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仙台地方裁判所 昭和40年(行ウ)4号 判決 1968年9月27日

原告 赤木商事有限会社

被告 宮城県知事

補助参加人 佐藤幾蔵

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は参加により生じた分を含め原告の負担とする。

事実

一、原告の陳述

(原告の求める裁判)

被告が、昭和四〇年七月一日、被告補助参加人から、同人の開設する薬局の構造設備を、従前の仙台市元寺小路八二番地所在家屋番号同町第一四八番の二木造木羽葺平屋建店舗床面積四九・五八平方メートル(一五坪)に加えて、同所八二番地、八三番地の一所在家屋番号同町第一四九番の四鉄筋コンクリート造陸屋根屋階付三階建店舗兼居宅の一階九一・九九平方メートル(二七坪八合三勺)を含むものとするとの薬局の構造設備変更届出受理の処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(請求の原因)

一、被告は、請求の趣旨記載の日同記載の行政処分をなした。

二、右処分は違法である。

よつて請求の趣旨記載の判決を求める。

(本案前の抗弁に対する答弁)

被告ら主張の抗弁はいずれも争う。すなわち、

一、被告が補助参加人の届出を受理する行為はそれ自体行政処分である。

二、原告は、被告の許可を得て、肩書住所に所在する店舗において医薬品の一般販売業を営むものであり、補助参加人は、昭和四〇年七月一日、被告に対する前記届出を了し、仙台市元寺小路八二番地、八三番地の一所在家屋番号同町第一四九番の四鉄筋コンクリート陸屋根屋階付三階建店舗兼居宅の一階九一・九九平方メートル(二七坪八合三勺)を店舗として医薬品の販売をしている。

そして、補助参加人の右店舗は、原告の店舗から最短歩行距離が三八・六五メートルの位置にある。

ところで、薬事法第六条第二、四項、第一一条、第二六条第一、二項、第三八条、昭和三八年宮城県条例第三八号薬局等配置基準条例(以下県条例という)、昭和三八年宮城県規則第七八号薬局等の適正数および距離の測定方法を定める規則(以下県規則という)によれば、薬局並びに一般販売業および薬種商販売業の店舗(以下薬局等という)の設置場所が、仙台市において、既存の薬局等の設置場所から道路上最短歩行距離が一五〇メートルに満たない場合には、配置の適正を欠くものとして不許可になしうる旨規定されて居る。

従つて補助参加人の店舗は右配置規準に適合しないので不許可となるべきものである。

そして、前記のとおり、薬事法が、薬局等の開設について許可制を採用し、その配置の基準を設けたのは、業者の濫立によつて相互の間に無用の競争を生じ経営の不合理化が生ずることのないようにとの経済政策的配慮によるものであつて、右配慮はそれが住民に対する適正な調剤の確保と医薬品の適正な供給という公共の福祉のため必要であるとの見地に立つものであつて、濫立防止によつて保護されるべき既設業者の営業上の利益は薬事法によつて保護されている法的利益と解すべきである。

しかるに、被告は、補助参加人の届出を受理することによつて補助参加人の新店舗における医薬品の販売ひいては原告との競業関係を肯認しているのであつて、原告は経済上多大の損害を蒙り、既設業者として本来保護されるべき利益を侵害されているのであるから、右処分の取消の訴を起しうる適格を有する。

(本案の抗弁に対する答弁)

補助参加人が被告の許可を得て従前被告および補助参加人主張の旧店舗を構造設備として薬局を開設しており、同主張の新店舗をも右薬局の構造設備として営業をしていること、補助参加人が同主張の届出をなし、被告がこれを受理したことは争わないが、右受理は次に述べるとおり違法である。すなわち、補助参加人の新店舗は薬事法上単に旧店舗の構造設備を変更したというにとどまるものでなく、あらたな別個独立の店舗と看なければならない。すなわち薬事法第六条第二項、第四項、第二六条第一、二項が、薬局および医薬品の一般販売業の許可に際しては、住民に対し適正な調剤の確保と医薬品の適正な供給を図るためその配置基準につき都道府県の条例を以つて定める旨規定している趣旨からすると、薬局あるいは医薬品の一般販売業の店舗が単一かつ同一か、または複数あるいは別個かは店舗の間口が新旧単一かつ同一かどうか、いいかえれば、新旧店舗の間口が周囲の既設店舗との距離に変更を生ぜしめるか否かにかかるものというべきである。ところが補助参加人の新旧店舗建物の敷地は南北に接続しているとはいえ、旧店舗は元寺小路の通りに北面していたのに、新店舗は元寺小路の南側にそれとほぼ平行して通る広瀬通りに南面していて、それぞれ各別の通りに面し、各別の間口を有するうえに、肩書地で広瀬通りに北面して医薬品の一般販売業を営む原告の店舗と補助参加人の旧店舗との道路上の最短歩行距離は一一〇・三三メートルであつたのに、新店舗とのそれは三八・六五メートルと短縮されてしまつたのであつて、補助参加人の新旧店舗は明らかに別個の二個の店舗であるといわねばならない。従つて補助参加人が新店舗において医薬品の販売をなすことが是認されるためには、これについてあらたに薬局開設等の許可を得なければならないはずであり、単に薬事法第一〇条、同施行規則第一二条第一項第五号に基づく旧店舗(薬局)についての構造設備の変更届出およびこれに対する被告の受理では足りないものといわねばならない。

二、被告および補助参加人の陳述

(被告の求める裁判)

第一次的に。主文同旨

第二次的に。請求棄却、訴訟費用は原告の負担。

(本案前の抗弁)

一、原告主張の届出の受理は行政処分ではないから、処分取消しの訴の対象とならない。

二、仮に、右届出の受理が違法な行政処分であるとしても、原告はその処分の取消しを求めるについて法律上の利益を有しない。

なお、原告適格に関する原告主張事実のうち、原告が、被告の許可を得て、原告主張の店舗を有し、医薬品の一般販売業を営むものであること、補助参加人が原告主張の店舗で医薬品の販売をして居ること、右両店舗間の位置関係が原告主張のとおりであること、原告主張の法規にその主張の内容の規定があることは認めるが、その余の事実は否認する。右法規の遵守によつて原告の受ける利益は反射的なもので法律上の利益でないから、仮に、被告の受理により原告が事実上不利益を受けたとしても、原告はその取消しを求める適格を有しない。

(請求原因に対する答弁)

被告が、原告主張の日、その主張の届出を受理したことは認めるが、右届出の受理が違法であるとの点は争う。

(抗弁)

一、補助参加人は、被告の許可により、丸長薬局なる名称で、仙台市元寺小路八二番地所在家屋番号同町第一四八番の二木造木羽葺平家建店舗床面積四九・五八平方メートル(一五坪)を構造設備(旧店舗)として薬局を開設していたものであるが、昭和四〇年六月五日ごろ旧店舗敷地の南側に接続し、同所同番地、八三番地の一所在家屋番号同町第一四九番の四鉄筋コンクリート陸屋根屋階付三階建店舗兼居宅の一階九一・九九平方メートル(二七坪八合三勺)を店舗(新店舗)とし、医薬品の販売をはじめ、ついで新店舗をも薬局の構造設備に含ませる旨の変更届出をなしたので、被告は右届出が次に述べるとおり適法であると判断してこれを受理したもので何ら違法ではない。すなわち、補助参加人の新旧店舗の建物の間には、家屋番号元寺小路第一四九番木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建床面積七八・〇一平方メートル(二三坪六合)の建物が存在し、これら三棟の建物は廊下を以つて接続し、その敷地は奥行三九メートル、総面積五二八・九二平方メートル(一六〇坪)余にすぎない。そして、構造設備変更届出前は右家屋番号元寺小路一四九番の建物は補助参加人の住居として使用し、新店舗のある建物は昭和三三年補助参加人において医薬販売の店舗に当てようと考えて建築したものであるが、当分倉庫として使用することとし、翌三四年麻薬卸売業の免許を得てその一階に麻薬保管庫を設置していたものであるが(ちなみにこれは右免許当時補助参加人の薬局と同一の業務所内に設置されたものと認められて免許が与えられている)、本件変更届出受理当時には、住居を新店舗建物の二階、三階に移し、前記住居部分の建物は貯蔵設備および事務室に当てられ、新店舗建物の一階には販売設備がなされており、三棟の建物全体が総合体としての薬局店舗の実体を備え構造設備規則(昭和三六年厚生省令第二号)にも何ら抵触するところがなかつたのである。そこで被告は、昭和三八年九月三日付薬発第四五四号厚生省薬務局長通ちよう「薬事法の一部を改正する法律の施行について」に示されているように、薬事法第六条、第二六条の規定は薬局等の新設に当つてその設置場所について規制しようとするものであつて、既に許可を受けている薬局等が営業規模を拡大するため同一の場所で店舗の面積を拡張しあるいは間口を拡張することまで制限する趣旨でないとの見解のもとに、補助参加人が新店舗において医薬品の販売をなすについてはあらたに薬局開設等の許可を受けることは必要ではなく既に許可を得ている旧店舗に関してその構造設備の変更届出をなし、被告がこれを受理することをもつて足りるものとして処理したものである。そしてこのような場合に一個の店舗とみるかそれとも二個の店舗とみるかは処分庁の自由な裁量により決しうるものというべきである。

三、証拠関係<省略>

理由

一、被告および補助参加人は、本案前の抗弁として、原告主張の届出の受理が行政処分ではないから取消訴訟の対象たり得ないと主張するので、まずこの点について判断する。原告主張の届出の受理は、薬事法第一〇条、第一一条、薬事法施行規則第一二条によつて被告にその権限が附与されたものであつて、被告は右法条に定める届出事項に関し、その所定の方式によつて届出がなされた場合には、これを受理することができ、(権限であると同時に義務である)若し右届出が内容または方式において法条の定めるものと異るときはこれを却下しなければならない。このように届出の受理は届出が適法であることを確認するものであつて、その点においていわゆる公定力を有するものである。このように届出の受理は、講学上いわゆる準法律行為的行政行為にあたるものであつて、行政事件訴訟法第三条第二項に定める行政庁の処分にあたるものであることは明らかである。従つて、この点に関する被告の主張は採用しない。

二、次に、原告が本件取消の訴を提起しうる適格を有するか否かについて検討する。

一般に薬局の構造設備の変更届出は、既設の薬局につきその構造設備の変更を生じた場合になされるものであるから、競業関係にある第三者といえどもその受理によつて利益を害せられることはないものというべく、従つて第三者には、右受理の取消を求める訴の当事者適格を肯定することはできないというべきである。

しかし、原告主張のとおり補助参加人の新店舗が薬事法上その旧店舗ともはや同一性を有せず薬局等の新設とみるべき場合に該当し、そこで営業をなしうるといえるためにはあらたに被告の許可を得なければならないものであるということになれば、原告の店舗と補助参加人の新店舗との道路上の最短歩行距離は薬事法に基づく県条例、県規則の定める一五〇メートルに満たず、補助参加人の新店舗に関しては、原則として薬局開設等の許可が与えられる余地はないことになるわけである。

それにもかかわらず、被告が、補助参加人の新店舗は新設の程度に当らないことを前提として補助参加人の旧店舗の構造設備の変更届出を受理することにより、その新店舗における営業を是認する処分をなしたといいうるとすれば、補助参加人が新店舗につき新設の許可を与えられた場合と同様の意味で原告に具体的な不利益を及ぼすことは否定しえないものである。

そこで、既設の医薬品一般販売業者が薬局等新設の許可の要件である配置基準としての距離制限により受ける利益は、薬事法により保護される法的利益といいうるかについて考えてみるに、薬事法が、薬局等の開設につき許可制をとり、その基準を定めている趣旨は、本来営業の自由という面からみればもともとは何人も自由になしうる行為を医薬品という取扱いの対象の特殊性と、それが一般公衆に及ぼす影響の重大性という衛生行政上の見地から原則的に禁止したうえで、特定の場合にこの禁止を解き、適法に営業をなすことができることにしたもので、いわゆる警察免許の性質をもつ営業免許の一種と解すべきであり、薬局等営業の特殊性を考慮してもそれ以上被許可者にあらたな法律上の権能を附与するものとはみられない。このことは、許可基準の一つである薬局等の配置の適正すなわち既設薬局等との距離制限を設けた趣旨についてもいいうることである。すなわち、薬局の開設者や医薬品の販売業者は、薬事法上許可を受けた製造業者もしくは輸入販売業者の製造もしくは輸入した一定の性状品質を備えた医薬品の調剤・授与・販売等を業とするものであるから、これら業者の濫立による利潤の低下による医薬品の性状品質の低下ということは直ちに考えられないし、また医薬品の調剤販売について価格の統制を受けるものではないし、さらに薬局等の構造設備については、公衆衛生上一定の基準を要求されるとはいえ、この基準を維持することはさして費用を要するものではないから、右の距離制限は、業者の濫立による競争の結果経営の不合理化を来し、公衆衛生の維持向上に支障を来すおそれのないよう、公衆衛生上、既設業者を経済的に保護することを目的としたものではなく、もつぱら住民に対する適正な調剤の確保と医薬品の適正な供給を図るためにその地域的偏在を防止するという公益目的による規制としてのみ是認しうるものというべきである。

従つて、既設業者はあらたに薬局等を開設しようとするものが、右の距離制限を受ける結果、一定の地域における営業を独占しうることがあるとしても、このような利益はいわゆる反射的利益にすぎず、薬事法上、法的に保護された利益とはいいえないものというべきである。

そして、本件において、参加人が新店舗において営業をなすことを是認した被告の処分が、新設の許可ではなく、既設薬局の構造設備の変更届出の受理という形式でなされたという相異はあるにしても、これによつて原告の受ける具体的な不利益が単に事実上のものにすぎず、法的利益が侵害されたとみるべきでないことは新設の許可の場合と同様に考えるべきであるから、原告には被告の本件届出の受理に関し、その取消を訴求するための適格を欠くものといわなければならない。

そうだとすれば、本訴は不適法として却下を免れないものというべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九四条後段を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石井義彦 若林昌俊 小川克介)

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