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仙台地方裁判所 平成3年(ワ)457号 判決 1993年12月24日

宮城県加美郡<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

吉岡和弘

新里宏二

東京都中央区<以下省略>

被告

宝フューチャーズ株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

紺野稔

秋田徹

主文

一  被告は、原告に対し、一〇六二万五〇〇〇円及びこれに対する平成三年七月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一原告の請求

被告は、原告に対し、一三五一万五〇〇〇円及びこれに対する平成三年七月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二当事者の主張

【請求原因】

一  当事者

原告は肩書住所地で農業を営む者であり、被告は商品先物取引の受託等を業とする会社(旧商号は「マルホ宝商品株式会社」)である。

二  原告から被告に対する先物取引の委託

原告は、昭和五六年一月一二日ころ、被告との間で、被告に対し東京穀物商品取引所における米国産大豆について商品先物取引を委託する旨の商品先物取引委託契約を締結し、以後、原告は、昭和五六年一月一二日から昭和五八年六月までの間、右先物取引を継続した。

三  先物取引による差益金の発生の清算金の一部未払い

1 原告は、昭和五六年一月一二日から昭和五八年六月までの間、先物取引の委託証拠金として合計して三五九六万円を預託し、これによって取引を行った結果、合計して益金七三八四万三七五〇円、損金七〇一八万二七五〇円が生じ、差益金三六六万一〇〇〇円が生じた。したがって、原告は、被告から売買証拠金及び差益金(以下「清算金」ともいう。)として合計金三九六二万一〇〇〇円の支払を受けることができる。

2 しかしながら、被告は、右清算金のうち二八九九万六〇〇〇円を支払ったのみで、残金一〇六二万五〇〇〇円を支払わない。

四  Bの不法行為と被告の使用者責任

1 Bは、原告に対し、同年七月一三日、商品取引所法九四条二号で禁止されている利益保証取引をすることを勧誘し、原告に利益を保証するとの保証確認書を差し入れ、原告にこれを承諾させ、原告から委託証拠金として四四四万円の預託を受けた。

2 しかしながら、Bは、右証拠金によって取引をした結果、損金が発生し、右保証確認書の保証期限である昭和五九年七月一〇日の時点で、清算金として原告に対し五〇〇万円以上を支払うとの約定を履行することができず、その後原告に対し次のとおり一部返済したにすぎない。

昭和五九年七月一〇日 一五万円

同年一〇月一五日 一五万円

昭和六〇年一月二八日 一五万円

同年六月二六日 五〇万円

昭和六一年五月六日 六〇万円

3 Bは、被告の登録外務員で被告の被用者(被告の仙台支店長)であったところ、原告に対し、被告の業務の執行につき、原告に対し違法に損害を与えたものであり、被告は、Bの使用者として民法七一五条の使用者責任がある。なお、被告の「業務の執行につき」といえるか否かは、外形的・客観的にみてそのように見えれば足りると解すべきである。

五  よって、原告は、被告に対し、先物取引委託契約の終了に基づく清算金一〇六二万五〇〇〇円、使用者責任に基づき原告の受けた損害二八九万円の合計金一三五一万五〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成三年七月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

【請求原因に対する認否】

一  請求原因一の事実(当事者)は認める。

二  請求原因二の事実(原告から被告に対する先物取引の委託)は認める。

三  請求原因三の事実(先物取引による差益金の発生と清算金の一部未払い)について

1 同三1の事実は認める。

2 同三2の事実は、被告が清算金のうち二八九九万六〇〇〇円を支払ったことは認めるが、残金一〇六二万五〇〇〇円を支払っていないとの点は否認(抗弁一主張のとおり被告は清算金を全額支払済みである。)。

四  請求原因四(Bの不法行為と被告の使用者責任)

1 同四1の事実は不知。

2 同四2の事実は不知。

3 同四3の事実のうち、Bが当時被告の登録外務員で被告の被用者であったことは認めるが、その余の事実は否認。

原告の主張する原告・B間の利益保証取引契約は、被告が顧客に対し利益を保証することは法律的にみて不能であることに鑑みれば、外形的・客観的にみても、被告の業務の執行につきされた行為ということはできない。

【抗弁】

一  清算金請求に対する抗弁

被告は、原告に対し、Bを介して、原告が請求する清算金一〇六二万五〇〇〇円を含む清算金として合計三九六二万一〇〇〇円の支払を完了している。

二  不法行為に基づく損害賠償請求に対する抗弁

1 原告の悪意又は重過失

Bが原告との間でした利益保証取引契約が、外形的・客観的にみて、被告の業務につきされたということができるとしても、原告は、Bがした利益保証の約定のもとにした行為が被告の業務につきされたものでないことを知っていたか、又は知らなかったことについてその行為の内容・性質からみて重過失があった。

2(一) 原告の主張する不法行為に基づく損害賠償債権は、昭和六一年一〇月二五日から三年を経過した平成元年一〇月二五日に消滅時効により消滅した。

(二) 被告は、平成三年八月二八日午後一時一〇分の第一回口頭弁論期日において、同月二一日付けの答弁書を陳述することによって、右時効を援用する旨の意思表示をした。

【抗弁に対する認否】

一  抗弁一の事実(清算金請求に対する抗弁)は否認。

二  抗弁二(不法行為に基づく損害賠償請求権に対する抗弁)について

1 同二1の事実(原告の悪意又は重過失)は否認。

2(一) 同二2(一)の消滅時効の援用は、本件の事実関係に照らすと、著しく正義に反するものであり、信義則上許されない。

(二) 同三2(二)の事実(時効援用の意思表示)は認める。

理由

第一清算金の請求

一  被告の清算金支払義務の発生について

請求原因一の事実(当事者)、同二の事実(原告から被告に対する先物取引の委託)は、当事者間に争いがない。

原告が被告に対し委託してした右の先物取引の結果右期間において被告が原告に対し支払うべき清算金(委託証拠金の返還分及び差益金の合計)は三九六二万一〇〇〇円となったこと、被告が右清算金のうち二八九九万六〇〇〇円を既に支払っていることは、いずれも当事者間に争いがない。

二  被告の清算金残金の支払の有無について

1  被告が原告に対し清算金の残金一〇六二万五〇〇〇円を支払ったか否かについては、Bが問題となっている一一〇〇万円を自ら持参して支払っていると供述していること《甲一六》に照らして考えると、被告がBに対し原告に返済すべき清算金として交付したことは明らかであり、争点は、Bが原告に対し現実に右一一〇〇万円全額を交付したか否かである。

甲一二ないし二一、乙一5、証人Bの供述(一部)、並びに弁論の全趣旨によれば、次のとおり認定判断することができる。

(一) 原告が被告宛に作成交付した昭和五六年八月三一日付けの領収証《乙一5》は、被告の通常使用する領収証用紙によって作成されており(乙一の1ないし4、6ないし16の他の領収証参照)、発行者である原告の署名押印も真正であることは原告の自認するところであって、かつ、金額欄にはチェッカーで一一〇〇万円と刻印され、それ自体不自然な点はないことが認められる。したがって、問題は、右領収証の金額欄が原告の主張するように改竄されたのか、Bが原告方に右領収証記載の一一〇〇万円を現実に持参して原告にこれを交付したのか、これに関する原告の供述《甲一四、一五》とBの供述《証言、甲一六ないし一八》のいずれを信用することができるかである。

(二) 別件訴訟(当庁平成元年(ワ)第五一三号・第七五〇号事件、Bが本件原告に対し提起した損害賠償請求訴訟及びその反訴請求訴訟)の本人尋問において、原告は、「原告は、一一〇〇万円全額は受領しておらず、そのうちわずかに三七万五〇〇〇円を受領していたにすぎない。一一〇〇万円の領収証の作成日付である昭和五六年八月三一日とは別な日に、原告は、Bの部下であるCに対し、その指示により金額欄に三七万五〇〇〇円と鉛筆書きした領収証を作成交付したことがあり、右領収証の金額欄に一一〇〇万円と書き入れられて改竄されたのが右の領収証である。」と供述していることが認められる《甲一四、一五》。原告の右供述の内容は、そのとおりであるとすると、やや軽々に信用したとはいえるものの、格別供述自体に不自然な点はない。

(三)(1) 被告の法律顧問である紺野弁護士は、他の三名の弁護士との連名で、昭和六一年三月四日付けの内容証明郵便をもって、B外一名に対し、次のような文言(一部原文、一部要旨)の申入れをした《甲一二》。

「被告は、原告と先物取引をしていたが、会社に保管されている関係書類によれば、委託者である原告に対し支払うべき清算金は全額支払済みで取引は既に完了したものとして処理されているのに、この度、原告から受領すべき清算金の大半を受領していないので、その支払を求める旨の申入れがあった。被告が原告に対し関係書類を示して清算金を全額支払った旨の説明をしたところ、原告は、領収証の署名押印は認めたが、その金額は当時鉛筆で書き入れたものであり、チェッカーで刻印された金額よりもはるかに低額であったと主張している。そこで、担当者である貴殿ら(B外一名)に説明を求めたいので、同月一〇日午後一時に弁護士事務所に来所されたい。万一、右期日に来所もせず、また、何らの連絡もしないときは、現在までの当方の調査の結果によると、貴殿らには刑事上の責任があると思料されるので、刑事上の告訴手続をとることにする。」

(2) 紺野弁護士は、別件訴訟の証人尋問において、右の内容証明郵便を起案するにあたって、被告のD室長の調査の結果に依拠したものであり、D室長は、二回にわたって仙台に赴いて原告及び税務署に直接当たって事情聴取するなどして調査したものであり(なお、Bはその後に被告を退職しており、事情聴取には協力しなかった。)、D室長は、右のような調査の結果、Bが原告に支払うべき清算金を着服したと判断し、紺野弁護士も、同様に判断した、と供述していることが認められる《甲一九》。右によれば、その後の調査の結果によって結論が変更されたとしても、D室長の調査は一応十分なもので、その判断は尊重に値するということができる。そして、紺野弁護士は、D室長のそのような調査の結果に基づいて、法律の専門家として、自らもBが着服したと一応の判断をして、Bの責任を追及する旨の内容証明郵便を起案郵送しているのであり、右の時点では、Bの着服の事実はこれを認定し得る客観的な証拠資料が揃っていたとみることができ、しかも、その後右のような状況を覆すような大きな事情の変更があったことについては、後出の甲二〇を別とすれば、特にこれを窺わせる証拠はない。

(四) Bは、原告に対し、右の内容証明郵便を受け取った直後である昭和六一年三月六日、紺野弁護士に対し抗議・弁解をするという方法をとらず、夜原告方を訪ねて、刑事事件になるので何とか助けてほしいと哀訴嘆願し、事情の全容をつかんでいない原告から宥恕を受けることに成功し、翌七日、念書《甲一三》を差し入れ、右念書において、Bは、原告に対し次のとおりの文言(ほぼ原文のまま)で和解金を支払う旨の約束をしたこと、原告は、現実には、右念書に基づく金員の支払は全く受けていないことが認められる。

「今般、X殿様と種々話し合いをいたしまして、互いに和解の運びになりました。つきまして、和解金といたしまして、毎月二六日に一〇万円を振り込み、また、ボーナス月に年二回七月と一二月に各三〇万円をずっとお支払して行きます。このことは、X殿がもう良いというまで続けて行きます。」

Bの差し入れた右の念書は、Bが毎年一八〇万円もの和解金を原告が「もう良いというまで」際限なく支払うというものであり、Bが極端に自分の立場を卑下した内容であり、Bが原告に対し、右念書に先行して、原告に対し多額の財産上の不法行為をしたことを窺わせる内容である。

(五) 原告は、Bの右の懇願に応じることとし、被告に対し、右同日、次のとおりの文言(ほぼ原文のまま)の念書《甲二〇》を作成交付したことが認められる。

「マルホ宝商品との間で商品先物取引をしたが、売買は当然のこと、また金銭の受け渡しにおいて、すべて私は受領しております。先日マルホ商品の管理者D次長に対し申し上げたことは、私の錯誤であり、貴社マルホ宝商品並びに前支店長B殿らにご迷惑をおかけいたしたことに対しお詫びいたします。」

原告が被告に差し入れた右の念書は、原告が錯誤によって、被告のD室長に対し事実に反したことを述べたというものであり、原告がなぜ錯誤になったかについてBは合理的な理由の存在を説明していないこと、仮に原告が真実錯誤によって事実に反することをD室長に述べたとすると、Bが原告を強く非難してもおかしくないのに、Bは原告に対し前述のように多額の和解金を支払う旨の念書《甲一三》を相前後して差し入れていることを考えると、右の念書《甲二〇》は、前記念書《甲一三》とともに、むしろ原告の供述の信用性を裏付けるものということができる。

(六) 被告は、前述のように、いったんBに着服の事実があるものとしてその責任追及を始めたのであるから、被告が本訴において主張するようにBに着服の事実はないとの結論に変更になったというであれば、被告とBとの間で終戦のための何らかの合意がされてしかるべきであるのに、それがされないまま推移して今日に至っていることが認められる。

(七) Bは、尋問における供述の仕方・態度、被告における地位・経歴などから考えると、交渉事に長けていることが十分に窺われ、甲一三の念書が原告の強要などによりBの意思に反して作成されたかのように供述する部分は到底信用することができない。

2  以上の認定判断によれば、Bは、被告から原告に対し返済すべきものとして受領した清算金一一〇〇万円のうち一〇六二万五〇〇〇円を交付していないものと認めるのが相当である(なお、事実として右のとおり十分に認定することができ、疑問の余地はないということができるが、仮に、右の点につき若干事実不明の点があったとしても、Bから原告に対する右清算金の交付は、被告の立証責任に属する事柄であるから、被告としては右の点につき事実不明とするだけでは右の結論を左右するものではない。)。

そうすると、被告の弁済の抗弁は失当であるから、清算金一〇六二万五〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成三年七月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は理由がある。

第二不法行為に基づく損害賠償請求

一  甲一〇、一四ないし二一、一五、証人Bの供述(一部)、並びに弁論の全趣旨によれば、① Bは、原告に対し、昭和五八年七月一三日、利益保証取引をすることを勧誘し、保証確認書と題する書面を差し入れ、原告から委託証拠金として四四四万円の預託を受けたこと、右書面は、「東京輸入大豆取引において、保証期間一か年昭和五八年七月一一日開始、昭和五九年七月一〇日終了、元本五〇〇万円全額保証、ただし、借入金六〇〇万円に対する年間の利息分五五万六四六八円を差し引いて、四四四万円を預かります。税金の成功報酬五〇万円も当方の負担とします。なお、元本外の利息について、三割を取引清算時点で当方がもらい受けます。」と市販の便箋に手書きで記載されたもので、作成者としては、「B」とのみあり、被告の押印や表示を全く欠くものであること、② Bは、右の合意に基づいて先物取引をした結果、差損金が発生し、右保証確認書の保証期限である昭和五九年七月一〇日の時点で、清算金として原告に対し五〇〇万円以上を支払うという約定を履行することができず、昭和五九年七月一〇日に一五万円、同年一〇月一五日に一五万円、昭和六〇年一月二八日に一五万円、同年六月二六日に五〇万円の合計九五万円しか返済できなかったこと、③ このため、昭和六一年五月六日、Bは、原告に支払うべき残金を三六〇万円とする旨の合意をし、書面(「準消費貸借契約書」という表題の契約書)を取り交わしたが、右書面も、保証確認書の書面と同様に、被告の表示はなかったこと、④ また、原告は、被告に対し、Bの行為による損害について被告の責任であるなどとして問責した形跡もなく、原告は、むしろBとの右の一連の利益保証取引は被告には口外しないものと受けとめていたことを認めることができる。

二  商品先物取引の委託を業務とする会社が利益ないし元本(委託証拠金元本)を保証することを約して先物取引をすることは、法的規制をまつまでもなく、企業存立上極めて危険な行為であり、このことは、通常人であれば、容易に察知し得る事柄であり、通常人に比して特に弁識能力を欠いたとは到底認められない原告としても、Bがした利益保証取引が被告がすることのできない取引であり、したがって、Bが原告に対し利益保証取引をもちかけてきた際に、Bが被告の業務の執行とは関係なく自己の計算においてするものであることを容易に知り得たものということができ、しかも、Bが原告に差し入れた保証確認書は、被告の表示を全く欠いたものであり、また、Bが原告に対する右保証確認書による約束を履行できなくなっても、原告は、Bとの間でのみ交渉し、そのころ被告に対しBの行為について被告の責任であるとして問責するような言動には出ていないことなど、利益保証取引についてBと被告との関連を窺わせるものは、終始一貫して、全くないことからすれば、右書面の提示交付を受けた際に、原告は、Bが被告の業務とは関係なく自己の計算においてするものであることを知るに至ったものと推認することができ、仮に原告がこれを知るに至らなかったとしたら、原告にはそのことについて重過失があったものというべきである。

そうすると、原告の不法行為に基づく損害賠償請求は、その余の判断をするまでもなく理由がない。

第三結論

よって、原告の清算金の支払を求める請求は附帯請求を含めてすべて理由があり、認容されるべきであり、不法行為に基づく損害賠償請求は理由がなく、棄却を免れない。

(裁判官 塚原朋一)

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