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前橋地方裁判所 昭和63年(わ)103号 判決 1988年8月03日

主文

被告人を懲役二年に処する。

被告人から金四〇〇万円を追徴する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  群馬県○○町町長として、同町の事務を統括し、同町内におけるゴルフ場造成事業計画に関し、事業者の地位承継が生じてその承継人から提出される群馬県知事あて大規模土地開発事業地位承継承認申請や、事業者から提出される同知事あて大規模土地開発事業変更承認申請等について、同知事の求めに対して地元町長として意見を進達したり、右事業に伴う同町管理の公共物使用等の申請に対して許可、不許可を決定する職務を掌理していたものであるが、

一  昭和五八年五月下旬ころ、同町<住所省略>自宅において、ゴルフ場の経営等を営業目的とする株式会社××カントリー倶楽部の取締役兼現地事務所長として、同会社が株式会社△△ゴルフ倶楽部から同知事の承認に係る同町内でのゴルフ場造成を遂行する地位を承継するため、同知事に対し、同事業地位承継申請の手続を進めるとともに、右ゴルフ場造成事業の遂行に当たっていたAから、前記株式会社××カントリー倶楽部が同知事に提出する前記事業地位承継承認申請に関する同知事への意見の進達等について便宜有利な取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることの情を知りながら、現金一〇〇万円の供与を受けてこれを収受し、もって、自己の前記職務に関して収賄し、

二  昭和六二年七月一六日ころ、同町<住所省略>同町役場町長室において、前記Aから、前記株式会社××カントリー倶楽部が同知事に提出するゴルフ場造成事業に係る大規模土地開発事業変更承認申請に関する同知事への意見の進達等について便宜有利な取り計らいを受け、更にはこれに付随する用水等の確保等に係る同町公共物使用等の申請に対する許可・不許可の決定について便宜有利な取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることの情を知りながら、現金一〇〇万円の供与を受けてこれを収受し、もって、自己の前記職務に関して収賄し、

三  同年八月二六日ころ、前記町長室において、前記Aから、前記同趣旨のもとに供与されるものであることの情を知りながら、現金一五〇万円の供与を受けてこれを収受し、もって、自己の前記職務に関して収賄し、

第二  同町町長として、同町の事務を統括し、同町が発注する各種工事に関し、指名業者の選定、入札予定価格の決定及び請負契約の締結等の職務を掌理していたものであるが、昭和六〇年度の事業として同町が発注する町民プール建設事業を、指名競争入札の方法により決定された請負業者に施工させるに際し、水道設備工事等を営業目的とする株式会社○×工業の代表取締役のBから、右プール建設事業をプール本体工事とその附帯設備工事とに分離発注して、同会社を右附帯設備工事の指名競争入札の入札参加業者として選定し、更に右工事の入札予定価格を教示してほしい旨の請託を受けてこれを承諾し、右分離発注及び同会社の右附帯工事への指名競争入札の入札参加業者の選定をしたうえ、昭和六〇年七月二一日ころ、既に一五〇〇万円と決定していた右附帯工事の入札予定価格につき、「一五〇〇万円を二万円位切れば落札できる」旨不正に教示し、右教示に関する職務上の不正行為に対する謝礼の趣旨のもとに供与されるものであることの情を知りながら、同年九月二〇日ころ、同県藤岡市<住所省略>被告人方において、右Bから現金五〇万円の供与を受けてこれを収受し、もって、自己の前記職務上不正の行為をしたことに関して収賄したものである。

(証拠の標目)<省略>

(法令の適用)

被告人の判示第一の各所為はいずれも刑法一九七条一項前段に、判示第二の所為は同法一九七条の三第二項、一項にそれぞれ該当するところ、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第二の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をし、その刑期の範囲内で被告人を懲役二年に処し、被告人が判示各犯行により収受した賄賂は没収することができないので、同法一九七条の五後段によりその価額金四〇〇万円を追徴することとする。

(量刑の事情)

本件は、群馬県多野郡○○町の町長職にあった被告人が、業者からその職務に関して前後四回にわたり合計四〇〇万円の現金を賄賂として収受した事案であるところ、収受にかかる賄賂金が高額であるうえ、判示第一の各犯行については、Aからは相当期間にわたり繰り返し賄賂の供与を受けており、うち一回は、ゴルフ場の早期竣工を企図していた右Aに対し、変更申請や同町内での用水確保のためには、被告人の意向を無視できないことに乗じて、「判子代だってただじゃねえからな。一〇〇万ぐれえ持って来いや。」などとあからさまに賄賂の供与を要求しており、更には、ゴルフ場造成の下請業者が誤って同町内の河川に大量の泥水を流入させるや、鮎や鯉に被害があったとして、ゴルフ場造成工事を中止させるような言動をとりつつ、「鮎が一〇〇万、鯉が五〇万ということで出してもらえないか。」などと、一五〇万円の賄賂の供与を要求しているのであって、業者の弱みにつけこむ、いわば恐喝まがいの犯行とさえ評価することができ、また、賄賂の供与を白昼町役場の町長室で受けるなど大胆であり、更に、判示第二の犯行については、町民プールの附帯設備工事受注を企図するBから判示の請託を受けるやこれを承諾し、極秘事項である落札予定価格を教示する不正行為に及び、その謝礼として賄賂金を受領しているのであって、このような犯行態様等に照らすと、犯情まことに悪質というほかはない。そして、これら収受にかかる金員はその大部分を交際費、遊興費等の個人的支出に充てており、なお、判示第一の三の犯行により収受した一五〇万円のうち一〇〇万円については、後に漁業協同組合が購入したジープの代金に充当していることが認められるが、これも町職員に収受の現場を目撃された際、同人に対して、漁業協同組合のために受領した旨虚偽の弁解をしたことがあったため、やむなくそのような行為に及んだというに過ぎず、それ自体は格別酌むべき事情となるとは思われない。ところで、被告人は、昭和五〇年四月以来町長の地位にあったほか、それ以前にも同町の町会議員、町議会の副議長・議長を歴任しており、公務の廉潔性については十分に理解していたはずであり、町政の最高責任者として部下職員らを指揮監督して公正な公務遂行を果たすべき職責を有していたにもかかわらず、そのような職責に反して、業者から平然と多額の現金を受領していたものであり、町政を私物化し、職権を濫用して私腹を肥やしたとさえ評価することができ、町民の信頼を裏切り、公務の廉潔性について強い疑惑、不信感を醸成したものであって、町政に及ぼした害悪は重大このうえなく、また、この種事犯に対する一般予防の見地も軽視できず、これら諸事情を考慮すると、被告人の刑責は重大である。

したがって、被告人が、本件犯行発覚後町長職を辞するのは勿論漁業組合長等多数の公職を一斉に辞し、深く反省していると思われ、また、長年にわたり○○町の町長等として同町のために種々の実績をあげていること、その他被告人の年齢やその家庭の事情等被告人に有利と思われる事情を勘案しても、本件につき刑の執行を猶予するのは相当ではなく、主文程度の実刑制裁はやむを得ないところである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小林宣雄 裁判官大渕敏和 裁判官清水研一)

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