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仙台地方裁判所 平成24年(ワ)1120号 判決

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1請求

1  被告らは,原告Aに対し,連帯して110万円及びこれに対する平成24年7月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告らは,原告Bに対し,連帯して110万円及びこれに対する平成24年7月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告らは,原告Cに対し,連帯して110万円及びこれに対する平成24年7月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  被告らは,原告らに対し,別紙2記載の謝罪広告を,別紙3記載の条件で1回配布せよ。

第2事案の概要等

本件は,被告らがa市(以下,単に「市」ということがある。)内に配布される朝刊の折り込みとして作成,配布した平成24年7月22日付け「DE議会報告」(以下,同議会報告一般を単に「議会報告」といい,同日付け議会報告を「本件議会報告」という。)に掲載された内容によって名誉が毀損されたとして,原告らが,本件議会報告を作成,配布した被告らに対し,それぞれ,不法行為に基づく損害賠償として,連帯して110万円及びこれに対する不法行為日(本件議会報告配布日)である平成24年7月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,民法723条に基づき,謝罪広告の掲載を求める事案である。

1  前提事実(争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実―争いがない事実及び当事者が争うことを明らかにしない事実については特に根拠を明記しない。)

(1)  当事者等

ア 原告らは,いずれも東日本大震災(以下「震災」という。)発生以前からa市に居住しており,震災当時,原告A及び原告Cは同市b地区に,原告Bは同市c地区にそれぞれ居住していた者である。

イ 被告らは,いずれも市議会議員であり,被告F,被告G,被告H,被告I及び被告JはDという議会会派に,被告K及び被告LはEという議会会派にそれぞれ所属している(なお,被告Fは,Dの会長であり,被告Kは,Eの会長である。)。

ウ D及びEは,連名により,定期的に議会報告を発行しており,議会報告は,市内において,朝刊の折り込みとして配布されている。

(2)  原告らの請願に関する経緯

ア 市では,震災により仙台東部道路東側において津波被害を受けたことから,市内の沿岸6地区(c,d,b,e,f,g)につき,防災集団移転促進事業(以下「集団移転事業」という。)を策定し,上記6地区の各代表者らと協議の上,集団移転先をh西地区及びこれに隣接するi地区(j地区)の2地区(以下「本件地区」という。)に決定し,国による事業認定を受けた(乙9)。

イ 原告らは,請願の趣旨として「a市は,集団移転地を一カ所と計画していますが,東日本大震災における津波被害で家を失った被災者には,津波の心配がない他の移転先を早急に選定していただくよう請願いたします。」と記載した平成24年6月7日付け「集団移転に関する新たな候補地についての請願書」(以下「本件請願書」という。)を市議会に提出したが(なお,ここで原告らが集団移転地を1か所としているのは,h西地区とi地区が隣接しているため,事実上1つであると捉えていることによる。),市震災復興推進特別委員会は,同月17日,原告らの意見を聴取し,同月20日,反対多数によりこれを不採択とした(甲1,弁論の全趣旨)。

(3)  本件議会報告の配布に関する事実経過

ア 被告らは,平成24年7月22日,市内において,朝刊の折り込みとして,本件議会報告を配布した。本件議会報告には,合計6つの記事が両面に3つずつ印刷されており,裏面の記事の一つ(紙面上の面積は3分の1程度)として,「請願書について反対しました」との表題で,冒頭に,本件請願書の請願の趣旨の一部並びに請願者である原告らの氏名及び居住地区が記載されるとともに,本件請願書に反対した理由として,下記の記事(以下「本件記事」という。)が掲載された(甲2,弁論の全趣旨)。

「この請願書をよく読んでみますと,津波をかぶった東部地区,h地区はだめな地区というような印象を受けます。

今住んでおられる方々,j地区の皆様はだめな地区に住んでいる住人というようになります。そうなれば,jの土地区画整理事業にも大きな影響がでることも予想されます。私たちは,h地区の再生なくしてaの復興はないと思っております。

防災集団移転事業が,万が一失敗したら今まで住んでいた宅地,農地の買取りや今から住む地域の事業も出来なくなる懸念もあります。

今,市が計画しているh西地区は,これまで被災6地区で何度も協議した合意に基づいて決定した地区であります。従いましてこの地区を早急に整備すべきと考えました。新たな候補地については,h西地区の整備に一定目途がついた段階で検討すべきであり,今回の具体性のない請願については反対しました。

なお,委員会および本会議において採決の結果12名の反対によりこの請願は不採択となりました。

我々2会派は自立に向けた市独自の支援策を講じてほしいことを強く要望しております。」

イ 原告らは,平成24年7月25日,被告らに対し,抗議文を送付し,本件議会報告における被告らが記載した本件記事についての訂正と謝罪を求めたが,被告らは,同抗議文に対し,回答しなかった。

その後,原告ら訴訟代理人は,被告らに対し,原告らの代理人として,議会報告を再度発行し,本件記事の訂正と原告らに対する謝罪及び本件請願書の全文掲載をするよう求める通知書を送付した(甲4)。

ウ 被告らは,平成24年9月2日,再度,議会報告を配布し,同議会報告において,本件請願書の内容を全文掲載し,議会としての対応の経緯や本件記事の内容を紹介した上で,上記イの抗議文及び原告ら訴訟代理人送付に係る通知書の内容を掲載し,「訂正と謝罪の必要性はなしと判断」との見出しにより,そのように判断した理由を記載した。

2  争点及び争点に関する当事者の主張

本件の争点は,①本件記事が,原告らの名誉を毀損するものであるか否か(争点1),②本件記事が原告らの名誉を毀損するものである場合,違法性が阻却されるか(争点2),③違法性が阻却されないとした場合,被告らにつき,故意又は過失が阻却されるか(争点3),④原告らが被った損害の有無及びその損害額(争点4)であり,これらの点に関する当事者の主張は,後記第3で特に摘示するもののほか,別紙4記載のとおりである。

第3当裁判所の判断

1  争点1(名誉毀損の成否)について

(1)  判断の枠組み

一般に,文書による特定の表現の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは,一般の読者の普通の注意と読み方を基準に判断すべきであるところ(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁),文書に記載されたある記事を読む一般の読者は,通常,当該記事のうち,名誉毀損の成否が問題となっている記載部分のみを取り出して読むわけではなく,記事全体及び記事の前後の文脈から当該記事の意味内容を認識ないし理解し,これに評価を加えたり感想を抱いたりするものであると考えられるから,ある記事が他人の社会的評価を低下させるものであるか否かを判断するに当たっては,名誉毀損の成否が問題とされている記載部分の内容のみから判断するのは相当ではなく,当該記載の記事全体における位置付けや,表現の方法ないし態様,前後の文脈等を総合して判断するのが相当である。

また,ある表現行為に関し,事実の摘示による名誉毀損と意見ないし論評による名誉毀損をどのように区別するかについては,当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的に主張,又は黙示的に主張するものと理解されるときは,当該表現は,上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)一方,上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値,善悪,優劣についての批評や議論などは,意見ないし論評の表明に属するものと解するのが相当である(最高裁平成15年(受)第1793号,第1794号同16年7月15日第一小法廷判決・民集58巻5号1615頁)。

(2)  判断の枠組みに照らした検討

上記(1)の判断の枠組みに照らして検討するに,本件において名誉毀損の成否が問題となる表現を含む本件記事が記載された文書は,a市議会の2つの会派に属する市議会議員が,同市の一般市民向けに,市議会における活動等の内容や状況を報告する記事を記載して作成し,朝刊の折り込みとして,同市内で配布した文書である。そして,本件記事は,上記文書の一部を構成するもので,本件請願書に係る請願者である原告らの氏名及び居住地区とともに,請願の趣旨の要旨として,原告らが,a市が集団移転先として計画している地区(本件地区)に関し,津波の心配がない他の移転先を早急に選定するよう請願する旨が記載された部分(以下「本件請願部分」)に引き続く部分であって,その内容を見ると,被告らの属する会派が本件請願書に反対した理由として,①「この請願書をよく読んでみますと,津波をかぶった東部地区,h地区はだめな地区というような印象を受けます。今住んでおられる方々,j地区の皆様はだめな地区に住んでいる住人というようになります。」と記載した部分(以下「本件問題部分」という。)及び②集団移転事業が失敗した場合の不利益の大きさとh西地区を集団移転先として被災6地区で何度も協議したという経緯を記載した部分(以下「その他の理由部分」という。)と,③被告らの属する会派が本件請願書に反対したこと及び本件請願書に係る請願が不採択となったことなどを記載した部分(以下「本件結論部分」という。)から成っている。

そこで,まず本件記事の全体の構成や本件問題部分の位置付け等について見ると,本件記事は,原告らがa市議会に本件請願書を提出したことを前提に,本件請願書の要旨を記載した本件請願部分に引き続く形で,被告らが本件請願書に反対する活動を行い,本件請願書に係る請願が不採択となったことを報告する文面において,本件請願書に反対する理由(本件問題部分)を,その他の理由部分と並べて具体的に記載し,本件結論部分を導くものということができる。このような全体の構成の下で,本件問題部分は,本件記事の作成者(被告ら)が,a市が進めている集団移転事業を促進する目的から,本件請願書に対する反対の理由を強調しようという意図の下に,本件請願書に対する否定的評価を記載したものと見ることができる。

以上の構成や位置付け等を踏まえて,本件問題部分の表現等に着目すると,口語体の丁寧語を用い,婉曲な表現ではあるが,本件請願書の内容を批判することを目的としてされた文章表現であると見ることができる一方,前記のとおり,本件記事が,本件請願書の要旨を記載した上で,「この請願書をよく読んでみますと,(中略)というような印象を受けます。」という表現を用いたものであることから,本件問題部分は,本件請願書を読んだ被告らの主観的な印象を述べたものであるにとどまり,原告ら自身が「津波をかぶった東部地区,h地区はだめな地区」であると述べたことを表現したものでないことは,記事全体及び前後の文脈に照らし,一般の読者の普通の注意と読み方をもってすれば明らかということができる。さらに,本件問題部分のうち,「今住んでおられる方々,j地区の皆様はだめな地区に住んでいる住人というようになります。」という文章から成る部分は,結論めいた表現を用い,本件請願書の内容に対する批判を強める形にはなっているものの,前記の「この請願書をよく読んでみますと,(中略)というような印象を受けます。」との記載部分に直ちに続く形の文章となっていることから,同部分に記載された作成者(被告ら)の印象と同趣旨のものであると容易に理解できる。

このように見てくると,本件問題部分は,被告らの主観的印象を表現したものにとどまり,その性質上,表現の対象とされた事実の存否を証拠等をもって決することが可能とはいい難いものであって,本件問題部分を含む本件記事も,原告らが本件請願書を提出したという事実を前提として,同請願書を読んだ結果,被告らが受けた印象に関する意見ないし論評を表明したものといえる(この点に関し,原告らは,本件記事が,原告らが被災地区を誹謗中傷し,集団移転事業を阻害しようとしているという事実を摘示するものである旨主張するが,以上の検討結果に照らして採用できない。)。

そして,本件問題部分は,その記載内容からすると,被告らが,本件請願書を読んだ結果,原告らが本件地区について集団移転の候補地としては不適切であると考えている旨の印象を受けたことを表現したものであって,震災に起因して本件地区に生じた津波等の自然災害に係る危険を念頭に,本件地区に対する集団移転先としての評価に関する本件請願書の内容に対する印象を述べたにとどまるものとして,一般の読者の普通の注意と読み方を基準にすれば,原告らが本件地区の住民らに対して誹謗,中傷をしたことを表現したものと認識ないし理解することのできないものである(一部の良心的でない読者が,本件記事の内容を曲解することがあり得るとしても,それは,基本的には当該読者の良心ないし受け止め方の問題であり,当該読者の言動の態様等の如何によって,当該読者の原告らに対する不法行為責任が成立し得る場合があるのは格別,本件問題部分については,一般の読者の普通の注意と読み方をもってすれば,意見ないし論評を記載したものであることは,容易に理解できるから,被告らの原告らに対する不法行為責任を基礎付けるものとはいえない。)。

そうであるとすれば,本件問題部分は,本件請願書について否定的意見ないし論評を表現したもので,その表現中に,原告らの心情に対する配慮を欠く部分があることは否定できないとしても,本件記事全体の中での位置付けや表現方法,前後の文脈等の点から見て,原告らの社会的評価を低下させるものということはできない。

(3)  原告らの主張に対する検討

これに対し,原告らは,本件記事が,本件請願書の内容を曲解し,原告らが被災地区を誹謗,中傷したと読めるなどとして,名誉毀損行為に当たる旨主張する。

この点,確かに,本件記事は,原告らが提出した本件請願書の内容を正確に伝えようとする意思が感じ取れるものではなく,被告らないしその所属する会派として,a市が進めてきた集団移転事業を促進する目的から,半ば牽強付会ともいえる表現を用いたものといえる。

もとより被告らないしその所属する会派が本件請願書に反対すること自体は,政治的言論の自由(憲法21条1項)の保障の趣旨から適法な行為であるということができるが,原告らが本件請願書をa市議会に提出する行為は,憲法16条に基づく請願権の行使として保障された行為として,私人間の政治的言論においても尊重されるべきものであることに加え,本件記事が,a市議会の2会派の名でa市民全体に配布される文書の内容を構成するものである一方,これに対し,請願をした原告らに同等の弁明の機会が保障されているわけではなく,その表現が,上記目的の範囲を超え,震災に伴う津波により家屋の浸水等の被害を受けた地区の住民の心情を徒らに刺激し,住民相互の対立不信の感情を助長することにもなりかねないものであることからすると,本件問題部分の表現は,いささか慎重かつ適切な配慮を欠いたものといわなければならない。

しかしながら,先に見たとおり,本件問題部分を含む本件記事の記載内容自体は,本件請願書を読んで被告らが受けた印象を論評として記載したにとどまり,本件記事の一般の読者が,普通の注意と読み方をもって本件問題部分を読んだ際に,原告らが,本件地区の集団移転地としての適性について1つの意見を述べたにとどまらず,本件地区やその住民を誹謗,中傷する意見を述べたと受け取るとは通常考え難いことであるから,原告らの上記主張は採用できない。

また,原告らは,本件議会報告が配布された後に,他の住民から「町内会にバカが2人いる」,「負け戦をやっている」,「集団移転もしないのに,そんなものに首突っ込んでんだ」などと言われたことなどを指摘して,原告らがこうした待遇を受けるに至ったのは,本件記事により原告らが本件地区を誹謗,中傷したものと受け取られたからである旨主張するかのようである。

しかしながら,仮に原告らに対し,上記主張のような言動をする人物がいたとしても,当該言動の原因は,本件記事における表現内容にあるというより,原告らが本件請願書を提出したこと自体にあると見ることができるのであって,そのような言動の当否は別として,一般の読者の普通の注意と読み方からすれば,本件記事が,原告らが本件地区を誹謗,中傷したと受け取られるものでないことは明らかということができる。

したがって,原告らの上記主張は採用できず,他に原告らが縷々主張するところも上記認定,判断を左右しない。

2  結論

よって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 小川理佳 裁判官 吉賀朝哉)

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