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仙台地方裁判所 平成15年(わ)490号 判決

主文

被告人A及び被告人Bをそれぞれ無期懲役に,被告人Cを懲役15年に,被告人Dを懲役2年6月に処する。

未決勾留日数中,被告人A,被告人B及び被告人Cに対しては各190日を,被告人Dに対しては50日を,それぞれその刑に算入する。

被告人Cから,押収してある出刃包丁1丁(平成15年押第51号の1)を没収する。

理由

(犯行に至る経緯等)

第1被告人らの身上経歴及び被害者Vの身上経歴等

1  被告人Aは,昭和40年に当時のa県b郡c町内で出生し,昭和59年に同県内の高等学校を卒業後,w県内の工場に工員として就職したが,間もなく退職して実家のあるa県c市内に戻り,やがて飲食店の店員として働き出し,その後,昭和60年には石材店の事務員として勤めるようになった。そして,昭和61年2月ころ,勤務先の石材店に出入りしていた職人の紹介でd市内の石材店で働いていたVと交際するようになり,同年10月4日にはVと婚姻して,a県c市内の県営アパートで暮らし始め,その後,冒頭記載の住居地に新築した家に移り住み,夫V,長女及び長男と共に生活していた。

2  被告人Bは,昭和26年にe県f郡g町内で出生し,地元の中学校を卒業後,v市内の運送屋で運転助手として働き,昭和四十四,五年ころには上京して自動車工場の季節従業員として働いたが,間もなくe県に帰り,その後,h県内のホテルやi県内のドライブインで従業員として稼働し,さらに,再びh県内に戻り,材木屋に就職して配達等の仕事に従事した。そして,昭和五十三,四年ころにd市内にやって来て,重機関係の会社に勤め,昭和60年ころからはd市内の建設会社で重機のオペレーターとして本格的に稼働するようになり,平成5年ころからはj市内の建設会社に勤めていたが,これらの勤務先建設会社が倒産するなどすると,個人で重機オペレーターや重機のメンテナンスの仕事をし,平成15年になると,これらの仕事も少なくなって,重機売買の斡旋等を行うようになった。

被告人Bは,このような中で,Vの義姉であるNと平成15年1月24日に婚姻し,Nと共に冒頭記載の住居地で生活していた(なお,被告人BとNは,本件発覚後に離婚した。)。

3  被告人Cは,昭和33年にe県k郡l村で出生し,地元の中学校卒業後,m県内で就職して定時制高校に通っていたが,間もなく自主退学してe県の地元に戻り,その後,昭和51年ころにトラック運転手として働き始め,冬季には本州に出稼ぎに出て重機オペレーターとして稼働していた。しかし,平成5年ころからは,n県内にある建設会社でもっぱら重機オペレーターとして働くようになり,e県,n県,a県,r県等の現場で仕事をしていたが,平成9年ころに勤務先の建設会社が倒産すると,建設会社を転々と渡り歩き,平成14年12月ころからはn県内の工務店で働いていた。

被告人Cは,この間の平成12年1月31日に妻Mと婚姻し,Mとの間に長女をもうけたが,冒頭記載の住居地にMらを残し,建設会社で稼働して単身で生活していた。なお,被告人Cには,離婚した前妻との間に,本件当時,21歳の長女及び20歳の長男がいた。

4  被告人Dは,昭和42年に当時のa県b郡c町内で,被告人Aの実妹として出生し,昭和61年に同県内の高等学校を卒業後,同県内の縫製工場で工員として就職し,その後,食材会社で配達の仕事に就いたが,昭和62年ころに飲食店等でホステスとして働くようになり,平成3年6月5日,Tと婚姻して,このころ,仕事を辞め,その後長女を出産した。しかし,平成8年5月30日に長女を引き取ってTと協議離婚し,長女と2人でd市内のアパートで生活をするようになり,一時,長女の関係で同市内のT方に戻ったり,同市内のマンションに親子3人で移り住むなどしたが,本件当時,冒頭記載の住居地で,長女と2人で生活し,複数の男性と交際し,金員を受け取るなどして生活していた。

5  Vは,昭和40年にo県p郡q町内で出生し,同県内の中学校を卒業後,食肉加工等の仕事をしながら一人で生活していたが,昭和58年ころ,義母らの勧めに従ってd市内の義母ら方に移り住んで,義姉Nの紹介で石材店に勤めるようになった。そして,前記のとおり,昭和61年に被告人Aと婚姻し,平成2年ころから別の石材店で勤務し,墓石等の据え付けなどの仕事に従事するようになり,また,平成4年ころからは,夜間も新聞配送会社で朝刊配送のトラック運転手として稼働していた。

第2被告人らの関係等

1  被告人Aは,平成2年ころ,Vと共に,Vの義母の見舞いに入院先の病院に赴いたところ,Vの義姉Nが被告人Bを連れて同病院に来ていたので,初めて被告人Bと会い,Nから「以前サラ金の取立てをしていた人だ。私と付き合うようになって,取立ての仕事をするのをやめて,今は重機を扱っている。」などと被告人Bを紹介されたため,被告人Bは消費者金融に顔が利く人だなどと考えた。

そのため,被告人Aは,平成3年ころ,Vと一緒に,Vが消費者金融から借りた50万円の返済について被告人Bに相談し,また,平成8年ころ,一人で,被告人Aの実兄が抱えた200万円の借金の整理について被告人Bに相談したことがあり,これらは,結局,被告人Bの積極的な関与なく終わったものの,被告人Aは,これらのことを通じても,被告人Bは「サラ金に顔が利き,借金の整理をしてくれる人だ。」という考えを持っていた。

2  被告人Bは,前記のとおり,平成5年ころからj市内の建設会社に勤めていたが,同じ建設会社に勤めていた被告人Cと知り合い,互いに携帯電話の番号を教え合うなどして付き合いを始め,同社を辞めた後,被告人Cとは勤務先が別になったものの,後記のとおり,被告人Cが給料の大半を妻に送金していることを知っていて,被告人Cが生活費等に困ったときには,これを貸すなどしていた。

3  被告人Cは,前記のとおり,平成9年ころ以降,建設会社を転々としていたが,平成12年ころ,被告人Bに,より給料の高い会社への就職の斡旋を頼み,被告人Bからs県内の建設会社を紹介され,同社に就職してそれまでよりも高い給料を得ることができ,また,同社が平成14年7月に倒産する数箇月前から,給料の支払が遅れるようになったときには,被告人Cは,被告人Bから生活費の不足分等を数回借りるなどもしていた。その後,被告人Cは,n県内の工務店に就職したものの,もっと給料の良い勤務先に移りたいなどと考え,被告人Bに次の勤務先の紹介を頼んだが,被告人Bから具体的な話がないまま,勤務先の社長の勧めに従って同工務店で働いていた。

4  被告人Dは,以前,Vの義母が死亡してその葬儀が行われた際,葬儀場に来ていた被告人Bと初めて会い,平成四,五年ころには,Tの暴力に困って,実姉の被告人Aを介して被告人Bに相談し,被告人Bから「夫婦間のことだから他人が入ることはできない。」などと言われて,助力を断られたことがあったが,その後,被告人Bとは付き合いがなかった。

第3本件各犯行に至る経緯

1  被告人A,同B及び同Cの共謀状況等

(1) 被告人Aは,前記のとおりVと婚姻した後,昭和62年4月に長女を出産して養育していたが,平成2年ころに,3歳になる長女を保育園に預けて働き出し,平成4年4月に長男を出産して一時仕事をしなかったこともあったものの,その後も働いていた。そして,Vは,前記のとおり,石材店に勤務し,平成4年ころからは夜間も朝刊配送のトラック運転手として稼働していたが,Vは,このトラック運転手として稼働した収入を全額自分の小遣いとしていたため,被告人Aは,Vの石材店からもらう給料と被告人Aが働いて得た収入で家計をやりくりしていた。

ところが,Vと被告人Aは,平成4年に冒頭記載の住居地を購入して家を新築したことから,月々約10万円の住宅ローンを抱え,さらに,平成6年ころには,車の買換えで月々約5万円の自動車ローンも支払うこととなり,これらに加えて生活費等を合わせると,月に約30万円の費用を必要としたが,Vの石材店からの給料や,そのころの被告人Aの収入を合わせても26万円くらいにしかならなかった。そこで,被告人Aは,そのころ,すぐに返せるなどと考えていわゆる消費者金融から借り入れをしたが,返済できないまま,かえって消費者金融からの借金を次々と増やし,平成8年ころには,その額が合計約300万円にもなってしまったため,もっと収入を得ようなどと考え,いわゆる風俗店等で働くなどし,その収入を消費者金融の返済に充てるなどして借金額を減らした。しかし,被告人Aは,平成九,十年ころ,Vと共に,高額なマッサージチェアや風呂設備等を購入したり,泊まりがけで家族旅行に出掛けるなどして出費を増やした上,車の買換えで月々払う自動車ローンの額も増やし,これらの出費や支払で不足する生活費等を消費者金融から借り入れたため,再びその借金額をふくらませてしまい,その返済のために,平成10年ころから飲食店従業員,平成12年5月ころから平成14年8月ころまでは保険外交員等として稼働し,平成15年2月ころからはいわゆる性風俗業で働いていたが,借金の総額は400万円以上に達した。また,被告人Aは,消費者金融から借金をしていることは,Vには話していなかった。

(2) ところで,被告人Aは,Vと結婚してVの嫌なところが見えてきたり,Vが,次第に「俺がこの家の主人なんだ。」などと威張るような態度を見せ始めたり,さらに,昭和62年4月に長女が生まれてからは,些細なことで怒り出し,被告人Aの顔面を平手で叩くなどの暴力を振るうようになり,平成4年秋ころ,被告人Aを押し倒して気絶させるということがあってからは,暴力を振るうことはなくなったが,その後も些細なことで怒り出すことは変わらず,また,被告人Aが相談をしても,Vが一向に話を聞こうともしなかったことなどから,結婚して間もなくのころにはVに対する愛情が冷めてしまった上,その後の生活の中でVに対する不満を募らせていた。加えて,被告人Aは,前記のとおり,Vがトラック運転手として稼働した収入を全て自分の小遣いとして,家計に入れてくれないことから,Vは家計が苦しいことも顧みないで自己中心的であるなどと考え,また,Vが家族旅行をしようなどと言い出しても,自らその費用を調達しようとはせず,被告人Aが消費者金融からその費用を借り入れているのに,被告人Aがどうにかしてその費用を捻出したものと思っているだけであるなどと考えて腹立たしい気持ちになり,Vはもう家族ではないなどという思いにとらわれ,Vと生活していることが嫌になって,Vと口論したときには,「離婚する。」などと言い出すものの,Vから「それなら,借金の半分はお前が持って行け。」などと言い返され,そうすると,被告人Aは,1人で借金を抱えて生活していくことはできないなどと考えていた。

(3) このような中で,被告人Aは,前記のような消費者金融からの借金の返済に困り,これを整理したいと考え,平成14年末ころから弁護士等に相談したところ,「旦那さんにも協力してもらって民事再生でやり直した方がよい。」などと勧められたが,Vに借金のことが知れると,Vは怒り出すと考え,民事再生でやり直すのは無理だと判断した。

そこで,被告人Aは,平成15年1月16日,前記のように消費者金融に顔が利くと考えていた被告人Bに頼めば,Vに知られないように消費者金融と交渉して返済額を減らすなどしてもらえるのではないかと期待を抱き,被告人Bに,消費者金融から合計400万円くらいを借りていて,その返済に困っている旨打ち明けたところ,被告人Bから,どこの会社も顔が利かないなどと言われ,期待はずれに終わって失望した。

その際,被告人Bは,Vが昼夜働いているのに被告人Aが消費者金融から借金していることが理解できずにその使途を尋ねると,被告人Aから,頻繁に家族旅行をしたり,高価な物を買ったり,自動車を買い換えていることなどを聞き,被告人AとVの浪費にあきれてしまい,「Vは生命保険に入っているんだろう。Vに死んでもらって保険金で払えば。」などと述べた。

これを聞いた被告人Aは,Vに死んでもらうというのはVを殺すという意味しかないとすぐに理解し,思いもかけない被告人Bの言葉に驚いたものの,被告人Bのその話し方が普通に世間話をするようなものであったので,被告人Bが冗談を言っているものと受けとめたが,被告人Bのその言葉を気にして考えるうち,借金の解決方法としては良い方法ではないかと思えるようになって,V殺害を考え始めた。

(4) その後,被告人Bは,被告人AからVに借金のことは言わないでほしいと頼まれた上,Nからも被告人Aの相談に応じてやってほしいと言われことなどもあり,被告人Aを援助してやろうなどと考え,同年1月末ころから,被告人Aと会ったときには,その都度数万円を渡すなどし,電話で「借金の返済はどうなった。」などと何度も尋ね,同年2月中旬ころからは被告人Aと肉体関係を持つようになった。

しかし,被告人Bは,前記のとおり,平成14年12月以降,重機オペレーターなどの仕事はなく,重機売買の斡旋でもかえって損失を被っていた上,見栄を張って,知人に金を貸したり,食事等を奢るなどし続け,そのために借入を繰り返し,平成15年一,二月ころには,消費者金融等に合計七,八百万円の債務を負い,月々の返済額も約40万円以上にも達しており,Nに養ってもらうばかりでなく,Nから50万円を借りて借金の返済をするような状況であり,ここで返済が滞れば,消費者金融の者が自宅に押し掛けてきて,Nが取立てを受けるようになるかも知れず,自分に尽くしてくれているNのためにそれだけは避けたいと考えていた。そのような中で,被告人Aから,被告人AとVの夫婦関係が冷え切ってどうしようもないように聞かされたことなどから,「じゃ,Vに死んでもらうか。保険大丈夫か。俺がやってやるよ。」などと述べると,被告人Aは拒否することもなく黙ったままで何も答えないので,被告人Aも本気でVを殺害する気になるのではないか,Vを殺して保険金を手に入れることができれば,自己の借金も清算できるし,Nにもお金を残せるなどと考え始めた。

そして,被告人Bは,同年3月ころ,被告人Aから,Vに掛けた死亡時の保険金の額が3700万円であることを聞き,それだけの額であれば,被告人Aからもらえる報酬で自己の借金の清算ができる,身の程をわきまえずに金遣いの荒い生活を送ってきたVには死んでもらってもいいだろうなどと考え,保険金を手に入れるためにVを殺害することを決意し,さらに,被告人AにもV殺害を決意させようと考えた。

(5) 他方,被告人Aは,当初,被告人Bの述べるV殺害の言葉を聞き流していたが,やはりどうしても気になり,Vに生命保険は掛けておこうなどと考え,同年1月末から2月初旬ころ,被保険者をVとして以前から加入していたP生命保険相互会社の医療保険を見直して,同年3月1日付けで同保険に死亡保障(死亡保険金3700万円,災害死亡保険金4700万円)を付け加えた。

そして,被告人Bが自分を気遣ってくれていると感じるようになった被告人Aは,Vに対して失っていた信頼や愛情を被告人Bに寄せ,被告人Bと肉体関係を持つに至り,被告人Bの言うことならそのとおりにできるという気持ちになっていたところ,同年3月下旬ころ,被告人Bから「東京から舎弟を呼んで,その男にVを殺させる。通り魔を装えばいい。」などと,これまでよりも具体的な話をされたため,自分に疑いがかからないようにうまくVを殺害できた上,保険金を手に入れることができるような思いになった。このような中で,被告人Aは,同年4月4日,a県b市内のホテルにおいて,被告人Bから,これまでのようにV殺害を持ちかけられるや,「お願いします。」と答え,被告人BにV殺害を依頼すると,被告人Bから,保険金が出たら1000万円を渡すように要求され,殺害の実行役の滞在費及び逃走費等として50万円必要だから用意してくれなどと指示され,これに応じることとし,ここにおいて,被告人Aと被告人Bは,保険金騙取の目的でVを殺害する意思を相通じた。

なお,被告人Aは,上記保険金だけでは,Vを殺害しても保険金を被告人Bらへの報酬と借金の返済だけで使い果たしてしまうなどと考えて,被告人Bから,疑われないように新たな生命保険には加入しないよう指示されていたにもかかわらず,被告人Bには秘密で,同年5月1日付けで,Vを被保険者とするQ生命保険相互会社の新たな生命保険(死亡保険金2500万円,災害死亡保険金3000万円)に加入した。

(6) 被告人Bは,前記のとおり,Vの殺害を決意したものの,Vが義弟であり,保険金を手に入れるためには身内が疑われるようなことをするわけにもいかず,V殺害の実行は第三者にさせようと考えたが,その者は,信頼できて,指示どおりに動き,金に困っていて,数百万円の報酬があれば殺人を引き受け,V殺害計画を誰にももらさず,万一逮捕されても関係者の名前を出さないなどの条件を満たしていることが必要であるなどと考えたとき,被告人Cのことを真っ先に思い浮かべ,被告人Cが適任であると判断した。

そして,そのようなことを考えていた同年4月初めころ,被告人Bは,被告人Cから電話がかかってきた際に,「殺しの話があるけれどもやってみるか。」などと述べ,被告人Cが殺人の実行役を引き受けるかどうか感触を確かめたところ,被告人Cから「お金のためなら何でもやりますから。」などと返事をもらったが,このときにはまだ被告人AがV殺害を決意していなかったので,そのときはそれ以上のことは話さなかった。しかし,その後,前記のとおり被告人Aが犯行を決意したことから,同月中旬ころまでに,被告人Bは,被告人Cに電話をかけ,「Cちゃん,実は,殺し頼まれたんだけど,Cちゃんが引き受けるなら引き受けるけど。やってみるか。やれないならうちのガキにやらせるけど。」などと話すと,被告人Cは,このときも,「分かりました。」などと答えた。

ところで,被告人Bは,知り合いを通じてa県t郡u町内の敷地に被告人Cの故障したキャンピングカーを置かせてもらっていたが,同月24日ころ,被告人Cが勤務先のn県内から同車を取りにやって来たときに,同車内で,被告人Bが「殺す相手は,義理の妹の旦那だから。成功したら,奥さんから1000万円ほど保険金が入るから450万円くらいやれるとおもうから。」などと話すと,被告人Cは,被告人Bの義妹が夫に嫌気がさして,夫を殺して保険金で借金の穴埋めをしたり,その他のお金を得ようとしているなどとの事情を理解した上で,「分かりました。がんばります。」などと答え,ここにおいて,被告人Bと被告人Cは,保険金騙取の目的でV殺害の意思を相通じ,同時に,被告人Cと被告人Aは,被告人Bを介してその意思を相通じた。

(7) 他方,被告人Cは,被告人Bから,前記のような最初の電話では,被告人Bは冗談を言っているものと考え,冗談を返すようなつもりで何でもやる旨答えたが,前記の2回目の電話では,もしかすると,被告人Bは本気で人を殺害することを考えているのかもしれず,その殺害の実行役を自分に依頼するつもりではないかと推測し,そのことが頭から離れなくなっていたところ,前記のとおり,同月24日ころ,被告人Bから殺害計画について話をされて,被告人Bが本気であると察した。

ところで,被告人Cは,建設不況の厳しいe県を離れて本州に出稼ぎに来て,建設会社を渡り歩いて収入を得ていたが,前妻との間の長女と長男が車のローンを抱え,その保証人となっている現在の妻Mが二人に代わってこれらを支払っていることなどから,自分の生活費として数万円を残して月に20万円から30万円をMに送金しており,さらに,上記の長女,長男が消費者金融からも借金をしているようであり,Mのところに問い合わせがあったりしたことを聞き,上記の長女,長男に電話をしてみても,連絡を取ることができないため,長女や長男がいわゆる闇金融業者からも借金をして,その業者に監禁されているのではないかなどと思い悩み,まとまったお金を手に入れて遠くで気を揉むような生活から抜け出したいなどと考えていたところ,被告人Bの話す報酬に魅力を感じ,被告人Bの申し入れを引き受けてその報酬を得たい,報酬を手に入れるためには人を殺害するのもやむを得ないと考え,前記のとおり,これを承諾した。

(8) 被告人Aは,前記のとおり,被告人Bと共にVを殺害することを決意したものの,これをどうしても誰かに相談したくなり,妹の被告人Dに相談しようと考え,同年4月中旬ころ,被告人Dに対し,「Bさんと相談して,Vを殺して保険金をもらうことにした。Bさんが東京から知り合いを呼んで,Vを殺すんだ。その費用として50万は必要なんだ。」などと打ち明けると,被告人Dから「そんな恥ずかしいことしないでよ。」などと言われたが,被告人AはV殺害の決意を固めていたことから,翻意することはなかった。

そして,被告人Aは,被告人Bから用意を指示された50万円については,平成14年に長男が交通事故に遭ったために,近く支払が見込まれる示談金を充てようと考えていたが,示談の目途がつかずに50万円を用意できなかったところ,平成15年5月七,八日ころ,被告人Bから「50万と言ったが,相手を待たせたから70万だ。」などと指示されたため,これを被告人Dから借りようと考え,被告人Dに対し,「70万を借りるかもしれない。」などと言って頼んだが,このころには,被告人DからV殺害を反対されることはなかった。

(9) 他方,被告人Dは,同年4月になってから,被告人AからVに対する不満を頻繁に聞かされていたところ,前記のとおり被告人AからV殺害を打ち明けられ,あまりにも突然で本当のこととは思えず,また,被告人Aから,長男の交通事故の示談金で返すから50万円を貸してほしいと頼まれても,これを返してもらえるか不安だったことから,何も返事をしなかった。しかし,その後,被告人Aからある程度具体的な殺害方法を聞かされると,被告人Aが本気であることが分かり,Vへの不満を被告人Aから聞かされてきた上,被告人Aが,被告人Bに任せているから絶対にばれないなどと自信に満ちて述べるので,姉が警察に捕まらなければ,自分も殺人犯の妹であることがばれないとも考え,特に被告人Aを制止したりしなかった。

そして,前記のとおり被告人Aから頼まれた70万円については,被告人Aが必死であると感じて,自分以外に姉である被告人Aのためにお金を準備できる人はいない,Vを殺して保険金が入れば,借金で苦しんでいる姉は楽になる,Vは家庭を顧みない奴なので殺されても仕方がないなどと考え,被告人Aの頼みに応じる決心をして,同年5月13日,銀行から70万円を引き出して用意した。

2  犯行の準備状況等

(1) 被告人Bは,同年4月末ころ,被告人Cに電話をかけて,「こっちに来る用意をしておいてくれ。50万円くらい用意しておくから金の心配はいらない。」などと連絡し,同年5月の連休明けには,再度,被告人Cに電話をかけて,「やることになったから,急がなくていいけど用意できたらdに来てくれ。」などと指示したところ,同月19日に,被告人Cがdにやって来たので,被告人Cに対し,「相手の男は,昼間の仕事を終えてから,1回仮眠をとる。夜の12時から新聞配送のバイトをしている。」などと教え,上記50万円については,自分が立て替えているので40万円でいいだろうなどと話した。そして,翌20日,被告人Bは,被告人Cに対し,キャンピングカーの修理代10万円を差し引いたなどと言って30万円を渡し,Vの車のナンバーを確認させるなどの目的でV方まで被告人Cを案内し,その後,被告人Cに対して,Vの勤務先であるd市内の新聞配送所の場所を教えて確認させ,同日夜からVの稼働状況を見張るように指示して,被告人Aから受け取ったVの写真を被告人Cに手渡し,「相手はこの人だから。」,「相手について回って,チャンスがあればやっちゃえばいい。トラックから降りたところを後ろから襲えばいい。後ろから鉄パイプで殴ったり,包丁で首を切れば一発だろう。一発でしとめろよ。」などと,トラック運転に従事中のVを尾行した上で,通り魔を装い,機を見て包丁等で殺害するとの具体的な手順を指示した。

(2) 被告人Cは,被告人Bの指示に従って,同月24日に,出刃包丁(平成15年押第51号の1)を購入するとともに,同月20日以降,新聞配送所等の様子をうかがったものの,新聞配送所の駐車場は暗く,殺害相手がどのトラックに乗るかも分からなかったので,同月23日,被告人Bにその旨報告した。そして,被告人Cは,同日深夜,偶然,車体後部に「V」の名札を取り付けたトラックを追跡し,これを途中で見失ってしまったものの,翌24日,被告人Bから,殺害相手の氏名が「V」であることを初めて教えられ,追跡したトラックの運転手が殺害相手であったと分かったことから,被告人Bに対し,「人気の少ない所を通るコースじゃないから,仕事中は無理だ。」,「自宅で寝ているところをやるしかない。」などと述べたが,被告人Bから「自宅ではまずい。」などと言われ,結論が出ないまま,引き続いてVのトラックを追跡することになった。

その後,被告人Cは,被告人Bの指示で,同月26日の日中に,Vら家族の外出先に赴いてVの顔を確認し,同日から翌27日にかけて,被告人Bに対し,Vを確認したことを電話で報告し,また,同月25日の深夜にVのトラックの追跡を試みたが,うまくいかなかったので,その旨も報告すると,同月27日に,被告人Bから「奥さんが家でやることを承諾した。」,「5月29日夕方,奥さんと子供たちを俺の家に呼んでおく。その間にやれ。」などと電話で指示されたので,被告人Cはこれに応じることとした。しかし,しばらくして,被告人Bから,電話で,「悪いけど,もう一度相手のトラックを追跡してみてくれないか。」などと言われたため,これを承諾して,同月27日夜にも追跡を試みたが,最後まで追跡できなかったことなどから失敗に終わり,翌28日朝,その旨報告すると,被告人Bから「5月29日夕方,自宅でやることが決まった。」と告げられた。

(3) 被告人Bは,前記のとおり,被告人Cから,Vのトラックの追跡が困難である旨の報告を聞き,被告人Cは弱気になっているのではないかと疑い,同月24日の夜に,「お前,やれるのか,やれないのか,どっちなんだ。お前がやれないなら,うちのガキにやらせたっていいんだ。」などと言って被告人Cを叱咤し,被告人Cにやる気があるか確認するために,「刃物か何か持っているのか。」と確認すると,被告人Cから包丁を買ったなどと言われたので,被告人Cに対して,「やる気があるんだったら,がんばれよ。」などと申し向けた。

しかし,被告人Bは,被告人Cから,同月27日朝にも,仕事中の殺害は無理である旨聞いたので,被告人Cが弱気になっているのではなく,本当に仕事中にVを殺害することが難しいのだと思い,Vに抵抗されずに殺害するには,Vが自宅で仮眠を取っているときしかない,Vを殺すのであれば,被告人Aやその子供らが家から外出しているときでなければならない,被告人Aを自宅から外出させて被告人Aのアリバイを作ろうなどと考えた。

そこで,被告人Bは,同日,被告人Aに電話をかけて,「うちの若いのが,どうしても外では難しいと言っている。5月29日の夜,Vが寝ているときにやらせるから。」などと告げると,被告人Aから「自宅はやめて。住めなくなる。」などと言って反対されたが,「Nちゃんに子供の事故の示談がまとまった報告に来るということで,子供らを連れてうちに来ればいいんだから。」,「俺に任せておけば,大丈夫だから。」などと言って承諾させた上,前記のとおり,被告人Cには,殺害相手の妻が自宅での殺害実行を了承したと話し,もう一度屋外での殺害実行を試みてほしい旨頼むなどした。

(4) 被告人Aは,前記のとおり,被告人Bから,家の中でVを殺害すると言われ,通り魔に見せかけて外で殺害することをやめて,自宅でVを殺害するとなれば,どう考えても保険金の受取人である妻の自分に疑いがかかることは間違いない,こんな危険なことは嫌だと考えて反対したが,被告人Bから,上記のとおり説得されて,これ以上Vと一緒に生活する気持ちはないし,保険金をもらって借金のない楽しい生活がしたい,自分の全く知らない,Vとも何のつながりもない被告人Bの舎弟という人がVを殺すのであれば,捕まるはずはなく,被告人Bの言うとおり,自分が疑われる危険はあるが,うまくいくかもしれない,何より信頼している被告人Bが大丈夫だと言う以上うまくいく,もう後戻りはできないなどと考え,自宅でVを殺害することに同意した。

(5) 被告人Bは,同月28日になって,被告人CがVのトラックの追跡に失敗したと聞いたことから,前記のとおり,翌29日にVをV方で殺害する旨被告人Cに指示し,同月28日午前8時過ぎころ,被告人Aから,電話で,Vが午後7時ころには寝室に戻ること,部屋でパソコンをしながら午後8時くらいまで起きており,その間,部屋の電灯がついていること,部屋の電灯が消えてから20分程度で熟睡することなどを聞いた上,被告人Aに対しては,前記のアリバイ作りについて細かく指示をするとともに,被告人A方の玄関の鍵を開けたままにし,玄関の電灯もつけたままにすることも指示した。

また,被告人Bは,同日の昼に被告人Cと一緒に食事をしたが,その際,被告人Cに対して,上記のVが仮眠を取るまでの行動や,殺害を実行した翌日にはフェリーでe県に帰ることができるよう,フェリーを予約しておくこと,目立たぬよう黒っぽい服を着て,手袋を着用すること,車のエンジンは切っておくが,エンジンキーは差したままにしておくこと,土足のままV方に入ること,強盗を装って家の中を荒らすこと,血の付いた包丁,着衣等は投棄すること,犯行後は連絡を取らないことなどの殺害実行に関する指示をし,「明日のためにゆっくり休め。がんばれよ。」などと声を掛けて別れた。

(6) 被告人Aは,同月29日夜,V,長女及び長男と共に夕食を取るなどした後,Vには「実家に行く。」などと告げて,被告人Bの指示どおり,玄関の鍵を開けたまま,午後7時20分ころ,長女及び長男を連れて自宅を出発し,午後8時27分ころ,被告人B方に到着し,被告人Bは在宅していなかったものの,Nと雑談するなどしていた。

(7) 一方,被告人Cは,同月29日,被告人Bの指示に従って,黒色長袖ポロシャツと紺色ズボンを着用した上,午後7時30分ころにV方付近に到着して,V方2階の電灯が消えて,Vが熟睡すると思われる時間まで,V方付近を自動車で一巡りしてからV方の様子を確認するということを五,六回繰り返し,電灯が消えてから30分ほど経過した午後9時ころ,両手に革手袋をして出刃包丁を準備し,同車両をV方駐車場に駐車し,出刃包丁を右手に持って無施錠の玄関ドアからV方に入り,玄関の目の前にある階段を2階へ登り,Vの寝室に入り込んで,真っ暗な中,いびきの音等を頼りに,Vの上半身の横に近付いた。

(罪となるべき事実)

第1被告人A,同B及び同Cは,共謀の上,同Aを受取人とし,V(当時37歳)を被保険者とする生命保険契約に基づく死亡保険金を詐取するために,Vを殺害しようと企て,平成15年5月29日午後9時ころ,a県c市(以下略)V方において,同Cが,上記Vに対し,所携の出刃包丁(刃体の長さ約15.9センチメートル,平成15年押第51号の1)で,その胸部及び背部等を多数回にわたり突き刺すなどして,Vに右胸部刺創等の傷害を負わせ,よって,そのころ,同所において,Vを上記傷害に基づく失血により死亡させて殺害した,

第2被告人Cは,業務その他正当な理由による場合でないのに,前記日時,場所において,前記出刃包丁1丁を携帯した,

第3被告人Dは,前記被告人Aらが,前記「罪となるべき事実」第1記載の犯行を行った際,それに先立つ平成15年5月13日ころ,d市(以下略)株式会社R銀行S支店駐車場に駐車した普通乗用自動車内において,前記被告人Aに対し,前記被告人Cの宿泊及び逃走等の資金として,現金70万円を手交し,もって,前記被告人Aらの「罪となるべき事実」第1記載の犯行を容易ならしめてこれを幇助したものである。

(証拠の標目) 省略

(法令の適用)

被告人A,同B及び同Cの判示第1の所為はいずれも刑法60条,199条に,被告人Cの判示第2の所為は銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条に,被告人Dの判示第3の所為は刑法62条1項,199条にそれぞれ該当するところ,各所定刑中,被告人A及び同Bの判示第1の罪について無期懲役刑を,被告人Cの判示第1の罪について有期懲役刑を,被告人Cの判示第2の罪について懲役刑を,被告人Dの判示第3の罪について有期懲役刑をそれぞれ選択し,被告人Dの判示第3の罪は従犯であるから同法63条,68条3号により法律上の減軽をし,被告人Cの判示第1及び第2の各罪は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をし,被告人A及び同Bを無期懲役に,被告人Cについては,加重した刑期の範囲内で懲役15年に,被告人Dについては,減軽した刑期の範囲内で懲役2年6月にそれぞれ処し,同法21条を適用して,未決勾留日数中,被告人A,同B及び同Cについて各190日を,被告人Dについて50日をそれぞれその刑に算入することとし,押収してある出刃包丁1丁(平成15年押第51号の1)は,判示第1の殺人の用に供したもので被告人C以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用して被告人Cからこれを没収し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人B及び同Cに負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は,被告人A,同B及び同Cが,被告人Aの夫であるVに掛けられた死亡保険金を得る目的で,共謀の上,Vを殺害したという殺人(判示第1),被告人Cが,Vを殺害する際,業務その他正当な理由による場合でないのに,刃体の長さ約15.9センチメートルの出刃包丁1丁を携帯したという銃砲刀剣類所持等取締法違反(判示第2),並びに,被告人Dが,上記のとおり,被告人AらがVを殺害する意思であることを知りながら,被告人Aに対し,被告人Cの宿泊及び逃走等の資金として,現金70万円を手交したという殺人幇助(判示第3)の各事案である。

犯行の動機を見ると,判示第1の殺人については,前記のとおり,被告人Aにおいては,Vから暴力を振るわれた上,暴力がやんだ後も,Vは,すぐに怒り出すことが多く,さらに,相談にも乗ってくれず,自己中心的であるなどと考えて,Vに不満を募らせ,Vと離婚したくても,借金の半分を持っていくように言われて,離婚もできず,Vに話さないまま消費者金融から借りた借金の返済に窮していたところ,被告人Bから,Vに死んでもらってその保険金で借金を返したらなどと言われ,その言葉を良い解決方法だと考え,借金の悩みから解放されて,Vのいない生活を送りたいなどと考えたことから,被告人Bにおいては,多額の借金を抱えてその返済に窮していたところ,被告人AからV殺害の報酬を得られれば,借金を整理できる上,自分に尽くしてくれる妻にもいくらかの資産を残すことができるかもしれないなどと考えたことから,被告人Cにおいては,e県に残している現在の妻が,前妻との間の子らの借金を肩代わりするなどしてその支払に困り,また,前妻との間の子らがいわゆる闇金融業者にまで手を出したのかとあれこれ思い悩んでいたほか,自らも少なくない借金を抱えていたことから,被告人Bを通じて得られる報酬でこれらの借金を整理できて,悩みもなくなるかもしれないなどと考えたことから,それぞれ本件犯行を企図したというのであるが,いずれも一攫千金を目論んで,貴い人命と引換えに自己の債務の整理等を企てたものであり,騙取を目論んだ保険金額も少なくとも3700万円,被告人Aについては合計6200万円と多額であることなどからすれば,その動機は,非人間的というべきであって,悪質極まりない。

判示第2の銃砲刀剣類所持等取締法違反については,被告人Cにおいて,本件出刃包丁を,既に計画されていたVの殺害に利用する目的で購入したものであり,刃の峰の部分が厚く,丈夫そうであるなどと考えて,本件出刃包丁を選択したというのであって,殺人への強固な意思をうかがわせるものであり,その動機は悪質である。

また,判示第3の殺人幇助については,被告人Dにおいて,Vの殺害計画の具体的な進行状況を被告人Aから聞かされながら,実姉である被告人Aが借金から解放されて楽になれる,Vは家庭を顧みないなど殺されても仕方がない,被告人AとVの間の子らもVがいなくなればよいと思っているだろうなどと考えて犯行に及んだというのであるが,いかに実姉から懇願されたとはいえ,実姉らが貴い人命を奪うことの重大性に思いを至さず,また,父親を失う子らの気持ちを無視しているのであって,その動機は,あまりに安易というほかない。

次に,犯行の態様を見ると,判示第1及び第2の各犯行については,Vの妻である被告人Aや義兄である被告人Bが,死亡保険金の取得を疑われないように,Vとは何ら関係のない第三者である被告人Cに殺害実行を行わせることとした上で,Vの遺体が発見されなければ死亡保険金が支払われないなどと考えて,遺体発見が容易であるように,当初は,通り魔による犯行を装う意図で,朝刊配送のトラック運転手としての仕事中に隙をみてVを殺害しようと考え,その尾行を再三試み,仕事中ではVを殺害することは困難であると判断するや,Vが自宅で寝ているところを襲って殺害し,強盗による犯行に見せかけようと考え,さらに,殺害実行の時間帯には,被告人Aがその子らを連れて被告人B方にいてアリバイを作り,その間,被告人Cにおいて,自宅で熟睡しているVに対し,前記のとおり,購入して準備した刃体の長さ約15.9センチメートルと殺傷能力十分な出刃包丁を用い,執拗に,多数の致命的な傷害を負わせるなどして殺害したのであって,本件は,極めて用意周到で計画性の高い,冷酷かつ残忍で,非道な犯行である。

そして,判示第3の犯行は,被告人Dにおいて,被告人Aらの保険金騙取の目的でVを殺害することを知りながら,70万円もの金員を被告人Aに渡して被告人Aらの犯行を容易にしたものであり,被告人Dの本件幇助の犯行は悪質である。

殺害されたVには,妻である被告人Aへの暴行や夫婦としての配慮の不足,家計を顧みない浪費等があったことはうかがわれるものの,生命まで奪われなければならない理由は全くなく,かえって勤務先ではその真面目な仕事ぶりを評価され,Vなりに家族への思いやりを抱いていたこともうかがわれるのであるが,にもかかわらず,Vは,自分が何故殺されるのかもわからないまま,最も身心が安らぐことのできるはずの自宅で休息中に,突然無惨にも刺殺されたのであり,その肉体的,精神的苦痛が甚大であったことはいうまでもなく,死に至る恐怖感は筆舌に尽くし難く,わずか37年でその一生を終えざるを得なかったその無念さは察するに余りあり,本件の結果は誠に重大である。

Vの実兄や実母が,「犯人たちには,一生かけて償いをしてもらいたい。」などと述べて,被告人らに対して厳しい処罰感情を示しているのも当然というべきであり,また,Vの子らが「お父さんに悪いところがあったとしても,殺されなくてはいけないとは思いません。お父さんが可哀想です。」などとVの殺害を非難しながら,他方では,被告人Aが母親であるが故に,被告人Aについては「早く帰ってきてほしい。」と矛盾する心情を吐露せざるを得ない状況に置かれていることは哀れというほかない。

加えて,判示第1ないし第3の各犯行は,多額の保険金のために人命を奪い,あるいはこれに手を貸すという生命保険制度を揺るがしかねない犯罪なのであって,その社会に及ぼした衝撃と影響の大きさも見過ごすことはできない。

被告人Bは,本件犯行を発案し,被告人AがVの殺害を決意する前には,被告人Aを盛んに犯行へと慫慂し,被告人Aが犯行を決意した後は,翻意することのないよう絶えず働きかけるなどして,死亡保険金の受領に不可欠な被告人Aを本件犯行に繋ぎ止めようとし,また,殺害実行役について,前記のとおり,被告人Bの指示どおりに行動し,報酬目当ての殺害実行をも厭わない者である必要があると考えて,被告人Cに狙いをつけて本件犯行に引き込み,現実に殺人の実行行為をさせたのであって,しかも,犯行の実行に当たり,被告人Aに,被告人Cの滞在費及び逃亡費等を用意するように指示し,あるいは,アリバイ作りを発案してV方での殺害実行を承諾させるなどし,被告人Cには,夜間のトラック運転手として仕事中のVを尾行して通り魔を装って殺害することや,V方で強盗を装って殺害することなど,その周到な計画の詳細について逐一指示して,これを実行させていることなどからすれば,被告人Bは,まさに本件犯行を終始一貫して主導した首謀者なのであって,犯行後についても,義弟を殺された被害者側の人間を装う一方,被告人Cには罪証隠滅工作を指示するなど,その犯情も極めて悪いことからすれば,被告人Bの刑責が誠に重大であるのは明白である。

被告人Aは,Vの妻であり,Vの死亡保険金の取得という本件犯行の目的を達成するためには必要不可欠な存在だったのであり,その一事をもっても重要な役割を果たしたというべきである上,当初の生命保険の死亡保険金だけでは,自己の債務整理のためだけに保険金全てを費消してしまうなどと考えて,共犯者らにも秘密でVを被保険者として新たな生命保険に加入するなど,保険金取得への意欲は極めて強く,犯行実行に当たっては,Vの生活状況についての情報を被告人Bに提供した上,Vを自宅に1人にして,玄関を無施錠にしたまま外出するという殺害の実行行為を極めて容易にする役割を担っている。また,犯行後は,被告人Bと同様に,夫を殺害された被害者側の人間を装ってVの葬儀の喪主を務め,死亡保険金の請求まではしていないものの,保険会社の担当者に,保険金の請求が可能かを探った上,「事件後には,Vから解放された解放感があった。」などと述べるなど,当初,Vを殺害したことについての悔悟の情が乏しかったことなど,その犯情も極めて悪いことからすれば,被告人Aの刑責は誠に重大であるといえる。

被告人Cは,被告人Bの指示の下,Vの殺害実行という本件犯行に不可欠な役割を担ったのであり,その殺害方法も,前記の殺傷能力十分な出刃包丁を用い,Vの前胸部右側を2箇所,上背部を7箇所に渡り,それぞれ相当の力で刺突したと認められるのであり,その犯行は執拗かつ残忍というほかなく,犯行後についても,概ね被告人Bの指示に従って,凶器等を投棄した後,直ちにe県へ逃亡し,被告人Bから報酬と仕事の紹介を得られるのを待つなどしており,犯情も悪いというべきであって,被告人Cの刑責は極めて重大である。

被告人Dは,殺人の犯行の準備金として,70万円もの金員を被告人Aに交付したものであり,実際に殺害実行役である被告人Cの手に渡ったのは30万円ではあったものの,現にその金員が,V殺害の犯行の実行のために使われて役立ったものである上,前記のとおり,殺害計画の具体的な内容まで把握していた被告人Dが,同Aに対し,電話による謀議はやめた方がよいなどと忠告していることなどに鑑みると,被告人AらのV殺害の犯行に対する被告人Dの寄与は相当なものであったと認められ,犯情は悪く,被告人Dの刑責は重いというべきである。

そうすると,本件V殺害の犯行が,死亡保険金の騙取という所期の目的を達するまでには至らなかったこと,いずれの被告人も,捜査公判を通じて本件犯行を認め,反省の情を示しており,前科も見当たらないこと,被告人Aについては,Vに不満を抱いた経緯については理解できないわけではなく,養育すべき子らがあること,被告人Bについては,これまで周囲の者からその面倒見の良さなどを評価されており,Vの実兄も,前記のような厳しい処罰感情の一方で,被告人Bに対して恩義がある旨述べているほか,その元妻も,離婚はしたものの,被告人Bの更生を待つ意思を示していること,被告人Cについては,被告人Bらに比べ,本件犯行において占めた地位には明白な差があるほか,これまで真面目に仕事をしてきたものであって,その姉や前妻との間の子らが被告人の更生を待つ意思を示していること,被告人Dについては,被告人Aから利益を得る目的で犯行に及んだとは認められず,元夫が再婚して被告人Dを監督する意思を表明しているほか,養育すべき子もあることなど,被告人らに有利ないし斟酌すべき事情を最大限考慮したとしても,被告人A及び被告人Bについては,その生涯を通じて罪を償わせるほかないというべきであり,被告人C及び被告人Dについても主文の実刑は免れないと判断した。

よって主文のとおり判決する。

(求刑-被告人A及び被告人Bについて無期懲役,被告人Cについて懲役16年,押収してある出刃包丁1丁の没収,被告人Dについて懲役5年)

(裁判長裁判官 本間榮一 裁判官 齊藤啓昭 裁判官 菅原暁)

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