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仙台地方裁判所 平成14年(ワ)1049号 判決

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,金100万円及びこれに対する平成14年8月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,原告が,福島刑務所入所中,同所長のした,前後13回にわたる非親族である知人や裁判所書記官あての信書の特別発信許可申請の不許可処分には裁量権を逸脱した違法があるとして,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,これによる損害の賠償を求める事案である。

1  争いのない事実等(末尾に証拠等を掲げたもののほかは,当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

ア 原告は,準強姦罪により,懲役6年の刑に処せられ,平成5年4月7日から福島刑務所において懲役刑の執行を受け,平成11年2月1日,満期釈放された者である。(弁論の全趣旨)

イ 被告は,福島刑務所を管理・運営し,その職員をして原告に対する処遇の公務に従事させていたものである。

(2)  本件の経過等

ア 原告は,平成4年8月,A(以下「A」という。)から,名取市内の建物を事務所として賃借した(この建物を以下「本件建物」という。)。(甲1,22)

イ 原告の知人であったB(以下「B」という。)は,平成5年5月7日,福島刑務所に原告に面会すべく来所した。

ウ 福島刑務所長は,同年8月18日,原告のBあての信書の特別発信を不許可にした(以下「本件不許可処分1」という。)。(甲6の1ないし3)

エ 福島刑務所長は,同月23日,原告のBあての信書の特別発信を不許可にした(以下「本件不許可処分2」という。)。(甲7の1ないし3)

オ 福島刑務所長は,同年9月29日,原告のBあての信書の特別発信を不許可にした(以下「本件不許可処分3」という。)。(甲8の1・2)

カ 福島刑務所長は,同年10月12日,原告のBあての信書の特別発信を不許可にした(以下「本件不許可処分4」という。)。(甲9の1ないし3)

キ 福島刑務所長は,同年11月8日,原告のBあての信書の特別発信を不許可にした(以下「本件不許可処分5」という。)。(甲10の1ないし3)

ク 福島刑務所長は,同月30日,原告のBあての信書の特別発信を不許可にした(以下「本件不許可処分6」という。)。(甲11の1ないし3)

ケ 福島刑務所長は,平成6年2月28日,原告のBあての信書の特別発信を不許可にした(以下「本件不許可処分7」という。)。(甲12の1ないし3)

コ 原告は,同年4月5日,仙台地方裁判所大河原支部(以下「仙台地裁大河原支部」という。)から,本件建物についての建物明渡等請求事件(仙台地裁大河原支部平成6年(ワ)第1号。以下「本件建物明渡等請求事件」という。)の訴状等の特別送達を受けた。(乙9)

サ 福島刑務所長は,同月18日,原告の同月11日付けBあての信書の特別発信を不許可にした(以下「本件不許可処分8」という。)。(甲13の1ないし3)

シ 福島刑務所長は,同年6月2日,原告の同年5月23日付けBあての信書の特別発信を不許可にした(以下「本件不許可処分9」という。)。(甲14の1ないし3)

ス 福島刑務所長は,同年7月19日,原告の同月11日付けBあての信書の特別発信を不許可にした(以下「本件不許可処分10」という。)。(甲15の1ないし3)

セ 原告は,同年9月10日,仙台地裁大河原支部から,本件建物明渡等請求事件につき,判決の特別送達を受けた。判決の内容は全面敗訴であった。

(乙12)

ソ 福島刑務所長は,同月19日,原告の同月13日付けBあての信書の特別発信を不許可にした(以下「本件不許可処分11」という。)。(甲16の1ないし3)

タ 福島刑務所長は,同月20日,原告の同月19日付け仙台地裁大河原支部書記官C(以下「C」という。)あての信書の特別発信を不許可にした(以下「本件不許可処分12」という。)。(甲18の1ないし3)

チ 福島刑務所長は,平成7年2月2日,原告の同年1月30日付けBあての信書の特別発信を不許可にした(以下「本件不許可処分13」という。なお,本件不許可処分1ないし13を総称して以下「本件各不許可処分」という。)。(甲17の1ないし3)

ツ 原告は,平成11年2月1日,福島刑務所を出所した後,弁護士に相談したところ,弁護士会に相談に行くように勧められた。そして,原告は,同年8月初旬ころ,同弁護士会に赴き,同会から人権救済の申立てを勧められ,同月11日,同申立てをし,同月19日,同会に法律扶助の申立てをした。

テ 原告代理人らは,平成14年1月28日,被告に対して,金200万円の慰謝料の支払を催告した。(甲2,3)

ト 原告は,同年7月26日,本件訴えを提起した。

2  争点

(1)  本件各不許可処分の適法性の有無

(2)  消滅時効の成否

(3)  損害額

3  争点に関する当事者の主張

(1)  争点(1)(本件各不許可処分の適法性の有無)について

ア 原告の主張

(ア) Bあての信書に関する本件各不許可処分(本件不許可処分1ないし11及び13)

原告は,Bに対し,営業上の後事を託していたし,当時,連絡を取り得たのは同人だけであった。原告は,Bに対し,第三者から請負工事代金として入金された2000万円の財産管理や身元引受人の依頼をしたり,前記金員の管理等を託していたD(以下「D」という。)の転居先住所を教えてもらうために信書を発信しようとした。これらによれば,原告のBあての信書の特別発信許可申請には,いずれも必要性・緊急性があった。

(イ) 裁判所書記官あての信書に関する本件不許可処分(本件不許可処分12)

原告の裁判所書記官あての信書の特別発信許可申請は,訴訟手続について照会することを目的としてなされたものであり,必要性・緊急性があった。

イ 被告の主張

次の事情から,本件各不許可処分に係る信書の特別発信許可申請には,いずれも必要性・緊急性が認められなかった。

(ア) 本件不許可処分1ないし4

a 信書に記載されていた内容が抽象的な依頼にすぎなかった。

b 原告は,本件不許可処分1ないし4以前に,Bとの面会を,単なる知人であるとして拒否した。

c 仮に財産関係について依頼するのであれば,弁護士や原告の弟であるE(以下「E」という。)等の親族に依頼すれば足りた。

d Dあてに発信するなどの方法もあった。

e 原告がBに財産管理を依頼していたと認めるに足りる事情がなかった。

(イ) 本件不許可処分5ないし7

a 本件不許可処分5については,身元引受けをBに設定する旨分類課あてに申請し,地方更生保護委員会が環境調整を行った上で引受けの可否を決するから,引受けの可否が決定するまでは身元引受けの信書の発信をさせないこととした。

b 本件不許可処分6及び7については,身元引受けについては,地方更生保護委員会の環境調整中であり,受入れの可否が決定していなかった上,D転居先住所の問い合わせについては,Dと同居していたEあてに信書を発信することで目的を達成し得た。

(ウ) 本件不許可処分8ないし11及び13

a Bが身元引受人として適性を欠くとの回答がなされていた。

b 原告は,建物賃貸借契約関係に関するAからの内容証明郵便を受信した際,Eに転送するとともに対応を指示した。

c 同内容証明郵便には,Eが原告の代理人として本件建物でAと会った旨の記載があること等から,本件建物明渡等請求事件に関する問い合わせは,Eに発信することで対応できた。

d 仮にDの転居先住所を知る必要があったとしてもEに発信することで対応できた。

(エ) 本件不許可処分12

a 本件建物明渡等請求事件の判決は既になされており,係属中の訴訟に関するものではなかった。

b 書記官個人へ照会するのは筋違いであるとして,裁判所あてに発送するのであれば別途審査する旨指導した上で,当該特別発信を不許可にした。

c 訴訟手続について照会をするのであれば,弁護士あてに発信するという代替手段があった。

(2)  争点(2)(消滅時効の成否)

ア 被告の主張

(ア) 原告は,本件各不許可処分を受けた時点で,これが違法であることによる損害及び加害者を知った。

(イ) 本件各不許可処分から3年が経過した。

(ウ) 被告は,平成15年1月17日の本件弁論準備手続期日において,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

イ 原告の主張

(ア) 原告は,Bあての私信はことごとく「緊急性がない。」として発信を不許可とされ,平成11年2月1日に出所するまで,弁護士に依頼することもできず,自らの財産保全の手立てはなかった。

(イ) 原告は,福島刑務所出所後に前記2000万円の不存在を知って,弁護士や弁護士会に相談に行き,同年8月ころ,初めて国家賠償法上の請求権が発生することを認識した。

(ウ) 受刑者は,国又は施設長を相手方に提訴した場合,いわゆる厳正(昼夜)独居措置が課されたり,仮釈放も許可されないという不利益を被るので,受刑中に権利を行使することが事実上不可能である。また,受刑者は,刑務所を出所した後,弁護士などの専門家に相談して,初めて「損害及ヒ加害者」を知ることになるのが通常である。したがって,受刑者の場合,民法724条の「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」は刑務所を出所した後である。

(エ) 以上によれば,本件請求に係る債権の消滅時効の起算点は,平成11年8月ころというべきであり,遡っても出所時である。

(3)  争点(3)(損害額)について

ア 原告の主張

受刑者が最低限享受しうる外部交通・通信の自由あるいは裁判を受ける権利をはく奪された苦痛は耐え難いものがあり,その精神的損害としては金100万円が相当である。

イ 被告の主張

原告の主張は争う。

第3争点に対する判断

1  前示第2の1の争いのない事実等に,証拠(甲1ないし5,6及び7の各1ないし3,8の1・2,9ないし17の各1ないし3,18の1ないし4,19,20,22,23,乙1ないし5,6の1ないし4,7ないし9,10の1ないし4,11の1ないし5,12,13の1ないし4,14の1・2,15,16の1・2,17ないし21,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。

(1)  福島刑務所に収容される前の状況

ア 原告は,平成4年6月ころから,F株式会社の名義を使用してゴルフ場造成工事の下請を行うようになり,同年8月,Aから,本件建物を事務所兼宿舎として賃借した。

イ 原告は,同年10月,準強姦罪の容疑で逮捕された。その後,同罪名で起訴され,それから後記実刑判決が確定するまで,福島刑務所において,未決勾留された。

ウ 原告は,平成5年1月27日,福島刑務所において,Aから,本件建物に関する賃貸借契約を解除すること,平成4年12月29日に原告の代理人と名乗るEと本件建物で会ったこと,建物の返還等に速やかに応じない場合は提訴など必要な措置をとること等が記載された内容証明郵便を受信した。

エ 原告は,平成5年2月1日,原告の下で事務員として働いていたDの住居地(仙台市a区bc丁目d-eハイツf号)に当時居住していた弟のEに対し,ウの内容証明郵便を転送した上,「賃貸借金支払いは遅納というということで進めてくれ。」「示談ありがとうございました。29日公判で知りました。」「いろいろ話したいことがあるので,近い内面会に来てもらいたい。」等と記載した信書を発信した。なお,Eは,上記内容証明郵便の転送前に,一度原告に面会に来ていた。

オ 原告は,同月16日,Eに対し(乙2には,受信者の氏名が「D」と記載されているが,本人との関係が「弟」と記載されていること,書信の要旨からして,Eあてに送ったものと認めるのが相当である。),Aとの問題につき,その後の推移を問い合わせる信書を発信した。

カ 原告は,同年3月,福島地方裁判所で懲役6年の実刑判決を言い渡され,同判決は同年4月7日そのまま確定した。

キ 福島刑務所長は,同月6日,原告のDあての信書の発信を許可した。

ク 原告は,同月7日,判決確定に伴って,福島刑務所において,懲役刑の執行を受けるようになった。

ケ 原告は,平成4年10月に逮捕されてから平成5年4月7日カの実刑判決の確定までの間に,B及びDに対し,原告が行っていたゴルフ場造成工事に関する後事を託した。また,原告は,原告名義の口座に振り込まれる予定であった請負工事代金約2000万円について,Dにその管理を託した。

(2)  福島刑務所に収容された後の状況

ア 原告は,平成5年4月8日,E,G等を親族として申告した。

イ Bは,同年5月7日,福島刑務所に原告に面会すべく来所し,その際,原告の婚約者と名乗った。刑務官は,原告に対し,Bが原告の婚約者と名乗ったことは伝えず,単に親族でなければ面会はできない旨申し向けた。原告がそれに対して「はい」と言ったため,刑務官は,Bに対し,原告が会いたくないと言っていると伝えた。そのため,Bと原告の面会は実現しなかった。

ウ 原告は,同月28日,特別許可により,Bからの信書を受信した。その信書には,原告から会いたくないと言われて帰ってきたこと等が記載されていた。

エ 福島刑務所長は,同年6月18日,原告のBあての信書の特別発信を許可した。

オ 原告は,同年8月12日,特別許可により,Bからの信書を受信した。その信書には,同年6月19日にDがBに会いに来て,アパートからHマンションに引っ越したと言っていたこと,我妻なる人物から6月末日に入金された2000万円がDの名義になっていること等が記載されていた。

カ 福島刑務所長は,同年8月18日,本件不許可処分1をした。その信書には,原告の財産及び回収した金額の名義等について詳しく知りたいということ,その対応をBに託したいということ等が記載されていた。

キ 福島刑務所長は,同月23日,本件不許可処分2をした。その信書には,カと同様の内容が記載されていた。

ク 福島刑務所長は,同年9月29日,本件不許可処分3をした。その信書には,カと同様の内容が記載されていた。なお,告知の際,刑務官は,原告に対し,Dあてに特別発信許可申請するように指導した。

ケ 福島刑務所長は,同年10月12日,本件不許可処分4をした。その信書には,カと同様の内容が記載されていた。

コ 福島刑務所長は,同年11月8日,本件不許可処分5をした。その信書には,Bに身元引受人になってほしいということ等が記載されていた。

サ 原告は,同月23日,福島刑務所分類課長に対し,Bを身元引受人として申請したい旨願い出た。

シ 福島刑務所長は,同月30日,本件不許可処分6をした。その信書には,コと同様の内容のほか,財産や金の名義が気掛かりであり,1日も早く確実な内容を把握して対応したいこと,そのためにDと連絡を取りたいのでDの転居先を教えてもらいたいこと等が記載されていた。

ス 福島刑務所長は,平成6年2月28日,本件不許可処分7をした。その信書には,コ,シと同様の内容が記載されていた。

セ 福島刑務所は,同年3月7日,仙台保護観察所から,原告の身元引受人として,Bは下宿人として面倒をみるというに過ぎず,引受人適性を欠くとの連絡を受けた。

ソ 原告は,同年4月5日,仙台地裁大河原支部から,本件建物明渡等請求事件の訴状等の特別送達を受けた。

タ 福島刑務所長は,同月12日,原告の同月11日付け仙台地裁大河原支部書記官Cあての信書の特別発信を許可した。その信書には,期日変更申請書の用紙を送付してもらいたいということ等が記載されていた。

チ 福島刑務所長は,同月18日,本件不許可処分8をした。その信書には,ソの訴訟が提起されたこと,賃貸借契約に関してDに対応を託していたのでDの住居を教えてもらいたいということ等が記載されていた。

ツ 福島刑務所長は,同月20日,同月19日付け仙台地裁大河原支部書記官Cあての答弁書の特別発信を,同月22日,同月18日付け同Cあての期日変更申請書及び理由書の特別発信を,同月26日,同月25日付け同Cあての上申書の特別発信を,同年5月12日,同日付け同Cあての上申書等の特別発信を,同月30日,同日付け期日変更申請書及び理由書の特別発信をそれぞれ許可した。

テ 福島刑務所長は,同年6月2日,本件不許可処分9をした。その信書には,Bに身元引受人になってほしいということのほか,チと同様の内容が記載されていた。

ト 福島刑務所長は,同月7日,原告の同月6日付け仙台地裁大河原支部書記官Cあての上申書の特別発信を許可した。

ナ 福島刑務所長は,同年7月19日,本件不許可処分10をした。その信書には,テと同様の内容が記載されていた。

ニ 福島刑務所長は,同月27日,原告の同月25日付け仙台地裁大河原支部書記官Cあての上申書の特別発信を許可した。

ヌ 原告は,同年9月10日,仙台地裁大河原支部から,本件建物明渡等請求事件につき,判決の特別送達を受けた。判決の内容は全面敗訴であった。

ネ 福島刑務所長は,同月19日,本件不許可処分11をした。その信書には,ヌの敗訴判決を受けて,Dとその対応についての検討及び証拠の提出等について話し合いたいのでDの住所を教えてほしいということ等が記載されていた。

ノ 福島刑務所長は,同月20日,本件不許可処分12をした。その信書には,控訴審申請手続等に関して指示を賜りたいといった内容が記載されていた。なお,福島刑務所職員は,特別発信の不許可の告知の際,原告に対し,裁判所書記官個人あての照会文書と認められるため許可しないこと,裁判所あてに発信するのであれば別途許否を検討し,許可される可能性もあること,本件信書の内容については,個人的に参考図書を参照して勉強するか,弁護士等に依頼すべきものと認められること等を告げた。

ハ 福島刑務所長は,同月21日,原告の同日付け仙台地裁大河原支部Cあての控訴状並びに控訴費用及び手続費用の救助申請書の特別発信を許可した。

ヒ 福島刑務所長は,同年10月18日,原告の同月17日付けの仙台地裁大河原支部あての訴訟記録交付申請書の特別発信を許可した。

フ 福島刑務所長は,同年12月12日,原告の同日付け仙台高等裁判所第一民事部あての即時抗告申請書,同月26日,原告の同日付け同裁判所第一民事部あての即時抗告申請書及び控訴状の特別発信を許可した。

ヘ 福島刑務所長は,平成7年2月2日,本件不許可処分13をした。その信書には,裁判の支払金の関係で,Dと連絡を取る必要があるので,Dの移転先住所を教えてほしいという内容が記載されていた。

ホ 原告は,同年2月3日,福島刑務所職員に対し,特別発信に関する決裁の詳細につき,教示を求めた。

マ 福島刑務所職員は,同月9日,原告に対し,ヘの信書の特別発信が不許可とされた理由について,Dの転居先を知る緊急性及び必要性が認められないこと等を告げた。

ミ 原告は,平成9年9月9日,Eと面会した。

ム 福島刑務所長は,平成10年5月14日,原告のE,G及びIあての特別発信を,同月28日,Gあての特別発信を,同年7月16日,Gあての特別発信を,同月24日,Eあての特別発信をそれぞれ許可した。

メ 原告は,同月27日,Eと面会した。

モ 原告は,平成11年2月1日,福島刑務所を出所した。

ヤ 原告の福島刑務所入所中の所持金は,2,3万円程度であり,弁護士に依頼することは困難な状況であった。

ユ 原告は,本件各不許可処分1ないし11及び13に係る特別発信許可申請をした際,刑務官と面接し,弟であるEと連絡が取れないこと,Bに発信する以外に方法がないことを再三説明した。

(3)  福島刑務所出所後の経過

ア 原告は,福島刑務所を出所した後,B及びDを捜したがその行方は不明であり,前記2000万円についてはその所在が分からなかった。

イ その後,原告は,弁護士に相談したところ,弁護士会に相談に行くように勧められ,同年8月初旬ころ,同弁護士会に赴いたところ,同会から人権救済の申立てを勧められ,同月11日,その申立てをすると共に,同月19日,同会に法律扶助の申請をした。

ウ 原告は,平成13年9月10日ころ,福島地方裁判所に福島刑務所に対する証拠保全を申し立てた。福島地方裁判所の裁判官は,同月17日,証拠保全決定をした。

エ 弁護士会人権擁護委員会は,同年10月4日ころ,法務大臣,法務省矯正局及び福島刑務所に対し,受刑者の非親族に対する信書の特別発信につき,本件各不許可処分は人権侵害に該当するので,以後刑務所施設の保安秩序維持等の具体的な支障がないにもかかわらず,「名宛人が非親族である」あるいは「発信する緊急の必要性を認めない」などの形式的理由で,受刑者からの非親族に対する信書の特別発信許可申請を不許可処分とすることのないように等の勧告を行った。

オ 原告代理人らは,平成14年1月28日,国に対して,金200万円の慰謝料の支払を催告した。

カ 原告は,同年7月26日,本件訴えを提起した。

2  争点(1)(本件各不許可処分の適法性の有無)について

(1)  監獄法上,受刑者は,非親族に対する信書の発受を原則として禁止され,刑務所長が「特ニ必要アリト認ムル場合」のみ例外的にその発信が認められている(同法46条2項)。これは,非親族との信書発受が受刑者の教化改善に悪影響を与えることを考慮してこれを一般的に禁止した上で,そのおそれがなくかえって受刑者の教化改善に資する場合や非親族であっても権利を保全し又は実現するために必要な信書の発信を行う場合で受刑者の教化改善に支障を及ぼさないときに刑務所長が例外的にこれを認める扱いとしたものである。

そして,非親族に対する信書の発信の許否は,当該信書の相手方,その趣旨目的及び内容,当該受刑者の過去における信書の発受信の状況,その性向・行状,刑務所内の管理,保安状況その他具体的事情を総合考慮して判断されるべきところ,この判断は行刑上の専門的,技術的知識に基づく刑務所長の合理的裁量にゆだねられていると解されるけれども,信書の発信の自由が基本的な人権であることにかんがみれば,受刑者の教化改善に支障がなく,受刑者の権利を保全し又は実現するために必要であるなどの事情が認められる限り,信書の発信を許可すべきであり,これを不許可にすることは裁量権の範囲を逸脱したものとして違法になるというべきである。

(2)  そこで,本件の各不許可処分をした福島刑務所長の判断に裁量権の範囲逸脱の違法があったかどうかを検討する。

ア 本件不許可処分1ないし4

(ア) 1(1)ケ,(2)ウないしケによれば,Bが原告からゴルフ場造成工事に関する後事を託された者であったこと,本件不許可処分1ないし4以前の原告とBとの信書の発受信についてみるに,発信が1回,受信が2回許可されていること,しかも,原告がBから最後に受信した信書には,原告あてに入金された2000万円がD名義になっていることが記載されており,原告の財産が隠匿されようとしているともみて取れる内容が記載されていたこと,本件不許可処分1ないし4に係る各信書は,原告が前記Bからの信書に対する返信として,自身の財産権に関する問い合わせ及び依頼のために送信しようとしたものであったことが認められ,これらによれば,前記各信書のBに対する発信は,原告の財産保全のため必要であったと認められ,信書の発信によって原告の教化改善に支障が生じるような事情はうかがわれないから,本件不許可処分1ないし4をした福島刑務所長の判断には裁量権の範囲を逸脱した違法があったといわなければならない。

(イ) 被告は,① 前記各信書に記載されていた内容が抽象的な依頼にすぎないこと,② 原告が本件不許可処分1ないし4以前に,Bの面会を,単なる知人であるとして拒否したこと,③ 仮に原告の財産関係について依頼するのであれば,弁護士やE等の親族に依頼すれば足りたこと,④ 財産関係についてはDあてに発信するなどの方法もあったこと,⑤ 原告がBに財産管理を依頼していたと認めるに足りる事情がなかったことからすれば,本件不許可処分1ないし4について,裁量権の範囲の逸脱はなかったと主張する。

しかしながら,①については,前記各信書の記載から原告が自分に入金された2000万円の名義について問い合わせ等をしていることは明らかであり,これらが原告の財産権保全のために必要なものであったことも明らかである。②については,1(2)イの事実に照らせば,原告が積極的にBを単なる知人であるからと言って面接を拒否したとは認められないから,Bに対する発信を不許可にすべき理由にはならない。仮に被告の主張するとおりであったとしても,その後,原告とBとの間で信書のやりとりがなされている以上,原告が面会を拒否したという事情を重視すべきものではない。③については,原告がEに対し1(1)ウないしオの内容証明郵便転送,建物賃貸借契約についての指示,催促をしてから本件不許可処分1ないし4に係る各信書を発信しようとするまでの間に,Eから連絡があった形跡がなく,原告が刑務官との面接の際に弟であるEと連絡が取れないこと及びBに発信する以外に方法がないことを再三説明したことは1(2)ユのとおりであって,当時,Eが原告の2000万円等について事情を知っていたことをうかがわせる根拠はなく,1(2)ヤのとおり,原告が弁護士に依頼することは所持金からして困難であったことに徴すれば,弁護士やE等の親族に信書を発するという代替手段が可能であったとはいい難い。④については,1(2)オのとおり,Bからの信書にはDが引っ越したと記載されているのであって,原告がDあてに発信することができたとは認められない。⑤については,仮にそうであったとしても,以上の事情の下で,これのみで前記の判断を妨げる事情として十分とはいい難い。

してみれば,被告の主張する点は本件不許可処分1ないし4を正当化する理由になるものではない。

イ 本件不許可処分5ないし7

(ア) 1(2)コ,シ,スによれば,本件不許可処分5に係る信書は,身元引受人をBに依頼するものであったこと,本件不許可処分6及び7に係る各信書は,身元引受人をBに依頼すると共に,Dの転居先住所を問うものであったことが認められる。

身元引受人の依頼は,その相手方が原告の教化改善に支障を来す者であることが明らかであるような特段の事情がない限り,これを許可すべきであるところ,本件においてそのような特段の事情は認められない。

また,Dの転居先住所について知ることは,1(2)クのように,Dに発信するように指導された経緯があること等からして,前記各信書のBに対する発信は,財産権保全上必要なものというべきである。

以上によれば,本件不許可処分5ないし7をした福島刑務所長の判断には裁量権の範囲を逸脱した違法があったというべきである。

(イ) 被告は,本件不許可処分5について,① 身元引受けをBに設定する旨分類課あてに申請し,地方更生保護委員会が環境調整を行った上で引受けの可否を決するから,引受けの可否が決定するまでは身元引受けの信書の発信をさせないこととしたこと,本件不許可処分6及び7について,② 身元引受けの件は,地方更生保護委員会の環境調整中であり,受入れの可否が決定していなかったこと,③ Dの転居先住所の問い合わせについては,Dと同居していた原告の弟であるEあてに信書を発信することで目的を達成し得ることから,本件不許可処分5ないし7について,裁量権の逸脱はないと主張する。

しかしながら,①,②については,分類課あての申請が出ていない段階,地方更生保護委員会の環境調整中の段階のいずれであっても,受刑者が身元引受人になってほしいと希望する者との間で信頼関係を構築する上で有意義なものと考えられるから,身元引受けの可否の決定についてこのような段階にあったからといって直ちにその者に対する信書の発信を禁ずべき理由にはならない。③については,前記のとおり,Eに信書を発するという代替手段が可能であったとはいい難い。

してみれば,被告の主張する点をもって,本件不許可処分5ないし7を正当化することはできない。

ウ 本件不許可処分8ないし11及び13

(ア) 1(2)チ,テ,ナ,ネ,ヘによれば,本件不許可処分8ないし11及び13に係る各信書の内容は,建物賃貸借契約関係及び建物明渡請求等訴訟敗訴後の対応につきDと打合せをするため,同人の転居先住所を問うものであったことが認められるから,前記各信書のBに対する発信は,原告の財産権保全のため必要であったということができる。そして,信書の発信によって原告の教化改善に支障が生じると認められないから,本件不許可処分8ないし11及び13をした福島刑務所長の判断には裁量権の範囲を逸脱した違法があったといわなければならない。

(イ) 被告は,① 仙台保護観察所からBが身元引受人としては不可との回答がされていたこと,② 建物賃貸借契約関係に関するAからの内容証明郵便を受信した際,原告は,これを弟であるEに転送するとともに対応を指示していたこと,同内容証明郵便には,Eが原告の代理人として本件建物でAと会った旨の記載があること等から,同建物明渡訴訟に関する問い合わせは,弁護士や親族である弟のEに発信することで対応できたこと,③ 仮にDの転居先住所を知る必要があったとしても親族であるEに発信することで対応できたことから,本件各不許可処分8ないし11及び13について,裁量権の逸脱はないと主張する。

しかしながら,①については,1(2)セによれば,Bは下宿人として面倒をみるというに過ぎなかったため,引受人適性を欠くとされただけであり,原告がBと接することによって原告の教化改善に悪影響が生じるとは認められないし,②については,前記のとおり,弁護士やEに信書を発するという代替手段が可能であったとはいい難い。③についても,②と同様である。

してみれば,被告の主張は本件不許可処分8ないし11及び13の裁量権逸脱の判断を左右するものではない。

エ 本件不許可処分12

(ア) 1(2)ノによれば,本件不許可処分12に係る信書は,仙台地裁大河原支部裁判所書記官に対し,控訴手続等についての問い合わせをするものであるところ,これは,一審で敗訴した原告が当該訴訟に係る自らの財産権を保全するための手段を講じる上で必要なものであったというべきであるから,本件不許可処分12をした福島刑務所長の判断には裁量権を逸脱又は濫用した違法がある。

(イ) 被告は,① 建物明渡等訴訟の判決は既になされており,係属中の訴訟に関するものではないこと,② 書記官個人へ照会するのは筋違いであるとして,裁判所あてに発送するのであれば別途審査する旨指導した上で,当該特別発信を不許可にしたものであること,③ 控訴等の手続については,照会をするのであれば,弁護士あてに発信するという代替手段もあったことから,裁量権の逸脱はないと主張する。

しかしながら,①については,判決がなされても,確定されるまでは訴訟係属が消滅するわけはなく,控訴されるまでは第1審裁判所に訴訟係属しているのであるし,現に本件においては第一審の判決があったことにより,原告が控訴手続等について問い合わせをする必要が生じたものであるから,特別発信を不許可にする理由にはなり得ない。②については,裁判所あてに発送するのであれば別途審査する旨指導したとしても,その記載から容易に係属中の裁判につき担当の裁判所書記官あてに訴訟手続を問い合わせる信書であることが読みとれるのに,形式的に宛先に裁判所名を加えなければ不許可にすべき理由がないし,裁判所書記官に対してこのような訴訟手続の問い合わせをすることで原告の教化改善に悪影響が生ずるような事情は認められない。③については,1(2)ヤのとおり,金銭的な問題から弁護士に依頼することが困難であったこと,控訴期間が限られていることからすれば代替手段はなかったというべきである。そもそも,①のような初歩的に誤った判断や②のような非常識な形式的判断さらには③のような事実上不可能な理由に基づいて,受刑者の裁判所書記官あての発信を不許可にするのは,裁量権の逸脱又は濫用以外の何者でもなく,許されることではない。

3  争点(2)(消滅時効の成否)

(1)  起算点について

ア 民法724条にいう「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とは,被害者においいて,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれを知った時を意味すると解するのが相当であり,同条にいう被害者が損害を知った時とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解すべきである。

イ これを本件についてみると,原告は,本件各不許可処分の告知を受けた時点で,加害者が福島刑務所長であることを知るとともに,精神的苦痛を被ったのであるから,この時点が「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」というべきである。

してみれば,本件各不許可処分の告知を受けた時点から損害賠償債権の消滅時効期間が進行することになる。

ウ 原告は,① Bあての私信はことごとく「緊急性がない。」として発信不許可とされ,平成11年2月1日に出所するまで,弁護士に依頼することもできず,自らの財産保全の手立てはなかったこと,② 原告は,福島刑務所出所後に前記2000万円の不存在を知って,弁護士や弁護士会に相談に行き,同年8月ころ,初めて国家賠償法上の請求権が発生すること認識したこと,③ 受刑者は,国又は施設長を相手方に提訴した場合,いわゆる厳正(昼夜)独居措置が課されたり,仮釈放も許可されないという不利益を被るので,受刑中に権利を行使することが事実上不可能であること,④ 受刑者は刑務所を出所した後,弁護士などの専門家に相談して,初めて「損害及ヒ加害者」を知ることになるのが通常であることから,本件の消滅時効の起算点は,平成11年8月ころか,遡っても原告の刑務所を出所した時点と主張する。

しかしながら,①,②については,原告主張の損害は,本件各不許可処分によって被った精神的損害であり,これは,本件各不許可処分を受けた時点でその発生を認識しうべき性質のものである(仮に,出所後原告のいう2000万円の所在が不明であるとしても,これと本件各不許可処分との因果関係は明らかでない。発信不許可処分によって,これが所在不明になるおそれがあったことが精神的苦痛の内容をなすとすれば,それは,やはり処分を受けた時点ですでに感じる苦痛であって,損害認識時点が前示のとおりであることに変わりはない。)。③については,受刑者が行刑施設の処置又は職員の行為に関して訴訟等を提起したことをもって,当該受刑者が制裁を加えられたり,不利益な取扱いを受けるとも認め難い。④については,原告の独自の見解にすぎないというべきである。

してみれば,原告の主張は採用し難い。

(2)  本件各不許可処分から3年が経過したことは明らかであり,被告が平成15年1月17日の本件弁論準備手続期日において,消滅時効を援用する旨の意思表示をしたことは当裁判所に顕著な事実である。

4  以上の次第であるから,原告の請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がないので棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 信濃孝一 裁判官 岡田伸太 裁判官 佐藤久貴)

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