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千葉地方裁判所 平成4年(行ウ)17号 判決 1993年6月14日

千葉県八千代市村上一七三五-五八

原告

市村武志

千葉市花見川区武石町一丁目五二〇番地

被告

千葉西税務署長 藤掛昭

右指定代理人

池本壽美子

山岸誠

五島清

寺島進一

山本千臣

佐藤謙一

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号国税不服審判所内

被告

国税不服審判長 佐久間重吉

右指定代理人

池本壽美子

山岸誠

五島清

寺島進一

佐々木正男

羽柴宗一

主文

一  原告の被告千葉西税務署長に対する訴えを却下する。

二  原告の被告国税不服審判所長に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告千葉西税務署長に対して

被告千葉西税務署長が、平成三年二月二八日、平成元年分消費税の更正処分についての異議申立てに対してした決定を取り消す。

2  被告国税不服審判所長に対して

被告国税不服審判所長が、平成四年四月二〇日、消費税の更正処分についての審査請求に対してした裁決を取り消す。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告千葉西税務署長の本案前の答弁

(一) 主文一と同旨

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  被告国税不服審判所長の答弁

(一) 主文二と同旨(ただし、裁決の日付は、平成四年四月一六日が正しい。)

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、鉄骨組立業を営む者である。

2  被告千葉西税務署長(以下「被告税務署長」という。)は、平成三年二月二八日、原告に対し、平成元年分(昭和六四年一月一日から平成元年一二月一日までの課税期間分)の消費税についての更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。

3  原告は、平成三年四月二五日、本件更正処分に対する異議申立てをした(以下「平成三年四月二五日付異議申立て」という。)

4  原告は、平成三年五月一八日、平成三年四月二五日付異議申立てについて補正をした。

5  被告税務署長は、平成三年七月二二日、平成三年四月二五日付異議申立てについて却下の決定をした(以下「本件異議決定」という。)。

6  原告は、平成三年八月一二日、本件更正処分に対する審査請求をした(以下「本件審査請求」という。)。

7  被告国税不服審判所長は、平成四年四月二〇日、本件審査請求について却下の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

8  本件更正処分に対する不服申立ては、適法であつて、被告税務署長のした本件異議決定及び被告国税不服審判所長のした本件裁決は、違法である。

9  よつて、原告は、被告らに対し、請求の趣旨のとおりの判決を求める。

二  被告税務署長の本案前の主張

1  原告は、本件異議決定の取消しを求めている。

2  しかしながら、課税処分に対する異議申立てについて税務署長がした決定の取消しを求める訴えについては、行訴法一四条四項の適用はなく、その出訴期間は、異議申立てについての決定があつたことを知つた日又は決定の日から、これを起算すべきものである(最判昭和五一年五月六日民集三〇巻四号五四一頁)。

3  ところで、本件異議決定は、原告も自認するとおり、平成三年七月二二日にされ、同月二四日に原告に送達されたから、原告は、同日、これを知つたものである。したがつて、原告は、これから三か月以内に訴えを提起すべきである(同法一四条一項)ところ、原告が本件訴えを提起したのは平成四年七月一五日であるから、原告の被告税務署長に対する本件訴えは、出訴期間を徒過したのちに提起された不適法なものである。したがつて、原告の被告税務署長に対する本件訴えは、却下されるべきである。

三  請求の原因に対する認否(被告ら共通)

1  請求の原因1及び2の事実は認める。

2  同3のうち、平成三年四月二五日付異議申立ての対象が、本件更正処分であることは否認する。右異議申立の対象は、後記四1(二)の所得税の更正処分等である。

3  同4のうち、原告が、平成三年五月一八日、被告税務署長に対し、「異議申し立ての補正」と題する書面(以下「補正書」という。)を提出したことは認めるが、その効力は争う。

4  同5のうち、被告税務署長が、平成三年七月二二日、却下の決定をしたことは認めるが、その対象は否認する。対象は、原告の主張する平成三年四月二五日付異議申立てではなく、同年五月一八日付補正書による本件更正処分に対する異議申立てである。

5  同6の事実は認める。

6  同7の事実は認める。ただし、裁決の日付は、平成四年四月一六日が正しい。

7  同8の主張は争う。

四  被告国税不服審判所長の主張

1  本件審査請求に至る経緯

(一) 被告税務署長は、平成三年二月二八日、原告に対し、本件更正処分のほか、昭和六二年分ないし平成元年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「所得税の更正処分等」という。)をした。

(二) これに対して、原告は、平成三年四月二五日、被告税務署長に対し、右各処分のうち、所得税の更正処分等に不服があるとして、同日付異議申立てをした。

(三) 次いで、原告は、平成三年五月一八日、被告税務署長に対し、右異議申立書には本件更正処分が欠落していたので補正する旨の補正書を提出した。

(四) 被告税務署長は、補正書による申立てを本件更正処分に対する異議申立てとして取り扱い、平成三年七月二二日、右異議申立てについて却下の決定をした。

(五) 原告は、更にこれに不服があるとして、平成三年八月一二日、被告国税不服審判所長に対し、本件審査請求をした。

2  本件裁決の適法性

以上の経緯を踏まえて、本件裁決の適法性を次のとおり主張する。

(一)(1) 国税通則法(以下「通則法」という。)八一条一項は、異議申立てをする場合には、<1>異議申立てに係る処分、<2>異議申立てに係る処分があつたことを知つた年月日、<3>異議申立ての趣旨及び理由、<4>異議申立ての年月日を記載した書面を提出しなければならない旨規定しているが、右<1>にいう処分とは、異議申立てが処分を不服としてその取消し又は変更を求める手続であるから、異議申立ての対象である処分を他の処分と区分するため、処分の日付、処分の名称等を記載して特定したものでなければならないと解される。

(2) また、同条二項は、異議申立てが国税に関する法律の規定に従つていないもので補正することができるものであると認められるときは、補正を求めなければならない旨規定しているが、この補正の対象は、異議申立書の記載事項及び添付書類のうち、法律の要求する形式的要件を満たしていないもの、すなわち、記載に不備があるもので右不備が補正可能であるものに限られると解される。

(3) これを本件についてみると、原告が平成三年四月二五日付で被告税務署長に提出した異議申立書には、異議申立てに係る処分として所得税の更正処分等の記載はあるものの、本件更正処分については何らの記載もなく、また、右異議申立書全体の記載から、本件更正処分に対して異議申立てをしているものと看取できない以上、原告が同日付で本件更正処分に対して異議申立てをしたとは到底いえない。

(4) 更に、右異議申立書は、通則法八一条一項に規定する前記2(一)(1)<1>ないし<3>の記載がある(同<4>の異議申立ての年月日は、被告税務署長が収受した年月日とみなすことができる。)ことから、形式的要件を具備しており、国税に関する法律の規定に従つていないものとはいえず、補正を要するものではない。

(5) そうすると、右異議申立書は、所得税の更正処分等に係る異議申立てとして完結しており、これに、補正という方法によつて、別処分である本件更正処分に対する異議申立てを追加することはできないものである。

本税の更正処分とそれと同時にされた加算税の賦課決定との双方に不服がある場合など、相互に関連する複数の処分について同時に異議申立てができる(かかる場合も、複数の処分を明示する必要がある。)のは、例外であり、原則として、一つの処分については一つの異議申立てしかありえない。本件のように相互に関連する処分とはいえない二つの処分が存在する場合には、これに対しては、二つの異議申立てが必要なのである。

前記異議申立書による申立ては、所得税の更正処分等に係る一つの異議申立てとしか解されない以上、これに別異の処分に対する異議申立てを追加して当初から二つの異議申立てがあつたとして扱うことはできない。

(二) したがつて、原告が補正書を被告税務署長に提出したことは、本件更正処分に対する一個の独立した異議申立てとみなければならない(以下これを「補正書による異議申立て」という。)。ところで、原告は、本件更正処分の通知を平成三年三月二日に受けているが、本件更正処分に対する異議申立てをすることができる期間(以下「異議申立期間」という。)は、通知を受けた同年三月二日の翌日から起算して二月以内(通則法七七条一項)の同年五月二日までであるところ、原告が補正書を被告税務署長に提出したのは前記1(三)のとおり同年五月一八日であるから、補正書による異議申立ては、異議申立期間経過後にされたものである。また、本件異議申立てが異議申立期間内にされなかつたことについて、同法七七条三項に規定する天災その他やむを得ない理由があるとは認められないから、補正書による異議申立ては、異議申立期間を徒過したのちにされた不適法なものである。

(三) したがつて、本件審査請求は、本件更正処分に対する異議申立てが適法にされておらず、通則法七五条三項の規定により審査請求をすることができない不適法なものであるから、本件審査請求を却下した本件裁決は適法である。

五  被告国税不服審判所長の主張に対する原告の反論

1  被告国税不服審判所長の主張1について認める。

2  同2について

原告が、平成三年四月二五日付異議申立てに際し、被告税務署長に対して提出した異議申立書の「異議申立てに係る処分」の欄には消費税にかかる処分が記載されていなかつたが、この時点で、原告には、消費税について更正処分を受けたという自覚がなかつた。

それは、千葉西税務署の署員である亀田某(以下「亀田」という。)が、調査の中で、所得税の調査をすることは告げたが、消費税については、最初から最後まで調査の対象としていることを言わず、また、所得税の修正申告の強要をされた時点でも消費税についての説明がなかつたために、更正処分は、所得税についてだけであると思い込んでいたからである。ところで、平成元年分の消費税については、初年度のことであるから、弾力的運営、すなわち、適切な指導をすることとして、悪質な不正事例を除き、申告後に過少申告が発見され、指導により是正が行われたような場合には、過少申告加算税は賦課しないものとされていた。したがつて、本件のような平成元年度分の調査の場合には、まず指導を行い、しかる後に過少申告加算税を賦課した更正処分を行うというのが適法な処分である。亀田のように、何らの指導も行わず、いきなり更正処分をするのは、それだけでも違法な調査である。仮に亀田がこのような違法な調査を行つたのは、亀田が不慣れなためであるとしても、大蔵省が設けた弾力的運営の期間は、納税者ばかりでなく税務署員側の不慣れをも救うという趣旨のものでもあつたはずである。実際にも、簡易課税の届出の時期を過ぎても受付けるなど、弾力的な運営がされていた。原告は、本件更正処分を受けたことに気が付いた平成三年五月一八日の時点で、異議申立ての補正書を提出したのであるから、右補正書の提出による異議申立ては、消費税についての弾力的運営をするとした初年度の消費税についての更正処分に対する異議申立てと解すべきである。権利救済の観点と、いきなり更正処分を行うことが違法な更正処分であるということとに照らすと、被告国税不服審判所長は、本件更正処分が違法かどうかについて判断を示すべきであつたのに、これをしなかつた。したがつて、本件裁決は、違法であることが明らかである。

第三証拠関係

本件記録中の書証目録の記載のとおりであるから、引用する。

理由

一  被告税務署長の本案前の主張について

課税処分に対する異議申立てについて税務署長がした決定の取消しを求める訴えについては、行政事件訴訟法一四条四項の適用はなく、その出訴期間は、異議申立てについての決定があつたことを知つた日又は決定の日から、これを起算すべきものである(同法一四条一項、三項、国税通則法七五条一項一号、七六条一号。最判昭和五一年五月六日民集三〇巻四号五四一頁参照。)。

これを本件についてみるに、原告の被告税務署長に対する本件訴えは、本件更正処分に対する異議申立てを却下する旨の被告税務署長の本件異議決定の取消しを求める訴えであるから、その出訴期間は、本件異議決定のあつたことを知つた日又は決定の日から、これを起算すべきものであるところ、成立に争いのない丙第一、第二号証によれば、本件異議決定は、平成三年七月二二日にされ、同月二四日に原告に送達されたことが認められ、これによると、原告は、同日、これを知つたものと推認することができ、そうすると、原告は、同日から三か月以内に訴えを提起すべきであるが、本件記録上、原告が本訴を提起したのは平成四年七月一五日であることが明らかであるから、原告の被告税務署長に対する本件訴えは、出訴期間を徒過したのちに提起された不適法なものである。したがつて、被告税務署長の本案前の主張は、理由がある。

二  被告国税不服審判所長に対する請求について

1  原告は、鉄骨組立業を営む者であること、被告税務署長は、平成三年二月二八日、原告に対し、本件更正処分及び所得税の更正処分等をしたこと、原告は、平成三年四月二五日、被告税務署長に対し、所得税の更正処分等に不服があるとして、同日付異議申立てをしたこと、原告は、平成三年五月一八日、平成三年四月二五日付異議申立てには本件更正処分が欠落していたので補正する旨の補正書を提出したこと、被告税務署長は、平成三年七月二二日、本件更正処分に対する異議申立てについて却下決定をしたこと、原告は、平成三年八月一二日、被告国税不服審判所長に対し、本件審査請求をしたこと、同被告は、本件裁決をしたことは、当事者間に争いがなく(ただし、本件裁決の日付を除く。)、右争いのない事実に、前掲丙第一号証、成立に争いのない丙第二号証ないし第四号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  原告は、鉄骨組立業を営む者である。

(二)  被告税務署長は、平成三年二月二八日、原告に対し、本件更正処分及び所得税の更正処分等をした。なお、原告は、本件更正処分の通知を同年三月二日に受けている。

(三)  原告は、平成三年四月二五日、被告税務署長に対し、同日付異議申立てをしたが、その異議申立書には、異議申立てに係る処分として、所得税の更正処分等が記載されている。

(四)  原告は、平成三年五月一八日、被告税務署長に対し、補正書を提出したが、そこには「(右(三)の異議申立書の)異議申し立てに係る処分に、昭和六四年一月一日-平成元年一二月三一日課税期間分の消費税の更正処分が欠落していましたので、補正します。」と記載されている。

(五)  被告税務署長は、補正書による申立てを本件更正処分に対する異議申立てとして取り扱い、平成三年七月二二日、これに対する却下決定をした。

(六)  原告は、平成三年八月一二日、被告国税不服審判所長に対し、本件審査請求をした。

(七)  被告国税不服審判所長は、平成四年四月一六日、本件裁決をしたが、その理由の要旨は、平成三年四月二五日付異議申立てには本件更正処分についての異議申立てが含まれていると解することはできず、また、原告が平成三年五月一八日に被告税務署長に対して提出した補正書を本件更正処分に対する異議申立てに当たるとみたとしても、異議申立期間を徒過しているものであつて、本件更正処分に対する異議申立てが適法にされていないから、本件審査請求は、通則法七五条三項の規定により、審査請求をすることができない不適法なものである、というものである。

2  そうすると、本件裁決の適法性は、本件更正処分に対する異議申立てが、いつされたかにかかることになる。

ところで、通則法八一条一項は、異議申立てをする場合に、異議申立てに係る処分等を記載した書面を提出してしなければならないとしているが、右のように異議申立てに係る処分の記載が要求される趣旨は、異議申立ての対象となる処分を特定するにあると解されるところ、前記二1(三)認定のとおり、原告は、平成三年四月二五日、被告税務署長に対し、同日付異議申立てをしたが、その異議申立書には、異議申立てに係る処分として、所得税の更正処分等が記載されているのである。そうすると、同日付異議申立ての対象は、所得税の更正処分等であつて、本件更正処分ではないと認めるほかはない。

また、前記二1(四)の認定のとおり、原告は、平成三年五月一八日、被告税務署長に対し、平成三年四月二五日付異議申立てには本件更正処分が欠落していたので補正する旨の補正書を提出しているが、これを通則法八一条二項所定の補正とみることができるか否かについて検討するに、通則法八一条二項にいう補正は、異議申立ての対象となる処分が同一性を失わない範囲で認められるものと解すべきところ、右のとおり、平成三年四月二五日付異議申立ての対象が所得税の更正処分等であるから、補正というかたちで、異議申立ての対象に、別個の処分である本件更正処分を含ませることはできないものといわなければならない。これを実質的にみても、たまたま複数の処分が同時にされた場合において、その一つについて異議申立てをしておけば、後に補正というかたちで、最初の異議申立ての時点に遡つて他の処分について不服申立てをすることができるとすれば、不服申立期間を設けた趣旨を没却し、不都合である。

更に、原告が平成三年五月一八日に被告税務署長に提出した補正書を本件更正処分に対する異議申立てと解したとしても、本件更正処分に対し異議の申立てをすることができる期間は、原告が本件更正処分に係る通知を受けた同年三月二日の翌日から起算して二月以内(通則法七七条一項)の同年五月二日までであるから、原告が異議申立期間を徒過したことは明らかである。原告は、異議申立期間を徒過したことについて、被告国税不服審判所長の主張に対する原告の反論2のとおり主張するが、その内容が通則法七七条三項に規定する「天災その他やむを得ない事由」に該当するとは認められないから、原告の右主張は、採用することができない。

3  そうすると、本件審査請求について、異議申立てが適法にされておらず、通則法七五条三項の規定により、審査請求をすることができない不適法なものであるとして、本件審査請求を却下した本件裁決は、適法であるというべきである。

三  結論

以上のとおりであつて、原告の被告千葉西税務署長に対する訴えは、不適法であるから、これを却下し、被告国税不服審判所長に対する請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条及び民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 清水信雄 裁判官本吉弘行は、転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 清永利亮)

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