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仙台地方裁判所 平成16年(行ウ)1号 判決

主文

1  被告は,国立大学法人東北大学に対し,金88万3500円及びこれに対する平成15年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

2  原告らの被告に対するその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用及び補助参加によって生じた費用は,これを5分し,その1を原告らの,その余を被告及び補助参加人らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告は,国立大学法人東北大学に対し,金95万円及びこれに対する平成15年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

2  被告は,P1に対し,金30万円及びこれに対する平成15年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

3  被告は,P2に対し,金30万円及びこれに対する平成15年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

4  被告は,P3に対し,金20万円及びこれに対する平成15年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

5  被告は,P4に対し,金15万円及びこれに対する平成15年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

第2事案の概要等

1  事案の概要

本件は,平成14年度にP5病院(以下「市立病院」という。)及び石巻市P6(以下「P6」という。)が財団法人P7(以下「P7財団」という。)に対してなした寄附金について,実質的には被告補助参加人国立大学法人東北大学(以下「東北大学」という。)大学院医学系研究科の補助参加人P1,同P2,同P3,同P4又は同人らが実質的に代表を務める医局に対する寄附であり,これは地方公共団体の国に対する寄附と同視しうるから,地方財政再建促進特別措置法(以下「措置法」という。)24条2項に反して違法であり,不当利得返還請求権に基づいて,被告補助参加人らの受領した金員の返還を求めるよう被告に求めた訴えである。

2  争いのない事実等(争いがないか明らかに争わない事実については,証拠番号を付さない。)

(1)  当事者等

原告らは,石巻市の住民で,本件訴訟で問題となった寄附金の支出について監査請求を行った者である。

被告は,石巻市長であり,石巻市は,市立病院及びP6を設置している。

被告補助参加人P1,同P2,同P3,同P4(以下「参加人P1」,「参加人P2」,「参加人P3」,「参加人P4」といい,同人らを「参加人教授ら」という。)は東北大学医学部の教授であり,参加人P1は,東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座消化器病態学分野,参加人P2は,同神経・感覚器病態学講座眼科学分野,参加人P3は,同発生・発達医学講座小児病態学分野,参加人P4は,同外科病態学講座先進外科学分野をそれぞれ主宰する(又は本件寄附当時主宰していた)教授である。

P7財団は,後記(6)に詳述するとおり,昭和55年9月9日に宮城県知事から認可を受けて設立された特定公益法人である。

東北大学は,平成16年4月1日,国立大学法人法に基づき,東北大学及び大学院を設置・運営することを目的として設立された国立大学法人であり,同法附則9条,同法施行令(平成15年政令第478号)附則4条により,国立大学法人設置の際,現に国が有する権利及び義務のうち,大学が行う業務(同法22条12項)に関するものを承継したものである。

(2)  石巻市による寄附

ア 市立病院に関わるもの

(ア) 4月5日の寄附

石巻市は,市立病院長名で,平成14年1月17日,P7財団に対し,「P8総会」の研究助成金として30万円を寄附する申込みをし(乙2の1,2の2,15),同年4月5日,20万円と10万円の2口に分けてP7財団の銀行口座に振り込んだ(以下「4月5日の寄附」という。)。なお,20万円については,平成13年度病院事業会計,10万円については平成14年度病院事業会計からの支出で,費目は交際費であった。

(イ) 9月10日の寄附

石巻市は,市立病院長名で,平成14年9月9日,P7財団に対しテーマ「消化器疾患における病因の研究」の研究助成金として30万円を寄附する申込みをし(乙3の1),同月10日,30万円をP7財団の銀行口座に振り込んだ(以下「9月10日の寄附」という。)。

イ P6に関わるもの

(ア) 7月10日の寄附

石巻市は,被告名で,平成14年6月26日,P7財団に対して,病態代謝研究助成金として20万円を寄附する申込みをし(乙4の1),同年7月10日,20万円をP7財団の銀行口座に振り込んだ(以下「7月10日の寄附」という。)。

(イ) 7月31日の寄附

石巻市は,被告名で,平成14年7月18日,P7財団に対して,研究題目「多臓器不全へいたる侵襲時生体反応の中で各種臓器における細胞膜上NaK-ATPase活性の検討」の研究助成金として15万円を寄附する申込みをし,同月31日,15万円をP7財団の銀行口座に振り込んだ。

(以下,これらの4件の寄附をまとめて「本件寄附」という。)

(3)  原告らによる監査請求

原告らは,平成15年10月22日,本件寄附金の支出について,石巻市監査委員に対し,地方自治法242条1項に基づく住民監査請求を行った。

石巻市監査委員は,原告らに対し,同年12月18日,上記監査請求には理由がないとして,これを棄却する旨の通知を行った。

(4)  東北大学の構成等

ア 東北大学には,大学院が置かれており,大学院には医学系研究科(医科学専攻,障害学専攻)ほか13研究科と,教育部及び研究部並びに専攻が置かれている(国立大学法人東北大学組織運営規程10条1,2項)。学部には,医学部(医学科,保健学科)ほか9学部と学科,金属材料研究所,流体科学研究所等の附置研究所(同12条),附属図書館(同13条)を置くほか,医学部及び歯学部に共用の教育研究施設として附属病院を置き,これをP9病院と称している。

イ 東北大学大学院医学系研究科及び東北大学医学部は,国立大学法人東北大学組織運営規程10条及び11条により設置され,職員として,研究科長,学部長,副研究科長(2名,副学部長(3名,学科長,教授)),助教授,講師,助手のほか,事務職員,技術職員,その他の職員が置かれている(東北大学大学院医学系研究科及び医学部組織運営規程2条)。

(5)  参加人P2,同P4,同P1,同P3の経歴等

ア 参加人P2は,(略)。

イ 参加人P4は,(略)。

ウ 参加人P1は,(略)。

エ 参加人P3は,(略)。

(6)  P7財団

P7財団は,東北大学医学部創立110周年記念事業の一環として,昭和55年9月9日に設立された。財団には,会長1名,理事長,副理事長(但し平成14年度以降)各1名を含む13名以上18名以内の理事,30名以上40名以内の評議員が置かれ,それぞれ理事会,評議員会を構成している。理事は理事長,副理事長を含め,平成14年度は17名で,構成員の職業等は,東北大学大学院医学系研究科教授が5名の他,東北大学名誉教授,P9病院長,同加齢医学研究所長,宮城県病院事業管理者,同保健福祉部長,P10銀行代表取締役会長,仙台市保健福祉局長,財団法人P11(病院)理事長,宮城県医師会長,仙台市医師会長,P12代表取締役社長,財団法人宮城県P13会長各1名等であり,評議員会は33名で,うち東北大学大学院医学系研究科,同加齢医学研究所教授は12名で,その他の職業はいずれも多岐にわたっている。

3  争点

本件寄附が措置法24条2項に違反するかどうか(①本件寄附はP7財団に対するものなのか,東北大学の医局ないし研究者グループ,研究者個人に対するものなのか。②医局ないし研究者グループ,研究者個人に対するものだとすると,措置法24条2項の適用があるか。)

4  争点に対する当事者の主張

(1)  原告らの主張

ア 本件寄附の相手方

(ア) 本件寄附は石巻市からP7財団になされているものであるが,以下のとおり実質的には東北大学に対するものであり,P7財団は東北大学のトンネル機関に過ぎない。

(イ) P7財団の構成

P7財団の理事会は,P7財団の重要事項を議決し,業務の施行を決定する機関であるが,過半数に達しないとはいえ14名中6名を東北大学医学部教授らが占めており,議長を務める理事長も東北大学名誉教授である。後述のとおり,内規上,募金委員会を除く委員会の委員は,東北大学医学部又は加齢医学研究所教授に限定されていることからして,それ以外の理事が理事会において実質的な発言ができるとは到底考えられない。

P7財団には6つの委員会と1つの審査会があるが,このうち企画委員会,地域医療振興委員会,医学研究助成選考委員会,地域医療体制整備助成選考委員会海外学術集会参加助成選考委員会について,は,内規上,委員は,財団の役員であって,かつ,医学部又は加齢医学研究所教授である者に限定されている。指定研究助成審査会の委員長は,会長をもって充てるとされ,会長は東北大学医学部長が就任するのが慣例である。表面上理事や評議員に東北大学医学部教授以外の者も入ってはいるものの,このような内規がある以上,重要な事業の遂行からは排除されているのである。

このように一応体裁上東北大学以外の者も役員に入ってはいるが,P7財団が実質的に東北大学医学部のコントロールの下に運営されていることは容易に推認しうる。

(ウ) P7財団の事業の実態

P7財団には事務職員はわずか1名しかいない。しかし,P7財団の年度事業計画(丙1等)に掲げられた事業の遂行に当たって必要な事務量は膨大であり,到底1名の事務職員が担えるものではない。実質的には組織図に掲げられている各種委員会が必要な事務作業を行っていることもまた容易に推認しうるところである。

証人P14も医師派遣は医局がやっており,P7財団は医局から報告があった派遣実績を表にしただけということを認めている。

(エ) 本件寄附の流れ

本件寄附において,指定研究助成金は,寄附申込者によって最初から助成を受ける研究テーマを寄附者に指定し,寄附申込者がP7財団を通して寄附者からの寄附を受けるという形で,P7財団が受けた寄附金の支出先が予め指定されている。

寄附者が,研究テーマを指定することがあったとしても,P7財団が寄附金を受け入れ,その上で,P7財団が指定された研究テーマを研究する研究者らを助成先として選考し,寄附金を指定研究助成金として支出するというのであれば,それはそれで財団独自の事業と見ることもできよう。しかし,本件寄附では,寄附申込者が助成される研究テーマを指定して,そのまま市立病院やP6から寄附を受けており,P7財団は,まさに寄附申込者である東北大学医学部と助成者である公立病院とのトンネル機関というべきである。

この点について,P6所長であった証人P15は,P7財団に寄附の申請をする際に,東北大学の医局に対して研究題目を予め聞いていたと証言しており,その証言に沿う医局とのやりとりを記した文書も存在する(乙22,7枚目等)。たとえば,乙22の4枚目には「cDNAマイクロアレイを用いた臓器虚血障害,再潅流障害における遺伝子発現の解明」といった難解な研究題目が記載されているが,これは東北大学第二外科から直接研究題目の指定があったからである。また,P6は,東北大学から指定された研究テーマ(病態代謝の研究)に対する寄附をしたことを直接東北大学の医局に知らせていた。乙26の6枚目には「○写小児科へ送付」とP16のメモ書きがなされている。そして,証人P16は,「上司の指示で小児科に送付した」旨述べる。これは,病態代謝研究のために東北大学の小児科を指定して寄附したことを小児科の医局にも知らせる趣旨であり,それを上司が指示した,すなわち,P6が組織としてそのように知らせたことを意味する。かかる証拠に照らせば,本件寄附のうち,P6がした寄附は,いずれも東北大学の医局からP6に対して積極的な寄附の勧誘がされ,最終的に医局に寄附する目的で支出されたことが明白である。

これに対して,P7財団事務局長を務めたことがある証人P17は,P7財団は寄附者に対して一切寄附の勧誘はしないと述べたり,また,市立病院院長である証人P18は,東北大学の医局からの働きかけは全くないという。

この点について,証人P17は,助成先(大学教授ないし医局)から研究テーマを聞かない限りテーマを知ることはできないし,指定もできないことを認めるが,本件寄附については分からないと証言する。証人P18は,市立病院の寄附金支出決裁書類に参加人P1の指定研究助成金交付申請書が綴られている理由は分からないと述べる。また,証人P14もどうしてP7財団で保管しているはずの指定研究助成金交付申請書が石巻市の決済文書に綴られているのか分からないと証言するが,そうだとすれば,参加人P1ないしその医局員から市立病院に対し,こういう研究をしているから寄附申込みをしてくださいと頼んだからであるというほかない。

また,乙8の6枚目は東北大学医学部耳鼻咽喉科学教室から市立病院院長P18宛の文書であるが,耳鼻咽喉科学教室から直接寄附の申込みがあり,しかも,寄附申込書の宛先はP7財団になっている。P7財団が耳鼻咽喉科学教室へ行う寄附のトンネル機関であることを如実に示す文書である。

乙10の2枚目は東北大学医学部眼科学教室の参加人P2から直接市立病院院長P18宛に「網膜色素編成の遺伝子治療研究目的でご援助お願いしております,もしご芳志をお願いできます場合は」とP7財団を経由しての寄附の勧誘がなされている。そして,実際に30万円が指定研究助成金として石巻市から支出されている。P18は眼科に関してはずぶの素人であってこのような要請がなければ指定研究助成の申込みなどできるはずがないのである。

乙13添付の「第101回日本外科学会総会資金寄付のご依頼」は,東北大学第一外科学教室から市立病院院長P18への寄附の依頼文書であるが,寄附はP7財団にご寄附いただく形式を取らせていただく予定ですと書いてあり,これに従って市立病院では実際にP7財団に対して寄附を行っている。

乙12は,P7財団への5万円の寄附の決裁文書であるが,東北大学医学部病理学講座のP19医師からの詫び状が綴られている。そこには,「私の不注意と世間知らずで先生には二重に大変ご迷惑をお掛けし心からお詫び申し上げます」との記載がある。これについて証人P18は,明確な返答をしない。これを合理的に考えれば,P19医師がP7財団への寄附を勧誘すべきところ直接教室への寄附を勧誘した失態を詫びているものと解されるのである。

(オ) 小括

以上述べたところからすれば,東北大学の医局は,市立病院及びP6に対し,P7財団を経由せずに寄附の要請をなしていたということができる。

イ 医局と国(東北大学)との実質的同一性

(ア) 措置法24条2項

地方自治法232条の2では「普通地方公共団体は,その公,益上の必要がある場合においては,寄附又は補助をすることができる。」と規定しており,公益上の必要がある場合には市町村が第三者に対して寄附を行うことを認めている。

しかし,措置法24条2項では,「地方公共団体は,当分の間,国,……に対し,寄附金,法律又は政令の規定に基づかない負担金その他これらに類するもの(これに相当する物品等を含む。以下「寄附金等」という。)を支出してはならない。ただし,地方公共団体がその施設を国……等に移管しようとする場合その他やむを得ないと認められる政令で定める場合における国,……等と当該地方公共団体との協議に基づいて支出する寄附金等で,あらかじめ総務大臣に協議し,その同意を得たものについては,この限りでない。」と規定している。

これは,従来,地方財政法4条の5において,国による地方公共団体からの強制的な寄附金の徴収を禁止していたが,地方公共団体の任意自発的な寄附を規制対象とするものではないため,国等がその優越的な地位を背景として,本来自己の負担とすべき経費に付き自発的寄附という名目で地方公共団体にその負担を転嫁したり,あるいは地方公共団体の側においても,国等の施設等誘致のために寄附することが頻発したため,これを放置すると国等と地方公共団体との間の経費負担をも原則禁止とすることによって財政の健全化を図る一方,寄附等を一律禁止することによる公益上又は社会通念上の不合理を回避するために,一定の場合には事前に総務大臣の同意を得た上で寄附等をなしうるものとしたものと解される。

とすれば,措置法24条2項は,地方公共団体が行う寄附金等の支出について,地方自治法の規定に優先して適用される特別法であり,同項但書きに該る場合を除き,強制的なものであると任意的なものであるとを問わず,また,それが当該地方公共団体にとって必要ないし利益であると否とに関わりなく,全てこれを禁止したものと解される。

(イ) 同項の適用範囲

同項に規定する「国」には,各地方に設置されている国立大学も含み,国立大学内の組織も含むと解される。

また,同項の立法趣旨に鑑みれば,地方公共団体が寄附金等を支出する直接の相手方が形式的には国ではなく,何らかの経由組織を通じて間接的に支出する場合であっても,その経由組織の実体等に照らし実質的にみて国に対して直接支出する場合と同一で,同法の潜脱とみられる場合には,同法に抵触すると解するべきである。

(ウ) 医局と診療科の実質的同一性

参加人らによれば,医局とは「臨床系講座(分野)に所属して医師免許を持つ教員,大学院生あるいは研究生が加わった診療科に,さらにそれぞれに診療科の同窓生や同一の診療領域の医師などが加わった任意の組織」であり,医局と医学系研究科は別個の存在であると主張する。

証人P1によれば,内科病態学講座消化器病態学分野にあっては,医局とは「大学院医学系研究科の消化器病態学分野あるいは大学病院消化器内科に属する医師の集まりと言ってよい構成員は消化器。」,「病態学分野に属する教官,大学院生,大学院研究生,病院消化器内科に属する教官,医員で医局に対し医局費を支払っている者です。」,「医局は医局員の親睦を図りながら医学研究を行ったり診療に当たることや医局員の相互扶助などを目的として(いる)」,「医局は原則として当科に現在在籍する現役の医師の任意の集まりと言うべきもの」,「国の一組織である医学系研究科や病院の診療科とは明らかに異なる任意の組織」,「研究科と診療科内に在籍しているのは14名の教官と8名の医員,43名の大学院生でこれに出向者と大学院研究生が加わる」とされる(甲16,20)。

また,証人P14は,P7財団が指定助成金を交付する相手は,研究者個人あるいは研究者グループであると証言する。証人P1は,指定研究助成金の受領主体が研究者グループや研究者個人である旨証言した。しかし,証人P1の証言内容は支離滅裂であり,根拠がない。たとえば,購入した機材の所有関係を問いただされて「これは基本的には私が申請して,私が買うような格好になりますので,私の所有というか,一応研究科の所有ということになるんですか,私の立場は。ただ,医局内で買ったというようなことになりますので,私個人が買ったということになると思います。」と述べ,自ら医局の所有か研究科の所有かを区別できていない。受領主体が研究者グループや個人であると強弁するあまり,不自然不合理な証言となっている。

しかし,参加人らは,平成16年7月29日付準備書面2ページ1行目以下で「寄附金(研究助成金)は各分野の診療科の医局に対するものであるが,寄附金はいずれも財団から各医局に対して交付され,各医局は財団からの助成金として受領したものである。」としている。研究者個人といっても教授が一人で研究ができるはずもなく,研究者グループといっても医局の研究として研究しているのであって医局と離れて研究しているわけではない。したがって,本件では端的に医局の法的性格について検討すれば足りる。

(エ) 実質的同一性の判断要素

もっとも,権利能力なき社団の実体を有しないということと,措置法の適用を受けるだけの実質的同一性があるということは次元を異にするので,検討する。

大学と医局の実質的同一性については,①人的同一性,②組織としての独自性,③活動内容の同一性,④活動資金の同一性の各観点から検討するべきであるから,以下検討する。

① 人的同一性

東北大学評議会の下に設置された医学部問題小委員会の中間報告(甲21)によれば,「臨床系講座に所属して医師免許をもつ教員,大学院生あるいは研究生が加わった診療科に,さらにそれぞれの診療科の同窓生や同一の診療領域の医師などが加わった任意の組織が現在の大学病院における医局である。」,「国立学校設置法上の組織である臨床系講座,診療科と任意の組織である医局・同窓会が人的構成及び機能において両者が明確に区別されることなく大学内に存在し,この任意の組織である医局・同窓会が様々な団体あるいは個人から医学教育研究振興のための経済的支援を受けてきたことが今回の問題に内在していると思われる。」とされている。つまり,参加人ら自身が人的構成及び機能において両者が明確に区別されることなく存在していることを認めている。参加人らは医局が同窓会的機能を有することを強調して任意の組織であるとしていたが,証人P1の証言からは,同窓会と医局は異なることが明らかになった。

② 組織としての独自性

医局には,医局という以外の個性ある名称はなく,事務所は研究科の部屋そのものであり,規則は存在せず,機関として,代表者が教授なのか医局長なのかも判然とせず,その役割分担も不明で,意思決定機関として医局会なるものがあるというが,誰が議長であるのか,議事進行の方法や決議方法も判然としない。

参加人らは,研究,診療,教育という三つの柱を効率的に運営するには必然的に医局が必要と言うが,そうだとすれば,医局長は,研究科と診療科の両者の運営に関する業務を処理しなければならないのにそのような実態はなく,医局は特定分野における研究科と診療科の統合体として観念しうるから,組織としての独自性は有しないといえる。

③ 活動内容の同一性

医局を主催している教授は,医局の機能は研究,診療,教育というまさに東北大学の活動そのものであり,組織上,研究科と診療科に分かれている機能をうまく調整しながら共同で効率よく進めるための活動が医局の活動だと認識している。したがって,東北大学の研究科と診療科が行うべき研究,診療,教育という機能を融合しながら行う活動がすなわち医局の活動であり,まさに活動内容は同一である。

④ 活動資金の同一性

参加人らによれば,医局は,東北大学医学部の臨床研究棟の各研究科の教室の一部を研究科と事実上共用しているとのことである。どのような根拠で使用を認めているのか,使用料は徴収しているのかについては明らかではない。また,実験器具や事務用品についても校費で買ったものや科学研究費で買ったもの,委任経理金で買ったものもあるが,医局内であればみんな自由に使えるというのである。また,医局の私設秘書の給与も委任経理金から支出されている。委任経理金は公金であり,大学とは別個の任意団体のために支出することは不可能である。同じことは研究者に直接交付される科学研究費についてもいえるのであり,医局は大学の資金を使って研究していることになる。これらのことから活動資金の同一性が認められる。

なお,参加人らは,東北大学の医学系研究科やP9病院の診療科はP7財団から寄附金を受け取っていないが,教授が代表して受け取っており,これは私的な金銭であり公金とは異なると主張する。しかし,甲17によれば,平成16年度の指定研究寄附金が過去7年間の平均の約3割まで減少したとされているが,東北大学の研究教育には特段の支障は生じていないから,奨学寄附金として直接東北大学に寄附されるようになったのであり,また,文部科学省が今後は医局への直接寄附は止めて委任経理金として事務処理するようにと国立大学法人を指導したこともあって減少した。結局,奨学寄附金も医局が受け入れてきた研究助成金ないし研究協力金もP7財団からの指定研究助成金もその本質には全く違いがなく,公金として処理されるべき金銭であった。

以上の観点から検討すると,東北大学の研究科,診療科の総体と医局とは実質的に同一の存在である。したがって,医局への寄附は東北大学(国)への寄附であり,措置法24条2項に違反することになる。

ウ 本件寄附金支出の違法性

本件寄附は,まず,市立病院及びP6において,寄附先の研究項目や学会名を指定してP7財団に交付された。同財団は,受領した当該寄附金を東北大学大学院医学系研究科の各分野に交付した。すなわち,事実上,本件寄附金は東北大学大学院医学系研究科の各分野を指定したものとなっており,P7財団はトンネル機関に過ぎない。

かかる寄附の実体をみれば,本件寄附は,市立病院及びP6から東北大学大学院医学系研究科の各分野に対して寄附する場合と何ら異なることはなく,措置法24条2項に違反することは明らかである。

なお,本件寄附を含む各公立病院から,東北大学医学部への寄附は,研究助成名目や学会開催名目でなされているが,真の理由は同医学部からの派遣医師の確保にある。つまり,地方における医師不足は従前指摘されており,東北地方の中核をなす東北大学医学部から医師を派遣して対応していた。しかし,多くの地方病院が医師派遣を要請する一方,東北大学医学部の各分野・医局としての希望者の少ない地方病院への医師派遣を行うことは大きな負担となる。そのため,地方病院は医師を確保すべく研究助成名目等で寄附することにより医師派遣を要請するようになり,同大学医学部もそれを承知して寄附金を受領していた。このように,各公立病院から東北大学医学部への寄附金は医師派遣と密接な関連を有している。

エ 請求の相手方の責任

(ア) 参加人教授らは,争いのない事実等(1)及び(4)に記載のとおり,各分野を主宰する(又は本件寄附当時主宰していた)教授として,市立病院及びP6による前記違法な寄附金の支出により,それぞれ前記寄附金相当額の利得を得ており,その不当利得を返還する義務がある。

(イ) 東北大学は,市立病院及びP6の違法な寄附金支出により,各分野の教授がそれぞれ前記金を受領したことから,前記受領金員と同額の利得を得ており,その不当利得金を返還する義務がある。

(2)  被告の主張

ア 本件寄附の相手方

本件寄附の相手方は,P7財団であり,原告らが主張する参加人教授らが当該寄附金を受領したということはない。

イ 本件寄附について

本件寄附の詳細については,争いのない事実等(2)記載のとおりである。被告は,本件寄附については,P7財団の事業活動の趣旨(地域医療振興事業の助成,医学研修の助成,医学教育の助成など)に賛同して助成の目的で本件寄附を支出したものであり,P7財団をトンネル機関として東北大学の医局に寄附を行ったものではない。

(3)  参加人らの主張

ア P7財団

(ア) 設立目的

P7財団は地域医療の充実と医学の振興に必要な教育研究に,援助を行うことにより,宮城県民の医学知識の普及と地域社会の医療と健康増進の向上に直接的又は間接的に寄与することを目的としている。そして,この目的を達成するため,県内の医師,看護師その他医療関係技術者の研修や医学情報の県内医療関係者への提供,住民の健康教育の普及向上,地域医療体制の整備に対する助成,その他財団の上述の目的を達成するために必要な多くの事業を現に日常的に行っている。

本件寄附で問題とされている医学の教育研究に対する助成は,「医学部が国際的にも国内的に大きな飛躍を遂げるために,資金面で支える強力な支援態勢を形成すべきである。」とのP7財団設立の契機となったP7財団の目的を強力に実現しようとするものであり,P7財団の事業の中核をなすものである(丙1,P7財団寄附行為第4条以下。)。

(イ) 活動内容

P7財団は上記目的を達成するために,平成14年度は,地域医療振興事業の助成として,塩竈地区住民検診,宮城県仙台P20,P6,仙台市P21,仙台P22診療所,名取市P23等公益団体が行う住民検診等の事業に多数の医師派遣をし,医学部教室委員会及び加齢医学研究所研究委員会に対し合計300万円を助成している。

また,地域医療体制の充実及び教育研究向上のため,研究調査費として,P7財団は応募のあった4名のうちから東北大学加齢医学研究所呼吸器再建研究分野のP24助手の研究課題「肺移植に関わる教科書Handbook of Lung Transplantationの発刊」に対し,50万円を助成した。また,市民を対象とした健康教育公開講演会を年間11回開催し,48万8848円を助成した。そのほか,仙台市医師会主催の「看護職員研修講演会」を共催して30万円,宮城県地域医療協議会活動のために50万円を助成している。

さらに,P7財団は,地域医療機関の診療に従事する医師を派遣しておりこの人数は述べ5万0769名(平成14年度)にのぼる。

そのほかにも,医師会,市町村及び公益団体等が行う一般住民を対象として行う健康教育事業の講師派遣,医療に関する研修会の講師派遣,医学の国際交流のための支援などを行っている。

(ウ) 人的構成

原告らはP7財団の役員の構成について,東北大学以外の者も役員に入っているが,P7財団は東北大学の意のままに運営されていることは容易に推認しうる,とか,P7財団には6つの委員会と1つの審査会があるが,うち,企画委員会,地域医療振興委員会,医学研究助成選考委員会,地域医療体制整備助成選考委員会,海外学術集会参加選考委員会については,内規上,委員は財団の役員であって,かつ,医学部又は加齢医学研究所教授である者に限定されている,指定研究助成審査会の委員長は会長である東北大学医学部長が就任するのが慣例であり,表面上,理事や東北大学医学部教授以外の者が理事や評議員に入っていても,重要な事業の遂行からはこれらの者は排除されているなどと主張する。

しかし,P7財団の各種委員会はいずれも専門的かつ具体的な案件を審議し処理する専門員会であり,これらの委員会についてはいずれも医療や医学研究に専門的な知識や知見が必要であり,これらの委員会は専門的知識や知見を有する医学系研究科の教授等により構成されるのはむしろ当然である。

(エ) 寄附の目的が定められていること

指定研究助成金の申込みから交付までは,①寄附申込,②寄附受入決裁,③寄附者に寄附受入の通知,④指定口座に振り込み,⑤受領書,免税証明書,礼状送付,⑥指定研究助成審査会,⑦理事長決定,⑧指定研究助成金交付申請,⑨助成金交付,⑩指定研究成果報告書提出という流れをたどる。

寄附金は,P7財団の資産を構成するが,P7財団に寄附を希望する者はP7財団が定める様式の寄附金申込書に寄附者名,寄附金額を記載して申し込むこととされている。申込みに至る経緯は財団では分からないが,寄附者はほぼ例外なく特定の意図ないし目的を有しており,それゆえ寄附申込書には寄附の目的が記載されているのが通常である。目的が記載されていれば,事務局は原則としてこれをそのまま受理し,1ヶ月分の寄附金の申込みをまとめて一括して毎月末に常任理事,副理事長,理事長,会長(以下「執行部」という。)に受入れの可否の伺いを立て決裁を受ける。寄附の際,P7財団は,国の機関である研究科や診療科に対する寄附は受け付けていないし助成も一切行っていないから,かかる記載がある場合には,寄附者の意図を確認してから執行部に受入れの可否の伺いを立てている。

原告らの主張によれば,寄附目的等を具体的に指定すればいかに財団に寄附したとしても,交付先を指定したのと何ら変わらないから,P7財団は受入先にとって代行機関に過ぎないという。確かに寄附目的を具体的に指定すれば,限られた医局の中ではその研究グループはいくつかに特定される。しかし,だからといって当然に財団は寄附を受け入れる側の代行機関ということにはならないのである。

イ 医局と東北大学の関係

(ア) 医局の意義

医局とは,臨床系講座に所属して,医師免許を持つ教官,大学院生あるいは研究生等が加わった任意の組織であり,医局に所属する医師が医局員である。医局員は,現に,研究科や診療科に帰属する医師であり,その出身者は同窓会を結成し,かつ,同窓会員となっている。医局員は医局や同窓会との交流の中で症例や医療にかかわる情報の交換や連携をし,また,他の医療機関等に就職することによって,当該医療機関における医療に関わる情報を交換連携することにより症例を共有し,医学研究や医療全体の質の向上に寄与している。

臨床医療において研究,教育,診療をばらばらに分離することは不可能であり,それどころか,これらが有機的一体的に連携することが必要である。医局の独自性を否定する原告らの主張は,医学研究や医療の特質を無視したものと言わざるを得ない。

(イ) 研究の資金

原告らは,校費や奨学寄附金・科学研究費補助金はいずれも「公費」であるから,研究者は(医局が大学とは別個の存在であるなら)医局の構成員という立場では公費を用いた研究に関わることは許さ「」れないかのように考えていると思われる。しかし,これは明らかな誤りである。大学・大学院における研究は内部資金(校費・運営交付金)のみによって賄われているのではなく,そのほとんどは外部資金によって賄われている。外部資金は科学研究費補助金と民間からの寄附金であり,後者のうち,国に対してなされたものが奨学寄附金である。医局員である研究者やグループが民間の財団や篤志家から受けた懸賞金や寄附金を特定の研究のために奨学寄附金として国に寄附することもある。内部資金と外部資金のうち科学研究費補助金と奨学寄附金は「公金」であり,残りは私的な資金ということになる。これを図示すると以下のとおりとなる。

教育研究資金

内部外部の別

内部資金

(大学)

外部資金

(大学)

外部資金

(研究者・医局)

研究費等の種類

校費

奨学寄附金

科学研究費

補助金

その他(※1)

資金の原資

税金

民間資金

税金

※2

研究費等の

使用者

研究科

診療科

研究科

診療科

研究者・研究

者グループ

研究者・研究

者グループ

区分

公費

その他(※3)

※1……民間の財団や篤志家,公的,私的病院等からの寄附金

※2……民間の財団,篤志家,公的,私的病院等の資金

※3……公費以外の研究資金(私的な研究資金)

(ウ)医師派遣の対価ではない

原告らは,本件寄附は医師派遣の対価であると主張するが,そのような事実は全くなく,参加人らの医学系研究科内に設置した研究助成金問題調査委員会の調査結果によってもそのような事実は明確に否定されている。医師の派遣については,医師派遣を求める医療機関の病院長からP9病院の病院長に対し,書面により医師派遣の依頼書を提出し,依頼を受けた病院長は派遣を求められた医師の所属する診療科に医師派遣の可否を照会し,診療科に派遣する医師がいない場合には,派遣不能の回答を出し,派遣可能な場合には,当該医師から学長に対し兼業許可申請をしてその許可を得て行われることとなる。それゆえ,医師派遣の対価として医局に寄附が行われることはない。

第3当裁判所の判断

1  本件寄附

(1)  市立病院及びP6がP7財団の口座に対して,本件寄附を行ったことは争いがない。

(2)  証拠(事実ごとに後掲)によれば,以下の事実が認められる。

ア 4月5日の寄附(乙15,乙2の各枝番はこれの抜粋)

乙15は4月5日の寄附を支出する際に作成された石巻市の決裁文書の綴りである。乙15の2枚目は,4月5日の寄附に係る決裁の稟議書で,平成14年1月15日に起案され,同月17日に決裁された。この書面には,P7財団に対する地域医療の充実及び医学の振興に必要な教育研究に対する寄付金の支出についてという件名につき,「別紙により申し込むこととし,下記のとおり支出してよろしいか。平成13年度の執行可能額が残り少ないため,申込金額30万円のうち平成13年度予算から20万円執行することとし,残額については翌年度以降執行することとしてよろしいか。(平成14年度から10万円支出予定)」との記載がある。そして,3枚目は,平成14年1月とあって日付のない市立病院からP7財団に宛てた寄付金額30万円の「寄付金申込書」,4枚目には平成13年4月に作成され,平成14年1月11日に市立病院で受け付けられた「財団法人 P7への寄付のお願い(募金趣意書)」と題する文書があって,この文書には,P7財団理事長名で,P7財団ではP8総会から研究助成金交付の申請があったので,調査の結果,助成の対象とすることにし,寄附を募りたい旨が記載され,5枚目には,同月10日付で,P8総会会長P2作成の「P8総会寄付の御依頼」と題する文書と同総会の事務局である東北大学医学部眼科学教室作成の募金趣意書が綴られており,募金趣意書には,同総会が平成14年5月23日から同月26日まで開催されることや学会開催計画の概要,寄附金を必要とする理由,所要経費概算等が記載され,募金期間が平成13年4月23日から平成14年5月22日,寄附金の使途は総会及び関連事業の費用,寄附金の申込先は,P7財団,P7財団は特定公益法人に認定されているので財団に対する寄附金には一定額の免税措置が認められているという税制上の優遇措置が記載されている。

市立病院では,平成13年度の事業会計から,平成14年3月7日に支払予定日を同年4月5日とする20万円の支出命令を起票し,同日,20万円がP7財団の銀行口座に振り込まれ,平成14年度の事業会計から10万円が同日P7財団の銀行口座に振り込まれた(乙16)。

イ 9月10日の寄附(乙17,乙3の各枝番はこれの抜粋)

乙17は9月10日の寄附を支出する際に作成された石巻市の決裁文書の綴りである。乙17の2枚目は,9月10日の寄附に係る決裁の稟議書で,平成14年9月3日に起案され,同月4日に決裁された。この書面には,消化器疾患における病因の研究に対する寄付金の支出についてという件名につき,「別紙により申し込むこととし,下記のとおり支出してよろしいか」との記載がある(支出金額30万円,支払先P7財団)。3枚目は同月9日付の市立病院からP7財団に宛てた「寄付金申込書」であり,「寄付金額金300,000円也」の下に「テーマ『消化器疾患における病因の研究』(P1教授)」との記載がある(証人P25によれば,この記載は,市立病院総務課の担当者であるP25が記載したと認めることができる。)。4枚目には,消化器内科P1名でP7財団宛の同年4月9日付「指定研究助成金交付申請書」が綴られている。なお,申請書の日付は,書面上は明確でないが,被告は,平成14年4月9日であると述べたので,同日付のものと認める。

市立病院では,平成14年度の事業会計から,平成14年9月4日に,同月10日を支払予定日とする30万円の支出命令を起票し,同日,30万円がP7財団の銀行口座に振り込まれ,同日付でP7財団理事長名で市立病院病院長に宛てて寄附金を医学研究助成金として助成いたしますのでご了承くださいなどと記載のある礼状が出され同月25日に市立,病院で受け付けられた。

この寄附に対しては,P7財団発行の領収書が綴られ,参加人P1がが管理するP7財団名義の通帳に入金されている。

乙17の4枚目にある指定研究助成金交付申請書の申請金額93万円について,丙10によれば,平成15年1月23日にこの金額がP7財団から参加人P1の管理する銀行口座に振り込まれ,丙10,証人P1の証言によれば,市立病院による9月10日の30万円の寄附は,平成14年10月7日に上記口座に振り込まれているから,9月10日の寄附が参加人P1の指定研究助成金交付申請書に基づいて支払われたかどうかの関連が明確ではないものの,指定研究助成金交付申請書が市立病院による9月10日寄附の決裁文書に綴られており,そこに記載された研究テーマと同一のテーマで9月10日の寄附が申し込まれていることからすれば,9月10日の寄附は,参加人P1の指定研究助成金交付申請書を参考にして市立病院がしたものと認めるのが相当である。

証人P18は,9月10日の寄附について,P7財団や東北大学医学部からの要請を受けて寄附をしたものではなく,自発的に行われたものであるなどと述べるが,同証人は,寄附の目的である研究テーマを知った経緯について,自分は大学に長くいたので,各グループの代表が助成を求めるために指定研究を出していることを知っていた,研究テーマを知ったのは,医局に出入りしていたときであって誰から聞いたとは答えられないなど明確ではなく,被告が,P7財団の要請を受けて寄附をしたものであると主張していることや,P1名の指定研究助成金交付申請書が平成14年4月9日付で,寄附が行われた約5か月前に既に交付申請書が市立病院に届き,寄附の決裁文書に綴じられていることなどから考えてもこれを採用することができない。

ウ 7月10日の寄附(乙26,乙4の各枝番はこれの抜粋)

乙26は7月10日の寄附を支出する際に作成された石巻市の決裁文書の綴りである。乙26の2枚目,3枚目は7月10日の寄附に係る決裁の稟議書で,平成14年6月25日に起案され,同日決裁された。この文書の件名の欄には「病態代謝研究の助成について」とあり,さらに,「P6の小児科診療については当初土曜日のみの診療ということで小児科医が派遣されて来ておりましたが,その後,状況の変化から金曜日,日曜日,祝日,年末年始更にはお盆にも診察する必要性が認められることから現在ではこれらの日も含めて小児科医を派遣していただいております。しかしながら東北大学小児科医局においても医師が数少なく,派遣先もP6だけでなく,県内各所にわたっており,その割り振りに苦慮しているのが実情のようです。このためP6の小児科医師の派遣については,小児科医局長等のグループの協力により派遣されております。このような状況を踏まえ小児科における医療研究及び連絡調整等に対する助成費用として200,000円昨年度も支出したところでありますが,これは小児科の救急患者に対する医師確保上,やむを得ない措置であると考えられることから本年度も病態代謝研究助成金として昨年度と同額の200,000円を支出してよろしいか。」との記載があり,振込口座としてP7財団の銀行口座と支出予定日として7月10日が記載されている。

4枚目は6月26日付で被告からP7財団理事長に宛てた病態「代謝研究の助成について」と題する書面であり,5枚目は6月26日付のP6からP7財団に宛てた「寄付金申込書」で,金額欄の下に「病態代謝研究助成金として」との記載がある。

6枚目は,被告からP7財団理事長に宛てた,「病態代謝研究の助成について」と題する書面で,被告の公印があるほかは4枚目と同一の文書であるが,同書面の上部には手書きで「○写小児科へ送付」との記載があり(証人P16によれば,同人が記入したものであることが認められる。),7枚目には,日付がなく,被告の公印があるほかは5枚目と同一の書面である。

これらの書面の綴り方などからすると,被告からP7財団理事長に宛てた「病態代謝研究の助成について」と題する書面と寄附金申込書とは,P7財団に送付されたものと同内容のものが東北大学医学部の小児科医局へも送付されたと認めることができる。

この寄附については,6月25日に負担行為額を20万円,支払予定日を7月11日とする支出負担行為書が起票されて,6月25日,決裁を受け,同日に支払命令書が起票されて,7月10日に20万円がP7財団の銀行口座に振り込まれた。

この寄附に対しては,7月10日付でP7財団理事長名でP6被告宛の礼状が出され,この礼状は,8月26日にP6で受け付けられている。また,P7財団発行の7月10日付領収書が綴られている。

エ 7月31日の寄附(乙27,乙5の各枝番はこれの抜粋)

乙27は7月31日の寄附を支出する際に作成された石巻市の決裁文書の綴りである。乙27の2枚目,3枚目は7月27日の寄附に係る決裁の稟議書で,平成14年7月16日に起案され,同日に決裁された。これには,宛先をP7財団,件名として地域医療の振興及び救急医療充実に対する支援についてとあり,「地域医療の振興及び救急医療充実のために尽力をいただいている(財)P7に対し謝礼として,医学振興研究に対する支援費用として,150,000円を支出してよろしいか。」の記載と,振込口座としてP7財団の銀行口座,支出予定日として7月31日が記載されている。

4枚目は,被告からP7財団理事長に宛てた7月18日付「地域の医療振興及び救急医療充実に対する支援について」と題する書面であり,「貴会の御配慮により当市P6への当直医師の派遣については,順調に手配いただき,お蔭様でP6運営も無事遂行いたしておるところでございます。つきましては,地域の医療振興及び救急医療充実のために御尽力いただいております謝礼として,下記医学振興研究にご活用いただきたく別紙の金額を支援いたしますので」との記載の下に「研究題目『多臓器不全へいたる侵襲時生体反応の中での各種臓器における細胞膜上Na-K ATPase活性の検討』東北大学大学院 先進外科学分野 P4 教授」との記載がある。

5枚目は,「寄付金申込書」であるが,寄附金額の下に「研究題目『多臓器不全へいたる侵襲時生体反応の中での各種臓器における細胞膜上Na-K ATPase活性の検討』」との記載がある。

6枚目は東北大学P26医局長P27からP6所長へ平成14(2002)年6月25日13時23分にファクシミリ送信された文書であるが,「先日はわざわざ当方までお越しいただき。またご寄付のお話を頂き,ありがとうございました。P7を通じ,下記題目にてお願いできればと思います。」との記載があり「研究題目:『多臓器不全へいたる侵襲時生体反応の中での各種臓器における細胞膜上Na-K ATPase活性の検討』東北大学大学院 先進外科学分野 教授 P4」との記載がある。

この寄附については,7月16日に負担行為額を15万円,支払予定日を8月1日とする支出負担行為書が起票されて,7月16日,決裁を受け,同日に支払命令書が起票されて,7月31日に15万円がP7財団の銀行口座に振り込まれた。

この寄附に対しては,7月31日付でP7財団理事長名でP6被告宛の礼状が出され,この礼状は,8月8日にP6で受け付けられている。また,P7財団発行の7月31日付領収書が綴られている。

(3)  検討

ア 4月5日の寄附について

当該寄附は,P7財団から直接市立病院に宛ててP8総会寄附として依頼されている(乙15)。証人P18は,学会支援についてはP7財団から市立病院に対して直接寄附の依頼ないし要請があると証言する。

上記認定のとおり,募金趣意書は東北大学医学部眼科学教室が事務局となって作成されたもので,総会寄附の依頼文書もP8総会会長P2名で行われている。募金趣意書の内容を見ても主催機関と責任者は東北大学医学部眼科学教室教授P2であり,学会開催計画の概要,所要経費概算等にもP7財団に関する記述はなく,P7財団は,寄附金の申込先となっているに過ぎない。また,証人P14,同P17の証言によれば,P7財団には事務職員が1名在籍するのみで,P7財団の営む事業を遂行するには東北大学医学部の医局の協力が不可欠であったことが認められること,寄附金の目的あるいは使途が,P8総会及び関連事業の費用に充てることにあったことなども総合して考えると,当該寄附は,P7財団を窓口として,P8総会の事務局となっていた東北大学医学部眼科学教室に対して行われた寄附であると認めるのが相当である。もっとも,証人P17の証言によれば,P7財団に対してなされる寄附のうち7パーセントは,財団の手数料として徴収され,この徴収された手数料は,財団の資産となって指定研究助成金等に使用されていることが認められ,4月5日の寄附の全額を東北大学医学部眼科学教室に対する寄附であったと認めることはできない。

4月5日の寄附には,P7財団理事長名でP8総会からの研究助成金交付申請に対し,教育・研究成果等P7財団の事業目的との関連について調査した結果,助成の対象としたという文書が出されてはいる。しかしながら,4月5日の寄附は,寄附申込者に対しP8総会会長名による寄附の依頼があって,それに対して市立病院から寄附がなされたという点において参加人らの主張する寄附の申込みから交付までの通常の流れと異なっており,P8総会の開催が平成14年5月23日から同月26日であったのに,P7財団の平成14年度事業報告(乙1,丙5)には取り上げられていないことなどからして,上記文書があるからといって,4月5日の寄附がP7財団に対してされたものであると認めるには足りない。

イ 9月10日の寄附について

9月10日の寄附は参加人らの主張する寄附の通常の流れとは,異なっており,4月9日付の参加人P1による指定研究助成交付申請書があらかじめ市立病院に届き,その後に申請書に記載されたテーマと同一のテーマで市立病院からP7財団に対して寄附の申込がされたとみるべきであるから,市立病院では,参加人P1の申請書を参考にして9月10日の寄附をしたと認めるのが相当である。9月10日の寄附は,寄附の目的,寄附の申込者ともに予め決まっていたのであるが,P7財団を通して寄附しなければならなかった必要性を認めることができる証拠はない。

ウ 7月10日の寄附について

乙20,証人P15,同P14によれば,P6では管理医師としてのP15医師以外の内科,外科,小児科の医師は,全て東北大学医学部の医局から派遣された医師が診療に従事しており,P7財団は,派遣医師の名簿作成作業,各医局の医師がどのような病院に派遣されているかの調査などはするものの,実際に医師派遣の業務に関わるのは東北大学医学部の各診療科あるいは医局であって,P7財団は直接関わっていないこと,P6では,平成13年と平成14年に3回に分けてP7財団を支出先とする寄附金が出されているが,これは東北大学医学部の内科,外科,小児科のそれぞれに対し,医師派遣の謝礼金の意味合いを持って支出されたものであることが認められる。

このような経緯が認められることや上記認定のP6における稟議書の寄附の理由も東北大学医学部の小児科医局から少ない医師をやりくりして休日等に派遣を受けていることへの謝礼の意味が含まれていることからすると,7月10日の寄附は,P6において,東北大学医学部小児科医局がP6への医師派遣に尽力してくれるなどのことへ報いるために医師が行う研究の助成として寄附したものであり,P7財団への寄附の申込みの文書を同時に東北大学医学部小児科へも送付していることからすると,P7財団に対する寄附金申込の形式をとってはいるが,東北大学医学部小児科医局へ行われた寄附であると認めるのが相当である。証人P15は,P6の所長であるP15に対し,寄附に当たって,具体的な寄附の内容や金額についての相談はなく,実務上,石巻市の保健福祉部長が決裁していると述べていることからすると,7月10日の寄附申込書にある「病態代謝研究助成金として」とのテーマをP6の側で自発的に記載したとは認められず,乙22には,外科医局に関するものではあるが,東北大学医学部第二外科からP6の事務長に対し,テーマを指定しP7財団への寄附を依頼する文書がファックス送信されている文書が綴られていることなどからすると,寄附申込書の金額欄の下に記載されている「病態代謝研究助成金として」とあるのは,東北大学医学部小児科医局から目的を特定した寄附の依頼があって記載したものと認めるのが相当である。

エ 7月31日の寄附について

乙27には,寄付申込書に研究題目「多臓器不全へいたる侵襲時生体反応の中での各種臓器における細胞膜上Na-K ATPase活性の検討」との記載がある。そして,乙27に綴られた東北大学P26医局長P27からP6所長であるP15に宛てられたファクシミリ送信文書には,P15所長が東北大学P26医局を尋ねて寄附の話をした結果,P7財団を通じて下記題目で寄附をお願いしたい旨の内容が記載され,寄附申込書記載の研究題目,研究者と同一の記載がある。そうすると,7月31日の寄附は,P6が東北大学P26医局から研究題目と研究者を指定され,それに応じて寄附したものであることが認められる。

オ 上記認定のとおり,本件寄附については,いずれも市立病院あるいはP6がP7財団に寄附申込みをするまでに,寄附の申込者・寄附の目的が既に決まっていたことが認められるから,参加人らが主張するようなP7財団に対する通常の寄附の申込みから寄附金の配分までの流れとは異なる流れをたどった寄附であるということができる。本件寄附においては,P7財団が指定研究助成審査会などによる審査を通じて,寄附者の意図を汲み,財団に寄附金の助成を申し込んでいる研究者の研究が,助成に値する研究であるかなどを審査した上で,寄附者の意図に沿うような研究に寄附を配分したという経過をたどったことを認めるに足りる証拠はないから,本件寄附については,いずれもP7財団が寄附受入の窓口ないし代行機関になったに過ぎないものであったと言うことができる。証人P14,同P17の証言中には,本件寄附について,P7財団の指定研究助成審査会の持回り決議がされて助成することを決めたなどとの部分があるが,これを裏付ける客観的な証拠の提出はなく,上記認定の本件寄附の経緯に照らして採用することができない。

2  寄附の目的等を指定した寄附について

寄附の目的等を指定することについて,参加人らは,寄附申込者が目的等を指定したからといって必ずしもP7財団は受入先にとって代行機関に過ぎないということにはならないと主張する。

寄附の目的等を指定しても,例えば,同一の分野について複数の研究者がいるとか,研究者の具体的な氏名までは分からない等の事情がある場合には,P7財団を受入先として,寄附の配分をP7財団に委ねるということは考えられる。

しかし,本件寄附はいずれも寄附の対象となる学会,研究テーマ,研究者が判明している案件に対する寄附であり,特段の事情がなければ,直接寄附の対象者に寄附をすることができるところ(実際に,丙4「6.調査結果の概要」欄によれば,「公立病院等から直接国庫に納入された事例が3病院あった。」との記載がある。),寄附の対象者ではなくP7財団に対して本件寄附をしたことについて,参加人らによる合理的な説明はない。P7財団を通した寄附には手数料が寄附金の7パーセントかかり,この手数料分も助成金の原資となるが,上記認定のとおり,寄附者である市立病院,P6の側にP7財団自体に寄附をするという認識はなかったことなどを考えても,財政的な余裕があるとは認められない市立病院やP6が,本件寄附について寄附の対象者に対してではなく,P7財団を受入先として寄附しなければならない必要性を認めることができない。

また,乙24には,平成13年7月にP6がP7財団へ小児医療の地域医療振興及び救急医療充実に対する支援として20万円を寄附するについて,石巻市の事務担当者が憲法89条と措置法24条2項の公金支出の制限を考慮し,市が医局へ派遣医師のとりまとめ,連絡調整,事務処理等に対する謝礼及び地域医療振興救急医療の充実の支援等の報償費を支払うと国の歳入予算へ繰り入れられ,学術研究に対する寄附金として市から医局へ支出すると国への支出制限の問題が生じるが,医局が学術研究テーマの実施をP7財団に出し,市が地域医療振興・救急医療充実の謝礼のための支援に対してP7財団に支出すれば謝礼金がP7財団を通して医局へ入れることができることを検討した文書が綴られている。

これらの事情を考慮すると,本件寄附がP7財団に対してなされたのは,石巻市では,東北大学において行っている派遣医師のとりまとめ,連絡調整,事務処理等及び地域医療振興救急医療の充実の支援等に対する報償としての意味を含めて,東北大学医学部の研究者の研究に対する寄附を医局等に直接できる方法はないかを考慮していたところ,措置法24条2項の制限があるので,P7財団に対して寄附をする形式をとって,措置法24条2項との抵触を避けたと認めるのが相当である。

3  小括

以上で検討したとおり,本件寄附は,東北大学医学部の医局,研究者個人ないし研究者グループから市立病院又はP6に対して学会あるいは特定の研究テーマについての寄附の依頼があり,市立病院及びP6においては,東北大学による派遣医師のとりまとめ,連絡調整,事務処理等及び地域医療振興救急医療の充実の支援等に対して報償する必要性を認識し,それを研究者に対する研究助成として行おうとしていたところ,公立病院と国立大学との間で生じる措置法24条2項の公金支出の制限の問題を回避するため,P7財団を寄附の受入先に指定して,P7財団から各医局,研究者個人ないし研究者グループに交付させる形式をとったものであると認めることができる。

4  措置法24条の適用の有無

(1)  措置法24条の趣旨

地方自治法232条の2では,「普通地方公共団体は,その公益の必要がある場合においては,寄附又は補助をすることができる。」と規定しており,公益上の必要がある場合には市町村が第三者に対して寄附を行うことを認めている。

しかし,措置法24条2項では,「地方公共団体は,当分の間,国,……に対し,寄附金,法律又は政令の規定に基づかない負担金その他これらに類するもの(これに相当する物品等を含む。以下「寄附金等」という。)を支出してはならない。ただし,地方公共団体がその施設を国,独立行政法人若しくは国立大学法人等又は公社等に移管しようとする場合その他やむを得ないと認められる政令で定める場合における国,独立行政法人若しくは国立大学法人等又は公社等と当該地方公共団体との協議に基づいて支出する寄附金等で,あらかじめ総務大臣に協議し,その同意を得たものについては,この限りでない。」と規定している。

これは,従来,地方財政法4条の5において,国が地方公共団体から強制的に寄附金を徴収することを禁止していたが,同条は,地方公共団体の任意自発的な寄附を規制対象とするものではないため,国等がその優越的な地位を背景として,本来自己の負担とすべき経費に付き自発的寄附という名目で地方公共団体にその負担を転嫁したり,あるいは地方公共団体の側においても,国等の施設等誘致のために寄附することが頻発したため,これを放置すると国等と地方公共団体との間の経費負担をも原則禁止とすることによって財政の健全化を図る一方,寄附等を一律禁止することによる公益上又は社会通念上の不合理を回避するための一定の場合には事前に総務大臣の同意を得た上で寄附等をなしうるものとしたものと解される。

そうだとすれば,措置法24条2項は,地方公共団体が行う寄附金等の支出について,地方自治法の規定に優先して適用される特別法であり,同項ただし書きに該る場合を除き,強制的なものであると任意的なものであるとを問わず,また,それが当該地方公共団体にとって必要ないし利益であると否とに関わりなく,全てこれを禁止したものと解される。

(2)  適用範囲

措置法24条の趣旨は上記のとおりであるから,本来自己の経費とすべき金員について地方公共団体の負担とするような国と地方の財政区分を混乱させるようなものについて適用があると解される。

(3)  本件寄附先と国との関係

ア 参加人らは,本件寄附の相手方は医局,医師個人又は医師個人を中心とする研究グループであって,東北大学の組織である研究科,診療科には寄附がされていないので,措置法24条2項の適用はないと主張する。そこで,本件寄附の相手方について検討する。

上記認定のとおり,4月10日の寄附は,東北大学医学部眼科学教室に対する寄附であり,7月10日の寄附は,東北大学医学部小児科医局に対する寄附であり,9月10日の寄附は,参加人P1を中心とした研究グループ又は消化器内科に対する寄附であり,7月31日の寄附は,参加人P4を中心とした東北大学大学院先進外科学分野の研究グループ又は東北大学P26医局に対する寄附であると認めることができる。

イ 医局について

本件において原告らは,医局と研究科,診療科は実質的に同一であり,医局に対する寄附といっても研究科,診療科に対する寄附であり,措置法24条2項の適用があると主張する。

ところで,医局について参加人らは,研究科,診療科とは異なる別個の組織であり,医療研究に欠かせないものである旨主張する。甲15,17,19,丙10,証人P14,同P1の証言によれば,次のとおり認めることができる。

東北大学には医学部及び歯学部の共有の教育研究施設として附属病院であるP9病院が設置されている。東北大学大学院医学系研究科のうち,臨床系の研究分野は教育研究機関であると同時に臨床機関でもあり,研究科には教育研究組織として「講座」の下に分野があり,大学病院には診療組織としての診療科が設置されている。組織としての大学病院の診療科は患者の診療と学生の臨床教育を行う組織であり,大学院の組織である医学系研究科は研究を行う組織であるところ,診療科の出身者その他の者を含む同窓会の組織,他の病院に在籍する出向者なども含めて共同して研究をする場として医学部の教授を中心とし,医局長を定め,診療科や研究科を母体とする医師,大学院生の集団を医局員として組織され,医局員は医局に医局費を支払い,医局は医局員に,親睦を図りながら研究の場を提供していることが認められる。この意味で医局は,国の組織体である大学院の研究科,大学病院の診療科と全く同一視できるものではない。しかしながら,甲17ないし19,丙10によれば,医局には運営上の規約などは定められておらず,慣例によって運営され,医療の各分野によって医局としての組織の内容が異なり,甲19によれば,眼科では診療科医師の同窓会も医局の組織に含まれているが,丙10によれば,消化器病態学分野及び消化器内科では現在在籍する現役の医師の集まりを医局としているなどの差異もみられ,また,医局は,医局員による任意の集団であるとも述べられていて,組織の実態はいずれの診療科においても必ずしも明確なものではない。

また,甲17によれば,臨床系の医学系研究科の教官はすべて附属病院の兼務が発令されて診療科の教授(科長),助教授(副科長)を兼務するのであるから,医局,診療科,研究科の人的な区分も必ずしも明確なものではない。

措置法24条2項の趣旨は,前述のとおり,公金の支出について,地方公共団体の財政の再建を促進し,地方公共団体の財政の健全性を確保するため,国等と地方公共団体との間の経費負担区分を乱し,地方財政秩序を混乱させるおそれを防止し,地方財政の健全化を図ることにあるとすれば,人的な構成や大学病院という場所的同一性から診療科及び研究科と明確に区分することのできない医局の研究活動は,大学病院及び大学院の目的の1つである診療科及び研究科の研究と重なり合う部分が大きいということができ,そのための活動資金も医局のものであるか,診療科あるいは研究科のものであるのか明確な区別をすることはきわめて困難であるということができる。

医学の教育,研究には多額の研究費を必要とするが,東北大学の医学研究費用としては,校費,科学研究費補助金,委任経理金,医学教育研究助成金がある。校費は,国からの研究費で研究科に支給されるが,試薬や備品,実験資材の購入等の費用としてそのほとんどが費消されて現実の経費を賄うに足りず,科学研究費補助金は,文部科学省から委託を受けたP28に申請をし,認められれば支払われるが,採択率が一定せず,概ね申請額の3分の1が認められるかどうかであって,これらの費用では到底研究費用を賄えないという実態があった。また,委任経理金は払出を受けるのに手続が煩瑣である。そのため,研究者らが受けた医学教育研究助成金などの寄附金を医局で管理して使用するということが行われてきた。

医局の活動費用を賄うには,校費,科学研究費補助金,委任経理金だけでは足りず,企業や大口篤志家等からの研究助成金がこれを補うための重要な役割を果たしていたのであるが,医局や個々の研究者に対する研究助成金は,その内容によっては直ちに国に対する寄附金にならないものがありうるとしても,上記認定のとおり,診療科及び研究科の活動と明確に区別できない医局の研究活動の実態からすれば,かかる研究助成金が国に対する寄附金であることを否定することもまた困難である。国立大学法人である東北大学の医局や個々の研究者の研究活動費用は,その相当部分が公金をもって賄われているのであるから,その収支の関係は明確でなければならず,払出手続に煩瑣な点があるとしても,医局や研究者個人に対して支払われる研究助成金を含め,すべて委任経理金として管理されるのが適切であったというべきである。

なお,甲13によれば,平成16年度において,文部科学省は,今後,研究寄附金は個人,企業の如何を問わず委任経理金として事務処理するよう国立大学法人に指導したことで,P7財団では,平成16年度の指定研究寄附金が過去7年間の平均の約3割まで減少したとされているが,証人P14,同P1の証言によれば,寄附金の減少によっても東北大学の医学研究,医学教育には特段の支障は生じていないことが認められる。

ウ 小括

上記に説示したところからすると,地方公共団体が運営する公立病院から国立大学法人である東北大学医学部に属する医局,研究者個人または研究者グループに対して行われた本件寄附は,国に対する寄附金と区別することは困難であり,国と地方の財政区分を混乱させるものであったということができるから,措置法24条2項が禁止している地方公共団体から国に対する寄附金の支出と評価すべきものであって,違法なものであったと解される。

なお,参加人らは,そもそも,研究費等は国から支給される費用では賄うことができず,国立大学の医学の教育,研究のための費用が民間資金や篤志家の寄附によってようやく賄えることは法も前提としているから,公立病院からの寄附だとしても問題ない旨主張するが,医局,研究者個人ないし研究者グループの研究にかかる費用は上記のとおり委任経理金(公金)として処理されるべきものであり,これは国の管理に属する(特別会計か一般会計かは問題とならない。)から,地方公共団体からの寄附金を受け入れることは措置法24条2項に違反する。参加人らの主張には理由がない。

原告らは,本件寄附が医師派遣の対価であったと主張するが,石巻市の側で東北大学による派遣医師のとりまとめ,連絡調整,事務処理等及び地域医療振興救急医療の充実の支援等に対する報償として,東北大学の医学研究者の研究に対する寄附を考えていたことは上記認定のとおりであるが,石巻市が行った寄附と東北大学による市立病院やP6に対する医師派遣との間に対価性を認めるに足りる証拠はない。

(4)  以上検討したところによれば,本件寄附は,措置法24条2項に反する違法な寄附であったと解される。

5  不当利得返還請求権の存否について

(1)  原告らが被告に対して返還を求めているのは,被告の参加人らに対する不当利得金の返還請求であるので,以下,不当利得の要件について検討する。

(2)  本件寄附について,寄附者である石巻市の側では,市立病院やP6から国立大学(当時)である東北大学医学部の医局に対して直接謝礼金等の意味合いで寄附を行う場合には,措置法24条2項に抵触する可能性があったことは知っていたと認めることができるのは上記認定のとおりである(乙24の4枚目,証人P16によれば,P6の事務長が作成したものと認められる。乙12は東北大学大学院医学系研究科病理学講座のP19医師から市立病院の院長であるP18に宛てた書類で,「私の不注意と世間知らずで,先生には,二重に大変ご迷惑をお掛けし,心からお詫び申し上げます。」等の記載のある文書が綴ってあり,これが学会開催の寄附の依頼の決裁書類に綴られていることからすると,医局から市立病院に対して直接の寄附を働きかけたものと解される。)。そうすると,この抵触を回避するため,P7財団に対して寄附をし,P7財団から医局に寄附金が支払われれば,これによって,当該寄附は措置法24条2項に抵触する可能性がなくなるという認識を寄附者である石巻市の側と参加人らの側では有していたと認めることができる。乙1(丙1),証人P14によれば,P7財団は,東北大学医学部の創立110周年記念事業の一環として,昭和55年9月9日に宮城県知事から設立の許可を受けた財団法人であり,東北大学における研究費の不足を補って医学の研究に協力をするため,同窓会や先輩からの寄附を一括して取り扱うために設立され,地域医療機関などの寄附金や個人の篤志家からの寄附金を財源とし,理事や評議委員には東北大学関係者以外の者も参加しているが,常勤の事務職員は1人であるから,P7財団の多様な事業内容(地域医療の充実並びに医学の振興に必要な教育研究に援助を行い,県民の医学知識の普及を図り,地域社会の医療と健康増進の向上に寄与することなど)を処理することはできず,これらの助成等についての実際上の事務は,P7財団の組織の中核を担っている東北大学病院の各診療科などの協力を受けて行っていること,P7財団に設置されている指定研究助成審査会では,これまで指定研究助成の申請を拒否したことは一度もなく,同審査会の委員の活動も持ち回りで行われているなどのことはあるが,P7財団では寄附行為を持ち,理事や評議委員には東北大学関係者以外の者も参加し,助成金の交付等の事業活動は実際行っているなど,公益法人としての組織を備えていることが認められる。P7財団に寄附をすることで市立病院及びP6の側も東北大学の側も措置法24条2項の適用を免れることができると認識していたのであるから,参加人らは,民法704条の悪意の受益者であったということができる。

そうすると,利得者の返還義務の範囲は,その受けた利益に利息を付して返還することになるところ,本件寄附のうち,4月5日の寄附の目的はP8総会の開催及び関連費用であり,同総会は,平成14年5月23日から同月26日に開催されて,4月5日の寄附は,これに使用されていることが認められるが,甲15によれば,学会総会費用の余剰金は東北大学の委任経理金として処理されているから,P7財団の手数料である7パーセントを控除した27万9000円については東北大学の利得と認めることができる(利息については,原告らの請求が平成15年4月1日からであるから,この限度で認めることができる。)。

9月10日の寄附について,丙10,証人P1の証言によれば,当該寄附金は,参加人P1の管理する銀行口座に振り込まれたが,東北大学医学部では平成16年11月に医局で管理している金銭をすべて委任経理金に入れる方針をとり,現在では,これらの金銭は,すべて委任経理金として国庫金に納入されたことが認められる。そうすると,9月10日の寄附金の利得は,参加人東北大学にあるということができる。

7月10日及び7月31日の寄附については,いずれも9月10日の寄附と同様に東北大学医学部小児科,東北大学大学院先進外科学分野にそれぞれ行われたもので,平成16年11月に,東北大学医学部において,医局で管理している金銭をすべて委任経理金に入れる方針をとったことは上記認定のとおりであるから,これら寄附金の利得は,参加人P3及び参加人P4にはなく,参加人東北大学にあると認めるのが相当である。

P7財団では,寄附金の7パーセントを手数料として徴収し,それを指定研究助成金等の原資に充てていたことは上記認定のとおりであるから,参加人東北大学の利得は,上記寄附金から7パーセントを控除した60万4500円と認める。

第4結論

以上検討したところによれば,原告らの請求のうち,被告国立大学法人東北大学に88万3500円及びこれに対する平成15年4月1日から支払済みに至るまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるよう請求する部分は理由があるが,その余の請求には理由がないので,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野洋一 裁判官 伊澤文子 裁判官 伊藤康博)

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