大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 平成23年(行ウ)1号 判決

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告が財団法人Aに対して平成22年9月30日付けでした建築確認処分(確認番号第×××××××××××号)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第2事案の概要

本件は,被告が財団法人A(以下「A」という。)に対して平成22年9月30日付けでB病院職員宿舎(鉄筋コンクリート造・一部鉄骨造,地上8階建の共同住宅,保育所。以下「本件係争建物」という。)の増築についてした建築基準法(以下「法」という。)6条の2第1項に基づく確認処分(確認番号第×××××××××××号。以下「本件処分」という。)につき,原告らが,被告に対し,本件処分が同法6条1項にいう建築基準関係規定に違反する違法なものである旨主張して,本件処分の取消しを求める事案である。

1  前提事実(争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨等により認められる事実)

(1)  当事者

原告らは,いずれも本件係争建物の隣接地に居住する者であり(甲16),被告は,法77条の18から77条の21までの規定の定めるところにより指定を受けた指定確認検査機関である(顕著な事実-本件記録中の資格証明書)。

(2)  本件処分の経緯等

ア 建築確認申請及び建築確認処分

Aは,一続きとなっている甲市乙区丙町a番の土地(以下「aの土地」という。)及び同町b番cの土地(以下「b番cの土地」という。また,両土地をあわせて以下「本件土地」という。)を敷地(敷地面積はaの土地につき1352.23m²,b番cの土地につき1306.22m²)として,北棟と南棟からなる本件係争建物の建築を計画し,平成22年8月20日,被告に対し,同計画に係る建築確認申請をし,これを受けて被告は,同年9月30日付けで法6条の3第1項,6条1項に基づき本件処分を行った(甲2,乙1,2の1及び2,乙3)。

なお,本件処分後,Aから本件建築計画に係る増築工事を請け負ったC株式会社のD支店一級建築事務所は,平成22年11月17日,被告に対し,本件南棟について,職員会議室,ホールの形状変更及びこれに伴う配管の変更や非常照明,建築図変更に伴う感知器の変更等について,建築基準法施行規則3条の2に該当する軽微な変更の報告をしている(乙2の1及び2,弁論の全趣旨)。

イ 本件処分に係る建築計画の内容

(ア) 本件処分に係る建築計画(以下「本件建築計画」という。)は,B病院職員宿舎の増築を内容とするもので,既にaの土地上に完成していた北棟部分(鉄筋コンクリート造・一部鉄骨造,地上8階建,最高の高さ24.119m,延べ面積2227.63m²,用途共同住宅の耐火建物。以下「本件北棟」という。)に,b番cの土地上の南棟部分(鉄筋コンクリート造・一部鉄骨造,地上5階建,最高の高さ16.244m,延べ面積1343.29m²,用途共同住宅・保育所の耐火建物。以下「本件南棟」という。)を増築する計画であり,本件北棟と本件南棟から成る本件係争建物を,建築基準法施行令(以下「令」という。)1条1号の定める「一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物」として,その敷地上に本件係争建物を建築しようとするものである(甲1,2,19,乙3,弁論の全趣旨)。

(イ) 本件建築計画においては,本件北棟と本件南棟の各1階部分を長さ35.2m,幅約1.75mの概ね直線上の渡り廊下(屋根及び外壁のあるもの。以下「本件渡り廊下」という。)で相互に接続するものとされており,各棟と本件渡り廊下はエキスパンションジョイント(温度変化による伸縮,地震時の振動性状の違いなどによる影響を避けるために,建物を幾つかのブロックに分割して設ける相対変位により追随可能な接合部の手法及び工法)により接合されることが予定されている(乙3,6,7,弁論の全趣旨)。

(ウ) なお,エキスパンションジョイントに関し,令81条2項は,法20条2号イに規定する建築物のうち,高さ31m以下の建築物の構造計算について,許容応力度等計算又は保有水平耐力計算若しくは限界耐力計算のいずれかによることを原則とし,令81条4項は,2以上の部分がエキスパンションジョイントその他の相互に応力を伝えない構造方法のみで接している建築物の当該建築物の部分は,同条2項の適用について,「それぞれ別の建築物とみなす」旨規定している。

ウ 本件係争建物の接道に関する事実と規制等

(ア) 本件土地は,都市計画区域に属しており,市街化区域の第一種住居地域(建ぺい率60%,容積率200%),第3種高度地区,準防火地域に指定されているところ,本件建築計画上,本件係争建物の建ぺい率は37.55%,容積率は119.39%とされている(甲5,乙3)。

(イ) 本件北棟の敷地であるaの土地は法43条1項の定める道路(以下「道路」という。)に約27.58m接している(乙3)。また,本件南棟の敷地であるb番cの土地は道路に約4.54m接している(争いがない)。

(ウ) 本件係争建物と原告らの居住地との距離関係

原告X1は,本件南棟との距離約2.2mに所在する土地上に居住する者であり,原告X2は,本件南棟との距離約4.2mの土地上に居住する者である(甲16)。

エ 行政不服審査請求及び本件訴訟の提起

原告らは,本件南棟が丁県建築基準条例(以下「県条例」という。)9条の接道義務に違反しているとして,平成22年10月15日付けで,甲市建築審査会に対し,本件処分の取消しを求めて審査請求をしたが,平成23年2月15日付けで同請求を棄却する旨の裁決がされたため,同日,本件訴訟を提起した(甲19,顕著な事実)。

2  争点及び争点に関する当事者の主張

(1)  争点1(原告適格の有無-原告らは,本件処分の取消しを求める訴えの原告適格を有するか。)

ア 原告らの主張

接道義務を定めた法43条2項,県条例9条は,基準を充足しない建築物の建築による被害からの保護を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,当該建築物の住民及びその近隣住民の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものである。原告らは本件係争建物と非常に近接した場所に居住しており,本件係争建物が接道義務の要件を満たさない場合には,本件係争建物の火災の際,消火活動等に支障が生じる結果,本件係争建物の倒壊,炎上等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住する者に当たるので,本件処分の取消しを求める法律上の利益を有する者として原告適格を有する。

また,上記各規定は,道路等による公共の空間の確保のほか,敷地に応じた個々の建築物の大きさを規制することにより,当該建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物に居住する者の健康をも個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むものである。原告X1は,本件係争建物の建築により冬至日において午前7時20分ころから午前11時40分ころまでの約4時間20分の日影被害を受けることになるので,本件処分の取消しを求める法律上の利益を有する者として原告適格を有する。

イ 被告の主張

本件係争建物の火災の際には,本件北棟側から消防車両が進入することが可能であるから,火災によって延焼,倒壊する危険が発生する蓋然性は極めて低い。加えて,延焼の発生可能性は,県条例9条の定める延べ面積1000m²を超える建築物が建築された場合と,それ以下の建築物が建築された場合とで大きく変わるといった事情は見出されない。

また,本件係争建物の建築によっても,原告X1に生じる日影被害の程度は僅かで,むしろ冬至日においては本件南棟の敷地であるb番cの土地に従前建っていた建物による日影被害よりも少ないので,本件係争建物により原告X1が害される利益の程度は小さい。

(2)  争点2(本件処分の適法性の有無-本件処分が県条例9条の定める接道義務の要件を満たすかに関し,本件係争建物が,「一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物」(令1条1号)と認められるか。)

ア 原告らの主張

本件係争建物は,本件南棟と本件北棟とが,長さ約36mに及ぶ1本の渡り廊下で接続されているにすぎず,しかも接続されているのは1階部分のみであって日本建築行政会議が外観上の一体性につき渡り廊下が複数階に及び相互に連絡する構造を有することを判断基準として掲げていることに照らしても,外観上の一体性を有していない。

また,本件北棟と本件南棟は,前者が先行して完成しており,構造計算が個別になされていることは明らかであり,相互に構造計算上依存する関係にもなく,接続部分は1階の細長い渡り廊下1本のみで,建築物の構造の主要部分を共有しているとはいえないから,本件係争建物は,構造計算上一体の建築物として成立していることを構造上一体の建築物の判断基準として掲げている日本建築行政会議の基準に照らしても,構造上の一体性を有しているとはいえない。

そして,本件北棟と本件南棟はそれぞれ実質的に女子棟,男子棟に用途が分かれ,それぞれに管理室が存在しており棟ごとの管理が可能であることに加え,本件南棟に設置予定の保育所も独身用居住施設である本件係争建物と機能上何ら関連性を有していないこと,本件渡り廊下も各棟の玄関や出入口付近に設置されており避難経路確保の観点からも必要性や実用性が皆無であることからすれば,本件係争建物が機能上の一体性を有していないことも明らかである。

建築主であるAは,本件南棟には保育所や職員会議室といった共用施設を設置予定であるとして機能上の一体性を基礎付けようとしているが,被告主張の施設は,本件南棟の内部構造上必要不可欠の存在とはみられない上,Aが,本件建築計画の確認申請の前後の過程で,原告らの指摘を受けて,本件南棟に設置を予定しているというエントランスホールや職員会議室等について,説明及び計画の内容を変遷させるなど,機能上の一体性の存在を装おうとしていることからしても,被告主張の上記事情等をもって本件係争建物の機能上の一体性を基礎付けることはできないというべきである。

したがって,本件係争建物は,社会通念に照らし,外観上,構造上及び機能上の一体性を有しているとはいえず,令1条1号の定める「一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物」に該当しないところ,延べ面積1000m²を超える本件南棟の敷地であるb番cの土地は,道路と4.54mしか接していないので,本件処分は県条例9条の定める接道義務に違反している。

イ 被告の主張

本件渡り廊下は,開放廊下ではなく,屋根及び壁を有するもので,外壁にも外観上の連続性が認められるので,本件係争建物は外観上の一体性を有する。

構造上の一体性とは,外壁や床棟の建築物の主要な構造部分が一体として連結し,あるいは密接な関係をもって接続していることをいうところ,本件北棟,本件渡り廊下及び本件南棟は,エキスパンションジョイントによって連結され,本件係争建物は構造上の一体性を有する。エキスパンションジョイントとは建築物の構造体が相互に力学上影響を及ぼし合わないようにする接続方法であり,令81条4項(被告答弁書の「1項」との記載は誤記と認める。)はこのような方法で接続された建築物についても「一の建築物」と認めた上で,構造計算の規定上は例外的に別の構造物とみなして計算するように規定しているのであるから,構造計算上依存する関係にないことをもって構造上の一体性を否定することはできない。

本件係争建物は,居住者の出入りにおけるセキュリティ確保の観点から,夜間や風雨時にも通行可能な渡り廊下で接続されており,非常時には両棟の居住者が相互に本件渡り廊下を通じて避難することも可能である。また,郵便物やエントランス,電気給水設備,集合操作盤については,本件北棟で集中管理することとされており,本件係争建物の居住者はいずれも本件南棟に設置予定の保育所や職員会議室を利用できるほか,駐車場については本件係争建物の敷地内の駐車場又は本件北棟の屋内駐車場を利用することとされている。原告らは,建築主であるAが原告らの指摘を受けて本件係争建物の内部構造を変遷させたなどと主張するが,建築確認は,申請に係る建築計画に至る経緯や建築主の内心の意図,思惑によって,当該建築計画の適法性が左右される性質のものではない。

したがって,本件係争建物は「一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物」に当たるので,その敷地であるaの土地が道路に27.58m接している以上,県条例9条に違反しない。

第3当裁判所の判断

1  争点1(原告適格の有無)について

(1)  原告らは,建築確認が建築物の倒壊,炎上による被害や日影被害を受ける近隣住民の利益も個別的利益として保護しているとして原告適格がある旨主張するのに対し,被告は,原告らに倒壊,炎上による被害が生ずる蓋然性は極めて低い上,原告X1に生じる日影被害の態様や程度も軽微であるから,原告らの利益は害されないとして原告らの主張を争うので,この点について検討する。

(2)  行政事件訴訟法9条1項にいう処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利又は法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい,当該処分の根拠となる法令の規定が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合に,当該処分によりこのような利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」に当たると解される。

そして,処分の相手方以外の者について上記法律上の利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮することを要し,当該利益の内容及び性質等の考慮に当たっては,当該処分がその根拠法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度を勘案することを要する(同条2項)。

(3)  上記行政事件訴訟法の規定及び解釈に即して検討するに,建築確認は,法6条1項の建築物の建築等の工事が着手される前に,当該建築物の計画が建築基準法をはじめとする建築関係規定に適合していることを公権的に判断する行為であって,それを受けなければ当該工事をすることができないという法的効果が付与されており,建築関係規定に違反する建築物の出現を未然に防止することを目的としたものである。法43条1項の定める接道義務も上記建築関係規定に含まれるところ,同項は,建築物の接道義務を規定することにより,義務を充足しない建築物の建築の結果生ずる建築物の炎上等による被害ないしは不利益からの保護を,専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,当該建築物の使用者及びその近隣住民の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解される(最高裁平成4年9月22日第三小法廷判決・民集46巻6号571頁,最高裁平成14年1月22日第三小法廷判決・民集56巻1号46頁参照)。そして,同条2項が避難又は通行の安全を確保するために条例による制限の付加を認めた規定であることからすれば,上記趣旨は,同項を受けて制定された県条例9条にも同様に妥当すると解される。

加えて,本件処分が上記接道義務の規定に違反してされた場合に害されることとなる原告らの利益をみると,前記前提事実(2)ウ(ウ)によれば,原告らは,本件係争建物の炎上等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する建物に居住していると認められ,本件係争建物が接道義務を充足しない場合には,火災の際の消火活動等の防災に支障を生じる結果,その生命,身体,財産に直接的かつ重大な被害を受けるおそれがあるといえる。

(4)  そうであれば,原告X1に生じる日影被害の点について判断するまでもなく,原告らは,本件処分により法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者として,行政事件訴訟法9条にいう「法律上の利益を有する者」に当たるから,本件処分の取消訴訟における原告適格を有すると認められる。

2  争点2(本件処分の適法性の有無-接道義務に関し,本件係争建物が,「一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物」(令1条1号)と認められるか。)について

(1)  原告らは,本件係争建物が北棟と南棟を長さ35.2mの渡り廊下で結んだものであり,外観上,構造上及び機能上の一体性を有しておらず,実質は「一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物」(令1条1号)に当たらないので,本件南棟が独立して接道義務を充足すべきところ,その敷地であるb番cの土地は4.54mしか公道に接していないから,本件処分は県条例9条の接道義務に違反する旨主張する。

(2)  令1条1号は,一つの敷地に建築することができるのは原則として「一の建築物」であるとし(一建築物一敷地の原則),例外として用途上不可分の関係にある「二以上の建築物」を一つの敷地に建築することができると定めているが,建築物がいかなる場合に「一の建築物」に当たるかという点については,その要件を定めた法令及び県条例の明文の規定はない。

そこで,法令の趣旨及び目的に照らして解釈することが必要であるところ,上記一建築物一敷地の原則が,本件で問題となっている敷地の接道義務(法43条1項)のほか,容積率及び建ぺい率の制限(同52条,53条),隣地斜線制限及び北側斜線制限(同56条),日影制限(同56条の2)等の建築規制を実効あらしめるものであることからすると,「一の建築物」に当たるか否かを判断するに当たっては,このような法令の趣旨及び目的に鑑み,社会通念に照らし,構造上,外観上及び機能上の一体性の各面から総合的に判断するのが相当である。

(3)  このような見地から検討すると,前記前提事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件建築計画に関し,以下の各事実が認められる。

ア 本件南棟と本件北棟とは1階部分が長さ35.2m,幅約1.75メートルの概ね直線状の本件渡り廊下で接続されており,本件北棟の1階部分と本件渡り廊下,本件南棟の1階部分と本件渡り廊下とは,それぞれエキスパンションジョイントによって接続されている。そして,本件渡り廊下には屋根及び外壁が設けられ,外形上各棟とは共通の外壁で連続する形で施工される計画である。(以上につき,乙2の2,乙6,7,11)。

イ 本件南棟への水道水や電気の供給の方法をみると,水道水については,水道管と接続された,本件北棟内の既設の増圧ポンプから本件南棟へ給水される計画であり,電気については,本件北棟内の既設の設備(変圧器,引込開閉器盤等)を経由して本件南棟へ送電される計画である(乙15,17,弁論の全趣旨)。また,本件南棟の居住者は本件北棟に設置されたエントランス,郵便受けを利用することとされており,本件南棟のエレベーターホール前の出入口は非常口として,日常的には使用しないこととされている(乙7,11,弁論の全趣旨)。

ウ 本件係争建物は,病院の職員宿舎としての使用を予定して増築されるもので,本件南棟には,居住者を含む病院の職員が利用可能な保育所が設置されるほか,共用施設として職員会議室が設置される予定である(乙7)。

(4)  上記(3)の認定事実に基づく検討の内容及び結果は,以下のとおりである。

ア まず,本件係争建物の外観上及び構造上の一体性についてみると,本件係争建物は南棟と北棟とが長さ35.2m,幅約1.75mの概ね直線状の本件渡り廊下で接続されており,本件渡り廊下は屋根や外壁によって覆われ,屋外に開放されていない上,各棟とは外形上共通の外壁で連続する形で施工されること(上記(3)ア)からすれば,本件係争建物には外観上及び構造上の一体性が一定程度認められる。

これに対し,原告らは,本件係争建物の各棟と本件渡り廊下がエキスパンションジョイントによって接続されていること(同ア)から,各棟が構造計算上別個の建築物であり,相互に依存する関係にないとして,本件係争建物が構造上の一体性を有しない旨主張する。

しかしながら,エキスパンションジョイントは,接続する構造体同士に相互に力学的影響を与えないことを意図した建築手法の1つとして今日認められており,令81条の規定(前記前提事実(2)イ(ウ))も,法20条に規定する建築物の構造計算に関し,エキスパンションジョイントのみを用いて接続された建築物が「一の建築物」たり得ることを前提に,構造計算上,「当該建築物の部分」を別の建築物と「みなす」こととしたものと解され,上記(2)でみた法令の趣旨及び目的に照らしても,構造体相互の力学的影響の有無が「一の建築物」か否かの判断を決するものとは解されない。

そうであれば,エキスパンションジョイントによって各棟と本件渡り廊下が接続されていることのみをもって,建築物の構造上の一体性が否定されるということはできないから,原告らの上記主張は採用できない。

イ また,原告らは,本件北棟と本件南棟の接続部分が,1階の細長い渡り廊下1本のみであることなどから,本件係争建物が構造上の一体性を欠く旨主張する。

確かに,既存の建築物と増築される建築物が渡り廊下のみで接続される場合に,増築される建築物の高さや渡り廊下の形状(長さ,幅,構造)によっては,火災の際の消防活動その他の防災上の見地からみて,接続の態様,程度が明らかに不自然,不合理であるなど,法令の趣旨に反すると認められるときには,一体性のある建築物として許容することができない場合があると考えられる。

しかしながら,前記認定のとおり,本件南棟と本件北棟は,各1階部分が本件渡り廊下(長さ35.2m,幅約1.75m)で接続するにとどまるものの,本件渡り廊下は,外壁と屋根に覆われ,開放性のない構造で,その外壁は各棟とは共通し,連続性のあるものと認められるものであり,本件南棟の高さ(地上5階,最高の高さ16.244m)に照らし,その接続の態様,程度が明らかに不自然,不合理であるとまではいえず,本件全証拠及び当庁平成23年(行ク)第3号執行停止申立事件の記録から顕著な事実によっても,上記接続により本件係争建物の一体性が認められた場合に,本件係争建物に係る火災の際の消防活動等の防災上看過できない支障を生じるおそれがあるとは認め難く,本件係争建物につき構造上の一体性を認めることが上記法令の趣旨に反するとは認められない。

したがって,本件北棟と本件南棟の接続部分の態様,程度から,本件係争建物が構造上の一体性を欠くと断定することはできないから,原告らの上記主張も採用できない。

ウ もっとも,本件係争建物の接続の態様が,1階部分のみが渡り廊下で接続されたにとどまることからすると,本件係争建物について,上記ア,イでみた外観上の一体性及び構造上の一体性の観点から直ちに「一の建築物」であるとまではいえないので,更に機能上の一体性の観点から検討する。

(ア) 本件係争建物は病院の職員宿舎であり,本件南棟には職員の居宅用の居室及び共用施設として保育所や職員会議室が設置される予定であるところ(上記(3)ウ),本件南棟における水道水及び電気の供給は本件北棟内の既存の設備を介して行われる上,本件南棟への出入りや郵便物の受取も本件北棟を通じて行われることになるのであって(同イ),このような設備の利用には,費用,資源等の経済面や防災,防犯等のセキュリティ面からみて合理性が認められる。

そうすると,本件南棟の主要な用途に即した機能は,本件北棟に存する設備の利用と一体となって実現されるものということができるから,本件北棟と本件南棟の間には機能上の一体性があり,その程度は相当強度のものと認められる。

(イ) これに対し,原告らは,本件係争建物の各棟1階エレベーター付近に管理室が存在すること(乙2の2)を,本件北棟と本件南棟の一体性を阻害する事実として指摘するが,上記(ア)の事実に照らせば,各棟に管理室が存在することのみから,本件係争建物において,給水及び電気供給の点で本件北棟と本件南棟を独立して管理することが当然に要請されるものということはできない。

また,原告らは,本件渡り廊下の設置場所が各棟の出入口付近であることを理由に,避難経路確保の上で設置する必要性や実用性が皆無である旨主張するが,渡り廊下の目的や機能は避難経路であることに限定されるわけではなく,上記認定のとおり,本件係争建物が病院の職員宿舎であることからすれば,女性を含む職員の夜間を含む日常生活上のセキュリティやプライバシー確保の見地から,出入口や郵便受けを既存の本件北棟に集約し,本件北棟と本件南棟を外界に開放されていない通路でつなぐことには合理性があるといえる。

そうであれば,本件渡り廊下には,このような目的に照らして必要性,実用性があるということができるから,原告らの上記各主張に係る事実も,本件北棟と本件南棟の機能上の一体性を左右するものということはできない。

(ウ) さらに,原告らは,建築主であるAが,本件建築計画の確認申請の前後の過程で,原告らの指摘を受けて,本件南棟に設置を予定したエントランスホールや職員会議室についての説明及び建築計画を変遷させるなどして,本件係争建物の機能上の一体性を装おうとしてきたことからしても,被告主張の事情から本件係争建物の機能上の一体性を基礎付けることはできない旨主張する。

しかしながら,そもそも,建築確認は,申請の対象とされた建築計画につき建築関係規定に適合するか否かを判断する確認行為であるから,「一の建築物」に当たるか否かは,当該建築確認処分の対象とされた建築計画の内容から客観的に判断されるものであり,申請に係る建築計画の作成に至る経緯や建築主の内心の意図,思惑によってその判断が左右されるものではなく,建築確認に至る経緯等からみて,建築主において,建築関係規定を潜脱する意図で建築計画を作成したと認められ,そのことから当該建築物の機能上の一体性を否定される場合があるとしても,本件において,原告らが指摘する建築計画の変遷の内容及び本件処分後の本件建築計画の変更の程度(前記前提事実(2)ア,イ)に加え,本件係争建物の建ぺい率,容積率と周辺地域に対する規制との対比(同ウ)や,上記(ア),(イ)でみた本件北棟と本件南棟の機能の関連性,合目的性及び本件渡り廊下の必要性,実用性に照らせば,原告らの指摘する説明の変遷や建築計画の変更の事実をもってしても,Aにおいて,本件係争建物について建築関係規定を潜脱する意図があったとまでは認め難い。

したがって,原告らの上記主張も採用できない。

エ 以上の検討結果を基に,本件係争建物について,その外観上,構造上及び機能上の各面を総合すれば,「一の建築物」に当たると認めるのが相当である(なお,本件係争建物のように,外観から一見して「一の建築物」としての要件を充足するか明確に判断し難い建築物については,建築確認申請を受けた建築主事又は指定確認検査機関において,「建築物の一体性」について,機能上の一体性を含めた総合的な判断を的確に行うことが求められる一方,建築主の側において,上記判断に必要かつ適切な資料を提出するとともに,建築確認申請から建築工事の完了に至る過程で,周辺住民に対する説明等の面で相応の配慮をすることが望まれるところである。)。

(5)  以上によれば,本件係争建物の敷地は道路に27.58m接しているといえるから,本件処分は県条例9条の定める接道義務の要件を満たすものと認められ,他に本件処分の適法性を動かすに足りる事実及び証拠はない。

第4結論

よって,原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 関口剛弘 裁判官 小川理佳 裁判官 吉賀朝哉)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例