大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 平成8年(行コ)2号 判決 1997年4月25日

宮城県塩竃市北浜四丁目一五番二〇号

控訴人

佐藤仁寿

宮城県塩竃市旭町一七番一五号

被控訴人

塩釜税務署長 井上健

右指定代理人

伊藤繁

町田弘文

小松豊

菅野恵一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対して平成四年一二月二五日付けでした酒類販売業免許の条件緩和拒否処分を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張

一  当事者双方の主張は、次のように加えるほか、原判決「事実及び理由」欄の「第二 当事者の主張」記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決五枚目裏末行の「(三)」を「(四)」に、同七枚目裏五行目の「(四)」を「(五)」に、同七行目の「4」を「3」に、同一〇枚目表五行目の「5」を「4」に改める。)。

二  当審における控訴人の主張

1  現行の酒税法は、戦前の立法である。すなわち、酒類販売業の免許制度は、昭和一三年当時の社会経済状況を前提にして、酒税の徴収を確保する目的で採用されたが、現在では立法事実が大きく変化しており、新規の業者の参入を排除し、税務署の息が掛かった既存業者の権益を保護するための規制にすぎないものになっているから、この制度を存続させる合理性を認めることはできない。したがって、職業選択の自由を侵害するものである。

2  政府の行政改革委員会・規制緩和小委員会が平成七年十二月七日にまとめた「平成七年度規制緩和推進計画の見直しについ」と題する報告においても、酒類小売業免許について需給調整要件を維持すべきか疑わしく、需給調整要件については、その廃止を含めた検討を平成八年度中に開始すべきであるとしている。このことは、かかる規制が合理性のないものであることを示すものである。

3  被控訴人は、管内の既存卸売販売場数に関し、守秘義務があるとして具体的な業者の名称を明らかにしない。このような措置は不当である。また、卸売数量の算出根拠にも疑問がある。

4  被控訴人は、控訴人の本件申立てを審査するに当たり、審査中の先順位の業者の販売見込数量を卸売総数量に加えているが、これら業者は、いまだ申立てが認められたわけではないのであるから、販売実績が無いもの、すなわち休業場として扱うべきである。

5  原判決別紙1記載の業者Ⅰは、条件緩和の申立てをしたにすぎないのに、被控訴人がこれを勝手に書き換え、条件の解除を認めている。このような恣意的な扱いは許されない。

第三証拠

証拠関係は、原審及び当審記録中の各書証目録並びに原審記録中の証人等目録記載のとおり

第四当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のように加えるほか、原判決「事実及び理由」欄の「第三 当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決一六枚目裏二行目の「免許基準」を「条件附加基準」に改め、同一一行目の「酒類販売業の免許」の次に「条件附加に関する」を加える。)。

二  当審における控訴人の主張について

1  酒税法一〇条による酒類販売業の免許制度が憲法二二条一項に違反しないことは、原判決の指摘する最高裁判所の判例とするところであり、同法一一条は、同法一〇条を受け、免許の条件附加・緩和又は解除について定めることにより、免許の内容をより具体化したものであって、これを違憲ということはできない(なお、現行酒税法は、昭和二八年法律第六号として公布されたものであり、戦前の立法ではない。)。

2  控訴人は、規制緩和に関する政府の機関の対応をいうが、そのような事実があったとしても、酒類販売業の免許制度自体、あるいは需給調整要件を存続させることが「より好ましいか否か」という観点からの相当性については、立法府の裁量に任されており、裁判所がその当否を判断することはできない。裁判所は、これが違憲、違法であるか否かを判断することができるにとどまるものである。そして、酒税法一一条が違憲とはいえないこと、免許取扱要領が違法とはいえないことは、原判決及び右判示のとおりである。

3  控訴人は、被控訴人が控訴人の本件申立てを審査するに当たり、審査中の先順位の業者の販売見込数量を卸売総数量に加えている点を不当というが、原判決認定のとおり、控訴人の申立てがあった当時、被控訴人においては、先順位の申立人について、既に免許を付与するのが相当であるという調査結果となっていたのであるから、その販売見込数量を加えることは、むしろ控訴人の申立てに対して需給調整要件を検討して判断するために適当な措置ということができる。

4  証拠(乙一一の一ないし三、一五の一ないし五)によれば、原判決別紙1記載の業者Ⅰは、酒類販売免許の条件緩和の申立てをしていたところ、その緩和の内容は、卸売について付されていた条件を解除することと同内容のものであったこと、そのため、被控訴人は、申立て自体が「条件の解除」を求めるものであり、しかもこれを認めるべき要件のすべてを具備していると判定して、「解除」を認める処分をしたことが認められる。これによれば、被控訴人の業者Ⅰに対する措置は、控訴人が主張するような恣意的なものということはできない。

三  以上によれば、控訴人の本訴請求は理由がないから、これを棄却した原判決は相当である。

よって、控訴人の本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安達敬 裁判官 若林辰繁 裁判官栗栖勲は、転補のため、署名押印することができない。裁判長裁判官 安達敬)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例