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仙台高等裁判所 昭和44年(う)320号 判決 1969年12月26日

被告人 斎藤春男

主文

原判決中被告人に関する部分を破棄する。

被告人を懲役八月に処する。

原審における未決勾留日数中五〇日を右本刑に算入する。

理由

本件控訴の趣旨は、山形地方検察庁検察官検事井村章名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意第一点(不法に公訴を受理した違法または訴訟手続の法令違反)について。

記録によれば、原審検察官は、原裁判所に対し、昭和四四年五月二一日付起訴状により、被告人は、昭和四四年三月二日午後八時ごろ、山形市大字元木字中ノ目四四六番地の一の三高橋正方において松田巌に対し、男女性交などの場面を露骨に撮影した八ミリ猥褻映画フイルム四〇巻を計二〇万円で売り渡し、猥褻図画を販売したものとして公訴を提起したのにかかわらず、さらに同裁判所に対し、昭和四四年六月一〇日付をもつて、第一ないし第三の猥褻映画フイルムの売渡事実のほか第四として右と同一日時場所において、同一人に対し、同様の八ミリ猥褻映画フイルム四〇巻(白黒)を計二〇万円で売り渡し、猥褻図画を販売したものとして追起訴状を提出したことが明らかである。論旨は、まず、右本起訴の公訴事実と追起訴に係る第四の公訴事実とは同一であり、刑事訴訟法三三八条三号に該当するから、追起訴に係る第四については不法に公訴を受理したものである趣旨を主張するが、なるほど原判決挙示の関係各証拠を総合すれば、本起訴の事実と追起訴状による第四の事実とは同一の事実と認められることは所論のとおりである。しかし猥褻図画販売罪は、反覆、継続して行なわれることを予想するものであり、それが同一意思の発動と認められる限り包括一罪たるべきであり、原判決も包括一罪と認定しているところ、包括一罪の一部につき検察官が誤つて追起訴状を提出したとしても、これを訴因の追加として取扱うのにさしつかえはないものと解するのが相当である。ただ原判決が前示のとおり同一である本起訴の公訴事実と追起訴状による第四の公訴事実とを共に適法に訴訟係属を生じているものとして扱い、両者を認定している点において後記判断の如く訴訟手続違背ならびに事実誤認の違法があるのは格別、後者につき所論のように判決をもつて公訴棄却を言い渡すべきではなく、原判決としては両者の事実のうち前者のみを認定し、後者については、二重起訴に準じ、単に理由中において、前者と同一ではあるが、主文において特に公訴棄却の言渡をなさない旨判示すれば足りたものというべきであるから、右主張は採るを得ない。次に論旨は、原裁判所は追起訴に係る公訴事実を包括一罪の一部として訴因の追加があつたものと判断したのであれば、前示両者は全く単一の同一事実であるから訴因の追加の観念を容れる余地はなく、したがって誤つて訴因の追加を認めた訴訟手続の法令違反がある旨主張する。原裁判所としては、本起訴の公訴事実および追起訴状による公訴事実につき併合審理をなした段階において、本起訴の公訴事実と追起訴の第四の公訴事実とは同一ではないかを検察官に釈明し、後者の訴因の撤回をなさせるべきが妥当であつたというべきであるが、右措置をとらないとしても、後者について訴因追加不許可の決定をもつて処理すべき筋合のものといわなければならない。したがって右不許可の決定をしなかつたのは訴訟手続の法令違反をおかしたものであり、右違反は判決に影響を及ぼすことが明らかというべきであるから、この点において原判決は破棄を免れない。この点論旨は理由がある。

控訴趣意第二点(事実誤認)について。

論旨は要するに、原判決は、原判示第三の(一)の事実と同(五)の事実を共に有罪の認定をしたが、両者は併存し得ない一個の事実であるのに、これを二個の事実として認定した原判決には事実誤認があると主張する。

よつて審按するに、原判決を調査すると、原判決の認定した原判示第三の(一)と同(五)の事実は、共に、被告人は昭和四三年三月二日午後八時ごろ、山形市大字元木字中ノ目四四六番地の一の三高橋正方において、松田巌に対し、男女性交などの場面を露骨に撮影した八ミリ猥褻映画フイルム四〇巻を計二〇万円で売り渡し、猥褻図画を販売したというのであり、ただ両者の異なる点は、前者にはフイルムの種類の記載がないのに、後者にはフイルムの種類として(白黒)の記載があるに過ぎない。ところで原判決の挙示する関係各証拠を検討すると、原審公判廷における被告人の供述記載(自白)はともかく、原判示第三の(一)について掲記の被告人の検察官に対する昭和四四年五月九日付、同月一九日付、同月二一日付各供述調書、同第三の(五)について掲記の被告人の検察官に対する同月二九日付供述調書と原判示第三の各事実について掲記の松田巌の検察官に対する各供述調書を総合すれば、被告人が昭和四四年二月末日ごろ、原審相被告人細川光典から猥褻映画フイルム二〇〇巻を一巻一、八〇〇円で買い受け、うち四〇巻を同年三月二日午後八時ごろ、原判示高橋正方において松田巌に対し、一巻五、〇〇〇円計二〇〇、〇〇〇円で売り渡したのは一回だけであることが認められるのである。しかるに原判決は、右本来の一個の事実を二個の事実と認定したのであつて、事実を誤認したものというべく、右の誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決はこの点においても破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて、刑事訴訟法三九七条一項、三七九条、三八二条により原判決中被告人に関する部分を破棄し、同法四〇〇条但書により、さらに次のとおり判決する。

当裁判所が被告人につき認定する事実は、原判示第三のうち(五)の事実を除くほかは原判示第三の(一)ないし(四)のとおりであるから、これを引用する。

証拠の標目は、原判決が同第三について挙示する証拠のうち、

一、被告人斎藤春男の検察官に対する同年五月二九日付供述調書

(同第三の(二)、(三)、(四)、(五)の各事実について)

とあるうち、括弧書の部分の「(五)」を削除するほかは、原判決の(証拠の標目)欄記載のとおりであるから、これを引用する。

被告人の累犯前科は、原判決の(累犯前科)欄記載のとおりであるから、これを引用する。

被告人の右の事実に法律を適用すると、原判示第三の(一)ないし(四)の事実は包括して刑法一七五条前段、罰金等臨時措置法三条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、被告人には前示前科があるから、刑法五六条一項、五七条により再犯の加重をなした刑期範囲内で処断すべく、諸般の情状を考慮し、被告人を懲役八月に処し、原審における未決勾留日数の算入については刑法二一条を適用し、当審における訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して被告人には負担させないこととする。なお、昭和四四年六月一〇日付起訴状記載の公訴事実第四は、被告人は、昭和四四年三月二日午後八時ごろ、山形市大字元木字中ノ目四四六番の一の三高橋正方において、松田巌に対し、八ミリ猥褻映画フイルム(白黒)四〇巻を計二〇万円で売り渡し、もつて猥褻図画を販売したというのであるが、右は同年五月二一日付起訴状と同一の事件を起訴したものではあるが、包括一罪の一部につき同じ訴因を追加したに過ぎないものと解するのが相当であるから主文において公訴棄却の言渡をなさない。よつて主文のとおり判決する。

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