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仙台地方裁判所 平成23年(ワ)919号 判決

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告Y1,被告Y2及び被告Y3は,原告らに対し,連帯してそれぞれ330万円及びこれに対する平成23年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告Y4は,被告Y1,被告Y2及び被告Y3と連帯して,原告らに対し,それぞれ82万5000円及びこれに対する平成23年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,B株式会社(以下「B」という。)と労働契約を締結していたが,Bの廃業及び会社解散を理由に解雇された原告らが,Bの取締役であった被告Y1,被告Y2及び被告Y3並びに同じく取締役であったAの相続人である被告Y1,被告Y2及び被告Y4に対し,取締役としての任務懈怠があり,これにより原告らが損害を被ったとして,会社法429条に基づき,また,被告Y1,A,被告Y2及び被告Y3は,震災の影響によりBを解散するかのように装い原告らを解雇し,これにより原告らが損害を被ったとして,民法709条に基づき,慰謝料及び弁護士費用相当額の損害賠償並びにこれらに対する解雇された日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求している事案である。

1  争いのない事実等

(1)  原告らは,いずれもBと期限の定めのない労働契約を締結し,平成23年3月31日当時,Bの業務に従事していた(争いのない事実)。

(2)  被告Y1,A,被告Y2及び被告Y3(以下,これらを総称して「被告取締役ら」という。)は,平成23年3月31日当時,運送業や倉庫業を業とするBの取締役であった(争いのない事実)。

(3)  Bは,原告らに対し,平成23年3月31日,Bの廃業及び会社解散を理由として,同年4月末日をもって解雇するとの意思表示をした(以下「本件解雇」という。)(争いのない事実)。

(4)  Bは,平成23年6月20日,株主総会の決議により解散し,被告Y1が清算人兼代表清算人となった(乙1)。

(5)  Aは,平成23年12月19日,死亡した。Aの相続人は,妻である被告Y2,子である被告Y1及び被告Y4である(弁論の全趣旨)。

2  争点

(1)  被告取締役らの会社法429条に基づく責任の有無

(2)  被告取締役らの不法行為に基づく責任の有無

3  争点に関する当事者の主張

(1)  被告取締役らの会社法429条に基づく責任の有無

(原告らの主張)

取締役が会社に対する任務を懈怠し,悪意又は重過失が存在する場合,取締役は,会社法429条に基づき,損害賠償責任を負うところ,取締役は会社を名宛人とし,会社がその業務を行うに際して遵守すべき全ての規定についても,これに違反する行為をしたときは,会社に対する任務を懈怠したというべきであるから,取締役が労働関係法規に違反した場合も,会社に対する任務を懈怠したこととなる。本件においては,被告取締役らには,以下のとおりの義務違反があった。

そして,原告らは,被告取締役らの任務懈怠により,極めて大きい精神的苦痛を受けているところ,これを慰謝するには少なくともそれぞれ300万円の支払を受ける必要があり,弁護士費用として,30万円を被告取締役らに負担させるのが相当である。

ア Bに対する事業継続義務違反

取締役には,会社が仮に窮乏に直面した場合でも,直ちに会社の業務を中止すべきではなく,会社業務の継続が明白に取引先等の第三者に対してかえって損害を与えるような場合を除いて,会社の経営の立て直しと業績の回復に努めるべきところ,被告取締役らは,Bが窮乏に直面したなどとはおよそいえないにもかかわらず,Bの経営を投げ出しており,事業継続義務に違反する。

イ 原告らに対する説明義務違反

被告取締役らは,取締役として,Bが倒産しなければならないか否か,業績見込みやその理由,回避手段がないこと等を,労働契約の相手方である原告らに対して懇切丁寧に説明する義務を信義則上負っているところ,被告取締役らは,Bの経営状況に関し,労働組合や原告らに誠実に説明せず,原告らに対する説明義務に違反した。

ウ 解雇回避義務違反

被告取締役らは,Bに労働関係法規を遵守させる義務を負っているところ,Bは,東日本大震災やこれに伴う津波により営業所が被害を受けておらず,複数の他企業から仕事の依頼を受けていたにもかかわらず,廃業及び会社解散をすることとして,原告らを解雇したのであり,これは客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当ではなく労働契約法16条に違反するものであったから,被告取締役らはBに労働関係法規を遵守させる義務に違反した。

また,会社の経営者は安易に従業員を解雇すべきではなく,解雇を極力回避すべき義務を信義則上負っているところ,被告取締役らは,Bの事業継続が容易だったにもかかわらず,東日本大震災を口実に営業努力を放棄して安易に会社解散して原告らを解雇しており,被告取締役らは解雇回避義務に違反した。

エ 不当労働行為により会社解散をしない義務違反

Bにおいては,平成22年4月,労働組合が結成されたところ,Bに対し,団体交渉を求め様々な要求をして,一時金の支給をさせ,手当の一方的減額をさせないといった成果を上げると共に,Bから拒否されたが,役員報酬額の開示や過去5年分の決算書の提出,取締役の退任要求もしたのであって,Bは組合に対する嫌悪感を抱くに至っていた。このような経緯の後,Bは解散することとなったのであって,これは組合嫌悪を理由として,組合に支配介入する不当労働行為によるものである。

そして,被告取締役らは,Bにおいて労働組合法を遵守させるべきであったから,Bの違法行為を看過した点においてBに対する任務を懈怠したといえる。

オ 再就職への配慮義務違反

被告取締役らは,Bを廃止するに当たり,従業員に最大限再就職のあっせん等の努力をすべきところ,具体的な会社名を挙げず,単に「ハローワークへ行け」,「Bにいたことは考えてはもらえるかもしれない」,「頼んではあるが,どうなるかは不明だ」と言うのみで,何らのあっせんもしておらず,著しい任務懈怠がある。

また,Bが便宜を図ったことにより,Bの従業員のうち13名の従業員がC株式会社(以下「C」という。)に再雇用されているが,原告らに対しては,何ら同社への再雇用について説明をせず,労働組合員に対して差別的取扱いをしており,これは不当労働行為となるから,被告取締役らは,Bの労働組合法違反の違法行為を看過した点において,Bに対する任務を懈怠した。

(被告らの主張)

会社法429条は,取締役が会社に対する義務につき,任務懈怠した場合に,悪意又は重過失ある取締役について責任を認める規定であるところ,原告らの主張する義務は,いずれも取締役の会社に対する義務であるとはいえず,また,被告取締役らに悪意又は重過失はなかったから,被告らは責任を負わない。

ア Bに対する事業継続義務

会社の廃業や解散は,最終的には株主総会により株主の意思に基づいて決せられるもので,株主には憲法22条1項により,企業廃止や解散の自由が保障されているのであって,株主総会による決定に基づき解散が決せられた場合,それを忠実に執行するしかない取締役において,事業継続義務は負わず,被告取締役らはBに対して事業継続義務を負わない。

なお,被告取締役らは,Bの株主でもあるが,他にも株主がいるし,取締役が株主であったとしても,株主としてした判断につき,取締役としての義務違反に問われることはない。

イ 原告らに対する説明義務

原告らの主張する義務は,取締役の会社に対する義務ではなく,被告取締役らは原告に対して説明義務を負わない。

また,被告取締役らは,原告らに対し,労使交渉の席上,過去5年分の決算書類を閲覧させて経営状況について説明しているし,会社解散について説明しようとした際にも,原告らが全く説明を聞こうとしなかったのであるから,被告取締役らにおいて,原告らに対して説明をしていないとはいえない。

ウ 解雇回避義務

原告らは,会社の経営者は解雇を極力回避すべき義務を負うとするが,会社法429条は,取締役の会社に対する義務に違反した場合の規定であるから,取締役は,会社に対し,原告らの主張する義務を負わない。

そして,Bの解散は,過去5年間にわたる実質的赤字,代表取締役である被告Y1の体調不良による職務不能とそれに代わる代表者候補の不存在という極めて厳しい状況の中で,東日本大震災により,取引先が打撃を受け,Bの売上げが落ち込んだために,株主の判断によりされたものであって,偽装解散ではないから,解散に伴いされた解雇が解雇回避義務に違反するとはいえない。

エ 不当労働行為により会社解散をしない義務

Bが解散したのは,前記ウのとおりの事情によるものであり,組合嫌悪による支配介入の不当労働行為によるものではない。

また,Bの解散は,株主により決定されたものであり,これにより取締役が責任を負うことはなく,原告らの主張は,株主としての行為と取締役としての行為を混同している。

オ 再就職への配慮義務違反

原告らは,被告取締役らは,従業員に再就職のあっせん等の努力をすべき義務を負うとするが,会社法429条は,取締役の会社に対する義務に違反した場合の規定であるから,取締役は,会社に対し,原告らの主張する義務を負わない。

また,Bは,業務を引き受けてくれる会社に対し,できるだけ担当従業員も雇用してもらいたい旨の要請をしていたところ,Cは,一番多くの仕事を引き受けることになり,Bの従業員を一定程度引き受けることとなったが,社内審査をしたい等の理由から,ハローワーク経由で同社の募集に応募してほしいとのことであったため,Bにおいて,全ての従業員に対し,平成23年4月26日,Cへの就職に関する説明会を行ったのであって,労働組合員に対する差別的取扱いをしていない。

(2)  被告取締役らの不法行為に基づく責任の有無

(原告らの主張)

被告取締役らは,事業継続が容易であり,東日本大震災直後に解雇されることが,従業員にとって極めて打撃であるにもかかわらず,あたかも東日本大震災の影響であるかのように装い,従業員の雇用継続を放棄し,企業外に放逐するために会社経営を終了させたのであって,不法行為責任を負う。

また,前記(1)(原告らの主張)の各義務は,被告取締役らのBに対する義務であると同時に,Bの経営者であった被告らが,Bと労働契約を締結していた原告らに対し,信義則上負う義務でもあるから,これらの違反により,被告取締役らは不法行為責任を負う。

そして,原告らは,被告取締役らの不法行為により,極めて大きい精神的苦痛を受けているところ,これを慰謝するには少なくともそれぞれ300万円の支払を受ける必要があり,弁護士費用として,30万円を被告取締役らに負担させるのが相当である。

(被告らの主張)

取締役としての職務に懈怠があった場合には,第三者に発生した損害について故意過失の主張立証がなくとも,当該第三者に対して直接に責任を負う反面,職務懈怠の態様については悪意又は重大な過失がある場合に限り,責任を負うとされていることからすると,会社の意思決定に基づき,会社の業務執行として行った行為については,民法709条ではなく,会社法429条によってその責任の存否を問われるべきであり,本件において,被告取締役らは,民法709条に基づく不法行為責任を負わない。

第3争点に対する判断

1  争点(1)(被告取締役らの会社法429条に基づく責任)

(1)  会社法429条は,取締役において悪意又は重大な過失により会社に対する義務に違反し,これによって第三者に損害を被らせたときは,取締役の任務懈怠の行為と第三者の損害との間に相当の因果関係がある限り,当該取締役が直接第三者に対し,損害賠償の責めに任ずべきことを定めたものであるから,同条に基づく取締役の責任の有無を判断するに当たっては,当該取締役が会社に対してどのような義務を負っているかと,当該取締役に同義務違反の任務懈怠について悪意又は重過失があるかどうかに着目して判断すべきこととなる。

以下,被告取締役らがBに対して負う義務内容と,被告取締役らの同義務違反について悪意又は重過失の有無という観点から,被告取締役らの会社法429条に基づく責任の有無について検討する。

(2)  Bに対する事業継続義務違反

原告らは,被告取締役らに,Bが窮乏に直面しても,直ちにその業務を中止すべきではなく,経営の立て直しと業績の回復に努める義務があるのに,これに違反したと主張する。

株式会社の取締役は,株式会社に対し,その職務を執行するにつき,善良な管理者としての注意義務を負い,法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し,株式会社のために忠実にその職務を行う忠実義務を負うところ,株式会社は,株主総会の決議により解散することとされているのであるから,株式会社において,株主の意思により解散するとの意思決定がされた場合,取締役が株式会社に対し,事業継続義務を負うとはいえないと解される。

本件においては,前記第2,1(4)のとおり,Bは,株主総会の決議により解散しているのであるから,被告取締役らにおいてBに対して事業継続義務を負っているとはいえず,その任務懈怠を理由に損害賠償を求める原告らの主張は理由がない。

(3)  原告らに対する説明義務違反

原告らは,被告取締役らは,Bの労働契約の相手方である原告らに対し,Bが倒産しなければならないか,業績見込みやその理由,回避手段がないこと等を説明する義務を負っていると主張する。

しかし,原告らは,被告取締役らに対し,会社法429条に基づき,損害賠償を求めているが,原告らの主張する義務は,被告取締役らのBに対する義務ではないから,会社法429条に基づく責任を基礎付けるものとはいえない。

(4)  解雇回避義務違反

原告らは,被告取締役らはBに労働関係法規を遵守させる義務を負っているが,Bによる本件解雇は労働契約法16条に違反するものであったから,Bに労働関係法規を遵守させる義務を懈怠した,被告取締役らはBの従業員の解雇を回避すべき義務を負っているが,本件解雇により同義務に違反したと主張する。

株式会社は,株主総会による解散の決議がされると,現務の結了等を目的とする清算手続に入り,清算の結了により消滅する。このように,会社が解散した場合,同会社は営業を行わないのであり,営業の存続を前提として従業員の雇用を継続することは不可能であるから,解散に伴う解雇は,特段の事情のない限り,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当なものとはいえないとして無効になることはないと解するのが相当である。

原告らは,Bが廃業及び会社解散をせざるを得ない状況にはなかったから,本件解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当でないと主張するが,会社が偽装ではなく実際に解散した場合に,これに伴う解雇が特段の事情のない限り無効にはならないのは,上記に説示したとおりであり,本件において,解散に伴いされた本件解雇につき,上記特段の事情はうかがえないから,本件解雇が無効であるとはいえない。

そうすると,Bによりされた本件解雇は労働契約法16条に違反しないから,被告取締役らにおいて,Bをして労働契約法16条を遵守させなかったという任務懈怠があるとはいえない。

なお,原告らは,被告取締役らにおいて,従業員に対して解雇を回避すべき義務を負うとも主張するが,これは被告取締役らのBに対する義務ではないから,会社法429条に基づく責任を基礎付けるものとはいえない。

(5)  不当労働行為により会社解散をしない義務

ア 原告らは,Bは組合嫌悪を理由に,組合に支配介入する不当労働行為によりBを解散したのであり,被告取締役らは,Bに労働組合法を遵守させる義務に違反したと主張する。

イ そこで検討するに,以下の事実は当事者間に争いがないか,証拠により認めることができる。

(ア) Bにおいては,平成18年3月決算期から平成20年3月決算期まで,毎年500万円前後の営業赤字が続いており,平成21年3月決算期には1800万円を超える営業赤字となったため,従業員の賞与約1600万円や役員の報酬2400万円のうち750万円をカットしたところ,平成22年3月決算期には350万円を超える営業黒字となった(甲5の1~5,乙7)。

(イ) 原告X1,原告X2,原告X3及び原告X4は,平成22年4月,労働組合(D組合)を結成し,Bに対して団体交渉の申入れをし,Bの代理人として被告ら訴訟代理人も出席して,平成22年4月30日の第1回から,平成23年3月5日の第8回まで,8回の団体交渉が行われた(争いのない事実)。

(ウ) 平成23年3月11日に東日本大震災が発生したが,被告においては,トレーラーの牽引車が津波により被災した以外は,事務所や倉庫などの不動産も含めて被害がほとんどなかった(争いのない事実)。

(エ) Bは,平成23年3月決算期において,1540万4096円の営業赤字となり,営業外収益や特別損失と併せて,6920万6671円の純損失となった(甲5の6)。

(オ) Bは,従業員らに対し,平成23年3月31日,被告ら訴訟代理人も出席して,Bは過去5年間実質的に赤字であること,代表取締役である被告Y1が体調不良で出社できず,代わりに指揮を執れる者もいないこと,東日本大震災で売上げが著しく減少し,当面の間は全面的回復は見込めず,仮にしばらくして取引先が全面復旧したとしても,もともとが赤字である以上,助成金などで当面の間だけしのいでも抜本的解決にはならないことなどを説明した(争いのない事実)。

(カ) その後も,Bは,D組合の要求を受けて,団体交渉をした(甲4,弁論の全趣旨)。

(キ) Bは,平成23年4月26日,被告ら訴訟代理人も出席して,全従業員を集めて説明会を行い,雇用保険の手続や予想される支給金額,退職金,厚生年金基金からの共済金の手続等について説明をし,再就職問題についても説明した(争いのない事実,甲14)。

(ク) Bは,東北運輸局長に対し,平成23年5月2日,従前から経営が悪化していたところ,震災の影響もあってさらに経営が悪化したとして,事業廃止を届け出た(乙6)。

(ケ) Cは,Bの全従業員35名のうち,ハローワーク経由で同社への就職を申し込んだBの従業員13名全員について,平成23年5月1日以降,採用した(乙5,弁論の全趣旨)。

ウ 前記イに認定した事実によれば,Bは,過去5年間実質的に赤字の状態で,平成23年3月決算期にも営業赤字を拡大させているのであり,Bが全従業員に対して説明したとおり,東日本大震災によりBの設備等については直接に被災しなかったものの,取引先が被災したことにより,経営が悪化して,事業を廃止し,会社を解散するに至ったと認められる。

原告らは,原告らが労働組合を結成し,Bに対して種々の要求をするようになったため,Bは,労働組合に対する嫌悪感を抱き,これに支配介入する意図で会社を解散したと主張する。しかし,Bは,労働組合からの団体交渉要求に応じて,被告ら訴訟代理人出席の下,団体交渉を行っていること,証拠(乙13)によれば,労働組合もBが被告ら訴訟代理人を弁護士として選任しているため,違法なことはできないと認識していたことからすると,東日本大震災発生前には,労働組合に対し,嫌悪感を抱いて何らかの不当労働行為をしていたとは評価できないのであって,これと上記のとおり,Bの解散が経営不振に基づくものであることからすると,Bが労働組合を嫌悪して解散したと認めることはできない。

エ 以上によれば,Bの解散は不当労働行為とはいえないから,被告取締役らにおいて,Bをして不当労働行為により解散させないという義務につき任務懈怠したということはできない。

(6)  再就職への配慮義務違反

ア 原告らは,Bは,一部従業員にはCへの再雇用について説明して便宜を図ったのに,原告らには説明せず,差別的取扱いの不当労働行為を行っているところ,被告取締役らはBをして労働組合法を遵守させる義務を懈怠した,また,被告取締役らは,原告らに対し,何ら再就職のあっせんをせず,任務懈怠があると主張する。

イ 被告らは,Bにおいて,全ての従業員に対し,平成23年4月26日,Cへの就職に関する説明会を行ったと主張するのに対し,原告らは,同日に再就職に関する説明会はあったものの,Cという具体的な社名は出ておらず,その際には,単にハローワークへ行くよう言われ,「Bにいたことは考えてはもらえるかもしれない」,「頼んではあるが,どうなるかは不明だ」と言われたのみであったと主張する。

しかしながら,証拠(甲14)によれば,同日行われた説明会の際の資料には,再就職の件について,口頭で説明すると記載されているところ,議題として取り上げる以上は,一般的な再就職についての説明にとどまらず,より具体的に説明するのが通常であると考えられる。原告らも,「Bにいたことは考えてはもらえるかもしれない」,「頼んではあるが,どうなるかは不明だ」と説明されたなどと主張しているところ,これはBにおいて,具体的な再就職候補先があることを前提とする説明をしたと評価できるものである。そして,前記(5)で説示したとおり,Bにおいて,東日本大震災前に不当労働行為はあったとは認められず,Bの解散も不当労働行為であるとはいえないことからすれば,Bにおいて労働組合に嫌悪感を抱いていたとも評価できないし,廃業して解散するBにおいて,殊更に労働組合員に対して差別的取扱いをする動機も考えにくいことからすると,原告らが陳述(甲15,16)するように,Bにおいて,全従業員の出席する説明会を開催したにもかかわらず,原告らに対してのみCという社名を出しての説明をしなかったと認めることはできない。

したがって,被告取締役らにおいて,Bをして,再就職のあっせんにつき,労働組合員を差別的に取り扱わないという不当労働行為をさせ,任務懈怠したということはできない。

ウ 原告らは,被告取締役らは,原告らに対して再就職配慮義務を負うとも主張するが,これは被告取締役らのBに対する義務ではないから,会社法429条に基づく責任を基礎付けるものとはいえない。

(7)  以上によれば,被告取締役らが会社法429条に基づく責任を負うとの原告らの主張はいずれも採用できない。

2  争点(2)(被告取締役らの不法行為に基づく責任の有無)

(1)  原告らは,被告取締役らは,事業継続が容易であったにもかかわらず,東日本大震災の影響であるかのように装い,従業員の雇用継続を放棄し,企業外に放逐するために会社経営を終了させたのであって,不法行為責任を負うと主張する。

しかしながら,前記1(2)で説示したとおり,被告取締役らはBに対して善管注意義務及び忠実義務を負うところ,Bが株主総会において解散することを決定したのであるから,被告取締役らが取締役としての立場において,会社経営を終了させたことについて,不法行為責任を負うことはないと解される。

弁論の全趣旨によれば,被告取締役らは,Bの株主でもあったことが認められるが,前記1(5)で説示したとおり,Bは経営不振により解散することとなったのであるから,被告取締役らが株主としての立場においても,会社経営を終了させたことについて,不法行為責任を負うとはいえない。

(2)  原告らは,被告取締役らは,Bと労働契約を締結していた原告らに対しても,信義則上,被告取締役らがBに対して負う義務と同様の義務を負うとして,不法行為責任を負うと主張する。

しかしながら,被告取締役らがBに対して負う義務の存否や,その義務違反の存否は,前記1で説示したとおりであり,原告らに対する説明義務については,被告取締役らのBに対する義務とはいえず,原告らと直接の契約関係にない被告取締役らが,信義則上,原告らに対して負うとは評価できないし,その余の義務についても,被告取締役らにおいてBに対する義務に違反したとはいえない。

(3)  以上によれば,被告取締役らが不法行為責任を負うとの原告らの主張は採用できない。

3  以上検討のとおり,原告らの主張はいずれも採用できないから,原告らの請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判官 荒谷謙介)

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