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仙台地方裁判所 平成15年(わ)208号 判決

主文

被告人を懲役9年に処する。

未決勾留日数中60日をその刑に算入する。

押収してある傘1本,傘の柄1本,傘の把っ手1個,壊れた傘の部品6点及び傘1本をいずれも没収する。

理由

(傷害致死の犯行に至る経緯)

被告人は,平成元年ころ,覚せい剤仲間の妻であったAと知り合い,前妻と離婚した平成2年2月ころから,Aとの交際を深め,同女と共に覚せい剤を使用するなどしていたところ,平成3年末ころ,同女と共に覚せい剤取締法違反の罪で逮捕され,起訴されて,同女は懲役1年2月,3年間執行猶予の判決を受けて釈放されたが,被告人は,平成4年3月11日,懲役2年6月の実刑判決を受けて服役することとなった。

被告人は,服役中,Aが前夫と離婚し,何度も刑務所に面会に来てくれたりしたことなどから,平成6年5月10日に仮出獄すると,肩書住居地において,同女とその連れ子2人と共に生活するようになったが(平成7年3月10日にAと婚姻),覚せい剤の使用を続けるばかりか,服役中にAが他の男性と浮気したとして,その男性や家族を脅迫して金銭を喝取するなどして逮捕されるに至り,恐喝及び覚せい剤取締法違反の罪で起訴されて,同年9月20日,懲役3年の実刑判決を受けて再び服役することとなり,そして,平成10年3月31日に仮出獄すると,再び同女のもとに戻って一緒に暮らすようになった。しかし,なおも覚せい剤の使用を続け,さらに,Aに覚せい剤を注射してやるなどしたことから,またもや同女と共に覚せい剤取締法違反の罪で逮捕されてしまい,起訴されて,同女は懲役2年,4年間執行猶予の判決を受けて釈放されたが,被告人は,平成11年5月12日,懲役3年2月の実刑判決を受けて服役し,平成14年1月8日に仮出獄すると,今度も同女のもとに戻って一緒に生活するようになった。

ところで,被告人は,平成10年3月31日に仮出獄したころから,Aが浮気しているのではないかと疑いを抱き,同女を問い詰めては暴力を振るうようになり,さらに,平成14年1月8日に仮出獄した後には,被告人が服役していた間に,同女が他の男性と浮気をしていないはずはないなどと考え,同年3月ころ,同女に覚せい剤を注射した上で正直に話すように迫り,同女が浮気の相手として挙げた数名の男性の中に被告人の親友の名前が含まれていたことから,知らない男との浮気ならば目をつぶることもできるが,自分の親友と浮気をしたのは許せないなどと考え,同女を車に乗せて自宅近くの川原などに連れて行き,約2時間もの長時間にわたり,同女に対し,その頭部を手拳で多数回殴りつけたり,背部等を落ちていた木の棒で殴りつけたりして数日間寝込むほどの暴行を加えたことがあり,さらに,その後も,同女の態度などから浮気をしていることは間違いないなどと邪推し,同女に暴力を振るっていた。そこで,Aは,被告人の暴力から逃れるため,同年5月末ころ,2人の子供を連れて家出し,宮城県婦人相談所に保護を求め,その関連施設で約3箇月間過ごしたことがあり,さらに,その後も,被告人から浮気をしていたのではないかと問い詰められて暴行を加えられていたことなどから,家出を繰り返し,宮城県内や東京都内の親戚の家,あるいは神奈川県内の弟の所などに身を隠したりした。しかし,被告人が,Aの実父や弟に対して,同女の居場所を教えるようにと電話を掛けたり,直接怒鳴り込んだりした上,同女が帰ってくるまで同女の子供を人質にして連れて行くなどと言って,その子供を連れて帰るなどしたことから,同女は,家出をしては,しばらくすると被告人のもとに戻るという生活を繰り返し,一方,被告人は,家出を繰り返す同女に不満を募らせていた。

そのような中で,Aは,平成15年2月,被告人と離婚しようと考え,家庭裁判所に相談に行ったり,弁護士に依頼するなどして離婚の準備を進める一方,親戚の知人宅に身を隠していたが,同年3月9日,やむなくその家を出たものの,神奈川県内の弟の所に行く所持金もない上,実父に頼ることもできず,結局,同月10日,被告人に電話を掛けて被告人のところに戻ることにし,同日夜,仙台駅で被告人と落ち合って自宅に帰った。

同月11日,被告人は,Aと共に,午前中は自宅で過ごし,午後から出掛けて午後3時か4時ころ帰宅した後,居間において,ウイスキーを飲み,同女に男癖を直せなどと言っていたところ,次第に,同女が自分を裏切って家出を繰り返し,浮気をしているとの思いがこみ上げ,その思いを押さえられなくなった。

(証拠により認定した罪となるべき事実)

第1  被告人は,平成15年3月11日午後4時30分ころ,宮城県石巻市a丁目b番地c号被告人方において,飲酒するうち,妻A(当時39歳)が家出を繰り返し,家出中に浮気をしているとの思いから,隣に正座させた同女に対し,「お前は今さえよければいいっていう考えだからだめなんだ。」などと言って説教をしながらその頭部,顔面を平手で数回殴打していたところ,今回の家出中にも同女が浮気をしていたのではないかと気になり,「また同じことしてねえべな。」などと言って問い詰めると,同女が黙っていたことから,浮気をしていたことは間違いないなどと考え,浮気相手の名前を無理矢理聞き出そうとして,「もしかして,俺の知っている奴でねえべな。」などと怒鳴りながら,更にその顔面や頭部を平手で多数回殴打したところ,被告人の暴力に耐えかねて同女が浮気相手として言い出した名前の中に被告人の親友の名前があったことから,同女はよりによって自分の親友と浮気したと考えて憤激し,玄関から傘1本を持ち出して,同女に対し,左肩あたりを力一杯殴りつけた上,頭部や顔面を手拳で多数回強打し,耐えかねて寝室に逃げようとした同女を連れ戻して,更に頭部や顔面を手拳で多数回強打し,同女が顔面に両手をあてがってかばうようにすると,その両手の上からも手拳で強打を続けた。そして,被告人は,Aが浮気相手として名前を挙げた被告人の親友を自宅に呼び出し,同日午後8時ころ,その親友が来ると,同人と同女に対し,浮気を問い詰めたが,両名からこれを否定されたため,被告人は,親友を帰宅させたものの,同女に対しては,もう一度問い詰め,同女が浮気を認めるや,更に憤激し,再度玄関から別の傘1本を持ち出し,「お前は何人俺の友達なくせば気が済む。」などと怒鳴りながら,この傘で同女の顔面や両腕両脚を多数回強打し,その傘の先で顔面を突き,両腕両脚を多数回殴打したり足蹴にしたりするなどした上,同月12日午前零時30分ころまでの間,断続的に,頭部,顔面等を手拳で殴打するなどの暴行を加え続け,よって,同女に,頭部,顔面の皮下出血,左右前腕,左大腿,左右下腿の血腫状皮下出血等の傷害を負わせ,同日午後1時ころ以降同日午後2時24分ころまでの間,同所において,同女を上記傷害に基づく外傷性ショック等により死亡させた。

第2  被告人は,法定の除外事由がないのに,同月11日ころ,前記被告人方において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を含有する水溶液を自己の身体に注射し,もって覚せい剤を使用した。

(累犯前科)省略

(量刑の理由)

1  本件は,日頃から一方的に妻の浮気を疑っては同女に対して暴力を振るっていた被告人が,自宅において,妻に対し,暴行を加えて被告人の親友と浮気をしたなどと言わせた上,約8時間もの長時間にわたって一方的に激しい暴行を加え,頭部,顔面の皮下出血,左右前腕,左大腿,左右下腿の血腫状皮下出血等の傷害を負わせ,適切な手当もせずに放置し,妻を上記傷害に基づく外傷性ショック等により死亡させたという傷害致死(判示第1)及び覚せい剤を自己使用したという事案(判示第2)である。

2  傷害致死の犯行の動機等を見ると,被告人は,判示傷害致死の犯行に至る経緯記載のとおり,覚せい剤取締法違反の罪等によって服役を繰り返し,その間,面会に刑務所に赴いたり,離婚もしないで被告人の出所を待っていた妻である被害者に対し,自分が服役している間に浮気をしていたのではないかと疑って暴力を振るったあげく,被害者が被告人の暴力から逃れるために家出をすると,被害者の実父宅に押し掛けて怒鳴ったり,実父宅にいた被害者の子供を連れ帰るなどして被害者を帰宅させようとし,被害者が戻ってくると,今度は家出中に浮気をしていたのではないかと疑って一方的に暴力を振るうということを繰り返していたところ,久しぶりに被告人のもとに戻ってきた被害者に対し,やはりこれまでと同様に,今回の家出中も浮気をしたと疑って暴力を加え,被害者が浮気相手として被告人の親友の名前を出したことから被害者が被告人の親友と浮気をしたと考えて憤激し,本件犯行に及んだものである。

なるほど,被告人の供述によれば,被害者は浮気相手として被告人の親友の名前を出したことが認められるが,これは,前記のとおり,被告人の激しい暴行に耐えかねた結果と認められ,決して自発的に告白したものではない上,被告人の供述を見ても,被告人は,被害者がその親友の名前を出しても,浮気を詳しく聞き出そうとした形跡はないばかりか,わざわざ被告人宅に呼び出したその親友に対しても,被害者と浮気をしたのではないかと問い詰めているのに,同人に否定されると,それ以上の追求をすることもなく,その親友を帰しているのである。

そうすると,被告人は,被害者が浮気相手として被告人の親友の名前を出したということ以外に,被害者が被告人の親友と浮気をしたという確かな証拠は何ら持っていなかったのであり,しかも,被害者が被告人の親友の名前を出したのは,被告人から加えられた暴力に耐えかねてのものであることからすれば,被害者が述べたことは信用しがたいものであって,にもかかわらず,被告人は,自ら加えた暴行によって被害者が被告人の親友の名前を出したことに思いを致さず,被害者の出した親友の名前を聞いて憤激したというのは,短絡的であるといわざるを得ず,本件犯行の動機に酌むべきものはない。

傷害致死の犯行態様について見ると,被告人は,暴行を加えながら被害者に対して浮気の事実を詰問し,被害者が浮気の事実を認めると,手拳だけでなく,2本の傘を持ち出してその傘が壊れるほどの強さで同女の顔面や頭部を含む全身を一方的に多数回にわたって殴打し,被害者が逃げようとするとすぐに連れ戻して更に強度の暴行を加えるなど,約8時間もの長時間にわたって被害者を死に至らしめるほどの強烈な暴行を執拗に加え続けていたのである。被害者の死因は,外傷性ショックと急性覚せい剤中毒の競合によるものであるが,被害者に生じた皮下出血等の傷害の程度は,それ自体生命に危険を及ぼすようなショックを引き起こす可能性が十分に考えられるものであり,被告人の判示暴行は,極めて危険性が高いものである。そして,被告人は,被告人宅を訪れた知人に暴行を止められたことから,被害者に対するその後の暴行はやめたものの,知人に救急車を呼ぶように言われたにもかかわらずそれを拒絶し,同人の勧めで被害者に対して睡眠薬を飲ませた以外には,適切な治療を受けさせることなど一切させずに半日以上放置し,被害者を死に至らしめているのであって,犯行態様は危険かつ残忍で非情なものであり,極めて悪質である。さらに,上記急性覚せい剤中毒についても,被告人が,遅くとも被害者に暴行を加える前までに被害者に注射した覚せい剤によって生じたものと証拠上認められ,なおさら犯情は悪い。

被害者は,以前から夫である被告人からの暴力を受け続け,婦人相談所や親戚宅に身を隠しながら被告人との離婚の準備を進めていたものであり,夫の一方的な暴力により,2人の子供を残したまま39歳という若さで死に至らざるを得なかった被害者の無念さは察するに余りある。被害者は約8時間もの長時間にわたって激しい暴行を受け続け,死に至るほどの重傷を負わされながら,適切な治療を受けることもなく放置されて死亡したのであって,被害者が死に至るまでに受けた肉体的,精神的な苦痛,衝撃や恐怖感は想像を絶するものがあり,被害結果は重大である。

また,被害者を失った実父をはじめとする遺族の精神的苦痛は大きく,被告人に対する処罰感情が厳しいのは当然であるが,これに対して,被告人は,被害者の実父に対し謝罪の言葉を口にすることもなく,かえって,遺族の神経を逆なでするような手紙を送りつけるなどしており,この点も極めて悪質である。

加えて,被告人は,前記累犯前科欄に記載した前科2犯を含め,覚せい剤取締法違反の罪によって4度服役した前科があるにもかかわらず,前刑の仮出獄後から再び覚せい剤の自己使用を繰り返して判示第2記載の犯行に及び,被害者にまで覚せい剤を注射しているのであって,被告人の覚せい剤に対する親和性,依存性,常習性は顕著である上,規範意識の欠如は甚だしい。

以上からすれば,被告人の刑事責任は重大である。

3  他方,被告人は,逮捕直後から事実を素直に認めていること,上記のとおり,反省の態度には問題が残るものの,被告人なりに被害者に謝罪し,その供養に努める旨述べていることなど,被告人にとって酌むべき事情も認められる。

4  そこで,上記のような事情を総合的に考慮して,被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 本間榮一 裁判官 齊藤啓昭 裁判官 大塚さや子)

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