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仙台地方裁判所 昭和59年(行ウ)7号 判決 1991年11月12日

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

【事 実】

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五八年六月二九日付けでした原告の昭和五五年分贈与税の決定及び無申告加算税賦課決定を取り消す。

2  被告が昭和五八年六月二九日付けでした原告の昭和五六年分贈与税の決定及び無申告加算税賦課決定(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、昭和五八年六月二九日付けで、原告に対し、別表(一)のとおり、昭和五五年分及び昭和五六年分の各贈与税決定処分及びその各無申告加算税の各賦課決定処分をした。

2  原告は、昭和五八年八月二九日、被告に対し右各処分を不服として異議の申立てをしたところ、被告は、同年九月二九日付をもつて、右異議申立てをいずれも却下する決定をした。そこで、原告は、更に、同年一〇月二八日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、昭和五九年七月二七日付をもつて、昭和五五年分の決定処分及び賦課決定処分に対する審査請求を棄却し、昭和五六年分の決定処分及び賦課決定処分の一部を取り消す旨の裁決をした(各年分の課税経過は別表(二)のとおりである。)。

3  しかし、被告がした各処分(ただし、昭和五六年分贈与税の決定及び無申告加算税賦課決定については審査裁決により一部取り消された後のもの、以下「本件各処分」という。)は、違法である。

4  よつて、原告は、被告に対し、本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2の事実は認める。3の主張は争う。

三  被告の主張

1  原告は、別表(三)のとおり、昭和五五年六月二四日武藤浩光から、昭和五六年一月三一日西尾やす子から、株式会社丸本組(以下「丸本組」という。)の株式をそれぞれその額面金額である一株当たり五〇円で譲り受けた。

2  原告の右株式(以下「本件株式」という。また、武藤浩光からの譲受分を以下「昭和五五年分」ともいい、西尾やす子からの譲受分を以下「昭和五六年分」ともいう。)の譲受価額は、次のように、国税庁長官の定めた昭和三九年四月二五日付直資五六直審(資)一七「相続税財産評価に関する基本通達」(昭和五六年九月二九日付一部改正前のもの(以下「評価通達」という。))に基づいて評価算定された価額に比べ著しく低いため、相続税法七条の規定する場合(贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合)に該当し、譲り受けた株式の時価とその譲受価額との差額については、当該譲渡時において右各譲渡人から贈与されたものとみなされ、贈与税が課税されるべきものであつた。

(一) 評価通達によれば、本件株式は、上場株式及び気配相場のある株式のいずれにも該当しないので、取引相場のない株式として評価されることになる。そして、昭和五五年分については別表(四)のとおり、また昭和五六年分については別表(五)のとおり、丸本組は「大会社」に該当し、かつ、原告は「同族株主」に該当する。したがつて、本件株式は、原則的には類似業種比準価額方式により評価されるべきであり、ただ、その価額が純資産価額方式によつて評価した価額を超える場合には、純資産価額方式による価額を採用することもできることになる。

(二) 類似業種比準方式は、事業内容が類似する複数の上場会社からなる類似業種の平均株価を基とし、類似業種並びに評価会社の配当、利益及び純資産を比準要素として評価額を算出する方式であり、これによつて、本件株式を評価すると、昭和五五年分については別表(六)のとおり一株当たり九九六円となり、昭和五六年分については別表(七)のとおり一株当たり一一八九円となる(なお、各別表中のAの基礎となる数値及びB、C、Dの各数値は、昭和五五年分については国税庁長官通達昭和五五年一〇月一七日付直評一九「昭和五五年七月分及び八月分の業種別平均株価について」に、また、昭和五六年分については国税庁長官通達昭和五六年五月二六日付直評六「昭和五六年分の類似業種比準価額計算上の業種及び配当金額等の平均額について」に基づく。)。

(三) 純資産価額方式は、個人企業における相続税の課税価額の計算方法に準じて、評価会社の財務内容を基として一株当たりの評価額を計算する方式であり、これによつて、本件株式を評価すると、昭和五五年分については別表(八)のとおり一株当たり六九三円となり、昭和五六年分については別表(九)のとおり一株当たり七一二円となる。

(四) 以上によると、昭和五五年分・昭和五六年分のいずれについても、純資産価額方式によつて評価した場合の方が類似業種比準方式によつて評価した場合を下回るので、本件株式の評価は、純資産価額方式によるのが相当である。

3  したがつて、原告は、相続税法二八条により、昭和五五年分については昭和五六年二月一日から同年三月一五日までの間に、昭和五六年分については昭和五七年二月一日から同年三月一五日までの間に、被告に対し各贈与税の申告をすべきであつた。それにもかかわらず、原告は右贈与税の申告書の提出をしなかつたため、被告は、請求原因2の贈与税額の決定及び無申告加算税の賦課決定を行つたものであり、本件各処分は、別表(一〇)のとおり、いずれも前記評価算定した株式の時価を基準とした課税額の限度内でされたものであるから、被告の課税処分にはなんら違法はない。

四  被告の主張に対する認否

抗弁の主張1は認める。同2のうち、被告がそのような評価をしたことは認めるが、本件株式の時価及び本件株式の売買価額が時価より著しく低いとする点については争う。3は争う。

五  被告の主張に対する原告の反論

1  相続税法七条は、相続税の賦課、納付を回避するために生前に低額で財産の譲渡を受けたり遺贈を受けたりする租税回避行為に対する課税を目的とするものであるが、原告は、従業員持株制度を設けている丸本組の代表取締役であつた当時、本件株式を退職した従業員から取得し、次に株式を保有させるべき従業員が決まるまでの間一時的に保有していたにすぎず、本件株式の取得によつて利益を得る目的をなんら有していなかつたのであるから、本件株式の取得について相続税法七条の規定の適用はない。

2  相続税法七条にいう「著しく低い価額の対価」に該当するか否かの判断にあたつては、当該財産の譲渡の事情をも考慮する必要があるが、本件株式の取得は、丸本組の従業員持株制度による売戻条件の履行として約定どおりの価額、すなわち一株につき五〇円で譲り受けたもので、正常な売買であり、その売買価格も当事者間の自由意思によつて合意された正常な取引価格そのものであるから、「著しく低い価格の対価」による取得には当たらない。

3  被告は、本件株式の時価を定めるにあたり、評価通達により、まず、類似業種比準価額方式により評価し、ついで、純資産価額方式により評価し、結局後者をもつて時価としたが、このような評価方法には、次のような問題があり、右評価額は本件株式の適正な評価とはいえず、これをもつて、相続税法七条、二二条等に規定された時価ということはできない。

(一) この価額は、同種事業、同程度の規模・内容の上場企業の株価と比較しても、あまりに高い評価額である。また、丸本組の事業の地域的範囲は、本社のある石巻市とその周辺に限られ、その地域性を無視できないから、本件株式の評価にあたつても、その地域性を加味すべきであるのに、これを考慮していない点でも不当である。さらに、本件株式には取引相場というものがないばかりか、本件株式には譲渡制限があり、流通性はほとんどないし、これまでは例外なく額面額で取引されてきており、右評価額で本件株式を換価することは不可能である。また、同一会社の株式について、同族株主か否かにより異なる評価方法をとることは、法の前の平等に反する。

(二) 類似業種比準方式には、取引相場のない株式を上場株式という基本的に属性の異なる株式の価額に比準させることには方法上根本的な無理があり、評価通達が評価額に七〇パーセントを乗じるという安全係数的なものを導入せざるをえないところにこの評価方法の妥当性の問題点がある。また、類似業種比準方式においては、配当、利益及び純資産額を比準要素としているが、市場における株価は、業界の動向、市場占有率、競争力、経営の質、将来の発展性、流動性などによつても決定されるものであるのに、これらの要素は全く反映されていない。さらに、標本会社の選択においても、資産の構成、収益の状況、資本金額、事業規模等の類似性が考慮されていない。

(三) 純資産価額方式は、会社解散時における純資産の処分価値を想定し、それを基準として一株当たりの評価を行なうものであるが、株式会社においては社員の退社ということは法律上認められておらず、会社の解散も容易には行なわれないのであるから、この方式にはその前提に問題がある。また、株主が会社財産を株主個人の財産と同様に自由に処分し換金できるという考え方に立脚している点でも、問題がある。

4  本件各処分は、本件株式についての取引の実情、沿革、売買事例等に基づく一株当たり五〇円という価額を排斥し、評価通達によつて恣意的に時価を定めて、相続税法七条、二二条等を適用してなされたもので、憲法八四条に違反し無効である。

5  本件株式の一株の額面金額は、昭和二二年の丸本組の設立以来、昭和五八年に至るまで五〇円であり、その売買は、すべて右額面金額を売買代金として取引されてきた。この間、丸本組では、被告からの株式の移動の照会に対して事実を回答していたが、被告は、丸本組の株式の右のような取り扱いを問題としたことはなく、このような取引を一貫して是認してきたのであり、しかも、歴代の担当者は再三にわたりそのような取り扱いをするよう行政指導してきた。にもかかわらず、突如として、被告が本件各処分をしたことは、被告の税務行政に対する原告の信頼を裏切るもので、信義則に反する。

六  原告の反論に対する被告の再反論

1  原告は、本件株式の取得について相続税法七条の規定の適用はないと主張するが、相続税法は、同法七条ないし九条の規定において、贈与に該当しない財産の取得であつても、実質的に贈与と同様の経済的効果をもたらす行為については贈与とみなすことによつて課税の公平な負担を図つており、財産を贈与した個人とその贈与により財産を取得した個人の続柄はもとより、その贈与が相続税を回避するものであるか否かにかかわらず、贈与税を課税する旨を規定したものであることは明白である。

2  原告は、本件株式の取得は正常な売買によるものであり、その売買価額も当事者間の自由意思によつて合意された正常な取引価額そのものであるから、これをもつて時価とすべきであるという。しかし、本件株式の売買価額は、丸本組の役員及び従業員相互間に限定された約定に基づく価額であつて、不特定多数の当事者間の自由な取引により形成される価額にはほど遠く、当該株式自体の価値要因等を全く勘案していないものであるから、右価額をもつて本件株式の時価とはいえない。

3  原告は、被告の評価方法を適正でないというが、上場株式の価額は収益価値・配当価値・純資産価値といつた企業内部の要因と、景気変動、経済政策、国際収支、金融情勢、外国為替の変動、国内政局、国際政局、株式市場の動向などの企業外部の要因とからなるものであるが、これらは非上場株式にも共通するものであることにかんがみれば、非上場株式の時価評価において、その株式と同様の企業外部の要因が反映された上場株式の価額を基準として、両者の企業内部の要因を比較対照して比準評価することは合理的であり、かかる見地から評価通達の類似業種比準方式が組み立てられているのであつて、この方式には合理性がある。また、純資産価額方式は、個人事業者と同規模の会社の株式もしくは閉鎖性の強い会社の株式で、株式の所有目的が投機や投資を目的としたものではなく、会社支配を目的として所有する株式に適合する評価方法ということができる。

丸本組は、土木工事を主体とする建設業者であり、各事業年度とも相当の利益をあげている経営状況の良好な会社である。本件株式の譲渡時期に最も近い事業年度(昭和五四年七月一日から同五五年六月三〇日まで)における株主配当は年一〇割の配当であり、かつ、一株(額面金額五〇円)当たりの純資産価額は六七九円となつており、このような莫大な自己資本を有し高率配当を行つている法人は宮城県内でもきわめて稀であつて、その経営内容は上場会社に勝るとも劣るものではない。このような会社の株式をその額面金額をもつて時価と認識することは適当でない。

4  租税法規に固有の抽象的、技術的な性質と課税対象たる社会経済事象の多様性、流動性の故に、法規上は単に一般的基本的事項を定めるにとどめ、その具体的・細目的事項については通達をもつて解釈運用の実際上の統一を図り課税の公平を期するように処置することは、立法技術上及び行政運営上やむを得ないところであり、本件各処分がたまたま通達を機縁として行わたものであつても、通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上、本件各処分は法の根拠に基づく正当な処分であり、違憲であるとの原告の主張は失当である。

5  株式の異動照会は、異動事実そのものの照会であつて、株式の取引価額を照会したものではなく、また、法人税の担当調査者が所掌事務以外の事項について指導することはあり得ず、仮にそのような事実があつたとしても、所掌事務以外の事項についての助言や指導をもつて直ちに税務官庁の意思表示と同一視することはできない。また、租税債務は、もつぱら租税法規によつて定められた一定の法律要件事実を充足すれば当然に生じ、当事者である租税官庁と原告が任意に処分し放棄し得る性質のものではなく、もし本件各処分が取り消されるとすれば、原告は不当に課税を免れることになつて適当でない。

【理 由】

一  《証拠略》、当事者間に争いのない事実(請求原因1、2及び被告の主張1の事実)、並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  原告は、その父である山本義一とともに、昭和二一年五月ころから「丸本組」の名称で砕石業を営んでいたが、昭和二二年四月二一日、これを株式会社丸本組とし、義一が代表取締役に、原告が専務取締役に就任し、昭和四二、三年ころには、義一が高齢のため引退したことにより、原告が代表取締役に就任し、以後昭和五八年八月に退任するまでその地位にあつた。そして、原告は、代表取締役の地位を退いた後も、同年八月三〇日から同年一二月二〇日までは監査役を務め、その後は今日まで相談役の地位にある。なお、原告は、昭和六二年一月三一日現在、発行済株式総数一七二万八〇〇〇株のうちの六三万〇四〇〇株を保有する丸本組の筆頭株主である。

2  丸本組は当初は、砕石業のほか、昭和二四年ころからは一般土木業を、昭和三〇年ころからは一般建築業を営むようになり、昭和五五年度では、道路三六・七パーセント、港湾二六・七パーセント、河川海岸八・四パーセント、上下水道一一・六パーセント、建築一三・五パーセントの総合工事業を営むようになつている。また、従業員も、株式会社となつた当時は三〇人くらいであつたが、昭和五五、六年ころには一〇〇人前後となつていた。

3  丸本組は昭和二二年の設立当時から一株の金額を五〇円とする額面株式を発行しており、設立当時は発行済株式数三九〇〇株、資本金一九万五〇〇〇円であつたが、後に公募や株式配当により増資を行つた結果、昭和三九年一二月二三日には、発行済株式数二八万株、資本金一四〇〇万円になつた。ただ、このころまでは、実際には義一が全額を出資していて、昭和三九年当時、株主として義一の友人、義一や原告の親族のほか、丸本組の従業員が一五人程度いたが、現実の出資者は義一のみで、他の者は名義上株主となつていたにすぎなかつた。

しかし、昭和四〇年から四一年に、丸本組では、義一の友人らの名義の株式については、これを義一やその親族の株式に改め、また、従業員で名義上の株主となつていた者については、当該株式をその従業員に贈与して、実質的に株主とすることにしたため、それ以降は、丸本組の株主は従業員と同族株主だけとなつた。そして、昭和四五年一〇月五日に行われた増資の際には、従業員の一部に株式を割り当て、従業員を株主とするようにした。これは、従業員に株を持たせることによつて、従業員の勤労意欲を高めるとともに、従業員にとつても、その在職中株主としての配当等の利益が得られ、また、退職時には株式を譲り渡して換金ができるなど、従業員の経済的利益にもなることを考慮して行われたものであつた。この割り当ての基準は、おおむね勤続年数が一〇年程度以上の者のうち勤務態度のよい者というものであつたが、以後の増資の際にも、右のようにして従業員に株式を割り当てることが行われた。

4  丸本組では、定款に株式を譲渡するには取締役会の承認を要する旨のいわゆる株式の譲渡制限の定めがあつたが、前記の従業員に対する株式の割り当ての際には、これに加えて、一株につき額面額である五〇円で株式を取得するとともに、退職する際には一株につき五〇円で丸本組に譲り渡すとの約束がされた。そして、退職した従業員から買い取られた株式は、前記基準にしたがつて、再び別の従業員に割り当てるようになつていた。

従業員が退職する際は、従業員が総務部長に相談し、会社の方でその株式を割り当てる者を従業員の中から選定してから、あとは当事者間で譲り渡すという手続になることが多かつたが、従業員が自己都合で退職することになつたときや、その保有株式が多いときには、すぐにはそれを買い受けるべき従業員を選定することができないことがあり、その場合には、代表取締役であつた原告がとりあえず退職する従業員に一株につき五〇円を立て替えて支払つておき、六月の決算期までに買受人を決め、新しく株主となつた従業員から原告が同じ金額の支払を受けるようにして処理していたこともあつた。この場合は、原告を株主として株主名簿に登載することはせず、後に買受人が決まつたときに、旧株主から直接譲渡がされた形をとつていた。しかし、決算期が間近で配当金の計算などの必要があるときは、原告が取得した株式として扱い、その後株主を探さずにそのまま原告所有の株式として確定したものもあつた。

5  原告は、別表(三)のとおり、訴外武藤浩光及び訴外西尾やす子から訴外株式会社丸本組の株式をそれぞれその額面金額である一株あたり五〇円で譲り受けた。

武藤光浩は、丸本組の従業員であつた間の昭和五一年から同五三年にかけて丸本組の株式合計三四〇〇株を取得したが、昭和五五年に丸本組を自己都合により退社することになつたため、原告が同年六月二四日その株式を買い受けたものであり、また、西尾義一は、昭和四〇年から丸本組の株式を取得するようになり、昭和五六年一月当時、丸本組の株式三万一二〇〇株を保有していたが、そのころ死亡し、同人の妻である西尾やす子がこれを相続により取得したため、やはり原告が同年一月三一日これを買い受けたものであつた。

右のいずれの場合にも、丸本組ではただちには次に株主となるべき従業員を選定できなかつたので、とりあえず原告がその代金を支払つて取得したが、従前の慣行にしたがえば、武藤から取得した分については昭和五五年六月の決算期前に、また西尾から取得した分については昭和五六年六月の決算期前にいずれも他の従業員に譲り渡すはずであつたが、本件株式に関しては本件各処分が行われた昭和五八年まで譲り渡されることなく放置され、しかも、この間になされた配当については、本件株式分については原告がこれを受け取つていた。

なお、原告は、本件各処分によつて賦課された贈与税等の資金を支弁するため、丸本組に懇請して、丸本組に対し本件各処分の評価にほぼ相当する一株につき八〇〇円の価額で売却した。右売却には、本件訴訟で原告が勝訴すれば、五〇円との差額は原告が返還するとの条件が付されていたが、代金の授受は現実に行われた。

6  被告は、前記被告の主張のとおり、本件株式の価額を昭和五五年分については一株当たり五九六円、昭和五六年分については一株当たり七二九円と評価して、原告がこれらに比べて著しく低い価格で本件株式を譲り受けたものとして、相続税法七条を適用し、その差額については当該譲渡時において右各譲渡人から贈与されたものとみなし、昭和五八年六月二九日付けで、原告に対し、別表(一)のとおり、昭和五五年分及び昭和五六年分の各贈与税決定処分及びその各無申告加算税の各賦課決定処分をした(その後の課税経過は別表(二)のとおりである。なお、昭和五六年分については、一株当たり六八一円と評価すべきであつたとして、昭和五九年七月二七日付で国税不服審判所長により一部取り消されている。)。

二  そこで、以下、本件各処分の適法性について順次検討する。

1  相続税法七条にいう時価とは、当該財産が不特定多数人間で自由な取引がなされた場合に通常成立すると認められる価額、すなわち当該財産の客観的交換価値を示す価額をいうと解される。この点、本件株式のように自由な取引市場における価額形成が行われない場合においては、客観的交換価値の評価は極めて困難であるが、しかしながら、そうであるからといつて、取引相場の形成されない株式は客観的交換価値を有しないということにはならず、重要なのは、いかにしてその客観的交換価値を適正に認識すべきであるかである。そこで、被告の主張する評価方法である類似業種比準方式、純資産価額方式について、検討する。

(一) 類似業種比準方式は、類似業種上場会社の最近三か月の月間平均株価の最低値又は前年平均株価を基にして、評価会社の類似業種会社に対する一株当たりの配当金額、年利益金額及び簿価純資産価額の各割合の平均値でこれを修正したものに、評価の安全率として七〇パーセントを乗じて評価する方式であり、評価会社の株式が上場されていた場合を想定し、その株価を推計するものである。

ところで、上場株式の価格は、収益率・配当額・純資産価値の変動といつた企業内部の要因と、景気変動・金融情勢・経済政策・国際収支・外国為替の相場・国内政局・国際政局・株式市場の動向といつた企業外部の要因とからなるものであるが、このうち企業外部の要因については非上場株式にも共通するものであるから、非上場株式の時価評価において、その株式と同様の企業外部の要因が反映された上場株式の価格を基準として、両者の企業内部の要因を比較対照して比準評価することは合理的であるといえる。そして、評価通達は、このような比較対象をするにあたり、業界の趨勢が類似するという点に着目し、これを日本標準産業分類における業界の類似性に求めることとし、その類似業種に属する上場会社の平均株価を基として、当該類似業種に属する標本会社の株価形成の要因となつた計数を平均化した数値に評価会社の株価形成要因となつた計数を比準させて比準株価を計算するものであり、特にかつて行われていたことのある類似会社比準方式の場合と比べた場合、簡便であるとともに、評価上の恣意性が排除され、評価の統一性・画一性・安定性が担保されるという長所がある。したがつて、評価通達において採用されている類似業種比準方式には合理性があるということができる。

なお、評価通達が課税の安全性を考慮し、七〇パーセントの安全率を設けている点について、原告は、類似業種比準方式の妥当性を問題としているが、会社の競争的立場、会社の経営の質、会社の労務対策、会社の開発ないし発展など、配当及び純資産以外の株価構成要素ではあるが、計数化が困難であるため比準要素とすることができないものがあること、また、上場株式が市場性に富んでいるのに対して非上場株式は市場性に乏しいことなどを考慮すると、このような安全率を設けた結果、時価より低い価格で課税され利益を受ける者が生じることは避けがたいとしても、逆に時価より高い価額での課税を受ける者が生じることは通常は避けることができると考えられ、便宜的な措置であることは否定できないとしても、大量かつ反復して評価を行なう必要のある課税事務の性格に照らせば、このような減額措置を講じているからといつて、評価通達がその相当性を維持し得ることはあつても、不当性を帯びることにはならないというべきである。また、原告は、評価通達が比準要素を配当、利益及び純資産額に限定している点をも問題にしているが、右三要素は株価形成の定型的主要因と考えられるうえ、計数化が困難である要素があることを考慮して前記のような減額を施していることに照らせば、この点も評価通達を合理性がないとする理由にはならない。

(二) 次に、純資産価額方式は、個人企業における相続税の課税価額の計算方法に準じて、評価会社の財務内容を基として一株当たりの評価額を計算する方法であり、個人事業者と同規模の会社の株式もしくは閉鎖性の強い会社の株式で、株式の所有目的が投機や投資を目的としたものではなく、会社支配を目的として所有する株式に適合する評価方法ということができる。

原告は、純資産価額方式は、会社の解散を前提とした評価方法である点及び株主が会社財産を株主個人の財産と同様に自由に処分し換金できるという考え方に立脚している点にこの方式の問題があると主張する。しかし、株式は会社財産に対する持分としての性格を有することからみれば、純資産価額方式は、株式の評価に対する基本的な方式であるということができ、特にこの点からいえば、支配株主の有する株式については、その最低限の価値を把握する方式として、適合性が高いということができる。なお、純資産価額方式は、原告の主張するように、会社の解散を前提とするものではないことは明らかであり、原告の右の批判は失当である。

(三) 原告は、被告が評価通達に基づいて行なつた本件株式の評価額は、同種事業、同程度の規模、内容の上場企業の株価と比較しても、あまりに高いと主張する。しかし、株価は、発行会社の総利益、配当支払総額及び純資産価額の総額など当該会社の保有する企業全体の価値を当該会社の発行済株式の数に分割して表現したものであり、事業内容及び事業規模が同じで、かつ、収益力及び資産価値等株価形成要因の基となる会社全体の数値が全く同じである二つの会社があつた場合、両者の発行済株式数が違えば一株あたりの株価が異なるのは当然のことであり、単に、被告のした本件株式の評価が上場会社の株価を上回るからといつて、それだけで右評価が不当であるということにはならない。

次に、原告は、丸本組の事業の地域的範囲は、本社のある石巻市とその周辺に限られ、その地域性を無視できないから、本件株式の評価にあたつても、その地域性を加味すべきであるのに、被告はこれを考慮していないので、被告の本件株式の評価方法は不当であると主張する。しかし、株価の形成について、当該株式の発行会社の経済活動地域やその所在地域が直接影響を与えることはなく、被告がこの点を本件株式の評価に当たつて考慮していないからといつて、その評価が合理性を欠くということはできない。

さらに、原告は、同一会社の株式について、同族株主か否かにより異なる評価方法をとることは法の前の平等に反すると主張する。しかし、会社の支配的同族株主は、会社の意思決定を左右する力をもち、株主総会の決議においてその支配的決定権を行使することにより会社の利益処分額等を決定できる等の実権を握つているのであつて、同族株主か否かによつてその株式を所有することの経済的実益が異なつてくるのである(現に原告は本件株式を被告主張のような評価額で丸本組に対し売却換金しているが、《証拠略》によれば、それは原告のような立場の者であつたからこそ可能であつたのであり、一従業員ではありえなかつたことであることが認められる。)から、株式の評価上同族株主か否かによつて異なる評価方法をとることは株式を所有することの経済的実益に応じた税負担を求めるものであり、なんら公平の原則に反するものではない。

(四) 以上によれば、評価通達の採用している類似業種比準方式、純資産価額方式ともに合理的な評価方式ということができ、これに基づいて被告がした本件各処分の評価(ただし、昭和五六年分の株式の評価については、審査裁決における評価)も合理性があるものというべきである。

2  以下、念のため、原告の主張について判断する。

(一) 原告は、相続税法七条は、相続税の賦課、納付を回避するために生前に低額で財産の譲渡を受けたり遺贈を受けたりする租税回避行為に対する課税を目的とするものであり、原告がそのような意図を持たない本件には適用がないと主張する。

しかし、相続税法一条の二は、贈与税の納税義務者を相続税の納税義務者とは別個に定めており、沿革的には贈与税が相続税の補完税としての性質を有しているとしても、理論的には、贈与による財産の取得が取得者の担税力を増加させるため、それ自体として課税の対象になるというべきであり、相続税法中の贈与税の規定もこれを前提とするものである。そして、相続税法七条は、法律的にみて贈与契約によつて財産を取得したのではないが、経済的にみて当該財産の取得が著しく低い対価によつて行われた場合に、その対価と時価との差額については実質的には贈与があつたとみ得ることから、この経済的実質に着目して、税負担の公平の見地から課税上はこれを贈与とみなす趣旨の規定であるというべきである。したがつて、原告のいうような租税回避を目的とした行為に同条が適用されるのは当然であるが、それに限らず、著しく低い対価によつて財産の取得が行われ、それにより取得者の担税力が増しているのに、これに対しては課税がされないという税負担の公平を損なうような事実があれば、当事者の具体的な意図・目的を問わずに同条の適用があるというべきである。

そして、前記認定事実によれば、決算期が間近で配当金の計算などの必要があるときは原告が取得した株式として扱い、その後株主を探さずにそのまま原告所有の株式として確定したことがあつたというのであり、しかも、本件株式についてみても、原告はこれを二年以上にわたり保有し、本件株式の株主としてその配当をも受けていて、また、本件株式を保有することは、筆頭株主であつた原告の地位をより一層確固たるものにすることに役立つものであつたということもでき、原告の主張するように、原告が本件株式を取得した際の動機・目的が次に株式を保有させるべき従業員が決まるまでの間一時的に保有するというものであつたとしても、その後の経緯からすれば、原告は現実に本件株式の取得により右のような経済的利益を受けているから、本件株式の取得価格と本件株式の時価との差額分については、相続税法七条により贈与があつたものとみなされるべきである。よつて、原告の右主張は失当である。

(二) 原告は、本件株式の取得は、丸本組の従業員持株制度による売戻条件の履行として約定どおりの価額、すなわち一株につき五〇円で譲り受けたもので、その売買価額も当事者間の自由意思によつて合意された正常な取引価額そのものであるから、「著しく低い価格の対価」による取得には当たらないと主張する。

この点について、《証拠略》によれば、丸本組の役員や従業員が丸本組の株式を取得するときの価額は、すべて一株当たり五〇円であり、また、これらの者が株式を売り戻す場合の価額は一株当たり五〇円と定めて売買契約が締結されており、さらに現実にも売り戻しは一株当たり五〇円で行われていたことから、本件株式の価額の評価にあたつては、一株当たり五〇円で取引が行われていたという先例があつたとみることができ、しかも、これは正常な取引であるから、原告が本件株式を取得した当時の本件株式の時価は一株当たり五〇円であつたと評価すべきであるとされ、また、証人矢川昌宏も、株式の売買が適正に行われていたのであればそこでの価額が株式の時価であるとみるべきであり、評価通達もこれを前提としているはずであるし、本件株式の取引はみな一株当たり五〇円でされてきたのであり、これは当事者の自由な意思に基づいて行われたものであるから、これをもつて株式の評価にあたつて優先的に採用されるべき取引先例であるとみるべきであり、結局、原告が本件株式を取得した当時の本件株式の時価は一株当たり五〇円であつたと評価すべきであると供述する。

しかし、前記認定事実によれば、丸本組では、定款に株式を譲渡するには取締役会の承認を要する旨のいわゆる株式の譲渡制限の定めがあつたほか、従業員に対する株式の割り当ての際には、これに加えて、一株につき額面額である五〇円で株式を取得させるとともに、退職する際には一株につき五〇円で丸本組に譲り渡すとの約束をさせており、しかも、株式を割り当てられる従業員は、勤務年数一〇年以上で勤務成績のよい者といつた制限がされていたのであるから、丸本組の株式を取得した従業員は、これを他に自由に譲渡することはもちろんのこと、丸本組に売り戻す場合にも株式の価額を交渉によつて決定するということはおよそ考えられない状況にあつたのであり、経済原理的には、価額形成についていえば、およそ売買取引には当たらないというべきである。そうすると、右のような状況でなされた取引において、株式の取引価格がみな一株当たり五〇円であつたからといつて、このような形態での取引を株価の評価の基準とすべき取引先例であるということはできず、またこのような市場原理に基づかずに形成された価額をもつて株式の当時の時価であつたということもできない。したがつて、原告の右主張もまた失当である。

(三) 原告は、本件各処分は、本件株式についての取引の実情、沿革、売買事例等に基づく一株当たり五〇円という価格を排斥し、評価通達によつて恣意的に時価を定めて、相続税法七条、二二条等を適用してされたもので、憲法八四条に違反し無効であると主張する。

しかし、本件株式の時価が一株当たり五〇円であるとみることはできないこと、また、類似業種比準方式、純資産価額方式とも取引相場のない株式の評価方法として合理的であることはすでに判断したとおりであるから、これと異なる見解に基づく原告の主張は採用することができない。そして、本件各処分における評価が評価通達に基づいて行われたものであつても、通達の内容は法の正当な解釈の範囲内にあるものといい得るから、本件各処分は法の根拠に基づく正当な処分であり、違憲との原告の主張は失当である。

(四) 原告は、丸本組では、被告に対して株式はすべて五〇円で取引されていることを回答していたが、被告は、丸本組の株式の右のような取扱いを問題としたことはなく、このような取引を一貫して是認してきたものであり、しかも、歴代の担当者は再三にわたりそのような取り扱いをするよう行政指導してきたとして、本件各処分を信義則に反する無効なものであると主張するが、本件全証拠によつても右事実は認められず、原告の右主張は理由がない。

三  以上によれば、本件各処分は、いずれも適正に評価された株式の時価を基準とした課税額の限度内でされた適法なものであるから、原告の請求は理由がない。よつて、原告の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 近藤ルミ子 裁判官 浜口 浩)

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