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仙台地方裁判所 平成26年(ワ)94号 判決

宮城県〈以下省略〉

原告

同訴訟代理人弁護士

佐藤靖祥

横田由樹

佐藤隆志

同訴訟復代理人弁護士

松村幸亮

東京都渋谷区〈以下省略〉

被告

第一商品株式会社(以下「被告会社」という。)

上記代表者代表取締役

横浜市〈以下省略〉

被告

Y1(以下「被告Y1」という。)

横浜市〈以下省略〉

被告

Y2(以下「被告Y2」という。)

東京都〈以下省略〉

被告

Y3(以下「被告Y3」という。)

上記被告4名訴訟代理人弁護士

川戸淳一郎

主文

1  被告らは,原告に対し,4626万6716円及び被告会社はこれに対する平成24年12月26日から支払済みまで,被告Y2及び被告Y3は平成26年2月27日から支払済みまで,被告Y1は平成26年3月2日から支払済みまで,年5分の割合による金員を,連帯して(ただし,年5分の割合による金員につき起算日が異なる場合は重なる限度で連帯して)支払え。

2  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は,これを10分し,その3を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求の趣旨

被告らは,原告に対し,連帯して6609万5309円及びこれに対する平成24年12月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,被告会社との間で商品先物取引委託契約を締結し,金や白金などの商品先物取引を行った原告が,被告会社の外務員B(以下「B」という。),C(以下「C」という。),D(以下「D」という。),E(以下「E」という。)及びF(以下「F」といい,前記5名を併せて「被告外務員ら」ともいう。)の違法な勧誘行為などにより損害を被ったとして,被告会社に対しては民法715条又は415条に基づき,被告会社の代表取締役であった被告Y1,被告Y2,及び被告Y3(以下「被告代表取締役ら」ともいう。)に対しては被告外務員らに上記違法な勧誘行為を行わせ被告会社における適正な業務の遂行を怠ったとして会社法429条1項に基づき,損害賠償金6609万5309円及びこれに対する商品先物取引終了の日である平成24年12月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求める事案である。

1  前提事実(認定根拠を示すほかは,当事者間に争いがないか,又は,明らかに争いがない。)

(1)  当事者

ア 原告は,平成12年から質屋営業をしてきた者であり,本件訴えの提起された平成26年1月当時,64歳の女性である。

イ 被告会社は,商品取引員(商品先物取引業者)であり,金融商品取引法に基づく商品取引所に上場されている各商品の先物取引等を行う業務等を目的とする株式会社である。

被告会社は,昭和47年(1972年)11月8日に設立され,商品先物取引業(公設の各商品取引所に上場される商品の売買及び売買取引の受託・経済産業省及び農林水産省管轄)を行い,平成9年6月,大蔵省から金融商品取引業の許可を取得し,同年7月(社)東京金融先物取引所に会員加入,第1種金融商品取引業(外国為替証拠金取引業務)並びに第2種金融商品取引業(商品ファンド販売業務)を取得している。また同時に貴金属の現物販売業を営んでいる東京証券取引所JASDAQ市場銘柄8746並びに関東財務局長(金商)第279号の上場会社である。

ウ 被告代表取締役らは,原告と被告会社との間の取引当時,被告会社の代表取締役の地位にあった者らである。

エ B,C,D,E及びFは,原告に対し,商品先物取引を勧誘した者である。

B(平成23年6月30日退社)は,原告が被告会社において商品先物取引を行う手続をした際の担当者であった。Cは,平成21年11月26日及び27日,Bに同行し,原告宅を訪問した。Dは,原告が同年11月30日,被告会社において先物取引を行った際の仙台支店長であり,平成22年6月1日付け人事異動にてEが仙台支店長となった。Fは,平成22年12月22日,Bに同行し,原告に白金取引の案内・提案をした後,Bの退社により担当者となった。

(2)  原告と被告会社の商品先物取引

ア 原告は,平成21年11月27日,被告会社との間で商品先物取引委託契約(以下「本件契約」という。)を締結し,同月30日から平成24年12月26日までの約3年1か月間,別紙1「建玉分析表」記載のとおり,金や白金の商品先物取引(以下「本件取引」という。)を行った。原告は,本件取引により,最終的には6009万5309円の取引損失を生じ,被告会社に対して負担した手数料額は8485万6053円であった。

原告は,本件取引を開始するまで株の現物取引,国債や金地金の取引経験はあったものの株式の信用取引,商品先物取引の経験はなかった。

イ 原告は,平成21年11月27日,本件取引のための「取引口座開設申込書」を作成し,年収1000万円,流動資産として現金・預貯金1500万円,有価証券等3000万円及びその他2000万円があることを申告し,投資可能金額を650万円と記入した上で,本件取引を開始するに至った(乙4)。

ウ 本件取引期間中に原告が被告会社に差し入れた預託金の額及び必要証拠金の額は,別紙2「入出金一覧表」の入金額欄記載のとおりである。

2  争点

(1)  適合性原則違反の有無(争点1)

(2)  不招請勧誘の禁止違反の有無(争点2)

(3)  再勧誘禁止違反の有無(争点3)

(4)  説明義務違反の有無(争点4)

(5)  断定的判断の提供の有無(争点5)

(6)  新規委託者保護義務違反の有無(争点6)

(7)  違法な両建の勧誘の有無(争点7)

(8)  無断売買,一任売買の有無(争点8)

(9)  過当売買禁止義務違反の有無(争点9)

(10)  違法な特定売買の有無(争点10)

(11)  被告らの責任(争点11)

(12)  損害額(争点12)

3  争点に関する当事者の主張

(1)  争点1(適合性原則違反の有無)について

(原告の主張)

先物取引業者は顧客と取引をするに当たっては,顧客の知識,経験,財産の状況,目的等に応じた適合的なものを勧めなければならない。

ア 原告の属性

原告は,宮城県内の女子高校を卒業後,すぐに結婚し,37歳で離婚するまで,昭和55年頃から古物商の交換会でパートをしていたほかは,ほとんど専業主婦をしていた。その後,離婚を機に,昭和57年6月から古物商を始め,平成12年からは現在に至るまで質屋営業を営んでいる。

原告は,本件取引以前に,株の現物取引,国債や金地金の取引をしたことがある程度であり,株の信用取引,先物取引の経験はなかった。また,経験があるといっても,夫の勤務先の株式を購入したことがある,預金口座を有する信用金庫から10年国債を100万円分購入したことがある,金地金を原告が経営する質屋で買い取り,一定量がたまったところで売却するというものであり,金地金の取引も,中古の金を含む製品を購入し,これを販売するという程度の取引であった。

また,原告は,平成15年頃から孫の面倒を見つつ家事育児に追われ,質屋営業すら片手間の状態となっていたところ,日々刻々と変化する先物相場を把握し,自らの判断で適切な処理をする時間的余裕を欠く状態であった。

以上の原告の属性及び商品先物取引に内在する,一般顧客の損失者の割合が高く,相場観を形成するためには様々な専門的知識を要するという商品特性に鑑みれば,原告には,本件取引を理解する能力及び自己の相場観を形成する時間的余裕がなく,商品先物取引を行う適合性に欠けていたというべきである。

また,本件取引においては,特定売買の比率が高く,原告において特定売買が頻繁に行われることにより手数料負担が重くなることを十分に理解できないまま取引を継続していた事情が窺え,この点からも,原告が商品先物取引を行う知識,理解力を欠いていたといえる。

イ 取引開始当時における違法

平成19年9月30日施行の商品取引所法改正に併せて改正された「商品先物取引の委託者の保護に関するガイドライン」(甲4,以下「ガイドライン」という。)によれば,平成22年5月19日号外法律第74号による改正前の商品取引所法(以下「法」という。)215条の適合性原則の判断に当たっては,①氏名,②住所,③生年月日,④職業,⑤収入,⑥資産の状況,⑦投資可能資金額,⑧商品先物取引その他の投資経験の有無及びその程度,⑨受託契約を締結する目的等について情報収集するよう求められている。

さらに,⑨受託契約を締結する目的等については,改正に先立つパブリックコメント(甲2)を参考にすれば,商品先物取引が元本の欠損又は元本を上回るおそれのある取引であることを前提として,顧客が元本欠損に対してどの程度許容できるかについて明確に把握することまで求められているというべきである。

これに対し,被告会社は,原告の適合性を審査するに当たり,「取引の目的」として「差金決済」(現物の受渡しを行わず,売りと買いを預け入れた証拠金の決済のみで行うこと)との回答を受けたのみであり(甲3),法215条が求める適合性の確認を怠った違法がある。

ウ 取引継続時における違法

適合性原則は,勧誘時だけでなく取引継続中にも必要である。

被告外務員らは,原告と被告会社との取引継続中,原告には6500万円程度の金融資産しかなく,そのうち投資にあてることができる範囲は650万円であることを知りつつ,原告をして,別紙2「入出金一覧表」のとおり金員を入金させ取引をさせた。

これらの取引経過によれば,原告は,平成22年4月9日の時点で,原告の投資可能額650万円に満つる手前の646万8000円の投資をしていたことになる。それにもかかわらず,被告外務員らは,平成22年5月21日には289万4500円,同年7月9日には300万円,同年9月14日には220万円,平成23年2月1日には143万円と合計1599万2500円の投資を継続させており,これは,原告の資産状況に照らして明らかに過大な取引をさせているというべきであるから,適合性の原則に反し違法である。

さらに,被告外務員らは,原告がすでに自らの投資可能額を超えて取引をしていることを認識しつつ,平成23年8月5日には3000万円,同年8月8日には1500万円,同年9月26日には435万円,平成24年6月27日には100万円の投資を継続させ,取引開始時に原告が保有していると申告した資産のほぼ全額をつぎ込ませたものであり,明らかに原告の投資能力を超えた取引をさせているから,適合性の原則に反し違法である。

(被告らの主張)

原告は,被告会社が提供する海外価格や市況がメールで送信されるメールサービスや,各銘柄のチャートがパソコンで検索・閲覧できるとするDi-2パソコンサービスというサービスを利用して,主体的に取引をしていたものであって,商品先物取引を行う適合性を有していた(乙32の調査表2)。

ア 取引開始時の適合性審査

被告は,本件取引を開始するにあたり,原告が取引口座開設申込書において記載した,①氏名,②住所,③生年月日,④職業,⑤収入,⑥資産(流動資産)の状況,⑦投資可能資金額の設定,商品先物取引その他の投資経験の有無及びその程度などを基に受託審査を行っている。

イ 取引継続時の適合性

原告は,平成22年5月20日,①同年3月8日には習熟認定をし,保護措置を解除したこと,②商品先物取引のリスク等を十分に理解していることを記載したほか,投資可能金額を650万円から1000万円に増額する旨の申出書(乙10)を作成し,被告会社に提出した。

さらに,原告は,平成22年5月21日には,前日に設定した投資可能額の1000万円を1600万円に増額する旨の申出書(乙11)を,平成23年5月9日には,投資可能額を1600万円から3000万円に増額する旨の申出書(乙12)を,同年7月12日には,投資可能額を3000万円から9500万円に増額する旨の申出書(乙14)をそれぞれ被告会社に提出した。

本件取引は,上記のとおり,原告が自ら申し出た投資可能額の範囲で行われており,原告の投資能力を超えた取引はされていない。また,原告は,投資可能額を増額することは大きな損失を生じる危険性も増大することを理解して,上記の変更を行っていたものである。

〈中略〉

ア 法214条5号は,「商品市場における取引等につき,その委託を行わない旨の意思(その委託の勧誘を受けることを希望しない旨の意思を含む。)を表示した顧客に対し,その委託を勧誘すること。」を禁止する。

イ Bは,平成21年の夏頃から原告の質屋を月2回程度訪問し,原告は,金の地金取引の勧誘だと思っていたが,敢えて取引をする気持ちもなく,明確に勧誘を断っていたにもかかわらず,Bは何度も原告の質屋を訪問し,勧誘を継続したのであるから,法214条5号の違法な再勧誘に当たる。

(被告らの主張)

原告の主張は争う。

Bが原告の担当者となった平成21年7月頃,原告は,被告会社のサービス提供(メールサービス(毎日の貴金属価格,市況動向の解説,海外値動きをメールで送信するもの)及び見込み客用のDi-2のCD-ROM)を受けて金先物取引を勉強している最中であったところ,Bは,原告から先物取引勧誘の断りを受けていない。

したがって,再勧誘の禁止に抵触することはない。

(4)  争点4(説明義務違反の有無)について

(原告の主張)

ア 商品先物取引業者である被告会社には,原告に対し本件契約の締結前に商品先物取引の仕組みやリスクなどの重要事項について,委託者の属性を踏まえて十分に説明し理解させる義務がある。そして,この説明義務は,単にパンフレットを交付して丸を付けさせれば足りるという消極的なものではなく,委託契約に基づく善管注意義務又は信義則に基づき,積極的に取引の危険性について説明し,理解させるという実質を伴うものでなくてはならない。

イ しかしながら,Bは,原告に対し,取引の仕組みについての説明を一切せず,「先物取引を行うと利益が上がるので,そのお金で金が買えます」,「先物だと利益が上がります」,「儲かりますから」,「儲かったお金は地金に変えて保管しておけばよいですよ」,「取引の内容については私が担当者ですから私が指導します」,「私がついているので大丈夫です」,「損はさせませんよ」,「私に任せておけば大丈夫です」などと,先物取引が拠出した委託証拠金を超えた損失が生じる可能性のある取引であることを理解させるような説明をせず,かえって確実に利益の上がる取引であるかのような説明をした。

また,上記説明の中で,Bは,どの商品につき,どのような情報から相場を予想するかにつき全く説明をしておらず,原告において主体的な相場判断をするために必要不可欠となる相場変動要因(甲10)についてすら説明をしなかった。

ウ 本件取引における特定売買率は高く,被告らの手数料稼ぎ目的での取引が疑われるが,そのような取引が継続して行われていたことは,被告外務員らが取引の意味等を十分に説明していなかったことの証左である。

以上の経過に鑑みれば,被告外務員らは,原告に対する説明義務に違反したことは明らかである。

エ 被告らは,取引開始の状況について後記被告らの主張イ記載のとおり主張するが,被告らが主張する事実経過については争う。

原告は,平成21年11月26日及び同月27日,C及びBと面接し,雑談を交えながら取引の説明を受けたが,この説明の内容をほとんど理解することはできなかった。また,その際,何らかの書類に署名を求められ,自ら署名した記憶はあるが,それがどのような書類であったかについても記憶がない。

その後,被告会社の担当者から電話による審査を受けたが,C及びBからは前もってどのように回答するかをレクチャーされたのみで取引に関する説明は何も受けなかった。

(被告らの主張)

ア 原告の主張は争う。

イ 被告会社従業員G(以下「G」という。)は,平成21年5月7日の午後1時半から2時10分まで原告と面談し,被告会社の業種業態の説明,商品先物取引についての勧誘の受容確認,金地金の取引説明等を行った。また,平成21年6月13日の午後1時から2時10分まで原告と面談し,金地金購入に関する商談を行った。

Bは,平成21年7月29日から同年11月末までの間,原告宅を合計4回訪問し,取引口座の開設並びに適格性確認審査を行った。

そして,B及びCは,同月26日及び翌27日に,原告宅を訪問し,前者は60分,後者は210分にわたり具体的な取引の説明及び解説を行った。また,被告会社の審査員は,同日の受託審査において,原告に対し,当時の東京金取引本証拠金10万5000円に対して,200円の値下がりになると20万円のマイナスが生じ,証拠金以上の損失が発生することを具体的に説明した。

ウ 原告は,平成21年11月26日,被告会社における商品先物取引参加の必要書類である「商品先物取引の説明及び理解に関する確認書①」(乙6)において,①商品先物取引はその担保として預託する取引証拠金等の額に比べてその10ないし30倍になる過大な取引を行うものであること,②預託した取引証拠金等の額以上の損失が発生する恐れがあることについて説明を受け,その説明を受けたことを確認して署名,押印をした。

また,原告は,同月27日,「受託契約準則」及び「商品先物取引・委託のガイド」を用いて,取引証拠金等の制度,種類及びその発生の仕組み等に関する事項,委託手数料の額,委託手数料の制度及びその徴収の時期等に関する事項などについて説明を受け,その説明を受けたことを確認して「商品先物取引の説明及び理解に関する確認書②」(乙7)に署名,押印をした。

エ このように,被告外務員らは,前記イのとおり,原告に対し,商品先物取引の仕組み,内容,リスク等について説明をしており,原告は,これらを理解して,前記ウのとおり各書類に署名押印をしたものであるから,被告らにおいて説明義務違反はない。

(5)  争点5(断定的判断の提供の有無)について

(原告の主張)

ア 法214条1号は,顧客に対し,利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供してその委託を勧誘することを禁止していた。

イ Bは,平成21年11月26日及び同月27日の勧誘において,原告に対し「先物取引を行うと利益が上がるので,そのお金で金が買えます」,「先物だと利益が上がります」,「儲かりますから」,「儲かったお金は地金に変えて保管しておけばよいですよ」,「損はさせませんよ」などの断定的判断を提供したので,法214条1号に反し違法である。

(被告らの主張)

原告の主張は争う。

ア 被告外務員らは,平成21年11月26日,「商品先物取引は元本や利益が保証されたものではないこと」が明確に記載された「委託のガイド」を原告に交付して,その内容を説明した上,「商品先物取引の説明及び理解に関する確認書①」(乙6)の説明をしたところ,原告は,当該説明の内容を理解したとして,同確認書に署名・押印した。被告外務員らは,翌27日,「受託契約準則」及び「商品先物取引・委託ガイド」を用いた説明をしたところ,原告は,商品先物取引の内容を理解したとして,「商品先物取引の説明及び理解に関する確認書②」(乙7)に署名,押印した。

イ 原告は,同日,被告会社の審査部員との間の適格性審査の中で,審査部員から,取引における最終的な判断は原告が行い,原告の意に反する取引については注文を出さないようにとの注意を受けた(乙52の13及び14頁)。

ウ 前記のとおり,被告外務員らは,原告に対し,商品先物取引の仕組みやリスクを十分に説明し,同人の理解を得ていたものであり,審査部員による適格性審査においても自己責任で取引するよう確認している。

以上によれば,断定的判断を提供した勧誘はされていない。

(6)  争点6(新規委託者保護義務違反の有無)について

(原告の主張)

商品先物取引には,一般人が投資目的で参加することが不適当な高いリスクがあるため,先物取引の委託を受けようとする業者は,特に新規に取引に参加する者(新規委託者)に対しては,商品先物取引を適正に行えるよう,商品先物業者が助言,保護する義務がある(法215条)。

本件取引において,原告は,本件取引を開始した平成21年11月30日から3か月が経過した後,被告における習熟度認定を受けた。平成22年2月28日作成の習熟調査票(乙9の1)によれば,原告は,売買取引の判断については,「判断が出来ないありさま」とあり,同日の時点においても原告は担当者の相場観で判断をし,取引を一任している状況にあったにもかかわらず,被告会社は,原告に対して習熟認定をし,その後取引額を増額し,習熟認定前の2倍を超える取引額で取引を行わせるようになったものである。

以上の経緯に鑑みれば,被告会社における習熟認定は形式的なものであり,被告会社における新規委託者保護措置は形骸化しており,新規委託者保護義務に違反した違法なものであったというべきである。

(被告らの主張)

原告は,新規委託者保護義務期間である本件取引開始から3か月間は,投資可能額650万円の3分の1の範囲内で取引を行っていた。

さらに,原告は,本件取引開始から3か月が経過した後,被告会社から送付される習熟調査票(乙9の1,9の2)に回答し,審査員による主体性,理解度の審査を受け,今後投資可能金額650万円の範囲まで取引が可能であるが取引量が増えればリスクも当然増えることを確認しており,原告が取引のリスクなどを十分理解していること及び取引に対して主体性があり,相場観などを持ち合わせていたことは明らかである。

よって,被告会社における新規委託者保護義務違反はない。

(7)  争点7(違法な両建の勧誘の有無)について

(原告の主張)

ア いわゆる「両建」とは,既存建玉に対応させて反対建玉を行うことをいい,法214条8号,商品先物取引法施行規則(平成24年11月16日農林水産・経済産業省令第4号による改正前のもの。以下「施行規則」という。)103条1項9号は両建の勧誘を禁止している。

イ 本件取引においては,E及びFは,平成23年8月3日以降,原告に対し,恒常的に両建を勧誘することにより約1年4か月で5720万1614円の損失を生じさせた。

一方で,恒常的に両建を開始した平成23年8月以降の委託手数料は4271万9643円に上っている。

ウ 被告会社は原告の利益を手数料に転化しようと企て,より値動きによる変動を受けなくなる両建を勧誘し,両建に引きずり込んだ。これらの取引は,被告らの手数料稼ぎのために被告会社により仕組まれた違法なものである。

(被告らの主張)

Fは,平成23年5月9日,原告から「委託のガイド」の禁止行為とされていた両建取引,「習熟度調査票」問5-4の両建について,どのような取引手法なのかと尋ねられたため,両建取引の仕組み,デメリット,メリットについて説明をした。さらに,Fは,同日,原告に対し,両建取引を営業から勧めることはできないが,仮に,原告が両建取引を行う場合には「両建申出書」(両建のデメリットを十分理解して自己の責任で行う旨の内容の説明が記載されたもの)の提出が必要である旨説明したところ,原告がそれを希望したことから,両建申出書(乙13)の差し入れを受けた。

原告は,自らの希望により両建取引を開始したものであって,被告外務員らにおいて違法な両建の勧誘を行ったことはない。

(8)  争点8(無断売買,一任売買の有無)について

(原告の主張)

商品先物取引においては,顧客が取引の意味を十分に理解した上で,商品銘柄,売買の時期,売買の別,建玉の数量等を自らの意思で商品取引員等に指示しなければならない(施行規則103条3号,法214条3号,受託契約準則25条)。

しかしながら,Bは,商品先物取引の仕組みを理解していないと伝えてきた原告に対し,「私に任せておけば大丈夫です」,「やってるうちに覚えますよ」,「だんだんと指導します」,「今は分からなくてもかまいません」などと申し向け,その結果,商品先物取引の知識経験がなく独自の相場観を持たない原告は,被告外務員らの指示どおりに建玉をして,取引を一任していた。

また,本件取引においては,特定売買の比率が高く,被告会社の手数料稼ぎ目的の不合理な取引が継続していた事情があるが,原告において本件取引の仕組み等を十分理解していれば,上記のような不合理な取引を継続することはなかった。このような取引を継続していたことからも,原告が,本件取引を主体的に行っていたものではなかったことが裏付けられる。

したがって,本件取引は無断売買,一任売買として違法である。

(被告らの主張)

原告の主張は争う。

原告は,被告会社から提供される情報サービスを利用して,自ら主体的に取引を行っていたものであり,無断売買,一任売買はない。

(9)  争点9(過当売買禁止義務違反の有無)について

(原告の主張)

ア 商品先物取引においては,取引回数,取引量が多くなる過当売買は商品取引員等に対する手数料が増大することを意味し,委託者にとっては損害が生じるおそれが大きく,取引に不慣れな新規委託者に対しては特に強く禁止されるものである。

イ 本件取引においては,平成23年7月7日以降取引量が急増し,わずか1年4か月の間に1億4101万3544円の損失を生じさせることとなっており,過当売買による弊害を生じた取引であって,過当売買禁止義務に反している。

(被告らの主張)

原告の主張は争う。

原告は,平成23年7月12日,累計利益金8350万円を流動資産に組み込み,これを1億6000万円から2億5450万円に修正し,投資可能額を3000万円から9500万円に修正した。さらに,両建取引についても,同年5月9日,Fから両建取引の説明等を受け,両建申出書(乙13)を自ら差し入れている。

以上の経緯からすれば,原告は自らの判断で取引量を増大させたものである。

(10)  争点10(違法な特定売買の有無)について

(原告の主張)

ア 被告らの注意義務

商品取引員等が委託者の建玉を短期間に無意味に繰り返す場合,商品先物取引の手数料が高率に設定されている現状においては,委託者は,委託金額の大部分を手数料として失う危険を負担することとなる一方,商品取引員等は,委託者の犠牲の下に多額の手数料を得ることになる。

したがって,商品取引員等には,委託者に短期間に頻繁に売買をすることを勧誘し,又は,無意味な反復売買をさせてはならない義務がある。

イ 違法な反復売買の判断方法

手数料化率とは,損金に占める手数料の割合をいい,これが10%を超える場合には,商品取引員等が,自己の利益のために委託者を犠牲にしようとしたことが推認される。

本件取引における原告の損失のうち,146.28%が手数料による損失である。

ウ 特定売買比率

(ア) 直し

いわゆる「直し」とは,既存の建玉を仕切った日と同じ日に,これと同一のポジションの建玉(限月が異なる場合も含む。)を行うことをいう。同一のポジションの建玉を行うのであれば,あえて仕切らなくても,そのまま維持していればよいのであって,手数料が余分にかかるような不合理な売買を委託者が主体的に行うことはないから,「直し」は,商品取引員等が手数料稼ぎの目的で委託者に取引をさせたことを推認させる。

本件取引における「直し」は合計62回に上り,両建と同時に恒常的に行われており,損害の3分の1を占め,手数料も4271万9643円になり,手数料稼ぎとして行われたことは明らかである。

(イ) 途転

いわゆる「途転」とは,既存の建玉を仕切る日と同じ日に,反対のポジションの建玉(限月が異なる場合を含む。)を行うことをいう。「途転」は,これが無定見に行われたときには手数料稼ぎの目的で委託者に取引をさせたことを推認させる。

本件取引における「途転」は合計80回に上り,相場観を一定させない不合理な建玉と評価せざるを得ず,被告会社における手数料稼ぎとして行われたものである。

(ウ) 日計

いわゆる「日計」とは,新規に建玉を行い,建玉を行った日と同じ日にこれを仕切ることをいう。1日の間にはそれほど値動きがないのが通常であり,「日計」は手数料がかかるというデメリットしかない。したがって「日計」は,商品取引員等が,手数料稼ぎの目的で委託者に取引をさせたことを推認させる。

本件取引における「日計」は合計29回に上り,手数料稼ぎとして行われたものである。

(エ) 両建

前記のとおり,手数料稼ぎとして行われたものである。

(オ) 不抜け

いわゆる「不抜け」とは,取引によって利益が生じているものの,当該利益が委託手数料より少なく,差引損となることをいう。「不抜け」は,利益を目的として取引を行う委託者の意思に合致せず,委託者の無理解に乗じて手数料稼ぎの目的で行われるものである。

本件取引における「不抜け」は合計28回に上り,手数料稼ぎが推認される。

(カ) 特定売買比率等

特定売買は,通常,手数料を要するのみで委託者の利益に反する取引であることから,その全取引に占める頻度(特定売買比率)が20%を超えれば,合理性が疑われる。

本件取引における特定売買比率は,金取引については,56.9%,白金取引を加えても50.5%の高率になっており,合理性のない手数料稼ぎの取引が継続されたことは明らかである。

(被告らの主張)

ア 原告の主張は争う。

イ いわゆる特定売買は,有用な効果を持つ売買手法として古くから存在し,先物取引において一般的に行われるものであり,特定売買に該当する取引があること自体や,特定売買比率,売買回転率,手数料化率のみをもって,商品取引員等が委託者の犠牲の下に正当な理由なく手数料稼ぎをしたと推認することはできない。

特定売買は,時々刻々変化する商品相場において,取引手法として有益なものであり,具体的取引な取引状況を捨象した客観的数値のみをもって違法性を論ずることは困難である。

ウ それぞれの特定売買について

原告の主張する特定売買手法(直し,途転,日計,両建,不抜け)は,いずれも相場状況,相場予測及び委託者の資金規模に応じて採られるものであるから,その手法の良し悪しを結果から遡って論じることは不当である。

エ 特定売買比率等の主張について

取引の違法性は,特定売買比率,手数料化率等の数値基準により判断されるべきではなく,相場の変動状況,相場予測,委託者の理解の程度,委託者の意思決定,外務員の勧誘状況等を総合的に考慮して論ぜられるものであり,取引の結果のみからその違法性を論じることは不当である。

オ 違法な手数料稼ぎ目的の取引が実施されていたとの主張について

原告の取引の内容をみると,差引損益がプラスの場合の手数料合計金額は5727万1463円であり,差引損益がマイナスの場合の手数料合計金額は2758万4590円であるところ,本件取引の手数料総額8485万6309円のうち,約67.5%の手数料は原告が取引利益を獲得した取引から発生したものであって,原告の取引利益獲得のために要したものであるということができるから,違法な手数料稼ぎ目的の取引であったということはできない。

(11)  争点11(被告らの責任)について

(原告の主張)

被告外務員らは,前記(1)ないし(10)の原告の主張記載のとおり,原告に対する違法な勧誘行為を繰り返し行っていたものであって,これらの行為は,被告会社の事業の執行につき行われたものであるから,被告会社は,原告に対し,民法715条の不法行為責任を負う。

さらに,被告会社は,顧客である原告に対し,準委任契約に基づく善管注意義務を負うところ,被告外務員らが善管注意義務に反して前記(1)ないし(10)の原告の主張記載のとおり違法な勧誘を繰り返させたものであるから,債務不履行責任を負う。

また,被告代表取締役らは,被告会社の代表取締役として同社の業務を適法かつ適正に執行すべき義務を負い,業務の適正を図るべきところ,被告外務員らをして漫然と違法行為をなさしめた任務懈怠が認められ,会社法429条1項に基づく責任を負う。

(被告らの主張)

原告の主張は争う。

(12)  争点12(損害額)について

(原告の主張)

原告は,被告らの不法行為等により,以下のとおり,合計6609万5309円の損害を被った。

ア 損失額

6009万5309円

イ 弁護士費用

600万円

ウ 合計

6609万5309円

エ 過失相殺

本件は,被告会社の故意による不法行為というべき事案であり,過失相殺を認めると,不法行為を働く者を利することとなり,法の正義の見地からは到底許されない事態が生じる。また,原告に過失相殺されるべき落ち度があったものと認めることはできないので,過失相殺をすべきではない。

(被告らの主張)

原告の主張は争う。

原告に不適格要素はなく,被告会社の情報サービスや従業員からの情報提供を参考にして自らの意思で先物取引を行っていたことが明らかであるから,仮に被告に何らかの違法事由又は責任原因が存したとしても,その過失割合は1割を超えることはない。

第3当裁判所の判断

1  事実認定

前記第2の1の前提事実に証拠(甲16,乙4~7,9の1及び2,10~14,35,49の1及び2,50,52,53,57,60,66,原告本人,証人C)及び弁論の全趣旨を併せれば,次の事実を認めることができる。

(1)  原告の生活状況等

原告は,昭和24年○月○日生まれの女性であり,高校卒業から数か月後に結婚し,専業主婦として生活していたが,37歳頃(昭和61年頃)に離婚し,取引開始当時娘であるH(以下「H」という。)及びその子と同居していた(甲16)。

原告は,昭和55年頃から古物商の手伝いをしていたが,昭和57年6月に古物商を開業し,平成12年頃からはa質屋を営業していた(甲16)。原告は,質屋営業を通じて取得した金等の地金を,地金商に売却していた(原告本人49~50頁)。本件取引開始当時,原告の収入は1000万円であり,預貯金は5000万円(ただし,息子名義で原告が管理している預貯金を含む。),保有している18金スクラップが20キログラム程度(時価7000万から8000万円)あり,1億2000万円から1億3000万円の資産を有していた(甲16,原告本人22~25頁)。

原告は,離婚前の夫の勤務先の株を1度現物取引で購入したことがあり,10年国債を約100万円分購入したことがあるが,商品先物取引の経験はなかった(甲16,前提事実)。

(2)  本件契約締結に至る経緯

平成21年4月29日付けメールにより,H名義で被告会社に対し,資料請求があった。当時被告会社仙台支店に勤務していたGは,同年5月7日及び6月13日に原告宅を訪問したが,同年7月9日からはBが原告の担当となり,同月29日,8月21日,9月7日に同人が原告の下を訪れた(乙49の1及び2,66)。当初,原告は金地金の売買について勧誘を受けていたが,同年9月頃からは先物取引の勧誘を受けた(乙66)。

(3)  本件契約締結の経緯

ア BとCは,平成21年11月26日午後3時頃から4時30分頃まで及び27日午前10時頃から午後3時30分頃まで(30分の休憩を含む。)原告宅を訪問し,2日にわたって金地金の売買及び先物取引に関する説明を行った(乙35)。

Cは,原告に対して,まず金地金の売買に関する説明を行い,その後商品先物取引は証拠金取引であるから,物の実際の価格よりもごく少額の担保である証拠金を預託して売買対象の物について売買の約束をする取引であること,商品価格が変動すると,大きな利益を得ることができる場合もあれば,大きな損失が生じる場合もあるハイリスク・ハイリターンな取引であることを説明した。さらに,「商品先物取引委託のガイド,同別冊」(乙5の1及び2),「お取引のリスクに関する説明《東京金の場合》」(乙60)を示して,少ない担保で10倍~30倍の大きな額の取引を行うこと,預託証拠金以上の損失発生の恐れがあること,追加の証拠金を差し入れる必要がある場合があること,商品先物取引は取引期間が限定されており,限月が定められていること及びサーキットブレーカー制度(一定の幅を超えるような価格で売買注文が対当する場合は当該取引を成立させず,一時的に取引を中断した上で,大きな価格変動が生じようとしていることを市場参加者に周知して,新たな注文を呼び込み設定幅を拡大して取引を再開する仕組み)について説明した(乙6,35,57,60,原告本人1~4頁,証人C・3~4頁)。また,C又はBが,両建取引について,両建取引とは,保有建玉に対して,同一商品,同一限月,同一枚数の反対玉を新たに保有することで,両建を解消するタイミングの判断が難しく,反対玉を保有することの意味やリスクを理解している顧客以外にはできないことを説明した(乙57,原告本人10~11頁)。Cが示した上記各書面には,商品先物取引の仕組みや内容が更に詳細に記載されており,同日,原告に交付された(乙6)。

原告は,C又はBの説明を受けて,先物取引は自分の買った方向と反対の方向に行ったらお金がかかり,かなりのお金を支払わなければいけないというリスクがある取引であると感じた(原告本人1頁)。

イ 原告は,平成21年11月26日,「私は,貴社より商品先物取引に関する勧誘の告知を受け,また勧誘を受ける意思表示をした上で,貴社より交付された「受託契約準則」及び「商品先物取引・委託のガイド」により,次の項目についての説明を受け,その内容を理解しました。また,相場変動の例を記載した図表「お取引のリスクに関する説明《金の場合》」(別紙)を受領し,それを用いて商品先物取引に内在する危険性等についての説明を受け,その内容を十分に理解しました。① 商品先物取引はその担保として預託する取引証拠金等の額に比べてその10~30倍にもなる過大な取引を行うものであること,② 預託した取引証拠金等の額以上の損失が発生する恐れがあること」と記載された商品先物取引の説明及び理解に関する確認書①(乙6)に署名押印し,被告会社に差し入れた(乙57の7頁)。また,同月27日,「1. 私は,「商品先物取引の説明及び理解に関する確認書①」の説明を受けてその理解が出来た後,同様に「受託契約準則」及び「商品先物取引・委託のガイド」を用いて以下の説明を受け,その内容を理解しました。① 取引証拠金等の制度,種類及びその発生のしくみ等に関する事項 ② 委託手数料の額,委託手数料の制度及びその徴収の時期等に関する事項 ③ 商品取引員の禁止行為に関する事項 ④ その他「商品先物取引・委託のガイド」に記載されている事項(後略)」と記載された商品先物取引の説明及び理解に関する確認書②(乙7)に署名押印し,被告会社に差し入れた(乙57の13頁)。

さらに,原告は,取引口座開設申込書に,「収入状況(年収) 1000万円」,「流動資産 ①現金・預貯金 1500万円 ②有価証券等 3000万円 ③その他 2000万円」,「投資可能金額650万円」と記入し,「お取引の動機と目的」欄の「1 資料請求」及び「差金決済」に丸を付け,「私は,貴社に「取引口座開設申込書」を提出するにあたり,「商品先物取引・委託のガイド」,「受託契約準則」,「商品先物取引の説明及び理解に関する確認書①」,「商品先物取引の説明及び理解に関する確認書②」及び「取引管理運用の手引き」の交付・説明を受け,商品先物取引のしくみ,ルール,危険性等について理解しました。」との確認欄に署名押印し(乙4),被告会社に差し入れた(乙57の14頁)。

ウ 原告は,平成21年11月27日午後2時25分から2時46分にかけて,被告会社本社調査部のI課長(以下「I」という。)と通話して適格性の審査を受けた。Iは,投資可能金額の意味及び未経験者の保護措置(3か月間,投資可能金額の3分の1の範囲内で取引を行うこと)について原告に説明した。Iが資料請求について確認した際には,原告は「ネットでホームページなんか見てもらって」,「あらこういうのはどうなんだろうってね,出しちゃったのが始まりだったの。」と回答した(乙52の5~6,8頁)。

また,Iが「商品先物取引・委託のガイド」について受け取ったか,説明を受けたかを尋ねると,原告は「説明受けたんだけど,ちょっと高齢だからねぇ,やっぱり時間かけてゆっくり読まないと」,「説明の方は,Bさんに一生懸命教わって勉強しなきゃと思ってます。」と回答した(乙52の8頁)。証拠金について質問された際は,原告は「結局証拠金があの金額の,ほら,なんていうの,いくら位,何パーセント半分位とか,」,「まず,幾ら買えばその買った値段位の,」,「あの金額を証拠金に入れておくといいと説明受けてます。」と回答した(乙52の9~10頁)。さらに,原告は,53円下がると追証拠金が発生すると説明を受けたと回答し,追証拠金を払うか,それとも清算するかの判断について担当者と相談してもいいかと質問した(乙52の10~11,16頁)。

Iは,原告に対し,担当者の相場観どおりに値段が動くとは限らないので,いつ始めるか,どのぐらいの数量でやるかは原告自身で決めて注文して頂きたいと説明した(乙52の13~14頁)。

同審査の結果,原告は審査に合格した(弁論の全趣旨)。

(4)  本件取引の経緯

ア 本件取引の内容は別紙1「建玉分析表」記載のとおりであり,概要は以下のとおりである。

イ 被告会社においては,本件取引当時,その受託業務管理規則により,商品先物取引の新規委託者は,取引開始から3か月間は投資可能金額の3分の1の証拠金の範囲で建玉をするよう制限することとされ,そのような運用が行われていた。原告は,平成21年11月30日,証拠金として210万円を入金し,同年12月24日,同様に証拠金として146万円を入金したが,取引は650万円の3分の1の範囲内で行われた。

ウ 原告は,平成22年2月28日,習熟調査票(乙9の1)を作成し,被告会社に送付した(乙9の2)。原告は,「お取引開始後も「商品先物取引・委託のガイド」はお読みになられましたか。」という問いには,「①読んだ」に丸を付し,「お読みになられてルール等の再確認はできましたか。」という問いには,「③読んだが,まだ不明な箇所がある」に丸を付した。また,「売買取引の判断はどのようになされていますか。」という問いには,「④担当者の相場観で判断している」に丸を付した。なお,同問いには,「③担当者の相場観を参考にしている」という選択肢もある。原告は,「送られてくる「売買報告書及び売買計算書」の内容はその都度ご確認はされておられますか。」という問いには,「①確認している」に丸を付した(乙9の1)。さらに,原告は,同調査票の自由記載欄に,「取引をはじめてみて,日々の動きのあり方には目をはなせません。まだ先も見えず前に進めないでおります。その為判断が出来ないありさま…。世界の動きで値動きもあるということ一番に感じいかに情報が大事か勉強になります。」と記載した(乙9の1)。

原告は,同年3月8日,Iからの電話による習熟確認の際に,商品先物委託・取引のガイドを読んだがまだ不明な箇所があるという回答は,専門用語をパソコンで見て,たくさんあり,覚えられないと思ったという趣旨だと説明している(乙53の1~2頁)。また,取引開始から3か月が経過して基本的な仕組みやルールを理解したかという問いには,「はい,サーキットブレーカーってのも経験しましたし」と回答した。原告は,Iに対し,「先週の金曜日辺り,3191円でね,あの売りにいったんです,大丈夫ですよって言われたもんだから。」,「私自身としては,ほら追証掛けて,何時かまた3100円台に戻ってくる日があると,」,「そういうのってあの追証長い期間掛けてるとなんか又発生するものがあるんですか,こう利息とか」と質問し,Iが利息はないと答えたが,「でも追証の他にお金掛かるものあるのかなぁと思って」,「長く置けば,ないですか」とさらに質問した。また,「3か月の見習い期間なもんで,」,「意外と忙しかったの。あーほら買いましょ,ほら練習の為,」,「その都度ほらついて行かれない,なんて頭がついていかれなかったんですよ。」と述べている(乙53の3~4頁)。

原告は,同日,取引を概ね理解している者と判定され,新規委託者保護措置は解除された(乙53の9頁)。

エ 原告は,平成22年5月20日付けで,「私Xは(中略)本日に至るまで幾度かの決済を行い取引の損得,リスク等も十分理解しております。この度平成21年11月27日に設定した投資可能金額を650万から1000万に変更したいと思います。この投資可能金額の変更は自分の意志によるものです。投資可能金額が全額損失になっても生活に支障はありません。また,投資可能金額以上の損失が発生しても私の責任において処理し貴社には決して迷惑はかけません。取引量の増加にともない危険性も増大することも十分に理解しております。流動資産の内訳は下記のとおりです。 商工信用組合 支店 1500万 日本生命 300万 第一商品株式会社 317万 金地金 25kg 7200万 白金地金 8kg 3600万」と自筆で記載した「申出書」と題する書面(乙10)を作成して被告会社に差し入れた。当時,原告は記載どおりの資産を有していた(原告本人26~27頁)。

その後も,原告は,自筆で投資可能金額を増額したい等上記と同旨の記載をした「申出書」と題する書面を平成22年5月21日,平成23年5月9日及び同年7月12日に被告会社に差し入れた(乙11,12,14)。それぞれ,投資可能額を1000万円から1600万円に,1600万円から3000万円に,3000万円から9500万円に増額することを希望する内容である。また,流動資産について,それぞれ,「 商工信用組合 支店 1500万 日本生命 300万 金地金 25kg 7200万 白金地金 8kg 3600万」(乙11),「 商工信用組合 支店 一五〇〇万円 日本生命 六〇〇万円 金地金 25kg 一億円相当 白金地金 8kg 三九〇〇万円」(乙12),「 商工信用組合 支店 一五〇〇万円 日本生命 六〇〇万円 金地金 25kg 一億円相当 白金地金 8kg 三九〇〇万円 第一商品預り金(金は二重線で削除され,右横に証拠金と記載されている。) 九四五〇万円(当初書かれた「八三五〇」が二重線で削除の上訂正印が押され,左横に九四五〇と記載されている。)」(乙14)と記載されている。

オ 原告は,平成23年5月9日付けで,「私Xは平成二十一年十一月より御社にて取引をしておりますが,商品先物取引の仕組み,リスクについては十分理解しております。そのうえで今後の資産運用について有効な手段として両建てを行うことを申し出ます。両建ては委託のガイドに記載されている禁止行為であること,またその仕組みやメリット,デメリットについては担当者より説明を受け理解しております。また手数料が余分にかかること,決済のタイミングが難しく,両建てを外した後の値動き次第では損金が拡大する場合があること,外した時点で不足請求が発生する場合があることは理解しておりますが,その上で,自己の責任と判断において取引を行います。また,今後の状況によっては両建てを行うこともあるかもしれませんが,その際には前記のリスクを承知の上で自己の責任と判断で行います。」と自筆で記載した「申出書」と題する書面に,署名押印の上,被告会社に差し入れている(乙13)。

原告は,平成23年8月3日以降取引終了時まで,頻繁に両建を行った。

カ 本件取引が行われていた期間の原告の入出金額は,別紙2「入出金一覧表」記載のとおりである。

キ 本件取引中,原告はDi-2パソコンサービスという各銘柄のチャート検索や数十種類のチャートを見ることができるサービスを利用しており,平成21年11月27日から平成24年10月27日まで1084回アクセスした。また,土曜日・日曜日・祝祭日にも190回アクセスしていた(乙50)。

(5)  本件取引終了に至る経緯

原告は,本件取引について弁護士に相談し,平成24年12月26日に取引を終了し,平成25年1月4日,被告会社から124万7191円の清算金の支払を受けた(甲16,弁論の全趣旨)。

2  検討

(1)  争点1(適合性原則違反の有無)について

法215条は,商品取引員が,顧客の知識、経験、財産の状況及び受託契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行わないよう定めている。同条は,商品先物取引は少額の委託証拠金によって多額の取引を行うことができる投機性の高い取引であること,その仕組みを理解するのは一般人には必ずしも容易ではないこと,商品市場における相場の推移は,当該商品の需給バランスのみならず,政治,経済等の多様な要因の影響を受けて大きく変動し,その確実な予測は不可能であること等が認められることに鑑みると,商品取引員等には,商品先物取引を勧誘する相手方に,複雑困難かつ危険性の高い商品先物取引をする適格性があるかどうかを判断し,適格性に欠ける場合には,その相手方に対する商品先物取引の勧誘をしてはならない義務があるとの趣旨で定められたものと解される。そこで,上記義務に違反して商品先物取引の委託を勧誘することは,不法行為としての違法性を有するというべきである。

ア 取引開始時の適合性について

前記のとおり,原告は,昭和24年生まれであり,本件契約締結時,60歳であったこと,昭和57年6月から古物商を,平成12年頃からはa質屋を営業しており,高校卒業という学歴を踏まえても商品先物取引の仕組みやルールを理解する能力が欠けていたとは認められないこと,年収は1000万円程度であり,流動資産として預貯金1500万円,18金地金20キログラム程度(時価7000万円から8000万円)を保有していたことが認められ,原告の能力及び資産状況からは,本件取引開始時点において,原告が適合性原則に照らして勧誘することが不適当とは認められない。

これに対し,原告は,ガイドラインによれば,被告会社は適合性原則の判断に当たって,受託契約を締結する目的を確認する必要があり,顧客が元本欠損に対してどの程度許容できるかを明確に把握する必要があったにもかかわらず,差金決済という目的しか確認しなかった違法があると主張するが,前記認定のとおり,原告は,預託証拠金以上の損失発生のおそれがあり,追加の証拠金の差入れが必要になる場合があること等の説明を受けた上で先物取引を開始することを決めており,原告が元本欠損を許容することを被告会社は把握していたのであるから,許容性の幅を確認しなかった点で確認が不十分だったとしても,違法とまではいえず,原告の主張は採用できない。

イ 取引継続中の適合性について

(ア) 原告は,被告外務員らが,取引継続中,原告には6500万円程度の金融資産しかなく,投資に当てることができるのは650万円であることを知りつつ過大な取引をさせたと主張している。

原告は,平成23年7月12日に投資可能額を9500万円に増額する旨の申出書(乙14)を被告会社に提出しているが,前記認定のとおり,平成22年5月20日付け申出書(乙10)記載の資産状況は同申出書作成当時の原告の資産状況と適合しているところ,申出書(乙14)に記載されている資産状況は,申出書(乙10)と比較し,日本生命の保険が300万円増加しているほか,第一商品預かり証拠金として9450万円が増加しているが,同証拠金の額は原告の当時の状況に適合していたと認められるので(乙32の16頁),原告の当時の流動資産は約2億5000万円であったと認められ,投資可能額を9500万円とする本件取引が原告の当時の資産状況に照らして明らかに過大な取引であるとは認められない。

(イ) また,原告は,本件取引においては特定売買の比率が高く,手数料の負担について理解できていないものと評価できるから,原告には適合性がないことを示していると主張している。

しかし,特定売買の比率が高いことの一事をもって手数料の負担について理解できていないとはいえないし,特定売買が頻繁に行われていたとしても,そのことのみで原告が商品先物取引についての適合性を欠くとは認められず,原告の主張は採用できない。なお,本件取引において違法な特定売買が行われたかどうかについては,争点10(10)において検討する。

よって,取引継続中においても適合性原則違反は認められない。

(2)  不招請勧誘の禁止違反の有無(争点2)について

平成21年7月10日号外法律第74号に基づき平成23年1月に施行された商品先物取引法214条9号は,商品取引契約の締結の勧誘をしていない顧客に対し,訪問し,又は電話をかけて,商品先物取引契約の締結を勧誘することを禁止している。しかしながら,本件取引が開始したのは同規定の施行前である上,前記認定のとおり,被告外務員らが原告に対して勧誘を開始したのは,平成21年4月29日付けメールで,H名義による資料請求があったことを契機とするものである。同資料請求について,原告は,被告会社の審査時に「ネットでホームページなんか見てもらって」,「あらこういうのはどうなんだろうってね,出しちゃったのが始まりだったの。」と説明しており,少なくともH名義の資料請求を認識し,認容していたことが認められる。また,原告が,勧誘に訪れたBに対して明確に勧誘を断ったと認めるべき証拠はなく,平成21年11月26日及び27日には自宅でBとCの勧誘を受けたのであるから,被告会社の外務員らによる勧誘が不招請勧誘に当たるとは認められない。

よって,被告らに不招請勧誘禁止違反があったとはいえない。

(3)  再勧誘禁止違反の有無(争点3)について

法214条5号は,商品市場における取引の委託を行わない旨の意思又はその委託の勧誘を受けることを希望しない旨の意思前記を表示した顧客に対する再勧誘を禁止しているが,前記(2)のとおり,原告が明確にBの勧誘を断ったとは認められないことから,原告が商品市場における取引の委託の勧誘を受けることを希望しない旨の意思を表示したとはいえず,Bが複数回原告のもとを訪れたことについて再勧誘禁止違反に当たるとは認められない。

よって,被告らに再勧誘禁止違反は認められない。

(4)  説明義務違反の有無(争点4)について

法217条及び218条は,商品先物取引はその担保として預託する取引証拠金等の額に比べて著しく大きい額の取引を行うものである旨,商品市場における相場の変動により預託した取引証拠金等の額以上の損失が発生するおそれがある旨等記載した書面を,受託契約を締結しようとする顧客に交付し,同内容を当該顧客に理解されるよう説明しなければならないと定めており,前記(1)で説示した商品先物取引の特質に鑑みて,受託契約を締結しようとする顧客に対し,商品先物取引の仕組み及びその危険性等について説明し,当該顧客が,商品先物取引には危険が伴うことを認識した上で,その自主的判断に基づいて取引を委託するかどうかを決することができるよう説明すべき義務があることを明確にしたものである。そこで,上記義務に違反して商品先物取引の委託を勧誘することは,不法行為としての違法性を有するというべきである。

前記認定のとおり,C及びBは,平成21年11月26日及び27日に,原告宅を訪問し,主にCが原告に対し,金地金の売買に関する説明をした後,先物取引について,商品先物取引が証拠金取引であって,少ない証拠金で大きな利益を得ることができる場合もあれば,大きな損失が生じる場合もあるハイリスク・ハイリターンな取引であること,追加の証拠金を差し入れる必要がある場合があること,限月の定めがあること,サーキットブレーカー制度等について説明したことが認められる。

これに対し,原告は,B及びCから先物取引についての説明を受けておらず,同両日には,雑談をしたり,電話による審査に対してどのように回答するかのレクチャーを受けただけだったと主張するが,B及びCは,平成21年11月26日には1時間以上,同月27日には顧客審査の時間まで約4時間にわたって,原告と面談していたのであり,B及びCが商品先物取引の仕組みについて説明することは十分可能であった。また,前記認定のとおり,原告が,商品先物取引の仕組みやリスク等の説明を受け,これを理解した旨の記載のある商品先物取引の説明及び理解に関する確認書①及び②(乙6,7)に署名押印していること,原告がIとの適格性審査において,「商品先物取引・委託のガイド」の説明を受けた旨話し,金先物相場が53円下がると追証がかかると回答していること,追証拠金を支払うか,清算するかどうかについて担当者に相談してもいいかという具体的な質問を自らしていること,原告自身,被告外務員らからの説明を受けて,自分が買った方向と反対の方向に相場が動くとお金を多く払う必要があるリスクのある取引だと感じたと供述していることに照らせば,B又はCが商品先物取引の仕組みやリスクについて説明したと推認されるので,原告の主張は採用できない。

また,原告は,被告外務員らが,どの商品につき,どのような情報から相場を予想するかにつき全く説明をしておらず,主体的な相場判断に必要な相場変動要因についても説明していないと主張するが,法218条1項及び2項が受託契約締結に当たって要求する説明は,先物取引の仕組みやリスクに係るものであって,相場変動要因等の説明が要求されているとは認められないので,原告の主張は採用できない。

さらに,原告は,本件取引において特定売買比率が高いことから,取引の意味等を十分に説明していなかったと主張するが,特定売買比率が高いことから直ちに被告外務員らが取引の意味を説明していなかったとはいえず,前記認定のとおり,B又はCは両建等について説明をしていることから,原告の主張は採用できない。

したがって,被告らに説明義務違反があったとは認められない。

(5)  断定的判断の提供の有無(争点5)について

法214条1号は,商品市場における取引等につき,顧客に対し,不確実な事項について断定的判断を提供し,又は確実であると誤認させるおそれのあることを告げてその委託を勧誘する行為をしてはならない旨規定している。この規定は,前記(1)のとおり,商品市場における相場の推移の確実な予測は不可能であるにもかかわらず,先物取引の経験や知識に乏しい顧客は,商品取引員が,利益が生じるのが確実であるなどと断定的な判断を提供してその委託を勧誘すれば,それが十分な根拠をもつものと誤信して,冷静な判断をすることなく勧誘に応じるおそれが強いことから,委託者保護のためにこれを禁止したものと解される。そこで,この規定に違反して,断定的判断を提供し,商品先物取引の委託を勧誘することは,不法行為としての違法性を有するというべきである。

原告は,平成21年11月26日及び27日の勧誘において,Bが,「先物だと利益が上がります」,「儲かりますから」,「損はさせませんよ」等の断定的判断を提供して勧誘を行ったと主張するが,前記(4)のとおり,BとCは,原告に対し,商品先物取引が証拠金取引であって,少ない証拠金で大きな利益を得ることができる場合もあれば,大きな損失が生じる場合もあるハイリスク・ハイリターンな取引であることを説明しており,説明を受けた原告は,自分が買った方向と反対方向にいったら,お金が掛かるというリスクがある取引だと感じたと供述していること,「預託した取引証拠金等の額以上の損失が発生する恐れがあること」の記載がある商品先物取引の説明及び理解に関する確認書①(乙6)等に署名押印していること,平成21年11月27日の適格性審査の際,Iに担当者の相場観どおりに値段が動くとは限らないので,自分で決めるようにと説明されたことに照らすと,Bが上記断定的判断を提供したとは認められず,他に原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

よって,被告外務員らが断定的判断を提供したとは認められない。

(6)  新規委託者保護義務違反の有無(争点6)について

本件取引当時,新規委託者保護を定める法規制等は存在せず,被告会社内部における受託業務管理規則(乙8)13条により定められているのみであった。もっとも,経済産業省作成の商品先物取引の委託者の保護に関するガイドライン(甲4)H5においては,過去一定期間以上にわたり商品先物取引の経験がない者に対し,受託契約締結後の一定の期間(最低3か月)において商品先物取引の経験がない者にふさわしい一定取引量(建玉時に預託する取引証拠金等の額が顧客が申告した投資可能金額の3分の1となる水準が目安)を超える取引の勧誘を行う場合には,適合性原則(法215条)に照らして,原則として不適当と認められる勧誘となると考えられるとされている。その趣旨は,前記(1)で説示した商品先物取引の特質に鑑みれば,商品先物取引が極めて高い投機性を有する一方で,その仕組みの理解や相場判断は一般人にとって必ずしも容易ではなく,特に知識及び経験に乏しく資金的にもそれほど余裕がない新規委託者は多額の損失を被る可能性があること等に照らし,新規委託者が取引経験を積むまでの数か月を習熟期間とすることで,商品取引員等において,当該新規委託者の資質,能力,知識及び経験に応じた適切な情報等を提供した上,その余裕資金の範囲内で不測の損害を被ることのないよう保護しつつ,取引の危険性等を経験的に認識する機会を与えて,取引に習熟させることを目的としたものと解される。

そうすると,商品取引員等は,習熟期間中,新規委託者に対し,無理のない金額の範囲内での取引を勧め,限度を超えた取引をすることのないよう助言すべきであり,短期間に相応の建玉枚数の範囲を超えた頻繁な取引を勧誘したり,また,損失を回復すべく,さらに過大な取引を継続して損失を重ね,次第に深みにはまっていくような事態が生じるような取引を勧誘してはならないと解すべきである。さらに,上述した新規委託者保護義務の趣旨に鑑みると,取引開始から3か月を経過すれば直ちに保護措置を解除し,取引を拡大することが許されると解することはできず,当該顧客が同期間取引を行って実際に取引を経験し,一定程度の知識を得て習熟したと認められない場合には,保護措置を解除することが新規委託者保護義務違反になるというべきである。

前記認定のとおり,原告は,平成22年3月8日に新規委託者保護措置が解除されるまでは,同措置の対象となる新規委託者として保護され,投資可能額650万円の3分の1の範囲で取引をしていたことが認められる。

原告は,前記認定のとおり,本件取引開始から約3か月後に記載した習熟調査票において,売買取引の判断は,担当者の相場観で判断していると回答しており,「まだ先も見えず前に進めないでおります。その為判断が出来ないありさま…。」と記載していることに照らせば,それまでの取引を,自己の相場観を持って判断して行ったとは認められず,担当者の提案に従う形で取引が行われたと推認される。他方,Iとの習熟確認のための電話による通話において,取引開始から3か月が経過して基本的な仕組みやルールを理解したかという問いに対し,「はい,サーキットブレーカーってのも経験しましたし」と回答し,3191円で金を売りに行ったという具体的な話もしていることからすると,原告は本件取引について一定の経験を積み,知識を習得したことが認められ,先物取引を行う上での判断を十分なし得ない部分があったとしても新規委託者保護措置の解除が違法といえるほど取引の仕組みやルールに対する理解が欠如していたとは認められないというべきである。

よって,被告会社が,新規委託者保護措置を解除したことに違法性はなく,原告の主張は採用できない。

(7)  違法な両建の勧誘の有無(争点7)について

既存建玉に対応させて反対建玉を行う両建取引について,法214条8号,施行規則103条1項9号はその勧誘を行うことを禁止しており,商品取引員等が委託者に対し勧誘を行った場合は,違法性を有するものと解される。

前記認定のとおり,原告は,本件取引を開始するまで商品先物取引の経験がなかったものであり,質屋営業で取得した金地金等を売却していたものの,金,白金及び銀等の商品相場につき,相場観やその変動を見極める能力を有していたことを窺わせる事情は認められず,担当者の相場観に従って取引を行っており,平成23年5月9日付けで,両建について説明を受け,メリット及びデメリットを理解して自己の責任で両建取引を行う旨記載した申出書を被告会社に提出し,同年8月3日以降,取引終了時まで,恒常的に両建取引を行っていたことに照らすと,原告が両建の手法について理解していたとは認められず,被告外務員らによる勧誘に従って申出書を提出し,両建取引を行っていたものと認められる。

これに対し,被告らは,原告が平成23年5月9日に両建について質問をし,Fが説明を行ったところ,原告が希望したため申出書を提出したと主張するが,原告自身が両建取引を行うことを希望したのであれば,申出書提出後3か月間も同取引を行っていないことは不自然であるし,同日には原告は損失を出しておらず,また,前述のとおり原告は被告外務員らの相場観に従って取引をしていたにもかかわらず,突然両建について質問をしたというのも不自然である。さらに,両建は飽くまで一時的に損失を固定して相場状況の動向を注視する手法であるにもかかわらず,前述のとおり本件取引は平成23年8月3日以降取引終了までの間ほぼ両建状態になっており,原告がその趣旨を理解していたとは到底認められない。よって,原告が自主的に両建取引を希望したという被告らの主張は採用できない。

したがって,本件においては,被告外務員らから違法な両建の勧誘が行われたと認められる。

(8)  無断売買,一任売買の有無(争点8)について

法214条3号は,商品市場における取引等につき,数量,対価の額又は約定価格等その他の主務省令で定める事項についての顧客の指示を受けないでその委託を受けることを禁止しており,同規定が商品先物取引市場の公正価格形成機能を保護する趣旨の下にあることに鑑みると,これに違反する取引は不法行為としての違法性を有するというべきである。

前記認定のとおり,本件取引において,原告は,被告外務員らの提案を受け,その相場観に従って取引をしており,原告が全てを自ら判断し,本件取引をしていたということはできないが,Di-2に3年弱で1084回アクセスし,土曜日,日曜日,祝祭日にも被告外務員らの指示なしに190回アクセスしていたこと等に照らすと,原告が本件取引をすることを被告外務員らに全て一任したとか,原告が知らないところで,原告に全く無断で売買がされ,原告の意思決定の自由が存しないような形で行われたとまでは認められない。

なお,原告は,平成23年3月11日の東日本大震災後,原告宅の電話が同年4月20日まで不通になったにもかかわらず,同月11日に取引が行われており,無断売買であることは明らかであると主張するが,原告宅の電話が再開通した日時を裏付ける客観的な証拠はなく,原告の主張は採用できない。また,原告は,特定売買比率が高い不合理な取引を継続していることから,本件取引を主体的に行っていたものではなかったことが裏付けられると主張するが,特定売買の比率が高いことから直ちに原告が本件取引全体を主体的に行っていなかったとはいえず,原告の主張は採用できない。

よって,本件取引が無断売買,一任売買であったとまではいえない。

(9)  過当売買禁止義務違反の有無(争点9)について

商品先物取引において,商品取引員等が委託者の知識や経験の乏しさに乗じて手数料を稼ぐ目的で,委託者の取引志向に反するような過当な取引を繰り返させたと認められるような場合には,その受託の本旨に反し委託者の利益を害するものであるから,社会的相当性を逸脱したものとして違法性を有するものと解される。

前記認定のとおり,本件取引において,平成23年7月以降取引量が急激に増え,両建取引を開始した同年8月3日には金の売玉400枚,買玉200枚に至っており,先物取引の経験がなく専門的知識を有していない上に平成22年11月頃には2,30枚程度の取引をしていた(証人F・2頁)原告の取引としては極めて枚数が多いといえる。また,本件取引が被告外務員らの提案に原告が従う形で進められていたこと及び原告が被告会社に対し負担した手数料額は8485万6053円で,原告の損失額6009万5309円の141.2%に及んでいることに照らすと,本件取引において被告外務員らは委託者である原告の知識や経験の乏しさに乗じて手数料を稼ぐ目的を有していたものと認められる。したがって,本件取引においては,原告にとって過大な取引が行われていたといわざるを得ず,本件取引は過当売買に当たるというべきである。

これに対し,被告らは,原告が平成23年7月12日に本件取引の累計利益金8350万円を流動資産に組み込み,投資可能額を9500万円に修正し,両建取引についても原告自ら申出書を提出しており,原告自らの判断で取引量を増大させたと主張するが,前述のとおり,原告は被告外務員らの提案を受け,その相場観に従って取引を行っていたのであり,累計利益金を流動資産に組み込んだことについても被告外務員らの誘導があったと推認されるし,両建取引について理解していたとは到底認められないことからすれば,取引量の増大についても原告自らの判断によるとはいえず,被告らの主張は採用できない。

よって,本件取引は過当売買に当たるというべきである。

(10)  違法な特定売買の有無(争点10)について

商品先物取引において,商品取引員等が委託者に対し,何らかの合理的な理由や必要性もないのに,委託者の知識や経験の乏しさに乗じて手数料を稼ぐ目的で,委託者に頻繁かつ無意味に売買を繰り返させたと認められるような場合には,商品取引員等がその委託の本旨に反し,委託者の利益を害するものであるから,当該取引は社会的相当性を逸脱したものとして違法性を有すると解される。

前記認定のとおり,本件取引における特定売買は,別紙1「建玉分析表」のとおりであり,新規346件(金307件及び白金39件の合計)のうち,直し(既存の建玉を仕切った日と同じ日に,これと同一のポジションの建玉(限月が異なる場合を含む。)を行うこと)62回,途転(既存の建玉を仕切る日と同じ日に,反対のポジションの建玉(限月が異なる場合を含む。)を行うこと)80回,両建(既存建玉に対応させて反対建玉を行うこと)147回,仕切り685件(金608件及び白金77件の合計。ザラバ取引により1回の取引注文で成立が分散された場合は1回として計算するのが相当である。)のうち,日計29回,不抜け28回,その特定売買比率は50.5%と非常に高い。特定売買自体は違法な取引ではないものの,このような複雑な取引を顧客が自己の自由な判断に基づいて行うためには,商品先物取引に関する知識や相場変動を見極める能力等を相当程度有していることが必要となるところ,前述のとおり,原告にはそのような知識や能力がなく,被告外務員らの誘導と提案に従って本件取引を続けてきたものである。

また,前記認定のとおり,原告の損失額6009万5309円の損失の141.2%が手数料によるものであることに照らすと,本件取引における特定売買を行ったことについて合理的な理由や必要性を説明できない限り,本件取引は,原告の知識,経験の乏しさに乗じて手数料を稼ぐ目的で被告外務員らが原告に対して無意味な売買を繰り返させたものであり,違法な行為であると推認されるというべきである。

しかし,被告らは,本件取引における特定売買について合理的な理由や必要性を説明せず,その合理性や必要性があったことを認めるに足りる客観的かつ的確な証拠はない。

したがって,本件取引は,全体的に社会的相当性を逸脱し,違法性を有するというべきである。

(11)  被告らの責任(争点11)について

ア 以上によれば,本件取引に係る被告外務員らの行為には,違法な両建の勧誘,過当売買禁止義務違反,違法な特定売買があり,違法であると認められるから,不法行為が成立する。

そして,被告外務員らによる本件取引の勧誘や受注は,被告会社の事業の執行につきなされたものであることは明らかであり,被告会社と被告外務員らとの間に使用関係が存在することは争いがないから,被告会社は,被告外務員らの上記不法行為につき使用者責任を負うものというべきである。

なお,上記のとおり使用者責任が認められるから,被告会社の債務不履行責任については判断を要しない。

イ また,前記認定のとおり,被告会社が,長年にわたり顧客との間で多数の紛争を抱え,全国各地で多数の訴訟を提起され,本件と同様に新規委託者保護義務違反,特定売買,過当取引,両建勧誘などの違法行為を認める判決が数多く出されていたこと,被告会社においてこれらの違法行為を防止するための方策を実施している等の事実が窺えないことに照らせば,同社の従業員が違法な営業活動を行うことのないよう指導監督する義務を負っており,これを認識していたにもかかわらず,重過失により指導監督を怠っていたことというべきである。そして,被告代表取締役らの上記職務懈怠と,本件取引における被告外務員らの違法行為及び原告が被った損害との間には相当因果関係があると認められる。

よって,被告代表取締役らは,原告に対し,連帯して,会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負うものというべきである(会社法430条)。なお,同項に基づく損害賠償債務は,履行の請求を受けた時に遅滞に陥る(最高裁昭和59年(オ)第15号平成元年9月21日第一小法廷判決・最高裁判所裁判集民事第157号635頁参照)ので,附帯請求の起算日は,訴状送達の日である。

(12)  損害額(争点12)

ア 前記認定のとおり,本件取引の全体を通して,原告は,合計6009万5309円の損失を出したことから,被告らの違法行為によって原告が被った損害の額は,6009万5309円であると認められる。

イ 商品先物取引が投機取引であり,極めてリスクの高いものであることは公知の事実であるところ,原告も,本件契約締結時において,商品先物取引がリスクの高い,損失の生じ得る取引であることは認識していた旨述べていること,原告が,被告外務員らの助言に従って取引をすれば,利益が得られる取引であると軽信し,追証拠金を支払うか,取引を清算するかの選択が可能であることを理解しながらも取引を継続したこと,被告外務員らによる誘導があったと推認されるものの,取引を拡大する旨の申出書を自筆で作成し,署名押印していること等の諸般の事情を考慮すると,原告の過失割合は3割と認めるのが相当であり,これを原告が被告らに対し賠償を求めることができる損害の額から控除することが相当というべきである。そうすると,本件取引により原告に生じた損害のうち,被告らが賠償すべき金額は,4206万6716円となる。

これに対し,原告は,本件において過失相殺をすることは,恒常的に不法行為を働く者を利することになり,法の正義の見地から許されるべきではないと主張するが,原告の損失が全て被告らの利得に帰したわけではなく,損失の拡大に寄与した原告の落ち度を考慮することが公平であるというべきであるから,原告の主張は採用することができない。

ウ 原告が被告らに対し賠償を求め得る本件取引による損害の額,本件訴訟追行の難易等諸般の事情を考慮すれば,被告らの不法行為及び任務懈怠と相当因果関係のある弁護士費用は,420万円と認めるのが相当である。

エ 以上より,被告らが賠償すべき原告の損害の額の合計は,4626万6716円と認められる。

第4結論

以上によれば,原告の請求は,主文の限度で理由があるから認容し,その余は理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 髙取真理子 裁判官 内田哲也 裁判官 宮崎裕季子)

〈以下省略〉

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