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千葉地方裁判所 平成4年(行ウ)14号 判決 1996年9月20日

千葉県船橋市習志野台一丁目一四番一八号

原告

上野千津子

千葉県船橋市習志野台一丁目一四番一八号

原告

上野彰子

千葉県船橋市習志野台二丁目二八番九号

原告

岩永穎子

右三名訴訟代理人弁護士

土屋英夫

千葉県船橋市東船橋五丁目七番七号

被告

船橋税務署長 小山紀久朗

右指定代理人

新堀敏彦

浅野良一

佐藤大助

神谷信茂

清水守

加治屋豊

古川敞

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が平成三年三月六日付けでした原告上野千津子の昭和六二年分の所得税の更正のうち総所得金額一四二一万九三四二円、納付すべき税額三〇六万七一〇〇円を超える部分、昭和六三年分の所得税の更正のうち総所得金額一二〇一万〇一五四円、納付すべき税額二〇〇万四三〇〇円を超える部分及び平成元年分の所得税の更正のうち総所得金額一二八三万九四〇二円、納付すべき税額二二八万〇一〇〇円を超える部分並びに原告上野千津子に対する右各年分の各過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

二  被告が平成三年三月六日付けでした原告上野彰子の昭和六二年分の所得税の更正のうち総所得金額三三〇万五四八三円、還付金の額一一万四三八六円を超える部分、昭和六三年分の所得税の更正のうち総所得金額三〇七万九三七八円、還付金の額一八万〇二八〇円を超える部分及び平成元年分の所得税の更正のうち総所得金額四五七万九〇一八円、納付すべき税額七万一六〇〇円を超える部分並びに原告上野彰子に対する右各年分の各過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

三  被告が平成三年三月六日付けでした原告岩永穎子の昭和六二年分の所得税の更正のうち総所得金額六二四万四七七七円、納付すべき税額五二万七二〇〇円を超える部分、昭和六三年分の所得税の更正のうち総所得金額五四一万九四四七円、納付すべき税額二八万〇九〇〇円を超える部分及び平成元年分の所得税の更正のうち総所得金額六一八万一〇八七円、納付すべき税額四七万八七〇〇円を超える部分並びに原告岩永穎子に対する右各年分の各過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1(一)  有限会社上野商事(以下「上野商事」という。)は、昭和四二年一一月に設立された、原告上野千津子(以下「原告千津子」という。)を代表取締役とし、原告上野彰子(以下「原告彰子」という。)原告岩永穎子(以下「原告穎子」という。)らを取締役とする資本の総額三〇〇万円の有限会社であり、法人税法二条一〇号に規定する同族会社である。

(二)  原告千津子、同彰子及び同穎子は、<1>その所有に係る後記建物を上野商事に賃貸し、<2>上野商事から配当金の支払を受け、<3>また、自ら上野商事の業務に従事して、上野商事から給与の支払いを受けていた。原告ら以外に上野商事の業務に従事した者はいなかった。

2  賃貸借契約及び管理委託

(一) 原告千津子は、その所有に係る千葉県船橋市習志野台一丁目一〇六七番地一所在の鉄筋コンクリート造陸屋根四階建の店舗共同住宅(以下「本件A建物」という。)を、昭和五九年六月一日、上野商事に次の約束で賃貸した。

<1> 原告千津子は本件A建物を上野商事に賃貸し、上野商事はこれを貸借して第三者に転貸する。

<2> 賃料は、上野商事が第三者から受け取る転貸料の範囲内の金額とし、上野商事の事業年度ごとに協議の上定める。

<3> 本件A建物の管理、修理等は上野商事が一切これを行い、その費用もすべて上野商事が負担する。

ただし、公租公課及び火災保険料は原告千津子が負担する。

上野商事は、右契約に従い、所有者兼賃貸人である原告千津子に代わって、本件A建物の管理、修理等を行っていた。

(二) 原告彰子は、その所有に係る千葉県船橋市習志野台二丁目一二番地九所在の鉄筋コンクリート造陸屋根三階建の店舗共同住宅(以下「本件B建物」という。)を、昭和五九年六月一日、上野商事に右と同様の約束で賃貸した。

上野商事は、右契約に従い、所有者兼賃貸人である原告彰子に代わって、本件B建物の管理、修理等を行っていた。

(三) 原告穎子は、その所有に係る千葉県船橋市習志野台二丁目一三番地一所在の鉄筋コンクリートブロック造陸屋根及び鉄板葺平屋建のガソリンスタンド事務所兼作業所(以下「本件C建物」という。)を、昭和五九年六月一日、上野商事に右と同様の約束で賃貸した。

しかし、上野商事は、右約束にもかかわらず、本件C建物の管理、修理等を行っていなかった(乙八の1)。

3  確定申告、更正処分等

原告千津子の昭和六二年分、昭和六三年分及び平成元年分(以下、これを「本件各係争年分」という。)の所得税確定申告(青色申告)とこれに対する更正処分、過少申告加算税賦課決定処分等は、別表一の1ないし3のとおりであり、原告彰子のそれは別表三の1ないし3のとおりである。

また、原告らの確定申告における納税額の計算は、別表四記載のとおりである。

4  原告千津子の収入

(一) 不動産所得に係る収入

(1) 本件A建物の賃貸料

ア 原告千津子は、前記のとおり、その所有に係る本件A建物を上野商事に賃貸しており、その賃貸料(以下「本件A賃貸料」という。)として、別表五の1記載のとおり、昭和六二年に七二三万五六五〇円を、昭和六三年に六〇三万八六〇〇円を、平成元年に七四一万七一二四円を、それぞれ受領した。(甲一の1ないし3弁論の全趣旨)

イ 上野商事は、本件A建物を第三者に転貸し、別表五の1記載のとおり、昭和六二年に一五〇八万一〇〇〇円の、昭和六三年に一五五七万三五〇〇円の、平成元年に一六三九円三五〇〇円の転貸料(更新料、礼金等の臨時的収入を含む。)(以下「本件A転貸料」という。)を得た。(弁論の全趣旨)

(2) 本件A建物の賃貸料以外の賃貸料

原告千津子は、本件A賃貸料収入のほかに、別途、アパート一棟及び駐車場を賃貸していたことによる賃貸料収入を得ていた。その金額は、別表五の1の「別途賃貸料」欄記載のとおり、昭和六二年分が六〇四万九〇〇〇円、昭和六三年分が六〇六万二〇〇〇円、平成元年分が六三五万円であった。

(二) 配当所得に係る収入

原告千津子が上野商事から支払いを受けた配当金の額は、確定申告のとおりであり、別表六の1記載のとおり、昭和六二年分が八二万六六七〇円、昭和六三年分が八二万六六七〇円、平成元年分が四九万円であった。

(三) 給与所得に係る収入

原告千津子が上野商事から支払いを受けた給与の金額は、確定申告のとおりであり、別表六の1記載のとおり、昭和六二年ないし平成元年において、いずれも四三〇万五〇〇〇円であった。

5  原告彰子の収入

(一) 不動産所得に係る収入

(1) 本件B建物の賃貸料

ア 原告彰子は、前記のとおり、その所有に係る本件B建物を上野商事に賃貸しており、その賃貸料(以下「本件B賃貸料」という。)として、別表五の2記載のとおり、昭和六二年に三六六万四四〇〇円を、昭和六三年に三二五万九二〇〇円を、平成元年に三八〇万一六〇〇円を、それぞれ受領した。(甲二の1ないし3、弁論の全趣旨)

イ 上野商事は、本件B建物を第三者に転貸し、別表五の2記載のとおり、昭和六二年に八四三万七〇〇〇円の、昭和六三年に八一一万〇六〇〇円の、平成元年に八三六万六〇〇〇円の転貸料(更新料、礼金等の臨時的収入を含む。)(以下「本件B転貸料」という。)を得た。(弁論の全趣旨)

(2) 原告彰子には、本件B賃貸料以外に賃貸料収入はない。

(二) 配当所得に係る収入

原告彰子が上野商事から支払いを受けた配当金の額は、確定申告のとおりであり、別表六の2記載のとおり、昭和六二年分が七八万六六六〇円、昭和六三年分が七八万六六六〇円、平成元年分が八〇万五〇〇〇円であった。

(三) 給与所得に係る収入

原告彰子が上野商事から支払いを受けた給与の金額は、確定申告のとおりであり、別表六の2記載のとおり、昭和六二年ないし平成元年において、いずれも三二一万七〇〇〇円であった。

6  原告穎子の収入

(一) 不動産所得に係る収入

(1) 本件C建物の賃貸料

ア 原告穎子は、前記のとおり、その所有に係る本件C建物を上野商事に賃貸しており、その賃貸料(以下「本件C賃貸料」という。)として、別表五の3記載のとおり、昭和六二年に四〇七万〇二〇〇円を、昭和六三年に三二六万七〇四〇円を、平成元年に四〇二万八八五〇円を、それぞれ受領した。(甲三の1ないし3、弁論の全趣旨)

イ 上野商事は、本件C建物を有限会社三友商事に転貸し、別表五の3記載のとおり、昭和六二年に八一四万八〇〇〇円の、昭和六三年に八一四万八〇〇〇円の、平成元年に八九九万五〇〇〇円の転貸料(更新料、礼金等の臨時的収入を含む。)(以下「本件C転貸料」という。)を得た。(弁論の全趣旨)

(2) 原告穎子には、本件C賃貸料以外に賃貸料収入はない。

(二) 配当所得に係る収入

原告穎子が上野商事から支払いを受けた配当金の額は、確定申告のとおりであり、別表六の3記載のとおり、昭和六二年分が四六万六六七〇円、昭和六三年分が四六万六六七〇円、平成元年分が四九万円であった。

(三) 給与所得に係る収入

原告穎子が上野商事から支払いを受けた給与の金額は、確定申告のとおりであり、別表六の3記載のとおり、昭和六二年ないし平成元年において、いずれも二三八万五〇〇〇円であった。

二  被告の主張(更正処分等の適法性)

1  原告千津子の総所得金額等

原告千津子の本件各係争年分の総所得金額は、左記金額(別表六の1の「被告主張額」欄記載の金額)であり、その納付すべき税額は別表一〇の1の「適正賃貸料の額に基づく納付すべき税額」欄記載の金額であって、これらは、先に被告がなした本件各更正処分の金額を上回るものであるから、本件各更正処分は結局適法である。

昭和六二年分 一九九〇万五八五〇円(確定申告額より五六八万六五〇八円増加、本件更正処分額より三五万一七一八円増加)

昭和六三年分 一八〇一万五六七四円(同六〇〇万五五二〇円増加、同二七万二四八九円増加)

平成元年分 一八七七万八〇四二円(同五九三万八六四〇円増加、同二四万二七五九円増加)

(一) 不動産所得の金額

(1) 本件A建物の賃貸料

ア 原告千津子は、本件A建物を上野商事に賃貸して上野商事から本件A賃貸料を受け取っており、上野商事は本件A建物を第三者に転貸して本件A転貸料を受け取っていたが、上野商事が原告千津子の同族会社であることからすれば、実質的には、本件A転貸料は原告千津子の収入であり、原告千津子はこの中から上野商事に管理料を支払っていたものと同一に評価することができる。そして、その管理料は、本件A転貸料から本件A賃貸料を差し引いた差額である。

ところが、右の差額(すなわち管理料額)は、別表五の1記載のとおり、昭和六二年分が七八四万五三五〇円、昭和六三年分が九五三万四九〇〇円、平成元年分が八九七万六三七五円であって、本件A転貸料額の半分以下であり、あまりに高額である。その反面、原告千津子の取得した本件A賃貸料は、あまりに低額となっており、通常の経済人の行為としては極めて不合理・不自然である。

イ ところで、所得税法一五七条一項は、「税務署長は、同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主若しくは社員である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その居住者の各年分の所得税法一二〇条一項一号若しくは三号から八号まで(確定所得申告書の記載事項)に掲げる金額を計算することができる。」旨を規定している。

そして、右「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」とは、経済的、実質的見地において、当該行為又は計算が通常の経済人の行為としては不合理又は不自然である場合をさすものと解される。

ウ そこで、被告は、本件A賃貸料額をそのまま容認した場合には原告千津子の所得税の負担を不当に減少させる結果となるものと認め、原告千津子の本件A賃貸料額を否認し、その適正賃貸料額をもって本件A建物の賃貸料額とすることとし、今回、別表七の1記載のとおり、昭和六二年分の賃貸料額を一二九二万二一五八円とし(申告金額より五六八万六五〇八円増加)、昭和六三年分を一二〇四万四一二〇円と(同六〇〇万五五二〇円増加)、平成元年分を一三三五万五七六五円と(同五九三万八六四〇円増加)、それぞれ計算した。

エ その計算方法は次のとおりである。すなわち、本件A建物の適正賃貸料額をいきなり求めることは困難であるから、まず、原告千津子が上野商事に支払うべき適正管理料額を算出し、これを本件A転貸料額から差し引き、この残額から、上野商事が実際に支出するなどした(すなわち原告千津子の負担となるべき)修繕費等の額(共同電気料、修繕費等、減価償却費及び雑費)を差し引く方法によって求めることとした。その差引き後の残額が、本件A建物の適正賃貸料額である。

オ 本件A建物の適正管理料

本件A建物の適正管理料は、本件A建物が原告千津子と同族会社の関係にない不動産管理会社に管理委託された場合を想定して、その場合に通常支払われるべき管理料額をもって適正管理料とするべきである。

そこで、被告は、被告に対して所得税の各申告書を提出している者で本件各係争年分において左記の<1>ないし<8>のすべての条件を充たす者を抽出し、これらの者を比準同業者として選定して、その賃貸料収入額に対する支払管理料額の割合を計算したところ、別表八のA記載のとおりとなった。そこで、この平均値をもって平均管理料割合とした。

<1>自署管内に貸ビルを所有して、不動産貸付業を営んでいる者のうち、その貸ビルの管理を同族会社でない不動産管理会社に委託している者

<2>貸ビルの構造が鉄骨鉄筋コンクリート造で、その利用目的が貸店舗若しくは貸住宅又はそれらが混在するビルを所有する者

<3>収支計算により所得税青色申告決算書(不動産所得用)又は収支内訳書(不動産所得用)を提出している者

<4>対象年分における貸ビルに係る賃貸料収入の金額(更新料、礼金等の臨時的収入を除いた金額)が、次の金額の範囲内(更新料、礼金等の臨時的収入を除いた本件A転貸料収入額の二分の一以上二倍以下の範囲内)にある者

昭和六二年分

七二七万四〇〇〇円以上二九〇九万六〇〇〇円以下

昭和六三年分

七四三万四二五〇円以上二九七三万七〇〇〇円以下

平成元年分

七六八万九七五〇円以上三〇七五万九〇〇〇円以下

<5>年を通じて前記<1>の事業を継続している者

<6>災害等により経営状態が異常であると認められない者

<7>不服申立て又は訴訟係属中でない者

<8>右<1>ないし<7>の該当者すべてについて、文書により個別に照会し、右照会に対する回答書から事業及び管理委託の状況を把握した結果、その管理委託の業務内容が主として賃貸契約の締結・更新、入居者の募集、集金である者(ただし、業務内容に清掃、エレベーター、電気等の保守等のメンテナンスのみを委託している場合において、右各業務に限定してその管理を委託している者は除く。)で、その者の賃貸料収入が、前記<1>の金額の範囲内にある者

そして、この平均管理料割合を本件A転貸料に乗じることによって本件A建物の適正管理料を求めたところ、この金額は、別表七の1記載のとおり、昭和六二年分が九三万九五四六円、昭和六三年分が九九万九八一九円、平成元年分が一一七万二一三五円となった。

カ 原告千津子の負担すべき本件A建物の修繕費等の額

本件A建物について上野商事が実際に支出するなどした修繕費等の額は、別表九記載のとおりである。

キ したがって、本件A建物の適正賃貸料額(本件A転貸料額から適正管理料額及び修繕費等の額を差し引いた額)は、別表七の1記載のとおりとなる。

(2) 本件A賃貸料以外の賃貸料

確定申告のとおりであり、別表五の1の「別途賃貸料」欄記載のとおりである。

(3) 必要経費

確定申告のとおりであり、別表六の1記載のとおりである。

(4) 原告千津子の青色申告控除額は、一〇万円である。

(5) 結局、原告千津子の本件各係争年分の不動産所得の金額(右「(1)+(2)-(3)-(4)」の金額)は、別表六の1の「被告主張額」欄記載のとおり、昭和六二年分が一四七七万四一八〇円、昭和六三年分が一二八八万四〇〇四円、平成元年分が一三九八万三〇四二円となる。

(二) 配当所得の金額

確定申告のとおりであり、別表六の1記載のとおりである。

(三) 給与所得の金額

確定申告のとおりであり、別表六の1記載のとおりである。

(四) 総所得金額及び納税額

結局、原告千津子の総所得金額は、別表六の1の「被告主張額」欄記載のとおりとなり、納付すべき税額は、別表一〇の1記載のとおり、昭和六二年分が五八三万四三〇〇円、昭和六三年分が四四〇万六三〇〇円、平成元年分が四六五万五七〇〇円となり、これを同原告の確定申告に係る税額と対比すると、昭和六二年分において二七六万七二〇〇円の増加、昭和六三年分において、二四〇万二〇〇〇円の増加、平成元年分において二三七万五六〇〇円の増加となる。

(五) 賦課決定処分

原告千津子は、納付すべき税額を過少申告したことにより、国税通則法六五条一項により、次のとおり過少申告加算税が賦課される。

昭和六二年分 二五万九〇〇〇円(本件更正処分により新たに納付すべきこととなった税額二五九万円×一〇〇〇分の一〇)

昭和六三年分 二二万九〇〇〇円(同二二九万円×一〇〇〇分の一〇)

平成元年分 二二万七〇〇〇円(同二二七万円×一〇〇〇分の一〇)

2  原告彰子の総所得金額等

原告彰子の本件各係争年分の総所得金額は、左記金額(別表六の2の「被告主張額」欄記載の金額)であり、その納付すべき税額は別表一〇の2の「適正賃貸料の額に基づく納付すべき税額」欄記載の金額であって、これらは、先に被告がなした本件各更正処分の金額を上回るものであるから、本件各更正処分は結局適法である。

昭和六二年分 七一一万七七八三円(確定申告額より三八一万二三〇〇円増加、本件更正処分額より一六万六三五八円増加)

昭和六三年分 六九五万〇四四六円(同三八七万一〇六八円増加、同一三万二三二二円増加)

平成元年分 八二五万七六一八円(同三六七万八六〇〇円増加、同一三万九五二七円増加)

(一) 不動産所得の金額

(1) 本件B建物の賃貸料

ア 原告彰子は、本件B建物を上野商事に賃貸して上野商事から本件B賃貸料を受け取っており、上野商事は本件B建物を第三者に転貸して本件B転貸料を受け取っていたが、上野商事が原告彰子の同族会社であることからすれば、実質的には、本件B転貸料は原告彰子の収入であり、原告彰子はこの中から上野商事に管理料を支払っていたものと同一に評価することができる。そして、その管理料は、本件B転貸料から本件B賃貸料を差し引いた差額である。

ところが、右の差額(すなわち管理料額)は、別表五の2記載のとおり、昭和六二年分が四七七万二六〇〇円、昭和六三年分が四八五万一四〇〇円、平成元年分が四五六万四四〇〇円であって、本件B転貸料額の半分以上であり、あまりに高額である。その反面、原告彰子の取得した本件B賃貸料は、あまりに低額となっており、通常の経済人の行為としては極めて不合理・不自然である。

イ 所得税法一五七条一項は、前記のとおり規定しており、その「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」とは、前記のとおり、通常の経済人の行為としては不合理又は不自然である場合をさすものと解される。

ウ そこで、被告は、本件B賃貸料額をそのまま容認した場合には原告彰子の所得税の負担を不当に減少させる結果となるものと認め、原告彰子の本件B賃貸料額を否認し、その適正賃貸料額をもって本件B建物の賃貸料額とすることとし、今回、別表七の2記載のとおり、昭和六二年分の賃貸料額を七五七万六二〇〇円と(申告金額より三九一万一八〇〇円増加)、昭和六三年分を七二三万〇二六八円と(同三九七万一〇六八円増加)、平成元年分を七四八万〇二〇〇円と(同三六七万八六〇〇円増加)、それぞれ計算した。

エ その計算方法は、前記原告千津子の場合と同様である。

オ 本件B建物の適正管理料

本件B建物の適正管理料は、本件A建物の場合と同様に考えるべきである。

そこで、被告は、被告に対して所得税の確定申告書を提出している者で本件各係争年分において左記の<1>ないし<8>のすべての条件を充たす者を抽出し、これらのものを比準同業者として選定して、その賃貸料収入額に対する支払管理料額の割合を計算したところ、別表八のB記載のとおりとなった。そこで、その平均値をもって平均管理料割合とした。

<1>自署管内に貸ビルを所有して、不動産貸付業を営んでいる者のうち、その貸ビルの管理を同族会社でない不動産管理会社に委託している者

<2>貸ビルの構造が鉄骨鉄筋コンクリート造で、その利用目的が貸店舗若しくは貸住宅又はそれらが混在するビルを所有する者

<3>収支計算により所得税青色申告決算書(不動産所得用)又は収支内訳書(不動産所得用)を提出している者

<4>対象年分における貸ビルに係る賃貸料収入の金額(更新料、礼金等の臨時的収入を除いた金額)が、次の金額の範囲内(更新料、礼金等の臨時的収入を除いた本件B転貸料収入額の二分の一以上二倍以下の範囲内)にある者

昭和六二年分

三八一万四五〇〇円以上一五二五万八〇〇〇円以下

昭和六三年分

三九六万〇二五〇円以上一五八四万一〇〇〇円以下

平成元年

四〇六万二〇〇〇円以上一六二四万八〇〇〇円以下

<5>年を通じて前記<1>の事業を継続している者

<6>災害等により経営状態が異常であると認められない者

<7>不服申立て又は訴訟係属中でない者

<8>右<1>ないし<7>の該当者すべてについて、文書により個別に照会し、右照会に対する回答書から事業及び管理委託の状況を把握した結果、その管理委託の業務内容が主として賃貸契約の締結・更新、入居者の募集、集金である者(ただし、業務内容に清掃、エレベーター、電気等の保守等のメンテナンスのみを委託している場合において、右各業務に限定してその管理を委託している者は除く。)で、その者の賃貸料収入が、前記<4>の金額の範囲内にある者

そして、この平均管理料割合を本件B転貸料に乗じることによって本件B建物の適正管理料を求めたところ、この金額は、別表七の2記載のとおり、昭和六二年分が四九万七七八三円、昭和六三年分が四九万二三一三円、平成元年分が五五万四六六六円となった。

カ 原告彰子の負担すべき本件B建物の修繕費等の額

本件B建物について上野商事が実際に支出するなどした修繕費等の額は、別表九記載のとおりである。

キ したがって、本件B建物の適正賃貸料額(本件B転貸料額から適正管理料額及び修繕費等の額を差し引いた額)は、別表七の2記載のとおりとなる。

(2) 本件B賃貸料以外の賃貸料

原告彰子には、本件B賃貸料以外に賃貸料収入はない。

(3) 必要経費

確定申告のとおりであり、別表六の2記載のとおりである。

(4) 原告彰子の青色申告控除額は、一〇万円である。

(5) 結局、原告彰子の本件各係争年分の不動産所得の金額(右「(1)-(3)-(4)」の金額)は、別表六の2の「被告主張額」欄記載のとおり、昭和六二年分が三一一万四一二三円、昭和六三年分が二九四万六七八六円、平成元年分が四二三万五六一八円なる。

(二) 配当所得の金額

確定申告のとおりであり、別表六の2記載のとおりである。

(三) 給与所得の金額

確定申告のとおりであり、別表六の2記載のとおりである。

(四) 総所得金額及び納税額

結局、原告彰子の総所得金額は、別表六の2の「被告主張額」欄記載のとおりとなり、納付すべき税額は、別表一〇の2記載のとおり、昭和六二年分が七五万四四〇〇円、昭和六三年分が六〇万二四〇〇円、平成元年分が九八万三三〇〇円となり、これを同原告の確定申告に係る税額と対比すると、昭和六二年分において八六万八七〇〇円の増加、昭和六三年分において七八万二六〇〇円の増加、平成元年分において九一万一七〇〇円の増加となる。

(五) 賦課決定処分

原告彰子は、国税通則法六五条一項及び二項により、次のとおり過少申告加算税が賦課される。

昭和六二年分 九万六五〇〇円(本件更正処分により新たに納付すべきこととなった税額八一万円×一〇〇〇分の一〇+三〇万円×一〇〇〇分の五)

昭和六三年分 八万六〇〇〇円(同七四万円×一〇〇〇分の一〇+二四万円×一〇〇〇分の五)

平成元年分 一〇万五五〇〇円(同八七万円×一〇〇〇分の一〇+三七万円×一〇〇〇分の五)

3  原告穎子の総所得金額等

原告穎子の本件各係争年分の総所得金額は、左記金額(別表六の3の「被告主張額」欄記載の金額)であり、その納付すべき税額は別表一〇の3の「適正賃貸料の額に基づく納付すべき税額」欄記載の金額であって、これらは、先に被告がなした本件各更正処分の金額と同じ金額であり、本件各更正処分は適法である。

昭和六二年分 一〇二一万一一二三円(確定申告額より三九六万六三四六円増加)

昭和六三年分 一〇一九万五四〇二円(同四七七万五九五五円増加)

平成元年分 一〇八一万六五四〇円(同四六三万五四五三円増加)

(一) 不動産所得の金額

(1) 本件C建物の賃貸料

ア 原告穎子は、本件C建物を上野商事に賃貸して上野商事から本件C賃貸料を受け取っており、上野商事は本件C建物を第三者に転貸して本件C転貸料を受け取っていたが、上野商事が原告穎子の同族会社であることからすれば、実質的には、本件C転貸料は原告穎子の収入であり、原告穎子はこの中から上野商事に管理料を支払っていたものと同一に評価することができる。そして、その管理料は、本件C転貸料から本件C賃貸料を差し引いた差額である。

ところが、右の差額(すなわち管理料額)は、別表五の3記載のとおり、昭和六二年分が四〇七万七八〇〇円、昭和六三年分が四八八万〇九六〇円、平成元年分が四九六万六一五〇円であって、本件C転貸料額の半分以上であり、あまりに高額である。その反面、原告穎子の取得した本件C賃貸料は、あまりに低額となっており、通常の経済人の行為としては極めて不合理・不自然である。

イ 所得税法一五七条一項は、前記のとおり規定しており、その「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」とは、前記のとおり、通常の経済人の行為としては不合理又は不自然である場合をさすものと解される。

ウ そこで、被告は、本件C賃貸料額をそのまま容認した場合には原告穎子の所得税の負担を不当に減少させる結果となるものと認め、原告穎子の本件C賃貸料額を否認し、その適正賃貸料額をもって本件C建物の賃貸料額とすることとし、今回、別表七の3記載のとおり、昭和六二年分の賃貸料額を八〇三万六五四六円と(申告金額より三九六万六三四六円増加)、昭和六三年分を八〇四万二九九五円と(同七七万五九五五円増加)、平成元年分を八六六円四三〇三円と(同六三万五四五三円増加)、それぞれ計算した。

エ その計算方法は次のとおりである。すなわち、本件C建物の適正賃貸料額をいきなり求めることは困難であるから、本件A建物の場合と同様、まず、原告穎子が上野商事に支払うべき適正管理料額を算出し、これを本件C転貸料額から差し引き、この残額から、上野商事が実際に支出するなどした(すなわち原告穎子の負担となるべき)修繕費等の額(修繕費等、減価償却費用及び雑費)を差し引く方法によって求めることとした。

しかし、前記のとおり、上野商事は、原告穎子との契約にもかかわらず、本件C建物の管理や修理等を行わず、これを転借人の有限会社三友商事にまかせていたのであるから、結局、適正管理料額は零となり、本件C建物の適正賃貸料額は、本件C転貸料から修繕費等の額を差し引いた金額となる。

オ 原告穎子の負担すべき本件C建物の修繕費等の額

別表九のとおりである。

カ したがって、本件C建物の適性賃貸料額(本件C転貸料額から減価償却費の額を差し引いた額)は、別表七の3記載のとおりとなる。

(2) 本件C賃貸料以外の賃貸料

原告穎子には、本件C賃貸料以外に賃貸料収入はない。

(3) 必要経費

確定申告のとおりであり、別表六の3記載のとおりである。

(4) 原告穎子の青色申告控除額は、一〇万円である。

(5) 結局、原告穎子の本件各係争年分の不動産所得の金額(右「(1) -(3) -(4) 」の金額)は、別表六の3の「被告主張額」欄記載のとおり、昭和六二年分が七三五万九四五三円、昭和六三年分が七三四円三七三二円、平成元年分が七九四万一五四〇円なる。

(二) 配当所得の金額

確定申告のとおりであり、別表六の3記載のとおりである。

(三) 給与所得の金額

確定申告のとおりであり、別表六の3記載のとおりである。

(四) 総所得金額及び納税額

結局、原告穎子の総所得金額は、別表六の3の「被告主張額」欄記載のとおりとなり、納付すべき税額は、別表一〇の3記載のとおり、昭和六二年分が一七六万一七〇〇円、昭和六三年分が一五七万六七〇〇円、平成元年分が一七六万六一〇〇円となり、これを同原告の確定申告に係る税額と対比すると、昭和六二年分において一二三万四五〇〇円の増加、昭和六三年分において一二九万五八〇〇円の増加、平成元年分において一二八万七四〇〇円の増加となる。

(五) 賦課決定処分

原告穎子は、国税通則法六五条一項及び二項により、次のとおりの過少申告加算税が賦課される。

昭和六二年分 一四万二〇〇〇円(本件更正処分により新たに納付すべきこととなった税額一二三万円×一〇〇〇分の一〇+三八万円×一〇〇〇分の五)

昭和六三年分 一六万四五〇〇円(同一二九万円×一〇〇〇分の一〇+七一万円×一〇〇〇分の五)

平成元年分 一五万三〇〇〇円(同一二八万円×一〇〇〇分の一〇+五〇万円×一〇〇〇分の五)

三  原告らの主張

1  所得税法一五七条一項にいう「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」との要件、また、「税務署長の認めるところにより、その居住者の各年分の所得税法一二〇条一項一号若しくは三号から八号まで(確定所得申告書の記載事項)に掲げる金額を計算することができる」旨の規定はあいまいであって、租税法律主義に違反するものであり、また、右「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」との要件を、経済的実質的見地において当該行為又は計算が通常の経済人の行為として不合理又は不自然であるか否かにより判断することは、違法である。

2  適正賃貸料額の算定について

(一) 被告は、本件各建物の適正賃貸料額を求める方法として、本件各建物の転貸料額から本件各建物の適正管理料額及び修繕費等の額を差し引く方法を採っているが、これは、あたかも原告らが第三者に対して直接本件各建物を賃貸しており、上野商事は本件各建物の単なる管理受託者にしかすぎないとみるものであって、あまりに実態を無視するものである。原告らはあくまでも上野商事に本件各建物を一括して賃貸しているのであって、上野商事も賃借人として本件各建物の賃料を支払っているのであるから、その事実をそのまま受け容れるべきであり、端的にその支払賃料額が適正であるか否かを検討すれば足りるのである。

(二) 仮に、被告主張の方法によって本件各建物の適正賃貸料額を求めるとしても、被告が用いた別表八記載の平均管理料割合は、その算出方法に問題があり、また、算出結果も妥当でない。すなわち、被告の設定した比準同業者の抽出基準には合理性はないのであり(例えば、同族会社に管理を委託している者をも抽出すべきであったのであり、また、委託の内容が清掃や苦情処理等を含む者をも抽出すべきであったのである。)、選定された同業者の数も三~四名と極めて少なく、かつ実名の記載がなく、その事業規模等や支払管理料額も明らかでない。更に、平均管理料割合自体も五~七パーセントと極めて低く、被告が本件各更正処分前に原告らに修正申告を促していた際に示した割合(約二〇%)とも大きく異なっており、また、本件各更正処分で被告が用いた割合(八~九%)とも異なっているのである。

(三) そもそも、比準同業者の平均管理料割合を用いて本件各建物の適正管理料額及び適正賃貸料額を算出することは、推計計算にあたり、原告らは青色申告者であるので、所得税法一五五条一項に違反して許されないのである。

(四) なお、別表七の「実費負担分相当額」欄記載の金額すなわち別表九の金額は、別表一一の「原告算定賃貸経費」欄記載の金額に増額されるべきである。

3  配当所得の金額及び給与所得の金額について

仮に被告の本件各更正処分による賃貸料額を上野商事が原告らに支払うものとすると、上野商事にはもはや原告らに配当金や給与全額を支払う余地はなくなるのであり、原告らが受け取った配当金は上野の商事に全額返還すべきであり、また、原告らが受け取った給与もその一部を返還すべきこととなるのである。そうとすれば、別表六の「配当所得の金額」は零に、また、「給与所得の金額」も大幅に減額されるべきである。

4  二重課税

被告は、上野商事の法人税確定申告に対する更正処分をしていない。しかし、被告において、原告らの賃貸料収入額(受取賃貸料額)を増額させる(したがって納税額を増額させる)更正処分をした以上、それに対応して、上野商事の支払賃貸料額を増額させる(したがって納税額を減額させる)更正処分をなすべきであり、原告らの所得税について増額の更正処分をしながら上野商事の法人税について減額の更正処分をしないのは実質的には二重課税であり、それは本件各更正処分を違法ならしめるものである。なぜなら、所得税法一五七条は制裁的規定ではないからである。

5  本件各更正処分の理由不備

所得税法一五五条二項は、「青色申告に係る年分の総所得金額を更正する場合には更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない。」

旨を規定しているが、本件各更正処分には理由が附記されていない。すなわち、本件各更正通知書には、<1>不動産所得に係る総収入金額に加算すべき金額をどのようにして算定したのか、それが具体的にどのような勘定科目で存在するのか、<2>平均管理料割合はどのような根拠に基づいて算出されたのか、<3>同業者とはどのような者であるのか、<4>同族会社が不動産転貸業を行う場合、なぜ賃借物件に対する支払家賃は転貸料額から管理料相当額を控除した額と同一でなければならないのか、<5>礼金と更新料の金額やそれらを除いた金額がどのように算出されたのか、<6>なぜ上野商事が負担した修繕費等を差し引くのか、また、修繕費等の額はどのようにして算定したのか、<7>本件C建物について、なぜ上野商事が管理業務をしていないと認定したのか、等について、その理由が記載されていない。

第三当裁判所の判断

一  原告らの総所得金額等

1  原告千津子の総所得金額等

原告千津子の本件各係争年分の総所得金額は、被告主張のとおり、左記金額(別表六の1の「被告主張額」欄記載の金額)であると認められ、その納付すべき税額は、別表一〇の1の「適正賃貸料の額に基づく納付すべき税額」欄記載の金額である。そして、これらは、先に被告が本件各更正処分で更正した金額を上回るものであるから、結局、本件各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分は適法である。

昭和六二年分 一九九〇万五八五〇円(確定申告額より五六八万六五〇八円増加)

昭和六三年分 一八〇一万五六七四円(同六〇〇万五五二〇円増加)

平成元年分 一八七七万八〇四二円(同五九三万八六四〇円増加

(一) 不動産所得の金額

(1) 本件A建物の賃貸料

ア 前記のとおり、原告千津子は、本件A建物を上野商事に賃貸し、上野商事から本件A賃貸料を受け取っていたが、本件A賃貸料額は、別表五の1記載のとおり、昭和六二年分が七二三万五六五〇円、昭和六三年分が六〇三万八六〇〇円、平成元年分が七四一万七一二五円であって、これらは、たとえ、本件A建物の管理や修理等が契約上上野商事の義務とされており、その費用もすべて上野商事が負担することとされていることを考慮しても、同表記載の本件A転貸料額に比し、あまりに低額であって、右は通常の経済人の行為としては不合理であるといわざるをえない。

イ ところで、所得税法一五七条一項は、「税務署長は、同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主若しくは社員である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その居住者の各年分の所得税法一二〇条一項一号若しくは三号から八号まで(確定所得申告書の記載事項)に掲げる金額を計算することができる。」旨を規定している。

そして、右「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」か否かは、経済的にみて当該行為又は計算が通常の経済人の行為として不合理又は不自然であるといえるか否かにより判断すべきものである。

ウ そうとすれば、被告が本件A賃貸料額を否認したことは適法であったというべきであり、そして、この場合には、本件A建物の賃貸料額を原告千津子の所得税の計算上その適正賃貸料額に置き換えて、これによって不動産所得の金額を計算するのが相当である。

エ ところで、本件A建物の適正賃貸料額を求める方法については種々の方法が考えられるが、被告の主張する次の方法によることもなお許されるものと解される。

すなわち、本件A建物の管理や修理等が契約上上野商事に委託されていることに鑑み、本件A転貸料額から本件A建物の適正管理料額(原告千津子が本件A建物の管理のみを同族会社でない不動産管理会社に委託したとした場合に通常支払うべき管理料額)を差し引き、ついで、実際に上野商事が支出するなどした修繕費等の額(共同電気料、修繕費等、減価償却費及び雑費)を差し引き、残額をもって適正賃貸料額とする方法である。

オ 本件A建物の適正管理料額

本件A建物の適正管理料額を求める方法についても、種々の方法が考えられるが、この点については、被告の主張する同業者の管理料割合(支払管理料の賃料収入に対する割合)によってこれを求めるのが相当である。

そこで、同業者の管理料割合について検討するに、証拠(乙二の1ないし4、証人石井悟志)及び弁論の全趣旨によれば、被告に対して所得税の確定申告書を提出している者のうち、本件各係争年分において左記の<1>ないし<8>のすべての条件を充たす者を抽出して、これらの者(比準同業者)の管理料割合を計算したところ、別表八のA記載のとおりとなったことが認められる。そうとすると、右管理料割合の平均値(平均管理料割合)をもって同業者の管理料割合とし、これによって本件A建物の適正管理料額を定めるのが相当である。

<1>自署管内に貸ビルを所有して、不動産貸付業を営んでいる者のうち、その貸ビルの管理を同族会社でない不動産管理会社に委託している者

<2>貸ビルの構造が鉄骨鉄筋コンクリート造で、その利用目的が貸店舗若しくは貸住宅又はそれらが混在するビルを所有する者

<3>収支計算により所得税青色申告決算書(不動産所得用)又は収支内訳書(不動産所得用)を提出している者

<4>対象年分における貸ビルに係る賃貸料収入の金額(更新料、礼金等の臨時的収入を除いた金額)が、次の金額の範囲内(更新料、礼金等の臨時的収入を除いた本件A転貸料収入額の二分の一以上二倍以下の範囲内)にある者

昭和六二年分

七二七万四〇〇〇円以上二九〇九万六〇〇〇円以下

昭和六三年分

七四三万四二五〇円以上二九七三万七〇〇〇円以下

平成元年

七六八万九七五〇円以上三〇七五万九〇〇〇円以下

<5>年を通じて前記<1>の事業を継続している者

<6>災害等により経営状態が異常であると認められない者

<7>更正又は決定処分がなされている者のうち、不服申立て又は訴訟係属中でない者

<8>右<1>ないし<7>の該当者すべてについて、文書により個別に照会し、右照会に対する回答書から事業及び管理委託の状況を把握した結果、その管理委託の業務内容が主として賃貸契約の締結・更新、入居者の募集、集金である者(ただし、業務内容に清掃、エレベーター、電気等の保守等のメンテナンスのみを委託している場合において、右各業務に限定してその管理を委託している者は除く。)で、その者の賃貸料収入が、前記<4>の金額の範囲内にある者

しかるときは、本件A建物の適正管理料額(本件A転貸料×平均管理料割合)は、別表七の1記載のとおり、昭和六二年分が九三万九五四六円、昭和六三年分が九九万九八一九円、平成元年分が一一七万二一三五円となる。

カ 本件A建物の修繕費等の額

弁論の全趣旨によれば、本件A建物について上野商事が実際に支出するなどした修繕費等の額は、別表九記載のとおりであると認められる。

キ したがって、本件A建物の適正賃貸料額は、別表七の1記載のとおり、昭和六二年分が一二九二万二一五八円、昭和六三年分が一二〇四万四一二〇円、平成元年分が一三三五万五七六五円となる。

(2) 本件A賃貸料以外の賃貸料

原告千津子が本件A建物以外にアパート一棟及び駐車場を賃貸したことによる賃貸料収入は、前記認定のとおり、別表五の1の「別途賃貸料」欄記載の金額である。

(3) 必要経費

弁論の全趣旨によれば、原告千津子の不動産所得に係る必要経費は、確定申告のとおり、別表六の1記載の金額であると認められる。

(4) 原告千津子の青色申告控除額は、一〇万円である。

(5) 結局、原告千津子の本件各係争年分の不動産所得の金額(右「(1)+(2)-(3)-(4)」の金額)は、別表六の1の「被告主張額」欄記載のとおり、昭和六二年分が一四七七万四一八〇円、昭和六三年分が二八八万四〇〇四円、平成元年分が一三九八万三〇四二円となる。

(二) 配当所得の金額

前記認定のとおり、確定申告のとおりであり、別表六の1記載のとおりである。

(三) 給与所得の金額

前記認定のとおり、確定申告のとおりであり、別表六の1記載のとおりである。

(四) 総所得金額及び納税額

結局、原告千津子の総所得金額は、別表六の1の「被告主張額」欄記載のとおりとなり、納付すべき税額は、別表一〇の1記載のとおり、昭和六二年分が五八三万四三〇〇円、昭和六三年分が四四〇万六三〇〇円、平成元年が四六五万五七〇〇円となる。

そして、これを同原告の確定申告に係る税額と対比すると、昭和六二年分において二七六万七二〇〇円の増加、昭和六三年分において二四〇万二〇〇〇円の増加、平成元年分において二三七万五六〇〇円の増加となる。

そうとすれば、この点からも、原告千津子の確定申告に係る所得税額は、前記所得税法一五七条一項にいう「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」ものであったというべきである。

(五) 賦課決定処分

原告千津子は、納付すべき税額を過少申告したことにより、国税通則法六五条一項により、被告主張のとおり、次のとおりの過少申告加算税が賦課される。

昭和六二年分 二五万九〇〇〇円

昭和六三年分 二二万九〇〇〇円

平成元年分 二二万七〇〇〇円

2  原告彰子の総所得金額等

原告彰子の本件各係争年分の総所得金額は、被告主張のとおり、左記金額(別表六の2の「被告主張額」欄記載の金額)であると認められ、その納付すべき税額は、別表一〇の2の「適正賃貸料の額に基づく納付すべき税額」欄記載の金額である。そして、これらは、先に被告が本件各更正処分で更正した金額を上回るものであるから、結局、本件各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分は適法である。

昭和六二年分 七一一万七七八三円(確定申告額より三八一万二三〇〇円増加)

昭和六三年分 六九五万〇四四六円(同三八七万一〇六八円増加)

平成元年分 八二五万七六一八円(同三六七万八六〇〇円増加)

(一) 不動産所得の金額

(1) 本件B建物の賃貸料

ア 前記のとおり、原告彰子は、本件B建物を上野商事に賃貸し、上野商事から本件B賃貸料を受け取っていたが、本件B賃貸料額は、別表五の2記載のとおり、昭和六二年分が三六六万四四〇〇円、昭和六三年分が三二五万九二〇〇円、平成元年分が三八〇万一六〇〇円であって、これらは、たとえ、本件B建物の管理や修理等が契約上上野商事の義務とされており、その費用もすべて上野商事が負担することとされていることを考慮しても、同表記載の本件B転貸料額に比し、あまりに低額であって、右は通常の経済人の行為としては不合理であるといわざるを得ない。

イ 所得税法一五七条一項は、前記のとおり規定しており、「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」か否かは、前記のとおり、経済的にみて当該行為又は計算が通常の経済人の行為として不合理又は不自然であるといえるか否かにより判断すべきである。

ウ そうとすれば、被告が本件B賃貸料額を否認したことは適法であったというべきであり、そして、この場合には、本件B建物の賃貸料額を原告彰子の所得税の計算上その適正賃貸料額に置き換えて、これによって不動産所得の金額を計算するのが相当である。

エ そこで、本件A建物の適正賃貸料額を求めたのと同様の方法で本件B建物の適正賃貸料額を計算することとする。

オ 本件B建物の適正管理料額

本件B建物の適正管理料額を求める方法についても、同業者の管理料割合によってこれを求めるのが相当である。

そこで、同業者の管理料割合について検討するに、証拠(乙二の1、5ないし7、証人石井悟志)及び弁論の全趣旨によれば、被告に対して所得税の確定申告書を提出している者のうち、本件各係争年分において左記の<1>ないし<8>のすべての条件を充たす者を抽出して、これらの者(比準同業者)の管理料割合を計算したところ、別表八のB記載のとおりとなったことが認められる。そうとすると、右管理料割合の平均値をもって同業者の管理料割合とし、これによって本件B建物の適正管理料額を定めるのが相当である。

<1>自署管内に貸ビルを所有して、不動産貸付業を営んでいる者のうち、その貸ビルの管理を同族会社でない不動産管理会社に委託している者

<2>貸ビルの構造が鉄骨鉄筋コンクリート造で、その利用目的が貸店舗若しくは貸住宅又はそれらが混在するビルを所有する者

<3>収支計算により所得税青色申告決算書(不動産所得用)又は収支内訳書(不動産所得用)を提出している者

<4>対象年分における貸ビルに係る賃貸料収入の金額(更新料、礼金等の臨時的収入を除いた金額)が、次の金額の範囲内(更新料、礼金等の臨時的収入を除いた本件B転貸料収入額の二分の一以上二倍以下の範囲内)にある者

昭和六二年分

三八一万四五〇〇円以上一五二五万八〇〇〇円以下

昭和六三年分

三九六万〇二五〇円以上一五八四万一〇〇〇円以内

平成元年

四〇六万二〇〇〇円以上一六二四万八〇〇〇円以下

<5>年を通じて前記<1>の事業を継続している者

<6>災害等により経営状態が異常であると認められない者

<7>更正又は決定処分がなされている者のうち、不服申立て又は訴訟係属中でない者

<8>右<1>ないし<7>の該当者すべてについて、文書により個別に照会し、右照会に対する回答書から事業及び管理委託の状況を把握した結果、その管理委託の業務内容が主として賃貸契約の締結・更新、入居者の募集、集金である者(ただし、業務内容に清掃、エレベーター、電気等の保守等のメンテナンスのみを委託している場合において、右各業務に限定してその管理を委託している者は除く。)で、その者の賃貸料収入が、前記<4>の金額の範囲内にある者

しかるときは、本件B建物の適正管理料額(本件B転貸料×平均管理料割合)は、別表七の2記載のとおり、昭和六二年分が四九万七七八三円、昭和六三年分が四九万二三一三円、平成元年分が五五万四六六六円となる。

カ 本件B建物の修繕費等の額

弁論の全趣旨によれば、本件B建物について上野商事が実際に支出するなどした修繕費等の額は、別表九記載のとおりであると認められる。

キ したがって、本件B建物の適正賃貸料額は、別表七の2記載のとおり、昭和六二年分が七五万六二〇〇円、昭和六三年分が七二三万〇二六八円、平成元年分が七四八万〇二〇〇円となる。

(2) 本件B賃貸料以外の賃貸料

原告彰子には、本件B建物以外の賃貸料収入はない。

(3) 必要経費

弁論の全趣旨によれば、原告彰子の不動産所得に係る必要経費は、確定申告のとおり、別表六の2記載の金額であると認められる。

(4) 原告彰子の青色申告控除額は、一〇万円である。

(5) 結局、原告彰子の本件各係争年分の不動産所得の金額(右「(1)-(3)-(4)」の金額)は、別表六の2の「被告主張額」欄記載のとおり、昭和六二年分が三一一万四一二三円、昭和六三年分が二九四万六七八六円、平成元年分が四二三万五六一八円となる。

(二) 配当所得の金額

前記認定のとおり、確定申告のとおりであり、別表六の2記載のとおりである。

(三) 給与所得の金額

前記認定のとおり、確定申告のとおりであり、別表六の2記載のとおりである。

(四) 総所得金額及び納税額

結局、原告彰子の総所得金額は、別表六の2の「被告主張額」欄記載のとおりとなり、納付すべき税額は、別表一〇の2記載のとおり、昭和六二年分が七五万四四〇〇円、昭和六三年分が六〇万二四〇〇円、平成元年分が九八万三三〇〇円となる。

そして、これを同原告の確定申告に係る税額と対比すると、昭和六二年分において八六万八七〇〇円の増加、昭和六三年分において七八万二六〇〇円の増加、平成元年分において九一万一七〇〇円の増加となる。

そうとすれば、この点からも、原告彰子の確定申告に係る所得税額は、前記所得税法一五七条一項にいう「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」ものであったというべきである。

(五) 賦課決定処分

原告彰子は、納付すべき税額を過少申告したことにより、国税通則法六五条一項及び二項により、被告主張のとおり、次のとおりの過少申告加算税が賦課される。

昭和六二年分 九万六五〇〇円

昭和六三年分 八万六〇〇〇円

平成元年分 一〇万五五〇〇円

3  原告穎子の総所得金額等

原告穎子の本件各係争年分の総所得金額は、被告主張のとおり、左記金額(別表六の3「被告主張額」欄記載の金額)であると認められ、その納付すべき税額は、別表一〇の3「適正賃貸料の額に基づく納付すべき税額」欄記載の金額である。そして、これらは、先に被告が本件各更正処分で更正した金額と同じ金額であるから本件各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分は適法である。

昭和六二年分 一〇二一万一一二三円(確定申告額より三九六万六三四六円増加)

昭和六三年分 一〇一九万五四〇二円(同四七七万五九五五円増加)

平成元年分 一〇八一万六五四〇円(同六三万五四五三円増加)

(一) 不動産所得の金額

(1) 本件C建物の賃貸料

ア 前記のとおり、原告穎子は、本件C建物を上野商事に賃貸し、上野商事から本件C賃貸料を受け取っていたが、本件C賃貸料額は、別表五の3記載のとおり、昭和六二年分が四〇七万〇二〇〇円、昭和六三年分が三二六万七〇四〇円、平成元年分が四〇二万八八五〇円であって、これらは、たとえ、本件C建物の管理や修理等が契約上上野商事の義務とされており、その費用もすべて上野商事が負担することとされていることを考慮しても、同表記載の本件C転貸料額に比し、あまりに低額であって、右は通常の経済人の行為としては不合理であるといわざるを得ない。

イ 所得税法一五七条一項は、前記のとおり規定しており、「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」か否かは、前記のとおり、経済的にみて当該行為又は計算が通常の経済人の行為として不合理又は不自然であるといえるか否かにより判断すべきである。

ウ そうとすれば、被告が本件C賃貸料額を否認したことは適法であったというべきであり、そして、この場合には、本件C建物の賃貸料額を原告穎子の所得税の計算上その適正賃貸料額に置き換えて、これによって不動産所得の金額を計算するのが相当である。

エ そこで、本件A建物の適正賃貸料額を求めたと同様の方法で本件C建物の適正賃貸料額を計算することとする。

しかし、上野商事は、前記のとおり、本件C建物の管理や修理等を行っておらず、これを転借人の有限会社三友商事にまかせていたのであるから、結局、適正管理料額は零となり、本件C建物の適正賃貸料額は、本件C転貸料から修繕費等の額を差し引いた金額となる。

オ 本件C建物の修繕費等の額

弁論の全趣旨によれば、本件C建物について上野商事が実際に支出するなどした修繕費等の額は、別表九記載のとおりであると認められる。

カ したがって、本件C建物の適正賃貸料額は、別表七の3記載のとおり、昭和六二年分が八〇三万六五四六円、平成六三年分が八〇四万二九九五円、平成元年分が八六六万四三〇三円となる。

(2) 本件B賃貸料以外の賃貸料

原告穎子には、本件C賃借料以外の賃貸料収入はない。

(3) 必要経費

弁論の全趣旨によれば、原告穎子の不動産所得に係る必要経費は、確定申告のとおり、別表六の3記載の金額であると認められる。

(4) 原告穎子の青色申告控除額は、一〇万円である。

(5) 結局、原告穎子の本件各係争年分の不動産所得の金額(右「(1)-(3)-(4)」の金額)は、別表六の3の「被告主張額」欄記載のとおり、昭和六二年分が七三五万九四五三円、昭和六三年分が七三四万三七三二円、平成元年分が七九四万一五四〇円となる。

(二) 配当所得の金額

前記認定のとおり、確定申告のとおりであり、別表六の3記載のとおりである。

(三) 給与所得の金額

前記認定のとおり、確定申告のとおりであり、別表六の3記載のとおりである。

(四) 総所得金額及び納税額

結局、原告穎子の総所得金額は、別表六の3の「被告主張額」欄記載のとおりとなり、納付すべき税額は、別表一〇の3記載のとおり、昭和六二年分が一七六万一七〇〇円、昭和六三年分が一五七万六七〇〇円、平成元年分が一七六万六一〇〇円となる。

そして、これを同原告の確定申告に係る税額と対比すると、昭和六二年分において一二三万四五〇〇円の増加、昭和六三年分において一二九万五八〇〇円の増加、平成元年分において一二八万七四〇〇円の増加となる。

そうとすれば、この点からも、原告穎子の確定申告に係る所得税額は、前記所得税法一五七条一項にいう「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」ものであったというべきである。

(五) 賦課決定処分

原告穎子は、納付すべき税額を過少申告したことにより、国税通則法六五条一項及び二項により、被告主張のとおり、次のとおりの過少申告加算税が賦課される。

昭和六二年分 一四万二〇〇〇円

昭和六三年分 一六万四五〇〇円

平成元年分 一五万三〇〇〇円

二  原告らの主張について

1  原告は、「所得税法一五七条一項にいう『所得税の負担を不当に減少させる結果となる』との要件、また、『税務署長の認めるところにより、その居住者の各年分の所得税法一二〇条一項一号若しくは三号から八号まで(確定所得申告書の記載事項)に掲げる金額を計算することができる』旨の規定はあいまいであって、租税法律主義に違反するものであり、また、右『所得税の負担を不当に減少させる結果となる』との要件を、当該行為又は計算が通常の経済人の行為として不合理又は不自然であるか否かによって判断することは違法である。」旨を主張する。

しかし、所得税法一五七条一項は何ら憲法に違反するものではなく(最高裁昭和五三年四月二一日第二小法廷判決参照)、また、その規定の趣旨や目的に照らせば、「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」か否かは、専ら経済的にみて当該行為又は計算が通常の経済人の行為として不合理又は不自然であるか否かにより判断するのが相当であると解されるから、原告らの右主張は採用することができない。

2  適正賃貸料額の算定について

(一)(1) 原告らは、「本件各建物の適正賃貸料額を求める方法として、本件各建物の転貸料額から本件各建物の適正管理料額及び修繕費等の額を差し引く方法を採ることは、あたかも原告らが第三者に対して直接本件各建物を賃貸しており、上野商事は本件各建物の単なる管理受託者にしかすぎないとみるものであって、あまりに実態を無視するものである。原告らはあくまでも上野商事に本件各建物を一括して賃貸しているのであって、上野商事も賃借人として本件各建物の賃料を支払っているのであるから、その事実をそのまま受け容れ、端的にその支払賃料額が適正であるか否かを検討すべきである。」旨を主張する。

(2) たしかに、本件においては、原告らは上野商事に対して本件各建物を一括して賃貸しているのであり、原告らは上野商事から本件各建物の賃貸料を受け取っているのである。したがって、たとえ上野商事が原告らの同族会社であるとしても、この基本形態まで否認して、原告らが上野商事に本件各建物の管理のみを委託しているとみることは妥当でない。

(3) しかしながら、原告らが上野商事に対して本件各建物を一括して賃貸しており、上野商事が賃借人として原告らに賃料を支払っているからといって、その適正賃貸料額を算定するにあたり、前記のような方法を用いることが直ちに許されないものと即断することはできない。

本件各建物の適正賃料額を求める方法には種々の方法があるのであって、その一つとして、右のような方法を用いることも許されるものと解すべきである(最高裁平成六年六月二一日第三小法廷判決参照)。原告らの右主張は採用することができない。

なお、右のような方法を用いた場合、本件各建物の転貸料額が減少すれば、それに応じて適正管理料額も減少し、ひいて適正賃貸料額も減少するのであるから、転借人が入らないことにより一括賃借人たる上野商事の被る不利益は、既に考慮されているものというべきである。

(二)(1) 次に、原告らは、「仮に、右のような方法によって本件各建物の適正賃貸料額を求めるとしても、別表八記載の平均管理料割合は、その算出方法に問題があり、算出結果も妥当でない。すなわち、比準同業者の抽出基準に合理性はないのであり(例えば、同族会社に管理を委託している者をも抽出すべきであったのであり、また、委託の内容が清掃や苦情処理等を含む者をも抽出すべきであったのである。)、選定された同業者の数も三~四名と極めて少なく、かつ実名の記載がなく、その事業規模等や支払管理料額も明らかでない。更に、平均管理料割合自体も五~七パーセントというもので極めて低く、被告が本件各更正処分前に原告らに修正申告を促していた際に示した割合(約二〇%)とも大きく異なっており、また、本件各更正処分で被告が用いた割合(八~九%)とも異なっている。」旨を主張する。

(2) しかし、前記認定の比準同業者の抽出基準は、管理委託に係る賃貸建物の種類や所在地及びその使用形態、その管理委託の内容、管理委託者と管理受託者との関係、賃貸料収入の額等において、原告らが本件各建物の管理を不動産会社に委託したとした場合の原告らと類似性を有する者の選定を可能にする合理的な基準であると認められ、かつ、証人石井悟志の証言によれば、比準同業者抽出の過程で恣意は介在しなかったものと認められ、そして、前記認定に係る平均管理料割合(五・九〇~七・一五%)も特に不当であるとは認められないから、原告らの右主張は採用することができないものである。

適正管理料額を算定するためには、むしろ同族関係にない不動産管理会社に管理を委託している者を選定すべきであり(同族会社では管理料が恣意的に定められる虞がある。)、委託の内容に清掃や苦情処理等が含まれているか否かが管理料に大きな変化をもたらすとも思えず、また、結果として選定された比準同業者の数が三~四名であったとしても、それは必ずしも平均管理料割合の信頼性に影響を与えるものではない。更に、たとえ被告が本件各更正処分で用いた管理料割合が八~九パーセントであったとしても、それは礼金や更新料を除いた金額の八~九%であって(甲一及び二の各1ないし3)、右五・九〇~七・一五パーセントとはその前提を異にしており、仮にこの点をしばらくおくとしても、それが前記認定の平均管理料割合の信頼性に影響を及ぼすものとは認められない。

(三) ついで、原告らは、「比準同業者の平均管理料割合を用いて本件各建物の適正管理料額及び適正賃貸料額を算出することは推計計算にあたり、許されない。」旨を主張する。

しかし、そもそも、本件各建物の適正管理料額及び適正賃貸料額を求めることは過去に存在した事実を認定するものではないのであるから、これは推計計算とは性質の異なるものであり、仮にこの点をしばらくおき、比準同業者の平均管理料割合を用いて本件各建物の適正管理料額及びひいて適正賃貸料額を算定することが所得税法一五六条にいう推計計算にあたるとしても、それは、同法一五七条一項によって許されたものというべきである。なぜなら、同法一五七条一項は、事実として存在する法人の行為又は計算を否認して法人と一定の関係にある者の所得税を更正することを許すのであって、事実の否認を許す以上、推計計算が入ってくることはむしろ当然のことだからである。原告らの右主張も採用することができない。

(四) 更に、原告らは、「別表七の『実費負担分相当額』欄記載の金額すなわち別表九の金額は、別表一一の『原告算定賃貸経費』欄記載の金額に増額されるべきである。」旨を主張する。

しかし、別表九の金額は、本件各係争年度において上野商事が本件各建物について実際に支出するなどした共用電気料の額、修繕費等の額、減価償却費及び雑費の額であると認められ、それ以外に上野商事が本件各建物のために支出した費用はないものと認められるから(乙四ないし五、弁論の全趣旨)、原告らの右主張は採用することができない。

3  配当所得の金額及び給与所得の金額について

原告らは、「本件各建物の適正賃貸料額を上野商事が原告らに支払うものとすると、上野商事にはもはや原告らに配当金や給与全額を支払う余地はなくなるのであり、原告らが受け取った配当金は上野商事に全額返還すべきであり、また、原告らが受け取った給与もその一部を返還すべきこととなるのである。そうとすれば、別表六の『配当所得の金額』は零に、また、『給与所得の金額』も大幅に減額されるべきである。」旨を主張する。

しかし、所得税法一五七条一項を適用して原告らの受取賃貸料額(上野商事の支払賃貸料額)を適正賃貸料額に置き換えて計算するのは、単に所得税の計算上のことであって、それは上野商事と原告らとの間で現実になされた行為の効果に何ら影響を及ぼすものではないのであるから(最高裁昭和四八年一二月一四日第二小法廷判決参照)、仮に、本件各建物の適正賃貸料額を上野商事が原告らに支払うものとしたことによって、計算上、上野商事にもはや原告らに対する配当金や給与全額の支払いをする余地がなくなったとしても、そのことから直ちに原告らが既に受領した配当金や給与の一部を返還しなければならないわけではなく、原告らの右主張は採用することができない。

4  二重課税について

原告らは、「被告において、原告らの賃貸料収入額(受取賃貸料額)を増額させる(したがって納税額を増額させる)更正処分をした以上、それに対応して、上野商事の支払賃貸料額を増額させる(したがって納税額を減額させる)更正処分をすべきであり、原告らの所得税について増額の更正処分をしながら上野商事の法人税について減額の更正処分をしないのは実質的に二重課税であり、それは本件各更正処分を違法ならしめるものである。」旨を主張する。

しかしながら、原告らと上野商事とは別個独立の課税主体であって、原告らの所得税について所得税法一五七条一項を適用して更正処分をしたからといって、直ちに上野商事の法人税についてまで更正処分をしなければならないというわけではないから、原告らの右主張は採用することができない。

5  本件各更正処分の理由不備について

原告らは、「所得税法一五五条二項は『青色申告に係る年分の総所得金額を更正する場合には更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない。』旨を規定しているのに、本件各更正通知書にはその理由が附記されていない。」旨を主張する。

しかし、本件においては、原告らの主張する事実そのもの(帳簿書類の記載)を否認するのではないのであるから、本件各更正処分においては原告らに対しその不服申立ての便宜のための理由を記載すれば足りるものというべきところ(最高裁昭和六〇年四月二三日第三小法廷判決参照)、本件各更正通知書(甲一ないし三の各1ないし3)には、不動産所得に係る総収入金額として加算すべき金額及びその算出方法並びに加算すべき理由が簡潔に記載されているから、たとえ平均管理料割合の算出根拠自体や比準同業者がどのような者であるか等について記載されていなかったとしても、更正処分の理由附記として欠けるところはなかったものというべきである。原告らの右主張も採用することができない

三  よって、原告らの本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原田敏章 裁判官 木納敏和 裁判官 武宮英子)

別表一の1

本件更正処分等の経緯(原告上野千津子分)

昭和六二年分

<省略>

別表一の2

昭和六三年分

<省略>

別表一の3

平成元年分

<省略>

別表二の1

本件更正処分等の経緯(原告上野彰子分)

昭和六二年分

<省略>

別表二の2

昭和六三年分

<省略>

別表二の3

平成元年分

<省略>

別表三の1

本件更正処分等の経緯(原告岩永穎子分)

昭和六二年分

<省略>

別表三の2

昭和六三年分

<省略>

別表三の3

平成元年分

<省略>

別表四

1 原告千津子の確定申告に基づく納付すべき税額の算定内訳

<省略>

2 原告彰子の確定申告に基づく納付すべき税額の算定内訳

<省略>

3 原告穎子の確定申告に基づく納付すべき税額の算定内訳

<省略>

別表五

不動産所得に係る収入

<省略>

別表六の1

原告千津子の総所得金額の計算根拠

<省略>

別表六の2

原告彰子の総所得金額の計算根拠

<省略>

別表六の3

原告穎子の総所得金額の計算根拠

<省略>

1 原告千津子の適正賃貸料の算定根拠

<省略>

2 原告彰子の適正賃貸料の算定根拠

<省略>

3 原告穎子の適正賃貸料の算定根拠

<省略>

別表八

A 上野千津子に係る比準同業者

1 昭和62年分

<省略>

2 昭和63年分

<省略>

3 平成元年分

<省略>

B 上野彰子に係る比準同業者

1 昭和62年分

<省略>

2 昭和63年分

<省略>

3 平成元年分

<省略>

別表九

上野商事の実費負担分相当額

1 昭和六二年分

<省略>

2 昭和六三年分

<省略>

3 平成元年分

<省略>

別表一〇

1 原告千津子の納付すべき税額の対比

<省略>

2 原告彰子の納付すべき税額の対比

<省略>

3 原告穎子の納付すべき税額の対比

<省略>

別表一一

<省略>

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