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仙台地方裁判所 昭和61年(ワ)797号 判決 1989年11月30日

原告

加藤しげ子

被告

仙台プロパン株式会社

主文

一  被告は原告に対し金四四三万〇五四三円及び内金四〇三万〇五三四円に対する昭和六一年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し二五三八万一〇四三円及び内金二四九八万一〇四三円に対する昭和六一年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第一項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和五九年三月一三日午前九時一〇分頃

(二) 場所 仙台市郡山字篭ノ瀬三番一〇号先路上(国道四号線仙台バイパス、以下「本件路上」という。)

(三) 態様 原告(昭和一一年一二月生)が普通乗用自動車(宮五七ち九五〇三、以下「原告車」という。)を運転して本件路上を泉市方面から名取市方面に交通渋滞のため徐行しつつ進行中、直後を進行していた普通貨物自動車(宮四五せ一二五六、以下「加害車」という。)を運転していた訴外亡馬場一治(昭和五九年八月四日死亡)が助手席に置いた弁当箱が下に落ちたのでこれを拾おうとして前方注視を怠つたため、加害車前部を原告車後部に追突させた。

2  責任原因

(一) 被告は加害車を保有し、これを自己のために運行の用に供していたから、自動車損害賠償保障法三条に基づき、本件事故により原告が被つた損害を賠償する責任がある。

(二) また、本件事故は被告の被用者である亡き馬場が、被告保有車両を運転して勤務中、進路前方を注視して安全を確認し先行車の動静に注意して衝突等の危険を回避すべき注意義務があるのにこれを怠つた結果、発生させたものであるから、被告は亡馬場の使用者として民法七一五条に基づき、本件事故により原告が被つた損害を賠償する責任がある。

3  原告の受傷及び治療

(一) 原告は本件事故により頸椎捻挫、頭部・左胸部挫傷等の傷害を受け、かつ右傷害を原因として神経症に罹患したため、次のとおり入、通院治療を受けた。

(1) 伊藤医院

入院 五九年三月一三日から同年八月一九日まで一六〇日間

通院 五九年八月二〇日から六〇年六月五日まで二九〇日間

(但し実日数四二日)

(2) 仙台市立病院へ通院

五九年五月七日から同年七月一八日まで七三日間

(但し実日数七日)

(3) 東北労災病院へ通院

整形外科 五九年七月二六日から同年八月二四日まで三〇日間

(但し実日数四日)

眼科 五九年七月三〇日から六〇年八月二六日まで三九三日間

(但し実日数一八日)

心療内科 五九年八月三日から六〇年一〇月一五日まで四一〇日間

(但し実日数五六日)

(二) 原告は頸椎捻挫、頭部・左胸部挫傷の傷害、及び神経症について昭和六〇年一〇月一五日症状固定し、後遺症七級四号の「神経系統の機能又は精神に傷害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に該当するに至つた。

4  損害及び填補額

(一) 治療費 二三二万六一九七円

(1) 伊藤医院分 一九一万〇〇一二円

内訳 入院分 一八三万九八九〇円

通院分 五万八一二二円

診断書 一万二〇〇〇円

(2) 仙台市立病院分 七万七八二〇円

内訳 通院分 七万四八二〇円

診断書 三〇〇〇円

(3) 東北労災病院分 三三万八三六五円

内訳 整形外科 二万一六五〇円

眼科 八万〇三八〇円

心療内科 二三万六三三五円

(二) 入院雑費 一六万〇〇〇〇円

但し、一日一〇〇〇円宛一六〇日分。

(三) 通院交通費 八万〇三二〇円

バス代 往復一二〇〇円宛実通院日数中五六日分 六万七二〇〇円

タクシー代 一万三一二〇円

(四) 休業損害 三一九万一三八一円

原告の昭和五九年当時の年収は二二五万二七四〇円で、本件事故により五九年三月一三日から六〇年一〇月一五日まで稼働できなかつたが、その内一七か月分(円未満切捨、以下同じ)。

二二五万二七四〇円÷一二×一七=三一九万一三八一円

(五) 後遺症による逸失利益 一〇〇二万二七六四円

原告は本件事故当時四七歳で看護婦として勤務して年収二二五万二七四〇円を得ていたが、本件事故により神経症に罹患し、後遺症七級に該当し、以後看護婦としてはもちろん会社等での通常の勤務も難しい状況になつた。

したがつて原告の労働能力喪失率は五六パーセントであり、その労働能力喪失期間は一〇年(新ホフマン係数七・九四四九)が担当である。

二二五万二七四〇円×〇・五六×七・九四四九=一〇〇二万二七六四円

(六) 慰謝料 一三四九万円

(1) 原告は本件事故による受傷のため、入通院治療を余儀なくされたが、症状固定日までの入通院慰謝料として四〇〇万円が担当である。

(2) 後遺症分

原告は昭和三三年頃から事務員、看護助手として医療に従事してきたが、当時の夫の年収では子女の養育や住宅ローンの支払に不足するため、昭和五六年に念願の准看護婦の資格を取り、以後希望に燃えて職務に従事していた。

しかるに本件事故の後遺症により神経症に罹患し看護婦として働けなくなり、原告は生き甲斐を喪失せしめられ絶望の奈落に落とされ、死にも比肩しうるほどの精神的苦痛を受けている。なお住宅ローンの支払ができなくなり自宅を昭和六〇年一〇月三〇日に手放した。

このような原告の精神的苦痛を慰謝するには九四九万円が相当である。

(七) 損害の填補

以上(一)ないし(六)の合計は二九二七万〇六六二円であるが、原告は被告から四二八万九六一九円(但し、物損関係を除く)の填補を受けたので、差引損害額は二四九八万一〇四三円となる。

(八) 弁護士費用

本件損害賠償金を請求するについての弁護士費用として四〇万円が相当である。

5  よつて原告は被告に対し、右4(七)、(八)の合計二五三八万一〇四三円、及び弁護士費用を除く内金二四九八万一〇四三円に対する訴状送達日の翌日である昭和六一年八月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1(一)、(二)は認め、(三)は不知。

2  同2(一)の中、被告が加害車を保有し、これを自己のために運行の用に供していたこと、及び(二)の中、本件事故は被告の被用者である亡馬場が被告の保有車両を運転して勤務中に生じたことは認め、その余は否認する。

3  同3(一)は不知、(二)は否認する。被告の本件事故による傷害は、整形外科的に見て事故日より入院一・五月(昭和五九年四月三〇日まで)、通院一月をもつて昭和五九年五月二九日には治癒した。さにあらずとも伊藤医院を退院した同年八月一九日には完全に治癒した。したがつてそれ以降について被告は損害賠償を負わない。

治療が長期化したのは、原告が本件事故以前から有していた内在的な特異性格により神経症が発現し、他覚的所見もないまま本人の愁訴が続いたからであるが、本件事故と神経症の発現との間に相当因果関係は認められない。仮に因果関係が認められるとしても、被告は結果(被害)に対する寄与度に応じた限定責任を負うにとどまる。

4  同4は否認する。治療費(通院分)のうち伊藤医院の四万〇五七二円、仙台市立病院の四万〇四八八円は健康保険組合から支払われていて、被告は将来健康保険組合から求償を受ける立場にあるから損害額から控除すべきである。

第三  証拠関係は本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(一)、(二)の各事実は当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第一、第一一号証によると、同(三)の事実を認めることができる。二 請求原因2(一)の中、被告が加害車を保有し、これを自己のために運行の用に供していた事実、及び同(二)の中、本件事故は被告の被用者である亡馬場が被告の保有車両を運転して勤務中に生じた事実は当事者間に争いがない。

前記一及び右の事実によると、被告は原告に対し、自動車損害賠償保障法三条、並びに民法七一五条に基づき本件事故により原告が被つた損害を賠償する責任がある。

三  受傷及び因果関係

前記甲第一一号証、いずれも成立に争いのない甲第三号証の一ないし四、第四号証の一、二の一ないし三、第五号証の一の一ないし三、二の一ないし四、第六号証の一、二の一ないし六、三の一ないし九、第七号証の一の一ないし三、二の一ないし六、三の一ないし一一、乙第一四号証の一ないし一八、第一五ないし第一七号証、原本の存在と成立に争いのない乙第一号証の一、二、第二ないし第六号証、原告本人尋問の結果(第一回)により成立を認めることができる甲第一二、第一四、第一五号証、弁論の全趣旨により成立を認めることができる甲第一三号証、第一六号証の一、二、第一七ないし第一九号証、鑑定人布施裕二の鑑定の結果、証人加藤文男、同布施裕二、同佐藤貞蔵(一部)、同高重正樹の各証言、並びに原告本人尋問の結果(第一、二回)によると、次の各事実を認めることができ、右認定に反する証人佐藤貞蔵の証言部分は前記各証拠と対比して採用できない。

1  原告は昭和一一年一二月に出生し昭和三〇年県立高校卒業後、町役場に勤務し昭和三一年に婚姻して二女一男を設けた。高校時代は自主的意見を持ち独力で事をなし決断力のある態度が目立ち、成績は中位であつた。原告は昭和三三年頃以降、事務員、看護助手として医療に従事してきたが、夫の収入では子女の養育や住宅ローンの支払に不足するため、二年間准看護婦養成学校に通つた後、昭和五六年に優秀な成績で准看護婦の資格を取り、昭和五七年から仙台市南小泉の佐藤産婦人科医院で看護婦として勤務していた。なお原告は昭和四六年に普通免許を取得し、通勤に原告車を運転していたが、本件事故前に交通事故に遭つたことはなかつた。

2  昭和五九年三月一三日の本件事故当日、亡馬場(昭和九年八月生)は加害車にガス工事工具七〇〇キログラムを積載して渋滞のため時速約三〇キロメートルで進行していたが、前方を注視していなかつたため、先行車に続いて停止しようとした原告車に追突した。そのため原告車は先行する訴外坂内次運転の普通乗用車に玉突き衝突し、衝突の衝撃で原告は一時失神して(尿失禁もあつた)、意識回復後に嘔吐が見られたので救急車で伊藤病院に運ばれ、直ちに入院した。

衝突の結果、原告車は前後部が小破凹損し、修理に一七万円を要する損害を被つたので原告は他に処分した。坂内運転者も後部が凹損し、修理に七万円以上を要したが、坂内に身体傷害は生じなかつた。

3  原告は本件事故により眼鏡を紛失し、頸椎捻挫、頭部・左胸部挫傷の傷害を受け、入院治療を受けたが、同年三月末頃から三叉神経痛、眼精疲労を訴え、視力が低下し視野が狭窄して、真直ぐに歩行することが不可能となり、頭痛による痙攣発作を起こし、不眠、不特定愁訴を繰り返し、その後神経症に罹患した。そのため原告は、同年八月一九日に伊藤医院を退院後も、請求原因3(一)(1)ないし(3)のとおり仙台市立病院、東北労災病院で通院治療を受けた。

4  原告は本件事故前、勤務先の佐藤産婦人科医院で更年期の自律神経障害の傾向が見られ、対人関係も良好でない面があつた。そのため原告は昭和五九年三月に右佐藤医院を退職する予定で、同月二一日から仙台市内の別の産婦人科病院で看護婦とし給料月額一六万円以上、賞与年二回約四・四か月分、定年五七歳との条件で採用が内定していたが、本件事故により受傷入院したため右採用取消となつた。

原告は同年八月一九日に退院後、復職することを望んだが、三叉神経痛、眼痛、視力低下、腰痛、並びに神経症の症状が続くため、看護婦として再び勤務することはできなくなり、他に就職することもできなかつた。そのため真面目で勝ち気な性格の原告は精神不安定となり欝状態が続き、同年一〇月、及び昭和六〇年一〇月並びに同年一一月に自殺企図をした。

また原告の収入がなくなり自宅のローン返済ができなくなつたため、昭和六〇年一〇月三〇日に名取市にあつた自宅を売却した。その後原告は夫と別居して、昭和六一年頃からは東京で一人で生活するようになり、掃除婦、店員等をしたが神経症のため続かず、現在は都内の病院で主に汚物処理、褥瘡処理、死体処理等の看護助手として月額一〇万円前後の収入を得て暮らしている。

なお原告の視力は、本件事故前は裸眼で〇・二ないし〇・三、矯正で一・〇ないし一・二であつたが、事故後は裸眼で〇・〇四、矯正で〇・三ないし〇・四となつた。そのため原告は昭和六一年に運転免許の更新を受けることができず、また視力障害のため原付免許も取得できなかつた。

5  原告は昭和六〇年一〇月三〇日東北労災病院心療内科で外傷後神経症が同月一五日治ゆ見込との診断を受けた。しかしその後も原告は三叉神経痛、視力低下、神経症の症状が続き、昭和六二年五月東北大学附属病院神経内科において三叉神経領域の右眼窩部痛、後頭部痛の診断を受け、平成元年九月現在も、三叉神経痛、及び神経症で医師の治療を受けている。

原告は現在精神科的には不安・抑うつを伴い時にヒステリー的な興奮を伴う神経症に罹患しているが、このような状態は本件事故前には見られず、本件事故及びそれに伴う補償問題が大きな心因となつている。

また、本件事故後間もない昭和五九年八月四日に亡馬場が死亡したことも原告の心痛を増大した。亡馬場は本件事故につき同年三月二八日検察官の取調を受け、事故の補償については相手側と円満に話し合つて和解している旨供述し、同月三〇日原告に加療約三週間を要する頸部捻挫等の障害を負わせたとして業務上過失傷害罪で起訴され、同年五月一〇日罰金六万円の略式命令が確定した。

四  以上の認定事実、及び前記鑑定の結果によると、次のとおり判断することができる。

1  本件追突事故は亡馬場の一方的な過失により生じたもので、内容は軽微ではなく、原告に与えた肉体的、精神的衝撃は極めて大きかつたものである。本件事故の原告の種々の愁訴が詐病であるとは認められず、原告の後頭部、背部、腰部、手足等の神経系統、及び視神経に見られる主観的な異常は本件事故との因果関係を有し、原告は現在神経症に罹患している。原告の従前からの神経質的な性格が現在の神経症に影響しているが、神経症は本人の元々の素質から生じる疾病ではない。原告に疾病逃避はなく、また原告の好訴的性格から相手を責めるのみで自ら障害から立ち上がる自発性が欠如しているということもない。被告の主張するように事故前から原告の有していた特異性格により神経症が発現したとの反証は尽くされていない。なお原告は本件事故前、勤務先の佐藤医院で自律神経障害や対人関係不良の面があつたが、それは夜勤等による過労と個人開業医である同病院の閉鎖的な人間関係から来る面もあつたことは否定できず、過大視することはできない。

そうすると、原告の神経症は本件事故により生じたもので、本件事故と相当因果関係があるものと認められる。右判断に反する被告の主張は全て採用できない。

2  原告の本件事故による頸椎捻挫、頭部・左胸部挫傷、三叉神経痛等の傷害、及び神経症は昭和六〇年一〇月一五日症状固定した。右後遺症の結果、原告は現在、前記三4のとおり、看護婦としての激務には耐えられない程度の身体状況になり、その程度は後遺障害別等級表九級一〇号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」に該当する。

3  しかしながら、車両追突という本件事故態様により、一般的に被害者に神経症が発現するとは認められないし、また前記鑑定の結果によると、原告が神経症に罹患したことには原告の年齢からくる身体的衰え、及び仕事の疲れなどの身体的要因、並びに原告固有の心因的要素も寄与しているものと認められる。

そうすると、損害の公平負担の見地から民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用して、本件事実関係の下では後記原告に生じた損害のうち五割の限度を被告に負担させるのが相当である。

五  損害

1  治療費

原告の主張する伊藤医院の四万〇五七二円、及び市立病院の四万〇四八八円は健康保険組合から支払われていて、被告は将来健康保険組合から求償を受ける立場にあるから損害額から控除する。また市立病院の一万〇九八〇円は重複請求であるから認められない。

(一)  伊藤医院分

前記甲第三号証の三、四、成立に争いのない甲第八号証の二、弁論の全趣旨により成立の認められる同号証の一によると、一八六万九四四〇円である。

内訳 入院分 一八三万九八九〇円

通院分 一万七五五〇円

診断書 一万二〇〇〇円

(二)  仙台市立病院分

前記甲第五号証の二の一、二、成立に争いのない甲第二、第九号証によると二万六三五二円である。

内訳 通院分 二万三三五二円

診断書 三〇〇〇円

(三)  東北労災病院分

前記甲第四、第六、第七号証の各二の一、第六、第七号証の各三の一、成立に争いのない甲第一〇号証の一ないし三によると、三三万八三六五円である。

内訳 整形外科 二万一六五〇円

眼科 八万〇三八〇円

心療内科 二三万六三三五円

(四)  以上(一)ないし(三)の合計 二二三万四一五七円

2  入院雑費

原告は一六〇日間入院したから、入院雑費として一日一〇〇〇円宛計一六万円が相当である。

3  通院交通費

前記のとおり原告が請求原因3(一)のとおり通院した事実、及び弁論の全趣旨によると、原告の通院交通費としては請求原因4(三)のとおり八万〇三二〇円が相当である。

4  休業損害

原告本人尋問の結果(第一回)及び弁論の全趣旨によると、昭和五八年当時の原告の年収は二二五万二七四〇円であると認めることができるから、休業損害は請求原因4(四)のとおり三一九万一三八一円である。

5  逸失利益

原告は本件事故当時四七歳で看護婦として勤務し年収二二五万二七四〇円を得ていたが、本件事故により前記四2のとおり後遺障害別等級九級一〇号に該当するに至り、以後看護婦としての勤務はできなくなつた。

右後遺障害による労働能力喪失率は少なくとも二五パーセントで、労働能力喪失期間は一〇年(新ホフマン係数七・九四四九)とするのが相当である。そうすると逸失利益は四四七万四四四八円となる。

二二五万二七四〇円×〇・二五×七・九四四九円=四四七万四四四八円

6  慰謝料

(一)  前記のとおり原告は本件事故による受傷のため、入院五か月、通院一五か月の治療を余儀なくされたから、症状固定日までの入通院慰謝料として二〇〇万円が相当である。

(二)  後遺症分

原告は婚姻後の昭和三三年頃から看護助手等として医療に従事してきて、昭和五六年に念願の准看護婦の資格を取り、以後希望に燃えて職務に従事していたが、本件事故による後遺症により神経症に罹患し、看護婦として働けなくなり、また夫とも別居することとなり、その精神的苦痛は大きいものと認めることができる。したがつて右精神的苦痛を慰謝するには四五〇万円が相当である。

7  以上1ないし6の合計は一六六四万〇三〇六円であるから、前記四3のとおりその五割の八三二万〇一五三円を被告に負担させるのが相当である。

8  前記甲第二号証によると、被告は原告に対し眼鏡代六万六四〇〇円を支払つたほか、人損分として四二八万九六一九円を支払済であることが認められるので、差引残額は四〇三万〇五三四円となる。

9  本件訴訟の事案の内容、審理経過、認容額、その他の事情を考慮すると、原告が被告に対して損害賠償として求め得る弁護士費用は四〇万円が相当である。

六  結論

以上によると、原告の本訴請求のうち前記五8、9の合計四四三万〇五三四円、及び弁護士費用を除く内金四〇三万〇五三四円に対する訴状送達日の翌日であることが記録上明らかな昭和六一年八月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 水谷正俊)

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