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仙台地方裁判所 平成13年(行ウ)6号 判決

原告 仙台市民オンブズマン

被告 仙台地方検察庁検事正

代理人 町田鉄男 福永敏和 翠川洋 大内一 後藤勇光 ほか2名

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告が原告に対し平成13年5月2日付けでした別紙文書目録記載1の文書の支払明細欄及び同目録記載2の文書を開示しないとの処分を取り消す。

第2事案の概要

本件は、原告が、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)に基づき、被告に対し、仙台地方検察庁(以下「仙台地検」という。なお、最高検察庁を「最高検」、高等検察庁を「高検」、地方検察庁を「地検」、区検察庁を「区検」とそれぞれ略称する。)の平成10年度分の調査活動費(以下「本件調査活動費」という。)の支出に関する一切の資料の開示請求をしたところ、被告が別紙文書目録記載1の文書(以下「本件支払明細書」という。)の支払明細欄及び同目録記載2の文書(以下「本件領収書」という。)について不開示の処分をしたことから、同処分が違法であるとして、原告が、その取消しを求める事案である。

1  争いのない事実等(証拠等を掲げたもののほかは、当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

ア 原告は、行政の不正を監視、是正すること等を目的として設立された権利能力なき社団である(〈証拠略〉)。

イ 被告は、国の行政機関である仙台地検の長である。

(2)  開示請求

原告は、平成13年4月2日、被告に対し、情報公開法に基づき、本件調査活動費の支出に関する一切の資料の開示請求をした。

(3)  開示請求に対する決定

被告は、同年5月2日、原告に対し、(2)の開示請求に対して、次の決定をした。

ア 本件調査活動費に関する請求書、支出負担行為即支出決定決議書、資金前渡官吏に対する支払請求書兼資金前渡官吏の支払議決書及び取扱責任者の領収書の全部、本件支払明細書の明細欄を除く部分について開示するとの決定

イ 本件支払明細書の明細欄及び本件領収書(以下、両者を併せて「本件文書」という。)については、いずれも情報公開法5条1号、4号(以下、同条各号は号数のみで表す。)に該当することを理由に開示しないとの決定(以下「本件処分」という。)

(4)  本件文書の記載内容(〈証拠略〉)

ア 本件支払明細書は、本件調査活動費の取扱責任者である被告が、本件調査活動費の個々の支払の明細を明らかにするため、月ごとに作成する行政文書である。

その明細欄には、個々の支払ごとに支払年月日、支払金額、使用目的、取扱者名を記載する欄及び備考欄が設けられている。

イ 本件領収書は、仙台地検が、本件調査活動費の個々の支払を証明するためその受領者から徴求する行政文書であり、本件支払明細書の明細欄に記載された個々の支払にそれぞれ対応している。

本件領収書には、受領年月日、受領金額、受領者の氏名(印影を含む。)の記載がある。

(5)  本件処分における被告の4号該当性の判断

ア 本件支払明細書の明細欄について

被告は、本件支払明細書の明細欄に記載されている本件調査活動費の個々の支払についての情報を公にすると、調査対象者又は一般人が入手できる情報と照合、分析されることにより、仙台地検の調査活動の内容、対象、目的及びその協力者が推認され、調査活動に対する妨害、罪証隠滅工作等が行われたり、協力者に危害が加えられたりして、今後の調査活動が阻害され、ひいては検察権の適切な行使が妨げられるおそれがあると認め、本件支払明細書の明細欄は4号所定の不開示情報に当たると判断した。

イ 本件領収書について

被告は、本件領収書に記録されている本件調査活動費の受領に関する情報を公にすると、調査対象者又は一般人が入手できる情報と照合、分析されることにより、仙台地検の調査活動の内容、対象、目的及びその協力者が推認され、調査活動に対する妨害、罪証隠滅工作等が行われたり、協力者への危害が加えられたりして、今後の調査活動が阻害され、ひいては検察権の適切な行使が妨げられるおそれがあると認め、本件領収書は4号所定の不開示情報に当たると判断した。

2  争点

(1)  4号該当性を争う訴訟における審理、判断の方法と主張立証責任

(2)  本件文書の4号該当性

(3)  本件文書の1号該当性

(4)  部分開示の要否

3  争点に関する当事者の主張

(1)  争点(1)(4号該当性を争う訴訟における審理、判断の方法と主張立証責任)について

ア 被告の主張

(ア) 4号の「行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」という定め方によれば、4号該当性の判断については、行政機関の長に広範な裁量権が付与されており、行政事件訴訟法30条が適用される。

したがって、これに対する司法審査は、処分の存在を前提として、当該処分に社会通念上著しく妥当性を欠くなど裁量権を逸脱、濫用したと認められる点があるかどうかを審査する方法による。裁判所が行政庁と同一の立場から当該処分に係る判断をし、その結果と行政庁の処分とを比較して処分の適否を審査することは許されない。

(イ) 裁量権の逸脱、濫用を基礎付ける具体的事実の主張立証責任は、4号該当性を争う原告にある。

(ウ) 4号該当性の有無は、行政文書に記録された情報を対象として、当該情報に係る事務等の性格、性質を踏まえ、経験則に基づいて、一般的、類型的な観点から決せられる。

当該文書に記録された犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行等の事務の具体的な執行に何らかの違法又は不当な点があったか否かという個別的事情は、当該事務が一般的、類型的に保有する特質を左右するものではなく、その判断に影響を及ぼさない。

したがって、原告の主張する本件調査活動費の不正流用及びこれを隠ぺいする目的(他事考慮)は、本件処分の違法事由とはなり得ない。

被告は、本件調査活動費の具体的な使途を明らかにできないことを理由に、その具体的な支出状況を不開示としたのであるから、そのような不開示決定の適法性を審理の対象とする訴訟において、調査活動費が本来の目的どおりに使われていたかどうかが争点となり、被告がその具体的な使途を主張、立証しなければならないとすれば、論理矛盾である。

イ 原告の主張

(ア) 4号は、開示の例外事由として「相当の理由」の存在を要求しているから、裁量権の逸脱、濫用がある場合にのみ4号該当性が否定されるとする被告の主張は、同号の文言を無視し、「原則公開、例外非公開」という情報公開の理念に反するもので失当である。

(イ) 「相当の理由」についての主張立証責任は、次の理由により、他の例外事由と同様に行政機関の側にあるというべきである。

a 不開示処分により当該文書の内容を知り得ない開示請求者が「相当の理由」が存在しないことを立証することは極めて困難である一方で、同処分を行った行政機関の長が「相当の理由」が存在することを立証することは、それほど困難なことではない。

b 情報公開法1条にうたわれる「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務」の観点からも、行政機関の長に不開示の判断の合理性を立証をさせることが当然に要請される。

c 裁判所が4号該当性に関する行政機関の長の第一次的な判断を尊重することと、行政機関の長に例外事由についての主張立証責任を負わせることは何ら矛盾しない。

(ウ) 仮に、裁量権の逸脱、濫用を基礎付ける具体的事実の主張立証責任が4号該当性を争う原告の側にあるとしても、本件調査活動費が本来の使用目的である調査活動のために使用されなかったとすれば、本件文書に記録された情報は実際に行われた調査活動に関するものではなく、すべて虚偽の情報であるから、本件文書を開示しても被告が主張するような支障が生じるおそれはない。したがって、本件調査活動費の不正流用及びこれを隠ぺいする目的(他事考慮)の有無は、裁量権の逸脱、濫用を基礎付ける事実として4号該当性の審理の対象になる。

(2)  争点(2)(本件文書の4号該当性)について

ア 原告の主張

(ア) 事実誤認

本件調査活動費の支出は、その全額が検察庁幹部の私的遊興等に当てられた違法な目的外支出である。検察庁の調査活動費の予算上の動向や使用状況等に関して、次のとおり不自然な点があり、これによれば、検察庁は、平成10年度まで調査活動費を不正流用しており、その後、平成11年度から急にこれを止めたことが推認される。

a 仙台地検を含む全国の検察庁の調査活動費は、平成8年度から平成10年度までは増加傾向にあり、年度ごとに金額の大きな変動はなかったのが、平成11年度以降は著しく減少している。

b 平成8年度から平成10年度までの調査活動費の支出は、端数の出ない、かつ、翌月に繰越しのない全額使い切りの形態であったのに対し、平成11年度以降は、突然、簡易な証明方法による支払(以下「特例払」という。)においても端数が出るようになり、しかも、翌月に相当額が繰り越される形態に変わった。

c 平成11年2月ころ、法務省は、調査活動費に関するマニュアル(〈証拠略〉。以下「本件マニュアル」という。)を作成し、各検察庁に対し、調査活動費の意義、性質、具体的使途、執行例及び執行に関する留意点等を指示、説明した。

d 同年3月以降、突然、全国の検察庁で情報交換会が開かれ、調査活動費から特例払以外の支出(弁当代)が出るようになったが、平成14年度には再びその支出はなくなった。

e 調査活動により収集した情報の蓄積、引継ぎがなく、実際に調査活動が行われた形跡がない。

したがって、本件文書に記録された情報は、実際に行われた調査活動に関する情報ではなくすべて虚偽の情報であるから、これを開示しても被告が主張するような支障が生じるおそれはなく、違法な目的外支出がないことを前提とする点において4号該当性に関する被告の判断には重大な事実誤認がある。

(イ) 実質秘性の3要件の欠如

a 4号該当性についての被告の判断に「相当の理由」があると認めるためには、守秘義務に関する実質秘性の次の3要件を充足する必要がある。

〈1〉 非公開とすべき情報が未だ公知の事実でないこと

〈2〉 非公開とすべき必要性があること

〈3〉 行政文書に記載されている行為が適法であること

b 本件支払明細書について

(a) 本件支払明細書の明細欄に記載された本件調査活動費の支出は、その全額が検察庁幹部の私的遊興等に充てられた違法な目的外支出であり、少なくとも、そのように支出されたものではないかとの合理的な疑いを差し挟む余地が十分にあるから、上記〈3〉の要件を欠く。

(b) 支払年月日、支払金額、使用目的、取扱者等の本件支払明細書の記載事項それ自体から、検察庁の調査活動の内容、対象、目的及びその協力者が推認されることはないから、上記〈2〉の要件を欠く。

(c) 使用目的は「日共集会」「右翼街宣」といった極めて抽象的かつ概括的な記載に過ぎず、検察庁が日本共産党、右翼団体、過激派集団等を調査対象としていることは公知の事実であるから、上記〈1〉の要件を欠く。

c 本件領収書について

(a) 本件領収書に記載された本件調査活動費の支出は、その全額が検察庁幹部の私的遊興等に当てられた違法な目的外支出であり、少なくとも、そのように支出されたものではないかとの合理的な疑いを差し挟む余地が十分にあるから、上記〈3〉の要件を欠く。

(b) 受領年月日や受領金額を開示しても、検察庁の調査活動の内容、対象、目的及びその協力者が推認されることはないから、上記〈2〉の要件を欠く。

d したがって、本件文書については、いずれも4号該当性を認める余地はない。

(ウ) 本件処分は、本件調査活動費の違法不当な目的外支出の事実を隠ぺいする目的でなされたものであり、被告は、不開示事由該当性の判断に当たって考慮することができない事情を考慮(他事考慮)したものである。

したがって、本件処分は、裁量権を逸脱又は濫用した違法なものとして、取り消されるべきである。

イ 被告の主張

(ア) 事実誤認について

本件調査活動費が検察庁幹部の私的遊興等に当てられた事実は一切ない。検察庁の調査活動費の予算上の動向や使用状況等に関する被告の主張は、次のとおりであって、何ら不自然な点は存しない。

a 平成11年度以降、調査活動費が減少したのは、次の理由による。

(a) 国内外の情勢の変化に対応して、公安関係情報の重要性が相対的に低下する一方で、特捜経済事件(検察庁が独自に捜査を行う汚職事件や大型の経済事件)関係の情報収集の重要性が高まった。

(b) 特捜経済事件関係については、外部協力者からの情報収集よりも、コンピユーターネットワークを活用した情報収集の方が合理的、効率的であることから、平成11年度予算から調査活動費を合理化して、コンピユーター整備に予算の重点を移した。

b 平成10年度までの調査活動費について、端数もなく、繰越金もなく使い切っているのは、協力者への謝礼の性質上1万円単位となるのが通常で、予算の制限内で計画的、効率的に使用したためである。他方で、平成11年度以降、端数や繰越金が発生するようになったのは、特捜経済事件に関する内偵捜査等の実費にも、その密行性を確保するため、特例払が認められている調査活動費を使うようになったことにより、その性質上端数が生じるとともに、高度の機動性や支出の予測困難性等から、取扱責任者の手元に現金を常時保管しておく必要が生じたためである。

c 本件マニュアルは、作成者及び出所が不明ないわゆる怪文書であって、全く信用性のないものである。

d 平成11年度以降、全国の検察庁で関係機関との情報交換会が開催され、調査活動費から弁当代が支出されるようになったのは、来日外国人による組織的犯罪の急増等の近年の犯罪情勢に的確に対応するために、情報収集の方法の多様化を図り、その一環として関係諸機関との情報交換を活発化させることにし、その経費を情報収集を目的とした調査活動費から支出することが多くなったからである。

e 調査活動によって収集された情報は、各検察庁において、報告書や資料の形で整理、保管されたものもあれば、そうでないものもあるが、特段不自然なことではない。

したがって、本件文書には実際に行われた調査活動に関する報酬の支払についての情報が記録されており、これを公にした場合、検察庁の調査活動又は捜査に支障を及ぼすことは明らかであるから、被告の判断に事実誤認はない。

(イ) 実質秘性の3要件の欠如について

「相当の理由」の有無についての判断に実質秘性の3要件が必要であるとする原告の主張は、何ら根拠がなく、主張自体失当である。

(ウ) 以上によれば、本件文書に4号該当性を認めた被告の判断に裁量の逸脱、濫用はない。

「不当な目的」や「他事考慮」は、そもそも本件処分の違法事由とはなり得ない。

仮に、違法事由となり得るとしても、本件調査活動費が検察庁幹部の私的遊興等に当てられたことはないから、原告の主張はその前提を欠くものであり、失当である。

(3)  争点(3)(本件文書の1号該当性)について

ア 被告の主張

(ア) 本件支払明細書について

本件支払明細書の明細欄は、次のとおり、全体として1号所定の不開示情報に該当する。

a 本件支払明細書の明細欄の記載は、それのみで協力者を特定、識別することができる記述等とはいえなくても、これが調査対象者らに伝わった場合、彼らが有する情報と照合され、協力者が特定される可能性があるから(モザイクアプローチ)、本件支払明細書の明細欄に記載された個々の支払に関する情報は、1号本文前段の不開示情報(以下「個人識別情報」という。)に該当する。

b 調査対象者において、厳密には協力者個人を特定できなくても、当該調査対象者ら何らかの関係のある一定の集団の中に協力者がいることが特定されると、当該集団に属する個々人に不利益を及ぼすおそれがあり、このような場合は1号本文後段の不開示情報に該当する。

c 本件支払明細書の明細欄を開示することにより、協力者のみならず、当該調査活動に携わった検察庁の職員が特定される可能性があるから、本件支払明細書の明細欄に記載された個々の支払に関する情報は、当該調査活動に携わった検察庁の職員の個人識別情報に該当する。

d 協力者は、自己の検察庁への協力に関する事実が公表されることは絶対にないと信頼して協力しており、その期待権は十分保護に値する。

支払明細書の明細欄を公にすることは、このような協力者の権利利益を害するおそれがあるから、本件支払明細書の明細欄は1号本文後段の不開示情報に該当する。

(イ) 本件領収書について

本件領収書に記された受領者の氏名及び印影が個人識別情報に該当することは明らかであり、受領年月日、受領金額だけでも協力者や調査活動に従事した検察庁の職員が特定される可能性があることは、(ア)と同様である。

したがって、本件領収書は、全体として、1号所定の不開示情報に該当する。

イ 原告の主張

(ア) 本件文書に記載された本件調査活動費の支出は、いずれも違法な目的外支出であり、各記載内容はすべて虚偽であるから、1号を適用する余地はない。

(イ) 仮に、そうでないとしても、本件文書は、次のとおり、本件領収書の氏名及び印影を除き1号所定の不開示情報には該当しない。

a 本件支払明細書について

本件支払明細書の明細欄の支払年月日、支払金額、使用目的、取扱者及び備考の各記載から協力者が特定されるとは考えられない。

取扱者欄には、官職名(次席検事又は事務局長)と氏名が記載されるが、官職名は1号ハに該当するから、不開示とすることは許されない。

氏名についても、官職名が次席検事又は事務局長に限定されており、当時の次席検事及び事務局長の氏名は職員録や新聞報道の人事異動記事で公表されているから、同号イに該当し、不開示とすることは許されない。

b 本件領収書について

本件領収書の受領年月日、受領金額の記載から協力者が特定されるとは考えられない。

(4)  争点(4)(部分開示の要否)について

ア 被告の主張

(ア) 情報公開法6条1項の適用について

a 同条項は、行政文書に複数の情報が記録されており、その一部の情報のみが不開示情報に該当する場合に、それ以外の情報を開示する義務を定めたものである。

b 情報とは、個々の構成要素(語、文字、記号等)が、ある事象、事柄の伝達のために、人為によって統合され、構成され、一体的で、他と独立した知らせとなっていると社会通念上いえるものをいう。

c 本件支払明細書の明細欄は、個々の支払ごとに、支払年月日、支払金額、使用目的、取扱責任者等が一体となって1個の情報を構成し、これが不開示情報に該当しており、かつ、これ以外の情報は記載されていない。

d 本件領収書は、いずれも個々の支払に応じ、受領年月日、受領金額、受領者氏名、受領者印影等が一体となって1個の情報を構成し、これが不開示情報に該当しており、かつ、これ以外の情報は記載されていない。

e 以上のとおり、本件文書は、いずれも、1回の調査活動費の支出にかかわるものごとに全体として一体的な1個の情報ととらえるべきであるから、同条項を適用する余地はない。

(イ) 情報公開法6条2項の適用について

a 同条項は、個人識別情報に関する規定であって、その他の不開示情報に関する規定ではない。

b 本件文書に記録されている情報は、4号所定の不開示情報でもあるから、同法6条2項を適用して、本件文書に記録されている情報を細分化し、情報の一部分を開示することはできない。

c 仮に、1号所定の不開示情報という側面のみを考察しても、本件文書に記録されている情報は、個々の支払に関する情報のうち、支払年月日、支払金額等のすべての記述等が個人識別情報又は1号本文後段の不開示情報に該当するから、同法6条2項を適用する余地はない。

イ 原告の主張

(ア) 情報公開法6条1項の適用について

a 同条項は、原則公開を定める情報公開法においては、不開示はあくまで例外であって必要最小限の範囲に限定する必要があるから、開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合には、同文書を開示部分と不開示部分とに分離することを前提に、この場合における行政機関の長の部分開示の義務の内容及びその要件を明らかにするものである。

b 個人識別情報は、不開示情報の単位としては個人識別部分とその余の部分は一体のものであるのに対し、個人識別情報以外の不開示情報については、各号に定められた「おそれ」があると認められるひとまとまりをもって不開示情報の単位が画される。

c 本件支払明細書の明細欄に記録された情報は、本件調査活動費の支出が行われた年月日、金額、目的及び取扱者等というように重層的にとらえることができ、本件領収書についても、受領年月日、受領金額、受領者の氏名(印影を含む。)等というように重層的にとらえることができる。

このように重層的にとらえることができる場合には、開示することが適当でないと認められるひとまとまりをもって、不開示情報の単位を画すべきであり、その余の部分については、同条項により部分開示されるべきである。

(イ) 情報公開法6条2項の適用について

a 同条項は、個人識別情報について、個人を識別させる部分とその余の部分の全体が1つの不開示情報を構成することを前提に、その全体を不開示情報として扱うと不開示とすべき範囲が広範になってしまうことから、1単位の不開示情報から個人識別部分を除くという形で単位を細分化して部分開示を認めるものである。

b 本件文書は、本件領収書の氏名及び印影以外の記載部分は個人識別情報に該当しないから、同条項により、部分開示されるべきである。

第3争点に対する判断

1  争点(1)(4号該当性を争う訴訟における審理、判断の方法と主張立証責任)について

(1)  行政文書の不開示処分の取消訴訟において、開示請求に対する不開示決定が適法であることを主張する被告は、当該文書に1号ないし6号の定める不開示情報が記録されていることを主張しなければならない。

(2)  しかしながら、4号は、「公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報として定めている。その趣旨は、公共の安全と秩序を維持することは、国民全体の基本的な利益を擁護するため政府に課された重要な責務であり、情報公開法制においても、これらの利益を十分に保護する必要性があるからであると解される。

そして、同号が特に「・・・おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」という定め方をしたのは、公共の安全と秩序の維持に関する情報の開示、不開示の判断については、その性質上、犯罪等に関する将来予測としての専門的、技術的な判断を要するなどの特殊性があることから、このような情報に該当するか否かについては行政機関の長の第一次的な判断を尊重することにし、行政機関の長に裁量権を与えたものと解される。

以上の点を踏まえると、4号に該当することを理由とする不開示処分については、まず、行政機関の長において、同号所定のおそれがあるとの判断をし得る情報であることを主張立証する必要がある。そして、これが立証された場合には、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により同判断が全く事実の基礎を欠くか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くことが明らかであるときに限り、裁量権の逸脱又は濫用があったものとして違法であるとすることができるものというべきである。そして、裁量権の逸脱又は濫用を基礎付ける具体的事実の主張立証責任は、同号該当性を争う原告が負うものと解するのが相当である。

(3)  調査活動費の不正支出と裁量権の逸脱又は濫用について

ア 被告は、4号該当性の有無は、行政文書に記録された情報を対象として、当該情報に係る事務等の性格、性質を踏まえ、経験則に基づいて、一般的、類型的な観点から決せられるべきものであり、当該文書に記録された犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行等の事務の具体的な執行に何らかの違法又は不当な点があったか否かという個別的事情は、当該事務が一般的、類型的に保有する特質を左右するものではなく、その判断に影響を及ぼさないから、本件調査活動費が全額裏金に回って不正支出されており、本件処分は不正支出を隠ぺいする目的でされたものであるとの原告の主張は、本件処分の違法事由とはなり得ないと主張する。

しかしながら、仮に、本件調査活動費が本来の目的と異なる目的で使用されていたのであるとすれば、本件文書は、本来そこに記録されていて然るべき、公開されることにより公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある情報が記録されていないことになるのであって、かかる情報が記載されていることを前提とする被告の判断は、その前提となる事実の基礎を欠くことになるのである。したがって、本件文書の具体的記載内容は、被告の裁量権の逸脱又は濫用の有無を判断するに当たって重要な前提事実であり、本件調査活動費が不正支出されており、本件処分は不正支出を隠ぺいする目的でされたものである場合には、4号の不開示事由があるとはいえず、これに該当するとすることは裁量権の逸脱又は濫用に当たり、本件処分は違法になるというべきである。

しかして、4号該当性の有無が問題になる行政文書が複数ある場合に、一部の文書が不正支出に係るものであるときは、その文書に限って不開示事由があるに止まることになるから、これを特定する必要があり、これが特定されないときは、全部の文書が不正支出に係るものであることが認められたときにはじめて被告の裁量権の逸脱又は濫用が認められることになる。

イ 被告は、本件調査活動費の具体的な使途を明らかにできないことを理由に、その具体的な支出状況を不開示としたのであるから、そのような不開示決定の適法性を審理の対象とする訴訟において、調査活動費が本来の目的どおりに使われていたかどうかが争点となり、被告がその具体的な使途を主張、立証しなければならないとすれば論理矛盾であると主張する。

しかしながら、本件において審理の対象となるのは、本件文書に記録された情報が、実際に調査活動に使われた金員の支払に関する情報、すなわち、公共の安全と秩序の維持に関する情報か否かの点にすぎず、しかも、裁量権の逸脱又は濫用を基礎付ける具体的事実の主張立証責任は前示のとおり原告が負うのであって、被告としては本件調査活動費の個々具体的な使途を明らかにしない方法により反証することが不可能とはいえないから、被告の主張は採用できない。

2  争点(2)(本件文書の4号該当性)について

(1)  調査活動費、その予算上の動向、使用状況等について

ア 前示第2の1の事実に、〈証拠略〉を総合すれば、次の事実が認められる。

(ア) 検察庁における調査活動費の意義

検察庁における調査活動費とは、刑事について、公訴を維持し、裁判所に法の正当な適用を請求し、かつ、裁判の執行を監督する権限を中心とする検察権全般を適切に行使するため、事件の調査、情報の収集等の調査活動に要する経費として認められた予算科目である。

その典型的な使用方法は、部外の情報提供者、調査協力者に対して謝金又は実費弁償金等として交付するものである。

(イ) 調査活動費の支出の証明方法

調査活動費の支出に関する証明については、その支出のうち特に秘密にする必要があるものについては、調査受託者等の請求書、領収証書等の証拠書類を会計検査院から要求があった際に提出できるよう取扱責任者が保管する「簡易な証明方法」によることが承認されている(これが特例払である。)。

(ウ) 調査活動費の予算上の動向

a 平成8年度から平成14年度までの各年度ごとの仙台地検における特例払の調査活動費(特例払による支出額合計)は、平成8年度は645万円、平成9年度は730万円、平成10年度は840万円と増加していたが、それ以降は減少を続け、平成14年度の支出額合計は97万3220円にまで減少した。

b 調査活動費の減少は、全国的な傾向であり、平成10年度から平成13年度までの各年度ごとの全国の検察庁(最高検、8高検、50地検)における特例払の調査活動費は、平成10年度の支出額合計が約5億5200万円であったものが、平成13年度の支出額合計は約1億4900万円にまで減少した。

(エ) 調査活動費の使用状況

a 仙台地検における調査活動費の使用状況は、平成8年度から平成10年度までは、毎月の受入額と支払額がすべて10万円又は5万円単位の端数の出ない金額で一致しており、毎月使い切られている状況であった。平成11年度以降は、月ごとに端数や繰越金が発生するようになったが、年度末には全額使い切られている。平成10年度の各月別の調査活動費の支出状況は、4月が50万円、5月から8月までがいずれも60万円、9月及び10月がいずれも70万円、11月及び12月が90万円、1月が70万円、2月が90万円、3月が70万円となっている。

特例払以外の弁当代の支出は、平成11年度から発生し、平成13年度まで続いたが、平成14年度にはゼロになっている。

b このような調査活動費の使用状況は、平成10年度を例にとってみても、全国的な傾向であり、毎月の使い切りの状況、月ごとの端数や繰越金の発生及び弁当代の支出は、一部の例外はあるものの、全体的には、平成11年度から目立つようになった。

c 平成10年度以前に調査活動費の使途や使用状況が変わったことや、調査活動費の現実の使途が、全国の検察庁で庁により異なっていたことを示す証拠はない。

(オ) 国内における犯罪情勢の推移

a 検察庁においては、公安関係事件の受理人員が昭和44年の約1万6000人をピークに減少を続け、平成10年ころには300人をも下回るようになり、公安関係の情報収集の重要性が相対的に低下しつつあった。

b 他方、事前規制型から事後規制型への行政の転換を基本とする規制緩和の流れの中で、各検察庁において、汚職事件や経済事犯等の特捜経済事件に関する情報収集の重要性が高まった。

(カ) 検察庁の情報管理政策の転換と予算の重点化

a 検察庁は、平成8年ころから、特捜経済事件の処理を専門とする特別捜査部を増設したり、地検の公安部を公安関係事件に加えて特捜経済事件を担当する特別刑事部に組織改編するなどして、これらの事犯に対する体制を強化した。

b 特捜経済事件については、公安関係事件と異なり、これまでの外部の協力者に頼る調査活動よりも、インターネット等のコンピユーターネットワークを活用した情報収集の方が合理的かつ効率的であり、また、収集した情報の分析が重要となることから、法務省は、平成8年度以降、コンピユーター関連機器の整備とコンピユーターネットワークの構築を進めた。

c コンピユーターネットワーク等の新規整備には、多額の予算が必要となるが、平成11年度の予算編成方針として、「限られた財源の中で経費の一層の合理化・効率化・重点化を図る」旨の閣議決定があり、効率性、優先度の劣る予算を合理化し、より効率的で優先度が高い分野にシフトさせる「スクラップ・アンド・ビルド」の方針が採られたことから、法務省は、平成11年度予算から、検察庁の調査活動費を合理化し、コンピユーターネットワーク等の新規整備に予算の重点化を図った。

d 調査活動費の予算額は(ウ)のとおり減額される一方、コンピユーター関連経費の予算額(既存システム維持管理経費と新規整備の合計額)は、平成10年度の約9億5000万円から平成13年度の約15億1000万円まで増額された。

(キ) 検察庁の調査活動費に関する告発文書の流布

平成11年4月下旬ころ、検察庁の調査活動費の不正支出を内部告発する内容の文書が、国会議員やマスコミに流布された。

イ 本件マニュアルについて

(ア) 原告は、法務省が調査活動費の意義、性質、具体的使途、執行例及び執行に関する留意点等を各検察庁に指示、説明するために平成11年2月ころに本件マニュアルを作成したと主張するのに対し、被告は、本件マニュアル自体、作成者及び出所が不明ないわゆる怪文書であるとして、原告の主張を争う。

(イ) そこで、本件マニュアル(〈証拠略〉)の記載内容を精査すると、次の特徴が認められる。

a 作成者や作成年月日の記載はない。

b 調査活動費の意義、調査活動費の執行例、諸謝金と協力者謝金の異同、会議費による会議・調査実費による会合・情報交換会の異同について、それぞれ具体例を挙げるとともに、調査活動費から支出する理由、領収書の取扱い、報告書等の要否について具体的かつ詳細な説明がなされている。

c 調査活動費の特例払以外の執行例として、情報交換会経費として弁当代を支出する例が示されている。

d 調査活動費の定義・性質や具体的な使途に関する記載内容が、被告の主張とほぼ一致している。

e 予算執行上の留意点等を詳細に説明した上で、会計検査院に対する対応、情報公開請求時の対応や、情報公開審査会の審査の見通しについてまで言及し、事務の指針を示している。

f 平成11年度予算に関する言及がある。

g 「官房会計課作成の科目説明に基づく。」「これまでの予算要求上の説明に基づく。」等、法務省内部で会計実務に詳しい者が作成に関与したことをうかがわせる記載がある。

(ウ) これらの点に、全国の検察庁において、平成11年度から特例払以外の弁当代の支出が目立つようになり、また、平成10年の夏ころから調査活動費の減額等に関する法務省内の検討や検察庁との意見交換が行われていたことは被告も自認していることを併せ考慮すると、本件マニュアルは、平成11年度予算の成立を控えた時期に、調査活動費の執行の正しい在り方を示すために、法務省内部において作成されたものである可能性が強いというべきである。

ウ 平成12年4月から2年間、仙台地検次席検事であった証人Aは、本件調査活動費等について、次のとおり供述している(同人の陳述書である〈証拠略〉を含めて、以下「A供述」という。なお、仙台高検総務部長であったBも、別件で概ね同趣旨の供述をしている(〈証拠略〉)。同人の陳述書である〈証拠略〉を含めて、以下「B供述」という。)。

(ア) Aは、仙台地検在勤当時、検事正の指示を受けて、自分で調査活動をしたり、部下の職員をして調査活動をさせたりした。同時に、検事正の指示を受けて、部下の職員に命じて、調査活動費の支払をさせていた。

(イ) 調査活動費としては、調査活動を行うに当たって協力者に対して支払う謝金と、職員等に命じてさせる調査活動に伴って支払う実費がある。

(ウ) 調査活動には、公安関係、特捜経済事犯、組織犯罪等に関する一般的な情報収集活動と内偵調査がある。組織犯罪については、構成員、活動拠点、活動状況、連携関係等に関する情報収集が、特捜経済事犯については、談合、贈収賄、会社犯罪、選挙犯罪(選挙区の情勢、対立関係等)等に関する情報収集が挙げられる。

(エ) 情報収集の方法は、主として協力者からの情報提供による。

検察庁が積極的に協力者に依頼して情報を入手してもらう場合は、謝金を払う必要がある場合がある。謝金は1件いくらと決まっているわけではない。

調査活動費の請求時にその使途が必ずしも全額決まっているわけではなく、また、継続的に情報提供を依頼している協力者もいたが、情報提供のない月に謝金を払うことはなかった。

(オ) 平成10年度の仙台地検の調査活動費はすべて協力者に対する謝金であった。これが不正流用されていることを疑わせるような事情はなかった。

調査活動の実費や関係機関との情報交換会の経費が調査活動費から支出されるようになったのは、平成11年以降である。

(カ) このようにして収集した情報は、検事正や次席検事が、検察権の行使の場面において、部下の職員に対する指揮関係で利用する。

調査活動の結果を書面化する制度はなく、検事正等の転勤の際の引継もされていなかった。

(キ) 調査活動は、協力者と検察庁との間の信頼関係に基づいてできている制度なので、そこにおいて一番重要なことは、情報源の秘匿である。これを取り払うと信頼関係を破壊し、協力が得られなくなるばかりでなく、協力者に不利益が及ぶおそれがある。また、調査対象が明らかになってしまうおそれや、調査を命じられた職員に不利益が及ぶおそれもある。

(ク) 本件領収書の付属資料には、取扱責任者である検事正名、支払年月日、支払金額、支払先、具体的な支払目的が記載されている。また、本件支払明細書の明細欄には、支払日、支払金額、使用目的、取扱者名が1件ごとに記載されている。本件支払明細書の支払日を明らかにしただけでも、協力者の絞り込みがされるおそれがある。金額を明らかにした場合にも、協力者の不満を惹起するおそれがある。

(ケ) 平成10年当時の調査活動費は、概ね一月に数十万円のまとまった金額を検事正が支出し、その上で個別の支払をしていた。協力者からの領収書を毎月会計検査院に送付することは免除されていた。

(2)  (1)ア(ア)及び(イ)の事実に、(1)ウのA供述((1)ウ(オ)前段の供述を除く。)を併せると、本件文書には、被告において、4号所定のおそれがあるとの判断をし得る情報が記載されていることが認められる。

(3)  原告は、本件調査活動費の支出は、その全額が検察庁幹部の私的遊興等に充てられた違法な目的外支出であり、本件文書に記録された情報は、実際に行われた調査活動に関する情報ではないと主張するので、この点につき判断する。

(4)  原告の主張に沿う証拠として、元大阪高検公安部長Cの陳述書(〈証拠略〉)及びその供述を録取した書面(〈証拠略〉)並びに証言調書(〈証拠略〉)の各記載(これらを併せて、以下「C供述」という。)、証人Dの証言及び陳述書(〈証拠略〉)の各記載(以下「D供述」という。)が存在する。

ア C供述について

(ア) C供述の骨子は、〈1〉 少なくとも平成10年度までは、全国の検察庁において、調査活動費の全額が裏金に回されており、検事正らの遊興費として費消されていた、〈2〉 高知地検次席検事及び高松地検次席検事各在任中、調査活動費を使った接待を自身が経験した、〈3〉 平成11年1月に検察庁の調査活動費に関する内部告発があり、法務省に高検次席検事を招集して対策会議が開かれ、同年2月ころには、名古屋高検において、各地検の次席検事や法務省の職員を集めた会議が開かれて、法務省が調査活動費の正規の使途を周知するため本件マニュアルを配布した、というものである。

(イ) 〈証拠略〉によれば、地検の次席検事は、地検の調査活動費の取扱者として、取扱責任者たる検事正から交付された調査活動費を事務局長に保管させ、担当者に対する支払を事務局長に指示する地位にあること、Cは、昭和63年4月から平成3年3月まで高知地検次席検事を、平成5年4月から平成8年4月まで高松地検次席検事をそれぞれ歴任したことが認められる。そして、C供述には、高知地検次席検事及び高松地検次席検事各在任中における接待の実態など自己の経験に基づく具体的な部分も存在するから、Cの上記地位を併せ考えれば、それぞれの庁において、Cの在任期間中に、調査活動費の取扱いに際し、その供述するような不正があったのではないかと疑う余地がないではない。

(ウ) しかしながら、供述内容を全体的に検討すると、C供述には、次の疑問点がある。

a 事務局長が検事正らに調査活動費の中から接待等の遊興費を直接手渡すところについては見たことがないとするなど、重要部分については推測が多い。

b 事務局長の手元にプールされていた調査活動費についてはすべて裏金であるとするなど、調査活動費の支出手続や支払方法、会計検査院に対する対応、予算減額の経緯等について、他の証拠(〈証拠略〉)に照らして採用し難い供述内容が散見される。

c 公安関係では検察の独自捜査で立件する事件は一切なく、必要な情報はすべて警察から入手するとする一方で、本来謝金が支払われて然るべき情報提供者を各検事が個人的に持っているとしたり、なぜ調査活動費が正規に交付されないのかについては、ただ調査活動費が裏金に回っていたから支払えなかったと述べるにとどまるなど、にわかに理解し難い部分がある。

d 供述の中核部分である「全国の検察庁において、調査活動費の全額が自動的に裏金に回されていた」とする点については、何ら客観的な裏付けも首肯し得る説明もなく、そもそもCは全国の検察庁における調査活動費の支出状況を知り得る地位にあったものと認めるに足りる証拠はない。

(エ) 以上によれば、C供述は、全体的に推測に基づく不正確なものであるといわざるを得ず、これを全面的に信用して、同供述から直ちに原告の主張する事実を認めることはできない。

本件マニュアルが前示のような経緯で法務省内部で作成されたものであるとすれば、その限りでは本件マニュアルの存在がC供述の裏付けとなり得ても、本件マニュアルには、C供述の中核部分である検察庁の調査活動費の不正流用について直接言及し、又はその存在をうかがわせるような記載自体は一切ないのであって、本件マニュアルの存在は、C供述の上記のような疑問点を解消するものではなく、その信用性に関する前段の判断を左右し得ないというべきである。

イ D供述について

(ア) D供述の骨子は、〈1〉 仙台高検庶務課に配属されていた昭和58年ころ、当時の庶務課長から調査活動費に関する偽造領収書の作成を依頼され、初めて調査活動費の存在を知った、〈2〉 このとき、庶務課長から、公安関係の情報提供を受けているような活動の実態はなく、偽造領収書を作成して調査活動費からプール金を捻出していると聞かされた、〈3〉 プール金の使途についての説明はなかったが、当時、庶務課長が飲食店から請求書が回ってくるなどとぼやくのを耳にしていたので、高検検事らの飲食代に使われているのだろうと認識していた、〈4〉 その後も平成5年ころまで数回にわたり偽造領収書の作成に関与した、というものである。

(イ) 〈証拠略〉によれば、Dは、昭和49年に東京地検に検察事務官として採用され、仙台地検、仙台高検での勤務を経た後、平成元年から平成3年6月まで仙台地検古川支部に検察官事務取扱検察事務官として勤務し、同年7月に副検事に任官して、山形区検、米沢区検、鶴岡区検にそれぞれ勤務し、平成8年2月に退職した者であること、この間、昭和57年4月から昭和60年3月まで仙台高検庶務課に検察事務官として勤務し、平成4年12月から平成7年3月までは米沢区検に副検事として勤務していたことが認められる。

(ウ) D供述については、領収書の偽造を依頼された経緯や偽造領収書の具体的な作成状況について、偽造行為に関与した者の実名を挙げたり、偽造領収書に記載した氏名や一度に偽造した領収書の枚数を明らかにするなど具体的かつ詳細な内容であり、かつ、「御直披」と記載された仙台高検総務課長から仙台地検古川支部のD宛の封筒(〈証拠略〉)、仙台高検事務局長の公印が押捺された同局長作成名義の米沢区検のDへの協力依頼文(〈証拠略〉)、偽造領収書の見本や書き損じたもの(〈証拠略〉)等、客観的な裏付けが存在する。

特に、〈証拠略〉によれば、「御直披」という記載は、「親展」よりも秘密性が高いことを意味するもので、検察庁内部でもそれほど使われていない記載であるところ、仙台高検庶務課長から仙台地検の一支部の検察官事務取扱検察事務官に対する文書に、わざわざ「御直披」という記載が使われていること、仙台高検事務局長の依頼文に「同封の用紙に前回同様別添のとおり御記入の上」「執務上必要につき」「本書面が用済みとなりました節は破棄願います」など、領収書偽造をうかがわせたり、秘密性を暗に示す表現が使われていることが認められるのであって、これらの点は、領収書偽造を依頼されたとするD供述の内容の信用性を高めるものである。

(エ) Dが偽造領収書の作成への関与を告白するに至った動機に不審な点はうかがわれず、Dにあえて偽証をしたことを疑わせるような事情は証拠上認められない。その他、D供述に、その信用性に疑いを差し挟むべき特段の矛盾は見当たらない。

(オ) D供述の核心部分である領収書偽造の事実について、被告の積極的な反証がない。

(カ) 以上(ア)ないし(オ)を総合すれば、昭和58年から平成5年にかけて、Dは調査活動費に関して領収書を偽造し、これを仙台高検の事務責任者に渡していたことがあることが認められるところ、被告から、このような領収書の偽造がされたことについての納得のいく説明がない以上、当時、仙台高検において、調査活動費の不正流用が行われていたことが疑われる。

(5)  調査活動費の使用状況等の疑問点

ア 被告は、(1)ア(エ)のとおり、平成10年度までの調査活動費が毎月端数や繰越金がなく使い切られていたことについて、調査活動費の支出は協力者への謝礼という性質上1万円単位となるのが通常で、予算の制限内で計画的、効率的に使用したためであるとし、また、平成11年度以降、調査活動費について端数や繰越金が発生することになったことについては、特捜経済事件に関する内偵捜査等の実費にも、特例払が認められている調査活動費を使うようになったことにより、その性質上端数が生じるとともに、高度の機動性や支出の予測困難性等から、取扱責任者の手元に現金を常時保管しておく必要が生じたためである旨の説明をする。

しかしながら、調査活動費について、毎月予定した金額を全額支出した理由として、被告の説明は、予算を計画的、効率的に使用したというに止まるものであるところ、平成10年度の仙台地検の調査活動費は、前記のとおり、毎月の受入額と支払額がすべて10万円単位の端数の出ない金額で一致していたものであり、その使途に照らせば、なぜそこまで計画的、効率的な予算の消化ができたのか、被告の説明では直ちに理解し難い。

そして、A供述でも、調査活動費の請求時にその使途が必ずしも全額決まっているわけではなく、具体的な情報提供の有無にかかわらず定期的に謝金を支払っている者がいないとしていることを併せ考えると、調査活動費の使用状況についての被告の説明は、納得できるものではない。

イ (1)ア(ウ)の調査活動費の予算上の動向については、仙台地検のみならず、検察庁全体としての動向を踏まえて検討する必要があるところ、被告は、調査活動費が平成11年度以降減額された理由として、公安関係情報の重要性が低下する一方で、特捜経済事件関係の情報収集が重要性が高まったことから、予算についても、外部協力者からの情報収集よりも、コンピユーターネットワークを活用した情報収集のための整備に重点を移した旨の説明をする。

この被告の説明は、上記認定の国内の犯罪情勢の推移や、検察庁の情報政策の転換とコンピユーター関連経費の予算額の増額に一応合致するものであるけれども、調査活動費が検察権行使に関する一般的な情報収集や具体的事件についての内偵調査等のために真実支出されていたのであれば、平成10年度の支出合計額が特例払で5億円を超えていた調査活動費を、情報管理政策の転換と予算の重点化といった事情はあったにせよ、短期間にこれほど減額することが可能であったのか、疑問が残る。

しかのみならず、予算上調査活動費が減額され始めた時期は、前記の告発文書が流布された時期とほぼ一致するものであり、そしてこの時期はまた、前記のとおり、調査活動費の執行の正しい在り方を示すため、法務省内部による可能性が強い本件マニュアルが作成された時期とも一致する。

ウ 調査活動費の使用状況等に関するA供述やB供述では、守秘義務との関係で抽象的になるのがやむを得ない面があることを考慮しても、アの点や、国の予算である調査活動費がどのように使われ、その結果得られた情報がどのように活用されているのかについて、納得し得るような説明がされていない。

また、これらの供述によっても、調査活動費の使途については、抽象的な説明がされるばかりで、それを本来の使途に従って使用された実例は全く示されておらず、被告は、何らそのような実例を示す他の証拠を提出しない。

エ 〈証拠略〉によれば、平成13年に、調査活動費の不正流用を理由に、当時の大阪地検検事正らを被告発者とし、虚偽公文書作成、同行使、詐欺等を罪名とする告発が最高検になされたが、事件の回送を受けた高松高検、大阪高検は、いずれも嫌疑なしで不起訴処分とし、その後、検察審査会も不起訴相当としたこと、検察庁の調査活動費の不正流用について法務省内部で調査が行われたが、法務大臣は、記者会見で、調査の結果、不正流用の事実はなかった旨述べたことが認められる。

しかし、この法務省内部の調査内容に関する証拠は提出されておらず、どのような調査や検討を経て不正流用の事実はなかったとされたのかは明らかではないため、このことから調査活動費の不正流用の事実を否定することはできない。

(6)  以上(1)、(4)及び(5)に検討したところを総合すると、次のとおりとなる。

ア 全国一律に調査活動費の不正流用が行われ、仙台地検もその例外ではないとするC供述はにわかに採用し難く、D供述も、本件調査活動費の支出に直接関するものではなく、ほかに本件調査活動費の不正流用を直接認め得る証拠はない。

イ もっとも、D供述からは、昭和58年から平成5年にかけて、仙台高検において調査活動費に関する領収書の偽造が行われていたことが認められることは前示のとおりであり、これによれば、当時、仙台高検において、調査活動費の少なくとも一部は不正に流用されていた疑いがある。

ウ そして、平成10年度までは、全国の検察庁における調査活動費の使用状況にほとんど変化がないこと、その使用状況は、仙台地検を始め多くの庁において端数の出ない金額で月ごとにきれいに使い切られる形態であったこと、その使用状況が一変し、かつ、予算が減少し始めた時期が、調査活動費の不正流用を内部告発する内容の文書が現れた時期とほぼ一致することは前示のとおりであり、これらを併せ考慮すれば、平成10年度における仙台地検の調査活動費(本件調査活動費)の支出中には不正流用があったのではないかと疑う余地がないわけではない。

この点で、A供述中、本件調査活動費はすべて協力者に対する謝金であり、不正流用されていることを疑わせるような事情はなかった旨の部分は、にわかに納得し難いものがある。

エ しかしながら、以上のような疑問点を全て考え併せても、調査活動費の使用状況等に関するA供述を全て排斥し、本件調査活動費が同供述のような調査活動には一切使用されなかったと疑うまでの根拠としては十分とはいえない。

調査活動費の使用状況が端数の出ない金額で月ごとにきれいに使い切られる形態であったとしても、その中にA供述のいうような調査活動に対する支出が全く含まれていなかったことまで推認させるものとはいえない。平成11年度以降調査活動費の支出が際立って減少したにしても、ゼロになったわけではなく、その後も調査活動費の支出がされているところ、この支出も不正にされたものであることまでの主張や証拠はないのであって、この事実はむしろ、それ以前も調査活動に対する支出があったことをうかがわせるものである。

結局、本件調査活動費が全額不正流用されたとする原告の主張は、推測の域を出るものではなく、採用できない。

そして、仮に、本件文書中に調査活動費の不正流用に係る文書が一部含まれている疑いがあるとしても、本件全証拠によっても、どの文書がそれに当たるのかを区別して特定することはできないから、本件調査活動費が全額不正流用されたことが認められない以上、全体として、本件文書には、実際に調査活動に使用された金員の支払に関する情報が記録されていないということはできないことになる。

オ してみれば、本件文書が4号に該当するとした被告の判断が事実誤認又は事実の基礎を欠くものであったということはできないから、この判断に裁量権の逸脱又は濫用があったとすることはできず、原告の(3)の主張は採用に由ない。

(7)  事実の評価の明白な誤りの有無

ア 原告は、4号該当性についての被告の判断に「相当の理由」があるかどうかは、守秘義務に関する実質秘性の3要件を充足するかどうかを基準とすべきであると主張するけれども、4号該当性についての判断と守秘義務に関する判断は別個のものであるから、原告の主張は、独自の見解であって、採用することができない。

しかしながら、原告の上記主張のうち、非公開とすべき必要性がない旨の部分は、事実に対する評価が明白に合理性を欠くことが明らかである旨主張するものとも解し得るので、以下、被告の4号該当性に関する判断が明白に合理性を欠くものか否かについて判断する。

イ 前示第2の1及び第3の2(1)の事実に、〈証拠略〉を総合すれば、次の事実が認められる。

(ア) 本件支払明細書の明細欄には、調査活動費の個々の支払に関する情報として、支払年月日、支払金額、使用目的、取扱者名が記載されており、本件領収書には、調査活動費の受領に関する情報として、本件支払明細書の明細欄に記載された個々の支払にそれぞれ対応する受領年月日、受領金額、受領者の氏名(印影を含む。)が記載されている。

(イ) これらを開示して、調査活動費を支払った年月日、金額、使用目的等の一連の記録内容が公になった場合、たとえ協力者の氏名が記載されていなくとも、その記載内容と調査対象者又は一般人が入手できる情報とが照合、分析されることにより、仙台地検の調査活動の内容、対象、目的や協力者の素性、調査活動に携わった職員の氏名等が特定され、その結果、協力者や検察庁職員に対して圧力や危害を加える等の妨害工作が行われて、協力者の方もこのような妨害工作をおそれて協力を渋る等の萎縮的効果が生じたり、あるいは金額の多寡を知った協力者との信頼関係が損なわれるなどして、検察庁の今後の調査活動に支障を来すおそれがあると見ることは十分に首肯し得ることである。

(ウ) また、調査活動費のうち、事件その他の情報収集経費等に関するものの支出についての会計検査院に対する証明は、業務の秘密性や協力者の生命身体の確保、国家の治安確保等の観点から、調査受託者等の請求書、領収書等の証拠書類を会計検査院から要求があった際に提出できるよう取扱責任者が保管する「簡易な証明方法」によることが承認されている。

ウ 以上によれば、本件文書を開示することにより、今後の調査活動が阻害され、ひいては検察権の適切な行使が妨げられるおそれがあると考えることには十分理由があり、本件文書について4号該当性を肯定した被告の判断が明白に合理性を欠くことが明らかであるとはいえない。

エ なお、原告は、本件文書に記載された年月日、金額、氏名等のそれぞれが独立した情報であるから、それぞれについて4号該当性を判断すべきであると主張する。

しかしながら、後記3のとおり、本件支払明細書の明細欄は、各調査活動費の支払ごとに、その年月日、金額、使用目的、取扱者等の関係記載部分が、その支払に係る調査活動に関する独立した一体的な情報をなすものと見るべきであり、また、本件領収書も、その年月日、受領金額、受領者の氏名及び印影が、独立した一体的な情報をなすものと見るべきである。

したがって、これを更に細分化して一部のみを不開示としなければならないものではなく、細分化した事項ごとに4号該当性を判断すべきであるとはいえないから、原告の主張は採用できない。

3  争点(4)(部分開示の要否)について

(1)  情報公開法6条1項は、その文理に照らすと、1個の行政文書に複数の情報が記録されている場合において、それらの情報のうちに不開示情報に該当するものがあるときは、当該部分を除いたその余の部分についてのみ、これを開示することを行政機関の長に義務付けているものと解され、同項が、不開示情報に該当する独立した一体的な情報を更に細分化して、その一部を不開示とし、その余の部分にはもはや不開示事由に該当する情報は記録されていないものとみなして、これを開示することまでも行政機関の長に義務付けているものと解することはできない。

これを本件について見るに、第2の1(4)の事実によれば、本件支払明細書の明細欄は、各調査活動費の支払ごとに、その年月日、金額、使用目的、取扱者等の関係記載部分がその支払に係る調査活動に関する独立した一体的な情報をなすものと見るべきであり、また、本件領収書も、その年月日、受領金額、受領者の氏名及び印影が独立した一体的な情報をなすものと見るべきであるから、これらの記載部分を更に細分化して部分開示を認めるべきか否かを論ずるのは相当でない。

(2)  これに対し、原告は、個人識別情報以外の不開示情報については、各号に定められた「おそれ」があると認められるひとまとまりをもって不開示情報の単位が画されるとし、本件支払明細書の明細欄に記録された情報は、本件調査活動費の支出が行われた年月日、金額、目的及び取扱者等というように重層的にとらえることができ、本件領収書についても、受領年月日、受領金額、受領者の氏名(印影を含む。)等というように重層的にとらえることができるから、本件文書については、開示することが適当でないと認められるひとまとまりをもって不開示情報の単位を画すべきであり、その余の部分については、同条項により部分開示されるべきものである旨主張する。

しかしながら、本件文書の記載内容から相手方識別部分だけを他の情報と切り離して取り上げれば、それ自体は情報として意味のあるものでなく、その余の部分と合わせて初めて本件調査活動費の支払に関する情報として意味のあるものとなるのであるから、(1)のとおり、本件文書の記載内容は各調査活動費に支出ごとに独立した一体的情報と見るべきであって、これと異なる原告の主張は採用できない。

(3)  また、情報公開法6条2項は、1号に該当する不開示情報について定める規定と解されるところ、本件文書に記録された情報は、前記のとおり、4号該当性が認められるのであるから、情報公開法6条2項を適用する余地はないというべきである。

4  むすび

以上の次第であるから、原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないので棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 信濃孝一 岡田伸太 寺田利彦)

別紙 文書目録

1 仙台地方検察庁の平成10年度分(同年4月から平成11年3月まで)の調査活動費支払明細書の支払明細欄

2 仙台地方検察庁の平成10年度分(同年4月から平成11年3月まで)の調査活動費の個々の支払に関する領収書

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