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函館地方裁判所 昭和34年(む)116号 判決 1959年6月03日

被疑者 工藤良勝

決  定

(被疑者氏名略)

右の者に対する公職選挙法違反被疑事件について江差簡易裁判所裁判官武藤武雄がなした、勾留期間延長の裁判に対し被疑者より準抗告の申立があつたので当裁判所は左のとおり決定する。

主文

江差簡易裁判所裁判官武藤武雄が昭和三四年五月二八日なした被疑者の勾留期間を同年六月七日まで延長する旨の裁判はこれを取り消す。

検察官の本件勾留期間延長の申請はこれを却下する。

理由

本件準抗告の理由は末尾添付の書面記載のとおりである。

記録によれば、被疑者に対しては、被疑者は昭和三四年四月二三日施行せられた道議会議員選挙に檜山支庁所管選挙区から立候補した福原章成の選挙運動者であるが、図師敏郎より選挙運動の報酬として供与されるものであることを知りながら、(一)昭和三四年四月一八日頃金千円、(二)同月二〇日頃金二千円を受領し、以つて供与を受けたという二個の公職選挙法二二一条違反の被疑事実につき、刑訴法六〇条二号、三号所定の理由ありとして昭和三四年五月一九日勾留状が発布せられ、更に同月二八日検察官より被疑者の受供与金員の使途を明らかにするため必要があるとの勾留期間延長申請により、江差簡易裁判所裁判官武藤武雄が右勾留期間を同年六月七日まで延長する旨の裁判をなしたことが明らかである。よつて記録を精査するに、被疑者が右被疑事実につき証拠を隠滅するようなおそれがあるとは認められず、又被疑者に逃亡のおそれがあるような事情も認められない。のみならず、被疑者の受供与金員の使途についても既に一応の捜査がなされているのであつて、更に被疑者の身柄を拘束してまで右の点について捜査をしなければならないような必要性があるものとは考えられない。

要するに本件については勾留期間を延長しなければならないようなやむを得ない事由があるものと認めることはできないから、結局原裁判は違法というの外なく、これが取消を求める本件準抗告は理由がある。

よつて、江差簡易裁判所裁判官武藤武雄がなした本件勾留延長の裁判はこれを取り消し、更に検察官の本件勾留期間延長申請は、その理由なきものであること前段において判示したとおりであるからこれを却下することとし、刑事訴訟法四三二条、四二六条二項に則り主文のとおり決定する。

(裁判官 小山俊彦 佐々木史朗 新居康志)

(別紙)

被疑者は昭和三十四年四月二十三日施行の北海道議会議員選挙に際し檜山支庁管内より立候補した福原章成候補の運動員であるが同候補の当選を得せしめる目的を以て

一、被疑者は昭和三十四年四月十八日檜山郡江差町字橋本町居住の同候補の運動員である図師敏郎より同人宅に於て前記選挙運動の報酬としてその情を知り乍ら金壱千円の供与を受け

二、更に被疑者は前同月二十日頃前記図師敏郎より檜山郡江差町字橋本町一井増田売炭所前に於て同趣旨の下に金弐千円の供与を受け

たものである。

勾留を必要とする理由

1、罪証湮滅のおそれあるに因る。

2、逃亡のおそれあるに因る。

勾留取消を求める理由

一、(イ)被疑者は右被疑事実の中第一、の事実については昭和三十四年五月十三日頃江差警察署に於て取調べを受けて以来これ迄その事情詳細について再三捜査官に対し陳述し来り何等変るところがない。

(ロ) 第二の事実については事実不存在である。

二、(イ) かかる被疑事実の下において勾留必要理由とするところの1、の理由についてはその直接の関係人である図師敏郎は目下新川拘置支所在監中であり罪証湮滅のおそれはない。

(ロ) 更にその理由2の点については被疑者は目下桧山郡江差町字本町八九番地に一定の住居を有し司法、行政の業務を行つているばかりか妻子のある身分であるから前記被疑事実の下において客観的に逃亡のおそれはない。

右のことについては本月二十五日江差簡易裁判所において開廷せられた本被疑者に対する勾留理由開示公判廷において被疑者の陳述したところである。

三、然るに右開示公判廷に於て立会したる検察官はその意見として目下被疑者は否認中であり事実関係の捜査未了であるから継続勾留の必要ある旨申し述べたが右の如き単純なる被疑事実の下で被疑者に対する数回に及ぶ同一の訊問をなし且被疑者に対し土門検察官は「お前が捜査官が期待するような供述をしなくても既に起訴の段階迄傍証がかたまつているんだ」と言う言明をなしているのであるから更に勾留の必要がない。

四、本月二十八日なされた勾留延長にはその理由として「被疑者の受供与金の使途を明らかにする為継続捜査の必要あるにつき」とあるが前記被疑事実一、に関係する(選挙に関せざる貸借)壱千円についてはその使途は取調調書において明らかであり同二、については不存在であるから受供与金の使途捜査を理由とする勾留延長請求も不当と言わざるを得ない。

右事由により該勾留は取消し願い度い。 以上

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