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仙台高等裁判所 昭和56年(ネ)515号 判決 1982年11月12日

控訴人 株式会社オリエントファイナンス

右代表者代表取締役 木谷義高

右訴訟代理人支配人 相沢陽悦

右訴訟代理人弁護士 渡部修

被控訴人 高橋巻子

同 高橋次夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人らは控訴人に対し、連帯して金四一万円及びこれに対する昭和五五年五月二八日から完済に至るまで日歩八銭の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人らは控訴棄却の判決を求めた。

控訴代理人は、請求の原因として、

一、控訴人は昭和五四年一一月五日被控訴人巻子との間に、次の内容の契約を結んだ。

1. 控訴人は被控訴人巻子が富士電機冷器株式会社の代理店である訴外関東設備機器サービス(以下代理店という。)から購入した自動販売機の代金四〇万円を立替払をし、同被控訴人は右立替金を控訴人に対し、昭和五四年一二月から昭和五七年五月まで毎月二七日限り一万六四〇〇円(ただし、初回は一万七二〇〇円)宛割賦償還する。

2. 被控訴人巻子が右割賦金の支払を一回でも遅滞したときは期限の利益を失い、残金全額を支払うとともに、残金に対し日歩八銭の割合による遅延損害金を支払う。

二、被控訴人次夫は昭和五四年一一月五日被控訴人巻子が控訴人に対して負担する第一項記載の契約による債務を連帯保証した。

三、被控訴人らは控訴人に対し、右割賦金債務中第一回から第五回までの分合計八万二八〇〇円の支払をしたが、第六回目の支払期日である昭和五五年五月二七日に支払をしないので、同日期限の利益を失った。

よって、控訴人は被控訴人らに対し、連帯して残金四一万円及びこれに対する期限の利益を失った日の翌日である昭和五五年五月二八日から完済まで日歩八銭の割合による遅延損害金の支払を求める。と述べ

被控訴人らは、答弁及び抗弁として、

一、請求の原因はすべて認める。

二、被控訴人らは代理店に昭和五四年一一月九日一六万五〇〇〇円同年一二月五日四〇万円合計五六万五〇〇〇円を支払ったので、本件については全額弁済ずみである。

と述べ、

控訴代理人は、抗弁に対する答弁として、

一、抗弁事実は否認する。

二、仮に、被控訴人らが代理店の従業員である訴外中村一夫に金員を支払った事実があるにしても、それは債権の準占有者に対する弁済の効力を生ずるものではない。何故ならば、債権の準占有者に対する弁済が有効であるためには、弁済者が善意であるだけでは足りず、無過失であることを要する(最高裁昭和三七年八月二一日第三小法廷判決、民集一六巻九号一八〇九頁参照)ところ、控訴人は本件立替金契約を締結するに際し、訴外中村に代理権を授与したことも、被控訴人らに対し訴外中村に立替金を払ってもよい旨話したこともないのであって、被控訴人らが訴外中村に立替金を支払ったことは、仮に善意であったとしても、明らかに過失に基づくからである。

と述べた。

証拠<省略>

理由

一、請求原因事実は当事者間に争いがない。

二、<証拠>によると、(1)被控訴人らは夫婦で農業に従事している者であるが、代理店の従業員である訴外中村の勧誘により、代理店から訴外富士電機冷器株式会社製造の自動販売機一台を代金五六万五〇〇〇円で購入したこと、(2)控訴人は自己の立替金契約の加盟店(販売店)である代理店に対しては、あらかじめ、表面に「ショッピングクレジット契約書」と題し、立替金契約締結のための所要事項記入欄を設け、裏面には契約条項を印刷してある契約書用紙を配付していたこと、(3)本件立替金契約の申込は、昭和五四年一一月五日訴外中村において、被控訴人らの意向を聞いて右契約書用紙の所要事項欄に所要事項を記入し、表面の本人欄及び連帯保証人欄にそれぞれ被控訴人巻子及び同次夫から署名押印を受け、これを控訴人の営業所へ送付する方法によってしたこと、(4)ところが被控訴人らは右申込をした直後月賦払をするのが煩わしいと思い直し、訴外中村に対し全額即金で支払したいと申出たところ、同人は最初の三回分の割賦金を被控訴人らの銀行口座から支払ってくれるならば、あとは自動販売機の現金価格の支払をすることで完済というように手続すると承知し、特に自己に右代金の受領の権限はなく、右代金は控訴人に支払ってもらいたい趣旨の説明はしなかったので、その言を信じ、昭和五四年一一月九日に一六万五〇〇〇円(売買代金の頭金)、同年一二月五日に四〇万円(本件立替金)を同人に支払ったこと、(5)その後、被控訴人次夫の七十七銀行宮城野支店普通預金口座から、控訴人に対し同年一二月から毎月二七日に第一回ないし第三回の割賦金が支払われたが、なおも同口座から割賦金が出金されるので、被控訴人らは昭和五五年五月頃控訴人に苦情を申入れるとともに調査したところ、訴外中村は被控訴人から受領した本件自動販売機代金を着服して所在不明になっていることが判明したこと、(6)控訴人の顧客の中には立替金の割賦金を加盟店(販売店)に支払う者がままあるが、控訴人は被控訴人らから苦情を言われるまで、割賦金を加盟店に支払うことは許されない旨説明した事実はないこと、以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

右に認定した事実関係によると、控訴人は代理店に対して、少くとも控訴人のための立替金契約締結及び改訂の申込並びにその撤回の意思表示を受領することの代理権を授与していたこと、したがって、代理店の従業員である訴外中村も右の代理権を有していたこと、しかし訴外中村が本件立替金債権につき弁済受領の権限がないところから、同債権行使の全般につき被控訴人らに対し代理人であるかのように行動したものと判断することができ、右の事情と、被控訴人らが訴外中村に対し本件自動販売機の代金全額の支払を完した時期が、控訴人において訴外富士電機冷器株式会社に本件立替払をした昭和五四年一二月一〇日及び被控訴人らの控訴人らに対する第一回目の割賦金の支払期日である同月二七日よりも前であること、更には、訴外中村は代理店の従業員として当然に本件自動販売機の売買代金を受領する権限を有していたことをも合わせ考えると、被控訴人らにおいて、訴外中村が本件立替金債権ないしは本件自動販売機代金債権につき弁済受領の権限があると信じたことにつき、善意であってかつ過失がなかったものといわなければならない。

してみると、被控訴人らの右各弁済は債権の準占有者に対する弁済として有効であり、被控訴人らの抗弁は理由があり、控訴人の本訴請求は棄却すべきであるから、原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。

三、よって、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中島恒 裁判官 石川良雄 宮村素之)

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