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仙台地方裁判所 昭和49年(む)109号 決定

右被疑者に対する常習賭博被疑事件について昭和四九年五月一二日仙台地方裁判所裁判官がなした勾留の裁判に対し、弁護人から勾留取消の申立がなされたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件勾留を取消す。

理由

一本件申立の趣旨および理由は勾留取消請求書のとおりであるのでこれを引用する。

二〈証拠〉によれば以下の事実が認められる。

被疑者は、昭和四九年二月一八日佐沼警察署に賭博被疑事件で逮捕され引続き勾留され、同年三月七日賭博開張図利、常習賭博(常習賭博については昭和四八年二月三日、同月四日、同月一四日の賭博の事実)で登米簡易裁判所に起訴され、その後昭和四八年二月一日の常習賭博事件につき取調を受けた後、昭和四九年四月一日保釈を許可され、その後は、任意捜査により右常習賭博事件および昭和四八年五月初めころの常習賭博事件の取調べを受け、右事件は昭和四九年四月一二日および同月二七日、いずれも常習賭博として右裁判所に訴因の追加請求がなされた。

一方本件常習賭博(昭和四八年五月一九日の賭博の事実)については、昭和四九年一月四日に渡辺弥の供述により被疑者の氏名は判明しないもののその事件および共犯者が塩釜警察署に判明し同年四月二七日右渡辺の供述にもとづき本件被疑者が判明し、被疑者は逮捕勾留されたものであるが、右逮捕請求書中の刑訴規則一四二条一項八号所定の記載欄には、被疑者が本件以前に前記逮捕勾留がなされた旨の記載がなされていなかつた。

三右事実関係において本件逮捕勾留が適法であるかどうかを検討する。

本件常習賭博は、昭和四八年五月一九日になされたものであり、前記起訴にかかる常習賭博と一罪をなすものであり、その逮捕勾留中に同時に捜査を遂げうる可能性が存したのである。(本件は昭和四九年一月四日に塩釜警察署に認知されており、直ちに捜査を行ええば本件被疑者を割り出すことは充分可能であつたのであり、事件自体が全く認知されていなかつた場合とは異なるのである。)従つて本件逮捕勾留は、同時処理の可能性のある常習一罪の一部についての逮捕勾留であるから、一罪一勾留の原則を適用すべきである。検察官の主張は一理あり、同時処理の可能性がない場合には妥当するものであるが、その可能性の存する場合には人権保護の見地から右原則を採用すべきであり、当裁判所は検察官の見解を採用しない。

右のごとく本件逮捕勾留は一罪一勾留の原則により適法視しえないものであるが、本件は常習賭博中の一部の事件である関係上、一個の犯罪事実につき再度の逮捕勾留がなされた場合に該当すると思料されるので、再逮捕勾留の適否が問題となる。刑訴法一九九条三項、刑訴規則一四二条一項八号は、同一犯罪事実につき前に逮捕状の請求又は発付のあつた場合にはその事実および更に逮捕状を請求する事由を逮捕状請求書に記載することを義務づけている。右は不当な逮捕のむし返しを防ぐという司法抑制の実効性を確保するための措置であり、この記載を欠くことにより裁判官の判断を誤まらせる虞れを生じさせるものであるから、右記載を欠く逮捕状請求にもとづく逮捕状は違法無効であり、逮捕の前置を欠くことになるのでその勾留も違法とすべきである。同一の犯罪事実とは公訴事実の単一性および同一性がある犯罪事実であり本件においてもその単一性があり同一犯罪事実であるところ、前記認定のごとく前掲起訴にかかる常習賭博につき逮捕状の発付があつた事実の記載を欠き、違法というべきである。

本件において実質的に再逮捕状の発付につきその司法審査を誤る可能性が存したかどうかであるが前記認定のごとく被疑者は保釈後、本件と一罪をなす常習賭博事件中、未取調の事件につき任意捜査に応じて取調を受けているのであり、本件につき一般的な逮捕要件としては格別、再逮捕の必要性が存するかどうかについては多大な疑問が残り、又、逮捕状発付当時以前に逮捕勾留がなされたことを窺わせる資料も存しなかつたのであつて前掲記載を欠いたことにより実質的に司法審査を誤る可能性は十分存したといわざるを得ない。(なお警察官は、本件被疑者には昭和四八年五月中旬および同年六月中旬の賭博につき余罪の取調の必要性を掲げて勾留請求を基礎づけているが、被疑者の昭和四九年五月一一日付供述調書および検察官提出の賭博事件一覧表によれば、右賭博については、前回の逮捕勾留の際に調べを受けている旨供述しており、右賭博が存することにより再逮捕の必要性を基礎づける理由ともならないところである。)

以上のごとく本件逮捕勾留は、検察官の見解を前提にすれば適法であるが、当裁判所はその見解を採用せず、本件逮捕勾留は、一罪一勾留の原則に反して違法であるとともに、再逮捕と解釈してもその手続上および実質上の要件を欠き違法無効なものであり、逮捕前置主義の原則からその勾留請求は却下されるべきであつたのであり勾留の存続を是認しえないから、本件勾留はこれを取消すべきである。

よつて主文のとおり決定する。

(山崎潮)

勾留取消請求書

常習賭博

被疑者(被告人)○○ ○○

昭和四九年五月一四日

右被告人弁護人 遠藤孝夫

仙台地方裁判所刑事部 御中

請求の趣旨

右被疑者は頭書被疑事件で塩釜警察署に勾留中であるが左の理由により違法であるから勾留を取消されたくその請求をする

理由

一、右被疑者は登米簡裁昭和四九年(ろ)第二号常習賭博事件の被告人であり保釈中であつたところ、五月九日塩釜警察署により逮捕され五月一二日勾留となつた。

二、1、登米簡裁事件は

昭和四八年二月三日豊里町平筒沼観光センターで

同年 二月一四日桃生町みやぎ食堂

同年 二月一日みやぎ食堂

同年 五月初旬佐沼町迫川荘

での賭博であつて常習一罪として起訴されている。

2、今度の被疑事実は

昭和四八年五月○○日頃

での賭博であつてもちろん保釈後の犯行でもない。

3、したがつて今回の被疑事件につき既に起訴されている事件の捜査中に捜査を尽し、同時処理が可能であつたものであり、一罪一勾留の原則に反し違法な逮捕勾留であつて勾留を速やかに取消されるべきと思料する。〔令状基本問題七五問一四ページ以下〕

三、のみならず起訴事件については被告人は二月二〇日頃の逮捕から四月二日の保釈まで四〇日余の長期の身柄拘束をうけている。

四、その間の起訴後の四月一日保釈までの弁護人による保釈請求にしても、検察官の捜査の必要を考慮した保釈請求であつたものである。

その時間的余裕の中で捜査官は充分に捜査を尽すべきであつた。

五、更には四月一二日付および四月二七日付の訴因追加による事実についても保釈後の任意の取調を受け、被告人はこれに応じている。

今回の被疑事件については被疑者が就労中、佐沼警察署より、仕事を休み取調べに応ずるよう要求され、被告人は就職したばかりで休めないこと、朝と夜に応ずると答えたが、執拗に日中の出頭を求められて困惑し、五月九日当弁護人に相談をし、当弁護人は佐沼警察署に朝と夜に取調べに応ずること、被疑者の立場、人権も考慮するよう電話したがその日に塩釜署に逮捕されたものである。

六、結局は前記のとおり、違法逮捕勾留である。

のみならず保釈後も被告人の任意取調に応じた実績と被告人、弁護人の任意取調に応ずる意思表示もあるのにもつぱら捜査の便宜のため被告人の人権も考慮することなく不当に逮捕勾留したものである。

七、右は又「捜査官による被告人の強制捜査」の違法をも犯している〔刑訴判例百選〕

八、よつて勾留の取消を求める。

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