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佐賀地方裁判所 昭和40年(わ)47号 判決 1968年8月03日

被告人 永淵好治 外二名

主文

被告人永淵好治、同小部スエノを各懲役四月に

被告人益田春雄を罰金一〇、〇〇〇円に処する。

被告人益田春雄において右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

被告人永淵好治、同小部スエノ、同益田春雄に対しこの裁判確定の日から二年間右各刑の執行を猶予する。

理由

第一、全日自労の組織と佐賀分会、被告人の地位

全日自労は昭和二二年六月三〇日土建関係労働者を含めて結成された全日土建一般労働組合(全日土建)が母体となつて、昭和二七年六月大工、左官等の職人が分離して全国土建労働組合総連合(土建総連)を結成したのに伴い、昭和二八年一〇月大会において、その名称を全日本自由労働組合(以下全日自労と略称する)と改めた。全日自労は本部を東京都に置き、全国の都道府県単位に支部を、市町村単位等に分会を設置している。

全日自労佐賀分会は同佐賀県支部の下部組織として、佐賛市、佐賀郡等における失業対策事業就労者(以下失対労働者と略称する)をもつて組織され、その分会員は昭和四〇年二月現在約八五〇名、その中約一二〇世帯が生活保護の適用を受けている。

被告人永淵好治は全日自労佐賀分会副委員長、同小部スエノは同分会分会委員、同益田春雄は同分会組織部長であつた。

第二、収入認定問題

失対労働者中、生活保護法による被保護者に支給される夏季、年末の期末手当について、従来は形式上現物給付となし、換価できないことを理由として、被保護者の収入として認定せず、従つて保護費の削減をしない取り扱いをなされていた。ところが昭和三九年春の厚生省監査によつてこの点を指摘され、生活保護法の適正実施を強調された。ついで同年五月二〇日社保四一号厚生省社会局保険課長通知により、生活保護法を失対労働者とそれ以外の被保護者との均衡を失しないよう適正に実施すること、期末手当として支給された現金はすべて収入として認定すべきことなどを厳達された。

当時九州地区各県では右趣旨に則り同年期末手当より収入認定に踏み切るすう勢にあつたので、佐賀県としても国の指導方針に従つて同年末支給された期末手当より収入認定を実施して昭和四〇年二月分より三回に亘つて保護費を削減することとなつたものである。

第三、本件のいきさつ

全日自労は、政府の方針である収入認定は全日自労が血と汗によつてかちとつた手当の権利を不当にはく奪し、ひいては失対打切りをねらう不当な処分である。低い失対労働者の賃金及び生活保護費によつてさえ「健康で文化的な」生活ができない。その上、収入認定されることは憲法上保障された人間の生存権を侵害する違法な措置であると主張して全国的に反対闘争を展開してきた。佐賀県支部もこれに呼応して収入認定反対を叫び、同年一一月一九日佐賀県知事宛「要求書」を提出して回答を求め、ついで一二月五日ごろから一二月二四日ごろまでの間数回に亘り佐賀県副知事又は同県厚生部長に交渉し、翌昭和四〇年二月二日商工会館において厚生部長成富喜次郎と交渉した際「収入認定は国の方針であるからどうしてもせざるを得ない。交渉はこの段階で打切りたい」旨言明し、集団陳情は遂に決裂した。そして収入認定が同年二月八日より実施されることが不可避となつた。そこで佐賀分会は同月七日闘争方針を立てるため戦術委員会を開催したが定員不足のため委員の申し合せ事項として「佐賀分会が主導権をにぎり率先して抗議をやつて県当局の姿勢をかえる。」「その具体的方針として県支部は県庁前座り込み、街頭宣伝をやる。分会は生活保護額決定通知書を異議申請書と共に返却し、中部福祉事務所、市民生部に抗議デモを行う」ことを定め、翌八日戦術委員会で確認した上、全員集会に提案し決議した。

そこで被告人永淵は佐賀県厚生部長に交渉を申し入れたところ、「本日は都合が悪いから次長と話合つてくれ」といつたまま窓から逃げ出し姿を見せなかつた。中部福祉事務所には三、四〇名の組合員が赴いたが所長病欠のため、木原、初川両課長と話し合つた際県の指示どおり手続が終了してしまつたから今さらどうもできないから県と交渉してくれということであつたので全員引きあげた。

佐賀分会はかような当局の不誠意な態度に強い憤激にかられ、集団抗議に立ち上つたのが本件である。

第四(罪となるべき事実)

一、被告人永淵、同小部の両名は、

(一)  全日自労佐賀県分会員約三〇名と同年二月九日午後二時三〇分ごろ、佐賀市城内一丁目一番五九号所在佐賀県庁厚生部福祉課において、同課課長補佐山下義弘に対し、厚生部長、同次長との面会を求めた際、被告人永淵、同小部らにおいて交互に右山下の両耳もとに口を近づけて「部長、次長に会わせろ」「一食三七円でめしの食える方法を教えろ」「聞こゆつとか」などと鼓膜の痛みを感ずる程度の大声で怒号し、「いくらいつても聞えんようだから洗たくデモでもやるか」と申し向けながら同分会員らと共に右山下の身体を腕、肘、肩などで前後左右に押し、或いは小突くなどし、もつて数人共同して同人に暴行を加え、

(二)  同分会員約四〇名と同月一〇日午後三時三〇分ごろから前記佐賀県庁厚生部福祉課において、厚生部次長遠田孝美を取り囲み、同人に対し、こもごも「部長に会わせろ」「今迄何処に行つとつたか」「馬鹿野郎」「三六円で食えると思うか、我々を殺す気か」などと怒号して右遠田が同分会員らと会うことを避けていた態度を口きたなく難詰した際、被告人小部において右遠田の耳もとに口を近づけて「何処に行つとつたか」「聞えたら返事しろ」などと鼓膜に痛みを感じる程度の大声で怒号したあと同人の着席している椅子を両手で掴んで前後左右にゆさぶり、被告人永淵において着席している右遠田の背後より椅子に割り込み下半身を用いて同人をゆさぶりながら椅子から押し出し、「これだけいつても判らなきや洗たくデモでもしてやろうか」と申し向けながら同分会員らと共に、右遠田の身体を腕、肘、肩などで前後左右に押し、または小突くなどし、もつて数人共同して同人に暴行を加え、

(三)  同分会員約三〇名と共に、同月一一日午前一〇時一〇分頃より前記佐賀県庁内厚生部長室において、厚生部長成富喜次郎に対し抗議した際、同日午前一一時五分ごろに至り同日午前一一時から佐賀県議会決算特別委員会に出席を求められていた同人が右特別委員会より出席されたい旨の督促をうけたので同特別委員会に出席しようとして立ち上つたところ、被告人永淵、同小部は右分会員らと共謀のうえ、同人の面前に右分会員数名と共に立ち塞がつて同人を取り囲み、同人を押すなどしてこもごも「議会より自分達の生活の方が重要だ、自分達は土木部長の例もあるし出さないぞ」「出すな、出すな」などと怒号し、他方、他の分会員らにおいては同室出入口に立ち塞がり、もつて同人に対し脅迫および暴行を加えて、同人の右特別委員会に出席すべき職務の執行を妨害し、

(四)  共謀のうえ、同日午後一時過ごろ前記佐賀県庁厚生部福祉課において、同課保護係長として係員の起草した文書を閲読中の高閑者正憲に対し、同人が前記第一の(三)掲記の機会に、県知事名義の退去通告書を読み上げたことにつき、こもごも難詰した挙句、被告人永淵において「こぎやんすつたあ暴力にならんけんにやあ」といいながら手掌で右高閑者の頬から顎下にかけて数回顔を撫でおろし、或いは被告人永淵、同小部において同人の着席している椅子を掴んで前後にゆさぶつたうえ後方に引張つて同人を床上に転落させ、もつて同人に暴行を加えて同人の右職務の執行を妨害し、

二、被告人益田は、同月一〇日午後零時四〇分ごろから同市松原二丁目三番一九号所在佐賀県庁北別館内、佐賀県中部福祉事務所において、同分会員約三〇名と着席していた同福祉事務所福祉課長木原平及び庶務社会課長初川一夫の両名を取り囲みこもごも「立て、立て」「おれ達を立たせておいてお前達が何故坐つているのだ」「お前達のような月給泥棒が坐わる椅子ではない、立て」などと怒号し、右木原、初川の両名をそれぞれの椅子より立たせようとして、被告人益田において右木原に対し、同人の着席している椅子を掴んで前後左右にゆさぶり、椅子の脚及び同人の右足首付近を数回蹴りつけ、次いで右初川に対し、同人の着席している椅子を掴んで上下にゆさぶつて椅子を傾けたままこれを引張つて椅子もろとも同人を床上に転倒させ、もつて多衆の威力を示して右両名に対しそれぞれ脅迫並びに暴行を加えたものである。

(証拠の標目)<省略>

(法令の適用)

被告人永淵好治、同小部スエノの判示第四の一の(一)、(二)の各所為は各暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二〇八条)、罰金等臨時措置法三条一項二号に、判示第四の一の(三)、(四)の各所為は各刑法九五条一項、六〇条に各該当するので右各所定刑中各懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪なので同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第四の一の(二)の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人永淵好治、同小部スエノを各懲役四月に処する。

被告人益田春雄の判示第四の二の各所為は各暴力行為等処罰に関する法律一条、罰金等臨時措置法三条一項二号に各該当するので右各所定刑中各罰金刑を選択し、右は刑法四五条前段の併合罪なので同法四八条二項により所定罰金の合算額の範囲内で被告人益田春雄を罰金一〇、〇〇〇円に処し、右の罰金を完納することができないときは同法一八条により金五〇〇円を一日に換算した期間被告人益田春雄を労役場に留置することとする。

なお情状により右被告人三名に対し同法二五条一項、罰金等臨時措置法六条を適用してこの裁判の確定した日から二年間それぞれその刑の執行を猶予し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項但書により負担させない。

(被告人及び弁護人らの主張に対する判断)

第一、本件被告人らの行為は、全日自労佐賀分会の適法な団体交渉権の行使によるものであるから、違法性を阻却し、無罪である旨主張する。

一、失業対策事業は失業者に就業の機会を与えることを主たる目的として、労働大臣が樹立する計画及びその定める手続に従つて国自ら又は国庫の補助により地方公共団体等が実施する事業である(緊急矢業対策法二条一項)から失業対策事業の「事業主体」は当該事業を計画、実施する国又は地方公共団体等である(同法三条一項、地方自治法別表一-二一、二-一九)。そして右失業者就労事業に就労する労働者は(一部例外を除き)公共職業安定所の紹介する失業者でなければならない(同法一〇条一項)とされ、失業対策事業のため公共職業安定所から失業者として紹介を受けて地方公共団体が雇用したもので法定の除外事由のないものの職は、地方公務員特別職(地方公務員法三条三項六号)であつて、これらの者には労働組合法の規定は排除されない(地方公務員法五八条参照)から、失業対策事業に就労する労働者は労働組合法の規定に従い、その労働条件を改善するため、事業主体との間に憲法上保障された団体交渉権を有することあきらかである。

被告人らは失業対策事業に就労する労働者にして、佐賀公共職業安定所から失業者として紹介を受け、佐賀県又は佐賀市が雇用した失対労働者に該当するものと認められるので、かような労働者をもつて組織された全日自労佐賀分会は右事業主体との間に労働組合法上の団体交渉権を有し、これを適法に行使できるものであることはいうまでもない。

二、生活保護法は憲法二五条の「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とされた生存権的基本権の理念に基づいて国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮に応じて必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とするものである(生活保護法一条)から、生活保護法の定める事務は本来国の事務であるけれども、地方自治法により地方公共団体の長に委任された機関委任事務とされている。即ち都道府県知事は生活保護法の定めるところにより保護の決定、実施及び保護施設の設置の認可に関する事務を行い、市町村長の事務を監査し、保護施設の運営を指導し、保護施設の管理者について検査し、又は施設の改善を命じ云々並びに保護に関する処分に対する不服申立に対する裁決をする等の事務を行うこと(地方自治法別表第三-四三)は都道府県知事が管理し、及び執行しなければならない事務であり、これは又同様に市町村長が管理し、及び執行しなければならない事務ともされている。

(同法別表第四-(一八))

団体委任事務が地方公共団体そのものに委任され、地方公共団体の事務として処理されるに対し、機関委任事務は地方公共団体の長に委任され、その長は国の機関たる地位において国の事務として処理するものである。

地方公共団体の長は所管部、課の吏員を補助機関としてその事務を補助させ、その執行を福祉事務所長に委任しているものである。

かような地位にある地方公共団体の長は、緊急失業対策法による失業対策事業の事業主体でないことはいうまでもなく、又生活保護法による被保護者との間に労使関係の存在するいわれもない。従つて被保護者の所属する労働組合との間において労使関係の存在を前提とする団体交渉権は認められないものと解するのが相当である。

三、普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体を統轄しこれを代表する(地方自治法一四七条)ものであるが、その地位は地方公共団体の事務について、委員会及び委員の権限に属するものを除くほか、地方公共団体の事務一般を所掌する執行機関であると同時に、前記二に述べたとおり国、他の地方公共団体その他の公共団体の事務を委任されて管理、執行する国、その他の団体の機関としての地位にあるものである。

都道府県及び市町村が処理しなければならない事務の中には緊急失業対策法の定めるところにより失業対策事業を実施し、及び公共事業の実施に際して失業対策上必要な措置を購ずること(地方自治法別表第一-二一、別表第二-一九)が定められているから、かような事務の執行機関たる地位において、都道府県知事、市町村長は事業主体の代表者として、その処分権限に属する事項に関してのみ団体交渉の当事者となり得るものと認められる。

なお都道府県、市町村が生活保護法の定めるところにより、生活保護等に要する費用を一時繰替支弁し、又は都道府県において市町村の生活保護に要する費用の一部を負担することも、その事務に属するものとされているが、(地方自治法別表第一-一五、別表第二-一四)この事務は生活保護法所定の事務そのものではないからこれをもつて収入認定問題についても、団体交渉権ありとする根拠とするに足りないことあきらかである。

ところで憲法二八条が勤労者の団結権、団体交渉権、団体行動権を保障した法意は、使用者対被用者というような関係に立つものの間において、経済上の弱者である勤労者のため団体交渉権を保障し、もつて労働条件の維持、改善をはからしめようとしたものに外ならない。

然らば憲法上保障された団体交渉権の対象となる事項とは如何なるものであるかを検討しよう。この点に関する一般法として団体交渉の対象事項を規制したものはない。労働組合法は「労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること、労働者がその労働条件について交渉する」「使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉」(労働組合法一条)、「労働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限」(同法六条)と抽象的に規定されている。

国家公務員法は「職員の給与、勤務時間、その他の勤務条件に関し、及びこれに付帯して社交的又は厚生的活動を含む適法な活動に係る事項」「但し団体協約を締結する権利を含まない」「国の事務の管理、運営に関する事項は交渉の対象とすることができない」「交渉することのできる当局は、交渉事項について適法に管理し、又は決定することのできる当局とする」(同法一〇八条の五)。

公共企業体等労働関係法は「(一)賃金その他の給与、労働時間、休憩、休日、休暇に関する事項、(二)昇職、降職、転職、免職、休職、先任権及び懲戒の基準に関する事項、(三)労働に関する安全、衛生、及び災害補償に関する事項、(四)その他の労働条件に関する事項、(五)交渉委員の数、任期、交渉手続に関する事項、苦情処理共同調整会議の組織、その他苦情処理に関する事項」を団体交渉事項とし、「公共企業体等の管理、運営に関する事項は団体交渉の対象とすることはできないとした(同法八条、一一条、一二条二項)。地方公営企業労働関係法にも同趣旨の規定がある(同法七条、一三条二項)。

以上によつてみると団体交渉の対象事項は基本的労働条件に限定されず、組合活動、人事、経営、福利厚生に関する事項等多岐にわたつているが、これらの事項は結局使用者の処分権限に属する労働条件に関するものということができる。

本件収入認定は、なるほど生活保護法による被保護者の「生きる権利」に重大な影響を及ぼすものであつて、実質上賃金をさしひかれるのと同じ結果を招くとしても、収入認定事務は生活保護法にもとづく国の機関委任事務として地方公共団体の長の事務なること前段説示のとおりで、使用者たる地方公共団体としては処分権限のない事項であるから、適法な団体交渉事項に当らない。よつて被告人らの本件行為が団体交渉権を行使したものなることを理由として違法性を阻却する旨の主張は失当である。

第二、本件収入認定は憲法二五条、二七条、二八条に違反する生存権に対する積極的侵害であるから違法、無効な措置である。少くとも憲法二五条二項の国の責務に反する措置であるからこれに反対し、わが国の社会保障の後進を阻止するためになされた被告人らの本件行為の目的は正当であり、そのためにとられた手段も緊急性にもとづくやむを得ないものであり、相当性の範囲を越えていないし、かつ被告人らの行為によつて守ろうとした法益は、それによつて侵害された法益に比しはるかに大であるから法益均衡上も正当である。仮に被告人らの行為が暴力行為等処罰に関する法律一条、または公務執行妨害罪の構成要件に該当するとしても、超法規的違法性阻却事由があると主張する。

そこで先づ本件収入認定の違憲性について判断する。

一、生存権について

憲法二五条は生存権を保障した規定である。これは自由権的基本権に対して生存権的基本権(又は社会的基本権)といわれるもので、この生存権的基本権にもとづいて勤労権(憲法二七条)、団結権、団体交渉権(憲法二八条)が保障されたものである。この憲法二五条一項は「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定している。この規定はすべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではない(昭和二三年九月二九日、昭和四二年五月二四日大法廷判決)とされている。この生存権は法律的には単なるプログラム的意義を有するにとどまるものではなく、国民が健康で文化的生活を営むことができるように国に対して積極的な施策を講ずべき法的義務を課して国民の生存権を保障し、同条二項は右責務を遂行するために国がとるべき社会保障、社会福祉などを向上、増進すべきことを国の任務としたものと解すべきである。この生存権は人間の生きる権利であり天賦の人権であるから、何人も侵すべからざる最も重要な基本的権利である。国が国民の生存権の実現に努力すべき責務に違反し、生存権を侵害するような行為をなすときは、その行為は違法、無効であるといわねばならない。

憲法二五条の生存権にもとづいて生活困窮者に対する社会保障制度の一環として規定されたものが生活保護法であり、生存権にもとづく勤労権を保障したものの一つが緊急失業対策法である。そこで以下生存権の理念より本件失対賃金、期末手当、生活保護費、収入認定問題について検討する。

二、失対賃金について

高度経済成長のもと、資本主義経済の発展は経済的弱者としての労働者階級を必然的に貧乏と失業による生活難におとしいれ、生存権を脅かし、深刻な社会問題を惹起せしめるに至つた。緊急失業対策法は「多数の失業者の発生に対処し、失業対策事業及び公共事業にできるだけ多数の失業者を吸収し、その生活の安定を図る」ことを目的として、憲法二五条の生存権にもとづく憲法二七条一項の勤労権の保障を具体化したものである。失対賃金は同条二項により緊急失業対策法一〇条の二によつて労働大臣が定めることとし、失業対策事業賃金審議会の意見を聞いて、同一地域における類似の作業に従事する労働者に支払われる賃金を考慮して、地域別作業内容に応じて定めるものとされている。

右失業対策事業賃金審議会は学識経験者五人以内の委員を労働大臣が任命し、諮問に応じているものであるが従来事業主体、労働者などの意見を聞かないで定められていたところ、全日自労等の強い要望もあつて昭和三八年緊急失業対策法の改正に伴い、あらたに「審議に際し必要と認める場合においては関係事業主体、関係労働者その他の関係者の意見を聞く」ものと附加された(同法施行規則)。

失対賃金は従来一般職種別賃金(P、W)を基礎に規制されていた。このP、Wの対象である屋外日雇労働者、即ち土工、または雑役夫のような半失業者の非常に低い賃金を基礎にして具体的には毎年八月に行なわれる「屋外労働者職種別賃金調査」の結果にもとづいて決定される仕組みになつていた。その結果P、Wが改定されるのは翌年の四月で、実際使用されるのは一年のずれがあることになるが、失対賃金はその八割乃至九割に押さえられていた。

現行法では「同一地域、類似の作業の賃金を考慮して」きめることがうたわれて一般賃金との比較が基本とされているが、事実上低い屋外日雇労働者の賃金にしばりつけられることになる。現行失対賃金の最大の問題はその額がきわめて低いことである。

即ち昭和三九年度全国平均日額五〇一円九〇銭、月額一一、〇四二円(二二日就労)である。これを人事院標準生計費東京都独身男子一四、〇七〇円、常用労働者賃金二八、二三三円(毎勤統計全産業定期給与)、労働省の「屋外労働者職種別賃金調査」に比すれば賃金上昇給率も悪く一人分の生計費にすらも達しない。労働省の「日雇労働者生活実態調査」によれば失対労働者の平均世帯人員は三・二二人であるから、失対賃金だけで生活することは到底できない。生活保護と比較してみれば、失対賃金では三人世帯でほぼ生活保護と同水準になるから、それ以上の家族構成では生活保護を受けなければならなくなる。佐賀県では全国平均を下廻り昭和四〇年二月当時失対賃金は男子四五五円、四四五円、四三五円の三段階、女子は四一五円、四〇五円であつた。失業保険金二四〇円の月四日分、月間二二日就労とすれば失対労働者の月収入は最高一〇、九七〇円、平均家族三・五人全収入を食費だけと見た場合一人、一日、一食あたり三四円八三銭、女子の場合家族構成平均三人、一人、一日、一食あたり三七円となる。失対労働をしながら生活保護を受けなければならないことは、現行失対賃金が労働の対価としての一面のみにとらわれ、家族全体の生活保障の形態をとつていない証左である。失対賃金で失業者とその家族が「健康で文化的な生活」ができるように引き上げることが、失業対策の重要な課題である。

ワイマール憲法はつとに「経済生活の秩序はすべての者に、人間たるにあたいする生活を保障する目的を持つ正義の原則に適用しなければならない(一五一条)」と規定して生活保障を目的とする賃金のありかたを示唆した。

国連の世界人権宣言によれば、社会的基本権として「失業に対する保護を要求する権利(二三条一項)、同一労働に対する同一賃金の権利(同条二項)、うける報酬は「かれ自身及び家族に対して人間的尊厳にあたいする生存を保障し、かつ必要な場合には他の社会的保護手段によつて補足された公正で有利な報酬でなければならない(同条三項)」とし、東独憲法も「労働者及びその扶養をうける権利ある家族に、人間にあたいする生存を維持する報酬、賃金」を与えられなければならないとした。真の社会保障は自己の労働によつて生活するすべての人間とその家族ならびに一時的もしくは恒久的に労働し得ないものに対して法律が保障する基本的社会的権利とみなされねばならない(一九五三年、ウイーン国際社会保障会議)。現行失対賃金はこうした社会保障的機能は十分にはたされていない。

緊急失業対策法が失業者の「生活の安定」を目的とするものであれば、生活保護を受けなくても「人間の尊厳にあたいする生存」を保障する程度に賃金水準を大幅に値上げしなければ到底「生活の安定」が得られるものではない。

三、期末手当について

緊急失業対策法一〇条の二、二項によれば「賃金の額は夏季又は年末に臨時に支払われるものについて特別の定めをする」旨規定している。この臨時の賃金は昭和三八年七月八日法律一二一号による同法の改正で新らたに規定されたもので同年一〇月一日より施行された。「期末手当は賃金にくり入れるべきだ」とする失対問題調査研究会の報告を基礎として「類似の労働者の期末手当を調査し、賃金審議会の意見をきいて労働大臣が定める」ものとされた。

期末手当は「もち代よこせ」の強い要求に対し、初期では就労日数が少かつたので盆、暮の就労日数増加の形がとられていたが、そのうち地方自治体から手当として支出するものが増え、国の措置として昭和二七年末はじめて実施されて期末手当三日分を支給したが脱法措置であるため「日々の基本賃金を増額して一括支給する」たてまえをとつたのをかわきりに、年々増額され昭和三八年度年間二三・五日分(一〇、七六三円)となつた。

地方自治体においても当初就労日数の増加や現物支給が多かつたが、昭和二七年の国の措置がとられてから地方自治体の単独措置として現在まで夏季、年末手当が支給されるようになつたものである。

これらの手当は失対賃金が極めて低く、しかも労働大臣の決定のもとにおかれていたため当面この期末手当の引上げにより低賃金を補なおうとして全日自労が全国的組織と強化の中で賃金引上げ運動と共に、地方自治体に対する期末手当を公務員と同率に支給すべしと要求して獲得してきたものである。佐賀県において昭和三九年度一人当り国から支給された分は夏季手当四、四六四円、年末手当八、五九九円、県から支給された分は夏季手当二、七〇〇円、年末手当四、一〇〇円、市から支給された分夏季手当五、〇〇〇円、年末手当七、三五〇円であつたから右年末手当合計は二〇、〇四九円、夏季手当合計一二、一六日円となる。その中国から支給された額に見合う分か特別控除されたら実質上本件で問題とされた収入認定額は県及び市から支給された年末手当約一一、四五〇円である。

四、生活保護費について

生活保護法は憲法二五条の生存権保障の理念にもとづいて、同条二項の社会保障の一環として困窮者の生活保護制度を国の直接の責任において実現しようとするものである。生活保護法の規定により要保護者ないし被保護者が国から生活保護を受けるのは、単なる国の恩恵ないし社会政策の実施に伴う反射的利益ではなく、法的権利であつて、保護受給権とも称すべきものと解されている(昭和四二年五月二四日大法廷判決)、この法律により保障される最低限度の生活は健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない(三条)、厚生大臣が保護基準を定めるに当つては、要保護者の年令別、性別、世帯構成別、所在地域別、その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活即ち「健康で文化的生活」水準に適合するよう有効かつ適切に決定されねばならないとされている。前掲朝日訴訟において最高裁大法廷判決は生活保護法にもとづく生活扶助基準が入院入所中の患者の最低生活を維持するに足りるとした厚生大臣の認定判断が与えられた裁量権の限界をこえ、または裁量権を濫用した違法があるものとはとうてい断定できないとした。

しかしながら保護基準の不当に低額な実態にかんがみれば、右判決は厚生大臣の措置が妥当であつたものとして支持したものではなく、その措置が違憲、違法とまではいえないと判断されたにすぎない。

昭和三九年一二月末現在における佐賀県の被保護世帯数約八、〇〇〇中全日自労佐賀分会に属するもの一三四世帯となつている。第二〇次改定(昭和三九年四月一日)保護基準による最低生活費は標準四人世帯(男三五才、女三〇才、九才男、四才女)、三級地(佐賀市)一七、一九六円四級地(佐賀郡)一五、二六七円である。失対労働者の場合は保護の補足性の原理によりこれより失対賃金(基礎控除)が差引かれた残額が保護費として支給されることになる。

証人永尾清は失対労働者で生活保護を受けている者であるが、その生活体験を通して保護の実態を分析し、失対賃金、生活保護費を合わせて二〇、〇〇〇円の収入で家族五人の生活をしなければならないこと、一、二〇〇円の家賃で住める借家はなく、精米所のこぼれ米を拾つて路傍の雑草をつんでおじやを炊いて食べていたこと、教育扶助の不足で子供の教育もできないことなどどん底生活の窮状を訴えている。これは被保護者の生活の一端であるが、およそ「健康で文化的な生活」とかけはなれたおそまつな保護行政の実態が現われている。ところで保護基準はひとり生活保護法における最低生活水準を規制するのみならず、厚生年金保険、失業保険、国民年金等社会保障給付の水準を規制し、さらに失業対策事業の賃金との関連を通じて一般賃金水準をも規制するものであることを看過してはならない。

そもそも健康で文化的な最低限度の生活は、文化の発達、国民経済の進展に伴つて向上するのは勿論であるが、国の財政状態、国民の一般的生活水準、都市と農村の生活の格差、低所得層の占める割合、生活保護を受けない多数貧困者の生活程度などの生活外的要素を考慮して保護基準を設定すべきである。

生活保護基準とすべき生活費算出方法として昭和二三年八月以来理論生計費方式であるマーケツト、バスケツト方式が用いられてきたが昭和三六年四月一七次改定以後エンゲル方式が採用された。これは合理的計算に親しみやすい飲食物質の最低限度をマーケツト、バスケツト方式で算出し、その他の生活費はエンゲル係数(総生活費中に占める飲食物費の割合)を用いて、最低限度を算出するものである。この方式はマーケツト、バスケツト方式の短所を補うものであるが適当なエンゲル係数を決定することが困難であるとされる。保護費の算定方法は今後尚大いに研究を要すべきものが残されている。

生活保護基準は昭和三六年四月改定以来毎年大幅に引上げられて、一般国民の生活基準との格差もそれに応じて縮少されてきているものの、保護基準をどの程度にするかは毎年度政府予算案算定の際大きな問題となつているものと思料され、国家財政の見地からも検討すべき問題である。政府当局は生存権を保障するための社会保障の役割を果たすのに必要にして十分な合理的生活保護基準の設定に努力すべき責務があるものといわねばならない。

五、収入認定違憲論について

本件収入認定は生活保護法二条の無差別平等の原則、同法四条の補足性の原則、同法八条の保護基準の原則にもとづいてなされたものであることは明らかである。昭和二七年末より期末手当が支給されたことは前記のとおりであるが、従来は現金を支給しながら現物を支給した形式をとり換価できないものとして収入認定の対象にならなかつたのに何故昭和三九年度の期末手当からは過去一二年間の慣例を改めて、収入認定して保護費より削滅する取扱いをせざるを得なくなつたのであろうか。

証人成富喜次郎の証言によれば、各県や失対事業を行なう市町村では期末手当に現物の支給がなされていたが、現物である地下たび、作業衣などは換価できないので全国、九州各県においても収入認定しなかつた。これには若干の疑義があり、その後社会保障の国の財政もぼう大な額となり、生活保護費も相当額を占めてきた。これが政府、地方自治体において重大な関心を持たれ適正実施政策の段階に至り、全国の実態調査の結果、全日自労の被保護者のみ特別措置をとることは他の被保護者との関係で不公平である。そこで現金であろうと、現物であろうと収入として認定すべきであるという行政指導が昭和三九年から強く打出された旨述べている。

政府が全日自労の強い反対を押し切つて収入認定強行策に出た事情について右証言のほかに証人天野順

二、同中田嘉吉は大要次のとおり述べた。

昭和三六年高度経済成長政策として所得倍増計画が樹立され、労働力流動化政策が提起されたのであるが、昭和三七年五月一八日失業対策問題調査研究会で福永労相は

(1)  現在の一般失業対策事業を全面的に廃止する。

(2)  失業対策事業で労働する三五万人のうち、労働力の高い中高年労働者を他の事業に移し、民間雇用への転換を促進する。

(3)  老人、婦人、病弱者については失業手当を新設し、生活保護などの社会保障で救済する。

いわゆる福永構想と呼ばれるものを発表した。これを契機として翌昭和三八年より職業安定法、緊急失業対策法の改正と相まつて労働力流動化政策が本格的に始まつたものである。その中心課題は中高年労働者層の過剰と若年労働者の大企業集中による不足問題を解決する方法として中高年労働者を低賃金、劣悪な労働条件で中小企業へ移動させ、労働者の地域的アンバランスをなくするため、職業選択の自由をほうきして広域紹介をしようとする政策である。

本件収入認定の問題はかような労働力流動化政策の一環をなすもので劣悪な労働条件を強いる低賃金政策のあらわれである。そしてそれは生活保護と矛盾し衝突する。

結局収入認定は生活保護法による資産能力活用の問題に帰する。「健康で文化的な生活」は労働に従事しているものにとつては、その労働の再生産に必要な給与等が確保されねばならない。労働の能力なく国の保護を受ける生活保護はそれ以下ということになる。そうだとすれば失対賃金が生活保護費以下になるような政策上の矛盾があつてはならない。

かように述べた。

わが国では最低賃金法はあるけれどもそれは業者間協定を規制するのみで現在一般に適用される最低賃金制がない。失対賃金も最低賃金制によつて生活の保障がなされることになれば生活保護者との矛盾も解決され、収入認定の問題を生ずる余地はなくなる。国民すべてが「健康で文化的な生活」を維持できるよう、失対賃金、生活保護費の大幅引上げ、最低賃金制の確立など社会保障機構を拡充、整備し、もつて福祉国家を建設することこそ刻下の急務である。かような対策を講ずることなく実施された本件収入認定は著しく不当な措置ではあるが、生活保護基準が違憲でない以上、収入認定そのものも違憲、無効と判断するわけにはいかない。

尚弁護人は本件収入認定は全日自労の弱体化をねらうものである点で憲法二八条に違反すると主張する。

証人中田嘉吉の証言に照せば「失対労働者の期末手当は当初三日分であつたが現在は年間二九・五日分の国の手当のほか、地方自治体の支給分を合わせると率において国家公務員なみに増加した。低賃金と無権利の見本であつた失対労働者も全日自労の団結力によつて低賃金政策を打破する力を発揮するに至つた」ことは認められるけれども証人天野順二の「収入認定は全日自労の弱体化をねらつたものである」旨の供述は、にわかに措信し難い。収入認定が労働力流動化政策の一環として失対打ち切り、ひいては全日自労の弾圧をねらつたものであるとするならば全日自労は過去一〇数年右期末手当獲得のため全国的に一丸となつて闘争したように益々団結権を強化せざるを得ないであろう。

政府が憲法二七条に違反して全日自労の団結権を阻害し、弱体化せしめる意図で収入認定を実施したものと解することは当を得ない。他に右主張を肯認するに足る証拠はない。

之を要するに本件収入認定は勤労意欲を減退し、自立助長をも阻害することも考慮すれば決して妥当な行政措置ではないが厚生大臣が裁量権の範囲を逸脱し又は裁量権を濫用したものとは認め難いから違憲、無効なものでないこと前段認定のとおりである。よつてこれが違憲であることを前提として被告人らの本件行為の目的が正当である旨の主張は失当である。

次に全日自労佐賀分会の集団抗議手段としてとられた本件行為は、生存権にもとづく抵抗権の行使であつたとするも、判示のような多衆の暴力を伴ない、社会の法秩序を乱すにいたれば相当性の範囲を超えた違法なものとして到底容認できるものではない。その他本件収入認定は客観的に違法に生存権を侵害するものとは認められないから法益均衡を論ずるまでもなく、本件には超法規的違法性阻却事由が存在しない。

以上の理由により被告人ら及び弁護人の主張はすべて採用しない。

むすび

資本主義経済機構の底辺に、失業と貧乏、生活苦とたたかつて生きようとする二〇数万の失対労働者に対し政府当局が過去一二年間の慣例を一片の通達をもつて期末手当に対する期待権を裏切り収入認定を強行することは妥当な措置ではない。でき得べくんば立法化によつて解決するか、又は特別控除を全面的に認める措置を講ずるなどして保護費が実質上減額しないような政策が好ましい。憲法二五条生存権の理念が国の政治的、道義的義務であることを宣言する以上財政上の負担を理由に保護受給権を侵害することは許されない。国は失対労働者にして生活要保護者に対してはなんらかの特別措置を考慮して積極的に生存権の維持、発展に努力すべき責務がある。

佐賀県関係当局が国の指導方針に従わざるを得なかつた立場にあることは認められるけれども、行政の第一線に立つ者としては直接民衆に接し、民衆の声に耳を傾けて温い態度で根気強く協議し合い説得することこそ、その要諦である。全日自労佐賀県支部とは既に交渉打ち切りをしたから下部組織である佐賀分会とは交渉に応ずる義務はないという態度で面談を逃避しようとしたことが、かえつて本件紛争を挑発したものと認められる。かような事態が当然予想せられる時期において収入認定の強行措置を断行したのは決して当を得た措置ではない。

全日自労は要求貫徹のため集団的示威をもつて抗議形態をとる場合、時に群集心理にかられ、異常な興奮の渦に巻き込まれて合法性の限界を超える行為を誘発しかねない。全日自労幹部指導者は、特別地方公務員たるの自覚と誇りをもつて、今後正しい交渉のありかたを指導、善処されたい。

被告人らは単に個人のためではなく、組合の役員たる地位にある立場上、多数仲間の利益のため、抵抗して立ち上つた本件動機には同情すべきものがあり、本件を契機として、収入認定問題も一応おちつき平穏裡に実施段階に入つた現在、改悛の情顕著なるものありと思料される。

以上諸般の事情を勘案して主文のように量刑した次第である。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 岩村溜 川崎貞夫 塚田武司)

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