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仙台家庭裁判所 昭和40年(少)413号 決定 1965年7月31日

少年 B・M(昭二二・三・一生)

主文

この事件について、少年を保護処分に付さない。

理由

一、非行事実

少年は仙台市内でパチンコ遊びに興じすぎて○○町の自宅に帰る汽車に乗りおくれたところから、自動車運転手をおどかしてタクシーを乗り逃げしようと企て、昭和四〇年三月○○日午後九時四〇分頃仙台市○○○○××番地仙台駅構内タクシー乗降場より○守○男(四二年)の運転する普通乗用自動車宮○あ○○○○号(有限会社○米タクシー、代表取締役○坂○弥所属)に乗客を装つて乗車し、宮城県名取郡△△町方面に進行中、同町○○○○○△△町道附近に差しかかつた際、同所が通行止となつているので上記運転手が自動車を停車させたところ、矢庭にかくしもつていた石塊で同運転手の頭部を強打して同人に暴行を加え、その衝撃により該自動車を道路端の田圃に転落するに至らしめ、よつて同人に頭部打撲傷、右[足母]趾、右二趾各骨折、両趾爪剥離切創、右第五趾切創等治療約一ヵ月を要する傷害を与えて逃走し、もつて右乗車賃金一、〇八〇円の支払を免れて財産上不法の利益を得たものである。

二、適条

刑法第二四〇条前段

三、不処分とする理由

(1)  経歴………少年は本年三月一日宮城県○○高校を卒業し、同月一五日東京都墨田区内○○○商事株式会社に就職し(その就職内定は前年一〇月頃であつた)たものであつて、これまで昭和四〇年二月ごろに道路交通法違反(原動機付自転車の免許証不携帯)保護事件が当庁に係属し、その頃審判不開始決定を受けたほか本件非行に至るまで非行歴はなかつた。ただ高校三年時に服装、喫煙、交友関係につき学校より注意を受ける面があり、喫煙により七日間の停学処分を受けたことがあつた。

(2)  性格………少年は温和、従順、几帳面で、物事をやりはじめるとがつちりと着実になし遂げるという美点がある反面、容易に切羽詰つた気分になり易く、短気でまた自己中心的な面があり、年齢の割に自己洞察、事態の客観的評価の力が不足し全般的に精神的、内面的問題に対する関心が低調であることが窺われる。

(3)  家庭環境………本件非行当時、少年は父母の下、祖母を含めた八人家族の一員として本籍地にいたが、家業は農業であり、少年も高校当時時折農業の手伝もし、また家族間は円満で保護者には少年の保護に対する熱意も能力もあると認められ、家庭環境上に特段の問題はない。

(4)  本件非行の動機、その後の事情………本件は少年が高校を卒業し予定された就職、上京の日までの保護者の許での気楽な時間を解放的な気分でパチンコ遊びに興じて過し、また保護者も農閑期でもあり、近く親許を離れ就職することでもあるしと少年のパチンコ遊びを大目にみてとくに注意することもなかつた状態のうち、たまたま仙台にまで遊びに出た際、パチンコ遊びに興じすぎ汽車にのりおくれ、在中金も約二〇〇円となつた少年は、新聞雑誌等で知つている自動車強盗を自分もやつてみようかと思いつき、仙台駅構内で拳固大の石を拾つてタクシーに乗り込み、ついに本件非行を犯すに至つた。

少年は本件非行後、非行現場から逃げ出し、途中国鉄の番小屋で夜を明して翌日帰宅したが、本件非行は保護者にも秘したまま、同月一五日、予定通り父に伴われて上京就職し、会社の寮に寄宿したが、同月二一日職場で逮捕された。その逮捕時少年は警察官にいつかは捕ると思つていたと述べ、また当庁に本件事件係属後の調査、審判時、また少年鑑別所においても、罪を恥じ、改悛の情は顕著なことが窺われた。

少年の保護者、近親者達は少年の本件非行を知つておどろき被害者(タクシー会社も含めて)への謝罪、慰藉に奔走する一方、少年の再起更生のための努力を払つている。

また少年の本件非行により傷害を受けた被害者○守○男は、その後被害者というよりは、子を持つ親としての立場をもつて少年の将来を心配するなど、少年の保護者と同様な心情を持つに至り、審判期日には自らすすんで審判廷への列席を求め、少年の再起更生のために寛大な処分を願う旨の真情をあらわしたのである。

(5)  処遇………当裁判所は昭和四〇年四月一九日、少年を当庁調査官伊達南生子の観察に付し、少年を少年の祖父の弟である○場○平方に身柄補導委託した。その後少年は表記住居の○場方に同居し、伯父の稼働する白石市内○○興業株式会社(石膏採掘)に臨時鍛冶工として傭われ上記大伯父と起居を共にしつつ毎日の生活を担当調査官の指示に忠実にしたがいながら、真面目に送つた。その生活態度は内省的で非行当時の精神面の未熟さを自ら意識し、内面的問題に関する関心も高まりつつあることが窺われ観察の経過は良好であつた。

ところで、少年の将来の安定の場、就職につき、少年、保護者、また担当調査官等において種々考慮していたが、<○守○男運転手(本件被害者)もまた少年が東京方面に就職したい意向もあるときいて知人に少年の就職を頼んで上げたい旨の申出をし、少年自身、同運転手の世話を受けて職に就き、働くことが罪の償いの一つともなると考えたりもした>結局少年自身、自衛隊員となり規律ある生活訓練を受けつつ何らかの技術を身につけることを望み、自衛隊入隊を志願、受験したところ、本年七月三〇日陸上自衛隊の入隊試験に合格し、同年八月二日陸上自衛隊○○○駐屯地第○教育連隊入隊予定の通知を受けたのである。

上記の少年の現況、経過よりすると、少年の犯罪的危険性はもはや除去されたものと認められるので、本少年はこの際保護処分に付さず少年自身による自己鍛錬および保護者ら監督者の補導援護により少年の健全な育成を期すのを相当と考える。

よつて少年法第二三条第二項にもとづき主文のとおり決定する。

(裁判官 鎌田千恵子)

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