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仙台高等裁判所秋田支部 昭和40年(う)103号 判決 1968年4月01日

被告人 金子仁 外二名

主文

原判決を破棄する。

被告人金子仁、同加賀谷謹之助、同土田勝義をそれぞれ拘留五日に処する。

差戻前の第一審および差戻後の原審ならびに当審における訴訟費用はいずれもその三分の一宛を各被告人の負担とする。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人等三名の弁護人重松蕃および同樋口幸子共同名義の控訴趣意書および同控訴趣意補充書ならびに被告人等各名義の控訴趣意書の記載のとおりであるから、いずれもこれを引用する。

一、重松、樋口両弁護人(以下単に弁護人という。)の控訴趣意第一点の(一)、補充控訴趣意第一(公訴不法受理の主張)について

論旨は要するに、被告人等三名に対する本件各起訴は、昭和三六年度秋田県予算案に関して秋田県県政共闘会議が小畑知事に提出していた諸要求についての団体交渉に際して、これを支援するため右県政共闘会議傘下の労働組合の組合員が行なつた知事公舎における座り込みを契機として、県政共闘会議の労働運動を弾圧することを企図した検察当局が、憲法の保障する正当な団体行動である右の座り込みを暴力の行使であるとし、強制捜査を実施するとともに、被告人等に対する本件起訴前の証人尋問を裁判官に求めた上、被告人等が正当な理由なくして裁判官の尋問に対し証言を拒んだとの事実によりなされた起訴であり、その公訴権の濫用によるものとして無効であるのにかかわらず、原審が公訴を棄却することなく、実体につき審理した上、被告人等三名に対しそれぞれ一部有罪の判決をしたのは、不法に公訴を受理したものである、というにある。

しかし、所論にかんがみ、記録を精査するも、秋田県県政共闘会議が昭和三六年度秋田県予算に関して小畑知事に対して提出した諸要求についての同会議と小畑知事との折衝に関連して、同会議所属の組合の組合員等の行なつた一連の行動に犯罪の嫌疑ありとして、検察当局が行なつた被告人等に対する起訴前の証人尋問の請求および被告人等が正当な理由なくして裁判官の尋問に対し証言を拒んだとの事実によりなされた本件各起訴が、所論の如く県政共闘会議の労働運動を弾圧する目的に出たものであるとの事実を認めるに足りる証言はなく、本件各控訴の提起がいずれも適法な手続によつてなされたことが明らかであるので、所論はその前提を欠き採用することができない。論旨は理由がない。

二、弁護人の控訴趣意第一点の(二)(公訴不法受理の主張)について

論旨は、本件被告人等三名に対する各証言拒否罪の訴因は、いずれも被告人等において証言を拒否したものとされている事項が、(一)証言を拒むことを許されない事項であつて、(二)被告人等においていつたん証言を拒んだ後、裁判官からその事項については証言を拒むことができないとの判断を示された上、証言を命じられたものであることの記載を欠いており、訴因が特定されていないので、公訴提起の手続がその規定に違反して無効であるのにかかわらず、原審が公訴を棄却することなく、実体につき審判したのは、不法に公訴を受理したものである、というのである。

しかし、公訴提起については刑訴法二五六条においてその方式が定められていて、起訴状には、訴因を明示して公訴事実を記載すべく、かつ訴因を明示するに当つては、できる限り日時、場所および方法をもつて罪となるべき事実を特定すべきものとされているが、訴因は、特定の犯罪の構成要件に該当する具体的事実をいうものと解すべきである。本件において、被告人等はいずれも刑訴法一六一条一項所定の証言拒否罪に該当する事実あるものとして起訴されているのであるから、被告人等に対する本件起訴状には、同法条の構成要件たる「証言を拒んだ」との要件を充足する具体的事実を訴因として掲げることを要するとともに、これをもつて足りるものというべきであつて、所論(一)および(二)の如き事実の記載の要なきことは明らかであるばかりでなく、被告人等に対する各訴因が右の要件を充足した事実を特定して記載しているので、訴因の記載として欠くるところはない。所論は、すでにその前提において誤つているものというべく、とうてい採用の限りでない。論旨は理由がない。

三、弁護人の控訴趣意第二点の(一)、補充控訴趣意第二(理由不備の主張)について

論旨は、差戻前および差戻後の各第一審を通じて、重松弁護人は、本件において被告人等三名は、それぞれ原判示各関係裁判官の判示各関係尋問事項についての尋問に対して証言拒否権を行使し、その事由を示したが、かかる場合裁判官において、示された事由が証言拒否の合理的な事由とならないものと認めたときは、憲法三一条の精神に則り当該尋問事項につき証言を拒むことは許されない旨の判断を告げたうえ、証人に対してあらためて証言命令を発し、かかる裁判官の判断の告知と証言命令のあることにより、当該尋問事項についての具体的な証言義務が発生し、右の証言命令に反して証言を拒否する行為が刑訴法一六一条一項の「正当な理由なく証言を拒んだ」との構成要件に該当するのである。ところで、本件各裁判官は証言拒否権を行使した被告人等に対し個々の尋問につき判断の告知と、具体的な証言命令を発していないのであるから、右各尋問事項につき具体的な証言義務は生じていない。したがつて被告人等の本件各証言の拒否は「証言義務あるにかかわらず」証言を拒んだものとして、刑訴法一六一条にいわゆる正当な理由がなく証言を拒んだとの構成要件に該当する可罰的違法性のあるものというをえない旨主張したが、これに対して原判決が、弁護人の主張に対する判断第三において、刑訴規則一二二条所定の証言命令を発することは証言拒否罪の構成要件でないとの理由により右弁護人の主張を斥けたのは、弁護人の主張に対する判断の理由を尽したものということができず、この点において原判決には理由不備の違法がある、というのである。

よつて案ずるに、刑訴法一六一条一項は、「正当な理由がなく証言を拒んだ者」と規定しているが、そのいわゆる「正当な理由がなく」という語は、証言の拒否が同法一四六条、一四七条および一四九条により適法行為として許される場合があるため、特にその違法性のあるものについてだけ証言拒否罪が成立することの当然の事理を明らかにしたものであつて、同罪の構成要件は、証人が証言を拒んだということにあるとみるべきである。そして証人の証言義務は、証言を求められた事項が法律上その証言を拒むことを許された事項であるかどうかにかかわらず、適法な尋問を受けることによつて生ずるものであるから、かかる尋問に対して証言を拒めば、直ちに証言義務違背として証言拒否罪の構成要件を充足し、通常同時に違法性をも具備するに至るが、証言の拒否が正当な証言拒否権の行使と認められる場合には証言義務違背の違法性が阻却されて、証言拒否罪が成立せず、結局当該事項ついては刑罰の制裁をもつて証言を強制しえないことになるのである。したがつて、証人が証言を求められた事項について、法律上証言を拒むことが許されるものと判断してその証言を拒んだ場合においても、当該事項が客観的判断において法律上証言を拒むことを許されず、証言拒否権の範囲に属しないものであるときは、裁判官がその旨を告げて証人に対して証言命令を発したかどうかにかかわりなく、証言拒否の違法性は阻却されることなきものと解するのを相当とする。はたしてしからば、所論の主張を違法性阻却事由の主張として考察するも、その前提において誤つていて採用できないことは明らかであつて、原判決の所論の主張を採用しない旨の判断も結局正当なものというべきであるばかりでなく、原判決が被告人等に対する各証言拒否罪に該当する具体的事実を判示するについて不備ありとも認められないので、原判決に理由不備の違法ありとすることもできない。論旨は理由がない。

四、弁護人の控訴趣意第二点の(二)(理由そごの主張)について

論旨は、原判決は、一面において、弁護人の主張に対する判断第三の(4) において、自己または親族が刑事訴追を受ける虞れがあるかどうかは、何が刑事犯罪になるかについての証人の認識によつて決せられるものと説示し、刑事訴追の虞れの有無の判断は各証人がなすべきものであるがごとく判断しながら、他面において、同第四の五の(五)において、「証言拒否の正当な理由は、証人自身の認識にかかわりなく、一般通常人ならば認識し、または認識しえた事情を基礎として客観的に定まる」旨説示し、前示判断と相矛盾した判断理由を示しており、この点において原判決には理由そごの違法がある、というのである。

しかし、証言拒否が正当な理由によるものかどうか、すなわち証言拒否権の存否の判断は、事案の性質、内容、尋問事項の内容等を斟酌し、裁判所の合理的な判断によるべきものであり、原判決も弁護人の主張に対する判断第四の五の(五)でこれと同一の見解を示しているのであつて、所論指摘の同第三の(4) において原判決のいう証人の認識の対象は、証言拒否罪そのものではなく、その前提となるべき刑事犯罪をいい、これが法定犯か自然犯かによつて区別があるとし、刑事訴追の虞れの有無の判断を各証人がなすべきものとしているのでないと解されるので、原判決にはこの点に関し、所論のような理由そごの違法は認められない。論旨は理由がない。

五、弁護人の控訴趣意第二点の(三)(理由不備の主張)について

論旨は、原審において、樋口弁護人は、検察官が裁判官に対し被告人等の刑訴法二二六条による証人尋問の請求をした際には、尋問事項のすべてについてすでに証拠の収集を終えていたばかりでなく、その中には新聞等により公知の事実となつていた事項もあつて、右の尋問事項につき被告人等の証人尋問を請求する必要は全く存しなかつた旨主張したが、これに対し原判決が、弁護人の主張に対する判断第四の一において「同弁護人は冒頭判示の尋問事項については、検察官はすでに他に証拠をもつていて、被告人等が捜査に欠くことのできない知識をもつている証人といえないことを論証しようというのであつて、この点で前提を欠き失当に帰する。」と判示して、弁護人の主張を排斥したのは、弁護人の主張を正当に理解しない判断であつて、判決に理由を付さない違法がある、というのである。

なるほど、原審における樋口弁護人の弁論要旨によると、同弁護人は、検察官が裁判官に対し被告人等の刑訴法二二六条による証人尋問の請求をした当時、その全尋問事項について検察官は、当局側の証人の取り調べと新聞報道等によりすべて知悉しており、かりに全部が明らかでなかつたとしても、検察官が自認しているとおり公知の事実であつて、今さら問題の二月一一日、一二日の状況につき被疑者的立場にあつた被告人等を証人としてその証言を求めようとしても、同被告人等がこれを拒絶することは当然のことで、被告人等の証言がなければ捜査が行きづまる状況ではまつたくなかつた旨主張していることは所論のとおりである。これに対し原判決は、検察官が裁判官に対し被告人等の証人尋問を請求したのは、小川俊三等に対する公訴事実の立証のためであるから、被告人等に対する本件尋問事項中、二月一一日、一二日の被告人等の行動を含む小川俊三等の公訴事実記載の行動に関する事項につき証言を求めることが主たる目的で、原判示冒頭の尋問事項のごときは、右主たる目的に附随した事情に過ぎないものとし、弁護人の主張を右附随した事情についてのみなされているかの如くとつていることは当をえないものというべきであるが、原判決のいわんとするところは要するに、右附随した事項についてはすべて証拠があり、公知の事実であつたとしても、右主たる目的事項につき捜査上被告人等の証言を必要とするものである以上、該事項につき正当に証言を拒否されることが予想されても被告人等に対する証人尋問請求は違法ではないとし、結局において同弁護人の、被告人等に対する本件証人尋問請求が刑訴法二二六条の要件を具備していない旨の主張を排斥しているものとみられるので、この点に関し原判決に理由不備の違法ありとすることはできない。論旨は理由がない。

六、弁護人の控訴趣意第三点の(一)、補充控訴趣意第三(法令適用の誤りの主張)について

論旨は、要するに、原判決は被告人等三名がそれぞれ原判示各関係尋問事項につき証人として尋問されたが、正当な理由がなく証言を拒んだ事実を認定し、刑訴法一六一条一項を適用処断し、そして弁護人の主張に対する判断第三において、刑訴規則一二二条二項所定の証言命令の存することは、刑訴法一六一条一項の証言拒否罪の構成要件ないしは成立要件ではなく、かく解することは憲法三一条に違反しない旨説示したが、憲法三一条の適法手続の保障は、合理的実体法の原則をも含み、したがつて刑罰法規は行為規範として、いかなる行為が禁止され、また命じられているのかを国民に告知するに足りる程度に明確であることを要し、禁止または命令が規範自体において明確にされておらず、これを明確ならしめる手続規定が別に定められている場合には、かかる手続の履践あることによつて禁止または命令が明らかにされて始めて、国民に禁止または命令に従う義務が生ずるのである。刑訴法一六一条一項所定の証言拒否罪についても、刑訴規則一二二条二項所定の制裁の告知と証言命令の手続が裁判官において履践されることによつて、具体的な証言義務が発生し、証言命令に従わずして証言を拒否することが、刑訴法一六一条一項の正当な理由のない証言拒否罪の構成要件に該当することになるものと解すべきであり、この点において原判決には、実体刑罰法令の解釈適用についての憲法三一条の解釈適用を誤つた違法がある、というのである。

しかし、原判決は、憲法三一条の法定の手続の保障のうち、刑罰を科するための手続的保障の面から考察して、証言拒否罪の成立につき刑訴規則一二二条二項所定の証言命令を発しなくとも憲法三一条に違反しないとしているが、憲法三一条には所論の合理的実体法の原則をも含むとしても、刑訴法一六一条一項所定の証言拒否罪の規定は、刑訴規則一二二条二項所定の手続が履践されない限りそれ自体として不明確であるとする所論には賛成し得ない。もともと裁判所は刑訴法に定めのある場合を除き、何びとでも証人として尋問できるし、証人は裁判所の尋問に対し真実を供述することが義務づけられているのであつて、証人がこのような真実を供述することを強制されるのは、実体的真実発見という刑事訴訟の目的達成の上から不可欠のものといわなければならない。そこで刑訴法一六一条一項はこの証言義務を前提とし、証人が証言を拒んだ場合には証言拒否罪が成立するものとして刑罰の制裁をもつて臨み、証言を間接的に強制しているのであるが、証人の証言義務は、いかなる場合においても絶対的なものとしているのではなく、証人自身又は近親者の重大な利益を害する虞れがあるとみられる特定の場合には例外的に証言を拒否することが許されるものとし、通常これが証言拒否権と称されるものである。右特定の場合につき刑訴法一四六条、一四七条、一四九条はそれぞれ具体的に規定しているのであつて、これらの事由のいずれかに該当する場合には、証人は裁判所の尋問に対し証言を拒否することを正当行為として容認されているところから、右刑訴法一六一条一項は当然のことながら「正当な理由がなく」と明記し、違法性が阻却される場合のあることを示しているのである。そして刑訴規則一二二条一項は、証言を拒む者はこれを拒む事由を示さなければならないと規定し、その事由を示すことを要求しているのであるが、それは、証言の拒否がはたして正当な拒否権の行使によるものかどうかを、単に証人の主観的な判断によるのではなく、裁判所の合理的な判断に委ねられている以上、最少限度において必要なことがらである。したがつて、証人が証言を拒みながら拒む事由を示さないときは、裁判長は証人に対し拒む事由を示すことを命じなければならないが、それにもかかわらずこれに応じないときは最早その証人には当初から証言拒否権がないか、或は事由を示さないことにより証言拒否権を失つたものとして裁判長は同規則一二二条二項により過料、その他の制裁を受けることがある旨を告げて証言を命じなければならないものとしている。論旨は、証人が証言を拒み、かつその事由を示した場合にもなお右規則同条により裁判官の証人に対する証言拒否は許されない旨の判断の告知と、証言命令あることによつてはじめて具体的な証言義務が発生するというが、証言義務は裁判所の尋問を受けることによつてすでに具体的に生じているのみでなく、規則同条は、証言拒否の事由を示さない場合に対処する規定で、事柄が明らかであるため裁判長の権限とされているのであるが、証言拒否権の存否の判断は裁判長の権限とすることのできないことはいうまでもない。もつとも、示された証言拒否の事由が尋問の内容からみても証言拒否権の濫用と明らかに認められる場合は、裁判長の訴訟指揮として証言命令をなしうることはもちろんであり、また事案によつては、裁判所が証言拒否権の有無を判断し、その許されないことを証人に告知して証言命令を発することは差支えないが、右の措置はいずれも刑訴規則一二二条の予想するところではなく、これと別個のものであり、常に必ず右手続を履践しなければならないというものでもない。さらにまた論旨は、証言拒否の場合における民訴法の規定とを対比すれば、刑訴法の場合もこれと均衡を失わないように解釈運用されるべきであると主張する。確かに民訴法では証言拒否権の認められる範囲が刑訴法におけるそれより緩やかではあるが、証言拒絶の理由を疎明した場合に、証言拒絶の当否について受訴裁判所は裁判をなすべきものであることを同法二八三条はこれを規定し、そして同法二八四条では、証言拒絶を理由なしとする裁判が確定した後証人が証言を拒むときはじめて制裁を科すべきものとしていることは所論のとおりである。しかし、民訴法における証言拒絶に関する手続は刑訴法のそれとは異なり、証人が証言を拒絶し、その理由を疎明した場合に、挙証当事者が証言拒絶を正当と認めてその証人申請を撤回し、または尋問を放棄すれば裁判所は証言拒絶の当否につき裁判する必要はないが、挙証当事者が正当と認めないで、あくまで尋問を要求すれば、受訴裁判所は証人と挙証当事者との中間の争いとしてその当否につき当事者を審訊した上裁判しなければならないのであつて、これらの点からすれば、証人の権利の保障の面もさることながら、それよりもむしろ挙証当事者との関係において裁判所の判断が要求されているのである。したがつて、この裁判において証言拒否を理由ありとするときは挙証当事者において、理由なしとするときは証人において、それぞれ即時抗告をして争うことができるものとされているのである。しかるに、刑訴法における証言拒否については、裁判所が証言を拒否することは許されないものと判断し、証人にその旨告知して証言命令をした場合においても、証人自身がこれを不服として争うことのできる規定はないので、異議ないし不服申立は許されず、ただ証人が正当な理由がなく証言を拒んだものとして過料の決定があつた場合においてはじめて刑訴法一六〇条二項により即時抗告が許されており、また証言拒否罪として起訴された場合、通常一般の手続により上訴が認められているのに過ぎない。このように、証言拒否に関し、民訴法と規定の立て方を異にする刑訴法のこの点に関する解釈につき民訴法の規定をとり入れて判断することは妥当を欠くものといわなければならない。

これを要するに、刑訴法一六一条一項所定の証言拒否罪についても刑訴規則一二二条二項所定の制裁の告知と証言命令の手続が履践されない限り、正当な理由のない証言拒否罪の構成要件に該当するものでないとする所論は、独自の見解であるから採用する限りではなく、原判決には所論のような憲法三一条の解釈適用を誤つた違法は認められない。論旨は理由がない。

七、弁護人の控訴趣意第三点の(二)、補充控訴趣意第四(法令適用の誤りの主張)について

論旨は、刑訴法一六〇条一項と同法一六一条一項は、ともに正当な理由がなく証言を拒むことを構成要件として規定しながら、前者の制裁が秩序罰たる過料にとどまるに反して、後者が罰金または拘留という刑罰の制裁を規定しているのは、可罰的違法性の有無によるものであつて、被告人等三名以外の全く同種の証人が同様の証言拒否により単に過料の制裁を受けたのにとどまつていることと比較しても、また被告人等のおかれていた当時の状況等を綜合的に考察しても、被告人等三名の本件各証言拒否に可罰的違法性の存しないことが明らかである。しかるに、原判決がこれに対し刑訴法一六一条一項所定の刑罰たる拘留を科したのは、法の解釈適用を誤つたものである、というのである。

よつて案ずるに、刑訴法一六〇条一項の秩序罰である過料を科せられる場合と、同法一六一条一項の刑罰である罰金または拘留を科せられる場合は、右規定の形式からみれば、ともに証人が正当な理由がなく証言を拒んだことを要件としているが、これを実質的にみれば、両者間に差異があるものと解せられる。すなわち、右両者とも、証人の証言義務の存在を前提とし、その義務違反によつて成立するものであるが、その違反の程度につき、刑訴法一六一条一項の場合は、同法一六〇条一項の場合と異なり、証言拒否罪として刑罰が科せられるのであるから、単になんらかの意味において違法というのではなく、少くとも犯罪として刑罰を加えるに足りる程度に違法でなければならない。したがって、証言義務違反の程度は、刑訴法一六〇条一項の場合と比較して、より高いものであることを要するものというべきである。この意味において、いわゆる可罰的違法性の有無により両者を区別する所論は肯認し得る。そこで、被告人等の本件各証言拒否に果して可罰的違法性が存しなかつたか否かにつき記録を精査するに、被告人等と同様に、別件小川俊三ほか四名に対する住居侵入等被告事件の証人として、刑訴法二二六条による証人尋問の請求を受けた一一名中、九名は裁判官の尋問に対し、一部正当な理由なく証言を拒否したことにより過料の制裁を受け(尤も右九名中さらに一名につき準抗告により取消)たのにとどまり、証言拒否罪によつて起訴された形跡は認められないが、これらの者と雖も、その証言拒否の態様からみて、そのすべての者につき可罰的違法性がなかつたものとは認められないのみでなく、被告人等の場合は、いずれもこれらの者より証言拒否の範囲が広く、かつ所論の各標準に照して判断しても、被告人等の証言拒否について、所論のように可罰的違法性がなかつたことが明らかであるとはとうてい認められず、証言拒否罪の成立を阻却しない程度の違法性がそれぞれあつたことが認められるので、原判決が被告人に対し、刑訴法一六一条一項を適用して処断したことは結局において正当である。論旨は理由がない。

八、弁護人の控訴趣意第三点の(三)の(1) 、補充控訴趣意第五の一(法令適用の誤りの主張)について

論旨は、原判決は、被告人等三名につき、それぞれ原判決罪となるべき事実第一ないし第三として、いずれも正当な理由なく証言を拒んだとの事実を認定したうえ、刑訴法一六一条一項を適用処断したが、憲法三八条、刑訴法一四六条の規定により保障されている証言拒否権を有する者が証言を拒む事由を示して証言を拒んだときは、その事由の正当なりや否やにつき当該尋問をした裁判官において判断を示すまでは、証言拒否権の存否は未確定の状態にあり、右の裁判官が証人の示した事由が証言を拒むことを許されている事由に該当せず、証言拒否が理由のないものであることの判断を明示し、かつあらためて証言命令を発したとき、はじめて右の証言拒否権が失われて、具体的な証言義務が発生するのであり、かかる判断が示されることなく当該尋問手続が終了するに至つたときは、証言拒否権の存在が黙示的に認容されたこととなる結果、証言拒否は正当な理由のあるものとなると解すべきである。本件各被告人は、原判示各関係裁判官の各原判示尋問事項についての尋問に対し、殆ど全部の場合証言拒否の事由を示して証言を拒否したのにかかわらず、当該事由による証言拒否が理由のないものであることの判断が示されてないばかりでなく、適式の証言命令さえも発せられないままに各尋問事項についての尋問手続が終了したので、被告人等の証言拒否権の存在が認容されたことになり、結局各尋問事項についての尋問に対して証言拒否権が行使された結果、証言義務も具体的には発生しておらず、したがつて、証言拒否も、証言拒否権に基づく正当な理由のあるものであるにかかわらず、原判決が刑訴法一六一条一項を適用したのは、同条項の解釈適用を誤つたものである、というのである。

案ずるに、刑訴法一六一条一項所定の証言拒否罪が成立するには、証人に具体的な証言義務の存在を前提とすることはいうまでもないが、右証言義務は裁判所から証人として喚問され、適法な尋問を受けることにより、尋問された当該事項につき具体的に発生し、この尋問に対して証言を拒めば直ちに刑訴法一六一条一項所定の証言拒否罪の構成要件を充足するものと解すべく、尋問を受けた右当該事項が客観的判断において法律上証言を拒むことの許された範囲のもので、証人がこれを拒む事由を示して証言拒否権を行使したときはじめて証言義務を免れる結果、証言拒否罪も成立しないものとされるものであることは、前掲三、弁護人の控訴趣意第二点の(一)、補充控訴趣意第二についての判断で説示したとおりである。右のような証言拒否権は当該尋問事項との関連において、当初から客観的に存在するか、存在しないかそのいずれかであつて、所論のように当該尋問した裁判官の判断のあるまでは、その存否が未確定の状態にあつたり、その示された判断如何によつて消滅したり、認容されたりする性質のものとはとうてい考えられない。すなわち、証人が証言を拒むときは、これを拒む事由を示すことを刑訴規則一二二条一項は要求してるいが、示す程度についてはとくに定めていない。しかし証言拒否権の存否を過誤なく判断させるためにはできる限りその内容が詳細であることと、これを疎明させることが望ましいのであるが、詳細な内容の開示と、疎明を要求することは、ともすれば証言拒否権の存在理由を失わしめることにもなる虞れがあるので、疎明を要求していないことはもちろん、事由を示す程度も、尋問事項との関連において、時には単に条文該当の事実をあげただけで証言を拒む事由を示したものとされる結果(本件の場合にそのいずれも、自己が刑事訴追を受ける虞があると述べたのに止まる)、この示された事由に基づき、裁判官が証人尋問の過程において、その都度遅滞なく、正当な証言拒否権の範囲に属するか否かの判断を示すことが容易でない場合のあることは免れがたい。刑訴法および刑訴規則でとくにこのような判断を示すことを常に要求しているものでないことはこのためであると考えられる。所論によれば、このような場合、証言拒否権の存否は未確定の状態であつて、裁判官が判断を示すことなくそのまま証人尋問手続が終了すれば、その存在が黙示的に認容された結果、最早その後になつて存否の判断をすることはもちろん、刑訴法一六〇条一項、一六一条一項によつて過料の制裁や刑罰を科すことはできないとするのであるが、右各条項にこのような制限が付されているものとは解されない。またこれに反し、当該尋問した裁判官において、証言拒否が理由のないものであることの判断を示し、かつ証言命令を発したときは、証言拒否権はこれによつて直ちに失われるとするのであるが、かりに右証言拒否が客観的判断において正当なものとされた場合でも、右裁判官の判断によつて確定的に拒否権は失つたものとされてよいであろうか。しかも裁判官の判断と証言命令について証人に不服申立の方法はないのである。そして所論は、この命令に従わないで証言を拒否することが刑訴法一六〇条一項、および一六一条一項にいう正当な理由がなく証言を拒んだ場合に該当するというのであるが、右各条項による制裁に対してはそれぞれ所定の不服申立が認められており、この場合証言拒否権の存在を主張して争うことも許されることが明らかであるから、証人尋問の際の裁判官の前記判断によつてすでに証言拒否権を失つたものとする所論は失当といわなければならない。これを要するに、法律上証言を拒むことの許された範囲のものであるか否かは、尋問した裁判官の判断如何によつて発生または消滅するのではなく、当初から客観的に定まつているものというべきである。したがつて、原判決が、本件につき、裁判官が証言を拒む理由を示して証言を拒んだ被告人等に対し、その事由の正当なりや否やの判断を示した上証言命令を発したかどうかについて検討するまでもないとして、被告人等に対し刑訴法一六一条一項を適用したことは正当であつて、所論のように、同条項の解釈適用を誤つたものとは認められない。論旨は理由がない。

九、弁護人の控訴趣意第三点の(三)の(2) 、補充控訴趣意第五の二(法令適用の誤りの主張)について

論旨は、原判決罪となるべき事実第一ないし第三の被告人等三名のそれぞれに対する各関係尋問事項は、被告人等がその証人として尋問を受けた別件小川俊三ほか四名に対する住居侵入等被告事件の公訴事実中、昭和三六年二月一一日知事公舎から要求を受けて退去しなかつた不退去罪の事実と関連があり、右尋問事項につき宣誓した証人として真実を述べるとなると、被告人等自身それぞれ右不退去の事実の共犯者としてあらたに刑事訴追を受ける虞れが存したので、被告人等は証言を拒否したものであつて、その証言を拒否するにつき正当な理由の存したことは明らかであるのに、原判決が右の正当な理由存在の事実を認めなかつたのは、刑訴法一四六条所定の証言拒否権の範囲についての解釈を誤つたものである、というのである。

原判決は、正当に証言を拒むことのできる刑訴法一四六条所定の、自己が刑事訴追を受ける虞れがある「事実」には、犯罪構成要件を充足する直接事実のみでなく、証拠の関連からみて、或る間接事実から右直接事実を推測する蓋然性がかなり高度である間接事実(必ずしも違法な事実に限らない)を含む旨解釈し、被告人等三名はいずれも昭和三六年二月一一日知事公舎に行き、県政共闘会議に属する他の組合員等と行動を共にし、同日夜遅く警察官に排除されるまで知事公舎に居り、翌一二日知事公舎に入つた者の一員で、被告人等が証人として尋問を受けた別件小川俊三ほか四名に対する住居侵入等被告事件の公訴事実中、不退去、住居侵入の各事実に関し共犯者的立場にあつたものであるが、二月一一日の県政共闘会議所属の組合員の行動で違法行為とされるのは、当日午後八時以後に知事公舎で知事等から組合員全員に対し退去要求を受けた後に起つた状態で、それまでの組合員の一連の行動は如何なる意味においても正当な労働行為であるから、被告人等に対する原判決の罪となるべき事実第一ないし第三の各関係尋問事項につき被告人等が証言しても、被告人等に関し右不退去、住居侵入の各事実を推測する蓋然性は極めて低く、したがつて被告人等が右の各尋問事項に証言することは「自己が刑事訴追を受ける虞れがあるとき」に該当しない旨説示している。しかし、証言内容が正当行為に関する事実であるなら、そのことだけで刑事訴追を受ける虞れのある事実にあたらないというのではなく、これを証言することによつて犯罪構成要件に該当する事実の一部でも推測させる高度の蓋然性のある場合には、矢張り自己が刑事訴追を受ける虞れのある証言にあたるものとするものであることは原判決の前記解釈の示すとおりであつて、右解釈は正当と認められるから、要は、証言内容が正当行為に関する事項であるか否かにあるのではなく、証言を求められている尋問事項について証言することにより犯罪事実を推測させる高度の蓋然性が認められるか否かにあるといわなければならない。よつてこの点につき別件小川俊三等に対する住居侵入等被告事件の公訴事実との関連においてさらに検討するに、原審で調べた小川俊三ほか四名に対する起訴状によると、それは、(一)昭和三六年二月一一日秋田県予算案に関して交渉のため知事公舎に行つていた小川俊三等四名と、現場に同行していた組合員数十名との共謀による知事公舎よりの不退去の事実と(二)同日小川俊三等三名の共謀による塩田職安課長に対する暴行、脅迫の事実ならびに(三)翌一二日小川俊三等五名と同行組合員四、五〇名との共謀による知事公舎侵入の事実(四)その際の佐藤陞等三名共謀による玄関扉の損壊の事実(五)小林俊太郎の後藤秘書係長に対する暴行の事実であるが、これらの犯罪はいずれも県政共闘会議の機関決定に基づく組合活動としてなされたものではなく、いわゆる現場共謀によるものとして起訴されているものと認められ、そして、このうち被告人等が共犯者的立場にあるとされているのは前記のように右(一)の不退去と(三)の住居侵入の各事実である。そこで被告人等に対する原判決の罪となるべき事実第一ないし第三の各関係尋問事項をみるに、そのうちの各一、二は原判示のとおりいずれも秋田県県政共闘会議結成の経緯、その組織、構成等に関する事項と前記小川俊三等に対する住居侵入事件の発生に至るまでの経過的事実であり、二月一一日の出来事以前の事項であつて、これらの事項について被告人等がそれぞれ証言をしたとしても、その証言内容自体から被告人等が共犯者的立場にある右不退去、住居侵入の各事実を犯したものと認めさせるものでないことはもちろん、該事実を推測させる基礎となるような蓋然性はまつたく認められないので、原判決がこの点に関し、自己が刑事訴追を受ける虞れがあるときに該当しないとした判断は正当である。しかしながら、同各関係尋問事項中の各三については、各被告人がそれぞれ昭和三六年二月一一日知事公舎に行つたか、というのであつて、記録中の被告人等に対する各証人尋問請求書添付の尋問事項書によれば、右に該当する尋問事項の細目として、退去要求を申し渡されたか、退去しなかつたか、ということが掲げられてあるので、その尋問内容はただ知事公舎に行つたかというのにとどまらず、必然的に不退去の事実にまで結びついているのである。もし知事公舎に行つたということになれば、それは当然に行つていたということも含まれるものとみられるところ、被告人等がいずれも共犯者的立場にあるとされている前記二月一一日の不退去の公訴事実によれば、当日知事公舎に行つていた県政共闘会議所属の組合員全員が共謀によりすべて退去しなかつたというのであるから、被告人等が二月一一日知事公舎に行つたかという裁判官の尋問に対し、これに証言することは、不退去の事実そのものを内容とする証言ではないが、右の事情を綜合して考察すれば、たとえ知事公舎に行つたこと自体は合法的であり、また不退去という事実が発生した時より一〇時間余も以前の事項であつたことを考慮に入れても、なお被告人等が不退去の事実と共犯関係にあることを推測させる蓋然性が高いものというべきである。したがつて、被告人等が右尋問事項につき証言を拒否したことは正当といわなければならない。

原判決は、この点についても被告人等が刑事訴追を受ける虞れのある事実には該当しないものと判断しているのであるが、刑訴法一四六条所定の証言拒否権の範囲についての原判決の解釈は前記のとおり正当であるのに、これにあてはめる事実の判断について右のように誤つたものであるから、原判決は刑訴法一四六条の適用を誤つたものというべきである。しかし原判決罪となるべき事実第一ないし第三の各関係尋問事項中右各三については、それぞれ同各一、二と包括一罪の一部の関係にあるものと解せられるので、原判決の右法令の適用の誤りは結局において判決に影響を及ぼすものではないと認められるから、右の事由をもつて原判決破棄の理由とはしない。論旨は理由がない。

一〇、~二四、<省略>

二五、弁護人の控訴趣意第五点(量刑不当の主張)について

原判決は、被告人等に対する本件の量刑につき、とくにその犯情として、被告人等にとつて有利な点と、不利な点の双方の事情を掲げて詳細に判断しているのであるが、原判決の示したこれらの諸事情のほか、さらに当審における審理の結果、原判決が有罪と認めた原判示第一ないし第三の各三の尋問事項については、被告人等においてそれぞれ証言を拒絶する正当な理由があつたもので、この点については結局証言拒否罪が成立しないことが明らかとなり、有罪部分である原判示第一ないし第三の各一、二の尋問事項は、検察官が被告人等から証言を求めようとした尋問事項中主たる目的に附随した事情に過ぎないものであること、刑訴法一六一条所定の証言拒否罪の刑罰は、罰金と拘留であるが、拘留より重い罰金の多額が金五千円に止まること、などを考量すれば、被告人等を各拘留二〇日に処した原判決の量刑はいずれも重きに失するものと認めざるを得ない。

したがつて原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて、刑訴法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により当裁判所においてさらに次のとおり判決する。

原判決の認定した事実(原判示第一ないし第三の各三を除く)に法律を適用すると、被告人等の原判示各所為は、それぞれ包括して刑訴法一六一条一項に該当するので、所定刑中いずれも拘留刑を選択し、その刑期範囲内で被告人等をそれぞれ拘留五日に処し、差戻前の第一審および差戻後の原審ならびに当審における訴訟費用は同法一八一条一項本文によりいずれもその三分の一宛を各被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉本正雄 紫田久雄 緒賀恒雄)

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