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仙台地方裁判所 昭和36年(行)4号 判決

原告 熊沢よね 外三一二九名

被告 宮城県

主文

被告は、別紙債権目録認容額らん記載の原告らに対し、それぞれ同らん記載の金員およびこれらに対する昭和三五年一二月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

右原告ら(ただし原告守屋俊雄、鈴木禎子、青田信子、酒井郁子、内田博子、加藤久仁雄、加藤進一、吉田正治、遠藤みや子、阿部恵子、鈴木とき子、二見三男、時正美、鈴木洋子、山口京子、佐藤茂、大友昇、清野澄子らを除く。)のその余の請求および右原告ら以外の原告らの請求を棄却する。

訴訟費用中、原告守屋俊雄、鈴木禎子、青田信子、酒井郁子、内田博子、加藤久仁雄、加藤進一、吉田正治、遠藤みや子、阿部恵子、鈴木とき子、二見三男、時正美、鈴木洋子、山口京子、佐藤茂、大友昇、清野澄子らと被告との間に生じたものはすべて被告の負担とし、右原告らを除く第一項の原告らと被告との間に生じたものはこれを二分し、その一を右原告らの負担、その余を被告の負担とし、これ以外の原告らと被告との間に生じたものはすべて右原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

「被告は、原告らに対し、それぞれ別紙債権目録請求額らん記載の金員およびこれらに対する昭和三五年一二月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二  被告

「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求める。

第二請求原因

一  原告らは、宮城県公立小、中学校の教育公務員として、別紙債権目録勤務校らん記載の小、中学校に勤務し、または勤務していたものである。被告は、市町村立学校職員給与負担法により原告らの給与(宿日直手当を含む)の支払義務者である。

二  宮城県では、学校職員の給与に関する条例(昭和二六年一二月二〇日宮城県条例第六九号)第一四条、第二〇条、学校職員の特殊勤務手当並びに日直手当及び宿直手当の支給規程(昭和二八年二月四日宮城県教育委員会規則第五号)第四条、第五条(昭和三二年一一月一日からは、宿日直手当の支給〔昭和二八年二月一三日宮城県人事委員会規則七―一七〕第三条、第四条)により、市町村立学校職員が正規の勤務時間外に五時間未満の日直勤務をした場合は、一回につき一二〇円の手当を支給する旨、また右手当は、その月の給与期間の分を翌月の給料の支給日(毎月二一日)に支給する旨規定していた。

三  原告らは、昭和三〇年一一月一日から同三三年一二月末日までの間、各勤務校で債権目録土曜日直回数らん記載の各回数、土曜日直勤務をしたから、同目録請求額らん記載の金員について手当請求権を有する。

四  原告らは、代理人横沢宇進美名義により昭和三五年一二月一七日到達した書面をもつて、被告に対し土曜日直手当を支給するよう催告した。

五  よつて原告らは、被告に対し右日直手当金およびこれらに対する催告書到達の翌日である昭和三五年一二月一八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告の主張

一  原告らの請求原因第一、二項は認める。第三項は否認する。ただし学校日誌には、原告らがその主張の各回数、土曜日直勤務をした旨の記載があるが、後記のとおり争う。第四項は認める。

二  原告ら主張の土曜日直勤務および手当請求権の存在を否認する理由は、次のとおりである。

(一)  被告は、赤字再建団体に指定され、昭和二九年四月一日から財政上の理由により土曜日直手当を支給しないこととし、その予算措置をしなかつた。そこで人事院規則が適用されていた宮城県職員については、昭和二六年八月一日宮城県人事委員会規則三―〇による事務局長の権限として、同二九年五月二四日付宮人委第二六二号「宿日直手当の取扱について」との通知を発し、土曜の宿直勤務者がその日の日直勤務をする場合は、土曜の午後から翌日の朝までを一回の密直勤務として取り扱う旨通知するとともに、同一人をもつてこれに当てるよう運用することにした。原告ら小、中学校の教職員については、これよりさき昭和二八年三月二四日付で宮城県教育委員会教育長から仙台市教育委員会教育長および地方出張所長に対し、祝日、休日、日曜以外の日直勤務は、週四四時間の勤務制限時間の範囲内において命令するよう措置されたい旨通知がなされ、右仙台市教育委員会教育長および地方出張所長から、各小、中学校長に対しその旨通知されていた。その後昭和三二年一一月一日からは、宮城県職員と同様、原告らに対しても宿日直手当の支給(昭和二八年二月一三日宮城県人事委員会規則七―一七)が適用されることになり、前記事務局長の通知の趣旨により土曜日直が運用され、同三三年一二月末日まで宮城県職員、学校職員とも土曜日直手当を請求するものなく今日に到つた。

(二)  その後被告の財政状態が好転したので、昭和三三年一二月六日当時の宮城県知事大沼康は、宮城県職員組合、宮城県高等学校教職員組合、原告ら所属の宮城県教職員組合の各委員長らと協議の結果、次のとおり土曜日直手当を支給するとの協定が成立し、覚書を交換した。

昭和三四年一月一日から  三〇円

同   年四月一日から  五〇円

同 三五年四月一日から  七〇円

同 三六年四月一日から  九〇円

同 三七年四月一日から 一二〇円

右協定は、前記事務局長の通知の趣旨により、土曜の日直と宿直勤務は同一人がこれに当たるとの運用を前提としていたので、これを実施するため宮城県人事委員会は、昭和三三年一二月二六日、前記人事委員会規則七―一七第三条に、第二項として「土曜日又はこれに相当する日に退庁時から同一職員が引き続き宿日直勤務を行う場合は、前項但書の規定にかかわらず、五時間未満の勤務一回につき、当分の間三〇円とする。」との規定を追加した。

しかし、原告ら小中学校の教職員は、従来から土曜の日直と宿直は通常別人が勤務しており、かつ、その方が実情に適しているとして、別人が勤務した場合も日直手当を支給するように人事委員会規則を改正するよう各教職員組合から要請があり、その結果昭和三四年五月一九日、右規則第三条第二項は削られ、右規則の附則として「土曜日又はこれに相当する日に日直勤務を行う場合は、第三条但書の規定にかかわらず、当分の間、五時間未満の勤務一回につき五十円とする。」と規定され、同年四月一日から適用されることになつたが、さらに前記協定に従い、右附則の金額は、同三五年四月一日から七〇円、同三六年四月一日から九〇円に改められた。なお後日調査したところによると、学校職員においては、昭和三四年一月一日から同年三月末日までの間、土曜の日直と宿直勤務を別人がした場合、宿直勤務者は、自己の名義で日直手当を請求し、日直手当として支給された部分を日直勤務者に交付していたことが判明した。

以上のように、被告と各教職員組合との交渉、人事委員会規則の改正の経過において、昭和三三年一二月末日までの土曜日直手当が全く問題にならなかつたことは、右当事者間において、右手当が支給されないことを当然の前提としていたからである。

(三)  学校職員の特殊勤務手当並びに日直手当及び宿直手当の支給規程(昭和二八年二月四日宮城県教育委員会規制第五号)第六条により、校長は、特殊勤務手当、日直手当および宿直手当支給整理簿を作成し保管しなければならないことになつていた。また昭和三二年一一月一日以降原告ら小、中学校教職員にも前記人事委員会規則七―一七が適用されるようになつてからは同規則第五条により、任命権者は、宿日直勤務命令簿を作成し保管しなければならないことになつた。従つて学校長は、整理簿(昭和三二年一〇月三一日以前)または命令簿(同年一一月一日以降)を作成し、これらによつて手当の支給を請求することになつていた。しかるに昭和二九年四月一日から同三三年一二月末日までの土曜日直勤務については、右整理簿および命令簿にこれをした旨の記載がなく、被告は、土曜日直手当の支給を請求されたこともない。

以上の次第で、かりに原告らがその主張の各回数、土曜日直勤務をしたとしても、昭和三〇年一一月一日から同三二年一〇月末日までの分については、同二八年三月二四日付宮城県教育委員会教育長の通知の趣旨により、週四四時間の勤務制限時間の範囲内においてなしたものであり、同三二年一一月一日からの分については、日直勤務者、宿直勤務者および学校長の三者間において、小、中学校の宿日直勤務の特別な事情から、右教育長の通知の趣旨によるか、または宮城県職員と同様、土曜の日直と宿直勤務に同一人が当たつたことにするとの了解のもとになしたものである。従つてそれは、土曜日直手当を請求しないという趣旨のもとになしたものであるから、原告らは、本件日直手当を請求できないというべきである。

三  かりに本件日直手当請求権が認められるとしても、地方公務員としての身分による原告らの右請求権の消滅時効は、次に述べる理由により、地方自治法第二三三条(昭和三八年六月八日法律第九九号による改正前)により適用される会計法第三〇条の「他の法律」に該当する労働基準法第一一五条により二年であるから、昭和三三年一〇月末日以前の日直手当請求権は、時効によつて消滅した。

(一)  文理解釈

国家公務員については、国家公務員法第一次改正法律附則第三条が、同法の精神に牴触せず、かつ、同法に基づく法律または人事院規則で定められた事項に矛盾しない範囲内において、労働基準法が準用される旨、また地方公務員については、地方公務員法第五八条が、特別の規定を除き労働基準法が適用される旨規定している。従つて労働基準法第一一五条は、国家、地方公務員の双方に準用または適用がある。会計法第三〇条は、公法上の債権の消滅時効は五年とする旨規定しているが、「他の法律」に規定があるときは、それによることになつているから、右第一一五条が、この「他の法律」に該当することは疑いない。なお日直手当は、労働基準法第一一条の「賃金」に該当するから、日直手当請求権に同法第一一五条が適用されることも明白である。

(二)  公務員給与の本質

公務員が、憲法第二八条の「勤労者」であるか否かについては争いがあるが、当初公務員にいわゆる労働三法の原則的適用を認めたのは、同条の「勤労者」に公務員を含むと考えたからであつて、公務員もこれに該当するというべきである。かりにそうでないとしても、公務員が、本質的に一般勤労者と著しく相違しているとは考えられないから、その給与請求権の消滅時効を、特に一般勤労者のそれよりも長期にすべき合理的な理由はない。すなわち現行法は、旧憲法下の官吏と異なり、国家公務員については国家公務員法第八六条以下、地方公務員については地方公務員法第四六条以下の規定により給与の救済方法を設けているし、民事訴訟による救済の途も閉ざされていない。しかも国または地方公共団体の公務員に対する給与の支払は、私企業等の勤労者に対するそれよりも確実であり、消滅時効の問題を生ずることのないのが通常である。

従つて公務員の給与請求権の消滅時効を私企業、公共企業体、地方公営企業等の勤労者のそれよりも特に長期にすべき理由はない。

四  かりに以上の主張が理由がないとしても、宮城県では、小、中学校の教職員については、昭和二九年四月一日から同三三年一二月三一日までの間、宮城県職員、高等学校教職員ともに土曜日直を被告主張のような趣旨で運用し、その手当を支給されていない。原告らもまた被告に対し右手当の支給を請求しなかつたのであるから、数年間も経過した後突然その請求をすることは、原告らに対する日直手当が県民の租税から支払われること等をあわせ考え、民法第一条にいう信義誠実の原則に反し許されない。

第四被告の主張に対する原告らの反論

一  被告は、昭和二八年一月一日から同年三月末日までの間、同一条例および規則のもとで原告らに対し一回につき一二〇円の土曜日直手当を支給していたものであつて、同年四月一日から被告の一方的な都合により土曜の日直と宿直勤務を同一人をもつて当てることにし、土曜日直手当の予算措置をしなかつたとしても、そのような行政措置は、全く法的根拠を欠く違法なものであり、人事院や人事委員会が設立された立法趣旨からみても許されないものである。被告主張のように、昭和三三年一二月六日に成立した協定により、被告が、同三四年一月一日からわずかながら土曜日直手当を支給するようになつたのは、自らこの違法な行政措置を認め、これを是正せざるを得なかつたからである。

二  宮城県公立小、中学校の教育公務員に適用される法規上、土曜の日直と宿直勤務を同一人がしなければならないとする根拠はなく、しかも女子の宿直勤務は、労働基準法に違反し許されないものである。従つて原告らが、学校長の適法な命令により(かりに明示の命令がなかつたとしても、学校長は、長年の慣行によりその事実を知りながらこれを黙認していたのであるから、黙示の命令があつたというべきである。)土曜の日直と宿直勤務を別人によつてした以上各人が手当請求権を取得することは勿論である。

三  被告は、整理簿および命令簿に記載がないことを理由として、原告らが土曜日直勤務をしたことはない、と主張するが、学校日誌に原告らがその主張の各回数、土曜日直勤務をした旨の記載があることを自認しているから、これにより原告らが土曜日直勤務をした事実は明白である。またかりに整理簿および命令簿に記載がないとしても、それは被告が、全く法的根拠がないにもかかわらず、違法にも土曜日直手当の予算措置をせず、違法な行政指導によりその記載をさせなかつたからにすぎない。

四  本件日直手当請求権の消滅時効は、会計法第三〇条により五年である。

被告は、地方公務員については、地方公務員法第五八条により労働基準法第一一五条が適用されると主張する。しかしこれは、公務員法(以下公務員法とは、国家公務員法、地方公務員法を含めての意味)の精神、地方公務員法第五八条の解釈を誤つたものである。

(一)  公務員関係の本質

公務員は、国民の公務員であり、その任免は国民固有の権利とされ、公務員は、国民全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者でない(憲法第一五条)。従つて公務員の奉仕する対象は、国民全体であるから、公務員の使用者は国民全体である。これは近代的公務員観念の基本原則である。

そこで問題となるのは、使用者たる国民全体と公務員との公務関係である。私企業であれば、使用者の自然的意思が法律的意思になり、労働者との間で雇傭契約が締結され、労働協約、就業規則に従つて労働関係が成立するけれども、国民全体と公務員との場合は、国民全体の意思が、憲法に規定する一定の手続を経て国家意思を形成し、その意思が公務員法から給与法、給与準則、あるいは条例から人事委員会規則に具体化され、それに従つて国民全体と公務員との公務関係が成立している。公務員法に給与、服務、分限、懲戒、保障その他の労働関係について詳細な規定を設けているのも、これら公務員の本質に基づくものであつて、私企業と異なるのである。

(二)  公務員法の精神

被告は、公務員は、憲法第二八条の「勤労者」に該当するから、本質的に一般勤労者と著しく相違していない、従つて給与請求権の消滅時効について異なる議論が生じないと主張するが、これは右の公務関係の本質を理解しないものであるとともに、公務員法の解釈を誤つたものである。

現行公務員法は、マツカーサ書簡、政令第二〇一号に基づき制定されたものであつて、その内容をみると、人事院(人事委員会、公平委員会)の組織権限が強化され(国家公務員法第三条、地方公務員法第八条)、公務員の団結権、団体交渉権、争議権、政治活動の制限禁止が強化されている。従つて公務員は、憲法第二八条の「勤労者」であつても、私企業の勤労者が有する諸権利が制限されている反面、人事院等の組織権限が強化され、公務員給与、労働条件等が保障されているのである。日直手当も前記人事委員会規則七―一七により原告らに支給されているのであつて、右公務員法の精神の例外をなすものでない。かりに被告のように主張すると、公務員は勤労者であるのに私企業の勤労者と異なり憲法第二八条で保障されている権利を制限禁止されている理由を説明することが困難となるのであつて、その理由は、前記公務員関係の本質、公務員法の精神および同法の規定、その解釈により説明するほかない。そうだとすれば、被告の主張はそれ自体矛盾となり、ご都合主義なのである。

(三)  地方公務員法第五八条の解釈

国家公務員法附則第一六条によると、国家公務員の一般職に属する職員には、いわゆる労働三法およびこれらの法律に基づく命令は適用しないと規定しているが、しかし国家公務員法第一次改正法律附則第三条では、一般職に属する職員に関しては、別に法律が制定実施されるまでの間、国家公務員法の精神に牴触せず、かつ、同法に基づく法律または人事院規則で定められた事項に矛盾しない範囲内において、労働基準法およびこれに基づく命令の規定を準用する、と規定している。

地方公務員については、地方公務員法第五八条第一項によると、労働組合法、労働関係調整法およびこれらに基づく命令を適用しないと規定しているが、これは地方公務員法の精神に牴触するか、または人事委員会規則に矛盾する条文を例示的に列挙したものであつて、これ以外にも解釈上、右に関係する条文があれば当然適用してはならないのである。また右第五八条第三項では、仕事の性質上、地方公共団体の利害に直接関係しない公務員については、同条第二項で、労働基準法中の不適用になつている条文を適用しても差支えない旨規定している。現業公務員について、非現業公務員と別個の取扱いをしているのも、この趣旨による。これは地方公務員法の精神に牴触する度合または人事委員会規則に矛盾する度合が少ないからであつて、これと反対の場合は、逆に解釈によつて不適用の条文を拡張しても差支えないのである。すなわち公務員は、憲法第二八条の「勤労者」に該当し、その勤労条件も憲法第二七条の「勤労条件」に該当することは否定できないが、前記公務関係の本質、公務員法の精神よりみて、私企業の勤労者あるいは勤労条件と、公務員のそれとでは、解釈上、本質的差異を認めなければならないのに対し、国家公務員と地方公務員との間には本質的差異はなく(公務員の取り扱う仕事が、国の事務か地方公共団体の事務かの差異にすぎない)、まして母胎を同じくして誕生した国家公務員法、地方公務員法の共通した精神よりみても、右両者の給与請求権の消滅時効は同一に、すなわち会計法第三〇条によりいずれも五年と解すべきであつて、地方公務員のそれのみを不平等に二年と解することは、憲法第一四条に違反するものである。

(四)  労働基準法第一一五条を適用することは、公務員法の精神に牴触する。

公務員と国または地方公共団体との関係は、その本質上立法形式によつている。特に給与については、給与準則(国家公務員法第六三条ないし第六七条)または条例(地方公務員法第二四条ないし第二六条)等別個の立法形式をとり、広範囲にわたり人事院または人事委員会の関与を認めている。その理由は、公務員が、公務員法の精神(国家公務員法第一条、地方公務員法第一条)を貫くため、安心して職務に専念できるように保障したことにある。すなわち公務員は、私企業の勤労者と異なり、国民より選任され、国民全体の事務を処理するため責任の度合が強く、従つてそれに支払われる対価は、立法形式だけでは足りず、さらに人事院、人事委員会の強力な関与を認めて、これを保障したのである。日直手当も、地方公務員法第二五条第二項第三号に規定する給与であるから、右の例外となるものでない。そこで保障とは何かといえば、給与請求権の発生から消滅に至るまで、公務員法およびこれを補う他の公法ならびにこれらに基づく条例、命令、規則によつて裏付けされていることを意味する。それにもかかわらず、地方公務員の給与請求権の消滅時効だけに何らの理由もなく、労働基準法第一一五条を適用することは明らかに右公務員法の精神に牴触するものといわなければならない。

五  原告らの本件日直手当請求を権利の濫用であるとする被告の主張は、被告が、財政上の理由により自ら違法な行政措置をしながらその責任を原告らの負担において免れようとするものであつて、到底是認し得ない。

第五証拠〈省略〉

理由

原告らは、宮城県公立小、中学校の教育公務員として、別紙債権目録勤務校らん記載の小、中学校に勤務し、または勤務していたものであること、被告は、市町村立学校職員給与負担法により原告らの給与(宿日直手当を含む)の支払義務者であること、宮城県では学校職員の給与に関する条例(昭和二六年一二月二〇日宮城県条例第六九号)第一四条、第二〇条、学校職員の特殊勤務手当並びに日直手当及び宿直手当の支給規程(昭和二八年二月四日宮城県教育委員会規則第五号)第四条、第五条(昭和三二年一一月一日からは、宿日直手当の支給〔昭和二八年二月一三日宮城県人事委員会規則七―一七〕第三条、第四条)により市町村立学校職員が正規の勤務時間外に五時間未満の日直勤務をした場合は、一回につき一二〇円の手当を支給する旨、また右手当は、その月の給与期間の分を翌月の給料の支給日(毎月二一日)に支給する旨規定していたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

原告らは、昭和三〇年一一月一日から同三三年一二月末日までの間、各勤務校で債権目録土曜日直回数らん記載の各回数、土曜日直勤務をしたと主張し、学校日誌に、原告らがその主張の各回数、土曜日直勤務をした旨の記載があることは被告の認めるところである。被告は、その主張二(三)において、学校長は、整理簿(昭和三二年一〇月三一日以前)または命令簿(同年一一月一日以降)を作成し、これらによつて手当の支給を請求することになつていたのに、昭和二九年四月一日から同三三年一二月末日までの土曜日直勤務については、右整理簿および命令簿にこれをした旨の記載がなく、土曜日直手当の支給を請求されたこともないと主張するが、原本の存在および成立に争いのない甲第一号証、証人熱海忠雄の証言によると、被告において昭和二九年四月から財政上の理由により土曜日直手当を支給しないこととし、その予算措置をしなかつたので、学校長はこれを被告に請求しなかつたにすぎないことが認められるから、かりに被告主張のような事実があつても、これをもつて原告らが土曜日直勤務をしなかつたとは認め難く、他に的確な反証のない本件においては、右被告の認める学校日誌の記載により、原告らは、その主張の各回数、土曜日直勤務をしたと認めるのが相当である。

次に被告は、その主張二(一)ないし(三)の事実に基づき、原告らの土曜日直勤務のうち、昭和三〇年一一月一日から同三二年一〇月末日までの分については同二八年三月二四日付宮城県教育委員会教育長の通知の趣旨により、週四四時間の勤務制限時間の範囲内においてなしたものであり、同三二年一一月一日からの分については、日直勤務者、宿直勤務者および学校長の三者間において、右教育長の通知の趣旨によるか、または土曜の日直と宿直勤務に同一人が当たつたことにするとの了解のもとになした旨、従つてそれは、土曜日直手当を請求しないという趣旨のもとになしたものであると主張し、成立に争いのない乙第一号証の一、二、証人熱海忠雄、伊藤兵吾、芳賀[景高]、佐藤久雄、大沼直治の各証言および弁論の全趣旨によると宮城県教育委員会教育長において、昭和二八年三月二四日付で仙台市教育委員会教育長および地方出張所長に対し、祝日、休日、日曜以外の日直勤務は、週四四時間の勤務制限時間の範囲内において命令するよう措置されたい旨通知し、右仙台市教育委員会教育長および地方出張所長は、各小、中学校長に対しその旨通知したこと、また宮城県人事委員会事務局長において、前記人事委員会規則七―一七が適用されていた宮城県職員について、昭和二六年八月一日付宮城県人事委員会規則三―〇による事務局長の権限として、同二九年五月二四日付宮人委二六二号「宿日直手当の取扱について」との通知を発し、土曜の宿直勤務者がその日の日直勤務をする場合は、土曜の午後から翌日の朝までを一回の宿直勤務として取り扱う旨通知するとともに、同一人をもつてこれに当てるよう運用していたところ、昭和三二年一一月一日からは、宮城県職員と同様、原告ら小、中学校の教職員に対しても右人事委員会規則七―一七が適用されることになつたこと(右規則適用の点は当事者間に争いがない。)が認められるが、被告主張のように原告らの土曜日直勤務が現実に週四四時間の勤務制限時間の範囲内においてなされたこと、ならびに日直勤務者、宿直勤務者および学校長の三者間において、被告主張のような了解のもとに原告らの土曜日直勤務がなされたことを認めるにたりる証拠はなく、かえつて前掲甲第一号証、各証言(ただし大沼証言を除く。)および弁論の全趣旨によると、原告らの土曜日直勤務は、現実には授業に支障が生ずるため週四四時間の勤務制限時間の範囲内においてなされなかつたこと、女子教職員の多い小、中学校では、女子が日直をし、男子が宿直をするという慣行があり、土曜の日直と宿直勤務に別人が当たることが多かつたことが認められ、右認定の事実および被告の財政状態が悪化していた事情の下においては、かりに被被主張のような人事委員会規則の改正の経過その他前記整理簿および命令簿に土曜日直勤務をした旨の記載がないこと等の事実があつたとしても、そのことからたやすく前記被告主張の事実の存在を推認することはできない。

以上の事実によると、原告らは、前記条例および規則に定められた日直手当請求権があり、被告は、原告らに対し本件日直手当を支払う義務がある。

被告主張の時効の抗弁につき考えるに、原告らは、公立小、中学校の教職員として教育公務員特例法第三条により地方公務員の身分を有するものであるところ、地方公務員法第五八条第一項は、いわゆる労働三法のうち、労働組合法および労働関係調整法の規定は職員に関して適用しない旨規定し、同条第二項は、労働基準法のうち特定の規定のみ職員に関して適用を除外しているが、賃金等の請求権の時効に関する同法第一一五条の規定は、その適用を除外していないから、文理解釈上、同条は、地方公務員法の適用をうける一般職の地方公務員(地方教育公務員を含む)に適用されるものと解すべきであり、同条によると、賃金等の請求権は、二年間これを行なわない場合においては、時効によつて消滅する旨規定しているから、同条は、地方自治法第二三三条(昭和三八年六月八日法律第九九号による改正前)により適用される会計法第三〇条の「他の法律」に該当し、従つて原告らの日直手当請求権は、二年の時効によつて消滅すると解すべきである。原告らは、解釈上、右第一一五条の適用を除外すべき 旨主張するが、およそ明文をもつて除外するものを規定している条文について、さらに解釈によつて除外するものを加えることは、法解釈上例外的な場合であつて、それ相当の理由があつてこそ初めて合理的というべきである。ところで公務員関係の本質、公務員法の精神等を考えても、それが賃金等の請求権の時効として問題になる場合、地方公務員を私企業等の勤労者と差別すべき必然性に乏しい。原告らは、国家公務員の賃金等の請求権については、会計法第三〇条により五年の時効によつて消滅するから、地方公務員の賃金等の消滅時効を二年とすることは、国家公務員と地方公務員を不平等に取り扱うもので憲法第一四条に違反すると主張する。しかし、かりに国家公務員につき賃金等の請求権の消滅時効が会計法第三〇条により五年と解すべきものとしても、国家公務員と地方公務員とにつき、いわゆる労働三法などに対する適用制限の仕方が多少異なつているのは、国と地方公共団体との経済的基礎、職務の性格等の相違によるものであるから、単に賃金等の請求権の時効につき、五年と二年という程度の差が生ずることになつても、これをもつて憲法第一四条に違反するものともいえないので、原告らの右主張は理由がない。従つて原告らの日直手当請求権は、前記文理解釈により二年の時効によつて消滅すると解するほかない。

原告らが、代理人横沢宇進美名義により昭和三五年一二月一七日到達した書面をもつて、被告に対し同三〇年一一月分から土曜日直手当を支給するよう催告したことは当事者間に争いがなく、本訴が同三六年六月一六日当裁判所に提起されたことは記録上明らかであるから、右催告書到達の日から遡つて二年以前に支給日が到来している昭和三三年一〇月末日以前の日直手当請求権は、被告主張のとおりすでに時効によつて消滅したものと認められる。

従つて原告らの本訴請求は、債権目録認容額らん記載の原告らの昭和三三年一一月、一二月分の日直手当請求についてのみ正当として認容すべく(被告は、その主張四において、本件日直手当請求を権利の濫用であると主張するが、前認定のとおり原告らが土曜日直を被告主張のような趣旨で運用したとの事実は認められないのであり、また前掲甲第一号証によると、原告らは、従来よりその所属する宮城県教職員組合を通じて被告に対し、土曜日直手当の支給を要求してきたが、被告の財政上の理由により一部しか支給されなかつたことが認められ、しかも債権目録認容額らん記載の原告らが本訴で認容された分については、約二年半で訴えを提起しているのであるから、右被告の主張は理由がない。)、その額が、同らん記載の金額(土曜日直手当金一回一二〇円に、右原告らが右期間になした土曜日直の各回数を乗じて得た額)であることは計算上明らかであるから、被告は、右原告らに対し、それぞれ同らん記載の金員およびこれらに対する弁済期経過後の昭和三五年一二月一八日(前記催告書到達の翌日)から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払わねばならないが、右原告ら(ただし主文第二項括弧内に記載した原告らを除く。)のその余の請求およびこれ以外の原告らの請求は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を適用し、なお仮執行の宣言は必要がないと認めてこれをしないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井義彦 佐々木泉 安達敬)

(別紙)

債権目録

勤務校

氏名

請求額

(単位円)

土曜日直回数

認容額

(単位円)

昭和三〇年一一月から昭和三三年一〇月まで

昭和三三年一一月、一二月

荒浜小学校

半田よね

一、二〇〇

一〇

清野よし

一、四四〇

一二

熊沢よね

三、一二〇

二五

一二〇

斎藤ゑ以

二、二八〇

一八

一二〇

小野芙美子

一、四四〇

一二

渡辺十馬

一二〇

大友テルヨ

一、五六〇

一三

佐藤イチ

三、三六〇

二七

一二〇

寺村かつ子

六〇〇

一二〇

丹野みつよ

二四〇

太田富美子

一、〇八〇

荒浜中学校

佐藤日出夫

一、四四〇

一二

江戸健一

一、五六〇

一三

渡辺正敏

八四〇

一二〇

遠藤栄吉

一、四四〇

一一

一二〇

斎藤マツエ

一、五六〇

一三

大庄司憲輔

九六〇

星一夫

四八〇

逢隈中学校

長田喜六

三六〇

守屋俊雄

一二〇

一二〇

新田正雄

四八〇

一二〇

星宮せへ

二、二八〇

一八

一二〇

岡崎みつ子

四、二〇〇

三三

二四〇

三品律子

一、二〇〇

一〇

本田秀孝

一二〇

永沼栄治

六〇〇

(以下略)

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