大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 平成9年(わ)115号 判決 1997年7月17日

主文

被告人Aを懲役一年に、被告人Bを懲役八月に、被告人Cを懲役一〇月に処する。

被告人三名に対し、この裁判確定の日から三年間それぞれその刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人三名は、他人の名義を用いて福島県に貸金業者の登録をして株式会社甲野情報センターから貸金業者の顧客に関する信用情報を引き出し、これを売却して利益を得ようと企て、共謀の上、平成七年一月二三日、福島市中町五番一八号福島県林業会館一階社団法人福島県貸金業者協会事務所において、同協会受付担当係員D子に対し、被告人Cにおいて、Eになりすまし、貸金業を営もうとする意思がないのに、「4.氏名」欄に「E」、「5.住所」欄に、「福島県郡山市《番地略》乙山203号」、「11.業務の方法 2.貸付けの利率年 %」欄に「40.004」などと記入し、「10.業務の種類 1.金銭の貸付け」欄のうち「(2)証書貸付」を「11.業務の方法1.貸付けの相手方」欄のうち「イ.消費者金融」をそれぞれ丸で囲むなど、重要な事項について虚偽の記載をした福島県知事宛の登録申請書を提出して貸金業者の登録申請をなし、同協会を介して右登録申請書を同県に回付せしめ、同年三月二七日、同県商工労働部中小企業課長Fをして、右記載内容が真実であり、登録申請者が右Eで貸金業を営もうとする者であると誤信させて、同人の名を貸金業者登録簿に登録記載させ、もって不正の手段によって、被告人Cにおいて、貸金業者の登録を受けたものである。

(証拠の標目)《略》

(争点に対する判断)

一  弁護人の主張

1  貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業規制法」という。)四七条一号は、属人的な理由で登録を受け得ない者が、不正の手段を用いて貸金業者の登録簿に記載されることにより登録を受けた場合にこれを処罰する規定であるところ、被告人らはEの了解を得て、E名義の貸金業者の登録申請を代行し、Eが登録を受けたものであり、仮にEの了解を得ていなかったとしてもEが登録を受けていないにすぎず、いずれにしても被告人らは、本件において貸金業者の登録を受けていないのであるから、貸金業規制法四七条一号にいう「登録を受けた者」に該当しない。

2  本件において貸金業を営む意思がないのにあるように装ったこと、Eになりすましたこと、住所欄に虚偽の記載をしたこと、氏名欄に虚偽の記載をしたこと、業務の方法等を記載する欄に虚偽の記載をしたことをもって、不正の手段を用いたものとは言えない。

3  被告人A、同Bには、被告人CがEになりすましたことについての共謀はなかった。

二  貸金業規制法四七条一号にいう「登録を受けた者」の意義

貸金業規制法は、貸金業を営む者について登録制度を実施し、その事業に対し必要な規制を行うなどし、資金需要者等の利益の保護を図るとともに、国民経済の適切な運営に資することを目的としたものであり、貸金業規制法四七条一号は、この登録制度の適正を維持するためのものであるが、これを実現するためには右条項について実質的な法解釈をする必要があり、同号にいう「登録を受けた者」とは、行政庁に備える公簿に記載された形式的名義人とは異なり、実質上登録を受けた者をいうものと解するのが相当である。

三  本件登録を受けた者

1  そこで、被告人らが実質上登録を受けた者に当たるかを検討するに、前掲各証拠によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 貸金業者の登録の手続等について

貸金業を営もうとする者は、貸金業規制法三条一項の規定により、二つ以上の都道府県の区域内に営業所等を設置して事業を営もうとする場合にあっては大蔵大臣の、一つの都道府県の区域内にのみ営業所等を設置して事業を営もうとする場合にあっては、当該営業所等の所在地を管轄する都道府県知事の登録を受けなければならない。

福島県において新規に登録申請しようとする者の登録申請書等は、貸金業規制法施行規則、通達により、社団法人福島県貸金業協会(以下「福島県貸金業協会」という。)の受付を受け、右協会を経由して福島県商工労働部中小企業課信用組合係に提出され、福島県商工労働部中小企業課長が登録の決裁をすることになっている。

提出する登録申請書と添付書類の内容をみると、まず、登録申請書の様式は、頭書に、県知事宛の登録申請書であり、申請書及び添付書類の記載事項は、事実に相違ない旨の記載がある。そして、次のNO1と付記された用紙には、新規か更新かの「1.登録の区分」、法人か個人かの「2.法人・個人の別」、「3.商号又は名称」、「4.氏名」、「5.住所」「6.法定代理人」、「7.役員」の記載欄が、NO2には、「8.令第3条に規定する使用人」の記載欄が、NO3には「9.営業所等の名称及び所在地」の記載欄が、NO4には「10.業務の種類」の記載欄が、NO5には「11.業務の方法」の記載欄が、NO6には「12.他に行っている事業の種類」の記載欄がある。最後に登録免許税領収書等の貼付欄がある。添付書類としては、登録申請者等が貸金業規制法六条一項各号に該当しない旨の誓約書、登録申請者等の履歴書、登録申請者等が禁治産者等でない旨の市町村長の証明書、登録申請者等の住民票の抄本又はこれに代わる書面が必要である。

同協会に登録申請書等が提出されると、同協会で申請書等の形式的記入要領を指導するなどした上、福島県商工労働部中小企業課信用組合係に送付する。中小企業課で登録の拒否事由がないと認めた場合は、中小企業課長の決裁を受ける。右の決裁があると、登録申請書のNO1の登録番号欄に登録年月日と登録番号を付して、NO1からNO6の部分により貸金業者登録簿を作成し、県知事の登録となる。そして、登録済通知書を貸金業協会を通じて登録申請者に交付する。

次に、福島県貸金業協会は、貸金業規制法二五条により社団法人として設立されており、その会員になるためには、貸金業規制法三条一項の登録を受け、福島県内に営業所等がある貸金業者であることを要し、加入に際しては、加入申込書の他、誓約書、登録済通知書の写し、登録申請者本人の上半身の写真が貼付された履歴書などの添付書類を提出する必要がある。

そして、貸金業規制法二五条、三〇条により貸金業協会は信用情報機関を設置あるいは指定することが求められているが、福島県貸金業協会は、仙台市所在の株式会社甲野情報センター(以下「甲野情報センター」という。)を信用情報機関として指定している。甲野情報センターの個人信用情報を利用するためには同センターに入会する必要があるが、入会するためには貸金業者の登録を受け、福島県貸金業協会の会員になっていることが義務付けられており、入会に際しては、同社に対し、入会申込書、誓約書、情報使途に関する念書、写真付きの代表者の履歴書、端末機申込書、端末機設置場所届、代表者の住民票の写しと印鑑登録証明書、貸金業者の登録済通知書の写し、貸金業協会会員証明書の写し、現在使用している金銭消費貸借契約書、営業案内書等を提出する必要がある。そして、書類審査の上、甲野情報センターにおいて、加入申込者の営業所に赴き、申込者本人と面接して加入調査をし、問題がなければ申込者との間で信用情報取扱いに関する契約を締結した上、コンピューター端末機の取扱いについての研修をするとともに端末機の設置をすることになっている。

(二) 本件登録に至る経過

被告人Aは、株式会社丙川の代表取締役として、被告人B及び同Cは、丙川の社員として各地に貸金業者の登録をして貸金業協会の会員となり、更に各地の情報センターと加入契約を結んで貸金業に関する個人情報を入手し、これを他に売却して利益を得ていた。その一環として被告人Bが知人のGの名義を借りて丁原ファイナンスの名称を用いて郡山市で貸金業者の登録を受けていたところ、G名義での更新ができなくなったため、平成六年一〇月ころ、被告人Aは、被告人B及び同Cに貸金業者の登録をするについて名義を貸与してくれる別の者を捜すよう指示した。

被告人Cは、知人のEに対し、個人情報の入手という本来の目的は秘し、貸金業の準備のために名前を貸して欲しい、迷惑は掛けないからなどと言って、同年一一月ころ、その承諾を得、同人から千葉県流山市役所発行の身分証明書を受け取った。

被告人Cは、Eの住民票の住所地が千葉県流山市のままでは、郡山市での登録申請が難しいことから、被告人Aに相談したところ、被告人Aは、G名義で丁原ファイナンスを登録するときに事務所として使っていた郡山市《番地略》乙山二〇三号に住所を移すように指示し、その住所を書いたメモを渡したので、被告人Cは、家族の事情から気乗りしないEに対して、すぐ戻せば大丈夫などと説得し、そのメモをEに渡したところ、Eは、同年一二月一四日ころ、右メモ記載の場所に住民票上の住所を移転し、住民票の写しの交付を受け、実印とともに被告人Cに渡した。

平成七年一月初旬ころ、被告人Bは、被告人Aから、新たに名前を貸してくれる人物が見つかったから郡山市内に事務所を借りるように指示され、郡山市《番地略》戊田ビル三階東側の部屋を見付け、被告人Aの了解を得て、同月一八日ころ入居予定者をEとし、丙川名義で賃借りした。

(三) 本件登録

被告人Cは、Eに相談することなく、商号をEカンパニーのイニシャルをとって甲田と決め、商号、代表者のゴム印を作り、申請書には、Eの承諾を得ることなく、判示のとおり被告人Cが記載し、署名した上、Eから借りた実印を用いて押印し、添付書類である履歴書の経歴も、Eから聞いていたものを元に被告人Cが適当に記載するなどした上、平成七年一月二三日被告人C自身が右申請書を右履歴書、Eから受け取っていた住民票の写し、身分証明書等とともに福島県貸金業者協会の窓口に持参し、登録の申請をした。同協会の受付係員D子は、その際、本人申請であるかを確認し、本人申請として受け付けた。その後、判示のとおり、貸金業者登録簿に登録記載された。

(四) 本件登録後の行為

平成七年一月二四日ころ、被告人Cの依頼を受けたEは、郡山市役所から印鑑登録証明書、住民票の写しの交付を受けて被告人Cに渡した後、千葉県流山市に住民票上の住所を戻した。

同年三月二七日、被告人Cは、貸金業者の登録の通知を受け取るとともに、Eの承諾を得ることなく、自己の上半身の写真を貼付した履歴書等を添付の上、E名義で福島県貸金業協会に加入申請し、同年四月三日付けで会員として承認された。

更に、被告人Cは、Eの承諾を得ることなく、自己の上半身の写真を貼付し、Eが勤務したことのない会社名を勝手に記入したE名義の履歴書等必要書類をEから借りた実印を用いて作成した上、これらの書類やEから受け取っていた住民票の写し等とともに入会申込書を送付して、同月一二日甲野情報センターに入会申込みをした。その後、同年六月ころには、被告人Aからの指示で、被告人Cは、同Bと共に、丁原ファイナンスで使用していた机や事務用品等を事務所に運ぶなどして準備したほか、ドア等に表札を掲げたり、部屋に登録票や貸付条件表等を張るなどして加入調査に備え、右調査の際は、被告人Cが、E名義の名刺を渡し、業務内容等について虚偽の事実を述べた。被告人Cは、同年七月一七日、Eの名前で、丙川の従業員H子とコンピューター端末機の操作研修会にも参加したが、その際、同女の名前についてもI子という偽名を使った。そして、同月二六日に端末機を設置させて取得し、右端末機を東京の丙川の事務所に運んだ。

平成八年五月頃、甲野情報センターから甲田に営業実態の調査をする旨の連絡があったが、調査をされれば、実体のない貸金業者であることが発覚してしまうので、被告人Aは、被告人C、同Bと相談し、廃業することとし、被告人CがEから印鑑登録証明書と実印を受け取り、被告人Bが廃業届に勝手にEの名前を記載して、名下にEの実印を押捺した上、印鑑登録証明書とともにこれを福島県に提出し、更に戊田ビルの事務所の賃貸借契約を解約するなどした。

2  以上のとおり、福島県が備える貸金業者登録簿は、登録申請書の二枚目以下をそのまま使用する形式になっているところ、本件登録簿に記載されたEは、本件登録申請(本件申請の形式)に際し、身分証明書、住民票の写し、印鑑登録証明書、実印を用意しただけで、貸金業者の登録申請から登録済通知書の受領までの一連の手続に一切関わらず、被告人Cが、Eの意思を斟酌することなく、右一連の行為を行なったこと、登録後なされた福島県貸金業協会への加入や甲野情報センターとの契約の際も、被告人Cが自分の写真を貼付するなどして同人が加入、契約するがごとく装ったことなどの事情が認められ、これらを総合すると、被告人Cが、Eの登録申請を代行したものではなく、被告人Cが自己のために登録申請したものであり、被告人Cが実質上登録を受けた者と認めるのが相当である。

なお、被告人Cは、Eに対し、貸金業者の登録のため名前を貸してくれるように依頼したところ、Eはこれを了解した旨供述するとともに、被告人Aも同様の供述をし、更に、被告人Cは、その名義の借料として月五万円ずつEに渡していた旨供述するが、仮にEがE名義で貸金業者の登録を受けることを了解していたとしても、前記の事実関係からすれば、被告人Cが実質上登録を受けた者というべきである。

四  不正の手段

右のとおり、登録申請したのは被告人Cであるから、申請書に同人の氏名、住所を記載すべきであった。しかるに、被告人Cは、Eの氏名、住所を記載したのであるから、右の記載は虚偽である。また、被告人Cは、貸金業を営もうとする意思がないのに、判示のとおり、その意思があることを前提とする義務に関する記載をしたのであるから、この記載も虚偽である。しかも、「氏名」は、誰が登録を受けようとする者であるかを明らかにするものであることや、貸金業規制法六条一項の登録拒否事由の有無の判断も「氏名」として記載された者についてなされることに照らし、「住所」も、これが正しくなければ、登録権者による十分な監督は期待できないことや、貸金業規制法三八条に、登録を受けた貸金業者の所在を確知できないときは、公告等の手続きを経て、当該貸金業者の登録を取り消すことができる旨定められていることに照らし、また、「業務の種類及び方法」も、登録は、貸金業を営もうとする者が受けるものであるところ、「業務の方法及び種類」は、貸金業を営もうとする意思があることを前提とするもので、登録の基本に関わる事柄であることや、貸金業規制法一〇条二項が、貸金業を廃止したとき(貸金業を営む意思がなくなったとき)は、登録はその効力を失う旨定めていることなどに照らし、これらは、いずれも貸金業規制法六条一項にいう重要な事項であるというべきである。そうだとすると、本件においては、登録権者(その内部機関)は、登録を拒否しなければならなかったのであるから、前述のように記載されたため、登録権者は、これを真実と誤信して登録するに至ったのである。したがって、前述のように記載したことは、不正の手段に当たり、かつ、これと本件登録との因果関係も認められる。

五  共謀について

被告人らは、本件登録時まで貸金業者として複数回登録をし、貸金業協会に入会し、情報センターに加入して、加入調査も受けており、登録手続を熟知していた(前掲被告人らの各供述調書)こと、前述のとおり、G名義での登録更新ができなくなったため、被告人Aの指示で被告人B、同Cが名義を貸与してくれる者を探すことになり、Eの名前を借りることになったことに加え、被告人Aについては、同人が被告人Cに対し本件登録手続等の一切を委ねた(被告人Aの検察官に対する各供述調書)こと、被告人Bについては、同人がG名義の登録手続に当たって本件と同様にGになりすました(被告人Bの検察官に対する各供述調書)ことなどに照らすと、被告人A及び同Bは、被告人Cが本件登録手続をする際、Eになりすますこともあり得るとの共通の認識を有し、これを認容するに至ったものと認めるのが相当であり、共謀があったものと認定できる。

(法令の適用)

被告人三名の判示所為はそれぞれ貸金業の規制等に関する法律四七条一号、三条一項、平成七年法律第九一号による改正前の刑法六〇条に該当するので、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人Aを懲役一年に、被告人Bを懲役八月に、被告人Cを懲役一〇月に処し、被告人三名に対し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から三年間それぞれその刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人ら三名が、共謀の上、他人名義を利用し、貸金業を営む意思がないのに、右の点に関する重要な事項について虚偽の記載をするなど不正の手段によって、貸金業者の登録を受けたという事案である。

被告人らは、過剰貸付の防止のために貸金業者に提供される個人の信用情報を不正に入手し、利益を得ようと企て、一ケ所から大量に情報を引き出すことは不自然であることなどから、他人の名義を使用して全国に多数の貸金業者の登録を得て、情報の販売を継続してきたものであるところ、本件も、東北に設けていた別の名義の登録の更新が困難になったことから、新たな登録が必要になって行なったもので、その動機は、自分の利益追求のため登録制度を悪用したもので自己中心的であり、犯行態様も巧妙かつ悪質である。

また、本件登録に関し、漏洩された個人情報は約一万件に及んでおり、プライバシーを著しく侵害し、情報センターの情報管理への信頼を害し、社会的にも大きな影響を与えた。

被告人Aは、本件のような方法で情報の売買をするために貸金業者の登録をすることを発案したもので、指導的立場にある上、昭和六〇年一一月二一日詐欺未遂罪等で懲役一年六月、執行猶予四年の判決の言渡しを受けるなど前科二犯を有し、被告人Cは、本件の名義人を捜し、申請行為の一切を行い、登録を受けたもので、その役割は重要である。

しかしながら、被告人らは事実関係について素直に供述していること、被告人Aには、復縁するつもりの元妻と加療を要する子供がおり、同女が監督を誓っていること、被告人B、同Cは被告人Aの経営する丙川の従業員で、従属的な立場にあり、前科もないこと、被告人Bには健康状態不安な妻と幼児がいること、被告人Cには健康状態が悪い老母がいることなど被告人らのために酌むべき事情も存在する。

そこで、被告人らに対し主文の刑を科し、それぞれその刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野貞夫 裁判官 卯木 誠 裁判官 福冨直子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例