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仙台地方裁判所 昭和40年(ワ)399号 判決

原告 陽雲寺

被告 佐藤三郎 外四名

主文

一、被告等は、仙台市長に対しそれぞれ改葬許可申請手続をしたうえ、その許可を条件として原告に対し

被告佐藤三郎は別紙図面〈省略〉(1) 区域を、同区域内にある墳墓を甲区域に、

被告佐藤トシは同図面(2) 区域を、同区域内にある墳墓を乙区域に、

被告大町和子は同図面(3) 区域を、同区域内にある墳墓を丙区域に、

被告佐藤伊市は同図面(4) 区域を、同区域内にある墳墓を丁区域に、

被告水野勇は同図面(5) 区域を、同区域内にある墳墓を戌区域に、

それぞれ移転して右各墓地を明け渡せ。

二、訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

第一、(当事者の求めた裁判)

原告訴訟代理人は、「主文同旨。」の判決を求め、

被告等訴訟代理人は「原告の請求をいづれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二、(原告の請求原因)

一、原告は仙台市原町南目字町五八番および五九番の墳墓地(以下「本件墳墓地」という。)を経営管理する宗教法人であり、被告等はいづれも原告の檀徒であつて、被告佐藤三郎は別紙図面(1) 区域に被告佐藤トシは同図面(2) 区域に被告大町和子は同図面(3) 区域に、被告佐藤伊市は同図面(4) 区域に、被告水野勇は同図面(5) 区域にそれぞれ墳墓を設備して同区域を占有使用している。

二、原告は戦後の檀徒の増加に伴う墳墓地の狭隘化により環境衛生の見地から早急に墳墓地を整備する必要に迫られたため、昭和三一年正規の役員および常任委員会の決議に基づき共同墓所の建設を計画し、檀徒総員にはかつたところ反対者がなかつたので、右共同墓所の建設を決定し、共同墓所設置委員会を設立して共同墓所建設に着手して共同墓所(礼拝堂)を完工した。

三、被告等が占有使用中の前記各区域は、いづれも共同墓所建設敷地内にあつて、前記礼拝堂の東側に位置し、右礼拝堂に付属する便所および物置などの建築予定地ないし樹木の植付予定地となつている。したがつて原告が共同墓所建設計画を完遂するためには、被告等をして仙台市長からの改葬許可を得せしめ、被告等の設備している各墳墓を各占有使用区域から原告の各指定区域にそれぞれ移転させることが必要である。

四、ところで本件墳墓地の使用関係は、墳墓地の使用希望者が、原告に対して慣行および規則に適合する墳墓地使用の申込みをなして原告がこれを承諾することにより発生するものであるが、その経営管理権および使用権の内容は、墓地埋葬等に関する法律(昭和二三年法律四八号)、同法律施行規則(昭和二三年厚生省令二二号)、同法律施行細則(昭和三一年宮城県規則五六号)および、原告とその檀徒との間に行われてきた慣行、原告の寺院規則ならびに所有墓地経営管理規程等によつて定まるものであるところ、陽雲寺所有墓地経営管理規程四条、墓地埋葬等に関する法律一条、一九条、および明治二七年九月、焼失した本堂を再建する際その敷地と周辺に存在した畠山家外七軒の墳墓を墳墓所有者の同意を得て原告の指定区域に移転し、明治二九年五月、境内に道路を貫通する際、道路敷地内に存在した二〇数軒の墳墓を墳墓所有者の同意を得て原告の指定区域に移転し、さらに昭和二二年三月、境内地と墓地とを整備した際七浦家外四軒の墳墓を墳墓所有者の同意を得て原告の指定区域に移転した等の慣行に照らすと、原告は本件墳墓地の整備改善、公衆衛生上の必要その他公共の利益のために、墳墓地使用者に対して、その使用区域の変更を求めることができるものである。

五、よつて原告は、被告等に対し本件墳墓の改葬許可申請手続ならびに許可を条件として前記共同墓所建設敷地内にある被告等の各使用区域の変更を求めるため本訴におよぶ。

第三、(被告等の答弁および主張)

一、請求原因第一項の事実は認める。

二、同第二項の事実は否認する。本件墳墓地は十分に広くまた火葬による埋骨がなされているから衛生上の問題も生じない。

三、同第三項の事実中、被告等使用中の各区域がそれぞれ礼拝堂の東側に位置していることは認めるが、その余は否認する。

被告等の各使用区域は、共同墓所建設敷地の外にあるから、現状のままでも原告の墳墓地経営管理の妨げになるものではない。また本件墳墓地内の庫裡の南側に便所があるから、共同墓所に付属して便所を新設する必要はなく、かりにその必要があるにしても礼拝堂の北側に設けるのが相当である。なお原告が被告等に対して移転予定地として指定した区域は、狭隘かつ劣等な場所であり、また、原告から移転先として第二指定区域の指示を受けたことはない。

四、同第四項の事実は否認する。

第四、(被告等の抗弁)

かりに原告に本件墳墓地の使用区域の変更を求める権限があるとしても、原告の主張する共同墓所建設計画は、原告の本来の目的外である原告が経営する幼稚園の敷地拡充のためになされたものであつて、右計画遂行のため使用区域の変更を求めるのは、権利の濫用であつて許されない。

第五、(抗弁に対する原告の認否)

抗弁事実は否認する。

第六、(証拠)〈省略〉

理由

原告が本件墳墓地を経営管理する宗教法人であり、被告等はいづれも原告の檀徒であつて、原告主張の別紙図面の各区域にそれぞれ墳墓を設備して占有使用していることは当事者間に争いがない。

成立に争いない甲第七号証の一、二、原告代表者本人の供述により成立を認めうる甲第一、二号証、同第四号証の一乃至五の各記載に同供述を総合すれば本件墳墓地はいずれも原告の所有地であつて、このうち南目字町五八番の墳墓地はそれまで地目上畑地であつたが墳墓地が狭隘となつたため、昭和二四年六月四日宮城県知事の許可を受けて地目を墓地に改め墳墓地を拡張したものであり、南目字町五九番の墳墓地は原告の檀徒である訴外早坂為之助外二七〇名の共有名義となつていたが、これは明治四年一月五日太政官布告第四号社寺領上知令による上知の際上知より除外されて原告寺の所有地として除地されたが、地租改正の際右二七〇名の檀徒名義で地券の下附を受けたことが原因で土地台帳に同人等の共有として登録されたためであつて、真実は原告寺の所有であつたところから、昭和三二年一二月二三日当裁判所の判決により、これが原告の所有に属することの確認をえてその旨登記を了したものである。然して本件墳墓地を経営管理する原告には法人の機関として五名の責任役員が置かれ、そのうちの一名を代表役員とし、代表役員は責任役員会において法定の順位により選任され、その他の責任役員は代表役員の推せんにより常任委員会において選任されたものが就任し、代表役員は法人を代表してその事務を総理することを職務権限とし、法人の事務は平等の議決権をもつ責任役員の過半数で決するものとされている。更に常任委員及び地区委員各々若干名が置かれ、常任委員は地区委員の互選及び責任役員会の推せんによるものから選任し、地区委員は代表役員が地区毎に檀徒の意向を調査し責任役員会に諮つたものから選んでそれぞれ代表役員の依頼によつて就任し、共に法人の護持経営に関し代表役員の諮問に応じ法人の興隆発展に協力することを職務権限とするものである。そして財産の処分等につき原告が(一)主要の境内建物の新築、改築、移転、除去又は著るしい模様替えをし(二)境内地の著るしい模様替えをし(三)主要な境内建物の用途若しくは境内地の用途を変更し又はこれらを法人の主たる目的以外の目的のために供すること等の行為をしようとするときは常任委員の意見を聞き、その行為の少くとも一月前に信者その他の利害関係人に対しその行為の要旨を示してその旨を公示しなければならないとされ、又墓地の規制としては原則として檀徒に限り使用することが認められ、新に墓地を使用しようとするものは冥加料を納めて経営者の許可を受けなければならず、使用者は墓地の管理及び清掃その他に要する経費として講費を納めることを義務づけられ、碑石、形像類の設置及び塔婆等の建立は管理者の承諾をえた後でなければこれをしてはならず、墳墓の使用者が墓地を不用とするに至つたときは直に原状に復して経営者にこれを返還しなければならないこととなつていることが明らかである。

従つて右認定の事実によれば原告の檀徒による墓地使用契約関係は本件墳墓地の所有者でこれを経営管理する原告の規制の下に檀徒は区域を限つて冥加料並に講費を納めて期限の定めなく墓地の使用を認められ、若し経営管理上その必要を生じたときはそれが法令或は条理又宗教法人法第八四条第八五条の規定の趣旨に鑑み慣行に違背しない限り正規の機関決定を経た原告の指示に従うべき無名の使用貸借関係にあるということができる。

しかして証人菅野修の証言により成立を認め得る甲第五、第六号証の一ないし三の記載に同証言及び証人郷家英松、同菱沼文太郎の各証言ならびに原告代表者本人尋問の結果を合せ考えると、

昭和三一年一月ごろ原告の前住職であつた訴外亡清野学道は、戦後都市人口の増加と住宅事情の逼迫に伴う墓地の霊園化、更には蚊の発生等保健衛生上の見地から、墓地を現状のまゝ推移せしめることは好ましくなく、仮にこれを共同墓所方式に切替えて墓を一堂に集め、こゝで集中的に儀式行事を行い、信者を教化育成し、またこれを諸会合に利用し更に改葬により生じた敷地を寺にふさわしい公益事業に使用し或はこゝに緑地帯を設けるなど地域社会の福祉を図り憩いの場として利用できれば、これこそ生きた宗教活動として望ましいことであり、仏道の実践と宗教法人法制定の趣旨にも沿う所以であると考え本件墳墓地に共同墓所を建設するという画期的な墳墓地整備計画をたて昭和三一年六月二六日の常任委員会において清野学道は「共同墓所建設の構想」と題してこれを発表し今後の研究課題とした。

常任委員会においてはその後三回に亘りこれを協議し、翌昭和三二年一月一六日臨時全体委員会を開催して説明協議した結果趣意書を全檀徒に配布し檀徒の意向を徴することとして、これに従い同年二月印刷した趣意書を全檀徒に配布し、更に原告が檀徒むけに発行している機関誌「陽雲」を通じて右計画の周知徹底をはかつた。同年三月二一日開催の常例全体委員会においては賛同者を勧誘し計画を漸進的に押し進めることとした。同月一八日共同墓所賛同者の会合を開き賛同者より建設促進会の設置を要望され、同月二一日の常例全体委員会において共同墓所建設促進会の設置が決議された。同年四月一〇日同建設促進会を開き役員を選出し、四月から月掛の積金を始めることを決定し、促進委員会はその後屡々会合を開いた。昭和三八年五月四日常任委員会において「共同墓所の第一期工事着工の件」を可決し、同年一〇月一八日開催された常任委員会において、賛同者が四〇〇世帯を越え、促進運動の時期は過ぎ建設準備の段階に入つたので「共同墓所建設委員会」と名称を変更し、委員会の規約案を提出し決議するに至つた。そして同年一一月五日の建設委員会において建設予算の概要その他を協議した。同年二月二七日改選後の臨時全体委員会において常任委員を互選した後共同墓所の現状報告と建設までの準備概要が説明され、昭和三九年一月一七日開催された合同常任委員会において建設準備について協議がなされた。又同年四月二九日合同常任委員会を開き第二次設計図及び墳墓改葬手続等について協議し、同年八月二三日開催の同委員会において第一期墳墓改葬着手について協議した。同月九月二三日常例全体委員会において墳墓の改葬について説明し、同年一〇月五日開催の合同常任委員会において建設預金の現況と改葬の情況が説明され、翌一一月開催の合同常任委員会において共同墓所建設委員会委員長菅野修より以上の経過が逐一報告され、併せて共同墓所建設の賛同者は七五一世帯で、このうち建設用地及び関係ある墳墓の改葬は二四三世帯あり改葬に応じないものは保留二世帯を含めて被告等五世帯のみであることが報告された。そして現在被告らが使用中の墓地は、共同墓所に附属する待合室、便所の建設予定地に含まれており、共同墓所建設計画を完遂させるには、右附属設備の完工が必要でその完成のためには被告等は現在使用中の墓地を他に移転する必要があると以上の事実が認められる。

右認定に副わない証人庄司新伍、同佐藤さと、被告佐藤三郎、同佐藤とし、同大町和子、同水野勇各本人の各供述はたやすく信を措き難く他に右認定を覆すに足る証拠はない。右認定の事実によれば、原告の共同墓所建設計画は、原告の機関により十分検討のうえ決定され逐次遂行されてきたものであつてその経営管理上の方法において法令に違背し条理に牴触する点は少しも認められない。また慣行の点についても原告と墓地使用者との間には、明治二七年九月ごろ本堂再建の際にその敷地および周辺にあつた畠山家外七軒の墳墓を原告の請求により原告の指定区域に移転し、明治二九年五月ごろ境内に道路を貫通する際道路敷地内に存在した二十数軒の墳墓を原告の請求により原告の指定区域に移転し、昭和二二年三月ごろには、境内地および墓地を整備した際、七浦家外四軒の墳墓を原告の請求により原告の指定区域に移転した慣行があり、その際それぞれの墓地使用者からはいづれも同意を得たため紛争を生ずることなく管理経営を遂行してきた事実が認められ他に右認定を覆すに足る証拠はないから本件の管理経営が慣行にも違背しないことが明らかである。

被告等は本件墳墓地内の庫裡の南側に便所があり共同墓所に附属させて被告らの墓地上に便所等を新設する要はなく、かりにその必要ありとしても共同墓所の北側に設けるのが相当であると主張するけれども、原告代表者本人の供述により成立を認めうる甲第一一号証の記載及び検証の結果によれば庫裡は廊下によつて共同墓所と連絡されてはいるが狭隘で且つ上り下りの多い廊下となつて通行の便は悪くまた庫裡の便所は、原告経営の幼稚園職員室に隣接して設けられ、共同墓所は二階建で、地階は墓所に、一階は礼拝所になつていていずれも七四坪(二四四・六二平方米)の床面積をもち儀式、集会等に利用できるようにしており共同墓所の北側は外部とのコンクリートブロツク塀との間に幅約三・三〇米の空地があり、地階北側には、この空地への出入口が設けられ右共同墓所の規模、構造および来場を予想される人数等を考えると、庫裡の便所だけでは不十分でまた共同墓所の構造および外部との通行のための空閑地の必要性等から考えると、共同墓所北側に便所を設けることは不適当であつて、結局共同墓所の機能を十分発揮させるためには、被告等が使用中の墓地上に便所その他の附属設備を建築することが最も適当であることが認められるので被告等の右主張は採用できない。

被告等は、原告の指定した移転先区域が狭隘かつ劣等な場所であり、また原告から第二指定区域の指示を受けたことはない旨主張するが、検証の結果及び当事者弁論の全趣旨によると原告が被告らに対して移転先第一予定地として指定した区域は、墓地西側のコンクリートブロツク塀際にあつて、その面積は一区域につき奥行はいづれも一・五一米、間口は最も広い区域で一・四七米、最も狭い区域では一・三九米であり、また原告は被告らに対し、右第一予定地のほかに移転先として、墓地中央部に第二予定地を用意しているが、右第二予定区域の面積は一区域につき奥行一・五五米ないし一・七四米、間口一・二二米ないし一・二五米であつて、右第一、第二予定地ともいづれも被告らが現在使用中の墓地に比べて狭く、特に被告佐藤三郎の場合には、いづれの移転先予定区域も現在使用中の墓地面積の半分以下となるが共同墓所西側の墳墓地は、いまだ墳墓地として整地未了の部分を除くと、各墳墓の一区域あたりの面積は、いづれも原告が被告らに対して予定した移転先区域とその広狭を殆んど同じくしている事実が認められ他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右事情のもとにおいては、右移転先墓地が、被告らが現在使用中の墓地に比べ狭くなるからといつて、特に被告らに対してのみ著るしい現象ではなく、また劣等な場所であるとは認められないのであつて、右認定の程度では、被告らにおいて移転先指定地として、これを忍容すべきものと解するので右の点に関する被告らの主張も採用できない。

次に被告等の権利濫用の抗弁につき判断すると、証人菅野修の証言ならびに原告代表者本人尋問の結果および検証の結果によれば、原告はその境内地に幼稚園を経営し、共同墓所の東側には右幼稚園の園舎が三棟あり、その周囲は平担に整地され、被告等が現在使用中の墓地も右園舎に近接しており、被告等の墓地の移転による共同墓所の付属設備等の整備によつて、幼稚園の周囲もまた整備されるという好結果が招来される事情を認定することができ他に右認定を覆すに足る証拠はない。

しかして原告が共同墓所を建設するに至つた経緯は前記認定のとおりであつてそれが副次的に幼稚園の整備をもたらすからといつて原告の被告等に対する移転請求を、原告の本来の目的外のためになす権利の濫用であるということはできない。この点の被告等の主張も採用できない。

以上認定のとおりであるから被告等はその占有使用するそれぞれの前記墓地を原告の指定したそれぞれの前記場所に移転改葬してこれを明渡すべき義務があるものというべきところ、墓地、埋葬等に関する法律第五条第二項、同法律施行規則第二条の規定によれば被告等が右各墓地を移転改葬するためには仙台市長の許可手続を必要とし、その許可をえた後移転義務を履行することとなるものであることが明らかであるから原告の被告等に対する本訴請求はすべて理由がある。よつてこれを相当として認容し訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三浦克巳 藤枝忠了 板垣範之)

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