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仙台地方裁判所 平成23年(ワ)1825号 判決

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1請求

1  被告は,原告に対し,2000万円及びこれに対する平成23年4月12日から支払済みまで年14%の割合による金員を支払え。

2  前項につき仮執行宣言

第2事案の概要等

本件は,原告が,保険会社である被告との間で,地震デリバティブ取引契約(予め合意した地点において,一定震度以上の地震が発生したことを支払条件とし,被告が原告に対し所定の計算式で求められるオプション変動金額を支払う金融商品)を締結し,その後,平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(以下「本件地震」という。)により支払条件が成就した旨主張して,被告に対し,上記のオプション変動金額として2000万円及びこれに対する約定の年14%の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。

1  前提事実(末尾に証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

原告は,宮城県(以下略)において各種機械部品の切削加工業等を営む株式会社である。また,被告は,損害保険業等を営む株式会社である。

(2)  地震デリバティブ取引契約

原告は,平成20年10月29日,被告との間で金融デリバティブ取引に関する基本契約書(以下「本件基本契約書」という。甲2)を取り交わし,平成22年10月27日,本件基本契約書に基づき,被告との間で地震デリバティブ取引約定書(以下「本件約定書」という。甲3)を取り交わすことにより,その記載に従い,予め定めた要件に合致する地震の発生を条件として,被告が定める方法により計算したオプション変動金額を原告に支払う内容の地震デリバティブ取引(以下「本件取引」という。)を行う旨を合意した。本件取引の取引条件は,次のとおりである。

ア 定義

次に掲げる用語は,本件約定書において以下のとおり定義されている。

(ア) 「対象となる地震」

計算期間内に,震度発表名称と呼ばれる場所において観測した地震をいう。本件の計算期間は,平成22年11月1日0時00分から平成23年10月31日23時59分までであり,本件の震度発表名称は,「宮城美里町北浦」(以下「美里町北浦」という。)である。

(イ) 「気象庁震度」

気象庁又はその承継機関(気象庁が廃止された場合にその機能を承継する機関)(以下,単に「気象庁」という。)が発表する震度をいう。

(ウ) 「地震指数」

地震指数決定日の前日時点で気象庁が発行している最新の「週間地震概況」から得ることができる,対象となる地震(定義(ア)参照)の最新の気象庁震度(定義(イ)参照)をいう。

なお,地震指数決定日において地震指数が決定された後は,気象庁震度が変更された場合でも,地震指数は変更しない。

(エ) 「地震指数決定日」

対象となる地震(定義(ア)参照)が発生した日の22日後(営業日でない場合は翌営業日)をいう。

イ 取引形態(地震デリバティブ取引)

本件取引は,オプション購入者がオプション売却者に対して予め定めたプレミアム金額(オプション料)を支払う一方で,計算期間中に対象となる地震(定義(ア)参照)が発生した場合に,オプション購入者がオプション売却者から予め定めた計算式に基づき算出された金額(これを「オプション変動金額」という。)を受領する取引をいう。

ウ プレミアム

オプション購入者は,オプション売却者に対し,平成22年10月29日までにプレミアム金額として30万4000円を支払う。原告は,同日,被告に対し,プレミアム金額の30万4000円を支払った。

エ オプション変動金額

オプション変動金額は,所定の計算式(計算基礎金額の2000万円に対象となる地震(定義(ア)参照)に対応するオプション変動レートを乗じる)に従い,被告により決定される。オプション変動レートは,地震指数(定義(ウ)参照)が6強以上の場合は100%,6弱以下の場合は0%である。要するに,原告に支払われるオプション変動金額は,地震指数が6強以上の場合は2000万円,6弱以下の場合は0円となる。オプション変動金額の決定日は,地震指数決定日(本件の地震指数決定日は平成23年4月4日)であり,オプション変動金額の支払日は,地震指数決定日の5営業日後(本件の支払日は同月11日)である。

なお,被告が,原告に対して支払うべきオプション変動金額の支払を遅延した場合には,年14%の損害金を支払う(本件基本契約書9条,甲2)。

オ 欠損値の取扱い(震度発表名称の震度が発表されない場合の取扱い)

(ア) 気象庁が,震度発表名称における震度(美里町北浦の震度)を発表しない場合には,代替震度発表名称(下記の3地点)における震度を全て用い,各代替震度発表名称における震度に,各代替震度発表名称の震度発表名称からの距離を被告が合理的に勘案した上で,一定の重み付けを行って得た数値を合算した結果をもって震度発表名称における震度と読み替える(以下「本件震度読替規定」という。)。

「大崎市松山」,「大崎市田尻」及び「涌谷町新町」

(イ) 気象庁が震度発表名称における震度を発表せず,かつ,3つの代替震度発表名称のうち,いずれの代替震度発表名称における震度も発表しなかった場合でも,報道機関による報道等により,震度発表名称において対象となる地震が発生したことが強く推認される場合であって,被告が合理的手法で震度を決定できると判断した場合には,当該手法により被告が震度を決定するものとする(以下「被告による震度決定規定」という。)。

(3)  本件地震の発生

平成23年3月11日午後2時46分ころ本件地震が発生し,本件の地震発表名称の美里町北浦,代替震度発表名称である大崎市松山,大崎市田尻,涌谷町新町を含む周辺地域の一帯は,相当程度の揺れに見舞われた。

(4)  気象庁による震度発表

ア 気象庁は,週間地震概況(気象庁地震火山部が原則として毎週金曜日の午後に発行する1週間の地震活動の概況をまとめた刊行物)のほか,速報,東北地方週間地震概況,地震・火山月報(防災編),各種の報道発表資料等を通じ,震度の公式発表を行っている。(弁論の全趣旨)

イ 本件地震の震度発表(地震指数決定日の前日までの分)

気象庁は,本件の地震指数決定日(対象となる地震が発生した日の22日後(営業日でない場合は翌営業日)である平成23年4月4日)のの前日までに,本件地震により観測された震度を次のとおり発表した。

なお,本件約定書によれば,地震指数は,地震指数決定日の前日までに発表されている所定の気象庁震度から求められる(定義(ウ)参照)。

(ア) 本件地震の発生直後に発表された速報値(乙2)

震度発表名称の美里町北浦の震度は未発表,代替震度発表名称の大崎市松山は6弱,大崎市田尻は未発表,涌谷町新町は6強

(イ) 平成23年3月18日付け週間地震概況(甲4)

震度発表名称の美里町北浦,代替震度発表名称の大崎市松山,大崎市田尻,涌谷町新町の震度はいずれも未発表

(ウ) 平成23年3月30日付け報道発表資料(甲5)

① 「本件地震当日の地震情報発表後に入手できた観測データの精査を行ったところ,震度5弱以上を観測した観測点」の震度(以下「精査後の震度」という。甲5別表1)

代替震度発表名称の涌谷町新町は6強

② 「震度5弱以上を観測した可能性が考えられるものの地震時のデータが不足しているなどの理由により精査が終わっていない観測点」の震度(以下「精査中の震度」という。甲5別表2)

震度発表名称の美里町北浦は未発表,代替震度発表名称の大崎市松山は6弱,大崎市田尻は未発表

ウ 本件地震の震度発表(地震指数決定日以降の分)

気象庁は,地震指数決定日である平成23年4月4日以降,本件地震により観測された震度を次のとおり発表した。

(ア) 平成23年4月25日付け報道発表資料(第2報)(甲12,乙3)

震度発表名称の美里町北浦,代替震度発表名称の大崎市松山,大崎市田尻,涌谷町新町の震度はいずれも未発表

(イ) 平成23年6月10日ころに発表された「平成23年3月 地震・火山月報(防災編)」(乙4)

震度発表名称の美里町北浦,代替震度発表名称の大崎市松山,大崎市田尻の震度はいずれも未発表,涌谷町新町は6強(精査後の震度として発表)

(ウ) 平成23年6月23日付け報道発表資料(第3報)(乙5)

震度発表名称の美里町北浦は6弱(精査後の震度として発表),代替震度発表名称の大崎市松山は6弱(精査後の震度として発表),大崎市田尻は6強(精査後の震度として発表),涌谷町新町は未発表

(エ) 平成23年7月14日付け「平成23年4月 地震・火山月報(防災編)」(乙16)

震度発表名称の美里町北浦は6弱,代替震度発表名称の大崎市松山は6弱,大崎市田尻は6強,涌谷町新町は6強(いずれも精査後の震度として発表)

(オ) 平成23年12月28日現在のデータベースによる検索結果(乙6)

震度発表名称の美里町北浦の震度は6弱,代替震度発表名称の大崎市松山は6弱,大崎市田尻は6強,涌谷町新町は6強

2  争点

(1)  問題の所在及び前提

被告が原告に支払うべきオプション変動金額が,原告主張の2000万円であるか被告主張の0円であるかが問題であるところ,オプション変動金額の算定は,本件約定書に基づき,所定の計算式(計算基礎金額の2000万円に対象となる地震に対応するオプション変動レートを乗じる)に従い,地震指数決定日(本件では平成23年4月4日)に,被告により決定されるものとされ,オプション変動レートとは,地震指数(前記1(2)ア(ウ)参照)が6強以上の場合は100%,6弱以下の場合は0%とされていることから,原告に支払われるオプション変動金額は,地震指数が6強以上の場合は2000万円,6弱以下の場合は0円となる(前記1(2)エ)。

ところで,気象庁は,地震指数決定日の前日(平成23年4月3日)までに震度発表名称の美里町北浦の震度を発表しなかったから,震度発表名称の震度が発表されなかった場合の取扱いとして,本件震度読替規定に基づき,代替震度発表名称(大崎市松山,大崎市田尻,涌谷町新町)における震度があればこれらを全て用い,「各代替震度発表名称における震度」に所定の計算をした結果をもって震度発表名称における震度と読み替えることになる(前記1(2)オ(ア))。この点,気象庁は,地震指数決定日の前日までに,代替震度発表名称のうち涌谷町新町につき精査後の震度として6強と発表し(以下,単に「涌谷町新町の6強」ともいう。),大崎市松山につき精査中の震度として6弱と発表し(以下,単に「大崎市松山の6弱」ともいう。),大崎市田尻の震度を発表しなかったところ(前記(4)イ),これらの震度のうち,「各代替震度発表名称における震度」として精査後の震度とされた涌谷町新町の6強は用いなければならず,発表されなかった大崎市田尻の震度を用いることができないことは,争いがない。

(2)  争点1

そこで,第1の争点は,気象庁において地震指数決定日の前日までに精査中の震度として発表した大崎市松山の6弱が,本件震度読替規定の定める「各代替震度発表名称における震度」に当たるか否か(争点1)であり,争点1に関する当事者の主張は,別紙1「争点に関する当事者の主張」(1)に記載したとおりである。

(3)  争点2

仮に,争点1において原告の主張が認められず,その結果,「各代替震度発表名称における震度」として,涌谷町新町の6強に加え,大崎市松山の6弱が用いられることとなると,本件震度読替規定に基づき,これらの代替震度発表名称における震度を全て用い,「各代替震度発表名称における震度」に,各代替震度発表名称の震度発表名称からの距離を被告が合理的に勘案した上で,一定の重み付けを行って得た数値を合算した結果をもって震度発表名称における震度と読み替えることになる。

そこで,第2の争点は,涌谷町新町の6強に加えて,大崎市松山の6弱を用いた場合に本件震度読替規定に基づいて読み替えられるべき震度が,6強以上になるか否か(争点2)であり,争点2に関する当事者の主張は,別紙1「争点に関する当事者の主張」(2)に記載したとおりである。

第3当裁判所の判断

1  争点1(気象庁が地震指数決定日の前日までに精査中の震度として発表した大崎市松山の6弱が,本件震度読替規定の定める「各代替震度発表名称における震度」に当たるか否か)について

(1)  問題の所在

本件震度読替規定によれば,気象庁が,震度発表名称における震度(美里町北浦の震度)を発表しない場合には,代替震度発表名称(大崎市松山,大崎市田尻,涌谷町新町)における震度を全て用い,「各代替震度発表名称における震度」に,各代替震度発表名称の震度発表名称からの距離を被告が合理的に勘案した上で,一定の重み付けを行って得た数値を合算した結果をもって震度発表名称における震度と読み替えるとされている(前記第2の1(2)オ)。

本件地震について気象庁は,地震指数決定日の前日(平成23年4月3日)までに震度発表名称における震度(美里町北浦の震度)を発表しなかったから,本件震度読替規定に基づき,代替震度発表名称(大崎市松山,大崎市田尻,涌谷町新町)における震度を全て用いることになるが,ここで用いるべき代替震度発表名称における震度は,地震指数決定日の前日までに気象庁が発表した震度である。この点,気象庁は,地震指数決定日の前日までに,大崎市松山の震度を精査中の震度として6弱と発表し,大崎市田尻の震度を発表せず,涌谷町新町の震度を精査後の震度として6強と発表した。そこで,震度発表名称である美里町北浦の震度として読み替えられる震度を求めるに当たり,気象庁が精査後の震度として発表した涌谷町新町の6強を用いることを前提とし(このことは争いがない。),この6強の震度に加えて,気象庁が精査中の震度として発表した大崎市松山の6弱をも用いるべきか否か,これが争点1における問題の所在である。

この点に関し,原告は,「各代替震度発表名称における震度」は,精査後の震度に限るから,精査中の震度とされた大崎市松山の6弱はこれに当たらず,「各代替震度発表名称における震度」としては,精査後の震度とされた涌谷町新町の6強のみであるとし,これがそのまま震度発表名称における震度と読み替えられ,地震指数が6強となる結果,オプション変動レートは100%となり,オプション変動金額として,2000万円(=計算基礎金額2000万円×100%)が原告に支払われるべきである旨主張する。これに対し,被告は,「各代替震度発表名称における震度」は,精査後の震度に限らないと主張して,原告の上記主張を争っている。

(2)  検討

ア これを検討するに,本件約定書が定める震度は,オプション変動金額の支払額を決定するための契約上の概念であるから,その意味内容については,本件約定書の規定の合理的解釈の問題であるということができる。このような見地から,まず本件約定書の規定の文理についてみるに,本件約定書は,気象庁震度の定義について,特段の限定ないし条件を付すことなく,気象庁が発表した震度をいうものと定義しているのであって,気象庁震度について,特に精査中の震度を除外し,精査後の震度に限ることを明記した規定を全く置いていない。そして,本件震度読替規定は,「震度」の文言に関し,気象庁が震度発表名称における「震度」を発表しない場合に,代替震度発表名称における「震度」を全て用い,各代替震度発表名称における「震度」に,各代替震度発表名称の震度発表名称からの距離を被告が合理的に勘案した上で,一定の重み付けを行って得た数値を合算した結果をもって震度発表名称における「震度」と読み替えると規定しており,上記規定中の「震度」について格別の定義規定は設けられていない。このような規定の文理に照らせば,本件震度読替規定中の「震度」の意義については,本件約定書の定める気象庁震度(気象庁が発表する震度)と同義と解するのが相当である。

そうすると,本件約定書の規定の文理からは,「各代替震度発表名称における震度」にいう「震度」を精査後の震度に限ると解することは,困難というほかない。

イ また,本件約定書の文理以外に,「各代替震度発表名称における震度」にいう震度を,精査後の震度に限るべきであるとする合理的根拠があるか否かという観点から,気象庁による震度発表の実情についてみるに,証拠(甲7)及び弁論の全趣旨によれば,気象庁は,一般的に,全国約4300か所に設置した震度計のデータを収集整理し,震度を発表しているところ,地震情報は,地震発生後おおむね2分から数十分までの速報として発表されるものであり,震度計や通信の状態によっては発表までに観測データが気象庁に届かず,震度が正しく計測されていないと判断されることもあるため,精査後の震度を発表していること,気象庁は,本件地震について,地震に伴う揺れが長時間継続したことから,揺れが震度5弱以上と推定される地域において,地震発生後3分間のデータを連続的に入手できている観測点の震度については精査後の震度として発表し,データが連続的に入手できていないと判明した観測点の震度については精査中の震度として発表したことがそれぞれ認められる。

他方,後掲各証拠によれば,精査後の震度であっても,再調査後に修正する可能性があることが付記されており(甲4,乙16,18),現に,本件地震についても,精査後の震度とされた震度が,後日変更されたり取り消されたりする例(例えば,岩手県奥州市胆沢区の震度は,平成23年3月30日,精査後の震度として6弱として発表されたが(甲5),同年6月23日,震度計台の傾きなどの異常が見られたため欠測扱いとされて取り消された(乙5)。)が複数存在することが認められる。さらに,精査中の震度とされた震度であっても,精査後の震度に変更がない例(例えば,本件の代替震度発表名称である大崎市松山は,同年3月30日,精査中の震度が6弱と発表されたが(甲5),同年6月23日,精査後の震度も6弱とされた(乙5)。)が複数存在することが認められる。

このような震度発表の実情に鑑みると,気象庁が発表した特定の震度について,それが精査後の震度か精査中の震度かにかかわらず,後に変更される蓋然性があるか否かを事前に予測することは,一般に困難といわざるを得ないから,精査中の震度として発表されたとの一事をもって,一律に「各代替震度発表名称における震度」に当たらないと解することは,本件震度読替規定の解釈として合理性を欠くというべきであり,他に「各代替震度発表名称における震度」にいう震度について,精査後の震度に限るべきであるとする合理的根拠は見当たらない。

(3)  原告の主張について

ア これに対し,原告は,本件約定書が,対象となる地震が発生した日の22日後を地震指数決定日とし,その前日までに発表された気象庁震度を用いると定めていることをもって,可能な限り震度が精査されるのを待つ趣旨と解されることから,「各代替震度発表名称における震度」にいう震度については,精査後の震度に限られるべきである旨主張する。

しかしながら,前記(2)アで検討した本件約定書の規定の文理及び同イで検討した地震発表の実情に鑑みれば,地震指数決定日の定めは,精査後か精査中かを特に区別することなく,およそ気象庁震度には事後的な変更可能性があることを踏まえて,地震指数の判断の基準時を定める趣旨と解するのが合理的であって,本件約定書中の地震指数決定日の定めから,直ちに「各代替震度発表名称における震度」にいう震度について,精査後の震度に一律に限定する趣旨と解することは合理性を欠くというべきである。この点に関する原告の主張は採用できない。

イ また,原告は,被告が平成23年4月4日(地震指数決定日)付けで原告に送付した「地震デリバティブ取引に関するお知らせ」と題する文書において,オプション変動金額の算定に関し,精査後の震度を用いる旨を記載したことは,「各代替震度発表名称における震度」が精査後の震度に限定されるとする原告の主張を裏付けるものであると主張する。

そこで,検討するに,証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,地震指数決定日の平成23年4月4日付けで,原告に対し,「地震デリバティブ取引に関するお知らせ」と題する文書を送付しており,その中で,「本件地震に係る地震指数決定日である平成23年4月4日の前日において,本件地震に係る震度を記載した『週間地震概況』が気象庁により発行されておりません。また,地震指数決定日の前日において気象庁によりそのウェッブページに掲載された震度発表名称における本件地震に係る最新の震度の情報によりますと,震度発表名称(震度観測点)における震度は現時点において精査を継続中で,具体的な震度は発表されておりません。しかしながら,同年4月20日頃に発行する『地震・火山月報(防災編)』で当該震度発表名称における精査後の震度を発表する予定としているため,原告との取引につきましては『地震・火山月報(防災編)』に記載が予定されている精査後の震度を用いて,改めて被告からのお支払額を決定の上,ご案内申し上げます…」と記載していることが認められる。

この点,本件地震の地震指数決定日は平成23年4月4日であり,本件約定書によれば,その前日までに発表された所定の気象庁震度に基づいて地震指数を決定するとされているところ(前記第2の1(2)ア(ウ)),上記文書は,地震指数決定日である同年4月4日付けで作成されたものであり,そこに記載された上記内容については,地震指数決定日の前日までに発表された気象庁震度に基づいて地震指数を決定すべきとする本件約定書の取扱いを前提とした上で,その例外的措置として,本件地震の被害の甚大さや震度発表の混乱等を踏まえ,地震指数決定日以後に発表された精査後の震度によれば支払条件を満たすことになる取引に限り,地震指数決定日以後に発表された震度であっても特例的にこれを考慮して支払を決定する意向を示したもの(以下「本件特例措置」という。)というべきである。

これらの諸点に鑑みれば,上記文書(甲8)において,地震指数決定日以後に発表された精査後の震度を用いる旨が記載されているからといって,そのことから,被告において,本件約定書の解釈として,本件震度読替規定の「各代替震度発表名称における震度」から精査中の震度を排除すべきとの認識を有していたものと認めることはできない。

この点に関する原告の主張は採用できない。

(4)  小括

以上の検討によれば,本件震度読替規定中の「各代替震度発表名称における震度」というためには,気象庁が発表した震度(気象庁震度)であれば足り,それが精査後の震度として発表されたものであるか,それとも精査中の震度として発表されたものであるかは問わないというべきである。

そうすると,本件地震に関し,本件震度読替規定を適用するに当たっては,考慮すべき「各代替震度発表名称における震度」として,大崎市松山の震度6弱(精査中の震度として発表)及び涌谷町新町の震度6強(精査後の震度として発表)をいずれも用いることになる。

争点1に関する原告の主張は採用できない。

2  争点2(本件震度読替規定に基づいて震度発表名称における震度として読み替えられるべき震度が,6強以上になるか否か)について

(1)  本件震度読替規定によれば,「各代替震度発表名称における震度」に,各代替震度発表名称の震度発表名称からの距離を,被告が合理的に勘案した上で一定の重み付けを行って得た数値を合算した結果をもって震度発表名称における震度と読み替えるとされており,被告は,その合理的に勘案する方法として,別紙2の算定方法(本件算定方法)を採用するところ,これに関し,原告は,本件約定書には本件算定方法が記載されておらず,また,契約締結時に具体的な算定方法の説明も受けていないから,本件算定方法を当然に本件約定書の契約内容とすることはできない旨主張する。

たしかに,本件約定書には,本件算定方法の詳細について具体的には記載されていない。しかしながら,本件震度読替規定は,「各代替震度発表名称における震度に各代替震度発表名称の震度発表名称からの距離を被告が合理的に勘案した上で一定の重み付けを行って得た数値を合算した結果をもって震度発表名称における震度と読み替える」と定めることにより,具体的な読替方法を「被告が合理的に勘案して」定めること,震度を読み替えるに当たって「各代替震度発表名称の震度発表名称からの距離を」考慮し,これに「一定の重み付け」を行うという震度読替えの指針を明記している。そうすると,被告は,本件約定書上,本件震度読替規定が定める指針に基づいて,合理的な算定方法を用いて震度を読み替えることができるから,別紙2の本件算定方法が本件震度読替規定に照らして合理的と認められる限りにおいて,それが本件約定書の契約内容になると解される。

そこで,別紙2の本件算定方法が,本件震度読替規定に照らして合理的と認められるか否かが問題となる。

(2)  検討

本件震度読替規定は,震度発表名称と各代替震度発表名称との距離によって「各代替震度発表名称における震度」に一定の重み付けをすることを求めているところ,加重平均の考え方を用いた方法(別紙2の本件算定方法の1項)は,震度発表名称からの距離が近い代替震度発表名称における震度により大きな重み付けを行うための方法として,それ自体合理的なものということができる。

また,本件震度読替規定が,震度発表名称と各代替震度発表名称との距離を考慮するものとしている以上,震度発表名称と各代替震度発表名称は,特定の地点を指し示していると解釈されなければならず,各地点の震度に重み付けをするという目的に照らせば,比較の対象とすべき地点(震度発表名称及び各代替震度発表名称)としては,震度観測点(乙9ないし11の2)を指すものと解するのが合理的である。

そうすると,震度発表名称と各代替震度発表名称が特定の地点であることを前提として,一定の計算式(乙15)により2地点間の距離を求める考え方(本件算定方法の2項)は,合理的な方法と認められる。そして,気象庁震度階級表(乙7)の各震度階級に対応する震度の幅の中間値を採用した換算テーブルを用いて読み替えたみなし計測震度を用いるものとする本件算定方法(3項)は,オプション購入者(原告)とオプション売却者(被告)の双方にとって公平であり恣意性がないから,これも合理的な方法ということができる。

さらに,証拠(乙12ないし14)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,本件取引のリスクをヘッジするために再保険事業者との間で地震デリバティブ契約を締結しており,本件算定方法は,再保険事業者との地震デリバティブ契約において定められている地震指数の決定方法に準ずるものであることが認められ,このことは,被告と再保険事業者との合意内容が,直ちに本件約定書の合意内容となることを意味するものではないとしても,本件算定方法が被告の恣意によって定められたものではなく,一般的な合理性を有するものであることを裏付けるものといえる。

以上の諸点に鑑みれば,本件算定方法は,被告がこれを当該金融商品の購入者である原告に対し,事前に明示していない点において,当不当を論じる余地はあるとしても,本件震度読替規定の文理及び趣旨に照らして不合理なものということはできず,本件算定方法を適用して行われたオプション変動金額の算定結果(本件算定方法の4項)が,法的見地から不合理なものということはできない。

(3)  原告の主張について

これに対し,原告は,仮に本件算定方法を前提とするとしても,本件取引のように,精査中の震度と精査後の震度の両方を用いる場合には,これらの差異を「合理的に勘案」すべきであり,これを考慮していない本件算定方法は,その限りにおいて不合理である旨主張する。

しかしながら,本件震度読替規定は,読替震度の算定方法について,「各代替震度発表名称における震度に,各代替震度発表名称の震度発表名称からの距離」を被告が合理的に勘案した上で,一定の重み付けを行って得た数値を合算するものと定めており,「合理的に勘案」すべき事項として,「各代替震度発表名称の震度発表名称からの距離」を掲げるにとどまり,「一定の重み付け」についても,所定の事項を「合理的に勘案」した上で行うことを前提とし,「各代替震度発表名称の震度発表名称からの距離」以外の事項を「一定の重み付け」を行う際の考慮要素として掲げていない上,本件震度読替規定の解釈として,「各代替震度発表名称における震度(気象庁震度)」のうち,精査後の震度と精査中の震度とを区別することに合理性が認められないことは,前示のとおりであるから,本件において,精査後の震度として発表された涌谷町新町の震度6強と精査中の震度として発表された大崎市松山の震度6弱(なお,地震指数決定日後,大崎市松山は精査後の震度も震度6弱と発表された。前記第2の1(4)ウ(ウ),(エ))との間に何らかの差異を設け,これを考慮した重み付けを行わなければ,本件震度読替規定が定める代替震度の決定方法として不合理であるということはできない。この点に関する原告の上記主張は,採用できない。

(4)  小括

以上によれば,本件震度読替規定によって読み替えられるべき震度発表名称(美里町北浦)における震度は,別紙2の本件算定方法に従って,震度6弱と読み替えられるべきである(なお,地震指数決定日の前日以前には発表されていなかった美里町北浦の震度は,その後,気象庁から精査後の震度が6弱として発表されている。前記第2の1(4)ウ(ウ),(エ))。

そうすると,本件震度読替規定により読み替えられた震度が6弱の場合におけるオプション変動レートは0%となるから,原告に支払われるべきオプション変動金額は0円(計算基礎金額2000万円×0%)である。

なお,本件の代替震度発表名称である大崎市松山について地震指数決定日以後に発表された精査後の震度は6弱であったから(前記第2の1(4)ウ(ウ),(エ)),本件取引については被告が講じた本件特例措置(前記第3の1(3)イ)によっても支払条件を満たすことにはならないというべきである。

3  結論

よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用について民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 工藤哲郎 裁判官 志田智之)

裁判長裁判官関口剛弘は,転補のため署名押印することができない。裁判官 工藤哲郎

file_2.jpg別紙

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