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千葉地方裁判所 平成2年(ワ)1004号 判決 1991年11月26日

原告

田場良枝

甲事件被告

栗山一夫

乙事件被告

小谷野昭

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告に対し、金一九〇四万七三六〇円及びこれに対する昭和六三年一〇月二六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

原告は、左記交通事故(以下「本件事故」という。)によつて負傷した。

<1> 日時 昭和六二年一〇月二五日午前一時四〇分頃

<2> 場所 埼玉県浦和市白幡四丁目二三番一号先路上

<3> 加害車両及び運転者

A 普通貨物自動車(宮四五さ六〇一二)訴外西本良一

B 普通乗用自動車(練馬五五き三四三一)被告栗山一夫

<4> 被害車両及び運転者

C 普通乗用自動車(大宮五九ふ五三四五)被告小谷野昭

<5> 被害者 原告(C車両の同乗者)

<6> 事故の態様 原告を乗せたC車両が片側一車線の道路を進行方向左側車線を走行中、対向車線を進行してきたA車両が突如C車両の進行車線に進路を変更したため、A車両とC車両とが正面衝突し、更にC車両の後ろから進行していたB車両がC車両の後部に追突した。

<7> 被害 本件事故によつて、原告は、顔面瘢痕拘縮、右穿孔性眼外傷、右眼内炎の傷害を負つた。

2  責任原因

(一) 被告栗山の責任

右被告は、前記1の<3>B記載の車両(以下「栗山車」という。)を運転して、埼玉県浦和市白幡の路上(国道一七号)を進行していたが、自車の進行方向前方に進行中の車がある場合、充分な車間距離をとり、安全に進行すべき注意義務があるにもかかわらず、その義務を怠り、原告が同乗していた前記1の<4>記載の車両(以下「小谷野車」という。)に接近して自車を運行していたため、小谷野車が前記1の<3>A記載の車両(以下「西本車」という。)に衝突した際、事故回避の措置がとれず、小谷野車に追突した過失がある。

したがつて、被告栗山は、民法七〇九条に基づき、原告の後記損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告小谷野の責任

右被告は、小谷野車を運転して、埼玉県浦和市白幡の路上を蕨市方面から大宮方面に向かつて進行していたが、同被告は、本件事故前日の午後一〇時頃から自宅で日本酒コツプ二杯を飲んだ後、小谷野車を運転して外出し、同日午後一一時過ぎ頃、JR南浦和駅東口スナツク「武蔵野倶楽部でウイスキーの水割り四、五杯を飲み、翌二五日午前一時過ぎ頃、当時原告がアルバイトをしていたスナツク「ベル」(浦和市南浦和三丁目三番)で飲酒すべく同店に向かつたが、たまたま同店の前で帰宅しようとしていた原告に出会い、自宅まで送つていくと言つて原告を誘つて小谷野車に同乗させていたものであつたが、既に相当量飲酒して酔つており、適正な運転行為ができない状態であつたのであるから、直ちに運転を中止すべき義務があつたにもかかわらず、漫然と酒酔い運転をしたことにより、西本車との衝突を避けるための措置がとれず、同車に衝突した過失がある。

したがつて、被告小谷野は、民法七〇九条に基づき、原告の後記損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

原告の本件事故による損害は、次のとおりである。

(一) 治療費 六三万九三二〇円

(内訳)三愛病院(昭和六二年一〇月二六日) 二三万三〇〇〇円

埼玉県中央病院(昭和六二年一〇月二六日から昭和六三年一二月一五日まで) 四〇万六三二〇円

(二) 入院雑費 四万〇八〇〇円

一日当たり一二〇〇円として昭和六二年一〇月二六日から一一月二四日までの三四日分

(三) 通院交通費 九万七二四〇円

往復二八六〇円として(バス・電車を利用)、昭和六二年一二月五日から平成元年九月二八日までの間のうち三四日分

(四) 後遺症による逸失利益 二六〇八万円

原告は、本件事故当時、アルバイトをしながら看護婦になるため予備校に通つていたが、本件事故によつて、顔面に多数の醜状障害が残るとともに右眼の視力が低下し(一・〇から〇・〇一に)、光が反射すると全く見えない状態になつた(障害等級七級相当)ため、看護婦になることを断念し、現在は結婚して、家事に従事している。

労働能力喪失率五パーセント、平均給与月額一六万四九〇〇円とし、新ホフマン係数二三・五三四によつて計算

(五) 慰謝料 一五〇〇万円

(六) 弁護士費用 八〇万円

((一)ないし(五)の合計 四一八五万七三六〇円)

((一)ないし(六)の合計 四二六五万七三六〇円)

4  損害の填補

これまでに原告は、自動車損害賠償責任保険から一八九八万円、搭乗者傷害保険から六三万円、訴外西本良一から四〇〇万円、合計二三六一万円の填補を受けた。

5  よつて、原告は、被告らに対し、各自、前記3の損害の合計額四二六五万七三六〇円から同4の損害填補の合計額二三六一万円を控除した残額である金一九〇四万七三六〇円及びこれに対する不法行為の日(本件事故発生日)の翌日である昭和六二年一〇月二六日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告栗山

(一) 請求原因1(交通事故の発生)のうち<1>については認めるが、その余は争う。

原告の負傷は、被告栗山車の小谷野車に対する追突によるものではなく、小谷野車と西本車の正面衝突によつて発生したものである。

原告の傷害については知らない。

(二) 同2(責任原因)は争う。

被告栗山は、車間距離をとり、前方を注視しながら進行していたところ、小谷野車と西本車の正面衝突という不測の事故の発生で急制動の措置をとつたが間に合わず、栗山車が軽く小谷野車の後部に追突したもので、同被告に過失はない。

ちなみに、同被告には、本件事故による刑事処分も行政処分もなされなかつた。

(三) 同3(損害)の事実は知らない。

(四) 同4(損害の填補)の事実は認める。

2  被告小谷野

(一) 請求原因1(事故の発生)の事実は認める。

(二) 同2(責任原因)は争う。

(三) 同3(損害)の事実は知らない。

(四) 同4(損害の填補)は認める。

三  抗弁

1  被告栗山

(過失相殺)

仮に本件事故につき被告栗山の責任が認められるとしても、原告にも次のような過失があるから、損害賠償額の算定においては相当程度の過失相殺がなされるべきである。

即ち、原告は、被告小谷野が相当酩酊し、酒酔い運転をしていることを承知の上で同乗したのであるから、相当な過失があるというべきである。

2  被告小谷野

(一) 過失相殺

仮に本件事故につき被告小谷野の責任が認められるとしても、原告にも次のような過失があるから、損害賠償額の算定においては相当程度の過失相殺がなされるべきである。

即ち、原告は、スナツク「ベル」でアルバイトをしていたのであるが、被告小谷野が同店で飲酒した際には、他の従業員とともに同被告のテーブルについて、同被告の飲酒に関与し、同被告の飲酒運転に加担していたばかりでなく、同被告が飲酒によつてかなり酩酊していることを認識した上で、一応は同乗を躊躇した経緯はあつたものの、結局は同乗し、その走行状況から容易に危険が感じられたにもかかわらず、その運転を制止するなどの措置を取らなかつた。

(二) 損害の填補

原告は、被告小谷野の加入する自動車損害賠償責任保険から九四九万円を受領した。

四  抗弁に対する認否

各過失相殺の主張は争う。

原告は、被告小谷野に誘われた際、同被告は飲酒していたので、タクシーで帰ろうとしたが、同被告から執拗に誘われ、店の客でもあつたことから、無理に断つてもいけないと思い、また、同被告本人も運転は大丈夫と述べたので、小谷野車に同乗した。

しかし、原告は、小谷野車に同乗した後、右被告の運転状況から恐ろしくなり、右被告に対して何度も降ろしてくれるよう頼んだが、同被告は大丈夫と言うだけで、原告を車から降ろそうとはしなかつた。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件事故の態様

1  本件事故の発生日時については、当事者間に争いがなく、いずれも成立について争いのない甲第一号証、乙第一、二号証、第三号証の一、二、第四号証の一ないし三、第五号証の一ないし三、第六号証、第八号証、第一〇号証、第一二号証、第一四号証の一、二、第一五ないし第一七号証、原告及び被告栗山各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件事故は、請求原因1の<2>記載の場所において、同<3>、<4>記載の各車両の間で、同<6>記載の態様で発生した。

(二)  本件事故現場は、浦和市の西部に位置し、JR浦和駅の南西約一・六キロメートルの地点の国道一七号上で、この道路を北進すると大宮市に、南進すると蕨市に通じ、現場付近の道路の両側には店舗が立ち並んでいる。

本件現場の道路は、幅員一〇・二メートルで、中央線によつて上下線が区分され、この道路の両側にはガードレールによつて区分された歩道が設置され、車道部分の路面は、アスフアルト舗装で、平坦であり、本件現場の南方は直線、北方が右カーブの状態であるが、障害物はなく、本件事故当時、雨天で、路面は湿潤し、交通規制は、駐車禁止、追越しのため右側部分ははみ出し通行禁止、指定最高速度四〇キロメートル/時とされていた。

(三)  本件事故直後警察官が現場に赴いた時には、各車両は、大宮市方面から蕨市方面に西本車、小谷野車、栗山車の順で停止し、西本車は前部が破損して蕨市方面に前部を向け、小谷野車は前後部が破損して大宮市方面に前部を向け、栗山車は前部が破損して大宮市方面に前部を向けていた。現場には被告栗山一人が待機しており、本件事故当日の午前二時一〇分から同被告立会の下で、現場で実況見分が実施され、同被告は事故発生時の状況について、

「蕨市方面から大宮方面に向け進行

・前車が事故を起こしたのがわかつた地点は<1>

・その時の前車は後ろが<×>

・危険を感じブレーキをかけた地点は<1>

・その時の前車は後ろが<×>

・追突した地点は<×>

・私が停止した地点は<2>

・相手が停止した地点は<ア>

・対向車が停止したのが

・前の車が対向車と衝突した地点は<ア>」

と指示説明し(各指示地点は、別紙交通事故現場見取図の写しに記載のとおり)、警察官は、右指示説明に沿つて現場を見分したところ、路面にスリツプ痕等は見当たらなかつたが、ガラス片等が散乱していたことなどから<×>及び<ア>の各地点をそれぞれ衝突地点と推定した。

なお、警察官が現認した各車両の破損部位とその程度は次のとおりであつた。

西本車 右前部凹損、フロントガラス割れ等 中破

小谷野車 前部凹損、フロントガラス割れ等 中破

後部凹損 小破

栗山車 前部凹損 小破

(四)  被告栗山は、本件事故当日の昭和六二年一〇月二五日、浦和警察署において、本件事故の状況等について次のような説明をした。

「事故の前の私の状況は事故を起こした車の後を戸田市付近からついて来ました。

前のこの車は、左右にだ行したり、スピードが遅くなつてみたり、急にスピードをあげてみたりで、私は酔つ払いかと思つていました。」

「その後事故の付近にさしかかつたところ、<1>の地点で前の車が事故を起こしたのがわかりました。

事故は、前の車と対向から来た無燈火の車の事故で一瞬の事でしたが、事故とわかりました。無燈火の車は私の車線に突つ込んで来たものです。

私は危ないと思いすぐブレーキをかけましたが、間に合わず<×>の地点に後があつた前車にぶつかつてしまいました。

ぶつかつたのは私の車の前と前の車の後で、私の方は<2>の地点に停止し、前の車は<ア>の地点に停止しました。

私が追突する前に、前の車に、前の車は対向から来た車と<ア>の地点付近と思いますが、正面衝突しました。」

「私が運転していたスピードは約三〇キロから四〇キロ位でした。」

「私が追突事故を起こした原因は、車間距離が狭かつた事です。」

「私がこの様な運転をした理由はまさか前の車が急に止まる様な事はないだろうと思つていたからです。」

「前の車が私の車線で対向車と正面衝突したのは、対向車が無燈火で私の車線に入つて来たから起きたと思います。」

(五)  被告小谷野及び訴外西本は、いずれも警察官及び検察官の取調べの際、本件事故当時酔つていたため事故の状況については判からないと供述し、被告小谷野は、原告を誘つて同乗させ、走り出した当所のことや、ぶつかつたということだけは憶えていると述べたが、訴外西本は、飲酒後タクシーに乗つて武蔵浦和駅近くのNTTの前まで行つてもらい、その裏道に駐車させていた西本車の所に行つたことまでは憶えているが、その後のことは同車を運転したことも含めて全く憶えておらず、気がついたら警察にいたということや、西本車の駐車場所から本件事故現場までは自動車で一、二分の近距離であるということを述べた。

被告小谷野については本件事故当日の午前二時五五分頃、訴外西本については同じく午前三時二五分頃、それぞれ北川式飲酒検知器による酒気帯びの程度の検査が実施されたが、その結果、ともにアルコール濃度は呼気一リツトルにつき〇・五ミリグラムと認定され、警察官による鑑識の結果はともに「酒酔い」と判定された。

被告小谷野の本件事故前の飲酒状況は、概ね請求原因2(二)記載のとおりであつた。

(六)  原告は、昭和六二年一二月二三日、浦和警察署において、本件事故に至るまでの経過及び本件事故の状況について次のように述べた。

「二五日の午前一時半頃、バイトを終え帰ろうとした訳けです。」

「すると、玄関先で、お客さんの一人で、三四、五歳の男性が私を家まで送つていくとしつこく言うのです。

この男性は、私が店に出た時は既に店にいた人で、午前〇時半頃に連れの二人の人と帰つた人でした。

私は駅からタクシーで帰るつもりでいたのですが、この男性が、私が何度もことわつたのにしつこく送つていくというので、送つてもらうことにしました。

私はこの人が酒を飲んでいる事は、店でお酒を作つてあげたりしたので知つていましたが、運転は大丈夫と思い乗せてもらつたのです。

車は店の向かいの駐車場に止めてあり、午前一時半頃駐車場を出発しました。」

「その時は雨が降つていて、この男性は何度も何度も前が見えないと言つていました。

又運転は、左右にふらついてセンターラインにかかつたりかからなかつたりしながら走りました。

私は運転が恐くなつたので車から私を降ろしてくれる様に頼んだところ、この男性は、大丈夫、と言つて私を車から降ろそうとはせず、運転を続けたのです。

私は、この男性は、だいぶ酔払つているなと思いました。

言つても聞き入れてくれませんし、対向車が来るとバカヤローと言つていましたし、運転のしかたからもそう思つたのです。

「出発してから約一〇分位と思いますが、国道一七号の下り線で、ちようど私がフロントガラスを拭き終わり、前を見ると、そこに車が来ているのがわかりました。

「見えてすぐにぶつかつてしまつたのですが、車は一台しか見えなかつたのに二度シヨツクがあつた事を覚えています。

私は事故で割れたフロントガラスで顔を切つてしまい、救急車で運ばれてしまつたのです。」

(七)  原告は、その本人尋問において、本件事故の状況等について、次のようなことを述べた。

「私が小谷野の車に乗つたのは、店のある根岸のあたりで、車は六辻の交差点を曲がつて国道一七号線をとおり、事故現場へ行きました。乗つていた時間は五、六分です。」(別紙現場付近地図参照)

「小谷野は「前が見えない。」と言いながら、センターラインを越えて蛇行運転をしたり、スピードを急に上げたりしていました。その日は雨天でした。私は前が見えていましたが、小谷野が「前が見えない。」と言うので、ハンカチで運転席の前のガラスを拭きましたが、「助手席の方だ。」というので助手席の窓を拭きました。小谷野は、対向車に向かつて「バカヤロー」とか「ふざけんじやない。」などと叫んでいました。私は何度も降ろしてくれと言いましたが、小谷野は「大丈夫だ。」と言つて止めようとはせず、信号はすぐ変わるし、降りる余裕はありませんでした。」

「事故の瞬間の状況は、窓ガラスを拭いていたら「ドーン」と前からぶつかつてきました。ぶつかつた車は何となく見えましたが、一瞬のことでした。ぶつかつて、何回か体が前後に揺れて、突然ガラスが割れて怪我をしました。ぶつかつた時、体が前へ行つてすぐ後ろに体が行きました。」

「後ろから車がぶつかつたのは気がつきませんでした。前の車と同時という感じでした。」

「フロントガラスを拭き終わつたとき、西本の対向車があなた側の車線に入つてくるのが見えましたか。

はい。」

「西本の車に気がついてから衝突するまでの時間はどれくらいでしたか。

一、二秒の間でした。」

(八)  被告栗山は、その本人尋問において、本件事故の状況について、次のようなことを述べた。

「私の車が小谷野の車を追走するようになつたのは、六辻の交差点の手前辺りから小谷野の車が国道一七号線に入つてきてからです。」

「小谷野の車の状況は正常ではなく、追走するようになつてから事故に至るまで、蛇行運転を二、三回やつたり、信号無視を一度やつたり、早く走つたり止まるようなスピードに落としたりの繰り返しを二、三回やつていました。スピードを上げたときは時速五、六〇キロでした。私は客と「あぶないね」「酔つ払らいか、居眠りか」と話していました。客と話していても前はずつと見ていました。私の車は前にそういう車がいたので時速三、四〇キロで走つていました。小谷野がスピードを五、六〇キロに上げた時も私の車は三、四〇キロで走つていましたが、小谷野の車がスピードを落とすと追いついて私の車もスピードを落としました。信号がいくつかあつたのでそこで追いついたこともあると思います。車間距離は一〇メートル前後ですが、小谷野がスピードを上げた時は車間距離は広がりました。」

「車間距離一〇メートルというのは、時速三、四〇キロで走つていたら、前の車が急停車してもストツプランプが点けばぶつからずに止まれる距離です。」

「本件事故は西本の車が私の方の進行車線に入つてきて、小谷野の車と正面衝突をして、私が後ろからぶつかつたという事故です。私が前の車の事故を発見したのは<1>の地点だと思います。そのとき凄い音がして「ドカーン」としました。西本の車のライトが見えなかつたので突然でした。西本はライトを点けていなかつたと思います。発見して、私は急ブレーキをかけました。私は<×>の地点で衝突し、<2>の地点で停止しました。衝突の瞬間位で止まつた感じです。」

「小谷野の車は、ノーブレーキだつたので正面衝突で押し返されました。どれくらいかは分かりませんが、一メートルを越えるのではないかと思います。正面衝突の地点は、私の車が衝突した<×>印の地点より少し前で、押し戻されて<×>印にいた小谷野の車に、私がぶつかつたのです。警察官への現場説明で、<1>の地点で見た時に小谷野の車が<×>印にいたと言つたのは間違いです。私がブレーキを踏んだのが小谷野の車が押し戻される前か後かは分かりません。」

「私が小谷野の車にぶつかつたときの音はそれほど大きくはありませんでした。客にも怪我はありませんでした。」

「車のバンパーがへこんでいますが、車は追突の衝撃を吸収するためにバンパーがへこむようになつているのです。」

「小谷野の車がブレーキをかけずにいたので、衝突で押し戻され、またテールランプが点かず、私のブレーキをかけても間に合いませんでした。前でブレーキをかけ、テールランプが点いていればブレーキが間に合いました。」

「警察で、私は車間距離をとつていなかつた責任がある、と言いましたが、それは、警察官がもつと車間距離をとつていたら事故にならなかつたと言われたからです。正面衝突という不測の事態だからぶつかつたものの、普通の急ブレーキだと間に合う程度の車間距離はとつていました。現場見取図でも<×>と<1>の間が九・三メートルで、約一〇メートルの車間距離をとつていたことが分かります。」

「私の車のバンパーと小谷野の車の真ん中あたりがぶつかつたと思います。ぶつかつて、三〇センチくらいの間隔を置いて止まりました。追突して小谷野の車を多少押し出したとは思います。前の正面衝突が起きて車が私の車が追突するまでの間は、二、三秒か四、五秒だつたと思います。」

「原告の顔面の怪我は正面衝突が原因だと思います。追突では体が後ろに行くが、正面衝突では体が前に行くので、顔の怪我はフロントガラスに顔を突つ込んだ結果できたと思います。」

「西本の車が私の車線に入つてきたのは、真つ暗だつたので気がつきませんでした。」

「私は正面衝突を見つけて、急ブレーキを踏みました。車間距離は、ブレーキを踏まずに行けば一秒ですが、急ブレーキを踏んでいるので何秒かかかります。小谷野の車が押し戻されたので車間距離が狭くなつてしまつたが、普通なら止まつていました。普通の運転時では、車間距離は一〇メートルくらいです。」

「一〇メートル位の車間距離では、前の車がブレーキを踏んで止まればその車が数メートル進んで止まるので、後ろの車も追突せずに止まれますが、前の車がその場で急に止まつてしまつたら追突は避けられません。」

二  被告らの責任

前記一の事実を総合すると、本件事故は、酒に酔つて正常な運転能力を欠いた状態の訴外西本が、自車の運転を開始して間もなく、自車を対向車線に進入させとしまつたために発生したものと認められるが、被告小谷野も、当時酒に酔つて正常な運転ができない状態であつたことから、急制動その他事故回避に必要な措置を何一つ講じられないまま、西本車との正面衝突という結果となり、また、後続の栗山車による追突事故まで招く結果となつたと考えられるので、本件事故については、訴外西本のみならず、被告小谷野にも過失による責任はあるものと判断される。被告栗山については、車間距離をもつて大きくとつていたならば、追突を避けられたのではないかと考えられはするものの、本件のような酒酔い運転の車両同士の正面衝突などというものは滅多にあるものではないであろうから、本件のような事故の発生まで考えて、それに対処可能な車間距離をとつていなかつたからといつて、直ちにそれを過失とまで非難するのは相当でないと考えられるので、被告栗山については、本件事故について過失責任はないものと判断される。

三  過失相殺

前記認定事実によれば、原告は、被告小谷野が相当量の酒を飲んでいたことを承知しながら、小谷野車に同乗し、同被告が酒に酔つて正常な運転ができない状態であることに気付きながら、運転を中止させようともせず、助手席でフロントガラスを拭いて同被告の運転の補助行為をしていたことが認められるのであつて、被告小谷野主張のとおり、本件事故については、原告にも相当程度の過失があつたと認められ、その割合は五割とみるのが相当であり、損害賠償金の額を算定する際には、損害の合計額から右過失割合に相当する額を減じるのが相当と思料される。

四  被告小谷野の賠償すべき損害額

原告主張の弁護士費用を除く合計額は、四一八五万七三六〇円であるところ、前記認定の過失割合によれば、被告小谷野の賠償すべき損害額は、その五割分に相当する二〇九二万八六八〇円と計算され、この額から原告の自認する自動車損害賠償責任保険からの支払金一八九八万円及び訴外西本からの支払四〇〇万円を控除すると、被告小谷野が賠償すべき残額はもはやない計算となる。

五  以上の次第で、その余の点について検討するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 遠藤きみ)

別紙 <省略>

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