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仙台地方裁判所 平成16年(わ)658号 判決

主文

被告人を懲役7年及び罰金2000万円に処する。

未決勾留日数中360日をその懲役刑に算入する。

その罰金を完納することができないときは,金5万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,仙台市青葉区a丁目b番c号に主たる事務所を置き,A大学等を設置する学校法人A大学の理事長として同学校法人の業務全般を統括していたもの,分離前の相被告人Bは,同学校法人の財務部長等として同学校法人の会計帳簿,計算書類の作成等経理処理全般を統括していたもの,同Cは,同学校法人の法人本部副本部長等として同学校法人の会計帳簿,計算書類の作成等経理処理全般を統括していたものであるが,被告人は,

第1  前記Bと共謀の上,前記学校法人の業務に関し,G2から国の補助金等を財源とする私立大学等経常費補助金(一般補助及び特別補助)を不正に受給しようと企て,平成11年6月30日ころ,東京都千代田区a丁目b番c号所在のG2において,G2助成部職員を介してG2理事長に対し,平成11年度私立大学等経常費補助金の交付を申請するに当たり,同学校法人はその管理運営等が著しく不適正であったから同補助金の受給資格を欠いていたのに,その資格があるように装い,約198億円の負債を除外するなどした同学校法人に係る内容虚偽の平成10年度分計算書類に,その内容が適正である旨の公認会計士作成名義の監査報告書を添付して送付・提出した上,

1  同年10月26日ころ,G2において,前記同様にG2理事長に対し,前記補助金額決定に必要な「平成11年度補助事業に要する経費」と題する書面及び学校法人会計基準に従って適正に経理処理を行っている旨等を記載した内容虚偽の「学校法人経営状況調査」と題する書面並びに同補助金を請求する旨記載した前記学校法人理事長被告人作成名義の「請求書」(第一次交付分)を送付・提出して同補助金の交付を申請し,G2理事長をして,同学校法人に208万1000円の同補助金を交付する旨決定させ,よって,同年12月6日,同決定に基づき,G2理事長らをして,仙台市青葉区a丁目b番c号所在の株式会社D銀行仙台支店に開設された学校法人A大学名義の普通預金口座に208万1000円を振込送金させ,

2  平成12年2月3日ころ,G2において,前記同様にG2理事長に対し,前記補助金額決定に必要な「平成11年度補助事業に要する経費一覧」と題する書面及び同補助金を請求する旨記載した前記被告人作成名義の「請求書」(最終交付分)を送付・提出して同補助金の交付を申請し,G2理事長をして,前記学校法人に657万9000円の同補助金を交付する旨決定させ,よって,同年3月27日,同決定に基づき,G2理事長らをして,前記普通預金口座に657万9000円を振込入金させ

もって,それぞれ偽りその他不正の手段により間接補助金である私立大学等経常費補助金の交付を受けた,

第2  前記Bと共謀の上,前記同様の業務に関し,前記同様に企て,平成12年6月30日ころ,G2において,前記同様にG2理事長に対し,平成12年度私立大学等経常費補助金(一般補助及び特別補助)の交付を申請するに当たり,前記同様に装い,約181億円の負債を除外するなどした前記学校法人に係る内容虚偽の平成11年度分計算書類に,その内容が適正である旨の公認会計士作成名義の監査報告書を添付して送付・提出した上,

1  同年10月10日ころ,G2において,前記同様にG2理事長に対し,前記補助金額決定に必要な「平成12年度補助事業に要する経費」と題する書面及び学校法人会計基準に従って適正に経理処理を行っている旨等を記載した内容虚偽の「学校法人経営状況調査」と題する書面並びに同補助金を請求する旨記載した前記学校法人理事長被告人作成名義の「請求書」(第一次交付分)を送付・提出して同補助金の交付を申請し,G2理事長をして,同学校法人に1691万7000円の同補助金を交付する旨決定させ,よって,同年12月4日,同決定に基づき,G2理事長らをして,前記普通預金口座に1691万7000円を振込送金させ,

2  平成13年2月5日ころ,G2において,前記同様にG2理事長に対し,前記補助金額決定に必要な「平成12年度補助事業に要する経費一覧」と題する書面及び同補助金を請求する旨記載した前記被告人作成名義の「請求書」(最終交付分)を送付・提出して同補助金の交付を申請し,G2理事長をして,同学校法人に3837万5000円の同補助金を交付する旨決定させ,よって,同年3月26日,同決定に基づき,G2理事長らをして,前記普通預金口座に3837万5000円を振込送金させ

もって,それぞれ偽りその他不正の手段により間接補助金である私立大学等経常費補助金の交付を受けた,

第3  前記同様の業務に関し,前記同様に企て,平成13年7月3日ころ,G2において,前記同様にG2理事長に対し,平成13年度私立大学等経常費補助金(一般補助及び特別補助)の交付を申請するに当たり,前記同様に装い,約175億円の負債を除外するなどした前記学校法人に係る内容虚偽の平成12年度分計算書類に,その内容が適正である旨の公認会計士作成名義の監査報告書を添付して送付・提出した上,

1  同年10月11日ころ,G2において,前記同様にG2理事長に対し,前記補助金額決定に必要な「平成13年度補助事業に要する経費」と題する書面及び学校法人会計基準に従って適正に経理処理を行っている旨等を記載した内容虚偽の「学校法人経営状況調査」と題する書面並びに同補助金を請求する旨記載した前記学校法人理事長被告人作成名義の「請求書」(第一次交付分)を送付・提出して同補助金の交付を申請し,G2理事長をして,同学校法人に2612万2000円の同補助金を交付する旨決定させ,よって,同年12月3日,同決定に基づき,G2理事長らをして,仙台市青葉区a丁目b番c号所在の株式会社E銀行仙台支店に開設された学校法人A名義の普通預金口座に2612万2000円を振込送金させ,

2  平成14年2月4日ころ,G2において,前記同様にG2理事長に対し,前記補助金金額決定に必要な「平成13年度補助事業に要する経費一覧」と題する書面とともに,前記被告人作成名義の「請求書」(最終交付分)を送付・提出して同補助金の交付を申請し,G2理事長をして,同学校法人に6270万6000円の同補助金を交付する旨決定させ,よって,同年3月29日,同決定に基づき,G2理事長をして,前記第3の1記載の普通預金口座に6270万6000円を振込送金させ

もって,それぞれ偽りその他不正の手段により間接補助金である私立大学等経常費補助金の交付を受けた,

第4  前記Cと共謀の上,前記学校法人の業務に関し,G2が交付する前記私立大学等経常費補助金(一般補助及び特別補助)及び国の委任によりG2が審査及び交付金額の計算を行った上,国が直接交付する私立大学等経常費補助金(私立大学教育研究高度化推進特別補助)を不正に受給しようと企て,平成14年6月28日ころ,G2において,前記同様にG2理事長に対し,平成14年度私立大学等経常費補助金(一般補助,特別補助及び私立大学教育研究高度化推進特別補助)の交付を申請するに当たり,前記同様に装い,約207億円の負債を除外するなどした同学校法人に係る内容虚偽の平成13年度分計算書類に,その内容が適正である旨の公認会計士作成名義の監査報告書を添付して送付・提出した上,

1  平成14年10月10日ころ,G2において,前記同様にG2理事長に対し,前記補助金額決定に必要な「平成14年度補助事業に要する経費」と題する書面及び学校法人会計基準に従って適正に経理処理を行っている旨等を記載した内容虚偽の「学校法人経営状況調査」と題する書面並びに同補助金を請求する旨記載した前記学校法人理事長被告人作成名義の「請求書」(第一次交付分)を送付・提出して同補助金の交付を申請し,G2理事長をして,同学校法人に3006万8000円の同補助金を交付する旨決定させ,よって,同年12月2日,同決定に基づき,G2理事長らをして,仙台市青葉区a丁目b番c号所在の株式会社F銀行仙台支店に開設された学校法人A大学名義の普通預金口座に3006万8000円を振込送金させ,

2  平成15年2月4日ころ,G2において,前記同様にG2理事長に対し,前記補助金額決定に必要な「平成14年度補助事業に要する経費一覧」と題する書面及び同補助金を請求する旨記載した前記被告人作成名義の「請求書」(最終交付分)を送付・提出して同補助金の交付を申請し,G2理事長をして,同学校法人に5067万3000円の同補助金を交付する旨決定させ,よって,同年3月25日,同決定に基づき,G2理事長らをして,前記第4の1記載の普通預金口座に5067万3000円を振込送金させ,

3  同年2月28日ころ,東京都千代田区a丁目b番c号所在のH2省において,G2のI2部職員を介してH2大臣に対し,前記被告人作成名義の「平成14年度私立大学等経常費補助金(私立大学教育研究高度化推進特別補助)交付申請書」を提出し,同大臣をして,前記学校法人に200万円の同補助金を交付する旨決定させ,よって,同年3月31日,同決定に基づき,同大臣らをして,前記第4の1記載の普通預金口座に200万円を振込入金させ

もって,それぞれ偽りその他不正の手段により間接補助金又は補助金である私立大学等経常費補助金の交付を受けた,

第5  前記Cと共謀の上,前記同様の業務に関し,G2から国の補助金等を財源とする私立大学等経常費補助金(一般補助及び特別補助)を不正に受給しようと企て,平成15年6月30日ころ,G2において,前記同様にG2理事長に対し,平成15年度私立大学等経常費補助金(一般補助及び特別補助)の交付を申請するに当たり,前記同様に装い,約134億円の負債を除外するなどした同学校法人に係る内容虚偽の平成14年度分計算書類に,その内容が適正である旨の公認会計士作成名義の監査報告書を添付して送付・提出した上,

1  同年10月10日ころ,G2において,前記同様にG2理事長に対し,前記補助金額決定に必要な「平成15年度補助事業に要する経費」と題する書面及び学校法人会計基準に従って適正に経理処理を行っている旨等を記載した内容虚偽の「学校法人経営状況調査」と題する書面並びに同補助金を請求する旨記載した前記被告人作成名義の「請求書」(第一次交付分)を送付・提出して同補助金の交付を申請し,G2理事長をして,同学校法人に1億2867万6000円の同補助金を交付する旨決定させ,よって,同年12月2日,同決定に基づき,G2理事長らをして,前記第4の1記載の普通預金口座に1億2867万6000円を振込送金させ,

2  平成16年2月4日ころ,G2において,前記同様G2理事長に対し,前記補助金額決定に必要な「平成15年度補助事業に要する経費一覧」と題する書面及び同補助金を請求する旨記載した前記被告人作成名義の「請求書」(最終交付分)を送付・提出して同補助金の交付を申請し,G2理事長をして,前記学校法人に2億0215万4000円の同補助金を交付する旨決定させ,よって,同年3月26日,同決定に基づき,G2理事長らをして,前記第4の1記載の普通預金口座に2億0215万4000円を振込送金させ

もって,それぞれ偽りその他不正の手段により間接補助金である私立大学等経常費補助金の交付を受けた,

第6  前記学校法人の資金を取組原資とし,同法人が所有する株式会社G銀行仙台支店等振出に係る自己宛て小切手合計37通(金額合計1億3500万円)をそれぞれ同学校法人のために業務上預かり保管中,別表1及び2記載のとおり(添付省略),平成11年3月10日ころから平成14年8月9日までの間,29回にわたり,前記株式会社E銀行仙台支店等において,前記各自己宛て小切手を,いずれも自己の用途に充てるため,ほしいままに,自ら換金し,若しくは妻であったHをして換金させ,又はIらに交付し,もって,同学校法人所有の前記自己宛て小切手37通を横領した,

第7  前記学校法人の財務会計担当職員に指示し,平成13年4月11日,株式会社E銀行仙台支店に開設された同学校法人名義の普通預金口座から3000万0840円の払戻しをさせ,同学校法人のため,同金員を同財務関係担当職員らに管理させて業務上預かり保管中,同日,仙台市青葉区a丁目b番c号所在の株式会社J2銀行仙台支店において,自己の用途に充てるため,ほしいままに,情を知らない同財務会計担当職員らをして,前記金員の内の2000万円を同支店に開設された被告人名義の普通預金口座に,同月12日,同所において,残金中の1000万円を被告人名義の同口座に各振込送金させ,もって,同学校法人所有の現金合計3000万円を横領した,

第8  自己の所得税を免れようと企て,前記第6,第7の各犯行により得た雑所得を除外し,給与所得,配当所得のみを申告するなどの方法により所得を秘匿した上,

1  平成11年分の実際総所得金額が1億0408万6000円であったにもかかわらず,平成12月3月15日,仙台市青葉区a丁目b番c号S2税務署において,同税務署長に対し,平成11年分の総所得金額が3808万6000円で,これに対する所得税額が58万2400円である旨の虚偽の所得税額確定申告書を提出し,そのまま納期限を徒過させ,もって,不正の行為により,同年分の正規の所得税額2500万2400円との差額2442万円を免れた,

2  平成12年分の実際総所得金額が8608万6000円であったにもかかわらず,平成13年3月15日,前記S2税務署において,同税務署長に対し,平成12年分の総所得金額が3808万6000円で,これに対する所得税額が41万1900円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し,そのまま納期限を徒過させ,もって,不正の行為により,同年分の正規の所得税額1817万1900円との差額1776万円を免れた,

3  平成13年分の実際総所得金額が8283万6000円であったにもかかわらず,平成14年3月15日,前記S2税務署において,同税務署長に対し,平成13年分の総所得金額が3883万6000円で,これに対する所得税額が49万8600万円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し,そのまま納期限を徒過させ,もって,不正の行為により,同年分の正規の所得税額1677万8600円との差額1628万円を免れた,

4  平成14年分の実際総所得金額が4566万1775円であったにもかかわらず,平成15年3月17日,前記S2税務署において,同税務署長に対し,平成14年分の総所得金額が3866万1775円で,これに対する所得税額が54万2900円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し,そのまま納期限を徒過させ,もって,不正の行為により,同年分の正規の所得税額313万2900円との差額259万円を免れた

ものである。

(証拠の標目 省略)

(事実認定の補足説明)

1  弁護人は,判示第6及び第7の事実について,被告人が,学校法人A大学(以下,前身の学校法人A等を含め「A学園」という。)の資金を取組原資とする預金小切手計37通の交付を受け(判示第6),また,A学園の口座から計3000万円を被告人の口座へ振り込ませた(判示第7)上,いずれも私的に費消したことは認めるものの,被告人にはA学園に対する預り金あるいは立替金の返還請求権があり,被告人はその返済として小切手や現金を受領したに過ぎないから,これら被告人の行為は業務上横領罪に該当しないし,被告人は返済を受けていたものと認識していたのであるから,業務上横領の故意がない,さらに,判示第8の事実について,同様に,被告人の行為は所得税法違反の罪に該当せず,その故意もなく,被告人はいずれも無罪である旨主張し,被告人も同旨の供述をするので,判示第6ないし第8の事実を認定したことを補足して説明する。

2  関係証拠によれば,被告人が,平成11年3月から平成14年8月までの間,A学園の資金を取組原資とする預金小切手の交付を受け,これらを,自己の生活費等に充てたり(判示第6別表1),自宅の増改築費用や書籍代として支払ったり,弟や交際相手の女性らに交付するなど(同別表2)して費消し,また,被告人名義の口座へ振り込ませた3000万円を自己の生活費等に費消したこと(判示第7),A学園の帳簿上では,上記費消分が報酬委託手数料等として経理処理され,これに沿うようにするため,被告人が知人に頼んで入手した金額欄白地の領収書に経理担当者が金額を記入するなどしていたこと,そして,被告人が,平成11年から平成14年までの確定申告に当たり,いずれも給与収入や役員報酬等だけを所得として申告し,上記費消分を除外していたことが認められ,これらの事実については,弁護人,被告人においても特に争っていない。

加えて,関係証拠によれば,A学園において10万円以上を支出する場合には,所属長や理事長である被告人の決済を受けることになっており,上記のような被告人への出金については,このような手続がとられたことはなく,また,A学園の理事会や評議会で議題とされたこともなかったこと,平成15年8月にA学園が税務調査を受けた際,報酬委託手数料名目で処理された過去5年分の被告人への支出につき,被告人の指示により,経理担当職員らが支払先を一部変更するなど帳簿を改ざんし,これに沿う架空の領収書を整えたことが認められる。

3  そうすると,特段の事情がないかぎり,被告人が本件業務上横領の犯行に及び,その際,横領の故意や不法領得の意思を有していて,被告人には業務上横領罪が成立し,また,本件所得税法違反の罪も成立するといわざるを得ないが,被告人は,捜査,公判を通じて,A学園に預り金があって,その返済を受けていた,横領する意思はなかったなどと弁解し(ただし,後記のとおり,一時,各犯行を認めたことがあった。),業務上横領罪や所得税法違反の罪の故意がなかったなどと特段の事情があったごとく供述しており,弁護人は,被告人の供述に基づいて,被告人には本件業務上横領罪や所得税法違反の罪は成立せず,被告人は無罪である旨主張しているので,以下検討する。

4  弁護人は,被告人が,A学園に対して4億円から5億円の預り金があった旨一貫して弁解し,A学園にこれを証する書類があって,被告人には,A学園に預り金を入れるだけの原資があったから,この弁解は信用できると主張する。そこで,被告人の弁解を検討することとする。

(1)  被告人の税務調査及び捜査の段階の弁解

被告人の税務調査及び捜査の段階における弁解の概要は,以下のとおりである。すなわち,被告人は,財務事務官に対し,① 平成16年2月20日に,「今から20年位前にA学園の資金として使うために,J証券等の株取引等で取得した約10億円の資金をA学園に貸し付けたことがあった。会計士から貸借だとA学園が私に利息を払うことになると言われ,私は利息を受け取る気がなかったので,預り金とした。」(乙63)と述べ,② 同年4月1日には,「昭和60年から昭和63年の間に10億円弱の金員をA学園に預け,短期大学を開学する資金に充てようと思った。預り金の資金は,株や債券の取引で儲けた七,八億円と,株取引を始めるに当たっての手持ち資金,A学園からの理事報酬,病院(伯父のKが理事長)からの理事報酬,dの自宅を買換えで売却した際に借り入れた金員の一部を回した二,三億円であった。預り金の10億円は,A学園を立ち上げた昭和53年から昭和六十二,三年までの合計である。平成12年ころに何百万円かの金員を預り金とした記憶はあるが,何千万という預り金をしたことはない。株取引については,昭和60年,61年ころのピーク時には,証券会社数社と取引を行い,年間2億円くらいの儲けがあった。」(乙64)と述べたが,③ 同年6月25日には,「昭和53年に専門学校を立ち上げ,仙台市eに200人規模で経営していた際,採算ラインを下回り,毎年赤字続きだったので,初年度から昭和63年ころまで,株取引で儲けたお金を約10億円預け入れた。昭和61年から63年はバブルでもあり,この間に入れたお金が大きい。儲けは,1年間で2億円くらいあった年もあった。株取引以外に,昭和59年ころ,dの土地と家屋を5000万円くらいで譲渡し,fに土地と家屋を1億円で取得した際,L銀行から1億二,三千万円を借り入れ,七,八千万円をA学園に入れた。このほかにも,昭和60年ころにM銀行やEから二,三千万円を借り入れ,A学園に預け入れた。」(乙67)と述べた上,④ 同年7月1日には,「Nに対し,同人が参院選に出馬して落選した平成七,八年ころ,1000万円を貸し付け,平成12年10月6日に返済を受けた。平成13年4月前に,Nがgにあるマンション1室をO建設から三千数百万円で購入することになったので,その資金を肩代わりした。」(乙69)と供述した。⑤ その後,同年11月30日,本件業務上横領,所得税法違反の嫌疑で検察官に逮捕され,同日の弁解録取で,「読まれた事実はそのとおりです。」(乙70)と述べたが,⑥ 同日の取調べで,検察官に対し,「第2事実のN名義で入金した3000万円は納得できないような気がしてきた。平成8年か9年ころ,立候補したNの選挙応援をしようと,個人的なお金を1000万円,A学園の小切手を2000万円用意させ,Nかその秘書に渡した。A学園は個人的な使途ということで小切手を渡したが,私はそれを横領してA学園の代わりにNへ立て替えたと思っている。」(乙72)と供述し,⑦ 同年12月2日,裁判官の勾留質問においては,「被告人名義の銀行口座に3000万円の振込を受けたことを除き,業務上横領や所得税法違反の事実は間違いない。上記3000万円の振込を受けたことが法律的に業務上横領になるか分からない。」(乙73)と供述した。そして,その後,検察官に対し,⑧ 同月20日,「昭和50年代からそれなりに株取引をしており,株である程度利益を上げたときには,2000万円,3000万円を運営資金としてA学園に入れた。私個人で借り入れた金も,A学園の運営資金として入れたこともあった。平成10年ころまでには,このようにして何回かに分けて4億円か5億円くらいの金をA学園に入れてきたと思っていた。この4億円か5億円は,確かfに自宅を持っていたとき,J2銀行からその土地建物を担保に1億8000万円程度を借り,その全部か一部か分からないが,それをA学園に預け入れた。また,確か平成4年か5年ころ,J2銀行から2億円をhの土地建物を担保に借り入れ,定期を組み,それが満期になったとき,小切手にしてA学園に入れたと記憶している。」(乙78)と供述したり,⑨ また,同日,「個人的に株取引もしていたので,最終的に大儲けしたわけではないが,特にバブルがはじける前ころは,それなりに株の利益も上がり,一時的に数千万円という単位で利益が出たような時もあった。そんなとき,A学園の資金が潤沢でなかったため,2000万,3000万という単位でA学園に預け入れた。ほかに個人で借りた金もあり,いずれA学園経営が軌道に乗って負債が少なくなったときに返してもらうつもりで,A学園の運営資金の一部として数億円を貸していた。」(乙79)と供述し,さらに,「預り金の返還だと考えていたので,あえて財務担当者に使い道を言わなかった。その都度預り金の返還を受けるとは言わなかったが,全く言わなかった訳ではない。平成11年以前に,B(分離前の相被告人,以下「B」という。)に預り金の返還で処理するように言ったことがある。」(乙78)と供述している。

(2)  被告人の当公判廷における弁解

次に,被告人の当公判廷における弁解の要旨は,以下のとおりである,すなわち,「①(昭和62年までのA学園の運営資金等につき)A学園を設立してから,学生が増えるので建物を建てなければならないが,学生が16名しかおらず,2年後まで学生がフルに入らずに厳しかったので,P銀行からの借入の返済資金をA学園の返済用口座に入れて,A学園が払えない分を立て替えた。A学園の財政は恒常的に火の車だったので,その都度お金を入れるなどして,昭和62年ころには,P銀行への立替払い4000万円を含めて1億2000万円くらいだった記憶である。②(株式につき)平成元年から4年ころ,取引が強いのに一つも株を持っていないのはおかしいと銀行から強く言われたが,当時,株取引はH1省から戒められていたので,難しいと言うと,個人名義で購入してほしいと言われたことから,Eの増資株を2万株買ったものの,A学園の資産だと強く言われて1万株をA学園に渡した。また,銀行が九州の方のある人のM銀行株を担保のような形で取っていたところ,事情があってその人との取引がおかしくなっているから,あなたのところで引き受けてほしいと銀行に頼まれて,時価で1500万円分買った。③(平成元年から6年ころのゴルフ会員権の立替払いにつき)平成三,四年に,M銀行とQ株式会社(以下「Q」という。)の要請で,1口800万円のRのゴルフ会員権を,A学園名義のほか,個人で2口買って,A学園に預けた。短期大学設置などで世話になったSの要請であったことから,断れずに,1口400万円のTゴルフクラブのゴルフ会員権を1口買った。さらに,同じくSの要請で,1口1000万円のUのゴルフ会員権を買った。④(昭和63年から平成4年ころの短期大学設置時の裏金につき)昭和63年ころ,Sの関連子会社のVなる人物に,短期大学設置の工作資金として3000万円を立て替えるなど,短期大学開学のための裏資金として7000万円を入れた。⑤(大学設置時の裏金につき)短大設置時の4000万円とは別に,大学設置時の裏金として5000万円を,Wの関連団体の事務局長をしているXに渡した。⑥(Y・Z関係に対する立替払いにつき)Yの経営者のZに対して,地主の対策費だと聞いて立て替えた金は3000万円あり,また手数料も6000万円ほどA学園のために立て替えた。記憶では,Yに1億円強を渡し,そのうち9割方は領収書をもらって会計課に渡した。さらに,その他の裏金として1000万円をZ側に渡している。⑦(絵画,彫刻及び書籍の立替払いにつき)大学設置ころまでに,絵画は30点ないし40点ほどA学園に持っていっているが,4000万円くらいかかった。彫刻は10体ぐらいA学園に持っていって,概算で1000万円くらいかかっている。本は,昭和53年から大学設置までで1万冊,累積して500万円くらいA学園に入れた。この500万円は,自分で古本として低めに評価したものである。⑧(Nの選挙応援資金の立替払いにつき)Nが参議院選挙に出馬することになり,H1省OBや関連団体からの要請があって,その選挙応援をせざるを得ないと思い,平成9年2月ころに,A学園を訪れたNらに1000万円の小切手を渡し,同年5月に,東京でNに直接1000万円を手渡した上,比例代表区で当選するためにはK2党の党員集めをして名簿の上位に載らなければならないというので,党員集めのお手伝いとして1000万円使った。⑨(平成13年度の運営資金の貸付につき)A学園の平成13年度の運営資金として,足りなくなったことから,総額にして3000万円ほどを,3回か4回にわたってA学園に貸し付けた。⑩(預り金や出金の指示等につき)いずれも経理担当責任者や経理担当者に,現金を渡したり,あるいは,立て替えたことなどを具体的に説明し,将来短期大学の関係の処理が終わり,状況が落ち着いたりしたら返してもらうなどと言って,預り金の処理をするように指示した。個人的に金を引き出すときには,いつも預り金で処理してくれと指示していた。特に,自宅の増改築で建設会社に支払う金員につき,預り金からの返済であることを明確にするために,A2銀行の口座を開設して,そこに振り込んでもらったことがある。⑪(支出するについての被告人の権限につき)理事長である私の専決で5億円まで支出することができる内規があった。」と供述している。

(3)  前記被告人の弁解をみれば,弁解録取や勾留質問時に本件犯行を認めたことを除いても,税務調査や捜査の段階から公判への移行に伴い,また,公判が進むに従ってその内容が次第に詳細になるなど変遷していることは明らかであって,弁護人も,これらの変遷が,重要で中核的な部分に関するものであるか否か別にして,変遷していること自体は認めている。

(ア) 弁護人は,その上で,被告人は,捜査官から何らの資料も見せられていないのであるから,多数回にわたる預り金や立替金を正確には答えられず,混乱したり,間違った供述をすることは当然のことである旨主張する。

確かに,税務調査や捜査の段階における被告人の供述調書を見ると,被告人に書類が示されたりしたことは少なかったと認められる。

しかしながら,被告人は,検察官の取り調べにおいて,「国税局の質問に,8億円は株取引で利益を上げて,A学園に預け入れたと言っていたことはうそであった。」(乙78)などと国税局に虚偽の供述をしたと自ら認めている上,これについて,「預け入れていた金がいくらあったかなどを全く把握していなかった。私は,昭和62年度末ではせいぜい1億円程度だと思っていたが,平成15年に税務調査の際に調べたところ,昭和62年度末で11億9000万円も私がA学園に入れていたと計上されていたことを初めて知って驚いた。それを見たとき,当時の財務担当責任者が帳簿処理上必要があって,ありもしない金額を私の預り金として計上していたと思った。今更でたらめだとも税務署に言えず,それで,苦し紛れに,株で8億円儲けて預け入れていたとうそをついた。」(乙78)などとその理由を詳しく説明しているのであるから,これは,資料を見せられないことが原因で間違った供述をしたものでないことはいうまでもない。

また,被告人は,税務調査の段階において,財務事務官から個別に質問を受け,株取引について,取引先の証券会社,購入した銘柄,利益,A学園の職員の名義を使ったことなどを,積極的に,ある程度具体的に供述している(乙64,67)ことがうかがわれ,検察官に対し,記憶が明確でないことは,その旨述べていることなどに照らせば,被告人の弁解が,資料を見せられないがゆえに勘違いした,あるいは,間違ったものになったなどといえないことは明らかである。

(イ) さらに,弁護人は,被告人が,捜査段階から「hの不動産の支払のための金員を除いて4億から5億の預り金があった。」と供述していたことは全く変遷しておらず,一貫していたと主張する。

しかしながら,被告人は,前記のとおり,財務事務官に対してうその供述をしたことを自ら認めているのであるから,預り金の原資や金額に関する供述が一貫していないことは明らかである。

また,仮に,うそを言っていたと自認した後の供述に限って見ても,被告人は,検察官に預り金の金額は4億か5億であると供述した上,「どのような名目で用意した金を預け入れていたのか分かるものがあるか。」という検察官の質問に対し,「全部は覚えていないが,確かfに自宅を持っていたとき,fの自宅建物と土地を担保に1億8000万円程度をJ2銀行から借りた。その全部か一部かを,それなりに入れたと思う。また,確か平成4年か5年ころ,J2銀行から2億円をhの土地建物を担保に入れ,定期を組み,それが満期になったとき小切手にしてA学園に入れたと記憶している。」(乙78)などと答えているのに,当公判廷では,最終的には,前記3(2)の①ないし⑨のとおり,預り金としては合計で4億か5億円余りあった旨供述しているのであるから,供述は変遷している。

なお,被告人は,当公判廷で,捜査段階でも,預り金は4億円か5億円と供述していたなどと述べているが,上記検察官調書(乙78)を見れば,そのような供述になっていないことは明らかである。

(ウ) 以上のとおり,被告人の弁解は変遷しており,しかも,預り金の金額という重要で中核的な部分を見ても,それには変遷があって,その変遷について合理的な理由の説明はない。

(4)  被告人の弁解内容の検討

被告人の弁解状況は,前記のとおり,税務調査や捜査の段階から公判への移行に伴い,また,公判が進むに従ってその内容が次第に詳細になってきているので,詳しくなった公判供述を検討することとする。

(ア) 被告人は,当公判廷で,前記4(2)の①ないし⑨とおり,昭和53年から平成13年までに,A学園に対して立替金等合計5億1539万5000円の預り金があると供述しているが,これら以外に,仙台市青葉区h所在の私邸(以下「被告人のhの私邸」という。)を建築した代金を,A学園を通じて建築主のQに支払った2億円(A学園には小切手で入れる。)も含めた約3億5000万円に関する供述は,揺れ動き,最終的には,これが預り金に含まれないという供述に落ち着いたが,その供述は明確さを欠いている(弁護人は,被告人の供述が不明確であったことから,当初は,この2億円を預り金に含める主張をしていたが,その後,その主張を撤回した経緯がある。)。

被告人は,当公判廷で,「昭和61年か62年ころ,当時のB2部長から,預り金というかたちで処理するように会計士と相談したと聞いた。貸金だったら,利息が発生するから,預り金に統一することにした。実体は,私がA学園に貸したものである。」などと供述しているのであるから,この小切手2億円が預り金になるはずはないのであり,被告人の供述は,まずこの点からも疑問がある。

(イ) 次に,被告人は,前記のとおり,立替金や預り金をしたときには,会計担当者に預り金として処理するように指示した旨供述している。

しかし,これらは,会計担当責任者である前記Bや同C(以下「C」という。)から,あるいは会計担当者によって否定されている。これら会計担当責任者らの各供述の信用性は,後に判断するとおりであるが,各種の立替金等を預り金としてその都度処理するように指示したというのであれば,会計担当責任者であったBやCらが本件補助金適正化法違反の罪で処罰されたとはいえ,同人ら,あるいは他の会計担当者らからそのような事実をうかがわせる供述が少しでも得られるはずであるが,前記会計の関係者らの供述は,そのような事実を否定することで全て一致している。

このこと自体からしても,被告人の供述の信用性には疑問がある。

(ウ) 次に,被告人は,Yの領収書や借用書を会計担当者に渡したと供述する以外,他の領収書を渡したり,自分でメモを作成して渡したり,あるいは,金員などを受け取るときに,受領書やメモを作成したりしていないことを認め,この点については,会計担当者らが帳簿に記載していると思っていた旨供述している。

しかし,他方で,「絵画,彫刻などを買うと領収書があるが,それは渡していない。」などというのであって,これらの領収書をA学園に渡さない理由は不自然であるし,また,「株取引による利益や報酬の余剰金などの7割くらいは常に持っていた。A学園の経営がひっぱくする度にA学園に金員を入れていた。」と供述しているのであるから,そのような状況では,メモを付けるか,会計担当者から受領を示す書類を受けとらなければ,後日金額が分からなくなってしまうことは明らかである。

この点に関し,被告人は,会計担当者を信頼していたと供述するが,その理由について納得できる説明はなされていない。

また,被告人は,預り金の金額の手控え等が一切存在しないことについて,「自分は友人にお金を貸すときにも借用書を取ったことはないし,自分はA学園と運命共同体で死ぬまで勤めていると思った上,表に出せない金で,手控えなどがあればA学園にマイナスだと思ったので残さなかった。」と供述しているが,仮にその金員が表に出せないものだとしても,手控えを外部に出さず,これを自ら保管しておけばずむことである。被告人が手控えを保管しておくことが特にA学園の不利益になるとも思われない上,いかにA学園と自己の利害を同一視していたからといっても,将来預り金の返済を受けるのに何らの手控えも残さなかったというのは,いかにも不自然である。

(エ) 次に,被告人は,上記のような高額な預り金があると供述しながら,これを帳簿等に当たって確認したことはない旨供述している。

しかし,被告人は,他方で,「平成元年ころに,病院に入院して大腸ガンの手術をしたが,銀行の交渉はC2理事が行っていた。ところが,C2理事は,A学園に関係する株式会社D2の代表権を持っていたが,貸金業をして10億円近い未収金を出したことがあった。」「平成七,八年ころ北税務署が職員の給与のことできたが,うまく終了したと報告を受けた。」「平成13年にE2会計事務所の会計検査を受けたところ,10年くらい前に,5億円前後の不明入金がある旨指摘されたとCを通じて聞いたことがあった。」「平成14年ころ,私に対し,簿外の金が会計課にあるなどという内部告発があった,Cに調査をさせた。」などと供述している。

上記のようなことがあれば,被告人が帳簿等を調べるのが当然であると考えれるが,これをしていないというのは極めて不自然であり,被告人が帳簿等を確認しないことにつき特段の理由は見当たらない。

しかも,被告人は,判示のとおり,補助金適正化法違反の犯行に及んでいる上,関係証拠によれば,犯行において,決算書類を偽造していることは明らかであり,被告人がそれに大きく関与していることが明白であることも併せ考えれば,被告人が帳簿等を確認していないというのは不自然というほかない。

(オ) なお,被告人は,その間に見たものは,平成10年7月ころ,Bが持って来た「平成9年度「仮払金」の精算資料」と題する書面(甲334添付の資料①)である,これは,この年度だけ,私が,大学設置でどのような形でお金が動いたか知りたかったので,Bに命じて持ってこさせたが,5分程度しか見なかったし,1枚目しかみておらず,2枚目から4枚目は見ていない旨供述している。

しかし,上記書面を見れば,1億8900万円余りの仮払金総額の精算方法が記載されているものであって,大学設置の関係での金員の流れを示すことをうかがわせるような記載はない上,その仮払金の詳細は別紙明細と記載があるにもかかわらず,最初の頁しか見ないというのも不自然である。

加えて,被告人は,「その資料の1枚目を見て,こんなにもらってないから不満だった。」などと供述しながら,他方では,「Bがせっかく作ってきたので,これを了承したが,『なんでもかんでも預り金で処理するな。』と注意した。」などと供述するが,被告人が不満を持ったという金額は,簡単には納得できそうもない高額なものである上,Bに「はっきりさせるように言ったが,そのままになった。」などと被告人が供述していることに照らせば,これも不自然というほかない。

(カ) さらに,前記のとおり,A2銀行に口座を開設してそこに振り込ませたのは,預り金の返済を受けることを明確にするためである旨供述している。

しかし,前記のとおり,帳簿等を確認することもなかった被告人が,このときだけ預り金からの返済であることを明確にしようとしたなどというのは理解し難い。

(キ) 加えて,被告人は,前記のとおり,内規により5億円まで専決で支出できる権限があった旨供述している。

しかし,被告人の供述を裏付けるものは証拠として提出されていない上,被告人が,いかに理事長とはいえ,5億円もの金員を自由に支出できるということは考え難く,5億円はA学園の収入に比べると高額であることが証拠上認められることに照らせば,被告人の供述は一層疑わしくなる。

そして,被告人が,理事会から,だれもA学園の借金の保証をしないので,被告人が保証してほしい,その代わり任せるからなどと言われたなどと内規ができる経緯について供述するが,そうであれば,支出のみならず借入もそのような内規があると思われるところ,被告人の供述は支出に限られており,不自然である。加えて,A学園において,10万円以上を支出する場合には,所属長や理事長である被告人の決済を受けることになっているとA学園の会計の関係者らが一致して供述していることからすれば,5億円も専決で支出できる内規があるなどという被告人の供述は信用し難い。

(ク) 以上のとおり,被告人の弁解は全体として不自然な点が多くあり,信用し難いものであるが,さらに,個別に見ていくと,被告人は,上記4(2)の②の株式,③のゴルフ会員権,⑦の絵画等を,A学園のために購入し,その代金相当額を立て替えたなどと供述するが,他方で,これらをA学園に請求できる理由の説明は曖昧であって,納得できるものではない。また,上記④の短大設置時や⑤の大学設置時の裏金等の金員については,被告人が供述するように,仮にこれがA学園の負担になるとしても,被告人は,公判段階になって突然弁解を始めたものであり,支出した金額,相手方が曖昧であって,公判を重ねるごとに不自然に詳細になっている。

(ケ) 次に,上記⑥のY,Z関係に対する立替払いについては,振込金受取書や領収書を見ても,いずれもA学園名義のものばかりであって,YとA学園との間での金員の授受があったことを示すものである。被告人は,公判段階になって突然このような弁解を始めたのであり,しかも,A学園がYに対する上記支出を負担すべき根拠や被告人が立て替えて支払った合理的な理由が説明されていない上,A学園の関係者の供述に照らしても,そのような支出の説明やこれについての預り金の処理があったことをうかがわせる事情は全くない。

(コ) さらに,上記⑧のNの選挙応援資金の立替払いについては,被告人の供述によっても,A学園がNの選挙資金を負担すべき理由は全く見当たらず,また,BらA学園の関係者の供述によれば,当時,A学園が,Nの選挙応援をすることが話題に上ったことすらないことが認められる。

そして,被告人は,財務事務官に対し,Nの選挙応援の資金として1000万円を貸し付けたが,平成12年に返済を受けた,A学園からの振込は,Nのマンション購入資金の立て替払い分三千数百万円を返してもらったなどと供述していた(乙4)のに,逮捕後は,Nに対し,自己の資金1000万円と,A学園から個人的な用途ということでもらった小切手2000万円を,選挙資金としてA学園に立て替えたものである(乙72)などと,著しく供述を変遷させているが,このように供述を変遷させた理由について,納得できる説明はなされていない。

なお,弁護人は,Bが作成した後記「平成9年度「仮払金」の精算資料」中に,「平成10年1月26日1000万円預り金N貸付」などと記載されていることを持ち出して,被告人の供述には裏付けがあると主張するが,上記資料がそのまま信用できないことは後記のとおりである。

加えて,被告人は,NがA学園に就職するようになったので,処理をしたいから,N名義で被告人の口座に振り込むように指示したなどと供述しているが,N名義で振り込ませる理由は理解できず,到底納得できるものではない。

(サ) 以上のとおり,上記4(2)の②ないし⑧に関する被告人の供述は信用することができない。

しかしながら,上記①の昭和62年までのA学園の運営資金等の立替金については,そのころ財務部長であったF2が,検察官に対し,金額は異なるものの,被告人がA学園のために立て替えたことがあった旨被告人の供述に沿うような供述をしており,また,⑨の平成13年度の被告人からA学園に対する運営資金の貸付については,そのころ会計担当者であったG2が,当公判廷で,2回くらい,1回あたり1000万円か2000万円を用立ててもらったなどと,やはり被告人の供述に沿うような供述をしている。

そこで,上記①,⑨については,F2やG2,さらには,B,Cらの供述の信用性も判断し,弁護人が,被告人の預り金の存在を裏付けるものであるとして有利に援用している書証も併せて検討することとする。

(5)  関係者の供述の信用性

BやCらA学園の会計責任者や会計担当者であったG2が,当公判廷に証人として出廷し,被告人に不利益な供述をしていること,また,F2も,捜査段階において,検察官に対し,被告人に不利なことを供述していることは明らかであり,弁護人も,これを認めた上で,F2は被告人に個人的な悪感情があり,BやCは,被告人によりA学園を追放されたり,本件補助金適正化法違反の罪で有罪判決を受けるなどして被告人を恨み,被告人に不利益な虚偽の供述をする動機がある,G2は会計責任者の立場でないから,長期預り金を知りうる立場にない,G2の供述をいくら重ねても無意味であるなどとして,その各供述の信用性や証拠価値を争っている。

確かに,BやCは,本件補助金適正化法違反の罪で有罪判決を受けているが,その判決は,それぞれ執行猶予の付いた懲役刑で既に確定しており,今更被告人に不利な供述をして自己の刑責の軽減を図り,あえてうそのことを述べて被告人に責任を転嫁する必要性があるとは認めがたい。

そして,Bは,「財務担当で,領収書の一部を勝手に作ったことがあったかもしれない。」などと被告人に有利なことも含め,自己の行ったことも述べている上,記憶がないこととあることを区別し,さらに,書類を示されて,記憶がよみがえってきたことはその旨述べて供述をしている。そして,平成12年ころに精神的に不安定になったことも包み隠さず述べているのであり,後記のCの供述ともよく符合しているのであって,Bの供述の信用性は高い。

また,Cも,自らYから白地の領収書をもらってきたなどと自己の果たした役割などを率直に述べながら,記憶がないことはその旨供述し,さらに,書類を見せられて,記憶が喚起されたことは,これを供述している上,上記Bの供述とよく符合しており,やはりその供述の信用性は高い。

さらに,G2は,昭和61年4月ころからA学園で財務会計の仕事を担当しており,財務会計の責任者ではないが,そのころから,決算書類の元になる元帳の記入や,パソコンでの入力をしており,平成14年2月の退職前には会計課長の職にも就いたのである(G2の公判供述)から,預り金に関するその供述が証拠価値がないなどといえないことは明らかである。そして,G2は,当公判廷で,警察や検察庁に四,五十回くらい呼ばれ大変だったと被告人に迷惑を掛けられたなどと供述しているが,他方では,前記のとおり,被告人から,2回くらい,1000万円か2000万円を用立ててもらったなどと被告人に有利なことも供述しながら,会計担当者としてこれまで行ってきたことや見聞きしたことを述べている上,記憶がないこととあることを区別して供述していることからすれば,その供述の信用性は高い。

加えて,F2の検察官調書(甲347)を見ると,F2は,昭和61年3月10日から昭和63年9月3日まで,A学園で財務部長という立場で経理の仕事をしていたものであり,会計処理の状況などを具体的に述べた上,「私が,A学園の財務部長となった後,P銀行から債務を返済してほしいと要求され,資金繰りに窮したA学園が,被告人個人の定期を崩して相殺してもらった。」などと被告人に有利な供述もしている上,記憶がないこととあることを区別して述べていることなどからすれば,その信用性に疑問はない。

そして,その他学園の経理責任者や担当者等の捜査段階の供述は,これら信用性の認められるBやC,F2やG2の各供述に符合していることに照らせば,十分に信用することができる。

(6)  そうすると,F2の供述(検察官調書)によれば,上記①の昭和62年までのA学園の運営資金等の立替金については,数千万円あったことが認められ,また,G2の公判供述によれば,上記⑨の平成13年度の被告人からA学園に対する運営資金の貸し付けにつき,2回くらい,1回あたり1000万円か2000万円を用立てたことが認められる。

他方,G2の公判供述によれば,上記⑨の被告人の平成13年度のA学園に対する運営資金の貸付金は,A学園から被告人に同年度に返済されたことが認められる。

なお,この点につき,被告人は,G2がNに対する貸付金の返済と混同していると思う旨供述し,同年度に返済したというG2の供述部分の信用性を争っているが,G2がN名義の振り込みに関与していることが証拠上認められる(甲342)ものの,G2がその振り込みと平成13年度運営資金の借入金の返済とを混同しているとうかがわせる証拠は全くなく,被告人からの借入が計算書類に載っていない理由を説明する中で,年度内に返済したと述べたその明確な供述から見ても,G2が両者を混同しているという疑いはない。

(7)  そこで,上記①の昭和62年までのA学園の運営資金等の立替金につき,さらに,書証とも併せて検討する。

(ア) 関係証拠によれば,A学園の税務署用計算書類の中の貸借対照表には,各年度の長期預り金及び預り金として,別紙のとおり計上されており,昭和62年度末にはさほどでもなかった預り金の額が急増し,その額は約12億円余りとなっていること,そして,その後若干増減があるものの,平成4年,5年ころの長期預り金が11億円余り計上されていることが認められる。

また,関係証拠によれば,A学園では,複数の会計帳簿を作成し,それに基づいて税務署用,文部科学省提出用などと別々に計算書類作成していたが,もともと税務署用計算書類は,専門学校時代から,会計担当者のB2らが,実態を把握し,不定期にある税務調査などに対応することを目的として作成していたものであり,しばらく作成されなかった時期もあったが,平成7年にS2税務署がQへの税務調査のために,A学園にも実施されることになった反面調査に対応するため過去数年間にさかのぼって再び作成されるようになったものであって,これに合わせて税務署用会計帳簿なども作成され,以後,被告人に対する税務調査が始まるまで会計年度ごとに作成されていたことが認められ,その作成経緯等からすると,その内容は基本的には正確であったと考えられる(ただし,後記のとおり,信用し難い部分もある。)。

しかしながら,その貸借対照表には,預り金の預かり先が記載されていないのであるから,これを見ただけでは,被告人の預り金の存在や金額まで分かるというものでもない。

(イ) そこで,この点について検討すると,前記信用性の認められるG2,Bの公判供述等によれば,A学園は,昭和63年3月31日に,Qから10億円を借り受けたことから,昭和62年度の税務署用の計算書類中の貸借対照表上は,昭和62年度末にはさほどでもなかった預り金が,前記のとおり急増したこと,ところが,平成元年に4億円を返済したので,Qに対する債務は6億円となったが,計算書類上は,A学園の自己資金であると仮装するため,その6億円を預り金科目に計上したこと,また,短大設置認可申請の際,未払金が残っている専門学校の建物は短大に転用できないとH1省側に指導されたため,Qに対する建物建築代金の未払を,平成元年から2年にかけて合計3億円支払ったように仮装し,これで浮いた3億円を預り金に計上したことが認められる。

加えて,関係証拠によれば,A学園では,被告人を通じて,短大設置の際の見せ金として使うために,被告人の離婚した元妻の叔母であるH3から1億円を借りたこと,そして,これを簿外で銀行口座に入金して管理していたが,税務署用の預り金の中には,この1億円が含まれていると認められ,税務署用の計算書類中の預り金のうちの10億円分は,上記の金員の合計額であると認められる。

そうすると,税務署用の計算書類中の預り金のうち,10億円を超える金員が問題になるが,関係証拠によれば,A学園では,簿外の銀行口座を作って金員を入金し,これらを預り金として計上したと考える余地もあることが認められる上,前記のとおり,昭和62年までのA学園に対する被告人の立替金が数千万円あったことがF2供述によって認められることなどからすれば,税務署用の計算書類中の預り金のうち,10億円を超える部分の中に,被告人の立替金が数千万円入っていたと考えられ,その限度では,被告人の預り金の供述を排斥できないとこととなる。

(ウ) ところで,弁護人は,これ以上に,資料を持ち出して,被告人の弁解に沿う預り金の具体的な金額が記載されている証拠があり,これらを重視すべきである旨主張する。

確かに,関係証拠によれば,上記税務署用の計算書類の他に,① A学園の内部資料である「6年度末預り金内訳表」(以下「本件内訳表」という。)があり,そこには,預かり先欄に被告人名が,金額欄に2000万円と,備考欄に5年1月20日,2億円預かり,5年3月30日1億円の出金,平成7年3月29日,8000万円の出金という趣旨の記載(Bの検察官調書・甲335添付資料③-1)があること,② 同様の内部資料である前記の「平成9年度「仮払金」の精算資料」と題する書面(以下「本件メモ」という。)があり,そこには,仮払金総額として「1億8935万円(詳細は別紙明細)」という記載と,その精算方法として,株式会社Yへの業務委託契約書に基づく支払処理として5300万円,残額1億3635万円は,長期預り金(平成9年3月31日現在の残高が3億4382万6500円)を取り崩して精算処理を行い,その残高が2億0747万6500円(この残高部分は手書き。)となった旨の記載(Bの検察官調書・甲334添付資料①)があること,③ 同様の内部資料である「Q(株)仙台支店へのL2国税局による税務調査に係る件について(概略)」と題する書面(以下「本件資料」という。)が,添付の「実際の資金の動き」と題する書面1枚とともにあり,本件資料には,平成5年1月時点で被告人から「預り金」として412百万円預かっていることもありこれを担保として手形の発行並び建設代金の支払を代行した経緯があった。」などという記載と,添付の書面には,平成5年1月20日,2億円を被告人から小切手で預かる,Qに2億円を小切手で支払うなどという記載(甲355,Bの検察官調書・甲335添付資料②)があることが認められ,このように,それぞれ被告人の預り金とその金額が記載されているものが存在する。

(エ) しかしながら,信用性の認められるG2やBの公判供述等によれば,上記各資料については,以下のとおり認められる。すなわち,本件内訳表は,G2が作成したものであるが,前記備考欄の記載は,③の本件資料と密接に関係するものであること,また,本件メモはBが作成したものであるが,Bが,被告人の指示で預金小切手や現金を交付しても,被告人がその使途を明かさず,正規の領収書も渡されなかったことから,その都度経理処理ができなかったため,金額,日付等をメモしておき,決算時に一覧表にした上,経理処理方法(預り金科目を減額するか,架空の報酬委託手数料に計上する方法)についての案を作成して被告人の了解を得ていたこと,本件メモは,Bが,平成10年7月24日,その経理処理の方法について被告人の確認・了解を取ったときのものであること,その際,Bは,被告人から,平成10年度以降は預り金を取り崩す処理方法をしないように指示され,それ以後は,報酬委託手数料で処理するようになったこと,Bは,本件メモと同様のものを平成11年以降も作成していること,そして,本件資料は,被告人が作成したメモを,Bがそのままワープロで作成したものであるが,平成7年にQに対する税務調査の反面調査がA学園に入ることになり,これに対応するため作成されたものであり,A学園が被告人のhの私邸の建築代金を支払ったのに,被告人からの預り金で支払ったように装った書面であること,Bは被告人から2億円の小切手を預かったことはなく,A学園の会計担当者も2億円の小切手は預かっていないこと,添付の書面に記載されているような金の動きはなかったことが認められる。

(オ) なお,弁護人は,本件メモ以外に他の年度のメモが証拠として提出されていないことと,国税局が作成した雑所得調査書(甲291)中の「架空報酬手数料及び使途対応表」によれば,Bが預り金を取り崩す処理方法をしないように被告人から指示されたという年度以降も預り金処理された項目が見られることを理由に,被告人への出金を預り金か報酬委託手数料で処理する本件メモのようなものを毎年作成していた旨のBの供述の信用性を争っているが,関係証拠によれば,前記のとおり,平成15年の税務調査に先立って,帳簿の改ざんなど組織的な罪証隠滅が行われる中で,新たに内容虚偽の領収書を入手して,これまでの計上先から付け替えた経理処理が行われたことが明らかなところ,被告人も認めるように,Zの関連会社などの架空計上先で引き受けられる架空計上額にも限度があり,付け替え先に困ってやむなく預り金からの返還という形で処理せざるを得なかったことがうかがわれるから,本件メモしか証拠として提出されていなかったり,弁護人が指摘するようなことがあっても不自然なことではなく,この点に関するB供述の信用性に疑問はない。

(カ) さらに,弁護人は,A学園の計算書類が正確に記載されていないことを認めながら,Bが被告人の指示なくして②の本件メモを作成し,その精算後の預り金の額が計算書類に記載されていることを取り上げて,本件メモは預り金があったことを示すものであると主張する。

しかしながら,前記のとおり,A学園では,平成7年の税務署の反面調査の際に,hの建築代金を被告人の預り金から支払ったように装い,これに合わせて,Bら財務担当者が,被告人の指示を受けて,平成4年度分ころ以降の計算書類を改ざんしたことや本件メモが作成された前記経緯に照らせば,B自身が本件メモを作成し,その精算後の金額が計算書類に記載されているとしても,前提となる計算書類自体が改ざんされているのであるから,預り金とその額の記載については,直ちにこれをそのまま信用することはできない。

(キ) そうすると,上記のような経緯で作成された各資料は,A学園の経理処理の実体を反映するものでなく,被告人の預り金の存在や金額を裏付けるものでないことは明らかであり,証拠を見ても,他に被告人の弁解を裏付けるに足りる資料はない。

弁護人が上記の資料を被告人に有利な証拠であると主張していることは,その記載のみを重視して,関係者の供述を見ないものといわざるを得ない。

(8)  以上検討したところによれば,昭和62年までの立替金に関する被告人の弁解は,数千万円までは排斥することはできないが,被告人が,hの私邸の建築代金をA学園に支払わせていることは前記のとおりであり,関係証拠によれば,被告人がA学園に支払わせたその金員は,合計3億6800万円余りであることが認められる。

そうすると,被告人は,既にA学園から上記立替金の返済を受けていることは明らかであり,預り金としてA学園から支払われなければならないものは何もないことになる。

(9)  なお,弁護人は,被告人には延べ9億円を超える手持ち資金があったのであるから,これが残っていない以上,A学園への預り金原資となったものとしか考えられない旨主張するので,一応検討することとする。

(ア) 弁護人は,被告人と元妻の役員報酬や給与から所得税や住民税等の公租公課を控除し,生活費等の支出を控除しても,累計で2億6200万円の余剰金が生じたと主張する。

しかし,相当の金額となる住民税や社会保険料が十分考慮されていない上,弟や交際相手の女性らに相当の金員を渡していることは被告人も認めるところであり,さらに,後記のとおり,株式投資や不動産の頻繁な売買を行っていた被告人らの家計において,どの年度においても,その主張する程度の支出にとどまって余剰を生じたなどということを証するものは,被告人の供述しかないところ,銀行口座に振り込まれた被告人の理事報酬等が,各種の引き落としでほとんどなくなってしまうような,関係証拠からうかがわれる被告人方の生活状況などに照らせば,その供述は不自然なものであって,甚だ疑わしい。

(イ) 弁護人は,取引証券会社からの出金額の半額や,現物出庫した株式の価額を合計して,被告人には少なくとも5億1154万7064円の余剰金があると主張する。

しかし,弁護人の主張は,株式の元手を差し引いているとはいえ,その差引額は出金額のわずか半額にとどまり,現存する金銭消費貸借契約書(甲324資料12)からうかがわれるように,借入によって投資資金を賄った場合の元利の返済の負担が考慮されておらず,その点で首肯し難い。のみならず,弁護人が専ら依拠する査察官報告書(甲372)は,財務事務官が被告人らの株取引状況を調査して作成したものであるが,昭和62年以前について把握できた取引を見ても,被告人が主張する約1億2000万円もの預り金の原資として十分なものか甚だ疑問であり,Jに株式を集約して一任取引をしたという平成年間に入っても,平成2年夏以降は損失を重ね,そのうち半額についてJから損失補填を受けていたというのであるから,主張するような手持ち資金があったと認めるのは困難である。

(ウ) 弁護人は,被告人らが頻繁に繰り返していた不動産取引の余剰金を合計すると9592万1917円になると主張する。

しかし,被告人が買い受けた土地や建てた建物に抵当権を設定している状況やその抹消年月日,現存する金銭消費貸借契約書からすれば,そのような余剰金が生じるものか疑問がある。

また,本件の事件直前まで,毎月80万円ほどのローンを支払っていたと被告人が供述していることに照らせば,疑問は増大する。

(エ) 以上によれば,預り金の原資から検討しても,預り金原資になるだけの資金余剰が生じたということについては極めて疑問があり,預り金返還債権の発生原因があったとの疑いが生ずる余地はないというべきである。

5  以上のとおり,預り金があって,その返済を受けていた,横領の故意はなかったなどという被告人の弁解は到底信用することができず,これを前提とした弁護人の主張は理由がない。

したがって,本件においては,被告人が業務上横領と所得税法違反の犯行を犯したという前記認定を妨げる特別な事情はないのであり,被告人に業務上横領と所得税法違反の罪が成立することを認めるに足りる証拠は十分にあり,判示第6ないし第8の事実を認めるにつき何ら疑問はなく,弁護人の主張は理由がない。

(法令の適用 省略)

(量刑の理由)

1  事案の概要

本件は,A学園の理事長であった被告人が,当時の会計責任者らと共謀して,あるいは単独で,同学園の業務に関し,国及びG2から,私立大学等経常費補助金を受給する資格が欠けていたのにこれあるように装って,5年間にわたり,不正に合計5億6635万1000円の補助金を受給したという補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律違反の事案(判示第1ないし第5)と,A学園の資金を取組原資とする預金小切手を,業務上預かり保管中,29回にわたり,計1億3500万円を着服横領する(判示第6)とともに,A学園の現金合計3000万円を,業務上預かり保管中,被告人名義の口座に振込入金させて着服横領した業務上横領の事案(判示第7)並びに判示第6及び第7の各犯行で得た所得を税務署長に申告せず,4年間で,合計6105万円の所得税を脱税したという所得税法違反の事案(判示第8)である。

2  補助金適正化法違反の各犯行に至る経緯等

被告人は,昭和53年にA学園を設立して,専門学校を開学させ,実質的な経営者として同学園の経営・管理一切を取り仕切っていた(被告人は平成5年に理事長に就任した。)ものであるが,当初から拡大路線を取って,昭和60年までに更に2つの専門学校を新設ないし吸収合併して学生数を飛躍的に増加させ,それに伴って校舎や学生寮等を新たに建設して規模を拡大し,さらに,4年制大学の設置を構想して,その後,適当な土地を探し求めると,それまで所有していた土地や建物等を処分して同所に専門学校を移転させ,そこに校舎を建設するなどした。そして,被告人は,4年制大学設置の基礎とするために,最初に短期大学を設置することとし,当時のH1省から短期大学設置認可を受けて平成5年4月に「I2短期大学」を開学させ,さらに,かねての構想に従い,I2短期大学を改組して科学技術学部とし,他に総合政策学部及び医療福祉学部の2学部を新設することにより,3学部制の4年制大学を設置しようと考え,平成9年にH1省に対して4年制の大学設置認可を申請し,平成10年にその認可を受けたことから,平成11年4月に「A大学」を開学させた(なお,3校あった専門学校は,短期大学,大学の開学に伴い統合されて1校となった。)。

ところで,A学園は,設立当初から十分な資産を持たなかったため,銀行等の金融機関から借り入れて土地の取得や校舎等の建設費に充てたりしていたが,別の場所に専門学校を移転した際,それまで所有していた土地や建物等をかなりの金額で処分したものの,新たな土地の取得や建物の建設に高額な資金を要したことなどから,建設会社に建物建築費等の高額な未払金が残るなどしたため,そのころ,A学園では高額な負債を抱えていた。そこで,被告人は,短期大学設置の認可申請において,このままではその認可基準の負債率(25パーセント以下)の要件を満たさないと考え,H1省に対し,これらの負債の大部分を簿外として隠し,また,高額な建物建築費等工事代金を過小申告したり,高額な架空現物寄附を計上するなどしてその要件を満たすように装って,その認可を受け,さらに,その後の4年制の大学設置の認可申請においては,短期大学設置の申請時よりもいずれもはるかに高額となる金額で,架空の現物・現金寄附を計上したり,建物等建築代金を過小申告したり,負債を簿外として隠すなどして負債率が基準(25パーセント以下)を満たしているように装って,その認可を受けた。

そして,短期大学を開設した後の平成7年に,財務部門の業務を担当していたBが事業団から経常費等補助金申請の案内を受けたことを契機にして,被告人が決裁をし,Bらにおいて,上記のとおり,負債を簿外として隠すなどした内容虚偽の計算書類等補助金申請に必要な書類を整え,これを事業団に提出して補助金の交付を受け,その後も,毎年度ごとに同様にして補助金を受給するようになり,4年制大学開学後も,本件各犯行に至るまで同様にして補助金を受給し続けていた。

3  補助金適正化法違反の各犯行

被告人は,上記のとおり,A学園において,その管理運営が著しく不適正で補助金を受ける資格がないことを認識しながら,補助金欲しさに,高額な負債を簿外とした虚偽の計算書類を作成し,銀行残高証明をねつ造するなどして会計監査をすり抜け,これらの虚偽の書類を提出して,補助金を受領し続けてきたもので,身勝手で,利欲的な犯行の動機に酌むべきものはない。

犯行の態様を見ると,被告人は,会計責任者であったBやCと共謀の上,あるいは単独で,A学園では,そもそも設置認可の基準を満たしていないのに,虚偽の申告に基づいてこれらの設置の認可を受けた上,その後も,長期間にわたり,理事会の承認等を得ることなく高額の借入れを重ね,いわゆる二重帳簿を用いて負債を隠蔽するなど,その管理・運営が著しく不適正であり,およそ補助金を受給する資格を欠いていたにもかかわらず,負債の大半が除外された虚偽の計算書類を作成したり,経理等の事務処理が適正に行われている旨等を事業団に申告して,あたかも受給資格があるかのように装い,本件の補助金を受給したものであって,その虚偽の程度は甚だしく,その犯行は,組織的かつ計画的で,大胆,巧妙かつ悪質である。

さらに,本件は長期間にわたって行われてきた不正行為の一環をなすものであり,A学園が受給した補助金は,起訴されたものに限定しても,前記のとおり,5億6635万1000円もの高額に上るのであって,その結果は重大である。

本件が広く報道されたことなどを契機として,A学園では経営が破綻し,民事再生手続の申請を余儀なくされたもので,学生や教職員ら大学関係者をはじめ,社会に多大な影響を与えたことも看過できない。

被告人は,前記のとおり,設立当初から実質的な最高責任者としてA学園の経営管理一切を取り仕切っていたところ,本件補助金適正化法違反の各犯行についても,一貫して主導的に関与したもので,主犯として最も重い刑責を負うというべきである。

4  業務上横領及び所得税法違反の犯行

次に,業務上横領の各犯行について見ると,被告人は,犯行を否認しているものの,理事長として,A学園の最高責任者の地位にありながら,自らの生活費や遊興費,さらには親族や交際相手の女性に渡す金員欲しさから各犯行に及んだものと認められるのであり,公私混同も甚だしく,その利欲的で,身勝手かつ自己中心的な動機に酌むべきものは何もない。

犯行の態様は,A学園の会計担当者らが,被告人の意向に逆らうことができないことにつけ込み,使途目的も告げず,一方的に預金小切手を準備させて横領したり,A学園関係者の名義を冒用して,被告人の預金口座に振込入金させるなどした上,その発覚を免れるために,実態のない業務委託契約に対する報酬委託手数料名目で経理処理させ,密接な利害関係のある業者などに依頼して白地の領収書などを用意して,その裏付けの証拠として用いるなどしたもので,計画的で,誠に大胆,狡猾かつ悪質であって,学生たちや大学に対する社会の信頼を裏切る犯行である。

本件の結果,巨額の簿外負債を抱えて資金繰りに苦しむA学園から1億6500万円もの金員が持ち出されて費消されたのであり,結果は重大であるが,被告人は,何ら被害弁償をしておらず,被告人が犯行を強く否認していることから,今後も被告人から進んで被害が弁償されるということは考え難く,A学園関係者が,被告人に対する強い憤りを示しているのも当然である。

また,被告人は,前記のような報酬委託手数料の架空計上をして,横領の発覚を免れる隠蔽工作をした上,平成15年8月に税務調査が入ることを知るや,A学園関係者らに命じて,会計帳簿を改ざんし,関係書類を分別して隠匿するなど,組織的な罪証隠滅工作を行っているのであって,犯行後の情状も悪い。

また,所得税法違反の犯行について見ると,被告人は,前記業務上横領の各犯行によって得た利得を保持するために所得税法違反の各犯行に及んだものと認められ,その利欲的で身勝手かつ自己中心的な動機に酌むべき点は何もない上,ほ脱額,ほ脱率が高く,悪質な犯行である。

加えて,被告人は,長年に渡り,同様の手口でA学園から多額の金員を持ち出したことが証拠上認められること,本件で起訴された犯行に限っても,所得税法違反は,4年間にわたるものであることを考慮すると,この種事犯に対する常習性は顕著で,根深いものがある。

しかるに,被告人は,当公判廷でも,業務上横領及び所得税法違反の犯行について否認し,不自然不合理な弁解に終始して,会計責任者が適切に処理していなかったものであるなどと補助金適正化法違反の共犯者であるBやCらに責任を押しつけるような態度に固執し続けているのであるから,反省の情は乏しい。

以上によれば,被告人の刑事責任は相当に重い。

5  被告人に有利な事情

他方で,被告人は,補助金適正化法違反の犯行を認めて反省の弁を述べていること,A学園を設立し,拡大するのに功績があったこと,本件が広く報道されるとともに,A学園の理事長としての地位や財産を失うなど一定の社会的制裁を受けていること,1年半以上身柄を拘束されたこと,前科前歴がないことなど被告人に対し有利ないし斟酌すべき事情も認められる。

6  結論

以上の諸事情を総合的に考慮し,被告人を主文掲記の懲役刑及び罰金刑に処するのが相当であると判断した。

よって,主文のとおり判決する。

(求刑―懲役8年及び罰金2000万円)

(裁判長裁判官 本間榮一 裁判官 齊藤啓昭 裁判官 岸田航)

別紙

預り金

長期預り金

昭和61年度

1249万6208円

650万円

昭和62年度

12億0717万9528円

436万円

昭和63年度

8億4654万6161円

0円

平成元年度

13億2908万4409円

計上なし

平成2年度

12億2245万5892円

計上なし

平成3年度

12億7014万5015円

計上なし

平成4年度

2億2825万0435円※

12億1200万円※

平成5年度

3億1725万4802円

11億1200万円

平成6年度

3億0111万3938円※

11億1200万円※

平成7年度

2億7012万0996円

9億4382万6500円

平成8年度

3億2614万4613円

9億4382万6500円

平成9年度

2億9711万4168円

2億0747万6500円

平成10年度

2億3616万9737円

2億0747万6500円

平成11年度

1億9265万6992円

2億0747万6500円

平成12年度

2億4306万2666円

2億0747万6500円

平成13年度

2億2789万5444円※

1億4247万6500円

平成14年度

3億5551万5262円

計上なし

※は,前年度期末と金額が齟齬しているもの

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