大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所 平成4年(行ウ)1号 判決 1994年9月26日

千葉県佐倉市新町五〇番地一

選定当事者

原告

小澤功子

(選定者は別紙選定者目録記載のとおり)

千葉県成田市加良部一-一五

平成四年(行ウ)第一号事件被告

成田税務署長

本多三朗

右指定代理人

高梨六郎

石津佶延

長谷川貢一

内野茂

徳田薫

矢沢峰夫

小島勝

今井廣明

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

平成四年(行ウ)第二八号事件被告

国税不服審判所長

作久間重吉

右指定代理人

高梨六郎

徳田薫

矢沢峰夫

小島勝

今井廣明

米長日出男

盛岡哲雄

主文

一  被告成田税務署長が平成元年七月四日付でした被相続人小澤喜一郎に係る相続税の更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消しを求める訴えを却下する。

二  原告の被告成田税務署長に対するその余の請求を棄却する。

三  原告の被告国税不服審判所長に対する訴えを却下する。

四  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  平成四年(行ウ)第一号について

1  請求の趣旨

(一) 被告成田税務署長が選定当事者・原告小澤功子及び選定者小澤喜之輔、柳谷慶子及び松島淳子ら(以下右四名を合わせて「原告ら」という。)並びに小澤美惠子(以下右五名を合わせて「原告ら外一名」という。)に対し平成元年七月四日付でした被相続人小澤喜一郎に係る相続税の更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

(二) 被告成田税務署長が原告ら外一名に対し平成元年七月七日付でした右相続税に係る更正処分及び過少申告加算税賦課処分を取り消す。

(三) 訴訟費用は被告成田税務署長の負担とする。

2  請求の趣旨に対する被告成田税務署長の答弁

(一) 本案前の答弁

主文第一、四項と同趣旨

(二)本案の答弁

原告の請求をいずれも棄却する。

主文第四項と同趣旨

二  平成四年(行ウ)第二八号事件について

1  請求の趣旨

(一) 前記相続税の更正をすべき理由がない旨の通知処分に対する原告ら外一名の審査請求について被告国税不服審判所長が平成三年五月七日付でした裁決を取り消す。

(二) 前記相続税に係る更正処分及び過少申告加算税賦課処分に対する原告ら外一名の審査請求について被告国税不服審判所長が平成三年五月七日付でした裁決をいずれも取り消す。

(三) 訴訟費用は、被告国税不服審判所長の負担とする。

2  請求の趣旨に対する被告国税不服審判所長の答弁

(一) 本案前の答弁

主文第三、四項と同趣旨

(二) 本案の答弁

原告の請求を棄却する。

主文第四項と同趣旨

第二当事者の主張

一  本件各処分の経緯等(争いのない事実)

本件各処分の経緯等は、次のとおりであり、この点は当事者間に争いがない(その詳細について、被告らは別表1の1及び1の2のとおり主張し、区分欄<5>、<6>、<9>、<10>の原告ら外一名の課税価格及び納付税額を除き、争いがない。)。

1  小澤喜一郎(以下「喜一郎」という。)は、昭和六一年六月一一日に死亡し、原告ら外一名が相続した(以下「本件相続」という。なお、小澤美惠子は喜一郎の妻、原告及び選定者はいずれも子である。)。

2  原告ら外一名は、昭和六一年一二月九日、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について期限内申告をし、さらに、昭和六二年一二月九日に納付すべき税額を零とする減額の更正の請求をしたところ、被告成田税務署長は、平成元年七月四日付で右更正の請求に対して更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件各通知処分」という。)をし、さらに、原告ら外一名に対し、同年七月七日付で本件相続税に係る更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び本件相続税に係る過少申告加算税賦課処分(以下「本件各過少申告加算税賦課処分」という。)をした。

そこで、原告ら外一名は、同年八月三一日、本件各通知処分、本件各更正処分及び本件各過少申告加算税賦課処分について、被告成田税務署長に対して異議申立てをしたが、同被告は、同年一一月二七日付で右異議申立てを棄却する旨の決定をした。

さらに、原告ら外一名は、同年一二月二五日、被告国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、同被告は、平成三年五月七日付で右審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

3  なお、小澤美惠子は、平成二年三月二一日死亡したため、原告らがその地位を承継した。

二  平成四年(行ウ)第一号事件について

1  被告成田税務署長の本案前の主張

以下の諸点に照らすと、増額更正処分と更正の請求に対する通知処分は、総額主義的にとらえるべきであり、両処分が相前後してなされた場合、不服申立ての段階では両処分は併存するが、訴訟の段階においては、増額更正処分が通知処分を吸収し、通知処分は増額更正処分に包摂され、独立の存在を失うと解するのが相当である。したがって、本件訴えのうち本件各通知処分の取消しを求める部分は不適法であり、却下されるべきである。

(一) 処分の性質

増額更正処分は、課税庁が課税要件事実を全体的に見直し、申告に係る税額も含めて全体としての税額を総額的に確定する処分であり、更正の請求に対する通知処分も総額的に税額全体を見直し、申告額を下回るか否かを判断する処分である。

(二) 両処分の関係

両処分は、形式的には別個の行政処分ではあるが、処分内容において密接に関連しており、しかも通知処分が申告税額の減少のみにかかわるのに対し、増額更正処分は納付すべき税額全体にかかわり、申告税額を正当でないものとして否定し、これに増額更正を加えて税額の総額を確定するものであるから、増額更正処分の内容は通知処分の内容を包摂する関係にある。

(三) 更正処分取消訴訟の性質

増額更正処分取消訴訟は、納税義務の存在を争うことを本旨とする抗告訴訟であるから、本来申告税額を下回る部分も審理の対象とし得るのであるが、その部分は確定申告により納税者自身が納税義務を確定させたのであるから、原則として訴えの利益がないと解されるところ、申告による確定額に対する唯一の不服申立方法である更正の請求を経ることにより、訴えの利益を充足することになるので、申告額を下回る部分も争えるようになると解することができる。

2  被告成田税務署長の本案前の主張に対する原告の答弁

更正をすべき理由がない旨の通知処分は、国税通則法七五条、一一四条及び一一五条に規定されている「国税に関する法律に基づく処分」であるから被告成田税務署長の本案前の主張は失当である。

3  原告の請求の原因

被告成田税務署長が原告ら外一名に対してした本件各通知処分、本件各更正処分及び本件各過少申告加算税賦課処分は、手続及び内容に瑕疵があるから違法である。

よって、原告らは、本件各通知処分、本件各更正処分及び本件各過少申告税賦課処分の各取消しを求める。

4  請求の原因に対する被告税務署長の認否

請求の原因の主張は争う。

5  被告成田税務署長の本案の主張

(一) 本件各通知処分の適法性

仮に増額更正処分と通知処分の関係について併存説を採り、本件各通知処分の取消しを求める訴えが適法であるとしても、後記するように、本件各更正処分は適法であるから、これと根拠を同じくする本件各通知処分もまた適法である。

(二) 本件各更正処分の根拠

原告ら外一名の相続税の課税価格及び相続税額等は別表2「課税価格等の計算明細表」及び別表3「税額算出表」の各記載のとおりである。

(1) 課税価格の合計額 三億八六三二万一〇〇〇円

右金額は、後記(2)の相続により取得した財産から後記(3)の控除すべき債務の総額を控除した後の金額(但し、原告ら外一名の課税価格の一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後の合計額)である。

(2) 相続により取得した財産の総額 四億三六七三万二四一二円

右金額は、原告ら外一名が本件相続により取得した財産の総額であって、その内訳は、次のとおりである。

<1> 土地の価額 二億七五〇二万四六六〇円

右金額の内訳は、別表4のとおりである。

ア 相続財産の評価については、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得のときにおける時価により評価することとされ(相続税法二二条)、具体的には、「相続税財産評価に関する基本通達」(昭和三九年四月二五日付直資五六、直審(資)一七国税庁長官通達、平成三年一二月一八日付課評二-四、課資一-六による改正前のもの。以下「評価通達」という。)及び毎年各国税局長が定める「相続税財産評価基準」(以下「評価基準」という。)に基づき、各税務署が統一的に土地の評価をして、課税事務を行っており、これらの方法によらないことが正当であると是認されうるような特別の事情が認められない限りは、その評価方法は妥当性を有する(東京高等裁判所昭和五六年一月二八日判決税務資料一一六号五一頁)。本件では、右のような特別の事情は存在しないので、右の評価方法によって評価したものである。

イ 別表4順号1の土地は市街化調整区域に所在するが、順号2の土地は市街化区域に所在するので、これに応じて評価した。

原告は、右二筆の土地は一体化しているから区別して認定するのは不当であると主張するが、公図から明らかなように右二筆の土地は一団の土地ではないから、右のとおり区別しても不合理ではなく、被告は、都市計画法所定の都市計画の作成に関与するものではない。

また、被告側は、順号2の土地について、異議決定、裁決において市街化調整区域にあると主張し、本件の準備書面(一)においてもそのように主張していたが、市街化区域にあることが明らかとなったため、主張を変更したものである。この点につき、原告は、時機に遅れた攻撃防御方法であるというが、仮にそうとしても、訴訟の完結を遅延させるものではない。

ウ 別表4順号13、14及び15の土地は、貸家建付地であるから、更地として評価額から一八パーセント減額して評価した。

エ 別表4順号17、19、20の土地は、清水タカ等に、同24の土地は株式会社小沢印刷所(以下「小沢印刷所」という。)に、それぞれ賃貸されているので、借地権価額を控除して評価した。

原告は、本件各土地はすべて小沢印刷所に賃貸されているから、本件各土地の全部につき借地権価額は控除すべきであると主張するが、小沢印刷所に賃貸されている土地は順号24の土地のみであり、賃貸されているのは右の四筆のみであって、それ以外の土地については借地権価額を控除すべきでない。

<2> 建物の価額 四〇〇万四七二五円

右金額の内訳は、別表5のとおりである。

<3> 有価証券の価額 一五九九万五〇〇〇円

右金額は、喜一郎名義の京成電鉄株式会社の株式三万五〇〇〇株(以下「本件株式」という。)の価額である。原告は、本件株式は喜一郎から贈与されたものであると主張するが、株式は、反証のないかぎり、株主名簿に登載されている株主がその所有者であるとの一応の推定が働くところ、本件では、右反証はなされていない。

また、右<1>において主張したように、相続財産の評価は、原則として評価通達及び評価基準に基づいて行われているところ、上場株式については、当該株式が上場されている証券取引所の公表する課税時期の最終価格によって評価することを原則とし、その最終価格が課税時期の属する月以前三か月間の毎日の最終価格の各月ごとの平均額のうち最も低い価額を超える場合には、その最も低い価額によって評価することになっている。本件株式についても、右の方法により評価したものである。

<4> 預金の額 九七〇一万八五九八円

右金額は、喜一郎名義の預金額の合計金額であり、その内訳は、別表6順号1ないし11(以下「本件預金」という。)のとおりである。

ア 原告は、借入金との相殺を主張するが、相続税法によれば、課税価格に算入すべき価額は、相続により取得した財産の価額からその者の負担に属する債務の金額を控除した金額によることとされているので(同法一三条一項)、借入金は後記(3)において債務として控除するが、相続により取得した財産の価額そのものについて原告が主張するような喜一郎名義の預金と借入金を相殺する計算方法は認められていない。

イ また、新たに別表6順号10及び11の定期預金並びにこれらを担保とする借入の存在が判明したので、普通預金の借越額を訂正し、併せて右定期預金を加算して主張した。原告は、この点についても時機に遅れた攻撃防御方法であると主張するが、仮にそうとしても、訴訟の完結を遅延させる場合に当たらない。

<5> 既経過利子の額 八万七〇三七円

右金額の内訳は、別表7順号1ないし7(以下「本件既経過利子」という。)のとおりである。

ア 原告は、本件既経過利子が支払利子と相殺されると主張するが、右<4>アにおけると同様に、相続税法は、財産の額と債務の額を相殺して課税価格を算出することを認めていないから、原告の主張は失当である。

イ 定期預金解約の利率に関する原告の後記主張が、定期預金が借入金の担保となっている場合は解約できないという主張であれば、誤りである。

また、相続財産の評価にあたっては相続開始時における債権額を確定しなければならないのであるから、相続開始日に解約されたとした場合における債権額を算出する必要がある。

<6> 貸付金の額 四三二三万〇九二五円

右金額は、別表2順号6の貸付金の合計額(以下「本件貸付金」という。)であり、小沢印刷所に対するものである。

<7> 所得税の還付金の額 一三七万一四六七円

右金額の内訳は、別表8順号1及び2(以下「本件還付金」という。)のとおりである。

相続開始時において被告相続人に未収の還付金があれば、未収金として相続財産に属することになる。未だ還付の手続をとっていない場合又は右手続をとったが還付される金額が確定していない場合であっても、相続開始時において右請求権が消滅していないかぎり、(国税通則法七四条一項)、還付を求める権利が存在するから、右未収金又は還付を求める権利は相続財産を構成する。したがって、右未収金又は還付を求める権利の価額は、還付されるべき所得税の額として評価されるべきところ、原告の主張する所得税の還付金の額は、被告主張額よりも多額であるから、その範囲内にある被告主張額を基に課税価格を算出することに違法はない。

(3) 控除すべき債務の総額 五〇四〇万八五六〇円

右金額は、相続税法一三条及び一四条(昭和六三年法律一〇九号による改正前のもの)の規定に基づき、原告ら外一名が相続により取得した財産から控除すべき債務の総額であって、その内訳は、次の<1>ないし<4>のとおりである。

<1> 未納固定資産税の額 二九〇万四二六〇円

右金額の内訳は別表9のとおりである。

<2> 借入金の額 四二〇〇万〇〇〇〇円

右金額は、喜一郎が北海道拓殖銀行から借り入れた手形借入金の合計金額である。

<3> 普通預金の借越額 五四二万一七九〇円

右金額の内訳は、別表10のとおりである。

<4> 未払い利子の額 八万二五一〇円

右金額の内訳は、別表11のとおりである。

なお、原告は、喜一郎が小沢印刷所の債務について連帯保証したことに基づく債務の存在を主張するが、右債務はいずれも存在しない(ただし、右<2>の借入金債務は喜一郎個人の借入金として存在する。)。原告主張の保証債務のうち債権者が喜一郎であるとするものは、債権者である喜一郎が自己の債権を担保するために自ら保証人となるというものであって、不合理な主張である。

(4) 原告ら外一名の各納付税額

原告らの各納付税額 各一六六八万八七〇〇円

美惠子の納付税額 六六七五万五〇〇〇円

原告ら外一名の課税価格の合計額は、前記(1)のとおりであり、これに基づく原告ら外一名が納付すべき税額は、相続税法一六条(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)に基づき、右課税価格の合計額から相続税の基礎控除の額を差し引いた金額を、原告ら外一名が民法九〇〇条及び九〇一条の規定による相続分に応じて取得した各取得金額に相続税法一六条に定める税率を適用して算出した金額の合計額を計算し、右総額に原告ら外一名の課税価格が課税価格の合計額に占める割合を乗じて算出した各金額について、国税通則法一一九条により一〇〇円未満の端数を切り捨てた各金額である。

(5) 総額主義の妥当性

原告は、本件における被告の主張が異議及び裁決の段階における被告の主張と異なることについてその違法性を主張しているが、課税処分の取消訴訟においては、その課税処分によって確定された税額が、総額において処分時に客観的に定まっている税額を上回るか否かが問題とされ、それを判断するために必要な事項が本件において審理されることになる。したがって異議及び裁決の段階における被告の主張の適否あるいは右各主張と被告の本件における主張の相違は本訴の審理の対象外である。

(三) 本件各更正処分の適法性

右のとおり原告ら外一名が納付すべき相続税額は、原告らが各一六六八万八七〇〇円、美惠子が六六七五万五〇〇〇円となるところ、本件各更正処分に係る原告ら外一名の各納付すべき相続税額は原告らが各一六〇七万一七〇〇円、美惠子が六四二八万七〇〇〇円であって、右金額の範囲内であるから本件各更正処分は適法である。

(四) 本件各過少申告加算税賦課処分の適法性について

原告ら外一名に課されるべき過少申告加算税の額は、本件各更正処分により新たに納付すべき税額(原告らは(各一二六一万八〇〇〇円、美惠子は五〇四七万二〇〇〇円)について、国税通則法六五条一項により右税額(同法一一八条の規定により一万未満の端数切り捨て後のもの。以下同じ。)に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額(原告らは各六三万〇五〇〇円、美惠子は二五二万三五〇〇円)と同条二項に基づき、右納付すべきこととなった税額のうち、期限内申告税額(原告らは各三四五万三七〇〇円、美惠子は一三八一万五〇〇〇円)を超える部分に相当する金額に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額(原告らは各四五万八〇〇〇円、美惠子は一八三万二五〇〇円)との合計額(原告らは各一〇八万八五〇〇円、美惠子は四三五万六〇〇〇円)となるところ、本件各過少申告加算税賦課処分により原告らに賦課された過少申告加算税額は、原告らについてはそれぞれ一〇八万〇五〇〇円、美惠子については四三二万四〇〇〇円であって、右金額の範囲内であるから本件各過少申告加算税賦課処分は適法である。

6  被告成田税務署長の主張に対する原告の認否及び反論

(一) 本件各通知処分の適法性について、被告成田税務署長の主張(一)は争う。

更正をすべき理由がない旨の通知書は、理由の記載事項が理由となっていないので、違法である。

(二) 本件各更正処分の根拠(被告成田税務署長の主張(二))について

(1) 課税価格の合計額について被告成田税務署長の主張(1)は否認する。

課税価格の合計額は、一七五四万五六九六円である。

(2) 相続により取得した財産の総額について被告成田税務署長の主張(2)は否認する。相続により取得した財産の総額は、一億三二九七万八四〇四円である。

<1> 土地の価額について被告成田税務署長の主張<1>のうち、別表4順号17、19、20及び24の各土地の価額については認め、その余は争う。土地の価額は、一億二八九七万三六八三円である。

ア 被告成田税務署長は、喜一郎が所有していた別表4順号1ないし24の各土地(以下「本件各土地」という。)について、相続税財産評価額(路線価額)によって評価しているが、それは時価ではなくあくまでも相続税財産評価額であるから、その評価額が適正でなければならないところ、被告の本件土地の評価額は、実勢額を反映しておらず適正でない。

イ 被告成田税務署長は、別表4順号1の土地を市街化調整区域内にある土地と認定しながら、同表順号2の土地を市街化区域内にある土地と認定しているが、右土地は、両方とも地目が田であって、土地としても一体化していることからすると、区別して認定するのは不合理である。

また、被告成田税務署長は、異議決定書・答弁書・裁決書の段階において別表4順号2の土地を市街化調整区域にある土地と認定し、本件の準備書面(一)でもそのように主張していたが、後に市街化区域内にある土地として評価額を変更するのは、時機に遅れた攻撃防御方法である。

ウ 被告国税不服審判所長は、裁決において別表4順号5、6及び7の各土地を山林と認定しておきなから、被告成田税務署長が本件訴訟において同順号5の土地のみを原野に地目変更して認定するのは違法である。

エ 被告成田税務署長は、別表4順号13、14及び15の各土地が貸家建付地であることを考慮し、更地としての評価額をやく一八パーセント減価して評価しているが、本件各土地は、すべて小沢印刷所に対して賃貸しているものであるから、建付地としての減価をするのではなく、賃貸地として評価されるべきである。すなわち、本件各土地の総価額は、更地価額に四割掛けした価額の合計である一億二八九七万三六八三円である。

<2> 建物の価額について被告成田税務署長の主張<2>は認める。

<3> 有価証券の価額について被告成田税務署長の主張<3>は否認する。有価証券の価額は、〇円である。

本件株式は、喜一郎の相続財産ではない。昭和五六年一月二一日に、原告が喜一郎に一九〇〇万円を貸し付けた際、喜一郎が原告に対し贈与したものである。

仮に、本件株式が喜一郎の相続財産に属するとしても、株式は乱高下するものであるから三か月だけの株価で評価するのは不合理である。

<4> 預金の額について被告成田税務署長の主張<4>は否認する。預金の額は、〇円である。

ア 本件預金が存在することは認める。しかし、別表6順号2の九一〇〇万円の定期預金は、手形借入金(借入の主体と借入金額は、小沢印刷所が四二〇〇万円、美惠子が一七〇〇万円及び原告が三二〇〇万円である。)に対する担保となっているからこれと対当額で相殺され、同順号2以外の定期預金は、当座借越金額と相殺される(原告は、右のように主張するが、同順号2以外の定期預金は六〇〇万円、原告の主張する当座借越額は、四五八万〇三七五円で、相殺しても右定期預金は、〇円とらならないはずである。)。

イ 被告成田税務署長が同順号10及び11の預金額の二〇〇万円を加算するのは、違法であり、時機に遅れた攻撃防御方法である。

<5> 既経過利子の額について被告成田税務署長の主張<5>は否認する。既経過利子の額は、〇円である。

ア 本件既経過利子が存在することは認める。しかし、本件既経過利子は、支払利子と相殺されるから相続財産に加算するのは不当である。

イ 定期預金は、借入金と両建てで存在し、特段の事情のない限り中途解約をすることはないから、相続開始日の解約利率によって計算するのは不当である。

<6> 貸付金の額について被告成田税務署長の主張<6>は否認する。貸付金の額は、〇円である。

ア 喜一郎は、小沢印刷所に対し四二〇〇万円を貸し付けたとの事実は否認し、喜一郎が小沢印刷所に対し一二三万〇九二五円を貸し付けたとの事実は認める。しかし、喜一郎が小沢印刷所の借入金の全額について連帯保証していたことから、一二三万〇九二五円を貸付金として相続財産に計上する必要はない。

イ 被告成田税務署長が貸付金の額を四三二三万〇九二五円に変更するのは、時機に遅れた攻撃防御方法であり、趣旨不明の攻撃防御方法である。

<7> 本件還付金の額について被告成田税務署長の主張<7>は、昭和六〇年分については認め、昭和六一年分の所得税の還付金の額は、喜一郎が確定申告した五〇万〇三七五円である。

本件還付金は、喜一郎が生存中に発生した金額であるから、相続開始時において未収の還付金が存在しているからといって、相続財産に属するとするのは違法である。また、この場合に総額主義は妥当しない。

(3) 控除すべき債務の総額について被告成田税務署長の主張(3)は争う。

控除すべき債務の総額は、一億一五四三万二七一二円であり、それは、小沢印刷所が喜一郎から借入た債務一二三万〇九二五円、小沢印刷所が美惠子から借り入れた債務二〇九七万九二四二円、小沢印刷所が原告から借り入れた四〇二二万二五四五円及び小沢印刷所が北海道拓殖銀行佐倉支店から借り入れた債務四二〇〇万円の合計一億四四三万二七一二円に喜一郎の死亡退職金を加えた小沢印刷所の総債務一億一五四三万二七一二円について代表取締役であった喜一郎が連帯保証責任を負っていたことに基づくものである。

<1> 被告成田税務署長の主張<1>(未納固定資産税の額)は否認する。未納固定資産税の額は、〇円である。

<2> 被告成田税務署長の主張<2>(借入金の額)は否認する。借入金の額は、〇円である。

ア 北海道拓殖銀行佐倉支店から四二〇〇万円を借り入れているのは、小沢印刷所であって、喜一郎ではない。

イ 被告成田税務署長は、異議決定書・答弁書・裁決書では借入金の合計額を九一〇〇万円と主張していながら後に四二〇〇万円と主張しており、恣意的である。

ウ 仮に、四二〇〇万円の借入金があるとしても、本件預金と対当額で相殺され、〇円となる。

<3> 被告成田税務署長の主張<3>(普通預金の借越額)は否認する。借越額は、〇円である。

ア 別表10順号1ないし4の普通預金の借越額が存在することは認める。そのほかに北海道拓殖銀行佐倉支店の九七万一〇八七円の普通預金が存在する。

これらは、別表6順号2以外の定期預金と相殺され、〇円である。

イ 被告成田税務署長は、異議決定書・答弁書・裁決書では、借越額を四五八万〇三七五円と主張しながら、後に北海道拓殖銀行佐倉支店からの借越額が存在しないとして、借越額を三六〇万九六四八円と主張するのは、民法一条二項、三項に違反し、時機に遅れた攻撃防御方法である。そのうえさらに借越額を五四二万一七九〇円と変更するのは不当である。

<4> 被告成田税務署長の主張<4>(未払い利子の額)は否認する。未払い利子の額は、〇円である。

(2) 被告成田税務署長の主張(4)(原告ら外一名の各納税額)は否認する。

原告ら外一名の各納税額は、〇円である。

(三) 被告成田税務署長の主張(三)(本件各更正処分の適法性)は争う。

被告成田税務署長は、本件各更正処分の適法性について、本件各更正処分に係る納付額が本訴において被告の主張する額の範囲内であるから適法であると主張しているが、原告は、争点主義により本件各更正処分が違法であると主張し、その取消しを求めているものであるから、被告成田税務署長が総額主義により本件各更正処分が適法になされていると主張するのは、失当である。

また、本件各更正処分は、通知書に記載れされた理由が不備であるから、違法である。

(四) 被告成田税務署長の主張(四)(本件各過少申告加算税賦課処分の適法性)は争う。

被告成田税務署長は、本件各更正処分の適法性について、本件各更正処分に係る納付額が本訴において被告成田税務署長の主張する額の範囲内であるから適法であると主張しているが、原告らの主張する納付額は〇円であるから、被告成田税務署長の主張は失当である。したがって、本件各過少申告加算税賦課処分の適法性に関する被告成田税務署長の主張も失当である。

三  平成四年(行ウ)第二八号事件

1  被告国税不服審判所長の本案前の主張

本件裁決に係る裁決書の謄本は、平成三年五月一五日に原告に送達されており、原告は、同日に本件裁決があったことを知ったにもかかわらず、同日から一年以上経過した平成四年一〇月二六日に本件訴えを提起した。

したがって、原告の本件訴えは、裁決があったことを知った日から三か月を経過し(行政事件訴訟法一四条一項)、また、裁決の日から一年を経過してから提起されているから(同条三項)不適法であり、却下されるべきである。

2  被告国税不服審判所長の本案前の主張に対する原告の答弁

被告国税不服審判所長の本案前の主張は争う。

(一) 原告が裁決固有の瑕疵の存在を知ったのは、平成四年(行ウ)第一号事件において被告成田税務署長が平成四年一〇月一二日付準備書面及び乙第一号証を提出したときであるから、本件訴えは、裁決があったことを知った日から三か月以内(行政事件訴訟法一四条一項)に提起されたというべきである。

(二) 仮に、右のようにいえなくとも本件と平成四年(行ウ)第一号事件との間には、関連請求の併合要件(同法一六条一項)、又は訴えの追加的併合要件(同法一九条一項)が存在するから、原告には同法一四条三項但書の正当な理由がある。

(三) また、原処分庁と被告国税不服審判所長は、実質的に同一であるから、原処分の取消請求に追加して関連請求として裁決取消請求をするのは適法である。

(四) 仮に、両者が別個の機関であったとしても、請求原因の基礎が共通であるから、併合要件を満たすといえる。

(五) また、本件においては、裁決取消しの訴えを処分取消しの訴えに追加併合して審理を行っても不都合はなく、行政事件訴訟法二〇条の適用がある。

3  原告の答弁に対する被告の反論

(一) 行政事件訴訟法一六条一項、一九条一項は、一四条三項但書の「正当事由」とは関係のない規定であり、本件と平成四年(行ウ)第一号事件は、それぞれ別個の訴えであるから各別に訴訟要件を具備することが必要である。

(二) 被告国税不服審判所長は、大蔵省設置法三六条及び国税通則法七八条により国税に関する法律に基づく処分についての審査請求に対する裁決を行うために設置された特別の機関であり、国税に関する法律に基づく処分を行う原処分庁とは全く別個の機関であるからこれを同一視する原告の主張は失当である。

(三) 原告が、両者が別個の機関であっても請求原因の基礎が共通であるから併合要件を満たしていると主張するのは、裁決取消しの訴えにおいて、原処分の違法性を主張するのに等しく、請求原因に理由がないことを自認するものである。

(四) 本場合には、行政事件訴訟法二〇条の趣旨は当てはまらない。すなわち同法二〇条は、法が原処分中心主義を採用したことから、原処分中心主義を理解せず、誤って原処分の違法を理由として裁決取消しの訴えを提起する者がある場合を考慮して設けられたものであって、本件のように原処分取消しの訴えに裁決取消しの訴えを併合することまでも認めたものではない。

4  原告の請求の原因

被告国税不服審判所長が原告ら外一名に対してなした本件裁決(本件各通知処分、本件各更正処分及び本件各過少申告加算税賦課処分に関する審査請求を併合してなされた裁決)には、以下のように裁決固有の瑕疵があるから、違法である。

(一) 原処分庁(被告成田税務署長)は、審査請求書に対応した答弁書を提出せず、異議決定書の内容をそのまま踏襲している。これは国税通則法九三条二項に反している。被告国税不服審判所長は、原処分庁にその瑕疵を正すことを命じるべきであるのにそれを怠り、その裁決には、審理不尽の違法がある。

(二) 被告国税不服審判所長は、喜一郎がその所有する不動産をすべて小沢印刷所に対して貸し付ているにもかかわらず、その事実がないものとして土地の価格を評価した。

(三) 被告国税不服審判所長は、債務控除の金額の決定に際し、原告が、債務控除額が一億一五四三万二七一二円であることの証拠資料を提出し、保証債務の求償権を行使できない事実を立証したにもかかわらず、原告の主張を認めなかった。

原告の主張を認めなかった。

よって、原告は、本件裁決の取消しを求める。

5  請求の原因に対する被告国税不服審判所長の認否及び反論

(一) 請求の原因(一)、(二)及び(三)の各主張は争う。

(二) 原告の主張は、審査手続における原処分庁のなした行為の不当ないし原処分庁において原告の主張を容認しなかったことの違法・不当をいうにすぎず、裁決固有の瑕疵に関するものではない。したがって、その取消事由となり得ないことは明らかであるから、主張自体失当である。

また、原処分が提出した答弁書は、原告ら外一名が提出した審査請求書及び同補正書に掲げられた審査請求の趣旨及び理由に対応してその主張を記載しているから、国税通則法九三条二項に反しない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

第一本件各処分の経緯等

本件各処分の経緯等が事実摘示の第二(当事者の主張)一記載のとおりであること、その詳細が別表1の1及び1の2のとおりであること(ただし、同表の区分欄の<5>、<6>、<9>、<10>の原告ら外一名の課税価格及び納付税額を除く。)は、いずれも当事者間に争いがない。

第二平成四年(行ウ)第一号事件(被告成田税務署長に対する各請求)について

一  本件各通知処分取消しの訴えについて

被告成田税務署長は、本案前の主張として、本件訴えのうち本件各通知処分の取消しを求める部分は不適法であり、却下されるべきであると主張するので、この点について判断する。

国税通則法二三条四項の規定する更正の請求に対する更正の理由がない旨の通知処分は、納税者の申告による税額等の減額を求める更正の請求に対し、右税額等の減額を拒否する処分であり、通知処分により申告された税額等について減額を認めないことを確定させる効果を持つものであるが、それは税務署長が課税標準、税額について調査した結果に基づいて、納税者の税額が少なくとも申告額を下まわることはないとの判断を示すものである。他方、国税通則法二四条の規定する更正処分は、納税者の提出した納税申告書について、税務署長が課税標準、税額等について調査した結果と異なる場合に、徴税権者の立場から右課税標準、税額等を更正するものであり、調査により得た資料等に基づき課税の要件に係る事実を全体的に見直し、申告された税額をも含め、全体としての税額を総額的に確定する処分である。

以上のように、通知処分と増額更正処分とは、手続的には別個の行政処分ではあるが、同一の所得税の納税義務にかかわり、いずれも納税者の客観的な税額を確定するためのものであって、処分内容において相互に密接な関連を持つものである。そして、通知処分が申告税額の減少のみにかかわり、減額を否定するものであるのに対し、増額更正処分は、納付すべき税額全体にかかわり、実質的には、申告税額等を正当でないものとして否定し、これに増額変更を加えて税額を確定するものであるから、増額更正処分の内容は、減額更正をしない旨の通知処分の内容を包摂する関係にある。

したがって、両処分がなされた場合は、税額等を争う納税者は、増額更正処分に対し取消訴訟をもって争えば足り、これと別個に通知処分を争う利益や必要性を有しないものと解すべきであり、このように解するのが、同一の所得税の納税義務にかかわる両処分の訴訟が別個に係属することにより生ずる不都合を避け、裁判の統一を図るために相当である。よって、本件各通知処分の取消しを求める訴えは、取消しを求める利益又は必要性がなく、不適法というべきである。

二  本件各更正処分及び過少申告加算税賦課処分の取消し請求について

1  本件各処分の経緯等及び本件記録によれば、本件各更正処分及び本件各過少申告加算税賦課処分の各取消しを求める訴えは、不服申立て前置の要件を見たし、出訴期間内に提起された適法なものということができる。

そこで、以下、本件各更正処分及び本件各過少申告加算税賦課処分の適法性について判断する。

2  本件各更正処分の根拠について

(一) 相続により取得した財産の総額について

相続税法二二条は、相続財産の価額は特別の定めのあるものを除き取得時の時価によって評価すると規定している。そして、先に事実摘示で引用した評価通達及び評価基準を受け、これに基づいて評価しているが、これら評価通達及び評価基準の内容、運用の実情に照らすと、これらの方法によらないことが正当であると是認されるような特別の事情が認められない限り、その評価方法は妥当性を有すると解される。

(1) 土地の価額について

別表4記載の本件各土地が相続財産であること、これらのうち順号17、19、20及び24の各土地の価額が同表のとおりであることは当事者間に争いがない。

乙第二、第三号証、第四号証の一ないし一一、第五号証の一ないし七、第六号証の一ないし四、第七号証の一ないし五、第八号証の一及び二、第九号証の一ないし五、第一〇、第一一、第一二号証の一及び二、第一三、第一四、第二六ないし二八号証、証人大島誠二の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、被告人成田税務署長は、本件各土地についての現地調査を経た上で、評価通達及び評価基準に基づいて、本件各土地の価額を評価し、さらに後に見るように、一部の土地について借地権減価、貸家建付地としての減価をして評価額を決定したことが認められる。そして、本件においては、右のような評価通達に基づく評価方法によらないことが正当であると是認される特別の事情の存在を認めるに足りる証拠はない。したがって、被告成田税務署長がなした本件各土地の評価額が適正でないということはできず、本件各土地の取得時の時価は、被告成田税務署長の主張するとおり、合計二億七五〇二万四六六〇円と認められる。

ところで、原告は、本件各土地の価額の評価について、いくつかの点を争うので、以下判断する。

<1> 原告は、被告成田税務署長がなした評価額は実勢額を反映しておらず、適正でないと主張する。

しかし、前記のとおり、評価通達及び評価基準に基づいて行われる評価は、特別の事情が認められない限り妥当性を有するというべきところ、原告は、単に実勢額を反映していないと主張するのみで、実勢額が右の評価基準等によって決定される額を下まわることについては何ら立証しない。のみならず、原告自身も、被告成田税務署長の評価を争いなが他方で、本件各土地の自用地としての価額については被告成田税務署長の評価(異議決定段階のもの)によりながら、本件各土地のすべてを貸付地と主張し、借地建価額を控除することによって原告の主張額を算出しているものである。

したがって、原告の右主張は採用することができない。

<2> 原告は、別表4順号1及び同順号2の両土地はともに地目が田であって、土地としても一体化しているとして、被告成田税務署長が同順号1の土地を市街化調整区域内にある土地と認定しながら同順号2の土地を市街化区域内にある土地と認定したのは不合理であると主張する。

しかし、市街化区域及び市街化調整区域は、都市計画法の定めるところに従って、都道府県知事が決定するものであり、税務当局の関与しえないものであるところ、乙第一三号証によれば、被告成田税務署長の主張するとおり、順号1の土地は市街化調整区域に、順号2の土地は市街化区域に、それぞれ属することが明らかである。また、市街化調整区域と市街化区域とでは農地法、都市計画法上取引に関する規制を著しく異にし、したがってその評価が異なることは見やすい理であり、このことは両土地が近接しているかどうかにはかかわらないことがらである。

しかも、乙第二八号証、証人大島誠二の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、右両土地は、地番の上で鏑木町一〇三六番一、同番二と続いていて、分筆前は一筆の土地であったが、相続開始時には両土地の間に京成電鉄の線路(一〇三六番三)が通り、地続きとはなっていないことが認められる。したがって、両土地は、現況の上でも一体化しているということもできないから、区別して認定することが不合理であるということはできない。

<3> また、原告は、本件裁決の段階においては別表4順号5、6及び7の各土地が山林として認定されたにもかかわらず、被告成田税務署長が同順号5の土地のみを地目を原野に変更して認定した点が違法であると主張する。

たしかに、乙第一号証によると、本件裁決の段階では順号5の土地も順号6、7の土地と一体として山林として評価されたと認められ、また、弁論の全趣旨によると、登記簿上の地目はいずれも山林であるとうかがわれるが、乙第一一号証(固定資産税評価証明書)によると、順号5の土地は現況原野と記載れさており、また、証人大島誠二の証言及び弁論の全趣旨によると、同順号6及び7の各土地は、急傾斜地で、樹木が多く密生している土地であるのに対し、同順号5の土地は平坦で笹が生えている土地であることが認められる。したがって、同順号5の土地を同順号6及び7の各土地と区別して地目を原野と認定することは不合理ではなく、原告の主張を採用することはできない。

<4> さらに、原告は、本件各土地はすべて小沢印刷所に賃貸されているものであるから、いずれも賃貸地として借地権価額を控除して評価すべきであると主張し、したがって、また、別表4順号13ないし15の各土地について貸家建付地としての減価をする必要はないと主張し、本人尋問においてこれに沿う供述をする。

しかし、後記のとおり同順号24の土地は小沢印刷所に賃貸されていると認められるが、他の土地については原告本人の供述を裏付ける証拠はない。かえって乙第一一号証、第四一ないし第四五号証、第四六号証の一ないし二三、第四七号証、証人大島誠二の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

ア 同順号13ないし15の各土地上には喜一郎名義の建物が存在し、小沢印刷所が使用していた。

イ 同順号17の土地は清水タカに、同順号19の土地は根本徳造に賃貸されていたところ、根本徳造は、昭和六〇年以降、賃料を供託していたが、その被供託者は、小沢印刷所ではなく喜一郎ないしその相続人となっており、喜一郎の生前は、喜一郎が右供託金の還付を受けていた。

ウ 喜一郎は、大谷某に対し、同順号20の土地及びその隣接地を賃貸していたが、後に大谷に対し、同順号20の土地を除いた隣接地を売却し、同順号20の土地を分筆して自己の所有として残した。大谷は、同順号20の土地の地代を支払っていなかったが、引き続き右土地を使用していた。

エ 同順号24の土地上には小沢印刷所の建物が存在していた。

オ 原告は、本件各土地のうちの農地について、賃貸に関する農業委員会の許可を受けていなかった。

カ 原告(法定相続分八分の一)の昭和六二年分の賃料収入の総額は、年間六万円にすぎなかった。

右各事実を総合すると、別表4順号17、19及び20の各土地は、喜一郎から直接それぞれ清水タカ、根本徳造、大谷某に賃貸されていたものであり(小沢印刷所を介して右の三名に転貸されていたものではない。)同順号24の土地のみが喜一郎から小沢印刷所に賃貸されていたと認めるべきであり、また、同順号13ないし15の各土地は、土地を賃貸していたのではなく、その上に喜一郎が所有する建物を小沢印刷所に貸し付けていたと認めるのが相当である。すなわち、本件各土地のうち、賃貸されているのは、同順号17、19、20及び24の各土地だけであると認められ、本件各土地のすべてが小沢印刷所に賃貸されているとする原告本人尋問の結果は信用することができない。さらに、同順号13ないし15の各土地は、貸家建付地であることが認められる。

したがって、同順号17、19、20及び24の各土地についてのみ借地建価額を控除し、同順号13ないし15の各土地について貸家建付地としての減価をした被告成田税務署長の評価を不合理なものということはできない。よって、原告の主張を採用することはできない。

(2) 建物の価額について

建物の価額については当事者間に争いがない。

(3) 有価証券の価額について

<1> 本件株式の帰属について

本件株式(喜一郎名義の京成電鉄株式会社の株式三万五〇〇〇株)が存在したことは当事者間に争いがない。

ところで、原告は、本件株式は昭和五六年一月二一日に原告が喜一郎に一九〇〇万円を貸し付けた際に、謝礼の趣旨で贈与されたものであると主張し、本人尋問においてこれに沿う供述をする。

ア しかしながら、イにおいて検討するように、右一九〇〇万円の貸付けの事実自体認め難いというべきであるが、仮に右貸付けがなされたとしても、その謝礼として本件株式が贈与されたとは認められない。

ⅰ すなわら、親族間において金銭の貸付けがされた場合にその謝礼として株式贈与されること自体が例を見ないことであるが、弁論の全趣旨によると、当時の京成電鉄の株価は一株一二〇円位であったと認められるところ、一九〇〇万円の貸付けの謝礼として時価約四二〇万円相当の株式を贈与することは通常は考えられないところである。

ⅱ また、原告本人尋問の結果によると、本件株式の名義は、右贈与があったとされる時点以降も喜一郎名義のままであり、原告は、本件株式の贈与について贈与税の申告をしなかったことが認められ、また、原告は本件株式の株券の交付を受けたと言いながら、株券の保護預り等の手続を取らなかったというのである。

原告は、本人尋問において、名義書替えをしなかった理由として、株主優待のための無料定期券(京成電鉄の株式を三万五〇〇〇株所有している株主に対して発行される。)を引き続き喜一郎が使用するためであったと供述するが、そうだとすれば、当時喜一郎は京成電鉄の株式を本件株式三万五〇〇〇株のみならず相当数(七万株よりは少なかったという。)所有していたというのであるから(原告本人の供述)、喜一郎の手元に三万五〇〇〇株残し、そのほかに株式を原告に贈与するのが自然とも考えられるのであって、原告の主張する理由は不自然さを免れない。

イ 次に、原告が喜一郎に一九〇〇万円を貸し付けたかどうかについても念のため検討する。

ⅰ 原告は、その証拠として甲第一号証(金銭借用証書)を提出し、本人尋問において、右借用証書を作成したのは、その日付のとおり、貸付けをした当日の昭和五六年一月二一日であると供述するが、乙第三九号証(右借用証書の用紙の作成会社からの回答書)によると、甲第一号証の書式は昭和五九年一二月以降に市販されたものと認められるから、原告の供述は信用することができず、甲第一号証をもって右貸付けの証拠とすることはできない。

ⅱ また、原告は、本人尋問において、一九〇〇万円の原資について、原告が東京都江戸川区内に所有していたマンションを売却し、その代金の中から一九〇〇万円を貸し付けたものであると供述する。

甲第六号証、第九号証の一ないし三、乙第四〇、第四八号証によると、右マンションは、昭和五〇年一一月七日、原告名義で代金一二一五万円で購入され、原告名義で登記されたものであるが、昭和五五年一一月三〇日に代金一九七〇万円で第三者に売却れさたこと、右マンションの譲渡代金については原告の譲渡所得として申告されたこと、なお同年一月二一日に喜一郎の口座に一九〇〇万円が振り込まれたことが認められる。

そして、原告は、本人尋問で、右マンションは、原告が銀行から借入れをした資金で購入したものであり、売却の頃までには右借入金は返済したと供述する。しかしながら、原告本人尋問の結果によると、右マンションを購入した当時原告は二六、七歳で小沢印刷所に勤務しており、昭和五六年当時の年間給与所得は三二〇万円位しかなかった(甲第六号証)と認められるのであるから、右資金を短期間に返済できたとは考えにくいし、原告が自己の計算で右マンションを購入する必要性も認め難い。むしろ、右マンションは喜一郎が小澤家の資産作りの一環として購入し、税金対策のため原告名義としたものと認めるのが相当である。したがってまた、喜一郎の口座に振り込まれた一九〇〇万円をもって原告からの貸付けの実行とみるよりは、右マンションの所有の実質に併せて喜一郎が代金を取得したものとみるのが自然である。

<2> 本件株式の評価について

前記(一)において述べたように、相続財産の評価は、原則として評価通達及び評価基準に基づいて行われており、上場株式については、当該株式が上場されている証券取引所の公表する課税時期の最終価格によって評価することを原則とし、その最終価格が課税時期の属する月以前三か月間の毎日の最終価格の各月ごとの平均額のうち最も低い価額を超える場合には、その最も低い価額によって評価するという方法が採られており、右方法は不合理なものと認められない。

乙第二三号証の一ないし五、第二四号証の一ないし三、第二五号証の一ないし三、第三八号証及び弁論の全趣旨を総合すると、被告成田税務署長が評価通達及び評価基準に基づいて本件株式の評価を行ったことが認められる。原告は、被告成田税務署長が行った本件株式の評価額が不合理であると主張するが、採用できない。

(4) 預金の額について

<1> 喜一郎の相続財産として別表6記載のとおり本件預金が存在することは当事者間に争いがない。

<2> 原告は、本件預金と借入金及び普通預金の貸越金額との相殺計算を主張するが、相続税法一三条一項によれば、課税価格に算入すべき価額は、相続により取得した財産の価額からその者の負担に属する債務の金額を控除した金額によるとされているところ、相続により取得した財産の価額そのものについて債務の金額と相殺するような計算方法は認められていない。よって、原告の主張を採用することはできない。

なお、甲第七号証の一、二によると、別表6順号2の北海道拓殖銀行の定期預金九一〇〇万円については、喜一郎死亡後の昭和六二年一二月二五日に、同銀行により、同銀行に対する後記(二)(2)<2>の喜一郎の借入金四二〇〇万円、小澤美惠子の借入金一七〇〇万円及び原告の借入金三二〇〇万円の合計九一〇〇万円と相殺されたことが認められるが、これは、相続開始後のことであって、右判断を左右するものではない。

(5) 既経過利子の額について

<1> 喜一郎の相続財産として別表7の本件既経過利子が存在することは当事者間に争いがない。

<2> 原告は、本件既経過利子と支払利子との相殺を主張するが、前記(4)<2>において述べたように、相続により取得した財産の価額そのものについて債務の金額と相殺するような計算方法は認められていない。よって、原告の主張を採用することはできない。

<3> さらに、原告は、相続開始日に解約した場合の利率すなわち解約利率によって計算するのは不合理であると主張するが、相続財産の評価にあたっては、相続開始時における債権額を確定しなければならないのであるから、相続開始日の解約利率によって計算するのは不合理ではない(なお、原告が、右利率より少ない利率を主張するものともうかがえない。)。よって、この点についても原告の主張を採用することはできない。

(6) 貸付金の額について

<1> 小沢印刷所に対する四二〇〇万円の貸付金について

乙第一五号証、第三七号証の一ないし三、丙第一〇、第一一号証の一、第一二、第一三号証の一、第一四、第一五号証の一、第一六、第一七号証の一、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

ア 喜一郎は、北海道拓殖銀行佐倉支店から預金担保手形貸付の形で合計四二〇〇万円を借り入れていた。

イ 小沢印刷所の昭和六〇年九月一日から昭和六一年八月三一日までの決算期についての確定申告書の写しには、小沢印刷所が北海道拓殖銀行佐倉支店から四二〇〇万円を借り入れている旨の記載があった。

ウ 小沢印刷所と北海道拓殖銀行佐倉支店との取引はなかった。

右各事実を総合すると、イの小沢印刷所が北海道拓殖銀行佐倉支店から借り入れているとの四二〇〇万円は、喜一郎が小沢印刷所に対し貸し付けたものであると認めるのが妥当である。原告は、喜一郎は小沢印刷所に対し四二〇〇万円を貸し付けていないと主張するが、この点に関する原告の主張を採用することはできない。

<2> 小沢印刷所に対する一二三万〇九二五円の貸付金について

喜一郎が戸沢印刷所に対し一二三万〇九二五円を貸し付けた事実は当事者間に争いがない。

原告は、喜一郎が戸沢印刷所の借入金全額について連帯保証していたとして、右貸付金は相続財産に計上する必要はないと主張するが、前記(4)<2>において述べたように、相続により取得した財産の価額そのものについて債務の金額と相殺するような計算方法は認められていない(しかも、後記するように喜一郎が小沢印刷所の借入金全額について連帯保証をした事実を認めることはできない。)。よって、原告の主張を採用することはできない。

(7) 所得税の還付金の額について

<1> 喜一郎の昭和六〇年及び昭和六一年分の所得税につき未収の還付金が存在したことは当事者間に争いがない。

原告は、所得税の還付金は喜一郎が生存中に発生した金額であるから、たまたま相続開始時に未収であるからといって相続財産に属するとするのは違法であると主張するが、相続開始時に被相続人に未収の還付金があれば、未だ還付の手続をとっていない場合であっても、還付手続をとったが還付される金額が確定しない場合であっても、還付請求権が消滅していない限り右未収金は相続の対象となるのであって、相続財産を構成する。

<2> 昭和六〇年の所得税の還付金の額(別表8の順号1)は当事者間に争いがなく、昭和六一年分についても還付金の額は、被告成田税務署長の主張する額(同順号2)よりも多額であるから、その範囲内にある被告の主張額を基に課税価格を算出することに違法はないというべきである。したがって、この点に関する原告の主張を採用することはできない。

(8) まとめ

以上に検討したとおりであるから、相続により取得した財産の総額は被告成田税務署長の主張するとおり四億三六七三万二四一二円と認められる。

(二) 控除すべき債務の総額について

(1) 連帯保証債務について

原告は、喜一郎が小沢印刷所の債務について連帯保証したことに基づく債務の存在を主張し、原告本人尋問においても右主張に沿う供述をするが、右主張の保証債務のうち債権者が喜一郎であるとするものは債権者である喜一郎が自己の債権を担保するために自ら保証人となるという不合理なものであって信用し難く、他の債務についても、右連帯保証契約の存在を認めるに足りる証拠はない。

(2) ところで、被告成田税務署長が控除すべき債務と主張するものについて、被告成田税務署長は、次の<1>ないし<4>につき喜一郎の債務として控除して課税価格を算定しているところ、原告は、これらの控除は自己に有利であるにもかかわらず、あえて債務の存在を争っている。その真意を測りかねるところもあるが、以下、これらについて検討する。

<1> 未納固定資産税の額について

原告は、未納固定資産税の額は〇円であると主張するが、弁論の全趣旨を総合すると、別表9順号1及び2のとおりであることが認められる。

<2> 借入金の額について

原告は、借入金の各は〇円であると主張するが、前記(一)(6)<1>アにおいて認定したように、喜一郎が北海道拓殖銀行佐倉支店から預金担保手形貸付の形で合計四二〇〇万円を借入れていた事実が認められる。

<3> 普通預金の借越額について

ア 別表10順号1ないし4の普通預金の借越額が存在することは当事者間に争いがない。

イ 原告は、北海道拓殖銀行佐倉支店の普通預金につき九七万一〇八七円の借越額が存在し、別表10順号5及び6の借越額は存在しないと主張するが、北海道拓殖銀行佐倉支店の普通預金につき九七万一〇八七円の借越額の存在を認めるに足りる証拠はなく、他方、乙第二九、第三〇号証及び弁論の全趣旨を総合すると、別表10順号5及び6の借越額が存在することが認められる。

ウ また、原告は、普通預金の借越額は、別表6順号2以外の定期預金と相殺されると主張するが、前記(一)(4)<2>で述べたとおり、そのような計算方法は認められていない。

<4> 未払い利子の額について

原告は、未払い利子の額は、〇円であると主張するが、乙第三一ないし第三六号証及び弁論の全趣旨を総合すると、別表11順号1ないし6の未払い利子の存在が認められる。

(三) 相続税の課税価格及び原告ら外一名の各納付税額について

(一)、(二)で検討したところからすると、原告らが相続により取得した財産の総額は四億三六七三万二四一二円であり、被相続人の債務の総額は五〇四〇万八五六〇円であるから、債務を控除した課税価格は三億八六三二万三八五二円となる。原告ら外一名の各納付税額は被告成田税務署長の主張するとおり、次のようになる(別表2参照)。

原告らの各納付税額 各一六六八万八七〇〇円

美惠子の納付税額 六六七五万五〇〇〇円

(四) 総額主義の妥当性について

原告は、本件における被告成田税務署長の主張が異議及び裁決の段階における被告の主張と異なるとしてその違法性を主張しているが、課税処分の取消訴訟の訴訟物は、課税処分の違法性一般であり、かつ、課税処分は、納税者の納付すべき税額を確定することを内容とするものであるから、課税処分が違法であるかどうかの判断に当たって、その課税処分によって確定された税額が、総額において処分時に客観的に定まっている税額を上回るか否かが問題とされるべきである。したがって、異議及び裁決の段階における被告の主張の適否あるいは右各主張と被告の本件における主張の相違は、事情としてはともかく、本訴において審理の対象とすべきものではない。よって、原告の主張を採用することはできない。

(五) 時機に遅れた攻撃防御方法の主張について

原告は、随所において、被告成田税務署長が主張を変更した点をとらえ時機に遅れた攻撃防御方法等に当たると主張するが、本件訴訟の全経過に照らし、また、更正処分の取消訴訟が右(四)に記載した性格のものであにことにかんがみると、いずれの点についても、被告成田税務署長の攻撃防御方法の提出が時機に遅れたものと認めることはできない。したがって、この点に関する原告の主張はいずれも採用することはできない。

3  本件各更正処分の適法性について

以上において検討したところからすると、原告ら外一名が納付すべき相続税額は、被告の主張のとおり、原告等が各一六六八万八七〇〇円、美惠子が六六七五万五〇〇〇円となることが認められ、本件各更正処分に係る原告ら外一名の各納付すべき相続税各は原告らが各一六〇七万一七〇〇円、美惠子が六四二八万七〇〇〇であって、右金額の範囲内であるから、本件各更正処分は適法である。

また、原告は、本件各更正処分の通知書に記載された理由が不備であると主張するが、訴状添付の相続税の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書に照らすと、右通知書には国税通則法二八条二項の規定する事項が記載されており、記載に不備ないし違法な点があるとは認められない。

3  本件各過少申告加算税賦課処分の適法性について

原告ら外一名に課されるべき過少申告加算税の額は、被告成田税務署長の主張のとおり、本件各更正処分により新たに納付すべき税額(原告らは各一二六一万八〇〇〇円、美惠子は五〇四五七万二〇〇〇円)について、国税通則法六五条一項及び二項を適用して算出した金額(原告らは各一〇八万八五〇〇円、美惠子は四三五万六〇〇〇円)となるところ、本件各過少申告加算税賦課処分により原告らに賦課された過少申告加算税は、原告らについてはそれぞれ一〇八万〇五〇〇円、美惠子については四三二万四〇〇〇円であって、右金額の範囲内であるから、本件各過少申告加算税賦課処分は適法である。

第三平成四年(行ウ)第二八号事件(被告国税不服審判所長に対する裁決取消請求)について

(被告国税不服審判所長の本案前の主張について)

一  被告国税不服審判所長は、本件裁決取消しの訴えは出訴期間を徒過しているから不適法であり、却下されるべきであると主張するので、この点について判断する。

本件裁決が平成三年五月七日付で行われたことは当事者間に争いがなく、丙第一号証によると、本件裁決に係る裁決書の謄本は、同月一五日に原告に送達されたことが認められる。したがって、特段の反証のない限り、原告は同日に本件裁決があったことを知ったと推定すべきであり、本件においては、特段の反証はない。

他方、本件記録によると、原告が本件訴訟を提起したのは、平成四年一〇月二六日であることが明らかである。

したがって、原告の被告国税不服審判所長に対する本件裁決取消しの訴えは、裁決があったことを知った日から三か月を経過し、かつ、裁決の日から一年を経過した後に提起されたものであって、出訴期間を徒過した不適法なものである。

二  原告の主張について

1 原告は、裁決固有の瑕疵の存在を知ったのは、平成四年(行ウ)第一号事件において被告成田税務署長が平成四年一〇月一二日付準備書面及び乙第一号証を提出したときであるから、本件訴えは裁決があったことを知った日から三か月以内に提起されたものであり、出訴期間の要件を満たすと主張する。

しかし、行政事件訴訟法一四条一項にいう「裁決のあったことを知った」とは、裁決の存在を現実に了知することで足り、裁決に固有の瑕疵があることまで認識する必要はないと解される。

2 また、原告は、本事件と平成四年(行ウ)第一号事件との間には、関連請求の併合要件(行政事件訴訟法一六条一項)あるいは訴えの追加的併合要件(同法一九条一項)が存在するから、同法一四条三項の「正当な理由」があると主張するが、関連事件であって併合が認められるからといって同法一四条三項の「正当な理由」があるとはいえない。また、前記のとおり、いずれにせよ、本件裁決取消しの訴えは、裁決があったことを知った日から三か月を経過した後に提起されたものである。

3 さらに、原告は、<1>原処分庁と被告国税不服審判所長は実質的に同一であるから平成四年(行ウ)第一号事件の関連請求として本件裁決取消しの訴えを提起できる、<2>本事件と平成四年(行ウ)第一号事件とは請求原因の基礎が同一であるから併合して本件裁決取消しの訴えを提起できる、<3>行政事件訴訟法二〇条により平成四年(行ウ)第一号事件に本事件を追加併合できる当事者として本件裁決取消しの訴えの適法性を主張する。

しかし、右のようなことから、出訴期間徒過の不適法が適法化されるものではない。

三  したがって、本件裁決取消しの訴えは不適法なものとして却下されるべきである。

第四結論

よって、被告成田税務署長が平成元年七月四日付でした被相続人小澤喜一郎に係る相続税の更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消しを求める訴えは、不適法であるから却下することとし、被告成田税務署長に対するその余の請求(本件各更正処分及び本件各過少申告加算税賦課処分の各取消請求)はいずれも理由がないから棄却することとし、被告国税不服審判所長に対する訴えは、不適法であるから却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩井俊 裁判官 鎌田豊彦 裁判官 細矢郁)

選定者目録

千葉県佐倉市新町五〇番地一

小澤功子

千葉県鎌ケ谷市鎌ケ谷一丁目七番一八-三〇三号

小澤喜之輔

同 佐倉市鏑木町一〇四七番地三七

柳谷慶子

神奈川県横浜市栄区笠間町五二一番地第二大船パークタウンD棟七〇六号室

松島淳子

別表1

課税の経緯

<省略>

別表2

課税価格等の計算明細表

<省略>

別表3

税額算出表

<省略>

別表4 土地の価額の明細表

<省略>

別表5 建物の価額の明細表

<省略>

別表6 預金の明細表

<省略>

別表7 既経過利子の明細表

<省略>

別表8 所得税還付金の明細表

<省略>

別表9 未納固定資産税の明細表

<省略>

別表10 普通預金の借越額の明細表

<省略>

別表11 普通預金の借越額に係る未払利息の明細表

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例