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仙台地方裁判所 昭和32年(ワ)389号 判決

原告 芳賀長人

右訴訟代理人弁護士 中村喜一

中野忠治

被告 日本麦酒株式会社

右代表者 柴田清

右訴訟代理人弁護士 佐藤茂

主文

原告の本件請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

まず、原告の第一次的請求について判断する。

本件土地につき昭和二十九年一月二十三日仙台法務局受付第六〇二号をもつて被告のために同年一月二十二日付売買を原因とする所有権移転登記がなされていること、右土地がそれに隣接する三十六番の土地とともに仙台市特別都市計画の区画整理施行地区に編入され、仮換地として、従前の良覚院丁三十五、三十六番及び大町一丁目百三十四ないし百三十九番の一部、換地事務整理番号第二十一ブロツク第一八号約百八十八坪が指定され、該仮換地につき同年一月二十日原被告間において代金を三百八十万円とする売買契約が締結されたことは、いずれも当事者間に争いがない。原告訴訟代理人は、右仮換地は前記三十六番の土地に対して指定されたものであるから、同仮換地について締結された売買により被告が本件土地の所有権を取得するいわれはなく、従つて、右土地についてなされた移転登記は、その原因を欠き無効である、と主張する。成立に争いのない甲第三号証及び乙第二号証によれば、右仮換地の指定については、昭和二十七年九月十三日付通知書と昭和三十二年七月二十二日付通知書とが存在し、前者においては、右仮換地は前記三十六番の土地のみに対する仮換地として指定されたものであり、後者においては右三十六番の土地と本件土地の二筆に対する仮換地として指定されたものであるように記載されていることを認めるのに十分である。しかして、成立に争いのない乙第六号証並びに証人佐藤芳太郎(第一、二回)、板橋元一の各証言によれば、右三十六番の土地及び本件土地の所属する第二工区における従前地に対する仮換地の減歩率は二割四分七厘であつて、右二筆のうち三十六番の土地の公簿面積が二百四十七坪五勺で、その仮換地面積は百八十六坪二勺にすぎないことからみても首肯し得るごとく、右仮換地百八十八坪は、もともと本件土地をも含むこれら二筆の土地に対する仮換地として指定さるべきことになつていたにもかかわらず、さきの通知書には従前地の表示欄に本件土地を脱落したこと、従つてまた、所有者の異動に伴い、被告に対して交付した後の通知書には、あらためて従前地として本件土地が書き加わえられたことを認めることができる。とはいえ、仮換地の指定のごとき行政処分は、私法上の法律行為と異なり、表示されたところに従つてその効力を生ずるものと解すべきであるから、少くとも前記売買契約締結当時においては、右仮換地は前記三十六番の土地のみに対する仮換地としての効力を有するにすぎないもの、といわなければならない。しかしながら、かかる一事をもつて直ちに、右仮換地について締結された前記売買契約が右仮換地指定処分の合理的解釈によつて認めらるべき同仮換地の従前地たる右三十六番の土地のみの売買であつて、本件土地がその売買目的物の中に含まれていないと断ずることは、許されない。何となれば、仮換地指定処分は、本換地が指定されるまでの間暫定的に従前地について存する使用、収益と同じ使用、収益の権利を仮換地について設定する処分であつて、もとより本換地指定処分のごとく、従前地についての所有権や抵当権等の権原そのものを仮換地に設定する処分ではない故に、事実上仮換地を対象として締結された売買契約も、法律上は従前地の売買と看做さるべく、この場合、従前地の範囲は、特段の事情がない限り、仮換地指定通知書に表示された従前地を基準として確定さるべきであるとはいえ、売買契約は所詮私法上の法律行為であつて、当事者は仮換地指定処分の公法上の効力如何にかかわらず、自由にその目的物の範囲を決定し得るものであるから、事実上仮換地について締結された売買契約が法律上いかなる限度の従前地の売買と看做さるべきかは、窮極的には、この点に関する当事者の意思解釈によつて決定しなければならぬ問題である、からである。ところで、成立に争いのない甲第一号証の二及び乙第四、第五号証、証人佐藤権之助、大益克己、渡辺宜平、太田安太郎の各証言並びに原告本人の第二回尋問の結果によれば、前記仮換地につき売買契約を締結するにあたり、当事者双方とも本件土地が仮換地指定書に脱落していることに気付かず、右仮換地は前記三十六番の土地と本件土地の二筆に対して指定されたものであると信じ、契約書にも右仮換地の従前地としてこれら二筆の土地全部を明記し、登記の申請に要する本件土地の登記済証も交付されていること、を認めるのに十分であつて、右認定に牴触する原告本人の第一回尋問の結果はたやすく措信し難く、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。従つて、右仮換地について締結された売買契約は、当時同仮換地が前記三十六番の土地のみに対して指定されたものであつたとはいえ、本件土地をも含むこれら二筆の土地(その一部であるか全部であるかの問題については、後段の認定に譲ることとする)の売買である、といわなければならない。よつて、本件土地が右売買の目的物に含まれていないことを前提とする原告の第一次的請求は、その理由がないものとして、これを棄却することとする。

次に、原告の第二次的請求について判断する。

原告の第二次的請求は、要するに、前記二筆の土地全部に対して指定さるべき仮換地の総権利坪数は二百坪であり、原告が指定を受けて被告に売り渡したのは、その内約百八十八坪の右仮換地にすぎず、残りの権利坪十二坪に相応する右二筆の従前地の一部は、依然として原告の所有に属するものであることを理由として、右二筆の土地につき原告が共有持分を有することの確認と、被告に対し同持分についての移転登記手続を求める、というのである。しかしながら、そもそも権利坪なるものは、証人佐藤芳太郎(第一、二回)、板橋元一の各証言によれば、区画整理設計書で定められた平均減歩率を従前地の坪数に乗じて得た仮換地の坪数であつて、仮換地の面積を割り出すについての一応の基準であることは、認めることができるが、個々の仮換地は従前地の地目、地積、等位などを標準とし、諸般の事情を勘案して決定されるものであり、殊に宅地地積の規模を適正ならしめる必要がある場合には、過少宅地の限度において、権利坪数より面積を増しまたは減じて仮換地を交付せず、その過不足は本換地指定の際、区画整理施行後の宅地価格の総額と施行前の宅地価格の総額とを比較し、金銭で清算することができるものであることに徴すれば、権利坪なるものによつて、土地所有者は当該坪数に相当する仮換地の指定を受けることを必ずしも保障されているとはいい得ない。のみならず、元来区画整理地区に編入された土地に対して仮換地ないし清算、補償金の交付を受け得る権利は、従前地の所有権に内包された所有権の一権能であつて、常に土地所有権に随伴するものであるから、土地の売買にあたりかかる権利のみを除外することは許されないもの、と解するのを相当とする。従つて、仮りに前記売買契約締結の際、原告がいわゆる十二坪の権利坪を被告に譲渡する意思を有していなかつたとしても、右売買契約はこの点の要素の錯誤に関する主張の有無にかかわらず、目的物たる従前地そのものの範囲を限定する特約のない本件においては、従前地の全部につき有効に成立したものであつて、右十二坪の権利坪も、同売買によつて従前地全部の所有権を取得した原告に当然帰属するにいたつた、というべきである。然らば、右十二坪の権利坪が依然原告の所有であることを前提とする原告の第二次的請求もまた、その他の争点についての判断をまつまでもなく、理由なきものとしてこれを棄却することとする。

よつて、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条、第九五条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡部吉隆)

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