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仙台地方裁判所 平成19年(ワ)1560号 判決

主文

1  被告は,原告に対し,67万2700円及びこれに対する平成19年7月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告は,原告に対し,389万8253円及びそのうち別紙未払時間外労働手当・休日労働手当計算表「未払手当月額」欄記載の各金額に対する同表「支払期日」欄記載の各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  被告は,原告に対し,186万8002円及びこれに対する本裁判確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

5  訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

6  この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(1)  被告は,原告に対し,392万0890円及びこれに対する平成19年7月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  被告は,原告に対し,389万8253円及びそのうち別紙未払時間外労働手当・休日労働手当計算表「未払手当月額」欄記載の各金額に対する同表「支払期日」欄記載の各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(3)  被告は,原告に対し,373万6005円及びこれに対する本裁判確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4)  訴訟費用は,被告の負担とする。

(5)  仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告の請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は,原告の負担とする。

(3)  仮執行免脱宣言

第2事案の概要

1  本件は,原告が,被告に対し,被告から自主退職の名目で懲戒解雇理由がないのに懲戒解雇同様の不利益処分を下されたとして,不法行為に基づく損害賠償として392万0890円及びこれに対する不法行為の日(退職日)である平成19年7月9日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払,労働契約及び労働基準法に基づき,残業代の合計389万8253円及びうち各未払残業代の月額に対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払,並びに労働基準法114条所定の付加金373万6005円及びこれに対する本裁判確定の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

2  前提事実(争いがない。)

(1)  当事者等

ア 被告は,平成8年に設立された電気工事業・通信設備工事業・配管工事業及びこれに付随する一切の業務を業とする会社である。平成17年当時の労働者数は46名であり,主に携帯電話の屋外鉄塔の工事を営業内容としていた。

イ 原告は,平成17年12月1日,被告に採用され(以下「本件雇用契約」という。),平成19年7月9日までの間,東北6県及び新潟県の現場で電気通信設備工事に従事していた。

(2)  労働条件

ア 原告は,被告の就業規則(以下「規則」という。)4条,15条3項に定める技術系社員であったものであり,その所定労働時間は,午前8時30分から午後5時30分まで(午前12時から午後1時までは休憩時間)の8時間であった。

イ 被告の休日は,以下のとおりであった。

(ア) 毎週日曜日(法定休日)

(イ) 第2・第4土曜日

(ウ) 国民の休日

(エ) 年末年始(7~9日間)

(オ) 夏期休暇(7~9日間)

(カ) ゴールデンウィーク(7~9日間)

ウ 賃金は,毎月20日締めの当月末日払いであった。

エ 被告の労働時間管理はタイムカードで行われており,原告は,出退勤時にタイムカードを打刻していた。

オ 被告が,原告に対して支払った賃金は,以下のとおりであった。

(ア) 平成17年12月  基本給20万4540円

(イ) 平成18年1月~2月  基本給30万円

(ウ) 平成18年3月~平成19年6月

基本給38万5000円,時間外手当2万円,通勤手当1万5000円の合計42万円

(エ) 平成19年7月  基本給24万8170円

カ 被告の時間外労働及び休日労働は,以下のとおりであった(規則17条,被告の賃金規程(以下「規程」という。)10条)。

(ア) 業務の都合により,所定労働時間を超え,又は所定休日に労働させることがある。この場合,法定の労働時間を超える労働又は法定の休日における労働については,会社はあらかじめ社員代表者と書面による協定を行いこれを所轄の労働基準監督署長に届け出るものとする。

(イ) 割増賃金は,次の算式により計算して支給する。

a 時間外勤務割増賃金

(基本給+諸手当-(家族手当+住宅手当))/1月平均所定労働時間×1.25×時間外勤務時間数

b 休日勤務割増賃金

(基本給+諸手当-(家族手当+住宅手当))/1月平均所定労働時間×1.35×休日勤務時間数

c 深夜勤務割増賃金

(基本給+諸手当-(家族手当+住宅手当))/1月平均所定労働時間×0.25×深夜勤務時間数

(ウ) 休日勤務の割増賃金は,法定休日出勤の場合に適用する。

キ 被告の退職及び解雇に関する定めは,以下のとおりであった(規則26条,27条)。

(ア) 社員が次のいずれかに該当するときは,退職とする。

a 退職を願い出て会社から承認されたとき,又は退職願を提出して14日が経過したとき

b 定年に達したとき

c 期間を定めて雇用されている場合,その期間を満了したとき

d 休職期間が満了し,なお休職事由が消滅しないとき

e 死亡したとき

(イ) 社員が次のいずれかに該当するときは,解雇するものとする。

a 勤務成績又は業務能率が著しく不良で,社員としてふさわしくないと認められたとき。ただし,懲戒解雇事由に該当すると認められたときは,その定めるところによる。

b 精神又は身体の障害により業務に耐えられないと認められたとき

c 事業の縮小その他事業の運営上やむを得ない事情により,社員の縮小等が必要となったとき

d その他前各号に準ずるやむを得ない事情があるとき

(ウ) 上記(イ)により社員を解雇する場合は,少なくとも30日前に予告をするか,又は平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う。ただし,労働基準監督署長の認定を受けて懲戒解雇をする場合及び以下のいずれかに該当する社員を解雇する場合は,この限りではない。

a 日々雇い入れられる社員(1か月を超えて引き続き雇用された者を除く。)

b 2か月以内の期間を定めて使用する社員(所定期間を超えて引き続き雇用された者を除く。)

c 試用期間中の社員(14日を超えて引き続き雇用された者を除く。)

ク 被告の懲戒に関する定めは,以下のとおりであった(規則37条,38条)

(ア) 懲戒は,その情状に応じ,次の区分により行う。

a けん責  始末書を提出させて将来を戒める。

b 減給  始末書を提出させ減給する。

ただし,減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく,また,総額が1賃金支払期間における賃金の1割を超えることはない。

c 出勤停止  始末書を提出させるほか,7日間を限度として出勤を停止し,その間の賃金は支給しない。

d 諭旨解雇  始末書を提出させ,説諭の上自発的に退職させる。この場合,情状に応じて退職金を減額し,又は支給しない。

e 懲戒解雇  即時に解雇する。

(イ) 社員が次のいずれかに該当するときは,情状に応じ,けん責,減給又は出勤停止とする。

a 正当な理由がなく無断欠勤が5日以上に及ぶとき

b 正当な理由なくしばしば欠勤,遅刻,早退するなど勤務を怠ったとき

c 過失により会社に損害を与えたとき

d 素行不良で会社内の秩序又は風紀を乱したとき

e その他この規則に違反し,又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき

(ウ) 社員が次のいずれかに該当するときは,懲戒解雇する。ただし,情状により減給又は出勤停止とすることがある。

a 正当な理由なく無断欠勤が10日以上に及び,出勤の督促に応じないとき

b しばしば遅刻,早退及び欠勤を繰り返し,再三にわたって注意を受けても改めないとき

c 会社内における窃盗,横領,傷害等刑法犯に該当する行為があったとき,又はこれらの行為が会社外で行われた場合であっても,それが著しく会社の名誉若しくは信用を傷つけたとき

d 故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき

e 素行不良で著しく会社内の秩序又は風紀を乱したとき

f 社員として採用されるにつき,重要な職歴,学歴,既往症又は資格を詐称し,詐術を用い,その他不正な方法によったとき

g 許可なく社外の業務に従事し,又は営業を行ったとき

h その他前各号に準ずる重大な行為があったとき

(4)  時給計算(労働基準法施行規則19条4号により計算した時給額)

ア 原告の平均月労働日数は22日である。

イ 原告の,平成17年12月~18年2月までの賃金は,基本給30万円であり,時間単価は30万円÷22日÷8時間=1705円であり,時間外労働割増計算(25パーセント増し)では2131円であり,日曜日の法定休日労働割増計算(35パーセント増し)では2302円である。

ウ 原告の,平成18年3月~19年7月までの時間外手当2万円を除く賃金は,基本給38万5000円と通勤手当1万5000円の合計40万円であり,時間単価は40万円÷22日÷8時間=2273円であり,時間外労働割増計算(25パーセント増し)では2841円であり,日曜日の法定休日労働割増計算(35パーセント増し)では3069円である。

3  争点

(1)  原告の主張

ア 不法行為

(ア) 被告の責任原因

a 平成19年7月9日午前10時半ころ,被告の取締役Aは,原告に対し,同年7月20日を解雇の日とする解雇通告を口頭で行った。その約20分後,今度は被告代表者が原告に対し,当日7月9日を退職日とする退職届を提出するように命じた。このとき,被告代表者は,原告に対し,退職願ではなく退職届にせよと命じた。原告は,Aが自分のノートの1枚の頁を取り外して原告に渡した用紙に「一身上の都合により退職します。」という内容の退職届(以下「本件退職届」という。)を書いて被告代表者に提出した。

b Aが原告に対して示した解雇理由及び被告代表者が原告に対して本件退職届を書くように命じた理由は,平成19年6月28日,原告が業務車両をバックさせていたとき,付近に駐車していた自家用車の前部に業務車両の後部を接触させ,傷を作った交通事故(以下「6.28事故」という。)であった。

Aは,平成19年6月29日,原告を謹慎処分にし,当分の間会社車両の運転を禁止し,かつ,当分の間倉庫整理業務に就くことを命じた。一方,原告は,Aに事故報告書を提出した。原告は,Aの指示で数回書き直しを行い,同年7月3日に受理された。数回書き直したのは,Aが原告に対し6.28事故の損害賠償70万円(保険会社で支払ったのは修理費等30万円だけであった。)を原告が支払うことを報告書に記載させようとしたが,原告が記載しなかったためである。

同月4日,被告は,原告に対し,保険会社で支払った修理費等30万円の他に,相手方が慰謝料70万円の支払を被告に要求してきたことについて,原告においてその弁償を実行するよう要求した。しかし,原告は,これに対してはっきりとした返事を行わなかった。

c 原告は,本件退職届を被告に提出したものの,後で冷静に考えてみると,即時に会社から排除されたことに納得がいかなくなり,平成19年7月11日午前,仙台市内の労働組合に相談した。相談の結果,原告は,退職届取消の意思表示を行うことを決断し,同日午後4時ころ,被告会社で原告が被告に面会し,文書により本件退職届の取消を被告に通知した。

d 原告が本件退職届を被告に提出したのは動機の錯誤によるものである上,規則上は,退職願を提出してから14日が経過するまでは退職の効果は発生しないから,本件退職届の取消は有効である。

e 被告が原告に対して本件退職届の提出を命じたのは,原告に対して懲戒解雇同様の不利益処分を行ったものというべきところ,以下のとおり,原告には懲戒解雇事由は存在しない。

(a) 規則38条2項4号は,故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたことが懲戒解雇事由に当たる旨規定する。しかし,6.28事故は,原告のハンドルの切りが甘かったために駐車中の自家用車に被告の業務車両を接触させたに過ぎず,法規違反の事実を伴っていないこと,被告が原告に過酷な長時間労働を命じていたために疲労状態にあったことが一因となって発生したものであることから,原告を一方的に責めることは許されず,原告の故意又は重大な過失により発生した事故には当たらない。

(b) 保険会社が支払った以外に,相手方から70万円の慰謝料請求がなされたとしても,相手方車両の損傷の程度に照らして上記請求は法外なものといわざるを得ないから,被告としては,支払拒絶ないし減額のための法的対抗手段を取ることはいくらでも可能であったはずである。それにもかかわらず,被告は上記対抗手段を何ら取っていないから,上記70万円を被告が相手方に支払ったとしても,これをもって重大な損害ということはできない。また,被告において支払を済ませた後でこれを原告に求償することも許されない。

(c) 6.28事故は,原告の同僚が原告の運転する業務車両を誘導していたが,被告はこの同僚に何ら責任を取らせていない。

また,平成18年6月27日,被告の従業員であるBが業務中に交通事故を起こし,相手方の修理見積額100万円及び被告の修理見積額3万円の金銭負担を発生させたが,Bは事故報告書を提出しただけで何らの自己負担をしていない。このことに照らしても,原告にのみ6.28事故にかかる損害の自己負担を求めることは不公平である。

(d) 被告が,自己退職に名を借りて原告を懲戒解雇したのは,6.28事故の相手方から法外な請求をされ,原告に求償しようとしたが原告がこれにはっきりとした返事をしなかったためであり,何らの正当な理由を伴うものではない。

f また,被告が,原告に始末書の実体を有する事故報告書の提出を命じた上に,更に本件退職届の提出を命じたことは,同一事由につき二重に制裁処分を行ったものであり,一事不再理の原則に照らしても許されない。

g 以上の経過に照らすと,被告が原告に対して自己退職に名を借りて本件退職届の提出を命じ被告に対し懲戒解雇同様の不利益処分を行ったことは,原告に対する不法行為に該当する(以下「本件不法行為」という。)から,被告は,原告に対し,原告の被った後記損害を賠償すべき責任がある。

(イ) 原告の損害

a 逸失利益

(a) 原告は,本件不法行為によって被告から不当に排除された結果,2か月間全く無職無収入を強いられ,最近始めたアルバイトの収入も少なく,原告の在職当時と比較して1年間の減収額は252万円を下らない。

(b) また,原告は,被告により即時に被告を排除されたため,規程10条による年次有給休暇の取得権を奪われた。原告が取得できる年次有給休暇の日数は,平成19年度分11日に前年度の繰越分10日が加わり,合計21日であり,これを金銭に評価すると,40万0890円(1日1万9090円×21日)である。

(c) 上記(a)と(b)の合計額292万0890円が原告の被った逸失利益となる。

b 慰謝料

原告は,本件退職届の提出を被告に命じられ,懲戒解雇同様の形で即時に被告から排除され,退職届取消の意思表示を行ったものの,被告はこれを無視して叱りつけ,何らの措置も講じなかった。無収入となった原告は生活のことを考えて寝付けない日々が続いた。最近やっとアルバイトを始めたものの,収入も低く不安定であり,正社員の仕事に就くため,アルバイトと並行して求職活動に当たらなければならない状況である。したがって,原告が被った精神的苦痛の慰謝料は,100万円を下らない。

(ウ) 結論

よって,原告は,被告に対し,本件不法行為に基づき,損害賠償として,392万0890円及び本件不法行為の日(本件退職届提出の日)である平成19年7月9日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

イ 割増賃金

(ア) 原告は,平成17年12月1日から平成19年7月9日までの間,別紙1のとおり,時間外労働及び休日労働を行ったが,被告は,平成17年12月~平成18年2月分の賃金においては時間外手当を支払わず,平成18年3月分からは時間外手当を支払ったものの,その定額2万円の時間外手当は,原告の実際の時間外労働をカバーできるものではなかった。また,被告は,原告の休日労働に対しては,休日労働手当を支払ってはいない。

(イ) 原告のタイムカードに基づいて原告の時間外労働手当及び休日労働手当の金額を算定すると,別紙1のとおり,その総額は389万8253円となる。

(ウ) 被告は,連日長時間労働を行う原告に対し,労働基準法37条の定める時間外割増賃金及び休日割増賃金の支払義務を負っていながら,月額2万円の残業手当を支給したのみで,残手当の支払いを行わなかった。原告の毎月の時間外労働は,時間外労働の時間規制をはるかに超えたものであり,極めて悪質というべきである。

したがって,被告は,原告に対し,付加金として,別紙2のとおり,平成18年2月分以降の時間外割増賃金と休日割増賃金の合計額を支払うべきである。

(エ) よって,原告は,被告に対し,本件雇用契約及び労働基準法に基づき,時間外割増賃金と休日割増賃金の合計389万8253円及びうち各未払残業代の月額に対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払,並びに労働基準法114条所定の付加金373万6005円及びこれに対する本裁判確定の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

(2)  被告の主張

ア 本件不法行為について

(ア) 平成19年7月9日付けの原告の退職は,解雇ではなく,原告自らの意思による自主退職である。原告が自ら作成した本件退職届によれば,原告と被告との間の本件雇用契約の終了原因は,本件退職届の提出とその受理を原因とするものであり,解雇ではない。

(イ) 仮に解雇であるとしても,合理的理由のある解雇であって不当解雇には当たらない。被告代表者が退職勧告と評価されるべき言動を原告に対してしたことはあるが,それは,原告の勤務態度に関する事情に基づくものであって,規則27条所定の解雇事由に該当する合理的なものである。

(ウ) 事故報告書の提出は始末書の提出とは異なるから,懲戒処分には当たらない。

イ 割増賃金請求について

(ア) 原告は,労働基準法41条2号にいう管理監督者に該当するから,割増賃金の支払義務はない。

(イ) 原告の主張する残業は,自己都合の単なる居残りであり,仕事を伴うものではなかった。原告は,パソコン処理が苦手で,戦力にはなっていなかったし,トランプゲームやパソコンゲームに熱中し,あるいは席を離れて仕事以外のことで時間を潰していた。したがって,仮に,原告が所定の勤務時間を超えて会社内に残っていたことがあったとしても,これを労働時間として評価することはできない。

第3当裁判所の判断

1  本件不法行為に基づく請求について

(1)  前記前提事実に証拠(甲1~3,4の1~10,5~14,15の1~4,16の1~20,17,18,19の1~4,20~27,28の1~75,29,30の1~11,31の1~5,32の1~7,33の1・2,34,35の1・2,36~38,乙1,2~21の各1・2,22~40,41~47,証人C,同D,同E,同F,原告本人,被告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められ,この認定に反する原告本人の陳述(甲1,17,20,23,25,26,36,37)及び供述部分はいずれもこれを採用することができず,他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

ア 原告は,平成17年11月15日,被告代表者及びAによる面接を経て,同月21日,電気工事の現場管理経験の豊富な技術管理職として採用され,同年12月1日から,被告における勤務を開始した。当初の3か月は試用期間であり,この試用期間中の原告の勤務態度には特段の問題は見られなかった。

イ ところが,試用期間の明けた平成18年3月ころから,原告の勤務態度には変化が現れ,仕事に対する熱意の消失,緊張感の欠如,初歩的なミスの繰り返し,時間管理能力の欠如等が見られるようになった。具体的には以下のとおりである。

(ア) 平成18年3月上旬ころ,原告は,G社の大衡金谷局において,フィーダーケーブル防護管滑り止め工事を施工中,施工マニュアルに基づく事前打ち合わせと異なる施工をした。原告は,このとき,前の会社の仕様で工事をした旨弁解した。そのため,地上約40メートルの高さにあるアンテナ6本について,手直し工事(約28万円)を余儀なくされた。その結果,竣工が2日遅れてしまい,工事は発注者から注意される事態となった。

(イ) 平成18年9月中旬ころ,仙台市岩切南局及び名取市大曲局での各チルト制御装置電源ケーブル工事において,いずれもプラスとマイナスを逆に接続した。このまま通電した場合,感電,火災等の大事故になる虞があるため,直ちに改善工事(約25万円)を余儀なくされた。事前打ち合わせでは,この作業は,現場管理者である原告自ら行うことになっていたが,原告はこれを無断で下請業者に施工させ,さらにその結果を確認・検査していなかった。顧客が電源にスイッチを入れる前に気付いたから事故の発生を回避できたが,もし,発見できていなかったら,大事故になるところであった。

(ウ) 平成18年9月中旬ころ,原告がチームリーダーとなって福島県と宮城県で施工したアンテナ工事において,福島飯坂局と仙台上愛子局の2局で合計12本のアンテナの方向が間違っていた。アンテナのセット自体は被告の受注する工事の中ではごく普通の工事であり,しかも正確な方向にセットするというのはその工事の重要な内容である。そして,通常の注意を払っていれば,アンテナの方向間違いは滅多に起こることのない事態であった。

この件でも被告は改善工事(約30万円)を余儀なくされ,そのために工事の検査と竣工書類の発注者への引渡が遅れてしまった。

(エ) 平成18年9月16日,G社名取市大曲局工事を施工中,被告の工事車両を運転していた原告が,後方確認を怠り,上記車両を局の入口のガードレールにバックで激突させるという交通事故を起こした。同乗者もいた事故であった。

(オ) 平成18年10月ころ,原告は,自宅内で指を骨折し,全治まで40日を要する怪我をした。被告は,この怪我では原告は現場作業はできないし,かえって危険なので原告に自宅内療養を勧めたが,原告は,休むのは申し訳ないと被告の指導を無視して現場に出,危険かつ中途半端な作業を継続した。このため,同僚から,プロ意識の欠如した行為である等の批判が寄せられた。

(カ) 平成18年12月下旬ころ,H社アンテナ設備工事を施工中,2箇所にわたり,当該アンテナを本来取り付けるべき位置ではなく,異なる位置に取り付けるというミスを犯した。これは極めて初歩的なミスであり,このやり直し工事に別途60万円を要した。施主からは,余りもお粗末な工事について厳しい叱責を受けた。

しかも,原告は,被告が平成19年3月に現場の部下から上がってきた報告を契機に原告を問い詰めるまで,上記事故報告を怠った。被告は,原告がこの事故を被告に対してうやむやにしようとしたものと判断した。

(キ) 平成19年6月28日,原告が,仙台市内において,同僚社員3人の誘導の下,作業に使った被告の高所作業車を一定の場所から一定の場所までバックで移動する作業中,後方を確認せずにバックしたため,近隣の住民が付近に駐車していた外国製の自家用車に衝突しそうになった。そこで,誘導していた同僚社員が大声を上げて原告の運転する作業車を止めようとしたが,原告は停止しなかった。衝突の危険を察知した被告のC社員が飛び出して,上記作業車と上記外国車との間に割り込むように立ち,作業車の車体を激しく叩いて危険を原告に知らせたため,原告はようやく気付いてブレーキをかけた。C社員は間一髪のところで飛び退いて挟まれずに済んだが,作業車の後部が上記外国車の前部に接触してしまい,外国車の前部の樹脂製バンパーとフロントグリルを損傷した(6.28事故)。

被告は,6.28事故において,以下の点を重視した。すなわち,6.28事故は,C社員の避難行動を起こすタイミングが遅れていたら,C社員が車体の間に挟まれ,重大な人身被害が発生した可能性があったのに,原告にはそのような重大な事態であったことの認識がなかった。また,後方を確認しながらバックすれば事故は回避できたにもかかわらず,上記(エ)の事故と同様に,後方確認をしないままバックを開始して同様の事故を起こした。さらに,ぶつけられた相手方自動車の保有者に対する謝罪の態度も問題であった。原告は,被害車両の保有者に対し,最初に謝罪をすることもなく「大した傷ではなくて良かった。」という言い訳めいた挨拶をしたため,被害車両の保有者は,原告の態度に激怒し,その結果,被害者との示談交渉をこじらせてしまった。被害者は上記外国車を第三者に売却する契約を締結したばかりであったこともあり,結局,紛争解決のために,修理見積額である約35万円以外に慰謝料(評価損)名目での約35万円を上乗せした合計70万円を被告が被害者に支払うことを余儀なくされた。被害者との交渉が暗礁に乗り上げているときも,原告は他人事のように振る舞い,責任感は感じられず,被害者に対して菓子折の一つも持っていって謝罪に出向く等の気配りはなかった。

原告は,Aから,6.28事故に関する事故報告書の提出を命じられ,平成19年6月29日,6.28事故の概要とこの事故を反省し,一段と気を引き締め,片時も気を抜くことなく一二分に注意して運転,行動することを誓う旨を記載した被告宛の「事故報告書」と題する書面を提出した。

(ク) 平成18年から平成19年3月にかけて,被告内では政治活動及び宗教活動が禁止されている(規則12条8号)にもかかわらず,複数の社員に対し,複数回にわたり,特定政党の特定候補者への投票依頼を行った。

ウ 被告代表者は,6.28事故の発生を受け,今後,元請けの現場において,被告の責任で重大な事故を起こせば,元請けから指名停止となり,将来的に工事を受注することができなくなって被告を倒産させかねないことから,度重なる原告の軽率な問題行動に危機感を抱き,一刻も早く原告に退職を勧奨しようと考えた。そこで,平成19年7月9日,被告代表者は,原告を呼んだ上,強い調子で,「自分のやってきたことの重大さを分かってくれてますか。これだけのことをやられるということは,我々としては本当に大変迷惑なことなので。分かってもらっているのであれば,もう私が話したいことは十分おわかりですよね。」と話し,辞めて欲しいという被告の意思を原告に伝えた。これに対し,原告は「もう辞めろということでしょうか。」と答えたので,被告代表者は,「それは自分で考えて下さい。今までのことを顧みて,自分の中で判断して下さい。ただ,会社にはあんまり迷惑をかけて欲しくない,やっぱりみんな家族がいるので,そこも考えて欲しい。」と告げた。そうすると,原告は「分かりました。」と答え,「どうしたらいいんでしょうか。退職願を書いたらいいんですか。」と尋ねてきたことから,被告代表者は,「退職願じゃないんじゃないですか。退職届ということになるんじゃないでしょうか。」と答え,原告に退職届を提出するよう告げた。さらに,原告は,退職届はどう書いたらいいのかを尋ねてきたことから,被告代表者は,「自分が本当に迷惑をかけたと思うのであれば,自分の思ったとおりに,ご迷惑をかけましたとか,そういう内容でいいんじゃないですか。」と答えた。原告は,被告代表者との以上のやり取りを受け,その場で平成19年7月9日を退職日とする「一身上の都合により退職します。」という内容の本件退職届を作成し,被告代表者に交付した。

エ 原告は,本件退職届を被告に提出したものの,後で冷静に考えてみると,即時に会社から排除されたことに納得がいかなくなり,平成19年7月11日午前,仙台市内の労働組合に相談した。相談の結果,原告は,退職届取消の意思表示を行うことを決断し,同日午後4時ころ,被告会社で原告が被告代表者に面会し,文書により本件退職届の取消を被告に通知した。

(2)  上記(1)の事実によれば,被告は,度重なる原告の軽率な不注意による工事ミス及び交通事故の発生に頭を痛めていたところ,6.28事故の発生により一段と危機感を深め,このままでは原告の起こした事故により会社の存続さえ危うくなると考え,原告に対し,直ちに会社から退職するよう勧告する意思を固めたこと,平成19年7月9日,被告代表者は,上記の内心の意図をえん曲な表現ではあるが強い口調で原告に伝えたことから,原告としては,もはや自主的に退職届を作成する以外に方法はないとの緊迫した状況に置かれるに至り,不本意ながらもやむを得ず,本件退職届を作成して被告代表者に提出するに至ったものであることが認められる。したがって,上記の経過で作成提出された本件退職届の存在をもって,原告が,任意かつ自主的に本件雇用契約の解消を決断したと評価することは困難といわざるを得ない。この点に関する被告の主張は採用できない。

しかるところ,規則37条4号によれば,被告には懲戒処分の一つとして諭旨解雇が規定されており,その内容は,始末書を提出させ,説諭の上自発的に退職させるものとされている(前記前提事実)。上記(1)の事実によれば,原告が平成19年6月29日に作成提出した6.28事故にかかる「事故報告書」と題する書面は,その記載内容から見て上記始末書に該当すると解される上,被告代表者が平成19年7月9日に原告に対して告知した内容も,原告に説諭の上で原告を自発的に退職させるものに他ならないと言えるから,本件退職届は,正に被告が原告に対して諭旨解雇を言い渡した際に作成された文書に他ならないと認めるのが合理的である。したがって,始末書の提出と本件退職届の提出をもって二重処分とする原告の主張は理由がない。

(3)  上記(2)によれば,被告が原告に対して本件退職届の提出を命じたのは,原告に対して懲戒処分の一種である諭旨解雇処分(以下「本件処分」という。)を行ったものと認めることができるから,本件処分に合理的な理由があるかどうかについて,以下検討する。

ア 規則上,諭旨解雇事由は明確には規定されていない。しかし,その諭旨解雇処分の内容は,説諭の上で自発的に退職させるというものであり,自発的という文言が使われてはいるものの,懲戒処分としてなされるものである以上,労働者の自由意思が入り込む余地は少ないと言え,労働者にとっては懲戒解雇に準ずる程度の不利益を与えるものということができる。したがって,その事由も,規則38条2項の懲戒解雇事由に準ずるものと解するのが合理的である。

イ 本件において,被告が主張する原告の問題行動は,懲戒解雇事由の一つである「故意または重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき」(規則38条2項4号)に関係する事由であると考えられるところ,当裁判所は,上記(1)イの事実は,これを総合すれば,原告が重大な過失により会社に重大な損害を与えたときに該当すると判断する。その理由は,以下のとおりである。

(ア) 原告が業務中に起こした交通事故は,いずれも,バックの際の後方確認義務不履行であって,高所作業車という特殊車両を運転する際の基本的かつ初歩的な注意を怠ったことによって発生したものである。刑罰法規違反の事実は伴ってはいないものの,人身被害を伴う可能性の高い事故態様であり,万が一実際に人身被害を伴う事故となれば,業務場所が元請けである携帯電話会社の施設周辺であることから,元請会社の責任問題も発生しかねないと言える。原告の最も重大な問題点は,上記のような初歩的かつ基本的なミスによる同じような交通事故が繰り返されたという点にあり,被告代表者が,元請けから指名停止となり,将来的に工事を受注することができなくなることを恐れ,危機感を抱くに至ったことも誠に無理のないことというべきである。

原告は,上記交通事故は,被告が原告に過酷な長時間労働を命じていたために疲労状態にあったことが一因となって発生したものであると主張するが,その事故原因が上記のとおりいずれもバックの際の後方確認義務不履行という基本的かつ初歩的な注意を怠ったことにあること,同様の注意義務違反による交通事故が繰り返されていることに照らし,長時間労働と上記交通事故との間に相当因果関係があるとは認め難い。

(イ) 6.28事故による被害車両の損傷の程度は,前部の樹脂製バンパーとフロントグリルをへこませた程度であり,修理見積額が約35万円程度であることに照らしても,比較的軽微な物損事故ということができる。しかし,原告は,自ら起こした事故であるにもかかわらず,被害者に対する最初の対応において,素直に謝罪することをせず,弁解めいた対応をしたことから,被害者との交渉をこじらせてしまったものである。

修理費用の実費の他に慰謝料名目の上乗せを迫られた原因が原告の上記対応にあるとまでは断言できないが,原告の上記対応ミスがなければ,被害者との交渉がもっとスムースに進んだ可能性は高い。また,原告は,被告として,被害者からの法外な請求に対して支払拒絶ないし減額のための法的対抗手段を取ることは可能であったはずと主張するが,被害車両は国内においては数が少ない種類(シボレー)の外国車であり,法律上も評価損として修理実費以外の損害賠償が認められることもあり得るケースである上,原告の一方的な過失によって事故を発生させ,初動の対応ミスで被害者の感情を逆撫でしてしまったという事情もあるのであるから,被告として,被害者の上記請求を法外なものとして一方的に拒否するような交渉が困難であることは見やすい道理である。上記の事情を合わせ考慮すれば,6.28事故によって被った被告の損害は,決して軽微なものとは言えないというべきである。

(ウ) 原告が業務中に起こした施工ミスは,いずれも携帯電話の基地局建設の工事に携わる専門家としては初歩的かつ基本的なミスである。また,原告は,後記のとおり,労働基準法41条2号にいう管理監督者には該当しないものの,電気工事の現場管理経験の豊富な技術管理職として採用された者であり,電気工事の初心者として採用されたものではない。したがって,上記のような初歩的かつ基本的なミスは重大な過失と評価されてもやむを得ない。そして,その重大な過失によって4回にわたり工事ミスを行い,改善工事,やり直し工事のために約150万円の追加経費を発生させているのであるから,被告に少なからぬ損害を与えたということができる。

(エ) 上記(ア)ないし(ウ)の事情を総合すれば,原告が重大な過失により会社に重大な損害を与えたと評価することは十分可能というべきである。

(4)  上記(3)イのとおり,原告には諭旨解雇処分を行うに足りる合理的な理由があったというべきであるが,本件処分は懲戒処分の一種であるから,これを原告に対して行う際には,懲戒処分であることを明示した上で,その根拠規定と処分事由を告知すること,及び諭旨解雇事由のあることについて労働基準監督署長の認定を受けた場合のほかは,少なくとも30日前に予告をするか,又は平均賃金の30日以上の予告手当を原告に支払うことが必要があったというべきである(労働基準法20条,規則27条2項)。本件処分においては被告の過失によって上記手続がとられていないことが認められるから,本件処分はその手続において違法といわざるを得ず,原告に対する関係で不法行為(本件不法行為)が成立するというべきである。

(5)  本件不法行為による原告の損害について

ア 原告は,本件不法行為による逸失利益として,1年間の減収額252万円と年次有給休暇の取得権侵害による40万0890円を請求するが,上記(3)イのとおり,原告には諭旨解雇処分の対象とされるに足りる合理的な理由があったというべきであるから,本件処分が上記(4)の手続を遵守してなされていさえすれば,上記逸失利益は発生する余地はなかったと言える。したがって,本件不法行為と相当因果関係の認められる原告の逸失利益としては,予告手当相当額(平均賃金の30日分)の限度でこれを認めるのが相当である(原告の主張するその余の逸失利益は,本件不法行為と相当因果関係は認め難い。)。そうすると,原告の逸失利益額は,以下の計算式のとおり,57万2700円となる。

1万9090円×30日=57万2700円

イ 上記(3)イのとおり,原告には諭旨解雇処分の対象とされるに足りる合理的な理由があったものであり,本件処分の違法性は手続的違法にとどまることを考慮すると,本件不法行為によって原告が被った精神的苦痛の慰謝料は,10万円と認めるのが相当である。

(6)  よって,原告の被告に対する本件不法行為に基づく請求は,損害賠償として,67万2700円及び本件不法行為の日(本件退職届提出の日)である平成19年7月9日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容すべきであるが,その余の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。

2  割増賃金請求について

(1)  当裁判所は,前記前提事実に証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨を総合すると,原告が,被告において,平成17年12月1日から平成19年7月9日までの間に行った時間外労働,深夜労働及び休日労働の時間は,別紙1に記載のとおりと認定するのが相当であると判断する。その理由は,以下のとおりである。

ア 原告の上記労働時間を認定する最も有力な根拠となるのは,原告自身が打刻していたタイムカード(甲14,乙2~21の各1・2)であり,これによれば,平成17年12月1日から平成19年7月9日までの間に原告が被告会社に詰めていた時間のうち,外形的に時間外労働,深夜労働及び休日労働に当たる時間は,別紙1のとおりであると認められる(甲22)。

イ 被告は,原告が勤務時間後も会社内に詰めていたのは自己都合の単なる居残りであり,パソコンゲームに熱中し,あるいは席を離れて仕事以外のことで時間を潰していたと主張する。確かに,原告の同僚従業員であるD及びEの陳述(乙44,45)並びに供述によれば,原告が勤務時間後も会社内に詰めていたときでも,パソコンゲームに熱中したり,あるいは事務所を離れて仕事に就いていなかった時間が相当あることが窺われる(この事実を否定する原告本人の陳述(甲1,17,20,23,25,26,36,37)・供述は採用できない。)。

しかし,上記同僚従業員の陳述・供述は,その始期と終期があいまいで日時も特定されておらず,全般的な印象程度に留まるものである。労働基準法は,賃金全額支払の原則(同法24条1項)をとり,しかも,時間外労働,深夜労働及び休日労働についての厳格な規制を行っていることに照らすと,使用者の側に,労働者の労働時間を管理する義務を課していると解することができるところ,被告においてはその管理をタイムカードで行っていたのであるから,そのタイムカードに打刻された時間の範囲内は,仕事に当てられたものと事実上推定されるというべきである。仮に,その時間内でも仕事に就いていなかった時間が存在するというのであれば,被告において別途時間管理者を選任し,その者に時計を片手に各従業員の毎日の残業状況をチェックさせ,記録化する等しなければ,上記タイムカードによる勤務時間の外形的事実を覆すことは困難というべきである。しかし,上記同僚従業員は各従業員の残業時間をチェックすることをその業務としていたわけではないし,被告代表者やAら幹部も,原告の残業の実情については,本件裁判における上記同僚従業員の陳述・供述によって初めてその実態を知ったに留まる(弁論の全趣旨)のであるから,上記同僚従業員の陳述・供述のみでは上記推定を覆すには足りないと見るのが合理的である。

(2)  被告は,原告が労働基準法41条2号にいう管理監督者に該当するから,割増賃金の支払義務はないと主張する。しかし,原告は被告に在職当時係長の職にあった(甲24,被告代表者)ものであるところ,規程4条によれば,被告において管理職は課長以上の者をいうとされており,係長は被告の賃金体系上管理職とは位置づけられていない(甲3)こと,原告には基本給のほかに時間外手当が定額で実際に支払われていたこと(前記前提事実),原告にはタイムカードによる時間管理が行われていたことを総合すれば,原告が労働基準法41条2号にいう管理監督者に該当すると認めることは困難というほかなく,この認定に反する被告代表者の陳述(乙47)・供述は採用の限りではない。他に上記事実を認めるに足りる証拠はないから,被告の上記主張は採用できない。

(3)  そうすると,原告の,平成17年12月1日から平成19年7月9日までの間の時間外労働,深夜労働及び休日労働の時間に対応する割増賃金額を算定すると,別紙1に記載のとおり,389万8253円となる。

(4)  付加金は,違反のあったときから2年以内に行使すべきものとされているところ(労働基準法114条ただし書き),本訴においてその請求がなされたのは平成20年2月21日である(顕著な事実)から,上記(1)に認定した割増賃金額のうち平成18年2月分以降の割増賃金はすべて付加金の対象となる(別紙2のとおり)。しかし,上記(1)のとおり,原告が勤務時間後も会社内に詰めていたときでも,パソコンゲームに熱中したり,あるいは事務所を離れて仕事に就いていなかった時間が相当あることが窺われるのであるから,その対象金額すべてを付加金とすることは相当ではないというべきであり,本件において,付加金の額は,上記対象金額の5割に相当する186万8002円(円未満切り捨て)と認めるのが相当である。

(5)  したがって,原告の被告に対する,本件雇用契約及び労働基準法に基づく割増賃金及び付加金の請求は,389万8253円及びうち各未払残業代の月額に対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払,並びに186万8002円及びこれに対する本裁判確定の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるからこれを認容すべきであるが,その余の請求は理由がないからこれをいずれも棄却すべきである。

3  よって,主文のとおり判決する(なお,相当ではないから,被告の仮執行免脱宣言の申立ては却下する。)。

(裁判官 潮見直之)

(別紙は省略)

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