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仙台地方裁判所 昭和42年(モ)666号 決定 1970年3月26日

申立人

川岸工業株式会社

右代理人

三島卓郎

被申立人別紙被申立人目録記載のとおり

右代理人

斎藤忠昭

ほか一一名

主文

申立人の本件仮差押執行取消の申立は却下する。

訴訟費用は申立人の負担とする。

事実

(申立の趣旨)

第一、申立人訴訟代理人は、

「1 被申立人らが、申立外仙台工作株式会社に対する仙台地方裁判所昭和四二年(ヨ)第二五八号有体動産仮差押決定にもとづいて昭和四二年六月二五日別紙第一物件目録(一)同第二物件目録(一)記載の各物件に対してなした仮差押執行、

2 別紙後申立人目録記載一一三番菅原順一を除くその余の被申立人らが、申立外仙台工作株式会社に対する仙台地方裁判所昭和四二年(ヨ)第二六九号有体動産仮差押決定にもとづいて、昭和四二年七月二日別紙第一物件目録(二)同第二物件目録(二)記載の各物件に対してなした仮差押執行、

3 別紙被申立人目録記載一一三番菅原順一を除くその余の被申立人らが、申立外仙台工作株式会社に対する右1項および同2項記載有体動産仮差押決定にもとづいて、昭和四二年七月四日別紙第三物件目録記載の各物件に対してなした仮差押執行、

は、いずれも仙台地方裁判所昭和四二年(ワ)第五五一号第三者異議請求事件の本案判決に至るまでこれを取消す。」

との裁判を求めた。

第二、被申立人ら訴訟代理人は、(但し、第一の2、3項の申立に対するものとしては別紙被申立人目録記載一一三号菅原順一はこれを除き、以下同様の趣旨で記載するものとする。)、「申立人の申立はいずれもこれを却下する。」との裁判を求めた。

(申立原因)

申立人訴訟代理人は、申立原因として次のとおり述べた。

第一、被申立人らは、申立外仙台工作株式会社(以下仙台工作という)に対する債権の保全のため、同人らの仙台工作に対する仙台地方裁判所昭和四二年(ヨ)第二五八号有体動産仮差押決定にもとづいて、昭和四二年六月二五日別紙第一物件目録(一)同第二物件目録(一)記載の各物件(以下第一の(一)の物件、第二の(一)の物件という)に対し仮差押執行をなした。

第二、また、別紙被申立人目録記載一一三番菅原順一を除くその余の被申立人らは、仙台工作に対する債権の保全のため、同人らの仙台工作に対する右裁判所昭和四二年(ヨ)第二六九号有体動産仮差押決定にもとづき、昭和四二年七月二日別紙第一物件目録(二)、同第二物件目録(二)記載の各物件(以下第一の(二)の物件、第二の(二)の物件ということにする)に対し仮差押執行をなしたほか、同人らの仙台工作に対する前項の仮差押決定および右仮差決定にもとづき、昭和四二年七月四日別紙第三物件目録記載の各物件(第三の物件ということにする)に対して仮差押執行をなした。

第三、しかしながら、第一の(一)、(二)の各物件は、いずれも申立人所有のもので仙台工作に賃貸しているものであり、第二の(一)、(二)および第三の各物件はいずれも申立人が昭和四一年四月一日から翌四二年六月二〇日頃までの間に購入(但し一部は昭和三六・七年頃購入したものもある)したもので申立人の所有にかかるものである。

第四、そこで、申立人は、右以上の物件(以下本件差押物件ということにする)に関し、被申立人らを相手として昭和四二年七月二五日仙台地方裁判所に対し第三者異議請求の訴を提起したが、同訴の判決確定に至るまで右仮差押執行が継続するときは、右各物件が損耗又は風化してその価値が減ずるばかりでなく、特に第二の(一)、(二)の物件は鋼材で、申立人において営む鉄骨加工に使用することができず、第三の物件は、鉄骨加工の半製品にしてこれが仕上げ加工ができないためいづれもスクラップ化し、将来回復することのできない損害を申立人において受けることが明白となつてきた。

第五、よつて申立人は、保証金提供を条件としてでも申立の趣旨のとおりの裁判を求める。

(申立原因に対する答弁および主張)

被申立人ら訴訟代理人は申立原因に対する答弁および積極的主張として次のとおり述べた。

第一、答弁

申立原因第一、第二の事実(本件差押物件に対する被申立人らの仮差押執行の事実)および同第三の事実(本件差押物件が申立人の所有物件であることの事実)ならびに同第四の事実中、申立人が被申立人らを被告として右差押物件に関し昭和四二年七月二五日仙台地方裁判所に対し第三者異議の訴を提起したことの事実は、いづれも認めるが、同第四のその余の事実は認めない。申立人が本件差押物件に関し第三者異議請求権者である旨の同第五の主張は争う。

第二、主張

ところで被申立人らは、申立原因第五の主張を争う理由として次の理由を掲げる。

即ち一人会社の場合、その株式会社は社団法人たる実態を欠くに至るため、その社員は有限責任の利益を受ける実質的根拠がないから、一人会社の単独社員たる株主は会社債務者に対して直接責任を負担し、本件仮差押事件のような場合その株主は、第三者異議の訴にいう第三者に該当しないというべきである(引用文献略―前掲⑧本件第三・一参照)

仮に一人の株主は即会社債権者に対して第三者たり得ないということができないとしても、親子会社は、①危険負担の分散、②人事管理上の必要性、特に社外工員の引きとめ又は子会社として社外工員供給会社を作るなどの必要性、③税金対策、④労働対策特に従業員の労働攻勢を緩和又は組合勢力の弱体化を図る必要性、⑤乱用目的、特に不当取引架空取引による損益の操作、財産隠匿強制執行免脱などの関係から作られることが多いといわれ、(法務省民事局第五課長田代有嗣著親子会社の法律一頁以下参照)、特に一人会社の会社と株主は経済的には完全同一体であるから取引に関する事項などについては少なくとも両者はまさに同一体としての取扱いを受けるべきものであり(田代有嗣著前掲四二頁)、したがつて、利害関係人に対する関係で時には法規解釈上会社法人格否認論(特定の法律関係において法人格の独立性に限界を設ける論)が展開されなければ金社制度を認めた法目的ないしは衝平の原則に反する結果を是認することとなるといわなければならない。

そこで法人格が否認される(会社法人格の独立性の限界)場合の要件を本件事件に即してみる場合、親会社の子会社に対する支配関係、①株式所有による支配、②役員兼任による支配、③契約による支配、例えば専属下請契約など、④実質的支配(例えば物の賃貸借契約を通じて事実上契約条件にしたがい貸主が借用人を支配する)があり且つこの支配が現実的であること、また会社に法形態の乱用が存する場合、例えば会社の利用による第三者詐害の方法として過少資本の会社を設立してこれに融資物の貸与などの方法をとり有限責任の原則を利用する場合又は、不当労働行為による子会社を解散しながら(偽装解散も含む)子会社に対する債権者に対しては有限責任の原則および会社の独立性を利用するなどの場合、右客観的乱用の事実のほか親会社に主観的乱用の目的が存在すること、<引用文献略―前掲第四〇五号事件第三・三参照>などがその要件となるということができる。

したがつて以下右要件に照らし、抗弁として、申立人たる川岸工業株式会社の実態と仙台工作の実態およびその関係、川岸工業株式会社に吸収合併された川岸鉄工株式会社の実態と同会社の右会社に対する相互関係、川岸工業株式会社の法人格乱用およびその意図などを事実をもつて主張することにする。

一、申立人川岸工業株式会社(以下川岸工業ということにする)の設立から現在に至るまでの沿革。<省略>

二、川岸鉄工の設立から同社が川岸工業に吸収合併されるまでの沿革<略>

三、仙台工作の設立から解散に至るまでの沿革

(一)〜(三)<略>

(四) 仙台工作の対川岸鉄工対川岸工業との間の一般従業員の業務、人事、労務対策に対する面からの関係。

1 そこで右関係を、従業員の通常業務の面からみるに、川岸工業仙台営業所において受註する工事の受註単価の精算、鋼材の検収保管などの業務は川岸鉄工仙台営業所との間の関係を含めて、従来から仙台工作の従業員によつてなされたりしていたほか、出来高査定の事務補助を同従業員がしたりしていたものである。

2 そして他面仙台工作の従業員に対する給与、労働条件の決定など具体的生産予定の立案人事、労務対策などは、仙台工作が前記のとおり一人会社になつてからは、全て川岸工業本社の決定にもとついて執行されていた。

四、仙台工作の真の解散理由。

さて仙台工作は川岸工業側の主張によれば、累積赤字一億数千万円にも及んだため余儀なくされたものであるとされているが、仙台工作は後記(二)のとおり以上の対川岸鉄工および川岸工業との人的物的および営業的関係からみても全く経済的社会的にその関係は一体的であつて、特に川岸工業において仙台工作の全株式とその所有不動産を取得してからは、仙台工作は川岸工業の子会社として完全に支配従属し、その一体性はむしろ単に合併手続をとらないだけの強固なものとなつていつていた。したがつて仙台工作の右解散は単なる累積赤字によるものとはいえない。

以下これを川岸工業の別会社方式を基調とする経営政策との対比で明らかにする。

(一) キャラバン商法の基本型態としての別会社方式。

1 鉄骨工事は、受註請負形式による営業活動であるから、これが営業は他産業に比して発註先に対する納期の厳守が強く要請されると共に、その利益の主たる部分は加工費よりも鋼材使用によるその利鞘そのものにあるといわれている。

2 したがつて、川岸工業は常に鋼材を仕入れて運常これをストックしながら、鉄骨工事の受註活動をしていたが、より多くの受註活動をなすためには、仕事のある地域に工事を建設しては営業活動をなし、仕事が少なくなればその工場を他の仕事のある地域に実質的に移転して、計画的に受註事情をみながら営業活動をすることがより経済的に利潤を上げることができる(これをキヤラバン商法という)と共に、これが工場を他の独立法人格者に貸与して同工場に就業する従業員を右他の法人格者に帰属する者をもつて専属的に当てれば、新受註先開拓による営業の危険性を分散することが可能となつて株式会社の有限責任制度を利用するときは、自己の所有する有形固定資産を守ることができ(危険負担の分散化)、また受註請負の特質からくる右納期の厳守のための人事管理の強化・右工場移転に伴う従業員の集団的配置転換に対する労働攻勢を回避するためには社外工を確保することが最も容易であるが、右専属下請会社の従業員をもつて自己の所有工場の生産活動に当てれば、あたかも社外工を使用したと同様の結果を得ること(労働攻勢の弱体化)ができることに気付いた。

3 そこで、川岸工業は、その手初めに前記二の(二)のとおり、昭和三一年度下半期からの投資ブームに乗つて東北・北海道方面への営業活動の拡大を意図し、その頃倒産して再出発を図つていた仙台所在の今野鉄工株式会社の営業権を足がかりとすべく、その代表取締役社長であつた工藤栄の資本を通じて右今野鉄工の実質的有力株主であつた今野富蔵の資本と結びつき、川岸鉄工株式会社を設立のうえ宮城県工場誘致条例の優遇措置を利用してその有形固定資産八千数百万円にも及ぶ仙台工場を建設し、これが施設全部を昭和三三年三月頃右今野鉄工に専属下請会社となることを条件に貸与し、東北方面の鉄骨工事の受註活動を始めたほか、九州戸畑市に有する自社所有の戸畑工場に就労する従業員を抱える株式会社川岸戸畑工場を設立して、同会社に右戸畑工場を今野鉄工に対すると同様川岸工業の専属下請会社となることを条件に貸与し(前記一の(三)(四)参照、)昭和四〇年九月三〇日、昭和四一年九月三〇日、昭和四二年九月三〇日、昭和四三年九月三〇日各現在時における四年間の川岸工業の所有工場は前記一の(三)のとおり変遷し、またこれらの工場の貸与を受けることを条件として川岸工業の専属下請会社になり、且つ資本的にも役員の兼任面からも関連を有する会社は、昭和四〇年九月三〇日、昭和四一年九月三〇日、昭和四二年九月三〇日、昭和四三年九月三〇日、各現在時における四年間において前記一の(四)のとおり変遷していることでも明らかであるように、昭和三九年九月三〇日現在で①小倉工作②牧山工作③仙台工作④千葉工作⑤千葉工事⑥徳山工作⑦佐世保工作⑧東港工作⑨川岸工事⑩栄進化学の一〇社であつたものが、翌四〇年九月三〇日現在では右の佐世保工作の株式は他に譲渡し⑧の東港工作は解散してその所有する株式(右佐世保工作については一〇〇パーセント東港工作については二五パーセントを前記第二の一の(四)のとおり所有していた)は第二〇期および第二一期決算時においてそれぞれ償却し、昭和四一年九月三〇日現在においては右の⑥の徳山工作を解散して第二一期決算時においてその所有する株式(前記第二の一の(四)のとおり八八パーセントを所有していた)を償却、昭和四二年九月三〇日現在で仙台工作を解散第二一期決算時においてその所有する株式(前記第二の一の(四)、三の(一)の1記載のとおり一〇〇パーセント所有)を償却し、昭和四三年には右①の小倉工作②の牧山工作を合併して西日本川岸工業株式会社と商号を変更のうえその持株(①の小倉工作は前記第二の一の(四)のとおり九八パーセント②の牧山工作は同記載のとおり九二パーセント)を九州電力株式会社八幡製鉄株式会社などに額面で譲渡したが、他方においては右西日本川岸工業に貸与している有形固定資産を管理所有する川岸興産株式会社を川岸工業において全体取得する形式で設立した(前記第二の一の2参照)ほか、昭和四二年八幡製鉄が千葉県に君津工場を建設すると、これが工事などの受註を目的として同工場敷地内に千葉第二工場(君津工作所)を設置し(第二の一の(三)参照)仙台工作において使用している機械の一部転用を意図したり、仙台工作解散により解雇した従業員の一部を同工場の社外工として就業させ、また昭和四五年開催の大阪万国博の工事受註を当て込んで昭和四三年には大阪工場の設備を拡大し(前記第二の一の(三)参照)四国・本州の夢のかけ橋が計画されるや右のとおり一旦徳山工作を解散して同工場を他に賃貸するなどしていながら自社の従業員を派遺してより直接的経営に乗り出し、日本鋼管株式会社が福山に大工場を新設するやこれが工事などの受註を当て込んで福山工場を拡大するなど(前記第二の一の(三)参照)からして明らかなようにそのキャラバン商法を実現してきた。

(二) キャラバン商法の一具現としての仙台工作の計画倒産。

次に川岸工業のキャラバン商法を仙台工作にのみ焦点を当ててみることにする。

1 まず、①川岸工業の主要株主は前記第二の一の(三)のとおりその代表取締役社長である工藤栄とその一族で占められていること、②川岸鉄工の人的・物的構成は前記第二の二の(一)(二)のとおりであり、③仙台工作と川岸鉄工との物的関係は前記第二の二の(一)記載のとおりであり、④その営業的関係は前記第二の三の(三)のとおりである。

2 しかも、川岸鉄工設立の動機は前記第二の三の(三)の1のとおりであり、その役員構成と変遷が前記第二の二の(二)のとおりであるところから明らかなように川岸鉄工の設立と前記第二の一の(一)同第二の(一)(二)のとおりの川岸工業への吸収合併は、その設立当初から予定されたものであり、加えて右工藤栄を通じてみるときは、仙台工作と川岸工業とは川岸鉄工設立当時から全く無縁のものではなく、むしろ外形的には姉妹会社たる川岸鉄工と右工藤栄を通じての支配従属の関係にある親子会社の関係にあつたものということができる。

3 そして前記第二の一の(一)、同第二の二の(一)(二)のとおり川岸鉄工が川岸工業に吸収合併されてからは、その親子関係は直接的となり、特に前記第二の一の(一)、第二の三の(一)の1のとおり昭和三九年五月川岸工業において仙台工作の全株式を取得してからは、同第二の三の(二)記載のとおりの役員および主要幹部社員などの人的構成・同第二の三の(四)の従業の業務混同・人事労務対策生産計画の決定などとあいまつて、仙台工作は川岸工業に完全に一体化し、その実体は単に形式的法律上の合併手続をとらないだけの経済的社会的には吸収合併会社の実質を有するようになつたが、これは仙台工作が昭和三八年三月三一日決算時までは全て黒字の利益が計上されていたことから川岸工業はその利益収奪を図るため、折よく同年一二月の年末一時金支給闘争で全金労動組合川岸仙台工場支部(仙台工作の従業員をもつて組織された労働組合)の労働攻勢を利用したほか、川岸工業の仙台工作に対する融資債権の弁済を強要することによつて時の代表取締役であつた今野富蔵を仙台工作から追い出し、前記第二の三の(一)の1のとおり自から仙台工作の株主となつてこれを乗取つた結果にほかならない。

4 さて、そこで次に川岸工業の仙台工作に対する利益収奪の状況をみるに、川岸工業の仙台工作から得た利益は昭和四二年三月以前は毎月約四、〇〇万〇、〇〇〇円で昭和四〇年九月三〇日期には年間約五〇、〇〇万〇、〇〇円翌昭四一年九月三〇日期には約四〇、〇〇万〇、〇〇〇円に達したが、この四一年度の四〇、〇〇万〇、〇〇〇円の利益を同期における川岸工業の仙台工作に対する全投融資額一億三、四七四万〇、〇〇〇円(土地・工場などの建物・その他工作機械など一切の有形固定資産八二、三〇万四、〇〇〇円短期貸付金四八、二三万六、〇〇〇円、資本金四、二〇万〇、〇〇〇円)に対する利回り率として算出し、昭和四一年九・一〇月期一年間の鉄鋼業界の主要会社である八幡製鉄・富士製鉄・日本鋼管・川崎製鉄・神戸製鋼・住友金属の各子会社に対する投融資額とこれに対する利回り率と比較してみるとき、最高の日本鋼管の利回り率11.4パーセントと比較してもこれの2.6倍、右会社の平均利回り率7.63パーセントと比較すると何んと約3.9倍の29.69ベーセントの利益を川岸工業は仙台工作からあげていたことが明らかにように、不当に高額の利益を収奪した。

ちなみに、仙台工作の解散は累積赤字が一億数千万円にものぼつたからとされているが(前記第二の三の(一)の1参照)、その殆んどの負債は川岸工業に対するものであるが、これは右不当な利益収奪を如実に示しているものといえる。

5 ところが、川岸工業は総額約7.8億の投資をして千葉第一工場を建設しその営業活動の主力をこれに移すや、仙台工作の従来の外註費が受註工事高の約一五パーセントから多くても二七パーセントであつたのを、昭和四一年からは急激に受註高の三六パーセントから六〇パーセントに上昇させ、仙台工作の従業員の仕事を奪いながら他方では下請工場の育成を図つてその累積赤字を急激に膨張させたほか、昭和四一年九月三〇日決算時における累積赤字が五一、三三万四、〇三三円であるといいながら、昭和四二年四月からは一切の融資をせず右赤字額からするならば如何なる債務の支払いも短期間にすることが不可能であることを知りながら、あえて月間二、〇〇万〇、〇〇〇円のリース料(工場等の賃貸料・看板料・貸付金利息などを包含する名義)を仙台工作において川岸工業に支払えないときは催告なしに直ちに仙台工作は貸与を受けている仙台工場を川岸工業に明渡す旨の契約を結んだうえ、昭和四二年三月の収支決算において仙台工作の川岸工業から受註した工事利益を川岸工業の仙台工作に対する債権に相殺充当の処置をとつて仙台工作を解散に至らせた。

したがつて仙台工作の解散はその株主たる川岸工業の不当取引および利益操作による計画倒産計画解散である。

(三) キャラバン商法の一具現としての仙台工作の解散と不当労働行為。

最後に仙台工作の解散を全金労働組合川岸仙台工場支部に対する不当労働行為の面から明らかにする。

1 川岸工業は、その営業が受註請負方式であるため特に発註先に対する信用保持などから工事納期の厳守が至上命令となつていたこともあつて労働組合を蛇蝎の如く嫌つていた。したがつて川岸工業で労働組合結成の動きがあつたのは昭和二六年頃からであつたが、会社側の恫と切りくずしにあつて日の目を光ることができず、昭和三〇年末からの極秘による準備によつてようやく結成に成功するや、自からの危険負担の分散化と共に労働組合の勢力分断弱体化を図るため従業員の身分を川岸工業と別個独立法人格を有する会社に帰属させる別会社方式をとることにし、前記四の(一)の3のとおり殆んど九州戸畑工場の従業員のみを包摂する株式会社川岸戸畑工場(前記一の(三)(四)の1のとおり後に小倉工作となる)を設立したが、その際労働組合の反対抵抗に対して従来のとおり恫と切りくずしによりその設立を強行したほか、従業員に持株制度を導入のうえ組合役員を重彼に登用して右労働組合の勢力を分断弱体化させた。

そしてこれに味をしめた川岸工業は前記一の(三)(四)のとおり工場を作つてはこれに就労する従業員を抱える○○工作株式会社なる別会社を積極的に右川岸工業の各工場とは切り離して設立し、意図的に労働者の一体的団結を阻止してきたが、同子会社単位に結成されていた各別の労働組合が結集し、昭和三九年に川岸工業労働組合共闘会議が結成され、そのうち、全金労働組合川岸仙台工場支部(仙台工作の組合)がその中該的存在になつてきてからは、折から前記四の(二)の4のとおり仙台工作からの利潤収奪と前記四の(一)の3のとおりの千葉第二工場(君津工作所)が完成しつつあつたためこれが機械設備を仙台工作で使用している機械の一部をもつて補充することと、同工場の社外工確保の方法として仙台工作の一部従業員を配置転換する必要があつたこともあつて、これが実現のために特に右組合の抵抗を予想してこれを忌み嫌いその存在につき相当の障害を感していた。

2 そこで前記三の(二)のとおり昭和四一年三月仙台工作の代表取締役兼工場長であつた高橋利一郎がその職を辞任してからは、同労働組合の組織を破壊するべくまず前記四の(二)の4とおり急遽計画的に仙台工作の赤字累積を増大させると共に、昭和四一年六月からは前記三の(二)のとおり労働組合の内情に精通した岩本昭三、深山昭を子会社である千葉工作から仙台工作に派遣し、右岩本を工場長に、右深山を工作課長にそれぞれ任命して右労働組合の勢力分断のための職制改革を図ろうとしたうえ、昭和四二年四月から従来の元請価格割引受註制度をリース料支払制度に切換えるいわゆる新体制をとり入れるに際し、同労働組合委員長などを工場長に就任要請したりしてこれが壊柔策を図つたが、株主たる川岸工業の意の如く同組合がならなかつたことから、従来の方法では右労働組合の勢力分断破壊は不可能であることを知るに及び前記四の(二)の5の契約を盾にとり累積赤字を口実に労働組合員全員解雇を目的として本件解散に至つたものである。

したがつて川岸工業による仙台工作の本件解散とこれにもとづく被申立人らの解雇は不当労働行為を構成するものであり、仙台工作の存在は前記物的人的一体性を有していると共に川岸工業における法人格乱用目的でその意義を有していたに過ぎないから、申立人は本件差押物件に対し第三者異議権を有する第三者ということはできない。

よつて申立人の本件差押取消の申立につき却下を求める。

(被申立人らの積極的主張に対する申立人の答弁と反論)

申立人訴訟代理人は、被申立人の積極的主張事実に対する答弁および同主張に対する反論として次のとおり述べた。

第一、被申立人らの積極的主張事実に対する答弁と積極主張

一、被申立人らの抗弁事実中

① 第二の一の事実(川岸工業の設立から現在に至るまでの沿革……資本構成・役員構成・物的設備である所有工場数の変遷と現状・関連会社数とこれに対する株式所有率役員兼任数ならびに取引関係・工藤栄およびその一族の川岸工業株式所有率)全部

② 第二の二の事実(川岸鉄工の設立から同社が川岸工業に吸収合併されるまでの沿革……資本構成とその所有する有形固定資産・役員構成)全部

③ 第二の三の事実(仙台工作の設立から解散に至るまでの沿革)のうち、

(一)の事実(資本構成とその所有する有形固定資産の変遷)

(二)の事実(役員および主要幹部社員などの人的構成)

(三)の事実(川岸鉄工設立の動機・仙台工作と対川岸鉄工および川岸工業との間の営業関係)

(四)の1の事実(川岸鉄工・川岸工業両会社仙台営業所において受注する工事の受注単価の積算・鋼材の検収保管数量検査等の業務状況)

全部

④ 第二の四の(一)の1の事実(鉄骨工事の特質)全部

⑤第二の四の(一)の3の「川岸工業の意図・動機などの主観的部分」を除くその余の事実

⑥ 第二の四の(二)の1の事実(川岸工業の主要株主の状況・川岸鉄工の人的物的構成仙台工作と川岸鉄工との物的営業的関係)全部

⑦ 第二の四の(二)の4の事実のうち「川岸工業の仙台工作から得た利益は、昭和四二年三月以前は毎月約四、〇〇万〇、〇〇〇円で、昭和四〇年九月三〇日頃には年間約五〇、〇〇万〇、〇〇〇円、翌四一年九月三〇日頃には約四〇、〇〇万〇、〇〇〇円であつたこと、昭和四一年九月三〇日期における川岸工業の仙台工作に対する出資金を含めた全投融資額は一億三四、七四万〇、〇〇〇円であつたこと。」の事実

⑧ 第二の四の(二)の5の事実のうち「川岸工業は約7.8億の投資をして千葉第一工場を建設したこと。川岸工業は仙台工作との間で昭和四二年四月以降の取引につき、月間二、〇〇万〇、〇〇〇円のリース料を仙台工作は川岸工業に支払う、もしこの支払いないときは催告なしに直ちに貸与を受けている仙台工場を仙台工作は川岸工業に明渡す旨の契約を結んだこと。川岸工業は昭和四二年三月末日までの仙台工作に対する出来高未払分は三月末日付で全額を川岸工業の仙台工作に対する債権に相殺充当した。」旨の事実

はいずれもこれを認めるが、その余の抗弁事実は全部認めない。

二、ところで被申立人らは、川岸工業と仙台工作との間の資本・人的・物的・営業的関係・川岸工業仙台営業所において受注する受注単価の積算等の業務関係、その他営業活動の予算制・人事労働条件の決定関係から川岸工業と仙台工作との間は経済的社会的に一体となつている旨、また仙台工作の解散は川岸工業のキャラバン商法にもとづいた計画倒産であり、全金労働組合川岸仙台工場支部破壊のための解散である旨、主張するので申立人は次のとおり反論する。

(一) 川岸工業は、工藤栄の資本を通じて東北・北海道方面への企業進出を意図し、そのため仙台工作を足がかりとするべく川岸鉄工を設立したもので、これは設立当初から川岸工業に吸収合併することを予定して設立されたものである旨の主張について(第二の四の(一)の3、同(二)の2)。

川岸鉄工は、工藤栄個人と今野富蔵その他川岸工業となんら関係のない者らが発起人となつて設立されたもので、もちろん川岸工業とは資本関係は全くなく、むしろ仙台工作の前身であつて倒産会社である申立外株式会社今野鉄工所の従業員の救済と同社の残存施設の活用を目的として設立されたものである。したがつて川岸工業は対川岸鉄工および仙台工作との間において川岸鉄工が吸収合併されてその取引関係を承継するまでは営業的にもなんらの関係を有せず、また右吸収合併も川岸鉄工設立当初から予定されていたものではない。

(二) 川岸工業はキャラバン商法を行うために多数の工場を建設すると共に関係会社を設立し、仕事がなくなればその工場を他に移転し、関係会社も解散した旨の主張について(第二の四の(一)の3)。

川岸工業の関係会社のうち、東港工作や徳山工作などが経営不振のため倒産したことはあるが、関係会社の使用する工場を移転したことはなくまた東港工作や徳山工作などが倒産した頃新らしく設立した関係会社は一つもない。

即ち東港工作は累積赤字金七六、一四万三、五二六円、徳山工作は同じく金五五、〇二万一、六一一円となつて倒産したものであつて、その当時における川岸工業の東港工作に対する貸倒債権は金七四、九〇万五、二六〇円であり、徳山工作に対するものは金四二、六一万五、二四〇円であつた。したがつてこれがため川岸工業は第一九期決算以降経理の行づまりが生じたものであつて、これらを不良債権として処理したからこそやつと第二二期決算以降になつて再び利益の増大をもたらしてきたものであり、川岸工業が利益のみを追求し意識的に倒産させたものではない。

尚佐世保工作の株式は他に譲渡したものであり、徳山工場は徳山工作の解散直後閉鎖したものの直ちに申立外山口工事株式会社に賃貸しているものである。

(三) 川岸工業は川岸鉄工を吸収合併してからは仙台工作との間で親子関係が直接的になると共に特に仙台工作の全株式を取得してからは、仙台工作に対して人事労務対策生産計画の決定などすべて本社でなされ、また業務は混同しその関係は全く一体化していた旨の主張について(第二の四の(二)の3)。

1 まず営業関係についてみるに川岸工業は、川岸鉄工を吸収合併した後、川岸鉄工対仙台工作の関係を承継したので、仙台工作とは取引上の提携関係こそあつたが仙台工作の代表取締役今野富蔵がその地位を退くまでは仙台工作は完全に今野富蔵一族によつて支配されていて川岸工業から全く独立したところの経営がなされ、また仙台工作は川岸工業の専属的下請会社になつていたものの、川岸工業は同社に対して自からの受注活動を禁じたこともなく、むしろ仙台工作は川岸工業において全株式を取得した後になつても本工事に対する追加工事或いは細かい鉄骨工事などは独自の立場でこれを受注する活動をしていたもので営業活動自体川岸工業の絶対支配下にあつたものではない。

2 次に仙台工作の人事労務対策についてみるに経理課長になつた高山尚三は川岸工業の出向社員であつたのでこれは別として岩本昭三、深山昭などは最終的には仙台工作の代表取締役であつた福島勲が決定したものであつて川岸工業で転勤させたものではない。そして仙台工作は独自の取締役会・管理職会議・職制機構・就業規則・文書様式などを有して川岸工業とは別個独立の人事を行つていたものであり、労働組合との交渉も仙台工作独自において労働組合と交渉していたものであつて、これらの点で仙台工作は川岸工業と一体となつていたということはできない。

3 次いで業務の混同についてみるに川岸工業仙台営業所において受注する工事の受注単価の積算・出来高査定については仙台工作の従業員一名を専従で使用していたが、同人は右営業所に対する出向社員として勤務していたものであるからこれに対する給料分は川岸工業で仙台工作に支払つているものであり、しかも受注見積と単価の積算・出来高査定などについては仙台工作に対して発注予定の工事又は発注した工事についてなしていたもので、これはむしろ川岸工業仙台営業所の職員として仕事をしていたものとみるのが相当であり、鋼材の検収保管・数量の検査などについては仙台工作の従業員二・三名が従事していたがこれは二・三日に一回時折なされていたものでしかもこの従業員は二・三名で仙台工作の全従業員と対比して二ないし三パーセントに過ぎないばかりか仙台工作独自で行う補助材料の手当と川岸工業から仙台工作において受領した主材料を同各係に手交する仕事に附随して行う場合が多いのであるからいずれにしろこれらの状況をもつて川岸工業と仙台工作の業務が混同しているとみることはできないというべきである。

(四) 川岸工業は仙台工作の収益性に着目しこれを乗取つた旨の主張について(第二の四の(二)の3)。

仙台工作は川岸鉄工との取引関係が始まつてから川岸鉄工が川岸工業に吸収合併されてこの取引関係を川岸工業において承諾し仙台工作が解散するに至るまで、川岸鉄工又は川岸工業から工場およびこれに設備されている機械等の相当部分の貸与と鋼材の提供を受けながら専属して川岸鉄工又は川岸工業の受注する鉄骨工事を下請しこれに賃加工を加えていたものであるがその収益性は川岸工業において仙台工作の全株式と不動産を取得した直前ともいうべき昭和三九年三月の決算期において累積欠損金一三、五六万一、二三一円を出していたものでむしろ収益性に乏しい会社であつた。

しかもその頃仙台工作の代表取締役をしていた今野富蔵は仙台工作のほかに今野振興株式会社という仙台工作と同業の会社を経営していたが同今野振興の仙台工作に対する昭和三九年三月三一日現在における借受金元金六、六六万二、八六〇円、右元金に対する利息その他工事未収金を除く末収金六、九〇万三、八八〇円、工事未収金三一万〇、〇〇〇円、立替金三二万一、〇八四円など合計一、四〇〇万〇、〇〇〇円を超える債務を負担していた。

そこで川岸工業は右仙台工作の累積欠損および今野振興の債務に対する弁済の方法として今野富蔵等から懇請されてやむなく仙台工作の株式と不動産を取得したものであつて、決して仙台工作を収益性に着目して乗取つたものではない。

(五) 川岸工業は仙台工作から不当な利益の収奪を図つていた旨の主張について(第二の四の(二)の4)。

なるほど川岸工業は前記第二の四の(二)の4申立人の答弁第一の一の⑦のとおり、昭和四一年度における仙台工作に対する発注利益として約四、〇〇〇万〇、〇〇〇円を得ていること、またその全投融資額は一億三、四七四万〇、〇〇〇円であるがこの利回り率を算出するためには川岸工業は右の頃仙台工作の営業活動を肩代りして行つていたものであるから投融資に対する利回り率を算出する際に除せられるべき発注利益は右数字から仙台工作の営業活動の肩代り分についてのいわゆる「間接経費」を削除したものでなければ正当な利回率を算出することはできないというべきである。

しかも投下資本についての利回り率を算出するには、その基礎となる投下資本には有形固定資産や短期貸付金・資本金などのほかに仮払金・明渡金その他関係会社に対する全ての出捐金が加えられなければならないし、川岸工業が仙台工作に貸付けていた短期貸付金は全て無利息・無担保であつたから、被申立人らが算出した住友金属の場合その利回りは推定利息金約3.1億円を控除して算出したのと比較算出することは当を得ないものというべきである(疎甲九六号証三〇頁参照)。

したがつて川岸工業が仙台工作から不当な利益を収奪しているということはできない。

(六) 昭和四二年四月から川岸工業は従来の発注方式(元請受注額のうち賃加工額の部分から一定の金額を控除した額で仙台工作に発注する方式)から月間二〇〇万〇、〇〇〇円のリース料(工場等の賃貸料・看板料・貸付利息など包含する名義)を徴収する制度を強要することによつて仙台工作を計画的に倒産させたほか、仙台工作の労働組合を破壊するべく解散した旨の主張について(第二の四の(二)の5および(三))。

川岸工業は従来月間にして約四、〇〇万〇、〇〇〇円の利益を仙台工作から得ていたが、これに対し仙台工作の従業員は川岸工業が工事のピンハネが大きい世間並以上の搾取をするなどとかなり必要以上の疑惑を川岸工業に対して持つていた。そこで川岸はこの疑惑をはらいのけ、仙台工作の再建を図るため「仙台工作が従来から借り受けていた工場機械器具などの賃貸料借入金の利息看板料などを含めたものをリース料としこれを月二〇〇万〇、〇〇〇円に評価して川岸工業に支払う(従来は工場の賃貸料などは支払つていない)。

その代り仙台工作は自からの努力で鉄骨工事を受注する(但し当分の間は従来どおり川崖工業が受注してこれを仙台工作が下請受注する)。その受注価格は川岸工業が元請受注する価格から、川岸工業で供給する鋼材質などの時価額を控除した残価格とする(従来は元請価格から鋼材費の時価を控除した残額から再び約二〇パーセントの受注利益を差引いた金額で仙台工作は受注していた)。」として仙台工作自体も営業部を設け、新体制を設定したものである。

したがつて従来から川岸工業が仙台工作から得ていたものは月約四〇〇万〇、〇〇〇円であつたものを定額二〇〇万〇、〇〇〇円に下げてその支払額をガラス張りにしたものであつて被申立人らの主張するようなものではない。

しかしながら仙台工作は昭和四二年四月金三、五六万九、二九八円、翌五月には金三、八八万二、五二〇円という新らたな欠損が累積して右リース料の支払いすら支払うことができず、しかも仙台地方は全国的に見て非常に受注単価が安いうえ季節的影響を受けやすいこと、仙台工作はその施設・人員などが受注量の多い時季に見合うようになつていたが、右季節的影響を受けることと、東北地方は一般的に小規模な仕事が多く収益性に欠けたことから解散せざるを得なくなつたものであつて川岸工業が計画的にまた仙台工作の労働組合破壊のために解散したものではない。

第二、被申立人らの法人格否認の法理の適用主張に対する反論

いわゆる法人格否認の法理はアメリカにおいて株式会社法に関する判例の積重ねの中で論ぜられるに至つたものであるが、これは、

競業禁止の合意をなした後にそれを潜脱するための目的で法人を設立した場合

強制執行を免れ、又は財産を隠匿するために法人を設立してこれに全財産を出資するなどした場合、

その他法律の禁止する行為等を敢えて脱法的になす目的として法人を設立するなどした場合、

など相手方の保護を図るため又は取締規定など立法趣旨を貫くために法人の行為を個人の行為に還元する方法として展開されている理論であつて、これはあくまでも具体的な行為について差止命令を許容したり法人名義の行為を個人の行為に還元して評価することを許容する理論であつて当該法人の存在自体を一般的に否定する理論ではない(大隅健一郎法人権否認の法理・法曹時報第二巻第八号五頁以下参照)。

したがつてこの法理は法人の観念が公共の便益を打破し不法を正当化し詐欺を擁護し又は犯罪を防護するために利用されるときなどの場合というように極めて厳格な反社会的な要件を必要として一人又は極めて少数人が「会社の全株式を有する」というだけでは不充分でありたとえ一個人が特定の事業につき「有限責任の利益を享有するために」一人会社の形態を利用したとしても、また「親会社が子会社の全株式を所有し且つ共通の役員・共通の事務所を持ち、共通の代理人により行動している」としてそれだけでは子会社の法人格を否認することができないというべきである(前掲書四頁以下)。

しかも右法理の適用されている事案の多くは脱法行為を禁止する取締的規定の拡大適用の可否が問題となつている事案か、又は諸不当行為の差止を命じ得る法条の拡大適用の可否が問題となつている事案であるから我国においては、権利濫用の法理などのほか詐害行為の取消などの法律規定の活用で充分であるので右理論を導入することは必ずしも普遍妥当性を有するものとはいえない(西原寛一・会社制度の濫用・末川光生古稀記念論文集中中巻一二三頁以下参照)。

加えてこの法理は個々の具体的法規についての解釈論に還元して各個の特殊事情や法規の趣旨に照らし、法人とその背後にある実質的行為主体との同一性を考察することによつて具体的に裁判所によつて判断されるべきものともされている(蓮井良憲・会社の独立性の限界・私法第一九号一一七頁以下参照)ところからしても、この法理は我が国では未だ熟していない理論である。

被申立人らが実定的にこの法理が裁判所においても認められているとして昭和四四年二月二七日最高裁判決をとりあげているようであるが、この判例は単に傍論として法人格否認論の適用を言及したに過ぎないものであるから、必ずしも確定した判例ということはできない。

よつて以上の理由からしても被申立人らの主張は全く根拠を欠き失当というべきである。

(証拠)<省略>

理由

第一被申立人らに、申立外仙台工作に対する債権保全のため、仙台地方裁判所昭和四二年(ヨ)第二五八号有体動産仮差押決定にもとづき、昭和四二年六月二五日第一の(一)の物件および第二の(一)の物件を、また被申立人菅原順一を除くその余の被申立人らは、右債権保全のため同裁判所昭和四二年(ヨ)第二六九号有体動産仮差押決定にもとづき、昭和四二年七月二日第一の(二)の物件および第二の(二)の物件ならびに右昭和四二年(ヨ)第二五八号仮差押決定にもとづいて同七月四日第三の物件を各仮差押執行をしたこと、しかしながら以上の物件はいずれも申立人川岸工業所有のものであつたため、川岸工業は昭和四二年七月二五日右被申立人らを相手として仙台地方裁判所に第三者異議請求の訴を提起したことの申立原因事実についてはいずれも当事者間に争いがない。

第二

一、そこでまず被申立人らの事実主張の点についてみるに、

①川岸工業の設立から現在に至るまでの沿革と題する第二の一の事実((一)の資本構成・(二)の役員構成・(三)の物的設備である所有工場数の変遷と現状・(四)の関連会社数とこれに対する川岸工業の株式所有率・役員兼任数ならびに取引関係・(五)の工藤栄およびその一族の川岸工業株式所有率)全部、

②川岸鉄工の設立から同社が川岸工業に吸収合併されるまでの沿革と題する第二の二の事実((一)の資本構成とその所有する有形固定資産・(二)の役員構成)全部、

③仙台工作の設立から解散に至るまでの沿革と題する第二の三の事実のうち、(一)の資本構成とその所有する有形固定資産の変遷について記載した事実・(二)の仙台工作の役員および主要幹部社員などの人的構成について記載した事実・(三)の仙台工作と対川岸鉄工および川岸工業間の営業的関係について記載した事実ならびに(四)の1の川岸工業仙台営業所において受註する工事の受註単価の概算・鋼材の検収保管などの業務および仙台工作が右会社から受註した工事の出来高査定事務などの業務補助は仙台工作の従業員によつてなされていた旨の事実、

についてはいずれも全部当事者間に争いがない。

二、しかも仙台工作の従業員に対する人事給与労務対策の決定および仙台工作の具体的生産目標と経営政策の立案決定と川岸工業との関係、ならびに川岸工業の中における関連会社としての仙台工作の位置付け(第二の三の(四)の2の主張)について判断するに<証拠>によれば川岸工業本店総務部脇山発として仙台工場長岩本昭三宛に親展で「昭和四一年度の仙台工作従業員に対する春季賃上げと同年度の夏期一時金支給額の決定およびその発表すべき日指示と、仙台工作従業員砂子・江崎の係長承認決定の通知を昭和四一年七月一日付でなし、これにもとづき岩本昭三は翌七月二日付で右賃上げを全金労働組合川岸仙台工場支部に対し通知していること、<証拠>によれば右脇山が右岩本に対し昭和四一年七月九日付で仙台工作従業員のうち管理職者の昭和四一年春季昇給金額の決定と夏季賞与は無利子貸付にするようにとの指示通知書を発していること、<証拠>によれば川岸工業の常務取締役である松井鮮二および右脇山は川岸工業本店総務部松井・脇山名義で岩本昭三に対し、昭和四一年七月八日付で昭和四一年夏季一時金支給は千葉工作方式で組合と妥結するようにとの指示書を出していること、<証拠>および証人の第二回証言によれば、右脇山から仙台営業所高山尚三および右岩本昭三宛に昭和四一年八月二二日付で、横領事件を起した仙台工作経理課長寒河江の解雇処分をその処分理由を付して指示していること、<証拠>によれば、川岸工業総務部長と脇山名義で仙台営業所長長谷川に対し昭和四〇年一〇月二日付で第二〇期仙台営業所の受註目標は月産六〇〇トンとしその受註単価は七万六、〇〇〇円とすること、尚諸訂費の削減を強化することの決定通知を出し、<証拠>によれば、右脇山が右岩本昭三、高山尚三に対し昭和四一年八月二三日付で仙台工作における昭和四一年七月分の収支実績の明細報告を川岸工業で定めた経費予算などとの対比で要求していること、<証拠>によれば、川岸工業が大蔵大臣に提出した川岸工業の第一九期第二〇期の各有価証券報告書営業の状況工事能力の項目で「仙台工作を含む関係会社の従業員は川岸工業で監理しているのでその能力を当初の能力として示した」旨記載していること、<証拠>によれば、川岸工業の営業案内書および川岸工業入社案内書にはいずれも仙台工作で貸与を受け使用している仙台工場を川岸工業の直営工場と思わせるように記載していること、<証拠>および証人二階堂都美雄の第三回証言被申立人村上憲三本人の第一回尋問結果によれば、昭和四一年二月一七日川岸工業が東北電力株式会社八戸火力発電所タービン室鉄骨工事の受註に際して同電力に提出した加工要領書には職制機構として「川岸工業鉄構本部長福島勲・仙台駐在取締役長谷川玖一・仙台営業所長石峰稜・仙台工場長高橋利一郎・同次長兼工務課長永渕日義・同工作課長二階堂都美雄・同機械課長代理高橋秀夫・同工事課長代理勝野文男」と記載して提出し、しかも川岸工業の受註活動と仙台工作の作業活動も現実に右職制指揮手続と作業手続で行われていたこと、<証拠>および被申立人村上憲三本人の第一回尋問結果によれば仙台工作の総務課長坂本三治が昭和四〇年一一月一〇日に川岸工業の本社を伺つた際、同人に対し同川岸の会長松本万里は「労務政策の基本事項は川岸工業本社で指示する。」同川岸の常務取締役松井鮮二は「仙台工作は法的には独立会社であるが、川岸工業の中で物事を考えること、物品の調達は現在一、〇〇〇円以上のものはすべて報告事項となつているが、これは一万〇、〇〇〇円以上としてもよい。」同川岸工業代表取締役東京支店長兼仙台工作代表取締役島勲は「仙台工作の従業員に対する賃金は査定配分を加えるようにせよ。手袋の配分は千葉工作の状況を見て決定すること。現在一時金の支給については仙台工作独目の妥結は考えていない。」旨の指示をしたこと、の各事実を認めることができ、この事実と<証拠>、証人坂本三治の第一回第二回各証言ならびに前記第二の一の資本構成・人的構成・営業関係など弁論の全趣旨によると、仙台工作の経営は、従業員に対する人事給与・労務対策の決定および仙台工作の具体的生産目標と経営政策の立案決定など全てに亘り川岸工業の具体的指示と決定によつてなされていたことを認めることができ、<反証排斥―省略>

したがつて、被申立人らの主張の第二の三の(四)の1の川岸工業仙台営業所の業務と仙台工作の業務の混同に関する事実(前記第一の一の③のとおり当事者間に争いがない)が、仮に申立人の主張のとおり仙台工作の全従業員数からみれば二ないし三パーセントに過ぎなかつたとしても、同業務の混同は仙台工作の川岸工業に対するサービス的立場からのものではなく、右川岸工業の仙台工作に対する完全支配の結果仙台工作の従業員が本来川岸工業の従業員をもつてなすべき業務を肩代り的になさざるを得なかつたものと推認せざるを得ず、しかも前記第一の事実と以上の事実からするならば、仙台工作は資本的にも業務的にも川岸工業に完全に支配された子会社であるということができる。

第三次に右川岸工業と仙台工作との事実関係をもとに被申立人らの主張する法人格否定の法理について考察することにする。

一、法人格否定の法理とは「一定の会社が法が積極的に認める会社の経済的社会的有用性の目的範囲を事実上潜脱してその構成員たる社員(株式会社であればその株主)によつて利用される場合、その会社の取引その他同会社に対する債権債務関係者に対する関係で法の求める衡平の観念に合致した解釈をなし、裁判所において当該会社の独立した法主体性に限界を画し、その限界をはみ出る部分については法人格の構成社員に対する独立性を否定することができる。」とする理論であつて、これは、申立人が主張するように必ずしも会社制度が乱用される場合にのみ適用される理論ではなく、また会社法人格を一般的画一的に否定する理論でもない。

そして会社の存在がそれ自体乱用に至らない場合でも法人格否定の理論が適用される場合としては、「会社の行為が法律上のみならず、事実上も別個独立の法主体でなければならないことを前提とする法律解釈において、事実上その会社の社員たる個人が会社形骸の背後に隠れていながら法律上社員とは別個独立した会社の行為として自己の目的実現のために法律関係に関与しているような場合」などがあげられ、会社形骸論によりその構成社員に直接責任を認める理論(昭和四三年(オ)第八七七号事件昭和四四年二月二七日最高裁第一小法廷判決参照)もその適用の一場面ということができる。

そこで更に右一適用場面を探究すると結局はこれは社員個人が会社の財産業務などを事実上完全に支配して、その個別的独立性に一線を画することができず、事実上社員たる個人と会社たる個人が法的形式的には独立した法主体性を有するに拘らず社会的経済的にこの二者が包括した一個の単一体を構成していること(例えば右二者が人的物的そして業態上混同している場合)に着眼して法人格否定の法理を適用しようとしているものということができる。

したがつて右論理からするならば法の認める会社制度の存立目的からして法人格否定の理論は我が法制において法の究極の目的たる正義に適うものであり、また会社法を貫く企業維持の原則に悖るものでもないからこれを積極的に採用すべきものというべきであつて申立人のこれに反する主張は全くその根拠を有しないものといわざるを得ない。

二、さてそこで、以下右法人格否定の法理を社員が法人である場合の親子会社特に株式会社に当てはめて考察することにする。

(一)  株式会社の株主有限責任は法律によつて認められたものであるが(商法二〇〇条)これは事業資本の調達に資する経済的効用を有すると共に個人を株主とする株式会社においては、その株主に有限責任の特権を認めることによつて集約形成した株式会社そのものの存在自体がその企業活動の面において社会的効用を果しているということができる。したがつて個人を株主とする株式会社の株主有限責任を否定することは右株式会社の社会的効用を否定することになるということができる。しかしながら、法人を株主とする株式会社の株主有限責任を否定してもその株主たる法人と株式会社とが経済的社会的に一個の独立した単位を構成する場合は同法人を構成する個人の株主有限責任を否定しない限りこれは右株式会社の社会的効用に反するということはできない。むしろ株主たる法人の構成員は既に自己自体の企業活動において有限責任の特権を亨受しながら更にその所属する法人が他の株式会社の株主になることによつて実質的には二次的有限責任の特権即ち二重に亘る特権を有することになる。有限責任の原則は右のとおりその有する社会効用の要請から、その法人に対する債権者の利益を犠牲にしても認めたものであるが、債権者の利益を犠牲にしても株主に有限責任の原則の享受し過ぎ(二重の有限責任)を積極的に是認するものではない。なぜならば、右の如く有限責任の原則の享受し過ぎを是認するときは法自体が有するところの自己目的たる衡平を法自から否定することになるからである。したがつて法人格否定の法理は株式所有による親子会社においては個人株主によつて構成される株式会社よりは、会社自体の形骸性を問題としなくても容易に適用さるべきものということができる。

(二)  さてしからば法人格否定の法理にしたがい子会社の債権者に対する責任を親会社においてその独立性を否定されて負担する責任条件とは如何なる場合であるかを考察するに、まず第一に親会社と子会社とは前記のとおり経済的に単一の企業体たる実体を有すること、第二にその企業活動の面において親会社の子会社に対する管理支配が現実的統一的でその活動そのものに経済的社会的単一性を有することを必要とすると解すべきである。なぜならば、経済的単一性をもつて法律的にも直ちに単一体であるということができず、むしろ親会社の現実的な統一的管理支配が欠けるときはそれは法人格が形式的に別個独立である限りその社会的経済的活動の単位面からみればかえつて企業活動そのものの分離独立を示すことにほかならず、また法人の社員から独立したその法主体性はその企業の独立した経済的社会的に単一な企業活動の社会的有用性によつて法がこれを付与したものだからである。

(三)  そこで更に右企業の経済的単一性の内容を明らかにするに、これは親子両会社が財産的物権的に同一体となつていることであるが、結論的には、親会社が子会社の業務財産を一般的に支配し得るに足る子会社の株式を所有することにあるというべきである。けだし、例えば一人会社即ち親会社が子会社の全株式を所有するときは親会社の株主からみれば究極においてはこの両者の財産的物権的関係は株主の財産処分権の面からみて全く同一体の関係にあるということができるが、企業活動の面からみて株主たる親会社が株主総会において子会社の取締役を選任しその取締役の業務執行を通じて子会社の財産を一般的物権的に管理支配するのでなければ親子両会社の財産は物権的にも管理支配の面からしても全く同一体の関係にあるということができないからである。

(四)  したがつて子会社に対する親会社の法人格の独立性が一定の債権者に対する関係で限界を画され又は否定されるためには第一に親会社が子会社の業務を一般的に支配し得るに足る株式(子会社)のを所有していることであり(一人会社はこの典型ということができる)第二に親会社が子会社を企業活動の面において現実的統一的に管理支配していることを必要とする(親会社と子会社の相互の業務が混同していること、子会社の従業員の人事労務対策などがすべて親会社の意思によつて決定されていること、などがその例である。)と解すべきであるが、右子会社に対する直接債権者には任意に積極的に子会社を選択してこれに対し信用拡大を図つた能動的債権者(例えば商取引における債権者)と消極的な因果の関係で債権者となつた受動的債権者とがあるので法人格否定の法理を適用するためには右債権者を区別して考察することを必要とすべきである。なぜならば、右能動的債権者に対する関係において法人格否定の理論を適用し、子会社の責任を親会社に追求しうるものとすれば、それは自己責任の原則に悖ることになると共に右債権者を適度に保護することになつて衡平を目的とする法の理念に反することになるからである。

だとするならば、子会社に対する親会社の法人格の独立性が一定の債権者に対する関係で限界を画され又は否定され親会社がその一体性を有するがために子会社の責任を自からの責任として負担すべきものとされるためには第一に親会社が子会社の業務を一般的に支配し得るに足る株式を所有すると共に親会社が子会社を企業活動の面において現実的統一的に管理支配していること、第二に株主たる親会社において右責任を負担しなければならないとするところの債権者は親会社自から会社制度の乱用を目的として子会社を設立するなど(例えば子会社を利用して法を潜脱する場合、子会社の利用による契約の回避・過少資本の子会社を設立して第三者を詐害するなどのほか、親会社が子会社の従業員に対して不当労働行為をなすなど。)の事情がない限り右子会社に対する関係で受動的立場に立つ債権者に限ると解すべきである。支配あるところに責任ありとする法原則は右のことを意味するものであり、右要件は自動車損害賠償保障法三条の法意および民法七一五条の使用者責任において判例学説がいわゆる外形理論を確立した趣旨と対照してみるとき容易に肯定できるであろう。

(五)  さてしからば、被申立人らに仙台工作に対する関係でいかなる債権者となつているかというに、疎甲七ないし九号証および弁護の全趣旨によれば、いずれも解散によつて解雇されるまでは全部仙台工作の従業員であつて、前記第一のとおり被申立人らにおいて本件物件に対して仮差押執行をなしたのは、右解雇に伴つて生じた仙台工作に対する退職金等の債権を保全するためであつたことが明らかである。

しかも右事実からするならば、右保全債権は仙台工作との雇用関係に伴つて生じた債権であることが明らかであり、その雇用関係に伴つて生じた債権はたとえ被申立人らにおいて任意に仙台工作を選択して入社した結果生じたものとしても、その雇用関係において被申立人らの地位は使用者において一方的に定められる就業規則によつて労働条件のすべてを拘束される(就業規則の法的性質を契約説・法規説のいずれからみても同様である。労働基準法八九条九〇条九三条参照)ところからみるならば、使用者の一方的意思によつて支配された従属労働関係から生じた債権であるから、これは受動的関係によつて生じた債権というべきである。

(六)  したがつて以上の事実関係および論理からすれば、被申立人らのその余の主張事実について判断するまでもなく、申立人たる川岸工業は前記主張事実欄第二の一の(一)・同第二の三の(一)の1の事実を援用記載した本理由欄第二の一のとおり昭和三九年五月二八日仙台工作の全株式を所有し、遅くもそれ以来本理由欄第二の二において認定したとおり仙台工作を資本的にも企業活動の面からしても現実的統一的に完全に支配してその相互の企業関係は単一化していること、そして被申立人らはいずれも受動的債権者であるから、被申立人らにおいて申立人たる川岸工業に対し法人格否定の法理の適用を主張することができるというべきである。

(七) ところで被申立人らの本件保全債権の債務名義が申立外仙台工作に対するものであるから、右法人格否定の法理は直接申立人に対する債権でない点で適用できないのではないかという論が生ずるかも知れないが、右のとおり川岸工業は対被申立人に対する関係では、仙台工作と対立独立した法人格を主張できず、むしろ融合した単一体として法的評価を受けるのでああるから、形式的には被申立人らは改めて申立人たる川岸工業に対してその債務名義を取得することは形式的一般的には仙台工作と法人格が別個であるから可能であるが、結局右被申立人らの得た仙台工作に対する債務名義はその実体においては申立人たる川岸工業に対するものともいうことができる。

したがつて以上の理由からするならば、本件差押物件に対して申立人被申立人ら以外の全くの第三者が利害関係を有することの存在について主張立証のない本件申立においては申立人は法人格否定の法理の適用を主張する被申立人らに対する関係においては仮差押決定に対する債務者の異議申立としてその債務名義に表示された債権の存在保全の必要性などを争うならばともかくとして、民事訴訟法五四九条に定める第三者異議請求権者としての第三者には該当しないといわざるを得ない。

第四よつて以上の理由により、被申立人らのその余の主張について判断するまでもなく申立人川岸工業の本件仮差押執行取消の申立は理由がないからこれを却下することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。(藤枝忠了)

被申立人目録・物件第一、二目録<省略>

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