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仙台地方裁判所石巻支部 平成7年(ワ)111号 判決 1997年7月22日

主文

一  被告は原告甲野一郎に対し、金六〇万円及び内金五〇万円に対する平成五年一〇月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告らの連帯負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告の請求

被告は原告A商事株式会社及び原告甲野一郎に対し、それぞれ金六〇〇万円及び内金五〇〇万円に対する平成五年一〇月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、不動産取引業を営む法人である原告A商事株式会社(以下「原告会社」という。)及びその代表取締役である原告甲野が、被告が報道した新聞記事により名誉、信用を毀損されたとして、被告に対し、それぞれ不法行為に基づく慰謝料等を請求した事案である。

一  争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実

1  原告会社は、石巻市門脇で不動産取引業を営む法人であり、原告甲野は、原告会社の代表取締役である。

2  原告会社は、平成二年一〇月三〇日、埼玉県上尾市に居住する医師丙山太郎(以下「訴外丙山」という。)との間において、左記病院(以下「本件病院」という。)を売買代金四億五〇〇〇万円、手付金一〇〇〇万円との約定で右同人に売り渡す売買契約を締結した(以下「本件売買契約」という。)。

(争いがない)

(1) 石巻市門脇町<番地略>

宅地 468.36平方メートル

同市門脇町<番地略>

宅地 489.91平方メートル

同市門脇町<番地略>

宅地 218.18平方メートル

同市門脇町<番地略>

宅地 321.15平方メートル

② 同町<番地略>・同<番地略>所在 家屋番号五八番一

鉄筋コンクリート造陸屋根四階建病院

床面積 一階411.99平方メートル 二階353.14平方メートル三階353.14平方メートル 四階251.36平方メートル

③ 同町<番地略>・同<番地略>所在 家屋番号五八番四の二

木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建 診療所兼病室

床面積 一階169.42平方メートル 二階169.42平方メートル

④ 同町<番地略>所在

家屋番号五八番四の三

鉄筋コンクリート造陸屋根二階建居宅

床面積 一階117.93平方メートル 二階67.24平方メートル

3  訴外丙山は、平成五年二月一六日、弁護士中川徹を代理人として大宮警察署に対し、告訴人を訴外丙山、被告訴人を原告会社、原告甲野及び訴外乙川二郎として、本件売買契約に関し、要旨左記内容の告訴をした(甲第一二号証)

① 被告訴人

原告会社及び原告甲野

告訴事実 売買契約を成立させんがために故意に右担保権設定の事実を告げず、斡旋目的で自らが売主として平成二年一〇月三〇日に売買契約を成立させた。

関連条文 宅地建物取引業法第四七条第一号(重要事項不告知)、第八〇条(罰則規定)、第八四条(両罰規定)

② 被告訴人

原告会社及び原告甲野

告訴事実 手付金貸付名目で債権者原告会社、債務者訴外丙山、金額一〇〇〇万円、弁済期平成二年一二月三一日、利息年一割五分の約定で平成二年一一月一日付公正証書一通を作成させた。

関連条文 宅地建物取引業法第四七条第三号(手付貸付による契約締結の誘引行為)、第八一条(罰則規定)、第八四条(両罰規定)

③ 被告訴人

原告甲野及び訴外乙川二郎

告訴事実 共謀して、手付金名下で金員を騙取することを企て、代金四億五〇〇〇万円、手付金一〇〇〇万円などの約定で売買契約を締結させるとともに、情を知らない訴外丙山に白紙委任状を交付せしめて、手付金を貸付目的とする公正証書を作成し、実際には貸付の事実がないにもかかわらず、一〇〇〇万円の領収書等を発行するなど、あたかも訴外丙山が金銭消費貸借契約上債務を負担しているかの如く装い、「この公正証書は一人歩きするよ。」などと申し述べて、以後、執拗に訴外丙山を追い回し、平成三年四月から五月にかけて数回に渡って口座振込させて三〇〇万円を騙取した。

関連条文 刑法第二四六条第一項(詐欺)、第六〇条(共同正犯)

4  被告は、その発行する平成五年(一九九三年)一〇月二〇日付新聞の埼玉県版及び宮城県版で左記の記事(以下「本件記事」という。)を掲載した。

(争いがない)

① 埼玉県版

(見出し)

「坂戸の医療コンサルタントら書類送検」

「多額の担保告げず」

「『宮城に物件』と持ちかけ」

「病院売買話で三〇〇万円詐欺容疑」

(内容)

宮城県石巻市内の不動産業者らが、多額の担保のついた同市内の病院の売買話を医師にもちかけ、手付金三〇〇万円をだましとったとして、大宮署は十九日までに、この不動産業者ら二人を詐欺と宅地建物取引業法違反(重要事項不告知)の疑いで浦和地検に書類送検した。

送検されたのは、石巻市門脇の不動産会社役員(五八)と坂戸市片柳の医療コンサルタント(六七)。

調べによると、二人は九〇年十月初旬ごろ、当時、上尾市内の病院に勤務していた医師(四八)に「石巻市内の一等地にいい病院があるから買わないか」などともちかけ、同月三十日、大宮市内のホテルで、代金四億五千万円で売買契約を結んだ。

ところが、医師は予定していた銀行融資が得られず、売買は実現しなかった。しかし、不動産業者らは、手付金貸し付けの名目で一千万円を医師に貸したという公正証書を作成しており、九一年一月ごろ「証書を買い取ってほしい。買い取らなければ、証書はひとり歩きするよ。」と医師に迫り、四月から五月にかけ、数回にわたり計三百万円をだましとった疑い。

また、宅建業法では、業者は取引物件にからむ重要な事項について、故意に事実をかくしたり、事実ではないことを告げることを禁じている。ところが、不動産業者らは、この病院に数億円にのぼる多額の担保がついていたのに、これを医師に告知しなかった疑い。

病院はもともと石巻市内の医師が経営していたが、多額の借金を負い、医療保険の不正請求を行うなどしたために、八七年七月、保険医の資格を取り消され、事実上廃業していた。契約当時は、すでに競売開始決定がされていた。

不動産業者は病院の土地、建物について所有権移転の仮登記をして医師と交渉。医師は、病院の運転資金をふくめ、約六億五千万円の融資を銀行に申し込んだが、病院に数億円の担保がついていたため、銀行は融資に応じなかった。

不動産業者らは、九一年一月、病院を都内の医療法人に売り渡している。

② 宮城県版

(見出し)

「多額の担保ついた病院の売買話で」

「手付金三〇〇万円取る」

「石巻の不動産業者ら二人 詐欺容疑で書類送検」

「埼玉・大宮署」

(内容)

石巻市内の不動産業者らが、多額の担保のついた同市内の病院の売買話を医師にもちかけ、手付金三〇〇万円をだましとったとして、埼玉県大宮署は十九日までに、不動産業者ら二人を詐欺と宅地建物取引業法違反(重要事項不告知)の疑いで浦和地検に書類送検した。

送検されたのは、石巻市門脇の不動産会社役員(五八)と埼玉県坂戸市片柳の医療コンサルタント(六七)。

調べによると、二人は一九九〇年十月初旬ごろ、当時、同県上尾市内の病院に勤務していた医師(四八)に「石巻市内の一等地にいい病院があるから買わないか」などともちかけ、同月三十日、大宮市内のホテルで、代金四億五千万円で売買契約を結んだ。

ところが、医師は予定していた銀行融資が得られず、売買は実現しなかった。しかし、不動産業者らは、手付金貸し付けの名目で一千万円を医師に貸したという公正証書を作成しており、九一年一月ごろ「証書を買い取ってほしい。買い取らなければ、証書はひとり歩きするよ」と医師に迫り、四月から五月にかけ、数回にわたり計三百万円をだましとった疑い。また、不動産業者らは、病院に数億円にのぼる多額の担保がついていたことを医師に告知しなかった疑い。

病院は、もともと石巻市内の医師が経営していたが、多額の借金を負い、医療保険の不正請求を行うなどしたため、八七年七月、保険医の資格を取り消され、事実上廃業していた。契約当時は、すでに競売開始決定がされていた。不動産業者らは、九一年一月、病院を都内の医療法人に売り渡している。

5  浦和地方検察庁は、原告甲野に対する前記告訴事件について、宅地建物取引業法違反については平成五年一〇月二九日付で嫌疑不十分(重要事項不告知)及び起訴猶予(手付貸付)で不起訴処分、詐欺については平成六年三月三一日付で嫌疑不十分で不起訴処分にした。(甲第一四号証)

二  争点

1  本件記事は、原告らの名誉を毀損するものか。

(原告らの主張)

本件記事は、被疑者の名称、氏名は記載していないが、原告らが訴外丁村三郎経営の病院処分の媒介にあたっていたことは、当時右病院の帰趨は石巻地方の関心事であり、石巻市内の不動産業者は勿論、周辺相当範囲の業者間においては周知のことであり、また、原告らの知人が知っていたことはもとより、耳にしていた者も多くいたことであり、さらに、本件記事が掲載されたあとで、狭い土地柄であることから、記事中の不動産業者が誰であるかは自ずと分かることであり、したがって、不動産会社は原告会社を、役員は原告甲野を指示しているものであることは容易に認識できる。

本件記事は、読者に、大宮警察署から浦和地方検察庁に書類送検した被疑事実が真実であり、原告らが真実犯人であるとの印象を与えるものであり、原告らの名誉、信用を著しく毀損するものである。

(被告の主張)

本件記事は、原告らの名誉を毀損していない。

ある記事が他人の名誉を毀損しているというには、表現が誰に関するものであるか、その表現中から特定しうることが必要である。

本件記事は、当事者の氏名は記さず、「不動産会社役員」「医療コンサルタント」「医師」と職業だけを記したものであり、記事中から原告らは特定されない。石巻市門脇には、不動産業者は少なくとも一六軒あり、本件記事中の「石巻市門脇の不動産会社役員」との記載から、原告らであることを特定することはできない。

本件記事は、大宮警察署が浦和地方検察庁に「不動産業者ら」を詐欺及び宅地建物取引業法違反の疑いで書類送検した事実を報道したものであり、不動産業者らが真実犯人であると主張し、若しくは断定していないことは勿論のこと、書類送検された事実以上にことさら一般読者に対して不動産業者らが真実犯人であるとの印象を与える内容ではない。

2  本件記事について、真実性の証明あるいは真実と誤信したことについて相当の理由があったか。

(被告の主張)

① 本件記事の主要部分は、大宮警察署が、不動産業者ら二人を詐欺と宅地建物取引業法違反の疑いで書類送検したという事実であり、右事実は公共の利害に関する事実に係り、もっぱら公益を図る目的に出た場合であり、摘示された事実は真実であるから、違法性がなく、不法行為は成立しない。

② 被告に勤務する溝越賢記者は、平成五年一〇月初旬に、被告浦和支局の帆江勇デスクから、石巻市の病院売買の金銭トラブルについて取材するように言われ、まず同年一〇月一〇日訴外丙山に取材し、告訴状、土地売買契約書、金銭消費貸借契約公正証書、銀行への送金書の写しなどの資料に基づいて四時間以上にわたって説明を受けた。そして、同月一五日には石巻市を訪れ、当該病院を確認し、病院の登記簿謄本も取った。また、病院の前所有者に関する背景事情等について宮城県医療事務課に問い合わせるなどした。

さらに、同月一九日、新井隆大宮警察署副署長に取材し、原告甲野及び訴外乙川二郎が、病院には時価以上の多額の担保が設定されていて手付流れになることがわかっていながら、訴外丙山に売買の話をもちかけ、三〇〇万円だまし取ったという詐欺の容疑、及び手付金貸付違反と重要事項不告知という宅地建物取引業法違反の容疑で、大宮警察署が右両名を浦和地方検察庁に書類送検したことを確認した。

新井副署長は、検察庁に送付した捜査の一件記録を手元に置いた上で溝越記者の取材に応じ、宅地建物取引業法違反については、六法全書を見せながら溝越記者に説明している。また、詐欺の内容について溝越記者の確認の質問に対して間違いだと指摘することは全くなく、溝越記者の把握していた詐欺の事案と被疑事実が異なっているということはなかった。そして、取材に応じたのち、現実に記事の内容を見て、間違っているという印象も持たなかった。

以上の取材経過及び本件記事の内容からすれば、本件記事の内容はいずれも真実である。

本件記事が仮に原告らに詐欺の疑いがあるとの印象を与えるとしても、以上の取材経過及び本件記事の内容からすれば、右「疑い」は、真実か、少なくとも真実と信じるにつき相当の理由がある。

(原告らの主張)

① 本件記事は詐欺及び宅地建物取引業法違反の疑いで書類送検したという事実であり、右事実は真実であるから違法性がないと言う被告の主張は許容できない。

新聞に書類送検の事実が報道されれば、読者はその被疑事実を真実であると信じるのが通常であることは公知のことであり、それだからこそ報道機関が書類送検を含めて被疑事実を報道するには厳格な規制が要求されており、一般には慎重な裏付け調査が要求されているのである。

ことに、本件記事は、見出しや内容が詳細で具体的であることからして、単に書類送検の事実を報道したとは到底言えないのである。

② 詐欺及び宅地建物取引業法違反が真実であると言うならば、訴外丙山側の一方的な証拠に基づき、恣意に事実を認定するものである(検察官も詐欺及び宅地建物取引業法違反中重要事項不告知の事実について嫌疑不十分としている)。

新井副署長の溝越記者の取材に対する応対については、同人は直接捜査を担当した者ではなく、記録に基づき、訴外丙山の供述していることが詐欺や宅地建物取引業法違反に当たることを説明したものと思われ、被疑事実が認められるとまでは言っていないと思われるし、本件事案は広報すべき事案ではないと発言しているものである。

③ 被告は、詐欺等の疑いがあるという事実は真実か、少なくとも真実と信じるにつき相当の理由があると主張しているが、溝越記者の取材は、訴外丙山からの一方的な情報の提供と、これに基づく形式的な調査と、新井副署長に対する前述のような訴外丙山の供述を確認するような取材にとどまり、他の三社ほどの新聞社は原告らに取材に来て、原告甲野から説明を受け、事案について理解し、記事にしなかったことに照らすと、その取材はずさんであり、真実と信じるについて相当な理由があったとは言えない。

被告の言う疑いの程度で、原告らの名誉、信用に重大な影響を及ぼすような本件記事を掲載することは、新聞の社会的存在意義からして、到底許されることではない。

3  不法行為が成立する場合の損害額

(原告らの主張)

原告甲野については、被告の不法行為により、重大な精神的苦痛を被ったので、五〇〇万円をもって慰謝するのが相当であり、また、弁護士費用として、一〇〇万円の支払を約束しているから、被告は、金六〇〇万円及び内金五〇〇万円に対する不法行為の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

原告会社については、被告の不法行為により、精神的苦痛に比すべき無形の損害を被ったので、五〇〇万円をもって慰謝するのが相当であり、また、弁護士費用として、一〇〇万円の支払を約束しているから、被告は、金六〇〇万円及び内金五〇〇万円に対する不法行為の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1  本件記事は、事件関係者の表示を実名ではなく、匿名とし、「石巻市内の不動産業者」、「石巻市門脇の不動産会社役員(五八)」、「坂戸市片柳の医療コンサルタント(六七)」、「上尾市内の病院に勤務していた医師」、「石巻市内の病院」、「石巻市内の医師」という表現が使用されているから、新聞読者にとって、記事中の売買契約の対象となった石巻市内の病院が、その所在や名称により特定できなければ、また、その特定ができても、その病院の売買等の不動産取引を取り扱っている石巻市門脇の不動産業者を原告らであるとほぼ特定できなければ、原告らの社会的評価を低下させることにはならないと言うべきである。

2  本件記事のうち、埼玉県版の記事は、その販売地域が限定されている性質上埼玉県あるいはその近辺に在住する新聞読者によって読まれるものであることは明らかであるところ、記事掲載の当時、右の新聞読者が当該病院及び当該不動産業者を特定し得る情報を得ていたとの事情を認める証拠はなく、したがって、埼玉県版の記事により原告らに対する社会的評価を低下させる危険は生じなかったと言うべきであり、名誉毀損には当たらない。

3  しかしながら、本件記事のうち、宮城県版の記事は、その販売地域の性質上石巻市を含む宮城県に在住する新聞読者によって読まれるものであることは明らかであるところ、証拠(甲第一号証の五、第二二号証の一、二、第二五号証、乙第二号証、原告本人尋問の結果)によれば、当該病院である本件病院は、石巻市役所の近隣に位置する石巻市門脇町<番地略>に所在し、昭和五八年一二月に新築された鉄筋コンクリート造四階建の病床八五を有する規模の病院であり、「B病院」の名称で医師丁村三郎(以下「訴外丁村」という。)が経営していたものであること(ただし、平成二年当時は事実上廃業状態であった。)、訴外丁村が医療保険の水増し請求をして右病院経営ができなくなったことが平成二年以前に石巻周辺の地方新聞に掲載され、その病院経営の問題が公にされたこと、本件病院は、平成三年一月に他の医療法人に売り渡され、病院経営が続けられていること、原告甲野は本件記事掲載当時、原告会社の経営経験が十数年になっていた者であり、日本電信電話株式会社の宮城県県北版の電話帳タウンページ(職業別)の不動産取引の石巻市欄に他の同業者約七十数社と同様に原告会社名、電話番号、住所を掲載させていたこと、平成元年ころ、原告会社は訴外丁村から本件病院の買い取り若しくは売却の斡旋を依頼され、以後、病院の人材や物件を扱う東京や仙台の業者に情報を流すなどし、平成二年一〇月までには、他の二つの医療法人が買い受け調査の目的で本件病院を見学するため原告会社を訪問したことがあること、本件記事が掲載された後、原告甲野が五、六社の同業者から記事の内容が真実かどうか聞かれたことがあること、以上の事実が認められ、右認定される事情に照らすと、少なくとも石巻市に在住する新聞読者である不動産業関係者、本件病院関係者及び原告甲野の親類知人にとっては、当該病院及び当該不動産業者を特定できる情報を有していたものと言えるから、本件記事により当該病院が本件病院であり、当該不動産業者が「原告甲野」、「原告会社」であるとほぼ特定することができたものと推認される。

被告は、石巻市門脇には不動産業者が少なくとも一六軒あるから「石巻市門脇の不動産会社役員」との記載から、原告らであることを特定することができないと主張するけれど、本件不動産業者には(五八)との年齢も記載されているし、右の不動産業者の数は、本件病院と本件不動産業者との結び付きに関する石巻市の不動産業界内の認識を希薄にするほどの量とは言えないから、右の数の不動産業者の存在が特定についての前記推認を覆すに足りるものとは認められない。

そして、本件記事の宮城県版は、その本文において、石巻市門脇の不動産会社役員と坂戸市片柳の医療コンサルタントが詐欺と宅地建物取引業法違反(重要事項不告知)の疑いで大宮警察署から浦和地方検察庁に書類送検になったことが記載されているが、記載された被疑事実の内容は詳細で具体的であり、かつ、背景事情として、本件病院を経営していた医師が保険医の資格を取り消され、本件病院が事実上廃業し、契約当時、競売開始決定がされていたことを記載し、殊にその見出しにおいて、「多額の担保のついた病院の売買話で」と、また、太字ゴシックで「手付金三〇〇万円取る」と断定的に強調し、結果、新聞読者に対し、原告甲野が詐欺で手付金三〇〇万円を取ったとの印象を与え、かつ、原告甲野に宅地建物取引業法違反(本件病院に多額の担保がついていたという重要事項についての不告知、以下、「担保関係重要事項不告知」という。)の疑いが濃厚であるとの印象を与える内容となっており、原告甲野の社会的評価を低下させ、ひいては、同人が代表取締役をしている原告会社の社会的評価を低下させる危険性を生じさせていることが認められるから、原告甲野及び原告会社の名誉を毀損するものと言える。

なお、本件記事は、原告会社自体が詐欺や宅地建物取引業法違反を行った疑いで書類送検されたとの内容表現とはなっていない。

二  争点2について

1  本件記事の宮城県版(以下、「本件記事」というときは、単に宮城県と版を指すものとする。)は、不動産業者の不動産売買に関する犯罪報道であるから、その内容が公共の利害に関するものであることは明らかであり、その内容及び表現と新聞社の報道の社会公共性に照らすと、右記事の掲載がもっぱら公益を図る目的でなされたものと認められる。

2  本件記事は、前記のとおり、一定の範囲の新聞読者に対し、原告甲野が詐欺で手付金三〇〇万円を取ったとの印象と宅地建物取引業法違反(重要事項不告知)の疑いが濃厚であるとの印象を与えるものであり、そのことが原告甲野の社会的評価を低下させる危険性を生じさせているから、真実性の証明によって違法性が阻却されるためには、原告甲野について手付金三〇〇万円の詐欺の事実と、宅地建物取引業法違反(担保関係重要事項不告知)の疑いが濃厚であるという事実が真実であるとの証明、あるいは被告において右各事実が真実であると誤信したことに相当の理由があることが必要となってくる。

被告は、本件記事の主要部分は、大宮警察署が不動産業者ら二人を詐欺と >宅地建物取引業法違反の疑いで浦和地方検察庁に書類送検したという事実であるから、真実性の証明の対象も右事実であり、仮に詐欺等の疑いがあるとの印象を与えるとしても、被告における取材経過及び本件記事の内容からすれば、右「疑い」は真実か、真実と信じるにつき相当の理由があると主張する。しかし、新聞に書類送検の事実が報道されれば、新聞読者は被疑事実が真実ではないかとの強い疑いを持つものである上、見出しを含めた本件記事の全体は、新聞読者に対し、右の疑いにとどまらず、原告甲野が詐欺で手付金三〇〇万円を取ったとの印象をも与え、その結果、原告甲野の社会的評価を低下させる危険性を生じさせているのであるから、真実性の証明の対象は、手付金三〇〇万円の詐欺及び宅地建物取引業法違反(担保関係重要事項不告知)の疑いがあるとの事実にとどまらず、詐欺については詐欺の事実そのものが、宅地建物取引業法違反(担保関係重要事項不告知)についてはその疑いが濃厚であることが、真実性の証明の対象であると解すべきである。

3  右の見地に立って、本件記事についての真実性の証明があるか否かを検討することにする。

(一) 証拠(甲第一号証の一ないし七、第三号証の一、第四、第五号証、第六号証の一、二、第七号証、第八号証の一、二、第九号証の一、二、第一〇、第一一号証、第一六号証、第一八号証、第一九号証の一ないし四、第二〇号証の一ないし三、第二一号証、第二二号証の一、二、第二三ないし第二五号証及び原告本人尋問の結果)によれば、本件売買契約に関し、次の事実が認められる。

① 原告甲野は、訴外丁村から本件病院の買い取りあるいは売買の斡旋を依頼されてから、訴外丁村の代理人弁護士に債務の調査を依頼するなどして、本件病院には多額の債務の担保権が設定され、競売開始決定がなされていること、並びに、被担保債権は、五つの金融機関、合計約二億九五〇〇万円であるが、金融機関との間で、債務を弁済することにより競売申立を取り下げる旨の了解ができていることなどを知った。

② 平成二年一〇月七日ころ、訴外丙山と医療コンサルタントを自称する訴外乙川が原告会社を訪ね、原告甲野から本件病院についての説明を聞いた。

被告甲野は、訴外丙山を本件病院の現地に案内するとともに、本件病院が売り出された事情、担保権設定登記の内容、その抹消登記に関する事情など、本件病院について知り得た事情のすべてを説明した。

③ 訴外丙山は、本件病院での病院経営に興味を抱き、その購入希望を強く持ち、原告会社に対し、同年一〇月九日付で、本件病院を代金四億五〇〇〇万円で買い付けることを証明する旨の買付証明書を作成し送付した。

同年一〇月中に、訴外丙山は、取引関係のある第一勧業銀行上尾支店に融資の依頼をする一方、原告甲野に対し、手紙で、右融資の依頼をしていること、本件病院を経営するために、一〇月三一日付で勤務先の診療所を退職する予定であることなど、本件病院に対する買い付けの熱意を訴え続けた。

④ 原告甲野は、訴外丙山の熱意や訴外丙山が資金の融資を受けられることが確実であると信じたことから、本件病院を訴外丙山に売却することにした。

⑤ 同年一〇月二七日ころまでに、原告甲野と訴外丙山との間で、本件病院を原告会社から訴外丙山に、代金四億五〇〇〇万円、手付金一〇〇〇万円で売り渡す旨のだいたいの合意が成立した。手付金一〇〇〇万円の支払に関しては、あらかじめ、訴外丙山から原告甲野に対し、手持金がないので一時立て替えておいてほしい旨の依頼があり、原告会社が訴外丙山に対して本件売買契約の手付金として一〇〇〇万円を貸し渡すこと、及び、右貸金について公正証書を作成し、訴外丙山は融資実行時に右貸金を一括返済することなどの合意が成立していた。

⑥ 同年一〇月二九日、原告会社は訴外丁村から、本件病院を代金三億六〇〇〇万円、手付金一〇〇〇万円で買い受けた。

⑦ 同年一〇月三〇日、原告会社と訴外丙山との間で、本件売買契約(手付金について、契約の解除が売主の違約による場合の手付損金倍返し、買主の違約による場合の手付流れが約され、また、原告会社は訴外丙山に対し、平成二年一一月三〇日までに本件病院を引き渡すとともに、何らの負担のない所有権の移転登記をし、他方、同日までに、訴外丙山は原告会社に対し売買代金四億四〇〇〇万円を支払うこととされ、特約事項として、この期限に多少の遅延があったとしても、当事者双方は互いに不履行責任を負わないことが合意された。)が締結された。

本件売買契約の席には、訴外丙山、訴外乙川、原告甲野及び公正証書作成手続のための司法書士訴外佐藤忠之が同席し、同日、原告会社から訴外丙山に対する右手付金分一〇〇〇万円が貸し付けられ、訴外丙山から原告会社に対し手付金一〇〇〇万円が支払われた相殺処理が行われ、かねてからの合意に基づき、原告会社から訴外丙山に対する右一〇〇〇万円の消費貸借契約につき公正証書を作成することとなり、訴外丙山は、その作成手続を司法書士訴外佐藤忠之に委任することとして、委任状に署名、押印するなどした。

同日、原告会社から訴外丙山に対し、本件病院の物件案内書(五金融機関の担保権設定の負担があることが記載されている。)が交付された。

⑧ 同年一一月一日、右委任状等の書類に基づき、金銭消費貸借契約の公正証書(以下「本件公正証書」という。)が作成され、後日、右公正証書の謄本が司法書士訴外佐藤忠之から訴外丙山に郵送された。

本件売買契約締結の一〇日ぐらい後に、原告甲野から訴外丙山に本件病院の登記簿謄本が渡された。

⑨ しかしながら、訴外丙山の第一勧業銀行上尾支店からの融資の案件は難航し、同年一二月二五日、訴外丙山は原告会社に対し、右銀行からの融資話が不成立となったので、本件病院を買い受けることができなくなった旨を連絡した。

⑩ 同年一二月二八日ころ、原告会社は、訴外丙山に対し、平成三年一月一日をもって、本件売買契約を訴外丙山の代金支払債務の履行不能を理由に解除する旨の意思表示をした。

⑪ 平成三年一月下旬、訴外丙山は、原告会社を訪ね、融資を受けることができず、本件病院を買い受けることができなくなったことを謝罪するとともに、前記消費貸借契約の債務を一〇〇万円に減額してほしい旨依頼した。原告会社は、訴外乙川と相談することとして、右の申し出を断った。

⑫ 同年三月一五日、原告会社は、訴外乙川を交えて、訴外丙山と話し合い、その結果、原告会社が訴外丙山に対する前記消費貸借債権を三〇〇万円に減額し、訴外丙山が原告会社に対し、同日内金一〇〇万円を支払い、残金二〇〇万円を同月末日までに支払うことで合意した。

訴外丙山は原告会社に対し、その旨の念書を差し入れ、右内金一〇〇万円を支払った。

⑬ 訴外丙山は、原告会社に対し、右の残金を、同年四月八日に五〇万円、同月二六日に九〇万円、同年五月一七日に六〇万円と、それぞれ原告会社の預金口座に振り込んで支払った。

原告会社は、同年五月一七日、本件公正証書を訴外丙山に郵送した。

(二) 本件売買契約に関しては、以上の事実が明らかに認められるところであり、手付金三〇〇万円の詐欺の事実あるいはその疑いが濃厚であるとの事実も、また、宅地建物取引業法違反(担保関係重要事項不告知)の疑いが濃厚であるとの事実も、いずれもこれを認めるに足りる証拠はなく、この点について真実性の証明はなされていない。

4  次に、被告が真実と誤信したことに相当の理由があるか否かを検討する。

(一) 被告の取材経過は、証人溝越賢の証言によれば、「平成三年四月に被告に入社し、当時、被告浦和支局に配属となっていた自分が、平成五年一〇月、同支局の上司から本件病院の売買の金銭トラブルについて取材するように指示され、取材活動を始めた。」「同年一〇月一〇日、訴外丙山に対し、約四時間にわたって取材し、訴外丙山から告訴状の写しをもらって不明な点を聞きながら取材した。」「訴外丙山は、本件病院の売買契約書、公正証書、銀行への送金書などの資料を用意して取材に応じていた。」「同年一〇月一五日、自分は、石巻市を訪れ、本件病院を撮影したり、本件病院の登記簿謄本をとったりした。」「同年一〇月一九日、自分は、大宮警察署の幹部から約一時間取材し、同幹部から、原告甲野及び訴外乙川について、詐欺と宅地建物取引業法違反の事件が書類送検されており、その容疑は、詐欺については、病院に時価以上の多額の担保が設定されていて、手付流れになることがわかっていながら、訴外丙山に売買の話を持ちかけ、三〇〇万円を騙し取ったという容疑であり、宅地建物取引業法違反については、手付金貸付違反及び重要事項不告知という容疑であることを確認した。」という内容である。

(二) 右の取材経過を、真実と誤信したことに相当の理由があるか否かという観点から検討するに、証人新井隆の証言によれば、平成五年一〇月一九日の溝越記者の大宮警察署における取材は、応対した大宮警察署副署長新井隆に対し、①本件病院の売買に関して大宮警察署に告訴がなされているか、②なぜ、警察からの広報をしないのか、③事件は書類送検されているのか、④起訴される見込みはあるのか、という点について行われ、これに対し、右新井は、一件記録の控えを手元に置いて、右①については、告訴がなされていると、右②については、広報すべき事案ではないと、右③については、一〇月一三日に浦和地方検察庁に書類送検されていると、それぞれ説明し、右④については、検察官の範疇になるので答えなかったこと、溝越記者は、本件記事に記載された被疑事実を右新井に話し、右新井は、溝越記者が右新井以上によく事案を知っていたことから、右新井の話に相槌を打つ程度であり、宅地建物取引業法違反の件については、右新井も詳しくはなかったため、六法全書を見ながら法律面の説明をしたこと、以上の事実が認められるところであり、右事実に照らすと、溝越記者の大宮警察署に対する取材は、詐欺及び宅地建物取引業法違反の各被疑事実について、その嫌疑が濃いとの心証を得ることができるほどの内容のものではないと言える。

また、告訴事件については、その嫌疑の有無、程度にかかわらず、刑事訴訟法第二四二条により、司法警察員は、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送致しなければならないことが義務付けられているから、本件において書類送検の事実そのものは、およそ真実の裏付けにはならないものである。

したがって、溝越記者の大宮警察署に対する取材では、原告甲野に関し、手付金三〇〇万円の詐欺の事実あるいはその疑いが濃厚であるとの事実が真実であると誤信したこと及び宅地建物取引業法違反(担保関係重要事項不告知)の疑いが濃厚であるとの事実が真実であると誤信したことに相当の理由があるとは言えない。

(三) 次に、訴外丙山に対する取材について検討することにするが、大宮警察署に対する取材が前記の内容であるから、溝越記者がそのほとんどの心証を形成したのが訴外丙山に対する取材であると言えるところ、溝越記者が、一般に知的水準も社会的地位も高いと考えられる医師を職業とする訴外丙山からの直接の取材により、原告甲野に関し、詐欺及び宅地建物取引業法違反の疑いがあるとの心証を抱くことが通常、不合理なことであるとは言えないであろう。

しかしながら、次のような諸点に照らすと、訴外丙山に対する取材により、原告甲野に関し、少なくとも、道徳的に強く非難されることになる手付金三〇〇万円の詐欺について、その事実が真実であると誤信したこと、あるいは、その疑いが濃厚であるとの事実が真実であると誤信したことに、相当の理由があるとは到底言い難いものである。

① 本件売買契約の契約書(甲第七号証)には、買主が手付金一〇〇〇万円を支払うとの約定と手付損金倍返し及び手付流れの約定が記載され、また、売主は売買物件の本件病院に抵当権等の負担があるときに売買代金の残代金受領時までにこれを抹消しなければならない旨の約定が記載されているものであり、これによれば、買主が売買代金を支払うことができずに契約が解除となれば、権利として手付金一〇〇〇万円を売主が取得することができるものであり、また、本件売買契約締結時に本件病院に担保権が設定されていることそれ自体は、契約上何ら義務不履行になるものではなく、かえって最終的に担保権を抹消できないときは、売主が債務不履行として右手付金の倍額を買主に支払わなければならないことになるものであり、右の担保権設定の事実は、売主側が非難されるべき筋合いの性質のものではないこと。

② 本件病院の登記簿謄本(甲第一号証の一ないし七)には、差押、担保権設定等の登記についての全部の抹消登記が平成三年二月五日までになされ、同日付で他の医療法人へ所有権移転登記がなされたことが記載されており、競売開始決定や担保権設定登記等が本件病院の売買の障害とはならなかったことが理解できること。

③ 原告会社が訴外丙山に一〇〇〇万円を貸し渡したことを内容とする本件公正証書(甲第八号証の一)には、訴外丙山の代理人として司法書士が契約を締結し、その委任状については、訴外丙山の印鑑証明書により真正であることを証明させた旨の記載があるが、通常、司法書士が本人からの委任を受けないで公正証書の作成に関与したものとまでは考えないこと。

④ 訴外丙山の告訴状(甲第一二号証)及び銀行への送金書の記載のみに照らすと、訴外丙山が本件公正証書の貸金の関係で原告会社に対して送金振込した平成三年四月、五月の時期には、訴外丙山が財産的被害を認識していたものと理解すべきところ、訴外丙山の告訴は右の時期から約二年を経過してなされていることが明白であること。

そうであれば、第三者からみれば、通常、なぜに、被害を認識してから長期間経過後に告訴がなされたのかという疑問がわいてくるのが普通であり、ひいては、告訴の動機の正当性についても、何らかの疑念が生じてくること。

⑤ 訴外丙山の告訴は、不動産売買取引をめぐっての出来事であり、訴外丙山と原告らとは、契約の相手方当事者の関係にあって、極めて金銭的な利害関係を有しているものであることは、容易に理解できるものであり、事実調査を担当する者は、このような関係にある当事者の一方だけからの情報が、その性質上、情報提供者が自己の利益に傾いた認識、理解に基づいて発している可能性があるものと理解すべきものであること。

右のような理解に基づいて、溝越記者が原告甲野や司法書士佐藤忠之から本件売買契約の締結、本件公正証書の作成及び三〇〇万円の授受についての事情を聞いていれば、客観的資料(甲第三号証の一、第四号証、第六号証の一、二、第一〇号証、第一九号証の一ないし四、第二一号証、第二五号証)も存在するところであるから、容易に真相に近づくことができ、原告甲野及び原告会社において、詐欺性が存在しないことが理解できたはずであるが、溝越記者は、取材を困難とする特段の事情もないのに、原告甲野や司法書士佐藤忠之から事情を聞いていないこと。

(四) 以上により、溝越記者の取材に基づく本件記事については、原告甲野に関し手付金三〇〇万円の詐欺の事実が真実であると誤信したこと、あるいは、その詐欺の疑いが濃厚であるという事実が真実であると誤信したことに、いづれも、相当の理由があるものとは認められない。

したがって、被告は、原告甲野に対し、本件記事により同人が被った精神的苦痛による損害について不法行為責任を負わなければならない。

三  争点3について

前記判示の諸事情を考慮すると、本件記事によって原告甲野が被った精神的苦痛に対する慰謝料は、金五〇万円が相当である。

弁護士費用については本件不法行為と相当因果関係にある損害は、金一〇万円と認められる。

したがって、被告は、右合計金六〇万円と内金五〇万円に対する不法行為の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

なお、本件売買契約の経緯等に照らすと、原告会社は、原告甲野の個人会社であると推認され、原告甲野に対する損害賠償は、特別の事情がない限り、これによって原告会社主張の損害も回復されることになるところ、右の特別の事情の存在を認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告会社の損害賠償請求は理由がない。

第四  結語

以上の次第で、原告甲野の請求は、主文第一項掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余の原告甲野の請求及び原告会社の請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 片瀬敏寿)

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