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前橋地方裁判所高崎支部 昭和48年(ワ)143号 判決 1975年2月26日

原告 境原秀吉

右訴訟代理人弁護士 富岡柱三

同 富岡恵美子

被告 櫻井イチ

<ほか三名>

右被告三名訴訟代理人弁護士 山代積

主文

一、被告らは原告に対し、

(一)  別紙目録(一)、(二)記載の各土地につき、群馬県知事に対する農地法第五条第一項第三号に基く届出手続をせよ。

(二)  右届出が受理された時は、右土地につき、昭和四一年二月一三日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

(当事者の申立)

第一、原告

一、主位的請求

(一) 被告らは原告に対し、

(1) 別紙目録(一)、(二)記載の各土地につき、群馬県知事に対する農地法第五条第一項第三号の規定に基く届出手続をせよ。

(2) 右届出が受理された時は、右各土地につき所有権移転登記申請手続をせよ。

(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。

二、予備的請求

(一) 被告らは原告に対し、

(1) 別紙目録(一)、(二)記載の各土地につき、高崎市農業委員会に対する農地法第三条第一項の規定に基く許可申請手続をせよ。

(2) 右申請が許可された時は、右各土地につき所有権移転登記申請手続をせよ。

第二、被告ら

原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。

(当事者の主張)

第一、原告の請求原因

一、主位的請求原因

(一) 別紙目録(一)、(二)記載の各土地(以下本件各土地という)は亡櫻井仙太郎の所有であったところ、原告は昭和四一年二月二日同人から合計六〇万円でこれを買受ける契約を為し、仙太郎に対し、同日一〇万円、同年八月一〇日二〇万円、同年一二月二〇日三〇万円を支払い、その代金を完済した。

(二) 仙太郎は昭和四二年二月一一日死亡し、被告ら四名が相続人として右売買契約上の地位を承継した。

(三) 本件各土地は昭和四六年三月三一日市街化区域に指定された地域内の農地である。

(四) よって被告らは、本件各土地につき農地法第五条第一項第三号による届出手続に協力する義務があるので、原告は被告らに対し右届出手続を為すことを求め、これが受理された時は、原告に対しその所有権移転登記手続を為すことを請求する。

二、予備的請求原因

(一) 原告は本件各土地を亡仙太郎より借受けて耕作していたところ、昭和四一年二月二日これを同人より買受けて代金六〇万円を完済したが、買受後も引続き右土地を耕作していた。

(二) 前記の日同人が死亡したことにより、仙太郎の売買契約上の地位を承継した被告らは、原告に対し、右各土地についての農地法第三条第一項による農業委員会の許可(原告の住所と本件各土地とは同じ町の区域内にある)申請手続に協力し、その許可があった時は、前記売買を原因とする所有権移転登記手続に協力する義務がある。

(三) よって原告は被告らに対し、本件各土地につき前記売買による所有権移転についての高崎市農業委員会の許可申請手続ならびに、右許可があった時は、右売買を原因とする所有権移転登記手続を為すよう請求する。

第二、被告らの答弁

一、主位的請求原因について

(一) 被告櫻井イチ

原告主張の事実はすべて認める。

(二) 被告土屋文江、同川村ナヲ、同櫻井源次郎

(1) 原告主張の(一)の事実中本件各土地が亡櫻井仙太郎の所有であったことは認めるが、その余の事実は否認する。

(2) 同(二)の事実中仙太郎が死亡し被告らが相続したこと、及び(三)の事実はいずれも認める。

二、予備的請求原因について

(一) 被告櫻井イチ

原告主張の事実はすべて認める。

(二) 被告土屋文江、同川村ナヲ、同櫻井源次郎

原告主張の(一)の事実は否認し、(二)の事実中同被告らが亡仙太郎の地位を承継したことは認める。

第三、被告土屋文江、同川村ナヲ、同櫻井源次郎の抗弁

仮に亡仙太郎が所有していた本件各土地につき売買契約が為されたとしても、それは次のような理由により無効である。

一、原告は本件各土地につき転売を目的として知事の許可を条件とする売買契約上の権利を取得した後、これを不動産業者に譲渡し、その後も右権利は投機の対象として転々と他に譲渡された。

二、本件各土地が市街化区域内に指定されたのは昭和四六年三月三一日であり、右各土地の売買が為されたのはそれ以前であるから、法律行為の効力の有無は行為の当時の法令により判断されるべきが当然であって、現行の法令を既往の売買契約に遡及して適用する余地はない。そして本件各土地の売買は、農地としての所有権を移転することにあったのであるところ、農地法第三条第一項による農地所有権移転等について知事又は農業委員会が許可を為し得る場合は、同条第二項第一号、第二号により厳重に制限されており、しかもこれらは強行法規であるから、本件の如き、農業を営む者以外の者に転売を目的として為した売買契約は当然に無効である。

第四、原告の答弁

一、抗弁一、の事実中原告が昭和四二年七月一九日本件各土地を訴外株式会社太平土地に譲渡したことは認めるが、亡仙太郎との売買が転売を目的としたものであるとの点は否認する。

二、同二、の主張はこれを争う。

(証拠)≪省略≫

理由

主位的請求について

一、原告主張の一、(一)の事実は被告櫻井イチの認めるところ(但し弁論の全趣旨によれば売買契約の日は昭和四一年二月一三日の誤りと認められる)であり、又同土屋文江、同川村ナヲ、同櫻井源次郎との関係では、本件各土地が亡仙太郎の所有であったことに争いなく、その余の事実は≪証拠省略≫によりこれを認めることができる(但し売買契約の日は昭和四一年二月一三日と認められる)。

二、昭和四二年二月一一日仙太郎が死亡し、被告らが相続人として仙太郎の法律上の地位を承継したこと及び本件各土地が昭和四六年三月三一日市街化区域内に指定されたことは各当事者間に争いがない。

三、≪証拠省略≫によれば、本件各土地は畑であって、仙太郎が死亡前久しく病臥していたので、妻の被告イチが代ってこれを耕作していたところ、老令のため出来なくなったので、原告が右土地を借り(小作料の定めも無く、原告より時々収穫物を謝礼として仙太郎方に持参していた程度であって、使用貸借と認められる)、暫く耕作していたが、その後仙太郎の申出により原告が右土地を買受けることとなり、昭和四一年二月一三日その売買契約が成立したが、その後も引続き原告が右土地を耕作して蔬菜類を栽培していたこと、その後原告が借金の返済とか農業を止めて建材業を始めるため、昭和四二年七月一九日本件各土地を訴外株式会社太平土地に売る契約をし、爾来原告は右土地の耕作を止めて今日に至っていることが認められる。

四、以上の事実によって原告の主位的請求の当否について判断する。

一、農地法第五条第一項第三号の規定に基く群馬県知事に対する届出手続の請求について

(一)  亡仙太郎と原告との間に為された本件各土地の売買契約は、これを農地として耕作する目的であって、右契約後も一年数ヶ月の間現実にこれを耕作していたのであるが、当時まだ農地法第三条第一項の規定による許可を得ていなかったので、未だ原告はその所有権を取得していない訳である。

ところで農地の売買等その所有権移転を目的とする行為は、農地法の各規定の趣旨に従い、権限ある当該行政庁(知事、農業委員会等)の行為(許可、届出の受理等)を法定条件としてその効力を生ずるものであるが、それは当該行政庁が私人の為した申請、届出等につき審査判断する時点における事実関係を基礎として為されることが、農地の移動等につき権限ある行政庁の関与を要求する農地法の規定の趣旨に適合するものというべきである。

本件においては、当初原告は農地として本件各土地を買受ける契約をしたけれども、やがて宅地にこれを転用するのが適当であると考えるようになったものと認められるが、前記売買契約以後において、高崎市の発展、人口の増加に伴い、市街地域が拡大し、周辺の農地が逐次宅地化して行く傾向が顕著であることは公知の事実であって、このような経済的、社会的情勢の変化を背景として、やがて本件各土地も前記のように市街化地域内に指定されるに至ったのである。

かような情況の下において、原告が当初耕作の目的で売買契約をした本件各土地が、その後において、これを宅地に転用することが相当と思料されるに至った場合に、これを宅地に転用するためその所有権を取得しようとする時は、そのための手続は、農地法の一部改正後現に施行されている同法の規定に従うべきであって、原告は農地法第五条第一項第三号による県知事に対する届出を以て足るものと解すべきである。

被告土屋文江、同川村ナヲ、同櫻井源次郎は、本件各土地の売買は転売を目的とするものであり、その効力は売買契約当時における法令により判断されるべきところ、農地法第三条第二項第一号、第二号の各規定により当然に無効であると主張するけれども、これは独自の見解に基くものにすぎず、採用し難い。

(二)  以上説示のように、本件各土地の売買契約は、県知事に対する届出の受理を法定条件としてその効力を生ずるものであるが、右契約上の効力として、売主は買主にその所有権を取得させるための手続に協力する義務があるから、売主たる亡仙太郎の法律上の地位を承継した被告らは、買主たる原告に対し右義務を負担するに至ったのである。

二、本件各土地についての所有権移転登記手続の請求について

県知事に対する前記届出が受理された時は、前記売買契約による所有権移転の効果を生じ、これと共に被告らは原告に対し右各土地についての所有権移転登記に協力する義務を負うこととなる。

しかるに被告らはいずれも群馬県知事に対する前記届出に協力しないのであるから、将来右届出を命ずる判決が確定し、これに基く届出が受理されるに至った場合において、被告らが直ちに本件各土地の所有権移転登記手続に協力することが期待できないことも予想されるので、被告らに対し予めその請求をする必要があるものと言える。

三、以上のとおり、原告より被告に対し、農地法第五条第一項第三号に基く群馬県知事に対する届出ならびに右届出が受理された場合における本件各土地についての所有権移転登記手続を求める本訴主位的請求はすべて理由があるからこれに認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小西高秀)

<以下省略>

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