大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 昭和36年(ワ)221号 判決

原告 引地庄作 外一名

被告 国

訴訟代理人 古館清告 外五名

主文

原告らが、被告に対し、別紙第一目録記載の連帯保証契約に基づく保証債務を負担していないことを確認する。

被告は、原告庄作に対し、別紙第二目録記載の不動産につき、仙台法務局丸森出張所昭和三五年一月二五日受付第九七号をもつてなされた低当権設定登記の抹消登記手続をせよ。被告は、原告庄作に対し、別紙第三目録の不動産につき、右同出張所右同日受付第九七号をもつてなされた低当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一、訴外引元一は、仙台市東九番丁一一五番地において、朝日飲料工業所なる名称をもつて、清涼飲料の製造販売業を営んでいたものであるが、多額の物品税を滞納して、その納税に窮していたこと、同訴外人は国税徴収法による徴収猶予の許可を受けるため、同訴外人の実父原告庄作、叔父原告庄平両名の実印を使用して、原告両名において、同訴外人の別紙第一目録五記載の納税義務を連帯保証する旨記載ある原告両名名義の昭和三四年一二月三日付納税保証書及び右納税義務の担保として、原告庄作所有の別紙第二目録記載の不動産、原告庄平所有の別紙第三目録記載の不動産上にそれぞれ低当権を設定する旨の記載ある原告両名名義の同月一五日付担保提供承諾書、低当権設定登記承諾書を作成し、これを仙台国税局長に提出したこと、仙台国税局長は右低当権設定登記承諾書に基づき、別紙第二、第三目録記載の不動産に対し仙台法務局丸森出張所昭和三五年一月二五日受付第九七号をもつて、低当権設定登記申請手続をなしたこと、は当事者間に争いがない。

二、被告指定代理人は、右連帯保証契約並びに低当権設定契約は、訴外引地元一が原告両名の代理人として、その権限内で締結したものであると主張するけれども、成立に争ない甲第九、第一〇号証、証人引地元一(第一、第二回)、宗片孝司(第一、第二回)引地正二、引地よし子(第一回)、佐々木喜秋の各証言、原告庄作(第一回)庄平各本人尋問の結果を綜合すると、訴外引地元一は、多額の物品税を滞納して、その納税に窮し、国税徴収法による徴収猶予を受けるため、朝日飲料工業所を株引会社に組織替するにつき必要だからと詐つて昭和三四年九月頃と同年一一月下旬頃との二回に原告両名から、その実印と印鑑証明書の交付を受け原告両名の実印を冒用して原告両名名義の同年九月八日付納税保証書(乙第四号証の二)を偽造し、これに原告らの印鑑証明書(乙第四号証の三、四)を添えて仙台国税局長に提出し、更に同年一二月三日仙台国税局において原告両名の実印を冒用して原告両名名義の同日付冒頭認定の納税保証書(乙第二号証の一)並びに低当権設定登記承諾書(甲第八号証)を偽造して仙台国税局長に提出したこと原告らは訴外元一に対し、同人の納税を保証すること又はその納税を担保するため原告ら所有不動産に低当権設定することを仙台国税局長と契約するについての代理権を授与した事実がないことを認めるに充分である。乙第七号証(有価証券偽造等被疑事件につき、被疑者引地元一の検察官に対する昭和三六年一一月一〇日付供述調書)の記載内容は証人引地元一の証言(第三回)に照らし措信することができないし証人佐々木喜秋、氏家寿春、石田孝一の各証言、その他の証拠によつても、右認定を左右することができない。

右事実によれば、訴外元一が原告両名を代理して納税保証契約並びに低当権設定契約を締結する権限を有していなかつたことは明らかであるから、被告指定代理人の主張は採用することが出来ない。

三、被告指定代理人の権限踰越による表見代理の主張について案ずるに、訴外元一が原告両名より、朝日飲料工業所を株式会社に組織替するにつき、その一切の代理権を付与されていたことは当事者間に争いのないところである。

しかし、証人引地元一(第一、第二回)、佐々木喜秋の各証言によると、仙台国税局職員は訴外元一が同人の実父原告庄作、叔父庄平の実印と印鑑証明書を持参したことの一事を以て、原告らに問合せる等訴外元一の代理権の有無を確かめることなく、訴外元一と生計を共にせず、田舎で中流規模の農業経営に当つている原告両名が、同訴外人の滞納国税金四八六万二一三六円の納税義務を連帯保証し、且つ生活手段である住居田畑全部に低当権を設定することに付訴外元一に代理権を与えたものと軽信したことを認めるに充分である。

とすると、被告側に訴外元一に、原告を代理してその主張のような保証契約を締結する権限があると信ずるにつき過失があつたものと云わなければならないから、信ずべき正当な事由があつたということは出来ない。のみならず本件国税徴収猶予のための保証契約並びに低当権設定契約は、明治三〇年法律第二一号国税徴収法第七条の二同法施行規則第一一条の三による公法上義務負担行為であるから、私人相互間の取引の安全の保護を本旨とする民法第一一〇条の規定は、本件契約に適用若しくは類推適用ないものと謂わなければならない。

よつて、被告指定代理人の右主張は採用することが出来ない。

四、被告指定代理人は、原告両名は訴外元一の右無権代理行為を追認したと主張するけれども、乙第三号証の一、二、第六号証、証人佐々木喜秋、氏家寿春、堀江正男、浦沢信行、鈴木文雄の各証言その他の証拠によつても、右主張を認めるに足りなない。

却つて、原告庄作(第一、二回)原告庄平本人尋問の結果によれば追認の事実のないことを認めるに充分である。

五、よつて原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 新妻太郎 高橋史朗 渡辺剛男)

第一~三目録〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例