地及び蔭地割合は、別紙図面五記載のとおり、路線価は別紙5の順号8の路線価欄記載のとおりであり、自動車約一八台の駐車場として利用されていることが認められ、その形状は、正面及び側面の二方が道路に面する角地にあって、角地の部分に小さなすみ切りがある長方形であるが、右すみ切り部分は全体の面積の約六パーセントに過ぎず、また、約一八台の自動車が駐車できるスペースがある(三五四平方メートル)ことから、標準的な画地といえる宅地であり、宅地としての有効利用に支障を与えるものとはいえないところ、被告は、本件情報の地積区分表及び整形地補正率表によっても不整形地補正率は一・〇〇となることから、不整形地補正をしていないが、前記のとおり、不整形地による減額は、単に不整形地の形状だけでなく、不整形の程度、位置、地積等の諸要素を考慮し、宅地としての有効利用に影響を与えるものかどうかによってこれを行うこととしており、単に整形地でないということのみをもって必ず減額補正をしなければならないというわけではない。したがって、同土地について不整形地補正(五パーセント)をすべきであるとする原告らの主張は採用できず、別紙5記載の本件E土地についての被告の評価額は合理的なもので、時価を上回るものでもないと認められる。

3  ところで、原告らは、本件係争宅地の評価にあたっては、原告らの申告を担当した小池税理士が過去に行った本件係争宅地と形状が類似した宅地の相続税申告事例を根拠として、被告による不整形地の減額補正は低額にすぎ、本件係争宅地については原告らの主張に係る不整形地補正率が相当である旨主張する。

しかし、前記のとおり、不整形地による補正は、単に不整形であるというだけで補正をするのではなく、当該宅地の地理的環境、不整形の程度、位置、地積の大小等を総合考慮し、当該宅地の有効利用に影響を及ぼすかどうかの見地からこれを行うものであるから、単に宅地の形状が類似している点のみを捉えて不整形地補正率を求めることは、公平、統一的な課税事務の運営という法の趣旨に反するのみならず、恣意的な財産評価につながるおそれがある。甲第六号証によれば、原告らは本件B土地及びC土地の不整形地補正率をいずれも〇・八五としているが、その類似事例である過去申告事例Hの土地の不整形地補正率は〇・九〇であるところ、小池税理士は、狭小な土地の方が不整形による影響を受けやすいとして、右H土地は、本件B土地の約二・三倍、本件C土地の約一・四倍広い地積を有すること(甲三の3)を考慮し、本件B土地及びC土地の不整形地補正率を右H土地より大きくした旨証言する。しかし、右証言をもとにすると、本件B土地とC土地についても、本件C土地(地積九五八平方メートル)は、本件B土地(地積五九〇平方メートル)の約一・六倍の広さを有するのであるから、不整形地補正率に差異が生じるはずであるにもかかわらず、前述のとおり、原告らはいずれも〇・八五と申告しているのである。また、小池税理士は、本件D土地と過去申告事例D―2の土地とでは形状が類似し、かつ、蔭地割合の差も少ないので、同じ不整形地補正率を適用したと証言するが、前記の狭小な土地の方が不整形による影響を受けやすいという証言を前提とすれば、過去申告物件D―2の土地(地積九八・八一平方メートル、甲三の1)と、その約一七倍の広さを有する本件D土地(地積一六六九・二四平方メートル)とでは不整形地補正率に差が生ずるはずであるが、原告らはいずれの物件についても不整形地補正率を〇・八〇としている。以上のことは本件A土地(一〇一八・一七平方メートル)と右土地に類似する過去申告物件A―2の土地(一一四・二六平方メートル、甲三の1)の不整形地補正率(いずれも〇・九〇と主張)についても同様である。さらに、本件D土地については、同土地の前述のような形状や地積、路線価に照らすと、仮に同土地を不整形地としている三角形の突出部分を除外した残余の土地部分の評価額のみを考えても、それだけでも原告らの主張する不整形地補正率〇・八〇に従って算出した場合の本件D土地全体の評価額を上回ってしまうことも窺えるのである。したがって、原告ら及び小池税理士の、過去の類似申告事例との比較に基づく本件係争宅地についての不整形地補正率の主張は、仮にそのような申告が更正を受けずに済んだことがあったとしても、合理性のあるものとは認められず、前項の判断を左右するものではない。

三  本件F土地に対する租税特別措置法六九条の三の適用の有無について

1  租税特別措置法六九条の三(昭和六三年法律第一〇九号による改正後、平成四年改正前のもの)は、被相続人若しくは当該被相続人と生計を一にしていた親族の事業の用に供されていた宅地等で、大蔵省令で定める建物若しくは構築物の敷地の用に供されているものがある場合には、相続税の課税価格の計算上、政令で定める小規模宅地等の範囲について一定割合の減額を施す旨規定しているが、これは、事業の用に供されていた宅地のうち必要最小限の部分については、相続人等の生活基盤の維持や個人事業の承継のため欠くことができないことや、事業が雇用の場であり取引先等と密接に関連しているなど処分面での制約があることを考慮し、特に事業用宅地の評価に当たって居住用宅地に比し高い割合の減額を行うことができるようにしたものと解される。原告らは、個人の生活基盤の保護に重点を置いてこれを解釈すべきであると主張するが、本件特例はあくまでも事業性という要素を介してその保護を図るものというべきである。

ところで、本件特例における「事業」及び「構築物」の概念について、租税特別措置法は特に定義規定を設けていないから、その解釈に当たっては、税法体系及び本件特例の趣旨等に照らし、社会通念によって判断すべきであり、このような観点からすれば、本件特例にいう「事業」に該当するか否かは、所得税法上の事業の意義と同様に、営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無、自己の危険と計算における企業遂行性の有無、その取引に費やした精神的・肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、その取引の目的、その者の職歴・社会的地位、生活状況等を総合考慮し、社会通念上事業といいうるか否かによって判断するのが相当であり、また、本件特例にいう「構築物」に該当するか否かも、右と同様の観点から、事業性を認識しうる程度に人的・物的な資本投下がなされた、ある程度堅固な施設であり、かつ、その施設上において、その施設を利用した事業が行われているようなものであることを要すると解すべきである。そこで、次に、亡浅次郎による本件F土地の貸付けが社会通念上事業に該当するか、本件F土地が構築物の敷地の用に供されているものであるかについて検討する。

2  証拠(乙五、一七、一八、二三の1ないし12、弁論の全趣旨)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件F土地は、亡浅次郎の所有に係る土地であったが、昭和六一年七月一日に、スーパーマーケットの経営を行っているハイパーナカムラに、その顧客のための駐車場用地として貸し付けたものである。

(二) 本件賃貸借契約においては、契約期間は一年間、期間満了後必要があれば当事者間の協議で契約を更新できるものとされ、事実上現在まで自動更新されているが、亡浅次郎とハイパーナカムラの間では、亡浅次郎から返還の申出があった場合には、原状回復の上明け渡す旨の合意がなされていた。

また、本件賃貸借契約においては、ハイパーナカムラは、保証金として六〇万円を払っただけで、権利金の授受はなく、立退料についての取決めもされていない。

(三) 亡浅次郎は、右賃貸に際し、本件F土地を整地し、細かい砂利を敷きつめ、周囲を簡易な金網フェンスで囲むとともに、車止めを設置して本件F土地を引渡したが、看板、街灯等はハイパーナカムラが設置したものであるうえ、以後のフェンスの修繕や砂利の補完等、本件駐車場の補修は専らハイパーナカムラが必要に応じて行っていた。

(四) また、本件駐車場の管理もハイパーナカムラが行っていたが、管理小屋等の施設を設置したり、管理人を置いて常時駐車場管理をさせるようなことはなく、駐車場の利用客が自由に車両の出し入れをするというものであった。

(五) 本件駐車場の賃料は契約時の月額二〇万円のままであり、三か月分をまとめて亡浅次郎の銀行口座に振り込む方法により支払われていた。

(六) 亡浅次郎が駐車場として賃貸していた土地は、本件F土地(六四〇平方メートル)を含め合計で二〇〇〇平方メートルの土地に及ぶ(貸付先七四件、駐車台数八〇台)。

(七) 平成元年度の亡浅次郎の収入は年間合計九七八万六〇〇〇円であり、そのうち本件駐車場の地代収入は年間約二四〇万円、駐車場全体からの地代収入は合計六二七万円であった。

3  以上の事実を前提に判断すると、本件F土地の貸付けの契約期間は一年間の短期とされており、期間満了後必要があれば当時者間の協議で契約を更新でき、事実上本件賃貸借契約は現在まで継続されてはいるものの、当事者間では求められればいつでも明け渡さねばならない旨の認識があり、また、亡浅次郎は本件F土地の貸付けに際し前記程度の必要最小限の設備を施したのみで、容易に撤去して原状回復が可能であり、その後の管理や補修は専らハイパーナカムラが行っており、地代の支払も銀行振込で、亡浅次郎自身は特段管理のために労力を費やしていないのであって、亡浅次郎の収入の多くがこのような駐車場用地の賃料収入であったとしても、本件F土地の貸付けをもって社会通念上事業の用に供されていたということはできない。この点、「租税特別措置法の取扱いについて」通達(平成元年五月八日付直資二―二〇八)六九の三―四は、自己の責任において他人の物を保管する有料駐車場等については、原則として事業用宅地等に該当するとし(乙一五)、有料駐車場等が事業用宅地に該当するか否かの判断に当たって、自己の責任において他人の物を保管するものか、あるいは単に場所を提供しているにすぎないかを判断基準としているが、これによってみても、前記のような本件F土地の施設、管理の状況等に鑑みれば、自己の責任において他人の物を保管しているとは到底いえず、本件F土地は単に場所を提供しているものにすぎず、事業用宅地には該当しないというほかない。

さらにまた、本件F土地の施設の状況は前記のとおりであって、同土地上にはコンクリート舗装等特段の措置は講じられておらず、砂利が敷かれた程度で地面は露出しており、フェンス等の設備も簡易なものであって、その施設の維持管理についても専ら借主がその負担において行っているなど、特段の人的・物的な資本投下がされているとは認められず、必要なときはいつでも容易の原状回復のうえ他に転用できるものであることなどからすれば、事業性を認識しうる程度に資本投下がされた構築物の敷地の用に供されているということもできない。したがって、被告が本件F土地について本件特例を適用しないで評価していることは適法といえる。

四  本件建築中の家屋の評価について

1  評価通達によれば、家屋の価額は、原則として、一棟の家屋ごとに評価することとし(88)、その評価方法は、当該家屋の固定資産評価額に所要の調整をして算出する(89)が、課税時期において現に建築中の家屋の価額については、当該家屋の費用現価の一〇〇分の七〇に相当する金額によって評価することとしている(91)(乙一)。そして、右費用現価とは、課税時期までに投下された建築費用の額を課税時期の価額に引き直した額の合計額をいうものと解される。

また、証拠(乙七、八)によれば、被告は、本件相続開始時までに亡浅次郎から本件各建築中の家屋の建築工事の請負人である吉原組及び設計・監理業務等の受託者であるシグマシステムに支払われた金額(別紙9の順号3記載の家屋については、吉原組に五億八〇〇〇万円、シグマシステムに四〇〇〇万円、同順号4記載の家屋については、吉原組に六〇〇〇万円、シグマシステムに五〇〇万円。)をもとに、その七〇パーセントの金額をもって、別紙9の記載のとおり、本件各建築中の家屋の評価額としたことが認められる。

2  ところで、相続財産の評価が時価によるべきことは前述したとおりであり、そのためには売買実例価額によることが最も望ましいのであるが、財産の種類によっては、必ずしも売買実例価額に基づいて財産評価をすることが適当でないものや、そもそも売買実例価額に基づき評価することが困難な財産も存在する。そこで、課税実務上は、売買実例価額に基づく評価方法の他、調達価額等による方法、再構築価額等による方法、投下資本をもとにする方法、商品、製品等のように販売価額をもとにする方法、原材料等のように仕入価額をもとにする方法、特許権、商標権のように複利現価による方法等、当該財産の性質に応じた種々の評価方法に従って財産評価を行っている(乙九)。

そして、建築中の家屋は未完成品であるため市場性に乏しく売買実例価額を求めることが困難であり、これに代わる販売価額や仕入価額を求めることも困難であるのに対し、建築のため投下された資本の金額は把握可能であることから、評価通達では、建築中の家屋の評価に当たっては、当該家屋の建築のために投下された資本の額をもとに評価するものとしたうえ、建築中の家屋は市場性が乏しく未完成であること、また、建築中の家屋が滅失・毀損した場合には、その損失は所有者である被相続人に帰し、被相続人の責に帰すべからざる事由により完成引渡が不能となった場合でも、支出済みの費用を被相続人が負担しなければならない等、完成前でも建物建築に支障が生じた場合の危険を被相続人が負担していることを考慮し、評価の安全性の面から投下資本の三〇パーセントを控除して、その七〇パーセントをもって評価額としている(乙一)。

原告らは、完成後の家屋の価額が投下資本の額を下回ることがあり、本件でも、本件家屋について投下された資本の額(乙七)は本件建物の固定資産評価額(甲二)を上回っているから、投下資本に基づいて建築中の家屋の評価を行うことは不合理であり、完成後の固定資産評価額に基づいて評価すべきであると主張する。しかしながら、建築中の家屋の評価について投下資本をもとにする評価通達は、前記のとおり評価の対象となる資産の性質に応じた評価方法であり、課税の公平、簡便化、統一的な財産評価、課税事務の運営の見地からすれば、合理性を有すると認められ、また、相続財産の評価は、相続開始時における時価によるべきことは前述したとおりであり、右相続開始時に建築中である家屋について相続開始時にはいまだ明らかになっていない完成後の家屋の価額に基づいて評価することは、非現実的のみならず相続財産評価の原則に反することになり、家屋の完成が課税時期から相当程度隔たるような場合には、完成後の家屋の価額が明らかになるまでは当該家屋の評価ができない等の支障も生じることとなる。そして、固定資産税における固定資産評価は、家屋の場合は再構築価額を基準として評価するものとされており、建築中の家屋と完成後の家屋についての評価方法がそれぞれ異なる以上、投下資本額による評価額が固定資産評価額と異なることがあるのは当然であり、完成後の家屋の固定資産評価額が投下資本の額を下回る場合があるからといって、その評価方法の合理性が失われることはないというべきである、しかも、いまだ建築中であることに伴う危険をも考慮して、その七〇パーセントにとどめていることをも考慮すると、被告が本件建築中の家屋の価額について、前述のように投下資本に基づいて評価していることは適法といえる。

3  また、原告らは、被告が投下資本に本件各家屋の建築に係る設計管理費(シグマシステムに対する支払額の四〇〇〇万円と五〇〇万円。以下、工事監理をも含む趣旨で「設計管理」という。)を含めて評価していることに対し、設計管理費は家屋の取得費に含めるべきではなく、投下資本に設計管理費を算入することは妥当でないと主張する。

しかしながら、設計管理費については、家屋の建築は、設計と建築工事という各段階を経て完成されるものであって、家屋の価値は、材料費、人件費等からなる工事原価と設計管理費及び一般管理費等から構成されているのであるから、投下資本額から設計管理費を除外すべき特段の事情は認められず、また、原告らが主張する固定資産評価額の算定についても、その評価方法は評点数に評点一点当たりの価額を乗じるものであるところ、右評点一点当たりの価額は、物価水準による補正率と設計管理費等による補正率を相乗した率を乗じて計算することとして(乙二六)、評価に当たって設計管理費も考慮していること、法人税法上も、固定資産の取得価額に算入しないことができる費用として「建物の建設等のために行った調査、測量、設計、基礎工事等でその建設計画を変更したことにより不要となったものに係る費用の額」と定めていて、設計等に要した費用が原則として当該家屋の取得価額に算入されるものであることを明らかにしている(乙三七)こと等からしても、建築中の家屋の評価にあたっては、設計管理費も含めて計算すべきものと考えられ、したがって、被告がシグマシステムに対する設計管理費の支払額を費用現価に含めて評価していることは適法といえる。

五  本件各処分における税額の適法性について

以上によれば、本件相続人らの相続税の課税価格は、別紙2の順号17記載のとおりであり、本件相続人ら各人の納付すべき相続税額は、同順号19記載のとおりとなる。そうすると、本件各更正処分に係る本件相続人ら各人が納付すべき相続税額(更正税額)は、いずれも右金額の範囲内であるから、本件各更正処分に課税価格及び相続税額を過大に評価した違法はなく、本件各更正処分は適法であり、また、本件各賦課決定処分は、本件各更正処分によって本件相続人らが新たに納付すべきことになる税額に基づき、国税通則法に従って適法に算出された過少申告加算税額を賦課したものと認められる。

六  理由付記の必要性について

更正通知書の記載事項についての一般原則を定めている国税通則法二八条二項は、更正の理由を更正通知書の記載事項として掲げておらず、他方、所得税法は一五五条二項において、法人税法は一三〇条二項において、それぞれ青色申告書に係る更正については、更正通知書にその更正の理由を付記しなければならないと規定している。その趣旨は、青色申告の前提要件である帳簿の記帳がかなり細かく規制されていることに鑑み、帳簿の記載を無視して更正されることのないよう税務官庁による更正の正当性と合理性を明らかにし、納税者に納得のいく納税をさせるとともに、不服申立てをすべきかどうかの判断資料を与えようとするものである。すなわち、所得税法は、青色申告提出承認のあった所得については、その計算を法定の帳簿書類に基づいて行わせ、その帳簿書類に基づく実額調査によらないで更正されることのないよう保障している関係上、その更正にあたっては、特にそれが帳簿書類に基づいていること、あるいは帳簿書類の記載を否定できるほどの信憑力のある資料によったという処分の具体的根拠を明確にする必要があり、かつ、そうすることが妥当であることから、青色申告書に係る更正について、更正通知書に更正理由の付記を義務づけたものと解され、この趣旨は、法人税法一三〇条二項による理由付記についても同様であると解される。したがって、所得税法一五五条二項、法人税法一三〇条二項は、国税通則法二八条二項の例外規定として特に定められたものというべきである。しかるに、相続税に係る更正についてはそのような特段の事情は認められず、相続税法においても、更正通知書に理由を付記しなければならない旨の規定はないことからすれば、相続税の更正通知書には理由付記の必要はなく、更正通知書に更正の理由を付さなかったことをもって本件各更正処分が違法となるものではない。

七  結論

よって、本件各処分はいずれも適法であり、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、平成一〇年五月一一日に終結した口頭弁論に基づいて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西島幸夫 裁判官 岩坪朗彦 裁判官 室橋雅仁)

別紙1

更正税額等一覧表

<省略>

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別紙2 課税価格等の計算明細表

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別紙3 税額算出表

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別紙4

本件課税処分等の経緯

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別紙5 土地の価額の明細表

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別紙6(別表1)

地積区分表

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(別表2) 不整形地補正率表

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過去の申告時の不整形地補正率と「情報」の不整形地補正率との比較および評価額の差額

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別紙8

土地の評価額に関する一覧表

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別紙9 家屋の価額の明細表

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別紙図面一(所在) 市川市伊勢宿5番2及び6番

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別紙図面二(所在) 市川市伊勢宿106番7

<省略>

別紙図面三(所在) 市川市伊勢宿106番8及び13

<省略>

別紙図面四(所在) 市川市伊勢宿108番2及び3

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別紙図面五(所在) 市川市伊勢宿111番3

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