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仙台地方裁判所 昭和52年(ワ)540号 判決

原告

遊佐藤雄

ほか一名

被告

宮城県

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告両名

1  被告は、原告遊佐藤雄、同遊佐典子に対し、各金七五〇万円及び右各金員に対する昭和五一年三月二〇日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並に第1項につき仮執行の宣言を求める。

二  被告

主文一、二項同旨の判決を求める。

第二当事者の主張

一  原告両名の請求原因

1  事故の発生

昭和五一年三月二〇日午前一〇時二〇分頃、原告遊佐典子は、原告遊佐藤雄所有の普通乗用自動車(昭和四九年式トヨタカローラ、宮五五ふ二三七二号)を運転して、宮城県栗原郡花山村字本沢鯨森地内の県道(以下、本件道路という。)を一迫町方面から温湯方面に向けて進行中、同所において、付近の路面が降雪で濡れていたため、右車両が滑走し、道路右側下の花山ダム湖に転落水没し、同乗の原告らの長男訴外亡遊佐淳志が溺死し、原告典子が入院加療一月の頭部外傷を負つた。

2  被告の責任

(1) 本件道路は、被告が設置、管理するものである。

(2) 本件道路は、花山ダム湖に沿つた道路であつて、路上から直接斜面上の距離にして約二五メートル下方のダム湖が見下せる状況にあり、ダム湖に沿つて彎曲している。しかも、本件道路は、山の斜面中腹部を切り崩して設けられたもので、斜面北側になつているため殆んど日照を得られず、厳冬時には、夜間のみならず日中も融雪しない。また、本件事故現場の手前は一迫町方向から温湯方向に向つて左に急カーブした下り勾配となつており、かつ、道路中央部が盛り上つて両側端に向つて傾斜している。このような状況にあるため、本件道路は、スリツプする危険性が極めて高く、かつ、一旦スリツプすると容易にこれを制禦することのできない場所であつて、スリツプ等で滑走し、ダム湖に転落する危険が十分に予見される場所であつた。したがつて、公の道路を管理する被告としては、道路標識等で運転者に対し、細心の注意を促すことは勿論であるが、それのみならず、更に現実にスリツプを起した場合に、これによる被害の発生を防ぎ又は被害を最少限度にとどめるようガードレール等の防護柵を施すべきであつた。しかるに、本件車両転落場所には、これらの設備がなかつたから、被告の本件道路の設置及び管理には瑕疵があつたものである。

なお、本件においてガードレール防護柵の設置を必要とした範囲は、別紙図面に赤線で表示した部分であり、その講造、高さ等は、本件事故当時、本件転落場所以外の本件道路上に設置されていたガードレールと同一のものを設置する必要があつたものであり、ちなみに、本件事故後において、右図面の路肩部分にも右と同一のガードレールが設けられるに至つているものである。

(3) よつて、本件事故による前記訴外亡淳志の死亡及び原告典子の受傷は、被告の本件道路の設置及び管理の瑕疵に起因するものというべく、被告は国家賠償法二条によりその損害を賠償する義務がある。

3  損害

(1) 亡淳志の関係

〈1〉 亡淳志の得べかりし利益 一、三七二万四、二六五円

淳志は、事故当時九歳の健康な男子であつたから、本件事故にあわなければ、一八歳から六七歳まで稼働し、その間昭和五〇年度の全国男子平均賃金二三七万〇、八〇〇円の五パーセント増しである二四八万九、三四〇円程度の年間収入をあげることができたはずである。

そこで、生活費として収入の二分の一を控除し、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して逸失利益の現価を計算すると、その金額は金一、四五七万七、二〇一円となる。右逸失利益の現価よりライプニツツ式で算出した一八歳までの毎月一万円の割合による養育費の現価金八五万二、九三六円を控除した金一、三七二万四、二六五円が亡淳志の得べかりし利益であり、原告らは亡淳志の両親として右逸失利益の喪失による損害賠償請求権を二分の一の各金六八六万二、一三二円宛相続した。

〈2〉 原告両名の慰藉料 各四〇〇万円

亡淳志は、原告ら夫婦の長男であり唯一の男子であつて、その将来を嘱望されていたもので、本件事故によつて淳志を失つた原告らの悲しみは言葉に言い尽せるものではない。

よつて、原告らの右精神的苦痛に対する慰藉料は、原告両名に対し、各金四〇〇万円をもつて相当とする。

(2) 原告典子の関係

〈1〉 入院治療費 三万二、八三一円

原告典子は、本件事故により前記傷害を受け、昭和五二年三月二〇日から同年四月二〇日まで、栗原郡築館町の日野外科に入院して治療を受け、金三万二、八三一円の治療費を支払つた。

〈2〉 傷害慰藉料 二〇万円

原告典子が本件事故による傷害によつて受けた精神的苦痛に対する慰藉料は金二〇万円をもつて相当とする。

(3) 弁護士費用 各七五万円

原告藤雄は、本件事故により取得した損害金一、〇八六万二、一三二円の内金六七五万円の請求について、また、原告典子は、本件事故により取得した損害金一、一〇九万四、九六三円の内金六七五万円の請求について、原告訴訟代理人に対し訴訟委任したもので、本訴請求に必要な弁護士費用は、各七五万円をもつて相当とされるべきである。

4  結論

よつて、原告両名は、被告に対し、本件事故による損害のうち、各金七五〇万円及びこれに対する本件事故の日である昭和五一年三月二〇日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告の認否並に主張

1  請求原因1は認める。

2  同2の(1)は認める。

3  同2の(2)のうち、本件道路が花山ダム湖に沿つて、彎曲しており勾配もある道路であること、本件車両転落場所にはガードレール等の防護柵がなかつたこと、本件事故後にガードレールが設置されたことは認めるが、その余は否認する。

4  同2の(3)は争う。

5  同3は全て争う。

6  以下に述べるとおり本件事故は、原告典子の一方的過失によるものであつて、被告県の本件道路の設置及び管理にはなんら瑕疵はなかつたものである。

(1) 本件道路の設置及び管理の瑕疵の不存在について、

本件現場は、ゆるい下り勾配と左曲りのカーブが終り直線部分に移る見通しの良い幅員六メートルの舗装されている道路であるうえ、一迫町方向から温湯方向へ向う車が自然と道路に沿つてハンドルを切れるよう路面の道路中央辺がやや高く、道路左右両端に向つて次第に低くなる構造になつている道路であり原告主張のような危険な道路ではない。しかも、本件事故現場の花山ダム湖側の路肩には幅約四・五メートル、長さ二五メートルに及ぶ広い空地があるのであるから、本件転落場所に防護柵を設置すべき必要性は全くない。

しかも、右箇所は、この付近の道路の除雪及び崩土砂のダム湖への排出口であり、防護柵の設置はこの用途を著しく阻害するものである。本件事故後、花山村長の陳情があつて行政配慮上暫定的に原告主張のとおり右箇所にガードレールを設置したものの、右の機能が阻害され道路管理上大変支障を来している状況にある。

なお、そもそも防護柵とは、走行車線から路外に逸脱するのを防止するのが目的であり、本件の如くセンターラインを越え更に対向車線をも越えて路肩に飛出してくる車両までも防止する趣旨ではないうえ、前記のとおりの道路構造からして、車両が滑り止め用装置を装着し最高制限速度毎時三〇キロメートルを遵守して進行している限り走行車線からの路外逸脱は考えられないところである。

そして、被告は、路面の凍結、積雪によるスリツプ事故を防止するため、本件現場付近の道路端に数ケ所「滑り止め用砂」を置き、通行車両は必要があればいつでも利用できる状況にしているほか、多数の道路標示板、警戒標識によつて、運転者が滑り止め装置を使用し、正常な注意を怠らずに走行するよう注意を喚起し、警告する措置をとつているのであるから、本件道路の設置及び管理には何らの瑕疵もないものである。

(2) 原告典子の過失について、

本件事故当時の天候は、小雪がちらついており、本件現場付近の路面にはところどころに積雪があり、その外の路面部分も濡れていてスリツプしやすい危険な状態であつたにも拘らず、原告典子は、購入以来二年間使用し前後輪ともすべてトレツト部分(接地面の突出部分)が摩滅して丸坊主の状態になつていたタイヤで、しかも滑走防止のためのチエーンも取付けずに、本件道路を走行していたものであり、そのうえ、路面に注意せず、助手席に乗せた訴外千葉胤男と話をし乍ら漫然と時速三〇キロメートルで進行したため、路面にハンドルをとられ右側対向車線に滑走し、あわててブレーキをかけハンドルを左に切つたため防護壁に衝突しそうになり、更にハンドルを右に切つたため車は路上で一回転し、自車後方から再び対向車線を越えその先の路肩(幅約四・五メートル)をも越えて滑走しつつ斜面上を約二五メートル下り花山ダムに転落したものであり、本件事故は、まさに原告典子の前記のとおり被告が設置した標識について何ら注意することなく、右の路面状況のもとで、宮城県道路交通規則一三条一号の「積雪または凍結のため、すべるおそれのある道路において、タイヤに鎖または全車輪にすべり止めの性能を有するタイヤ(接地面の突出部が五〇パーセント以上摩耗していないものに限る。)を取り付けるなどすべり止めの方法を講じないで、三輪以上の自動車を運転しないこと」との規定に違反して運転した過失、さらに、路面がスリツプして自動車を制禦しえなくなることを知悉し自動車をつねに正常に操作できるようあらかじめ低速で進行するなど慎重に運転すべき注意義務に違反して運転した過失によつて、発生したものであることは明白であつて、本件事故は原告典子の一方的過失によるものである。

7  なお、本人尋問における原告典子の供述は以下の点において不自然であり、全く措信できない。

すなわち、原告典子は、本件自動車は昭和四九年九月頃新車で購入し、雪の始まる頃から三月半頃まではスパイクタイヤを使用し、普通タイヤは一年のうち三分の二位しか使つていない旨供述するが、スパイクタイヤについては、警察、検察の取調段階及び刑事裁判において何ら供述がなく、本裁判で初めて供述しているものであり、しかも、本件車両は購入してから事故時までわずか一年六月しか使用していないのであるから、仮に三万キロメートルを超えて走行していたとしても、普通タイヤとスパイクタイヤを原告典子の供述のように使い分けて使用していたとしたら、到底甲第一〇号証(実況見分調書)添付写真の最後の二枚の如くトレツト部分が丸坊主になるほど摩滅するはずはなく、極めて不自然である。更に、原告典子は、チエーンは事故当日車の後部トランクに入れて携帯していた旨、また、このことは警察で話した旨供述するが、チエーンについては警察の取調段階では何も触れていない。業務上過失致死傷被疑事件(殊に死亡者二名)を扱う警察の捜査官が最も重要な過失の立証(または情状)に必要なチエーンについて聞かないとは捜査常識上も考えられないところである。且つまた、被疑者が供述しているのを録取しないとも考えられない。そのほか、原告典子は、スパイクタイヤをはずしたのは事故の二、三日前ぐらいである旨供述するが、原告典子は栗原郡築館町に居住しているのであるから、三月頃の同郡花山村字山内の大立目宅付近にはいかに積雪が残つているか充分知悉しているのに、葬式の案内(おそらく二、三日前と推定される。)を得ておりながら、スパイクタイヤをわざわざはずさなければならなかつたのか甚だ疑問である。しかも、原告典子は、花山へ夏冬を問わず何回も行つているのであり、本件道路の状況は充分知つていたのである。

三  被告の主張に対する原告の反論

1  原告典子に前記第二項の6の(2)で被告が主張するような過失の存することは認めるが、請求原因2の(2)で主張したとおり本件道路には設置及び管理に瑕疵があり、これが為に本件車両がダム湖に転落し、大きな被害を及ぼしたものであつて被告が免責されるべきものではない。

2  また、原告典子の過失割合は大きいものではない。

原告典子は、本件事故現場に至る間、雪が降つていたため速度を時速三〇キロメートルに減速して徐行運転していたのであつて、気象状況、路面状況を無視した無暴な運転をしていたものではない。また、原告典子の運転していた車両のタイヤが普通タイヤで摩耗していた事実があり、これが本件滑走事故の一因となつたことは否定できないが、かかる車両を運転していたこと自体の過失の程度は被告の主張するような大きなものではない。平野部で殆んど雪のなくなる三月中旬頃において普通タイヤに付け替えることはむしろ路面の破損を防ぐ意味からも当然のことであるし、タイヤチエーン等を準備しておくことによつて滑走の危険に備えることができるのである。原告典子もタイヤチエーンを本件車両のトランクに積んで走行していたのであり、滑走防止の備えを怠つていたものではない。原告典子が本件事故現場にさしかかるまでタイヤチエーンを装着しなかつたのは、本件現場までの路上においては、これを装置する程の必要性がなかつたからである。本件現場までの路上は雪がちらついていたが積雪はなく、時速三〇キロメートルに減速して走行し、途中急なカーブがいくつかあつても全く滑走することもなく無事だつたのである。前記請求原因2の(2)に記載の様に地形的条件から本件現場付近のみが特に滑走しやすい極めて危険な状況にあつたのであり、原告典子が急カーブに入つてこれを知り得た時には既に滑走し始め本件事故に至つたものである。

したがつて、本件滑走事故発生にあたつては、本件転落場所付近の道路の地形的条件が最も大きく寄与しているのであつて摩耗した普通タイヤの車両で走行したということは、本件滑走の一因をなすにとどまり、原告典子のこの点に関する過失もその程度は小さいものである。

第三証拠〔略〕

理由

一  昭和五一年三月二〇日午前一〇時二〇分頃宮城県栗原郡花山村字本沢鯨森地内の県道において、原告典子の運転する普通乗用車が滑走して道路下の花山ダム湖に転落水没し、同乗していた原告らの長男淳志が溺死し、原告典子が入院加療一月の頭部外傷を受けたこと、右県道である本件道路が被告の設置、管理する道路であることは当事者間に争いがない。

二  ところで原告らは本件事故は、本件道路の管理者である被告県が、本件道路の位置形状、気象条件、周囲の状況等からして、自動車等がスリツプし、ダム湖に転落する危険が高かつたにも拘らず、防護柵(ガードレール)を設置していなかつた本件道路の設置又は管理の瑕疵に起因する旨主張するので、まず、本件事故現場付近の状況並に本件道路の管理状況及び本件事故の発生状況等につき判断するに、前記争いない事実、成立に争いのない甲第一、第二号証、第六ないし第一三号証、第一六ないし第一八号証、昭和五二年一〇月三日当時の本件道路の道路情報板及び警戒標識等の写真であることに争いのない乙第一、第二号証、証人小野穂積、同中島光衛、同伊藤整史の各証言、原告遊佐典子本人尋問及び検証の各結果並に弁論の全趣旨を総合すると、

1  本件道路は、秋田県湯沢市から宮城県栗原郡築館町を経て同県本吉郡志津川町に至る主要地方道湯沢・築館・志津川線と呼称される総延長約六四キロメートルの県道であり、花山ダム湖周辺では、ダム湖に沿つて屈曲して走り、起伏も多い道路であること、本件事故現場付近は、築館方面から湯沢方面に向つて進行した場合、別紙見取図のように左に曲る緩いカーブを曲り切つた後右に曲る緩いカーブの手前の地点にあたり、緩い下り勾配で、センターラインにより片側一車線に区分された歩車道の区別のない幅員約六メートルのアスフアルト舗装の道路で、最高速度を時速三〇キロメートルに制限されており、走行車線からはみだし禁止区間となつていること、また、路面は、本件事故現場手前の左曲りのカーブ真中辺までは、右側半分がやや高く、左側半分が道路端に向つて次第に低く、カーブ真中辺を過ぎて下り勾配が始まる辺から右曲りのカーブが始まる辺までは、道路中央辺がやや高く道路左右両端に向つて次第に低くなつている横断構造をなしていること、本件事故現場付近道路と花山ダム湖の間には、幅約四・一メートルないし六・一メートルの路肩が約四〇メートル余の長さで存在し、右路肩からは約二五メートルの長さの急勾配の崖となつてダム湖水面に達していること、右路肩と反対側の山側には、高さ約三・二メートルの土砂崩れや落石防止のための防護壁が設置されていること、

2  本件事故現場付近は、山の陰になり冬期間日照を得にくい地理的状況にあること、しかも本件事故当日の気象は、花山ダムの管理事務所の観測結果によると、積雪二センチメートル、外気温二・八度であり、事故当時、本件現場付近は小雪が散らついている状態で、前夜からの雪で路面のところどころに積雪があり、他の路面も濡れて薄く凍結し、滑走しやすい状態であつたこと、原告典子は当時自宅が築館町でもあり、本件事故以前にも何回か本件事故現場を運転していた関係上、事故現場付近の状況を知悉していたものであること、

3  原告典子は栗原郡花山村字大内所在の親戚にあたる大立目武雄宅の葬儀に出席するため事故当日の午前九時三〇分頃、本件自動車に長女と長男を同乗させて築館町の自宅を出発し、途中一迫町に寄つて姉の夫である亡千葉胤男を助手席に乗せ、同原告が運転して花山村方面に向つて進行してきたものであるが、当時の築館町周辺における路面の状況は、時々降つた雪のため濡れてはいたものの、積雪及び凍結はなかつたため、原告典子は普通タイヤ(しかも、前後輪共トレツト部分が極度に摩耗していた。)で、滑走防止のチエーンも装着していなかつたこと、村山村に近づくにつれ雪が散らつきだしたが、ワイパーを使用する程ではなかつたので、原告典子はそのまま時々助手席の千葉と話をし乍ら時速約三〇キロメートル位で進行していたところ、本件事故現場手前の左曲りのカーブにさしかかつた頃、路面に雪があることに気づいたが、まもなく本件自動車の後輪が積雪のため左方向にスリツプを始め対向車線に向けて滑走しながら入つていつたため、ハンドルを左に切り軽くブレーキを踏んで進行したが、約一一・五メートル程度走行した地点で今度は山側に向つて滑走を始め防護壁に衝突しそうになつたので、ハンドルを右に切つたところ再び対向車線に向けて滑走し始めたため、助手席の千葉が驚いてハンドルにすがりハンドルを正常に戻そうとした時に、原告典子が急ブレーキを踏んだため、車は路上で一回転し、滑走しながら後部から前記路肩を越して別紙見取図の〈×〉付近から花山ダムへ転落し、右転落水没により、千葉胤男と原告らの長男淳志が溺死し、原告典子が入院加療一ケ月を要した頭部外傷を負つたものであること、

4  本件現場付近の主要地方道湯沢・築館・志津川線は、宮城県築館土木事務所がその管理を担当していたところ、同事務所は管轄全域に亘つてパトロール班を二班、補修班を四班編成し、本件道路については、一週間に一、二回のパトロール及び必要に応じて補修を行うほか、他の幹線道路から本件道路への進入地点二ケ所に縦一・二一メートル、横一・一二メートルの道路情報板を設置し、季節毎の本件道路の状況に応じて運転者に道路情報を伝えており、本件事故当時は「積雪」「凍結」「スリツプ注意」と表示していたこと、本件事故現場付近には「屈曲あり」あるいは「すべりやすい」の警戒標識及びカーブミラーを必要個所に設置し、運転者に注意を促す措置をとつていたこと、更に、被告県の道路管理の方針に基づき同事務所では道路の路肩の幅が七五センチメートルないし一メートル以内で崖になつているような場所には全てガードレールを設置し、車両等の転落防止の措置をとつていたこと、然るに、本件転落場所は前記のとおりの路肩の幅員が存したこと及びカーブが終り直線道路で見通しも良いことからガードレールを設置していなかつたこと、また、殊に花山村周辺は宮城県下でも有数の豪雪地帯であるため、冬季の道路整備としてアングリングドーザー、除雪用トラツク等を配備して積雪時の除雪にあたつていたものであり、本件道路の所々に約一〇〇メートルに一箇所位の割合で排雪及び崩落土砂をダム湖に排除するための排出口を設けていたものであるが、本件転落場所の路肩も右の排出口として使用していたものであること、本件事故後、花山村村長の強い陳情により転落場所の路肩にガードレールを暫定的に設置したが、排雪・土の機能が著しく減殺され、道路管理に支障を来す惧れもあること、更に同事務所では冬季凍結してスリツプしやすい場所には滑り止め用砂を配置し、必要に応じて通行車が利用できる状態にしていたものであり、本件事故現場手前のカーブの路肩にも滑り止め用砂を配置していたこと、なお、本件事故以前に本件事故現場付近において車がスリツプし山側の防護壁に衝突するなどの事故が二回位あつたが本件現場の道路から路肩を越えてダム湖に転落するという事故は一回もなかつたこと、以上の事実を認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

三  以上認定の事実によれば、本件事故は、原告典子が予め本件事故現場付近の道路の状況及び警戒標識に充分注意し、減速徐行して進行するか、あるいは、本件事故現場手前のカーブで本件自動車がスリツプを始めたことに気づいた時点で、一旦車を停車し、滑走防止用のチエーンを装着して進行するか(チエーンは本件車の後部トランクに携帯していたと原告典子は供述している。)して、安全に走行すべきであつたにも拘らず、これらの注意を怠り、極度に摩耗した普通タイヤのままで漫然と前記速度で進行した過失と原告典子の未熟ないしは軽率な運転操作とが相俟つて本件自動車を滑走させ制禦不能に陥らせた結果発生させたものであることは明白であるところ、原告らは本件転落場所である路肩にガードレールが設置されていなかつた被告の道路の設置又は管理の瑕疵も本件事故発生ないし被害発生の一因である旨主張するので、本件事故現場道路の路肩にガードレール等防護柵を設置していなかつたことが、被告の道路の設置又は管理の瑕疵といい得るか否かについて判断するに、およそ道路の瑕疵とは当該道路が通常備えるべき安全性を欠如していることを言うものであるところ、その安全性は運転者の運転方法や態度と無関係な絶対的安全性を指すものではなく、これを利用する運転者等の常識的秩序ある利用方法を期待した相対的安全性の具備をもつて足りると解すべきであり、右は運転者が当該道路の地形的、気象的、構造的諸条件(道路警戒標識、情報板等を含む)に照らし右の運行態度による通行方法をとつてもなお客観的な危険性が予測され、交通事故発生のおそれがある場合にその安全性を欠如し、瑕疵あるものと解すべきである。

本件において、前記認定事実によれば、本件道路は花山ダム湖に沿い屈曲や起伏の多い道路で冬期間積雪が多く、本件事故現場付近は特に凍結し易く比較的スリツプ事故等を起し易い所で本件事故現場付近を除いてガードレールが設置されていたことが認められるが、前記のように、右道路上の積雪及び崩落土をダム湖に排出するため約一〇〇メートルに一箇所位の割合でガードレールを設けないで排出口とすべき箇所を設ける必要があり、本件現場付近は温湯方面に向い左曲りのカーブが終り右曲りのカーブが始まる間の比較的見通しの良い直線になりダム湖側に四ないし六メートルの路肩が存したので、右排出口としていたものであること、本件事故現場付近は前記のように四〇メートルの長さに亘つて四ないし六メートル幅の路肩があるため正常に運転している場合にはスリツプ等しても直ちに転落する危険性のある場所とは言えないもので、これまで本件事故現場付近での転落事故は一回もなかつたものであること、被告は道路情報板を設置し、本件当時積雪、凍結、スリツプ注意を表示し、又本件事故現場の手前に屈曲あり、すべり易い旨の警戒標識を設置し、滑り止め用の砂も備えておいたのであるから、該道路を走行する運転者においてチエーン等の滑走防止装置を装着するか、路面の状況に注意して減速徐行するなどの措置を期待し得たものというべく、これによつて本件転落事故は防止し得たものと認められるから、前示被告の本件道路の設置又は管理に瑕疵があつたものとは認め難い。

そうすると、本件事故は専ら原告典子の前記認定のような運転上の過失に起因する事故というべきで、本件道路の設置又は管理に瑕疵があることを理由に被告に対して本件事故の責任を問う原告らの本訴請求はその理由がないものと言わなければならない。

四  以上の次第で、原告らの本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤和男 後藤一男 竹花俊徳)

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