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仙台地方裁判所 平成22年(カ)1号 判決

再審原告(本案被告)

甲野太郎

同訴訟代理人弁護士

門間久美子

再審被告(本案原告)

乙川一郎

同訴訟代理人弁護士

山田忠行

同訴訟復代理人弁護士

山田いずみ

主文

1  再審原告と再審被告間における本案(当庁平成21年(ワ)第2615号)の判決を取り消す。

2  再審被告の再審原告に対する請求を棄却する。

3  訴訟費用は,第1項の本案及び再審を通じ,再審被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判

1  再審原告(本案被告)(以下「再審原告」という。)

主文同旨

2  再審被告(本案原告)(以下「再審被告」という。)

再審原告の本件再審請求を棄却する。第2

事案の概要

1  事案の概要及び本件再審開始に至る経過

本件は,建物の修理等を業とする再審被告が,宮城県議会議員の地位にあるとともに宅地建物取引主任者の資格を有する再審原告及び再審原告の兄で賃貸不動産の管理等を業としていた甲野初男(以下「初男」という。)に対し,再審原告を注文者,初男を連帯保証人として,平成18年11月ころから平成21年2月ころまでに請け負った工事の請負代金(合計477万4042円)について,請負契約及び保証契約に基づき,未払残代金及び遅延損害金の支払を求め,平成21年12月1日,本案訴訟(当庁平成21年(ワ)第2615号)を提起したところ,再審原告が,同訴訟の口頭弁論期日に出頭せず,陳述したものとみなされた答弁書においても請求原因事実を明らかに争わなかったことなどから,平成22年2月12日,再審被告の請求(244万9778円及びこれに対する平成21年10月24日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の連帯支払)について,全部認容の判決が言い渡され,同判決は,平成22年3月2日,再審原告につき確定したものの,再審原告は,本案訴訟における再審原告宛の訴状等の送達を受けたのは初男であり,再審原告名義の答弁書は初男が偽造して作成・提出したものであるから,本案訴訟において,再審原告には手続関与の機会が与えられていたとはいえず,本案訴訟の上記確定判決には民事訴訟法338条1項3号等に規定された再審事由があると主張して,再審の訴えを提起した事案である。これに対し,当裁判所は,再審原告の主張には理由があると認め,同年4月5日,上記本案訴訟につき再審を開始する旨の決定をした(なお,同決定に対して,再審被告が,即時抗告を申し立てたが,仙台高等裁判所は,同年5月27日,これを棄却するとの決定をし,当裁判所の上記決定が確定した。)。

2  本案についての当事者の主張

(再審被告の主張(請求原因))

再審被告は,「総合住宅サービス」との屋号で建物の修理等を業とするものであり,再審原告は,平成21年10月ころまで「A社」との屋号で,賃貸住宅の管理等の宅地建物取引業を営んでいたものであるところ,再審被告は,再審原告から,平成18年11月ころから平成21年2月ころまでの間,別紙請負工事一覧表記載のとおり合計477万4042円の各工事(以下「本件各工事」という。)を請け負い,これらを完成させて目的物を引き渡した。

なお,再審原告は,本件各工事を発注した事実を否認するが,「A社」の経営主体は再審原告であり,少なくともこれは再審原告と初男との共同経営にかかるものというべきであって,工事残代金の支払合意書(新甲3)中に再審原告の署名押印があることや,本件各工事に関する受発注行為が行われた場所は,再審原告が「A社」の主たる事務所の所在地として宮城県宅地建物取引業協会に届け出ていた事務所であったことなどからすれば,本件各工事の発注者は再審原告であるというべきである。

よって,再審被告は,再審原告に対し,本件各工事の請負契約に基づき,請負残代金である244万9778円及びこれに対する弁済期限の後である平成21年10月24日から支払済みまで,商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(再審原告の主張)

再審原告と再審被告との間で本件各工事についての請負契約が締結されたとの事実は否認する。「A社」は,もともと再審原告が不動産取引業を営む上で使用していた屋号であり,再審原告がリフォームや工事請負業務等を行ったことはないし,本件各工事の現場はいずれも当時初男が管理業務を行っていた場所であるから,仮に,再審被告が本件各工事を請け負ったとすれば,それは初男ないし第三者が発注したものに他ならない。

3  争点

本件各工事について,再審被告と再審原告との間における請負契約の成否

第3  当裁判所の判断

1 上記のとおり,再審被告は,「A社」の経営主体は再審原告であり,そうでないとしても,これは再審原告と初男との共同経営にかかるものであるから,本件各工事の発注者は再審原告であると主張し,再審被告本人もその旨供述する。しかし,そもそも,本件各工事に関する請負契約書や再審原告名義の発注書等は存在せず,これまで再審被告が再審原告に対して,請負代金の請求書を交付したとか,再審原告が自ら請負代金を支払ったことを示す証拠もない。かえって,再審被告本人は,本件各工事について,直接再審原告から発注を受けたことはないと供述している(再審被告本人)上,再審被告は,請負代金の請求書を第三者である工事建物の管理組合宛に作成したり(新甲12),本件各工事の請負代金につき,「A社」以外の名義人からの入金が多数存在するなどの事実(新甲3)が認められる。そうすると,本件各工事の発注者は再審原告である旨の再審被告本人の供述はにわかに信じ難い。

以上に対し,再審被告は,再審原告を作成名義人とする本件各工事の請負残代金についての支払合意書(新甲3)を書証として提出する。この点,再審原告本人は同合意書の署名押印は自分が行ったものではない旨供述し(新乙8,再審原告本人),初男もこれは再審原告の承諾なく自分が勝手に行ったもので,再審原告に断らないまま再審被告に手渡したものであると供述する(新乙7,初男証人)ので検討すると,まず,成立に争いのない新乙第2,3及び8の各号証並びに一件記録中にある再審原告の宣誓書及び訴訟委任状における再審原告の各筆跡と新甲第3号証の筆跡とを照らし合わせると,両者は明らかに異なる上,同号証に押印された印影の印鑑が再審原告の物であったとの証拠もない(初男証人は,これは初男と同居していた母親の印鑑であると供述している。)。これに加え,本案訴訟において,再審原告宛の訴状等の送達を受けた初男が,再審原告名義の答弁書を偽造して作成・提出していた事実(初男証人,弁論の全趣旨)等を併せ考慮すると,再審原告部分の署名押印が再審原告によるものとは認め難く,他に,当該署名押印が再審原告の意思に基づきなされたものであると認めるに足りる証拠もない。

他方,再審被告は,①本件各工事に関する受発注行為が行われた場所は,再審原告が「A社」の主たる事務所の所在地として宮城県宅地建物取引業協会に届け出ていた場所であり,再審原告は同事務所をしばしば訪れて再審被告とも顔を合わせていたし,また,②本件各工事中には再審原告から同人の妻であるとして紹介を受けた女性又はその親族が所有する建物の工事が含まれているのであるから,かかる工事の発注は再審原告からなされたものであると主張するが,①上記「A社」の主たる事務所は,平成19年6月ころ,初男が賃借した物件であり,賃料も初男が支払っていたことが窺われる(新乙9,初男証人)ほか,再審原告が「A社」の主たる事務所所在地の登録を同所に変更したのは平成20年5月12日のことであること(新乙10)などからすれば,同所において,再審原告と再審被告が会ったことがあるとの事実が認められる(再審原告本人)からといって,本件各工事が再審原告により発注されたものであると直ちに認めることは困難であるし,②本件各工事中に再審原告の親族等が所有する建物の工事が含まれていたとしても,かかる事実により上記認定を覆して,再審被告と再審原告との間に本件各工事についての請負契約が締結されたと認めるには足らない。

結局,再審原告との間に本件各工事に関する請負契約が成立したとの再審被告の主張を採用することはできない。

2  結論

以上によれば,再審原告の本件再審請求は理由がある(再審被告の本案請求は理由がない。)から,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 本多哲哉)

別紙

請負工事一覧表〈省略〉

《参考・再審開始決定に対する即時抗告事件》

主文

1 本件抗告を棄却する。

2 抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

1 抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨及び理由は,別紙「即時抗告状」の写し記載のとおりである。

2 当裁判所の判断

当裁判所も,抗告人と相手方との間の仙台地方裁判所平成21年(ワ)第2615号請負代金請求事件について,再審を開始するのが相当であると判断する。その理由は,次のとおり原決定を訂正し,抗告人の主張に対する判断を付加するほかは,原決定の「事実及び理由」欄の第2ないし第5の説示のとおりであるから,これを引用する。

(原決定の訂正)

(1)原決定1頁18行目の「訴外甲野初夫」を「訴外甲野初男」と,原決定4頁5行目の「3月3日」を「3月2日」と,それぞれ改める。

(2)原決定7頁10行目の「受領しており,」から同頁19行目の末尾までを次のとおり改める。

「受領しているところ,本件請負契約は,訴外初男が相手方の知らぬところで相手方の名義を冒用して締結していたというのであるから,相手方と訴外初男との間には前訴に関し,事実上の利害関係の対立があり,訴外初男が相手方宛ての訴訟関係書類を相手方に交付することを期待できない場合であったということができ,実際に訴外初男は受け取った書類を一切相手方に渡すこともなければ前訴の存在を告げることもなく,本件答弁書を偽造して提出するなどしている。そして,相手方は,書留郵便に付して送達された書類については実際にこれを受領しておらず(相手方は,本件住所には誰もいない旨陳述しているところ,訴外初男も準備書面や判決正本の送達を本件住所と異なる場所で受けていることに照らすと,これらの書類を受領していない旨の相手方の陳述は信用できる。),前訴が提起されていることを知らないまま判決がされたと認められる。」

(抗告人の主張に対する判断)

抗告人は,前訴の相手方に対する訴状,第1回及び第3回口頭弁論期日呼出状並びに判決正本の送達は適法有効(少なくとも第3回口頭弁論期日呼出状及び判決正本の送達は適法)であり,相手方が前訴に関与する機会を与えられなかったとする原審の判断は誤りであると主張するが,前記の各送達手続が民事訴訟法上適法かつ有効であるとしても前訴において相手方に手続関与の機会が与えられていたといえないことは上記のとおりであり,その判断に誤りはない。

3 よって,原決定は相当であり,本件抗告は理由がないから棄却することとして,主文のとおり決定する。

別紙 「即時抗告状」の写し〈省略〉

《参考・請負代金再審請求事件》

主文

再審原告と再審被告との間の当庁平成21年(ワ)第2615号請負代金請求事件について,再審を開始する。

事実及び理由

第1 申立の趣旨

主文同旨

第2 事案の概要等

1 事案の概要

本件は,再審原告及び訴外甲野初夫(以下「訴外初男」という。)を被告,再審被告を原告とする当庁平成21年(ワ)第2615号請負代金請求事件(以下「前訴」という。)において,再審原告敗訴の判決が確定しているところ,再審原告が,前訴は訴外初男が再審原告に代わって訴状等の送達を受けた上,再審原告の氏名を冒用し,答弁書を偽造して提出するなどして追行したものであると主張して,民事訴訟法(以下「法」という。)338条1項3号,6号に基づき,再審の開始を求める事案である。

2 前提となる事実

前訴及び本件事件の一件記録並びに審理の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)当事者等

再審原告は,平成21年8月ころまで「A社」名義で賃貸住宅の管理等の宅地建物取引業を営んでいた者であり,訴外初男は再審原告の実兄で,再審原告の下で宅地建物取引主任を務めていた者である。

再審被告は,総合住宅サービス名義で建物の修理等を業とする者である。

(2)前訴の要旨

前訴は,再審被告が,再審原告から,平成19年6月ころから平成20年11月ころまでの間,工事を請け負い(以下「本件請負契約」という。),これらを完成させて引き渡した,訴外初男は上記工事に基づく再審原告の代金債務について連帯保証したと主張して,再審原告及び訴外初男(以下「前訴被告ら」という。)に対し,再審原告に対しては請負契約に基づく代金の支払いを,訴外初男に対しては保証債務の履行を求めた事案である。

(3)前訴の経過

ア 訴えの提起

前訴は,平成21年12月1日に提起された。

前訴被告らに対する訴状及び第一回口頭弁論期日の呼出状は,いずれも,同月10日,A社の主たる事務所の所在地(仙台市若林区河原町〈番地略〉。以下「本件住所」という。)に送達され,訴外初男がこれを受け取った。

イ 第一回口頭弁論期日

平成22年1月8日に,再審原告名義の同月4日付の答弁書(以下「本件答弁書」という。)が提出された。本件答弁書には,「A社 甲野太郎」との記名があり,送達場所の届出として本件住所とする旨の記載があり,「甲野」名義の印影が押されていたほか,請求の趣旨に対する答弁として再審被告の請求を棄却するとの判決を求める旨が,請求原因に対する認否として,訴状第3項は間違っている,訴外初男が業務執行であり,共同責任は感じるが訴外初男が支払責任として頂く,本人に履行させる旨の記載が,「話し合いによる解決(和解)」の欄に1か月10万円ずつの分割払いを希望する旨がそれぞれ記載されていた。また,本件答弁書に加えて「上申書」との表題の書面が提出され,再審原告の名での署名及び印影があるほか,A社については昨年より経営責任者を退任しており名義上の協力者にすぎず,実質経営は訴外初男が行っていた,今後の支払責任は訴外初男が責任をもって支払うこととする旨が記載されていた。

本件答弁書は,再審原告が同月8日に開かれた第一回口頭弁論期日に出頭しなかったため,陳述したものとみなされた。

なお,訴外初男は,同月8日に,同月4日付の答弁書を提出した上,第一回口頭弁論期日に出頭し,請求の趣旨に対する答弁として再審被告の請求を棄却するとの判決を求め,請求原因に対する認否として金額に誤りがある旨,話し合いによる解決を求める旨陳述した。

ウ 続行期日

平成22年1月19日に第二回口頭弁論期日が開かれ,訴外初男は出頭した上原告の和解案を検討する旨述べたが,再審原告に対しては送達が未了のため延期とされた。なお,再審原告に対する同期日の呼出状は,受取人不在のため送達されなかったものである。

同月29日に第三回口頭弁論期日が開かれ,原告代理人のみが出頭した上,請求を減縮し,前訴裁判所は同期日に口頭弁論を終結し,判決言渡期日を同年2月12日と指定した。

なお,再審原告に対する第二回口頭弁論期日の呼出状は,受取人不在のため送達されなかった。第三回口頭弁論期日の呼出状は,書留郵便に付して送達された。

エ 判決

前訴裁判所は,同年2月12日,前訴被告らについてはいずれも請求原因事実を明らかに争わないとして,再審被告の前訴被告らに対する請求をいずれも認容する判決を言い渡した。同判決正本は,再審原告に対しては,同月15日,本件住所宛に書留郵便に付して送達され,再審原告から控訴の提起がなかったため,同判決は同年3月3日に確定した。

(4)強制執行及び本件再審申立て

再審被告は,上記判決に基づき,債権に対する強制執行を申し立て,債権差押命令が発令された(当庁平成22年(ル)第316号,以下「本件差押え」という。)。

再審原告は,同年3月3日,上記債権差押命令の存在を知り,弁護士に相談した上,同月9日に本件再審の訴えを提起した。

第3 争点

1 法338条1項3号の再審事由の有無

2 法338条1項6号の再審事由の有無

第4 争点に関する当事者の主張

1 争点1について

(1)再審原告の主張

前訴においては,再審原告と同居もしておらず,再審原告から訴状送達の受領権限を与えられていない訴外初男が,再審原告の訴状送達を受けている。

よって,前訴においては,再審原告について訴状の有効な送達がなく,再審原告は訴訟に関与する機会が与えられないまま判決が確定してしまったのであるから,法338条1項3号の再審事由がある。

(2)再審被告の主張

前訴における送達には何らの違法な点はない。

本件答弁書が偽造であったことは否認するが,仮に偽造であったとしても,再審原告は適式な呼出を受けたのに口頭弁論期日に出頭しないこととなり,請求原因事実を自白したものとされるから,本件答弁書の偽造の有無は判決の結果に影響を及ぼさない。

2 争点2について

(1)再審原告の主張

前訴における送達にかかる文書の再審原告の署名は偽造であり,本件答弁書も偽造である。これは法338条1項6号に該当する。

(2)再審被告の主張

偽造であることは否認する。

なお,偽造を再審事由とするときは,有罪の判決等がある場合に限り訴えを提起できるものである(法338条2項)が,本件ではかかる要件を満たさない。

第5 判断

1 争点1について

(1)再審原告は,陳述書において,前訴に関する送達された文書等を全く受け取っておらず,前訴の存在も知らされていない,本件差押えを県の経理担当者から知らされ初めて前訴の存在を知った旨供述し,本件審尋期日においても同旨の供述をしている。また,訴外初男も,陳述書において,前訴に関する文書は自分が受け取ったものであり,再審原告には一切渡してもいないし話してもいない,本件答弁書等もすべて自分が偽造して前訴裁判所に提出したものであり,再審原告は前訴に一切関わっていない,再審原告は本件請負契約を行っておらず,再審被告との取引もなく,すべて自分と再審被告との取引である,すべては返済を責められ,自分が勝手にやったことである旨供述し,本件審尋期日においても同旨の供述をしている。

両者の供述は,主要な点で一致しているだけでなく,再審原告の供述であれば,別件の債権差押えにより養育費の支払いに窮した経緯,前訴の存在をして驚いた経緯等,いずれも自然と考えられる(したがって,このように窮していた再審原告が,前訴の存在を知れば,容易に認容判決を受けるような訴訟対応をするとは考え難い)し,訴外初男の供述であれば,自身が有印私文書偽造の罪に問われかねない不利益な事実について,返済に窮して勝手にやったとの首肯できる理由を付して述べられているものであり,いずれもその内容については合理的と認められる。のみならず,本件答弁書及び前訴における甲第3号証の再審原告の署名とされる部分と上記陳述書の署名を対比すれば,別人のものである可能性が高いと認められること,再審原告は別件の債権差押えがなされた際に,議員報酬以外に収入がなく,生活に困難をきたし,また養育費の支払いに窮しているとして,差押えの範囲の変更を申し立て,これが一部認められていること等,他の証拠あるいは事実とも一致ないし符合する。

よって,再審原告及び訴外初男の供述は,いずれも信用性が認められ,上記供述内容たる事実,すなわち再審原告は前訴の存在自体を一切知らず,また知らされることなく,すべては訴外初男が再審原告の名義を冒用し,本件答弁書を偽造するなどして行ったものであること等が認められる。

(2)そこで,上記認定事実を前提に,法338条1項3号所定の再審事由の存否について検討する。

前訴における訴状等の送達が有効であるか否かについては争いがあるが,これらの送達が有効であるとしても,直ちに民訴法338条1項3号の再審事由の存在が否定されることにはなるものではなく,同事由の存否は,当事者に保障されるべき手続関与の機会が与えられていたか否かの観点から改めて判断されなければならないと解される。すなわち,受送達者あての訴訟関係書類の交付を受けた同居者等と受送達者との間に,その訴訟に関して事実上の利害関係の対立があるため,同居者等から受送達者に対して訴訟関係書類が速やかに交付されることを期待することができない場合において,実際にもその交付がされなかったときは,受送達者は,その訴訟手続に関与する機会を与えられたことにならないというべきである。そうすると,上記の場合において,当該同居者等から受送達者に対して訴訟関係書類が実際に交付されず,そのため,受送達者が訴訟が提起されていることを知らないまま判決がされたときには,当事者の代理人として訴訟行為をした者が代理権を欠いた場合と別異に扱う理由はないから,民訴法338条1項3号の再審事由があると解するのが相当である(最高裁判所平成19年3月20日第三小法廷判決・民集61巻2号586頁)。

これを本件についてみるに,前訴においては,訴状その他再審原告に送達されるべき書面は,書留郵便に付して送達されたものの他はいずれも訴外初男が受領しており,訴外初男はこれらを再審原告に一切渡すこともなければ前訴の存在を告げることもなく,本件答弁書を偽造して提出するなどしており,そのために再審原告は前訴が提起されていること自体を知らないまま前訴判決がされたものと認められる。また,本件請負契約についても,訴外初男は再審原告の知らぬところで再審原告の名義を冒用して本件請負契約を締結しており,この代金の支払を求められたために本件答弁書を偽造するなどの行為を行うに至ったものであると認められるから,再審原告と訴外初男との間には前訴に関し,事実上の利害関係の対立があり,訴外初男が再審原告宛ての訴訟関係書類を再審原告に交付することを期待できない場合であったと認められる。

(3)したがって,前訴は被告とされた再審原告が訴訟に関与する機会を与えられないまま判決まで至り,これが確定した場合といえるから,法338条1項3号所定の再審事由が存在すると解するのが相当である。

2 結論

以上のとおり,前訴について再審の事由があるものと認められるから,法346条1項を適用して,主文のとおり決定する。

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