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函館地方裁判所 昭和49年(ソ)1号 決定 1974年8月09日

抗告人

茨木政一

右代理人

熊谷正治

相手方

岡嶋スエ

外一名

主文

一  原決定を取り消す。

二  八雲簡易裁判所昭和四七年(ハ)第一一号通行権確認請求事件の和解調書の正本につき、抗告人からの執行文付与申請に対し同裁判所書記官がなした付与拒絶処分を取り消す。

三  同裁判所書記官は和解調書の正本に執行文を付与しなければならない。

四  本件申立にかかる訴訟費用は相手方両名の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨は主文と同旨であり、その理由の要旨は次のとおりである。

(一)  抗告人を原告とし、相手方岡嶋スエ、同東兼義を被告とする八雲簡易裁判所昭和四七年(ハ)第一一号通行権確認請求事件につき成立した訴訟上の和解の和解調書(原決定添付のとおりであるからここに引用する。以下「本件和解調書」という。)正本につき、抗告人は執行文の付与を申請したところ、同裁判所書記官が昭和四九年六月二一日「債務名義の執行力が存在しない」との理由で執行文の付与を拒絶した。そこで、この処分に対し、抗告人が異議の申立をしたけれども、同裁判所は、同年七月九日、「右書記官の処分は違法でない。」として異議の申立を却下する旨の決定をした。

(二)  しかしながら、本件和解調書の和解条項第一項は、「被告岡嶋は、原告に対し別紙目録記載一の土地(但し別紙図面赤斜線部分)について、被告東兼義は原告に対し同目録記載二の土地(但し同図面青斡線部分)についてそれぞれ原告が通行する権利を有することを認め、原告に通行させる。」というものであるから、相手方両名に対し、それぞれ右「別紙目録一、二記載」の各土地(以下「本件各土地」という。)につき抗告人が通行することを受忍し、又は忍容する不作為義務を負わせたものとなり、右和解条項は債務名義である。更に裁判所書記官が本件和解調書に執行力がないと判断することは、執行文付与申立に対して形式的審査権のみを有する裁判所書記官が本件の実体関係に立つた判断をなすものであつて職務の範囲を超えているから違法である。

二当裁判所の判断

(一)  そこで検討するに、執行文を付与しうる債務名義であるために、当該債務名義のうち如何なる実体法上の給付義務が表示されているかを究明することが必要であるが、その表示の有無を判定するにあたつては、文言のみに拘泥することなく、当該債務名義全体を参酌して合理的に解釈しなければならない。ところで一件記録によると次の事実を認めることができる。すなわち抗告人が昭和四七年一〇月二三日、相手方両名を被告として八雲簡易裁判所に通行権確認の訴(同裁判所昭和四七年(ハ)第一一号)を提起するとともに本件各土地に対する通行妨害禁止の仮処分を申請し(同裁判所昭和四七年(ト)第二号)、これを認容する旨の仮処分決定がなされた。その後右本案事件において訴訟上の和解が成立し、本件和解調書が作成された。

(二)  そして本件和解調書の和解条項第一項には、相手方両名はそれぞれ抗告人に本件各土地を「通行する権利を認め、通行させる。」との記載があり、その文言自体からみれば、相手方両名が抗告人に対し右和解条項によつて負担する義務は本件各土地について抗告人が通行するのを忍容することであつて、それ以上に積極的な作為義務を負うものでない。しかしながら右条項は、相手方両名に対し抗告人が通行権を有することを確認する以上に抗告人を「通行させる」ことを義務付けており、これはとりもなをさず抗告人の通行権の行使を妨害してはならないという不作為義務をも負わせていると解することができる。したがつて相手方両名が右不作為義務に違反して妨害状態を醸成せしめたときは、右和解条項にもとづき代替執行の方法により妨害を除去し得るものと解するのを相当とする。

(三)  よつて本件和解条項第一項は、「相手方両名に対し、本件各土地につき抗告人が通行するのをそれぞれ妨害してはならない。」という不作為義務を負わせたものとして、執行文を付与するにたりる債務名義であると認められるから、抗告人の主張は理由があるので本件抗告を認容することとし、本件異議の申立を却下した原決定及び書記官の執行文付与拒絶処分は失当であるから、民事訴訟法四一四条、三八六条を適用してこれらを取り消し、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(龍前三郎 北谷健一 池田亮一)

目録

一 山越郡八雲町落部五六八番五

雑種地一九二四平方メートルのうち90.33平方メートル

(但し、別紙図面赤斜線部分)

二 同上  五六八番六

雑種地一一四九平方メートルのうち90.33平方メートル

(但し、別紙図面青斜線部分)

和解条項

一、被告岡嶋スエは原告に対し別紙目録記載一の土地(但し別紙図面赤斜線部分)について ――編注斜線部分――

被告東兼義は原告に対し同目録記載二の土地(但し同図面青斜線部分)について

――編注升目部分――

それぞれ原告が通行する権利を有することを認め原告に通行させる。右通行の期限は限定しないものとし且つ無償とする。

二、原告は八雲簡易裁判所昭和四七年(ト)第二号通行妨害禁止仮処分申請事件について同裁判所がなした昭和四七年一〇月二四日付仮処分命令に基く執行処分につき直ちに取消申請の手続をなす。

三、被告らは原告が二項の仮処分申請事件につき供託した保証金一万円について担保取消申立をするにつき同意し且つ即時抗告権を放棄する。

四、訴訟費用は各自の負担とする。

以上

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