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仙台高等裁判所秋田支部 昭和54年(ラ)2号 決定 1980年12月12日

抗告人 株式会社須藤製作所

右代表者代表取締役 須藤重三郎

同 荘内ガス株式会社

右代表者代表取締役 五十嵐薫

同 株式会社庄内電子計算センター

右代表者代表取締役 新井野竹雄

右抗告人ら代理人弁護士 加藤勇

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨は「原決定を取消す。手続費用は更生会社の負担とする。」との裁判を求めるというのであり、その理由の要旨は次のとおりである。

抗告人らは、いずれも本件更生手続において債権届出をして議決権を有する更生債権者であるが、原決定には、次のとおりの瑕疵があり取消さるべきである。

(一)  原決定において認可された更生計画のうち、第三章更生担保権の権利変更および弁済方法の3(1)(2)の住友商事株式会社(以下住友商事という。)ならびに株式会社荘内銀行(以下荘内銀行という。)に対する代物弁済条項は、違法かつ不当である。

(1)  右条項によると、住友商事の有する更生担保債権のうち金九、八八三万四、七七二円に対して更生会社所有の更生計画別表10の1記載の土地をもって代物弁済し、荘内銀行の有する更生担保債権のうち金一億一、二三八万六、三一一円に対して更生会社所有の更生計画別表10の2記載の土地をもって代物弁済する旨が定められている。

(2)  ところで、更生担保債権の弁済方法について、更生計画は右代物弁済を除き昭和五六年から昭和六五年まで毎年一〇分の一ずつを金銭で弁済する旨を定めている。これに対して住友商事の場合には、更生担保債権金九、九六七万七、九九九円、荘内銀行の場合には更生担保債権金四億五、一一六万六、二〇二円のうち前記金額を更生計画認可決定の確定後直ちに右土地をもって代物弁済するというのであるから、前者については債権額の九九パーセント、後者についてはその二五パーセントがそれぞれ即時弁済されることになる。

(3)  本件計画の右の差別的取扱いは、平等な取扱いを定めた会社更生法二二九条に違反する違法なものである。もっとも、同条但書には債権の少額なものについて別段の定めをすることも公平を害しない場合には許される旨規定されているが、この規定の趣旨は少額の債権者を保護するためのものであって、高額債権者に対するものではないから、この面から本件更生計画は違法である。

(4)  更に、右代物弁済物件の評価は不当に低額であって、この評価額をもって前記代物弁済に供することは、右担保権者に不当に利益を得させることとなり、その反面他の更生担保権者は不利な差別を受けるものである。

即ち、本件更生計画における代物弁済物件の評価額は、会社更生法一七七条に基づく財産評定額をそのまま採用するものであるが、同条による評価方法は、同条二項によって会社の事業を継続するものとして評価しなければならないとされており、この評価は処分価額により一般的に低額となっているものであるから、代物弁済の場合には、処分価額に評価換するのが相当である。本件更生計画においては代物弁済対象物件を一平方メートル当り金六、九五八円と評価しているが、時価相当の処分価額は一平方メートル当り金一万円を下るものではないから、住友商事および荘内銀行はその差額を過剰に弁済を受けることとなり、益々他の更生担保権者との間に不公平を生ずるものである。

(二)  原決定において認可された更生計画のうち第六章一般更生債権の権利変更および弁済方法の条項は違法である。

(1)  右条項2その他の債権について、更生計画は、債権額が金二〇万円を超える場合は、債権額から金二〇万円を控除した残額の八五パーセントの免除を受ける旨一般更生債権の権利変更が定められている。

(2)  しかしながら、これは本件更生計画別表13の工場財団を組成する土地および鶴岡市泉町所在の土地の評価が低額にすぎるためであって、これが適正に評価されたなら一般更生債権者の債権免除をもっと低額に押えることができるものである。

即ち、右は会社更生法一七七条によって評定されたものであるが、合計二〇筆のうち一一筆の土地は評価額が帳簿価額を下回っており、合計額においても同様である。これらの土地は合計金三億三、七一六万一、四三九円と評価されているが、市街地の真中にあり時価にすると金一三億九、四三八万五、〇〇〇円(三・三平方メートル当り金一五万円)にも達するものである。

(3)  会社更生法一七七条の評価方法によっても評価額が帳簿価額より低いというのは、その評価が不合理というのほかない。会社の事業継続という点を加味しても極端に時価を下回るものではなく、時価に近い価額をもって評価するのが妥当である。本件については三・三平方メートル当り金一二万円と評価するのが相当である。そうすると、右各土地の評価額の合計は金一一億一、五五〇万八、〇〇〇円になり、管財人の評価額との差額金七億七、八三四万六、五六一円は評価益として計上することになる。

(4)  そうすると、更生計画別表1貸借対照表の資産の合計は金三四億一、四〇六万一、二〇六円となる。一方右の負債および資産の部については、更生担保権の額を金七億五、九二五万二、九〇六円に修正し、劣後的更生債権は免除相当であり、資本金も全額減資となるから、欠損金は金四億二、九五八万七、四四六円となる。

(5)  したがって、本件の場合右欠損金相当額についてのみ一般更生債権の免除を受ければ足りるのであり、この免除率を計算すると約三〇パーセントである。即ち、一般更生債権については、債権額が金二〇万円を超える場合に債権額より金二〇万円を控除した残額の三〇パーセントの免除を受ければ会社更生には十分であって、残り七〇パーセントの債権につき会社更生法二一三条によって許される期限の範囲内において割賦弁済の方法によって弁済を計画すべきである。

(6)  右のように土地の評価額を低額に押え、必要以上に一般更生債権の免除を求めるということは、会社更生法一条の趣旨に反しかつ同法二三三条一項二号に反し、計画が不公正、不公平であって違法である。

二  よって判断するに、

(一)(1)  本件記録によると、抗告人らが、いずれも本件更生手続において債権届出をして議決権を有する更生債権者であること、および前記一(一)(1)・(2)の各事実が認められる。しかしながら、右各土地は羽越線鶴岡駅の南西約六キロメートルの丘陵部に位置していて鶴岡市街地より離れた閑散な場所にあり、その北側は急傾斜地を挾んで水田に接し、南側には道路を隔てて工場五棟が建設されており、東側は工場一棟と接し、西側は道路を隔てて工場用地と接し全体として工場団地を形成していて、住友商事および荘内銀行の両社が自らこれを使用する可能性は少なく、また、従前の経緯にてらしてこれを早急に処分しうる可能性が少ないこと、そして、さらに本件各土地についての公租公課および管理費用を要することを考慮して、右両社は、当初金銭弁済のほうが好ましいとして代物弁済の申し入れを拒絶していたが、更生管財人の強い要請によりこれに同意するに至ったものであることが、それぞれ認められる。

してみると、本件代物弁済計画は、抗告人申立のとおり形式的には更生担保権者間の平等を欠くものといいうるが、前記認定の各事情の下では、本件代物弁済が前記両社にとって他の更生担保権者に比して特に有利であるとまでは解せられず、しかも、右両社はこの代物弁済計画に同意しているので、本件更生計画中のこの部分が、会社更生法二三三条一項二号にいう「衡平」を害するものということはできない。

(2)  また、本件各土地の評価についてみるに、本件記録によると、本件各物件については、遊休資産または将来他に譲渡されることが明らかな資産として処分見込価額をもって評価したものであることが明らかであるから、抗告人のこの点についての主張はその前提を欠き採用できない。

(3)  なお、本件記録によると、本件各土地は一体として利用が可能であると認められるものの、その敷地内に国有の水路敷が介在していること、その用途が限定されていること、更生会社は昭和四八年以降に本件土地を一平方メートル当り金二、八七四円で売り出していたが買手がつかなかったこと、本件各土地の正常価額は、昭和五一年一〇月二一日不動産鑑定士金子幸市により一平方メートル当り金六、三〇〇円と評価されていたことなどを参酌すると、更生管財人が本件各土地につき一平方メートル当り金六、九五八円と評定したことをもって不当に低額であるとすることはできない。

(二)  本件記録によると、一(二)(1)の事実のほか、抗告人主張の各土地は、更生開始以前から一体をなして更生会社の工場用地として使用されており、将来においても一体として利用するのが相当であることがそれぞれ認められる。

ところで、会社更生手続は、手続開始決定時を基準とする会社の事業継続価値を観念的に清算する手続であるため、財産評価の基準は遊休資産または将来他に譲渡されることが明らかな資産を除き、手続開始決定時における事業継続価値によるべきものと定められている(会社更生法一二四条の二、一七七条)。そして、更生手続における財産評価は、前記例外の場合を除き、一面において新しい価値基盤としての客観的な資産額を再確定して以後の損益計算を現実的ならしめるとともに、他面において債権の引当てとなる総資産額を算定するために行うものであるから、その価額は、個々の財産が持つ財としての価値の総額ではなく、将来一定の利潤を生む企業全体の能力としての価値でなければならないのである。

したがって、これと前提を異にする抗告人の主張は、その余につき判断するまでもなく失当であり、採用することができない。

(三)  その他、職権により調査するも、本件更生計画を不認可とすべき事実は、これを認めることができない。

(四)  以上のとおりであって、抗告人の主張は理由がなく、原決定は相当であるから、本件抗告は理由がないものとして棄却することとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 福田健次 裁判官 吉本俊雄 小林克巳)

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