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仙台地方裁判所 平成14年(行ウ)6号 判決

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告知事が,原告に対し,平成14年3月29日,宮城県(廃対)達第10号をもってした産業廃棄物収集運搬業の許可及び産業廃棄物処分業の許可の各取消処分を取り消す。

2  被告市長が,原告に対し,平成14年5月7日,仙台市環廃産達第2号をもってした産業廃棄物収集運搬業の許可の取消処分を取り消す。

第2事案の概要

1  本件は,原告が,被告らから産業廃棄物収集運搬業等の許可を得ていたところ,原告の役員であるAが暴力団員等に該当することを理由に,廃棄物の処理及び清掃に関する法律14条の3第3号,14条3項2号ニに基づき上記各許可の取消処分を受けたため,その取消しを求めた事案である。

2  前提となる事実

(1)  当事者

ア 原告は,土木工事,産業廃棄物の収集,運搬,処理等を業とする株式会社である。

イ 原告の代表取締役は,Aである。

(争いのない事実)

(2)  廃棄物処理法による暴力団排除の枠組み

ア 「暴力団員」とは,暴力団(その団体の構成員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体)の構成員をいう(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴力団対策法」という。)2条参照)。

イ 産業廃棄物処理業は,処理費用を抑えるために不適正処分を行い,多額の不法収益を上げるという動機付けが強い業態であること,処理の委託を巡って事業者を標的にした不当要求行為が行われるおそれが高いことなど,不法収益を上げることを目的として暴力団が介入するおそれが非常に高く,実際にも廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)の違反者に暴力団員が高い割合を占めることから,平成12年法律第105号をもって改正された廃棄物処理法には,産業廃棄物処理業から暴力団を排除することを目的とする規定が設けられた。

ウ 具体的には,暴力団員及び暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者(以下,併せて「暴力団員等」という。),役員等が暴力団員等に該当する法人等を欠格要件に追加した(廃棄物処理法14条3項2号ロ,ニ,ホ,同法14条の3第3号)。

そして,都道府県知事又は保健所設置市の市長(同法8条1項参照)が,許可又はその取消処分を行う際にこれらの欠格要件を把握するため,警視総監又は道府県警察本部長に対して照会する手続が定められ(同法23条の3,23条の5),また,産業廃棄物処理業者について,暴力団員等に係る欠格要件に該当する事由があると疑うに足りる相当な理由があるため,これらの者に対し適当な措置を採ることが必要であると認めるときは,県警察本部長等から県知事等に対して意見を述べることができるものとされた(同法23条の4)。

(乙1,2)

(3)  被告知事関係

ア 本件許可(被告知事関係)

原告は,被告知事から,平成11年11月30日,産業廃棄物収集運搬業の許可を,平成12年4月25日,産業廃棄物処分業の許可をそれぞれ取得した(以下,両許可を「本件許可(被告知事関係)」という。)。

(甲1)

イ 県警本部長に対する意見照会

被告知事が,宮城県警察本部長(以下「県警本部長」という。)に対し,平成13年9月28日,廃棄物処理法23条の5に基づき意見を求めたところ,県警本部長は,被告知事に対し,同年10月29日,原告の役員であるAが暴力団員等であることから,同法14条3項2号ニに該当する事由があると認められる旨回答した。

(甲2)

ウ 聴聞手続

上記県警本部長の回答を受けて,被告知事は,平成13年12月26日及び平成14年3月25日,行政手続法に基づき,本件許可(被告知事関係)の取消処分に係る聴聞を実施した。

(甲3,5,7,8,13)

エ 本件許可(被告知事関係)の取消し

被告知事は,原告に対し,平成14年3月29日,原告の役員であるAが暴力団員等であり,廃棄物処理法14条3項2号ニに該当するとして,同法14条の3に基づき,本件許可(被告知事関係)を取り消す処分をした(以下「本件取消処分(被告知事関係)」という。)。

(甲1)

(4)  被告市長関係

ア 本件許可(被告市長関係)

原告は,平成11年9月14日,被告市長から,産業廃棄物収集運搬業(積替え及び保管は行わない)の許可を取得した(以下「本件許可(被告市長関係)」という。)。

(甲19)

イ 県警本部長からの意見陳述

県警本部長は,被告市長に対し,平成13年11月8日,廃棄物処理法23条の4に基づき,原告の役員であるAが暴力団員等であるため,同法14条3項2号ニ等に該当する事由がある旨の意見を述べた。

(甲20)

ウ 聴聞手続

上記県警本部長の意見陳述を受けて,被告市長は,平成13年12月26日及び平成14年3月25日,行政手続法に基づき,本件許可(被告市長関係)の取消処分に係る聴聞を実施した。

(甲20,22ないし25)

エ 本件許可(被告市長関係)の取消し

被告市長は,原告に対し,平成14年5月7日,原告の役員であるAが暴力団員等であり,廃棄物処理法14条3項2号ニに該当するとして,同法14条の3に基づき,本件許可(被告市長関係)を取り消す処分をした(以下「本件取消処分(被告市長関係)」という。)。

(甲19)

(5)  B組

ア 石巻市に事務所を構えるX組Y一家Z連合B組(以下「B組」という。)は,暴力団対策法2条2号にいう「暴力団」である。

イ B組の組長は,C(本名はc。)である。

ウ B組には,稼業名としてDを名乗る組員がいる。

B組の事務所には,「D」の名札(めいさつ)が掲示されており,石巻警察署刑事第二課暴力犯係統括係長E警部補(以下「E」という。)ほか1名の警察官も,平成9年11月,B組事務所において,Dの名札が行動隊長補佐の名札の隣に掲示されているのを現認した。

(乙14ないし16,証人G(乙3を含む。),証人E(乙4,7を含む。),証人C(甲10を含む。))

第3争点

1  争点1(AとB組との関係)

Aは,B組の組員か。

2  争点2(処分手続)

本件取消処分(被告知事関係)及び本件取消処分(被告市長関係)の各処分手続は適法か。

第4争点についての当事者の主張

1  争点1(AとB組との関係)

(1)  被告らの主張

ア Aは,稼業名として「D」を名乗るB組の組員である。

イ(ア) 第三者の供述

a. 平成8年,Aをよく知る者が,AはB組組長の舎弟であり,B組内でDという稼業名を使用している旨を供述した調書が存在する。

b. 平成10年,X組系暴力団に所属する者が,Aは稼業上Dという名前を使い,B組顧問の肩書を持つこと,並びにAの仕事,他のB組組員の氏名及び肩書等について供述した調書が存在する。

c. 平成12年8月,第三者が,B組に舎弟頭としてDと称するAがいると供述した旨の情報報告書が存在する。

d. 平成13年,X組系暴力団に所属する者が,Aは稼業上Dという名前を使っており,B組の副組長という肩書を持っていること,並びにB組の組長以下の組員の氏名,肩書及び稼業名等について供述した供述調書が存在する。

e. 平成13年,X組系以外の暴力団に所属している者が,AはB組の副組長で,Dという稼業名を使用している旨を供述した上,Aの写真を数枚の写真の中から抽出し,当該写真を添付した供述調書が存在する。

f. 宮城県警が所持するAについて記載のある供述調書のすべてに,Dの稼業名を使用している人物がAである旨の記載がある。

g. Dの稼業名を使用しているAの自宅の場所を記載した供述調書がある。

(イ) 「Z」のあんどん

a. 平成11年6月,A及び原告をよく知る者が,AはB組の舎弟頭であり,原告の建設用車両の前部に,暴力団X組Y一家Z連合を意味する「Z」のあんどんが掲げられていること,及びそのあんどんを掲げることによって車両の所有者等に暴力団が付いていることを示し,その威力を背景として産業廃棄物業に係る各種折衝を優位に進めることが目的であることを述べた旨の情報報告書が存在する。

b. 原告の車両にZのあんどんが相当期間掲げられていたことは,Aも認める事実である。

c. Aは,原告代表者尋問において,原告の従業員Fが勝手に「Z」のあんどんを取り付け,Aの注意を受けて取り外した旨供述している。

しかしながら,原告の建設用車両に長期間掲示されていたにもかかわらず,原告の代表取締役であるAがこれに気付かなかったとか,Aがあんどんを見付けてからFがこれを取り外すまで1か月も放置されていたなどということは不合理である。

また,組織の看板は,暴力団社会において極めて重要な組織の象徴であり,対外的には勢力誇示の意味を持つところ,石巻地区は宮城県内でも屈指の暴力団員の居住比率が高い地域であり,そうした地域において,国内最大の暴力団であるX組の系列組織がその看板の無断使用を容認,看過することはあり得ない。

(ウ) 「D」の名刺

a. 平成13年10月,宮城県警暴力団対策課課長補佐G警部(以下「G」という。)は,Aをよく知る者から,Aから稼業名だと言われて受領した旨の説明を受け,「X組Y一家Z連合B組 舎弟頭 D」と印刷された名刺(乙5)を入手した。

b. また,Gは,ある情報提供者から,Aの名刺として,「Z連合B組副組長 D」と印刷された名刺を見せられたが,それを入手することはできなかった。

c. Aは,Dの名刺を自分の名刺であると述べて何人もの者に渡し又は見せている事実を記載した情報報告書及び供述調書が存在する。

d. なお,原告が,証人Jが作成したものと主張し,提出している「副長D」の名刺(甲14)は,宮城県警察が把握した名刺とは異なっている。

(エ) 原告によるB組組員の雇用

Aは,B組組長であるCの紹介を受け,B組組員であることを知りながら,これまでB組組員を7,8人を雇用している。

(オ) C及びAの自認

平成10年9月,B組組員であり原告の従業員であるHが逮捕,勾留されたため,Cは,同人と接見する目的で,Aと連れ立って石巻警察署を訪れた。その際,Cは,同署刑事第二課暴力犯係に立ち寄り,Eに対し,Aを「うちの顧問のDです。」と紹介し,Aは,「組長にお世話になっているAです。」とあいさつした。

(カ) Aらの隠蔽工作

a. 被告知事及び被告市長が原告に聴聞通知を送付した後,Aが,AとB組との関係を知る者に対し,自分がB組組員であることを警察や宮城県らの関係者に話すなと口止めしている旨記載した情報報告書及び供述調書が存在する。

b. 上記a.と同じころ,Cが,AとB組との関係を知る者に対し,AがB組組員であることを警察や宮城県らの関係者に話すなと口止めした旨記載した情報報告書及び供述調書が存在する。

c. Aは,原告の従業員のうちB組組員である者を原告の事務所2階に集め,X組の綱領を唱えさせていたこと,同人らから月初めの寄りの席で寄り玉と称する現金を徴収していたこと,同人らにX組の代紋入りのバックル等を売り付けたことを記載した情報報告書及び供述調書が存在する。

ウ C証言等の不合理性

(ア) Aの供述の不合理性

次の理由により,A供述は信用することができない。

a. Aは,原告の従業員であったIに対し「こういう人に預けて教育してもらうぞ」と言って,Dの名刺を渡した旨供述するが,名刺を提示するだけでなく手交までする理由としては極めて不自然である。

b. Aは,Dの名刺について,被告知事の聴聞においては,「その名刺,私も持ってません。」と述べて否定したが(甲7),本訴における陳述書(甲29)では,「Dの名刺を出したのはこれが最初で最後です。」と陳述して名刺の所持,使用を認め,代表者尋問に至っては,Jから何枚もDの名刺をもらっていたことを認めるなど,Dの名刺に関する供述を変遷させている。

c. Aは,陳述書(甲29)では,「一度も逮捕,取り調べを受けた事実はありません。」と陳述したにもかかわらず,本人尋問では,有罪判決を受けた事実を認めざるを得なかったものである。

d. Aは,Cと付き合い始めた時期について,高校生のころと証言しているが,被告知事関係の聴聞の際には,7,8年前と述べるなど,大きな食い違いがある。

(イ) J証言の不合理性

次の理由により,J証言は信用することができない。

a. Jは,証人尋問において,「副組長D」の名刺及び「副長 D」の名刺(甲14)を作成した旨主張するが,両者を作成した理由や経緯について合理的な説明をしていない。

b. M印刷のNは,名刺の印刷に際し,筆文字の作成は外注に出す旨陳述している上(甲15),名刺を代紋と同様に最重視する暴力団員からの受注に対しては,特に慎重に名刺を作成するのが通常であるのに,証人Jは,甲14(高)と乙5(高)の名刺の字体の相違は,印刷業者が勝手に行ったことによるなどと不合理な説明をしている。

c. Jは,自分が先輩たる組員を追い越して副長となった旨証言するが,その出世の理由について「全部組長が決めることなんで。」「それは言えないです。」などとして合理的な説明をしていない。

d. Jは,Z連合の事務所に行ったことがあると証言し,さらに,自分が作成したという甲14と乙5の名刺の裏に当該事務所の住所を記載しておきながら,当該事務所の所在地を言えなかったのは,当該事務所の所在地を把握していなかったからにほかならない。

e. 前記のとおり,平成9年11月,B組の事務所において,行動隊長補佐の肩書の名札の隣にDの名札が掲示されているのをEらが確認しているが,Jは,行動隊長補佐なる役職はB組内に存在しない旨客観的事実と合わない証言をしている。

f. 暴力団員が使用する稼業名には,通常,由来や命名の理由があるところ,Jは,その由来について,組長であるCの「c」の字をもらったと言うだけで合理的な説明をしていない。

g. 宮城県警は,これまでのB組の視察活動等を通じて,JがDであるとの情報,供述を全く得ていない。

(ウ) C証言の不合理性

次の理由により,C証言は信用することができない。

a. Cは,副組長とされるJの住所について,「若い衆のことは行ったり来たりしないから。」とか「分からない。」と証言し,その収入源についても,「本人に聞いてくれ。」としている。組長が,自分の代行という組にとって重要な地位を占める者の住所や収入源すら知らないということは考えられない。

b. Cは,Dが副長となった時期について,「はっきりしない。」と証言し,副長に取り立てたきっかけについても,「私は好きだったら上げます。」となどとして合理的な説明をしていない。

c. Cは,「Z」のあんどんを取り付けた原告の車両の存在を知っており,組と関係ない者が勝手にZのあんどんを車両につけて長期にわたって走行していても,それについて調査もせず,組にとって不都合はなく,かえって組の名前が売れてよい旨証言しているのは,暴力団の実態とかけ離れている。

d. Cは,平成14年1月12日作成の陳述書(甲10)において,Dは証人Jである旨を陳述していない。上記陳述書は,第1回聴聞において,宮城県警の担当官から,Aは稼業名「D」であると説明された後に作成されたものであるにもかかわらず,上記陳述書にJについての記載がないことは極めて不自然である。

(2)  原告の主張

ア Aは,暴力団員ではない。B組組員として稼業名「D」を使用している者は,Jである。

イ(ア) AとCとの関係AとCとは,Cの妻(K)とAの妻(L)が互いの店の客であったことから知り合いになったものである。

(イ) 「Z」のあんどん

原告の従業員Fは,平成12年ころ,原告の10トンダンプカーに「Z」の飾りあんどんを取り付けていたが,Aに注意されてこれを取り外した。

(ウ) 「D」の名刺

a. 稼業名Dを名乗る人物は,Jである。したがって,Jが,B組組内における地位に応じ,「舎弟」,「舎弟頭」,「副長」等の肩書の名刺を所持する時期があったとしても不思議ではない。

b. Dの名刺をM印刷に依頼したのは,Jである。M印刷のNは,Aから「D」の名刺の印刷を依頼されたことはない(甲15)。

(エ) 石巻警察署でのやりとり

原告は,B組組員であるHを雇用していたが,平成10年9月ころ,同人が傷害事件を起こし,石巻警察署に逮捕,勾留された。そのため,Aは,雇い主の立場で,Cと一緒に石巻警察署に差入れに行った。

その際,Cは,同署刑事第二課暴力犯係で,Aを「Hが使ってもらっているA社長」と紹介した。Cが「うちの顧問のDです。」とか,Aが「組長にお世話になっているAです。」と話した事実はない。

2  争点2(処分手続)

(1)  被告らの主張

ア 本件処分に手続的瑕疵はない。

イ 原告の主張イ(ア)について

行政手続法18条1項の「不利益処分の原因となる事実を証する資料」とは,行政庁が当該原因となる事実の存在について確信を得る根拠となる書類等を意味するところ,本件では,宮城県警本部長の被告知事に対する意見書及び被告市長に対する意見書(甲2等)である。被告知事は,原告に対する聴聞通知により,その旨を教示し,平成13年12月3日付けで,原告に対し,上記意見書を開示している。

したがって,聴聞手続の違法をいう原告の主張は失当である。

ウ 原告の主張イ(イ)及び(ウ)について

被告らは,情報提供者の保護と今後の捜査への支障を理由に,宮城県警からAを暴力団員等と認定した資料の提出を受けていない。このため,被告らは,宮城県警に聴聞への参加を求め,Aを暴力団員等と認定した理由について説明を求め,聴聞を続行する措置を講じ,その結果を踏まえて本件取消処分をしたものである。

したがって,処分理由が分からなかったとか,被告らが宮城県警本部長の事実認定に拘束されている等の原告の主張は失当である。

(2)  原告の主張

ア 本件聴聞手続は行政手続法に違反している。

イ(ア) 本件における不利益処分の原因となる事実である「役員Aが暴力団員等であること」を証する資料として,事前に開示されたのは,宮城県警本部長の「暴力団員等」との結論のみが記載された通知書だけであり,このようなものは,行政手続法18条で閲覧が保障された「当該不利益処分の原因となる事実を証する資料」とはいえない。

(イ) 聴聞が終結するまでの間,宮城県や仙台市の職員からも,宮城県警担当者からも,不利益処分の原因となる事実を証する資料の提示がなかった。

そのため,原告は,処分の理由がAが現に暴力団員であるのか,それとも辞めてから5年を経過しない者であるのかを知ることができなかった。

さらに,宮城県警担当者は,Aの稼業名がDであり,警察においてDの名刺を入手している旨を口頭で主張するのみであり,行政手続法の趣旨に反して,不利益処分の原因となる事実を証する資料を全く提出しなかった。

(ウ) 取消決定通知書の上では,行政庁たる被告知事及び被告市長が「Aが暴力団員等であること」と認定しているが,実際には,暴力団員等であるか否かについては,専ら宮城県警本部長の認定に委ねられ,これが撤回,取消しされない限り,これに拘束される運用となっており,これでは正しい事実認定を確保しようとする聴聞制度の趣旨を没却する。

第5当裁判所の判断

1  争点1(AとB組との関係)について

(1)  各項に掲げた証拠によれば,次の事実が認められる。

ア 原告によるB組組員の雇入れ

Aは,これまでに,Cから紹介を受けた7,8名のB組組員を,B組組員であることを知った上で,原告の従業員として雇い入れた。

(原告代表者A(甲29を含む。))

イ 石巻警察署でのやりとり

(ア) 平成10年9月,B組組員であり原告の従業員であるHが逮捕,勾留されため,Cは,同人と接見する目的で,Aと連れ立って石巻警察署を訪れた。その際,Cは,同署刑事第二課暴力犯係統括係長E警部補に対し,Aを「うちの顧問のDです。」と紹介し,Aは,「組長にお世話になっているAです。」とあいさつした。

(証人E(乙4,7を含む。),弁論の全趣旨)

(イ) 原告は,Cは「Hが使ってもらっているA社長」と紹介したにすぎない旨主張し,証人C(甲10を含む。)及び原告代表者A(甲29を含む。)は,それに沿う証言をする。

しかしながら,Eは,石巻警察署で暴力団取締りを仕事とする部署に勤務して3年目で,Cとも既に数回会ったことがあり,DがAであるとの情報を得ていたものであるから(証人E(乙4,7を含む。)),そのような経験を有するEが聞き違いをしたとは考え難い。しかも,平成10年9月当時は,廃棄物処理法が暴力団排除を目的とする規定を有していなかったから,CやAが上記不用意な発言をしたことをもって,不自然なものと認めることはできない。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

ウ 「D」の名刺

(ア) Aは,平成7,8年ころ,原告の従業員であったIに対し,B組の舎弟Dと印刷された名刺を渡した。

(原告代表者A(甲29を含む。))

(イ) また,Aは,平成13年10月以前に,I以外の者に対し,自分の稼業名だと言って,「X組Y一家Z連合B組 舎弟頭 D」と印刷された名刺(乙5)を渡した。

(乙5,証人G(乙3を含む。))

(ウ) 原告代表者A(甲29を含む。)は,Dの名刺は,何かあったら使ってもいいからと言われてJから数枚受け取ったが,使用したのはIに対しての1回だけであり,それも真面目に働かないIを懲らしめるために,「こういう人に頼んで気持ちの入れ替えをしてもらうぞ。」と言って渡した旨供述する。

しかしながら,Dの名刺についてのAの供述は,被告知事の聴聞においては,「それとその名刺,私も持ってませんし,・・・」と述べて否定したが(甲7),本訴において提出された陳述書(甲29)では,「私が・・・「D」の名刺を出したのはこれ(注・Iを懲らしめるために渡したこと)が最初で最後です。」(8頁)と陳述し,原告代表者尋問では,Jから何枚も「D」の名刺をもらっていたことを認めるに至っている。Dの名刺の点は,Aが暴力団員等であるか否かを判断する上において極めて重要な間接事実であるが,この点に関するAの供述は,一貫していないものである。しかも,Aが暴力団の名刺を少なくとも2回使用した事実は動かないものであるところ,それを自分を表すものとして使用したものではないというのは,いかにも不自然であるといわなければならない。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

エ 「Z」のあんどん

(ア) 原告の従業員Fは,平成12年ころ,自分が運転している原告のダンプカーのフロント中央に「Z」の飾りあんどんを取り付けた。Aは,これを知りながら,少なくとも黙認していたが,4,5か月後,Fに命じて,そのあんどんを取り外させた。

(甲12,A(甲29を含む。))

(イ) 暴力団組織の看板は,暴力団社会において極めて重要な組織の象徴であり,対外的には勢力誇示の意味を持つところ,国内最大の暴力団であるX組の系列組織であるB組が,B組と無関係の者の「Z」の飾りあんどん使用を看過することは,考え難い。これに反する証人Cの証言は,到底採用することができない。

(弁論の全趣旨)

(ウ) 原告代表者A(甲29を含む。)は,原告では,ダンプカーは会社の敷地外に駐車し,その管理は運送部が担当し,Aは自らダンプカーを現認することはしていなかったから,あんどんの発見が遅れた旨供述する。

しかしながら,Aの上記供述は,従業員50人規模で,土木工事を営む原告において重要な資産であるダンプカーにつき,4,5か月にもわたりあんどんの発見が遅れた理由としては,首肯し難い。また,Dの名刺を使用した事実(前記ウ)と合わせ考えれば,Aが「Z」のあんどんの取付けを少なくとも黙認していたと認定するのが自然である。そして,平成12年は,産業廃棄物処理業から暴力団を排除することを目的とした廃棄物処理法の改正法が成立,施行された年であるから,この時期に暴力団との関係を疑われるあんどん等を排除することは,是非とも必要だったものである。

これらの事実によると,原告の上記主張は採用することができない。

(2)ア  以上に認定の事実によれば,Aは,稼業名として「D」を名乗るB組組員であると認定することができる。

イ  それに反する証人C及び証人Jの各証言は,B組の資金源である原告が産業廃棄物処理業を続けることができるように,虚偽の陳述をしているものと認定せざるを得ない。

他に,上記認定を覆すに足りる的確な証拠はない。

ウ  付言すると,本件における事実認定に当たり,宮城県警の有する供述調書等がすべて当法廷に提出され,必要な証人尋問を施行し,原告による反対尋問を経ることが望ましいことはもちろんであり,そのことが行われなかったことによる不利益は,立証責任を負う被告らが負担すべきである。

しかしながら,本件では,AがB組組員であることを推認させる重要な間接事実であるCらの石巻警察署での発言内容やAの名刺使用の事実が立証されたものであり,他の間接事実と総合すれば,供述調書等が証拠として提出されなくても,AがB組組員であることを高度の蓋然性をもって推認することができたものである。

(3)  よって,被告らのしたAがB組組員であるとの認定に違法はない。

2  争点2(処分手続)について

(1)ア  原告は,本件における不利益処分の原因となる事実である「役員Aが暴力団員等であること」を証する資料として,事前に開示されたのは,宮城県警本部長の「暴力団員等」との結論のみが記載された通知書だけであり,このようなものは,行政手続法18条で閲覧が保障された「当該不利益処分の原因となる事実を証する資料」とはいえない旨主張する。

イ  甲7,23及び弁論の全趣旨によれば,被告知事も,被告市長も,本件における不利益処分の原因となる事実を証するものとして所持していた資料は,宮城県警本部長の被告知事に対する意見書及び被告市長に対する意見書(甲2等)のみであったことが認められるから,被告知事が,これのみを開示したことをもって,行政手続法18条に違反するものと認めることはできない。

(2)ア  原告は,聴聞が終結するまでの間,宮城県及び仙台市の職員からも宮城県警担当者からも,不利益処分の原因となる事実を証する資料の提示がなかったため,①原告は,処分の理由がAが現に暴力団員であることか,それとも辞めてから5年を経過しない者であるのかすら知ることができず,さらに,②宮城県警担当者は,Aの稼業名がDであり,警察においてDの名刺を入手している旨を口頭で主張するのみであり,行政手続法の趣旨に反して,不利益処分の原因となる事実を証する資料を全く提出しない旨主張する。

イ  しかしながら,甲7,23及び弁論の全趣旨によれば,O宮城県暴力団対策監は,平成13年12月28日に開催された第1回聴聞手続に出席し,Aを暴力団員であると認定した根拠を口頭で説明していることが認められ,その内容からすると,宮城県警がAが現に暴力団員であると認定していることは明らかであるから,防御の対象が不明確であったとはいえない。

ウ  次に,甲7,8,13及び22ないし25によれば,被告知事関係の聴聞手続においても,被告市長関係の聴聞手続においても,聴聞手続主宰者は,宮城県警に聴聞への参加を求め,Aを暴力団員等と認定した理由について説明を求めたが,本訴で提出されたGが入手した名刺(乙5)やGやEの陳述書は提出されなかったことが認められる。しかしながら,被告知事及び被告市長が原告に開示されなかった資料に基づき事実認定を行ったことをうかがわせる事情はなく,本訴で提出された程度の資料が聴聞手続で提出されなかったことをもって,行政手続法の趣旨に反するものとまで認めることはできない。

(3)ア  原告は,取消決定通知書の上では,行政庁たる被告知事及び被告市長が「Aが暴力団員等であること」と認定しているが,実際には,暴力団員等であるか否かについては,専ら宮城県警本部長の認定に委ねられ,これが撤回,取消しされない限り,これに拘束される運用となっており,これでは正しい事実認定を確保しようとする聴聞制度の趣旨を没却する旨主張する。

イ  しかしながら,甲7,8,13及び22ないし25によれば,被告知事関係の聴聞手続においても,被告市長関係の聴聞手続においても,聴聞手続主宰者は,宮城県警に聴聞への参加を求め,Aを暴力団員等と認定した理由について説明を求め,聴聞を続行する措置を講じ,その結果を踏まえて本件取消処分をしていることが認められる。また,甲18及び26によれば,被告知事関係の聴聞手続主宰者の被告知事に対する報告書(甲18)には,「以下の理由から予定していた行政処分・・・を変更する必要はないと考える。(1)暴力団員等であるか否かについては,その情報・能力を有する専門機関である・・・県警本部長に委ねられたものであると解されていること。(2)宮城県警察本部長からは,聴聞終了後も平成13年10月29日付け宮本暴(県)第332号宮城県知事あての「廃棄物の処理及び清掃に関する法律による意見」の撤回又は取り消しが行われていないこと。(3)平成14年3月25日の聴聞においての当事者側からの主張によっても上記・・・(2)の通知が明らかに誤りであるとはいえないこと。」と記載されており,被告市長関係の聴聞手続主宰者の被告市長に対する報告書(甲26)にも,同旨の記載があることが認められる。

これらの事実によると,被告知事や被告市長は,Aが暴力団員等であるか否かを判断するための資料を自ら収集する能力がないことを前提に,その専門機関である県警本部長の判断を重視する立場にあったことがうかがわれるが,聴聞手続に顕れた原告の主張及び反証を考慮して県警本部長の判断を検討し,自らの判断を示すことは行っているものであり,被告知事及び被告市長の聴聞手続が自ら事実認定を行うことを全く放棄したものであり,聴聞制度の趣旨を没却するものであるとまで認めることはできず,この点の原告の主張は理由がない。

(4)  よって,処分手続の違法をいう原告の主張は理由がない。

3  結論

以上のとおり,本件取消処分(被告知事関係)及び本件取消処分(被告市長関係)に事実認定を誤った違法はなく,また,各取消処分手続にも違法はない。

よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市川正巳 裁判官 岡崎克彦 裁判官 工藤哲郎)

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