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前橋地方裁判所 昭和39年(わ)3号 判決 1965年6月03日

被告人 田中一夫こと本松高男

大一四・一一・三生 無職

主文

被告人を懲役六年に処する。

未決勾留日数中一八〇日を右の本刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は昭和三二年五月二七日川口簡易裁判所において窃盗罪により懲役八月に、同三三年六月九日館林簡易裁判所において同罪により懲役六月に、同三四年六月四日宇都宮地方裁判所足利支部において横領罪および常習累犯窃盗罪により懲役六月および懲役三年六月に、各処せられ、いずれも当時その刑の執行を受け終つたものであるところ、さらに常習として、

第一、別紙(一)犯罪一覧表記載のとおり、昭和三八年六月二八日頃から同年一一月六日頃までの間前後四一回にわたり、いずれも夜間、金品を盗む目的で前橋市堀川町六六番地青果物商恩田三郎方居宅ほか四〇箇所の居宅乃至店舗に侵入したうえ、同所において、同人外四〇名所有の現金合計一三九、七八七円位および手提金庫等の物品(価格合計二五〇、九八〇円相当)を窃取し、

第二、別紙(二)犯罪一覧表記載のとおり昭和三八年九月一三日頃から同年一〇月二〇日頃までの間前後七回にわたり郡馬県山田郡毛里田村大字富若七四八番地瓦製造業高野八郎方物置ほか六箇所において同人ほか六名所有の現金二〇〇円位および自転車、たばこ等の物品(価格合計二四、二〇〇円相当)を窃取し、

第三、(一) 昭和三八年一〇月一八日午前二時頃、金品を盗む目的で埼玉県北葛飾郡栗橋町栗橋二三六二番地の五、雑貨商奈良明方店舗内に侵入し、金品を物色したが目的物を発見できず、金品窃取の目的を遂げえず、

(二) 同月一九日午前三時頃金品を盗む目的で、熊谷市榎町三四七番地たばこ小売および文房具商小畑佐太郎方店舗内に侵入し、金品を物色したが、目的物を発見できず、金品窃取の目的を遂げえなかつた、

ものである。

(別紙(一)(一一)犯罪一覧表―略)

(累犯前科)

被告人(一)は、昭和三三年六月九日館林簡易裁判所において窃盗罪により懲役六月に処せられ、当時その刑の執行を受け、昭和三三年一二月八日右の刑の執行を終わり、(二)同三四年六月四日宇都宮地方裁判所足利支部において常習累犯窃盗、横領罪によつて懲役六月および懲役三年六月に処せられ当時その刑の執行を受け同三八年六月三日右の刑の執行を受け終つたものである。

(証拠の標目)

<中略>

(一一) 判示第一の別表(一)(11)について、

一、当裁判所の検証調書(一一)(大川敏雄方の分)。

二、証人大川敏雄、同大川あい子の各証人尋問調書。

<中略>

(一六) 判示第一の別表(一)(16)について、

一、当裁判所の検証調書(一七)(五月女本春方の分)。

二、証人五月女本春の証人尋問調書。

(一七) 判示第一の別表(一)(17)について、

一、当裁判所の検証調書(六)(沈仁郷方の分)。

二、証人山崎辰男の証人尋問調書。

三、押収にかかる草履一足(昭和三九年押第六九号の一)。

四、昭和三八年一〇月一一日付司法巡査の「遺留品の発見報告について」と題する書面。

五、昭和三八年一〇月八日付司法巡査の領置調書。

六、鑑定人警察技師松土孝の昭和三九年一二月二一日付鑑定書。

<中略>

(二六) 判示第一の別表(一)(26)について、

一、当裁判所の検証調書(一九)(宇都宮食販株式会社泉が丘販売所の分)。

二、証人田崎キミの証人尋問調書。

<中略>

(三七) 判示第一の別表(一)(37)について、

一、当裁判所の検証調書(八)(橋本和夫方の分)。

二、証人橋本和夫の証人尋問調書。

三、郡馬県警察本部刑事部鑑識課長の「現場指掌紋確認書の送付」と題する書面綴。

四、司法警察員等の「現場指紋採取報告書」と題する書面綴。

(三八) 判示第一の別表(一)(38)について、

一、当裁判所の検証調書(九)(正田功方の分)。

二、証人正田功の証人尋問調書。

<中略>

(四二) 判示第二の別表(二)(1)について、

一、当裁判所の検証調書(一三)(高野八郎方の分)。

二、証人高野八郎、同高野ヤエの各証人尋問調書。

<中略>

(四五) 判示第二の別表(二)(4)について、

一、当裁判所の検証調書(二二)(伊沢恒助方の分)。

二、証人伊沢勝江の証人尋問調書。

三、当裁判所の検証調書(二三)(増山勇方の分)。

四、証人増山トシの証人尋問調書。

<中略>

(五一) 判示第一の別紙(一)11・同16・同17・同26・同37・同38・ならびに判示第二の別紙(二)1・同4の各事実について、

一、鑑定人警察技師松土孝の昭和四〇年二月二日付鑑定書。

二、証人松土孝、同大淵陽三の各供述。

<中略>

(五三) 判示事実全部について、

一、被告人の司法警察員ならびに検察官に対する各供述調書全部。

二、証人阿久沢英夫、同林正己、同岡田邦雄、同中島斉の各供述。

(証拠に対する判断)

本件公訴事実は総計五〇個の窃盗および同未遂の訴因から成立つもので、本件公判審理の冒頭において被告人はそのうち合計二七個(判示第一別表(一)進行番号、1・2・3・4・5・6・9・11・15・16・17・18・19・22・23・24・26・27・28・30・31・37・38・同別表(二)進行番号1・4・5・7・判示第三(一))の各事実は自己の犯行でない旨(否認する意思)を述べた。

検察官、弁護人双方は右二七個の犯行現場の検証ならびに右各犯行の被害者、本件捜査に関与した警察官(計四名)の各証人尋問を申請した。

よつて当裁判所は右申請を採用してこれを取調べたのであるがその後更に被告人の(本件起訴前警察署と検察庁において取調を受けた際の)各供述調書を証拠として取調べたところ、被告人は捜査段階においては本件各公訴事実はすべて自己の犯行としてこれを自供し、かつ又、右各犯行現場に担当の警察官等を案内指示したものであることが明瞭となつた。

しかるに被告人は右捜査段階における自供は警察官の押しつけ的な取調と被告人の迎合的供述によつて虚偽の自白をしたものであつて自己の犯行ではないと強く主張して譲らない。

よつて当裁判所は本件各証拠を精査すると共に、当公判における被告人の弁解自体について所謂嘘発見機(ポリグラフ)によつて被告人の供述の信憑性を鑑定することとし、群馬県警察本部鑑識課警察技師松土孝同大淵陽三両名を鑑定人として右否認にかかる事実について当公判において供述している供述自体についてその真実性につき検査を施行し書面(鑑定書)によつてその結果の報告を徴した。右鑑定書提出后更に右鑑定人両名を証人として喚問の上、右検査の方法および内容その他全般について詳細なる尋問をなした。

尚右鑑定書の鑑定結果によれば「抽出検査を行つた八件の本件犯行に関し被告人が公判において供述しているところは虚偽であると判断される」旨が記載せられている。

以上、当裁判所の取調べた各証拠全部を綜合しこれを検討した結果によれば右否認にかゝる合計二七個の各犯行についても被告人は本件捜査の段階において自発的に任意の自供をなし、その各現場に担当警察官を案内指示したものであつて担当警察官が強制乃至誘引等の方法によつて被告人の任意の供述をさまたげる如き作為をなしたものではなく、すべて被告人が任意に自供したものであると認定するに充分な情況であつたと思料するに足りるものと考えられる点が極めて多く、又、右否認事実に対する証拠の中には被告人の指掌紋が被害現場に遺留せられているものもあり、また右ポリグラフによる検査施行后、否認を撤回したものが八個(判示第一別表(一)進行番号18・同19・同26・同30・同37・同38・判示第二別表(二)進行番号1・同4・)あり、その他の各否認事実についても任意の自供の外、情況証拠がいずれもそなわつている、それ故被告人の犯行と断定することが出来る。

よつて本件公訴事実は全部被告人の犯行であると認定する。

(法令の適用)

被告人の判示第一の各所為は盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律第二条第四号刑法第二三五条に、判示第二の各所為は盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律第三条刑法第二三五条に、判示第三の各所為は盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律第二条第四号刑法第二四三条第二三五条に、それぞれ該当し、右はすべて常習として犯したものであるから全部一罪として刑法第一〇条によつて重い盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律第三条により処断すべく、また被告人には判示累犯前科があるので刑法第五六条、第五七条、第五九条、第一四条によつて累犯の加重をした刑期の範囲において被告人を懲役六年に処する。

未決勾留日数については刑法第二一条によつてそのうち一八〇日を右の本刑に算入する。

訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項但書によつてその全部を被告人に負担させない。

以上の理由によつて主文のとおり判決する。

(裁判官 藤本孝夫)

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