大判例

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仙台高等裁判所 昭和45年(う)332号 判決 1971年2月02日

被告人 大山こと玄悦弘

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人津田玄児作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これをここに引用して次のとおり判断する。

控訴趣意第一点の一および二、事実誤認の主張について、

論旨は要するに、原判決認定の常習特殊窃盗のうち原判示第一の三の別表の番号2、4および5については被告人はもとより共犯者とされている原審相被告人らも身に覚えのないことでこれらを認めるに足る証拠はなく、この事実誤認は少なくとも被告人の常習性の判断に影響があるので破棄を免れないというのである。

しかしながら、原判決挙示の照応証拠によれば、原審相被告人小林とよ子のもとに被告人を含む原審相被告人らが万引窃盗の目的で結集され昭和四四年三月頃から昭和四五年五月頃まで前後一八回にわたり共謀の上各地のデパートやスーパーマーケツトなどにおいて主として呉服類など総額九四七万円余におよぶ万引窃盗を敢行したことが明らかで、被告人はこのグループのなかで唯独りの男性でその所有にかかる普通乗用車プリンススカイラインに原審相被告人らの女性を乗せて犯行現場たる店舗附近まで搬送し右女達が万引し持ち出して来るのを駐車して待ち受け、賍品を受け取つてトランクに入れたり包み直したりして素早く隠すとともに右女達を乗せて逸早く現場を離れ、賍品を荷造りして駅留めの鉄道小包で送つたうえ小林とよ子と共にこれを受け取り同女の指図のままに換金のために運搬するなどの役割を分担したことが認められるので、被告人自身が何時何処の万引の際に如何なる品物をどれだけ万引したものか確たる覚えのないことはもとよりであろうし、直接万引の衝に当つた小林とよ子、店員の注意をそらせるために声をかけたり店員の視察を遮ぎるために所謂「幕」の役割を分担した文貞阿、小林とよ子の傍で風呂敷をひろげて品物を受け取り被告人の駐車しているところまで携えて持ち出す役割を分担した金花子および玄吉子らにしても捜査段階において自らの個々の具体的な記憶のみに基づいて供述したものではなくむしろ被害届に基づく訊問を受けることによつて遂次記憶を辿りつつ累次の各犯行の具体的内容を供述しえたのではないかと思われるところ、同女らの多数の供述調書(その供述調書が所論のように信用性がないものとは認められない)を検討しても、所論指摘の判示第一の三の一覧表の番号2、4および5のみについてのみが特に全く身に覚えもないのになげやりな気持で迎合的な供述がなされたと窺えるような資料は全く見出し難いのであつて、例えば金花子と玄吉子とは互に他の持ち出した品物について全く認識のなかつたものもありえたであろうし、まして被告人の場合はその役割にかんがみ品物の個性についてどれほどの関心もなく記憶にとどまる余地のありえない品物があつたとしても無理もないことではあるが、たとえそうであつても認識がなく記憶がない品物についてその故に万引窃取の刑責を免れうる筋合のものではないといわざるをえないのである。したがつて、よしんば原判示第一の三の別表番号2・4および5が被告人の身に覚えのないことであるとしても、被告人に共謀関係が認められるのであるから原判決掲記の各照応証拠により右女達の実行々為を認めることができる以上、所論の如く事実誤認というのは失当であり、論旨は理由がない。

控訴趣意第一点の三、事実誤認の主張について、

論旨は要するに原判決が原判示第一の一ないし三の事実につき特殊窃盗の常習性があるものの如く認定したのは事実誤認であるというのである。

よつて記録を検討するに、被告人は予て昭和四三年五月二八日東京地方裁判所において窃盗罪により懲役一〇月、三年間執行猶予の判決言渡を受けたが被告人自身は賍物罪によつて処罰されたと思つていたもののようであり、本件集団万引の共犯者である原審相被告人らは孰れも窃盗前歴があり特にこの犯行において主導的役割を果した小林とよ子は累次の窃盗前歴があるにも拘らず以前には常習性あるものとはされなかつたこと所論指摘のとおりであるが、被告人の右前科調書およびその判決謄本(記録第二冊三九六丁および三九七丁)および原判示第一の一ないし三の前後一八回にわたる本件犯行の態様をつぶさに検討すると、被告人が同一手口による万引窃盗を反覆累行する習癖があること明瞭であり、むしろ右前科にかかる犯行の際にも被告人自身は本件におけると同様の役割を担当したが故に賍物罪と誤つて記憶していたのではないかとすら窺われるのであつて、小林とよ子が既往において常習性あるものとして訴追されず裁判されなかつたとしてもその故に本件集団万引につき被告人に常習性ありと認定することが不当といえる筋合はなく、まして所論が恰も憲法違反であるかの如くというのは全く失当であり、被告人につき原判示の常習性を認定した点はなんら事実誤認の違法なく、論旨は理由がない。

控訴趣意第二点、法令適用の誤りの主張について、

所論は要するに原判示第一の一ないし三の事実につき窃取行為そのものを実行したのは小林とよ子独りで他の者は「見張り」「幕」或は「持ち出し」などにより小林を助けたにとどまるので盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律第二条第二号にいわゆる「二人以上現場に於て共同して犯したるとき」というに該らないこと明らかであるからこの点において法令適用の誤りがあり破棄を免れないというのである。

よつて審按するに、盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律第二条第二号に「二人以上現場ニ於テ共同シテ犯シタルトキ」というのは、単独実行にては足らず少なくとも二人以上の者が実行行為の現場において共同実行の意思をもつて構成要件該当行為を共同して実行することを要するものと解すべく、従つて、たとえ数人が共同謀議したうえの犯行であつてもそのうちの一人のみが実行行為を分担遂行したにとどまるときは右条号の「二人以上現場ニ於テ共同シテ犯シタルトキ」に該らないと解するのを相当とするところ、予て本件と類似の集団万引と窺われる事案につき、右条号の解釈としては右と同じ見解に立脚しながら、「一名が万引窃盗をなす際に他の一名がその幕となるなどの所為に出たにとどまるときはこの両名各自が現に窃盗の実行行為を分担したわけではないから同条号の常習特殊窃盗の事実に該らない」旨の判断を示した裁判例の存すること(仙台高等裁判所昭和三六年三月一六日判決下級裁判所刑事裁判例集第三巻第三・四合併号二〇五頁参照)所論指摘のとおりである。しかしながら、当裁判所は右裁判例に示された判断およびこれを援用する所論とは見解を異にし、いわゆる集団万引窃盗といえる態様の犯行にあつてはたとえ財物に直接手を触れこれを若干移動させるという意味の実行行為を担当遂行する者が単独であつても、見張りをする者もしくは幕となる者或はリレー式に持ち出す者と共に犯罪を実現したと認められる以上見張りも幕も持ち出しも窃盗の実行行為の分担にほかならないと解するので、原判示第一の一ないし三の本件犯行において原審相被告人らの各分担遂行した役割が前叙のとおりで小林とよ子が金花子もしくは玄吉子のひろげた風呂敷に品物を落し入れる際に文貞阿が見張りあるいは幕となり金もしくは玄が駐車して待ち構えている被告人のもとに持ち込むという一連の段取りがまことに二人以上現場において共同して犯されたというになんの妨げもないと思料するのである。されば、原判決が原判示第一の一ないし三の事実を認定しこれが盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律第二条第二号に該るものとした点になんら所論の如き法令適用の誤りはないといわなければならない。尚附言するに、原判示第一の一ないし三の集団万引窃盗の所為において被告人が分担遂行した役割は前叙のとおり、その所有にかかる普通乗用自動車を運転し小林とよ子、文貞阿、金花子、玄吉子らを乗せて目指す犯行現場たる百貨店あるいはスーパーマーケツトなどの店舗の近くまで送り右女達が万引してくるのを駐車して待ち受け持ち出された品物を受け取つてトランクに入れたり包み直したりして素早く隠すとともに右女達を乗せて逸早く現場を離脱し品物を荷造りして最寄りの駅から駅留めの鉄道小包で送る手続をし小林とよ子と共に右小包を駅より受け取つて同女の手による処分換金の際に同女の指図に従つて右自動車で運搬するなどの行為であつて、これらは必ずしも窃盗の実行行為そのものとは認められないが、刑法第六〇条の適用により女達の共同実行にかかる常習特殊窃盗の犯行の共同正犯の刑責を免れないと解すべきであるから(最高裁判所第一小法廷昭和三四年五月七日判決、集第一三巻第五号四八九頁参照)原判決が被告人についてのみならず原審相被告人らを含む全員につき刑法第六〇条を適用したのは失当であるにしても(大審院昭和八年六月二四日判決、集第一二巻九一六頁参照)、被告人についてはこの点の法令適用の誤りもないというべきである。論旨は理由がない。

控訴趣意第三点、量刑不当の主張について

しかしながら、被告人が前記裁判の執行猶予期間中に原審相被告人らと共に反覆累行した本件常習特殊窃盗は東北地方各県下から北海道北陸および千葉県にも及びその被害総額は金九四七万円余にのぼること前記のとおりでその約半分は被害が回復されたにしても尚残存する約四〇〇万円の被害は弁償される見込みはなく、主導的役割を演じた者が小林とよ子であつたにしても被告人の刑責もまた軽視し難いものがあり、その家庭の事情その他諸般の情状を参酌しても原判決程度の刑はやむをえないところで所論共犯者らに対する刑と権利を失する程不当に重きに過ぎるものとは認め難く、論旨は理由がない。

(尚、職権により調査するに、原判決は原判示第一の一ないし三の常習特殊窃盗の事実につき懲役三年原判示第二の道路交通法違反の事実につき罰金二万円に処したものであるところ、弁護人提出の控訴申立書には被告事件名として常習特殊窃盗等被告事件と記載され右主文全部を摘記してこの判決に不服である旨記載されているので、弁護人は原判決全部に対し特に部分を限ることなく控訴を申し立てたと解されるのである(刑事訴訟法第三五七条後段)が、本件控訴趣意書には実質的に原判示第一の一ないし三の常習特殊窃盗の事実について控訴の理由が記載されてあるにとどまるので、原判決中原判示第二の道路交通法違反の事実に関する本件控訴は刑事訴訟法第三七六条第一項、第三八六条第一項第一号、第二号、刑事訴訟規則第二四〇条により棄却すべきもののようではある(東京高等裁判所昭和四〇年六月三日判決、高集一八巻四号八九頁、広島高裁松江支部昭和四一年五月三一日判決、判例時報四八五号七一頁参照)が、控訴趣意書中その九枚目表の量刑不当についての冒頭記載部分によると原判示第二の事実に対する罰金刑についても量刑不当の所論を明示したものと解する余地があるので、特に決定で棄却する取扱はしない。)

よつて、本件控訴は理由がなく刑事訴訟法第三九六条により棄却すべきであるから、主文のとおり判決する。

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