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仙台地方裁判所 昭和60年(ワ)1409号 判決 1989年10月25日

原告

太田あや子

ほか六名

被告

佐藤信康

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告太田あや子(以下、「原告あや子」という。)に対し、金二〇一八万二〇〇〇円及びこれに対する昭和五八年一一月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告太田勝治、同針生たかよ、同板橋文子、同引地テル子、同太田勝義及び同新井田とみ子に対し、それぞれ金一九七万四〇〇〇円及びこれに対する昭和五八年一一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告あや子は、昭和五八年一一月六日午後一時四五分ころ、普通乗用自動車(宮五六な四六五)を運転して、黒川郡富谷町三ノ関字坂ノ下地内国道四号線を仙台方面から古川方面に向かつて進行中、センターラインを越えて対向進行してきた被告運転保有の普通乗用自動車(福島五七そ四〇七八)に右側面を接触されてハンドル操作の自由を失い、対向車線上に進出して、折から被告車に追随進行していた土谷友吉運転の普通貨物自動車(岩一一せ五七)と正面衝突し、さらにそのはずみで転回したところに原告あや子車に追随進行していた新谷敏彦運転の普通乗用自動車(宮五六て三八六八)に衝突された。

2  右事故により、原告あや子は、外傷性出血性シヨツク、右脛骨遠位部骨折、左大腿骨二重骨折(骨幹部遠位部及び内顆部)、右腓骨遠位部骨折、両下腿広範挫滅創、左第三、四、五、六、七、八、九肋骨骨折、右第三、四、五、六肋骨骨折、胸骨部打撲の重症を負い、右事故日から昭和五九年八月二五日まで三一六間仙台市青葉区二日町伊藤外科病院に入院し、同月二六日から昭和六〇年三月二四日まで右病院に通院して加療を受けた。

原告あや子は、右同日症状固定し、歩行障害(歩行速度が同年正常人の三分の一程度、跛行あり、走ることは不能)、日常生活動作上あぐらや正座ができない、両膝・両足関節の歩行時疼痛の自覚症状、左膝屈曲制限、右足関節可動域低下、醜状瘢痕、左大腿骨顆部・右下腿遠位部の変形(レントゲンで分かる程度)の後遺症(自賠法後遺障害等級表九級該当)が残つた。なお、原告あや子は、症状固定後も医師の指示により諸検査及び処置のため右伊藤外科病院に昭和六〇年三月二五日から同年四月一五日まで入院した。

右事故により、原告あや子車に同乗していた太田文男は、脳挫傷、脊髄損傷、胸部打撲、血胸の傷害を受けて仙台市立病院に入院して治療を受けていたが、昭和五八年一一月一八日右傷害に起因する脳幹麻痺により死亡し、また、太田とよは、右事故により急性硬膜下血腫の傷害を受け仙台市立病院に収容されたが、同年一一月七日右傷害に起因する脳幹麻痺により死亡した。なお、太田和彦は、同車に同乗していて右事故により外傷性シヨツク、頭部外傷(後頭部挫創)の傷害を受け伊藤外科病院で治療を受けたが、同月一八日軽快し退院した。

3  右事故は、被告がセンターラインを越えて原告あや子車右側に自車を接触させるという運転操作ミスに起因して発生したものであり、被告は、右事故によつて生じた損害につき自賠法三条により賠償すべき義務がある。

4  原告太田勝治、同針生たかよ、同板橋文子、同引地テル子、同太田勝義、同新井田とみ子は、太田文男、とよの間に生まれた子であり、太田とよの遺産については、太田文男が二分の一、右子らが一二分の一ずつ、太田文男の遺産については、右子らが六分の一ずつ相続により承継した。

5  右事故により原告あや子に生じた損害は、次のとおりである。

(一) 治療費 金七四万〇四八四円

伊藤外科病院における昭和五八年一一月六日から昭和五九年八月二五日までの治療費のうち原告あや子の負担にかかるもの金六八万二九七四円と、昭和六〇年三月二五日から同年四月一五日までの入院治療費金五万七五一〇円の合計額

(二) 入院雑費 金三一万六〇〇〇円

昭和五八年一一月六日から昭和五九年八月二五日まで三一六日間の一日当たり金一〇〇〇円の諸雑費

(三) 通院交通費 金一万六〇〇〇円

自宅から伊藤外科病院までタクシーによる通院費一日当たり金二〇〇〇円で八日間の合計

(四) 休業損害 金一八九万四一八一円

原告あや子は、夫らとともに農業に従事していたところ、昭和五九年賃金センサス第一巻第一表年令階級別きまつて支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額企業規模計(以下、「賃金センサス」という。)女子学歴計により年間収入を算定すれば、金二一八万七九〇〇円である。これを三六五で除して休業期間日数である三一六を乗ずれば、金一八九万四一八一円となる。

(五) 後遺症による逸失利益 金一一八六万九三五七円

原告あや子は、後遺症確定時四三歳であり、稼動可能年数は二四年、ホフマン係数は一五・五〇〇である。労働能力喪失率は三五パーセントとするのが相当であるから後遺症による逸失利益は金一一八六万九三五七円となる。

(六) 弁護士費用 金一五〇万円

6  亡太田文男の損害は、次のとおりである。

(一) 逸失利益 金四〇六万五九八九円

亡太田文男は、生前農業に従事して収入を得ていたが、稼動可能期間は四年、そのホフマン係数は三・五六四であり、収入は、賃金センサス男子労働者小学新中卒の六五歳以上の者の年収によれば、金二二八万一七〇〇円であつて、生活費を五割とすれば、逸失利益は金四〇六万五九八九円である。

(二) 慰謝料(死者本人) 金五〇〇万円

(三) 原告あや子を除くその余の原告の固有の慰謝料合計 金一〇〇〇万円

7  亡太田とよの損害は、次のとおりである。

(一) 逸失利益 金三八〇万八二四四円

亡太田とよは、生前農業に従事して収入を得ていたが、稼動可能期間は五年、そのホフマン係数は四・三六四であり、収入は、賃金センサス女子労働者小学新中卒の六五歳以上の者の年収によれば、金一七四万五三〇〇円であつて、生活費を五割とすれば、逸失利益は金三八〇万八二四四円である。

(二) 慰謝料(死者本人) 金五〇〇万円

(三) 原告あや子を除くその余の原告の固有の慰謝料合計 金一〇〇〇万円

8  亡太田文男及び亡太田とよ関係の弁護費用 金九〇万円

9  よつて、原告あや子は、被告に対し、損害額合計金二三八三万六〇二二円から自賠責により受領した金三六五万四〇〇〇円を控除した金二〇一八万二〇二二円のうち金二〇一八万二〇〇〇円及びこれに対する事故の翌日である昭和五八年一一月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告あや子を除くその余の原告らは、被告に対し、亡太田文男及び亡太田とよ関係の損害金合計金三八七七万四二三三円から自賠責により受領した亡太田文男の死亡賠償金一三七五万円、亡太田とよの死亡賠償金一三一八万円を控除した金一一八四万四二三三円のうち金一一八四万四〇〇〇円の六分の一ずつである金一九七万四〇〇〇円及びこれに対する同月一九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、昭和五八年一一月六日午後一時四五分ころ、黒川郡富谷町三ノ関字坂ノ下地内路上で交通事故が発生したことは認め、その余の事実は否認する。

2  同2の事実は不知。

3  同3の事実は否認し、主張は争う。

4  同4ないし8の事実は不知。

三  被告の主張

本件事故は、原告あや子がセンターラインをオーバーし、折から対向してきた被告運転の普通乗用自動車の右後部に自車前部を接触させ、被告車に追従して進行してきた土谷友吉運転の普通貨物自動車の右前部に自車前部を衝突させ、さらに、その衝撃により、自車が右に回転しながら左側の自車線内に後退した直後、自車に追従して進行してきた新谷敏彦運転の普通乗用自動車をして、その前部を自車右側部に衝突するに至らせ、よつて、太田とよ、太田文男を死亡させ、原告あや子、同太田和彦に傷害を負わせたものである。

被告は、自車の運行に関し、注意を怠つてはおらず、本件事故は、もつぱら原告あや子の過失によつて惹起され、かつ、被告車に構造上の欠陥または機能の障害もないから、被告は自賠法三条但書により免責されるべきである。

四  被告の主張に対する認否

否認ないし争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  本件の交通事故の態様について

1  昭和五八年一一月六日午後一時四五分ころ、黒川郡富谷町三ノ関字坂ノ下地内路上において交通事故が発生したことは、当事者間に争いがなく、右事実と成立に争いのない甲第四、第五、第一〇、第一一、第一三、第一四、第一六号証、第二九号証の二、乙第四号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第三、第五、ないし第八号証によれば、次の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

原告あや子は、昭和五八年一一月六日午後一時四五分ころ、普通乗用自動車を運転し、黒川郡富谷町三ノ関字坂ノ下地内道路を仙台市方面から大和町方面に向かい時速約四〇キロメートルで進行し、道路が左方向に緩やかに湾曲している場所にさしかかつた際、ハンドルを的確に操作することにより右側の対向車線にはみ出さないようにして進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、自車の進路を維持するのに必要なハンドル操作をしないで進行した過失により、気付かないうちに自車を右側の対向車線にはみ出させて、折から対向して進行してきた被告運転の普通乗用自動車の右後部に自車右前部を接触させたうえ、被告運転車両に追従してきた土谷友吉運転の普通貨物自動車の右前部に自車前部を衝突させ、さらに、その衝撃で自車が右に回転しながら左側の自車線内に後退した直後、自車に追従してきた新谷敏彦運転の普通乗用自動車をしてその前部を自車右側部に衝突するに至らせた。この事故により、原告あや子は、外傷性出血性シヨツク、右脛骨遠位部骨折等の傷害を負い、また、自車に同乗していた太田とよに急性硬膜下血腫の傷害を負わせ、同女を右傷害に基づく脳幹麻痺により、同月七日午前四時一八分ころ仙台市立病院において死亡させ、太田文男に脳挫傷等の傷害を負わせ、同人を右傷害に基づく脳幹麻痺により、同月一八日午後二時一一分ころ同病院において死亡させ、太田和彦に加療一三日間を要する頭部外傷等の傷害を負わせた。

2  これに対し、原告らは、本件の交通事故について、被告がセンターラインを越えて原告あや子車の進行車線内を対向進行してきて、原告あや子車の右側面に接触してきたため、原告あや子がハンドル操作の自由を失つたことが原因で発生したものである旨主張するが、本件全証拠によるも、これを認めることができない。

かえつて、前記乙第三ないし第五号証、第八号証によれば、被告は、本件の事故当時、前記道路を大和町方面から仙台市方面に向かい時速約四〇キロメートルで自車の車線を進行していたところ、対向して進行していた原告あや子がハンドル操作を誤り、急にセンターラインを越えて自車を被告の車線内にはみ出させて被告車に接触させたものであり、被告において前方等の注視を尽くしてはいたが、原告あや子車との接触の危険を感じた瞬間に同車と接触したことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、原告あや子車との接触は、被告にとつて避けることができなかつた事故であり、被告には、これについてなんらの過失もないといわなければならない。

二  被告の主張について

一に検討したように、本件の交通事故については、被告になんらの過失がなく、原告あや子の過失によつて惹起されたものであつたことに加え、弁論の全趣旨によれば、被告車には構造上の欠陥及び機能の障害がなかつたことが認められるから、自賠法三条但書の規定により、被告は、本件の交通事故による損害の賠償責任を負わないものというべきである。

したがつて、原告らの被告に対する請求は、その余の点を判断するまでもなく失当である。

三  以上の次第であるから、原告らの請求は理由がないのでこれらを棄却し、訴訟費用の負担については民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 長口秀之)

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