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仙台地方裁判所 平成12年(わ)436号 判決

主文

被告人を無期懲役に処する。

未決勾留日数中450日をその刑に算入する。

理由

(事案の要旨)

被告人が,平成11年3月10日から平成12年8月1日までの約1年5か月の間に犯行当時3歳から10歳であった合計11名の幼女に対しなした4件の強姦未遂,5件の強制わいせつ及び2件の強姦致傷の事案。

(法令の適用)

罰条

判示第1,第6,第7及び第11の所為

刑法179条,177条後段

判示第2,第5及び第8から第10の所為

刑法176条後段

判示第3及び第4の所為

刑法181条(同法179条,177条後段)

刑種の選択

判示第3及び第4  それぞれ所定刑中無期懲役刑を選択

併合罪の処理  刑法45条前段,46条2項本文,10条

(刑及び犯情の最も重い判示第4の罪の無期懲役刑に処し,他の刑を科さない。)

未決勾留日数の算入  刑法21条

訴訟費用の不負担  刑事訴訟法181条1項ただし書

(弁護人の主張に対する判断)

1  弁護人は,本件各犯行当時における被告人の精神状態につき,精神分裂病の症状により心神耗弱下の状態にあったものであり,刑の減軽が図られるべきである旨主張し,被告人も,当公判廷において,幼女にわいせつな行為をしたことや強姦をしようとしたことについて一切記憶がなく,猫を探すようにという声が聞こえてきたり,車やさいころのようなものが見えたりしていたなどと供述しているので,以下,この点に関する当裁判所の判断を示す。

2  被告人は,平成12年10月12日に開かれた本件第1回公判期日の冒頭手続において,平成12年8月29日付け起訴状記載の公訴事実につき,「間違いないと思います。」と述べていたが,弁護人は,何度も接見に行ったが公訴事実についての認否の確認ができなかった旨述べて意見を留保し,次いで,同年11月9日に開かれた第2回公判期日においては,同年10月18日付け起訴状が朗読され,同事実についての罪状認否を求められたが,被告人は,車椅子で入廷してから閉廷するまでの間,首をうなだれたまま,黙して何も語らず,上記事実についても何も陳述しなかったものであり,同期日おいて,弁護人から訴訟能力の有無についての鑑定を求める旨の意見書が提出された。そこで,当裁判所は,被告人の訴訟能力の有無を判断する資料を得るため,同年12月22日,被告人の現在における精神状態につき医師Lを鑑定人として選任して鑑定を嘱託した。同鑑定人は,平成13年2月28日付け鑑定書及び証人として出廷した本件第3回公判期日における供述中において,被告人は,現在精神分裂病に罹患しており,精神分裂病は20歳前後に発症したものと推測される旨の鑑定意見を述べている(以下「L鑑定」という。)。

これに対し,更に当裁判所が同様の趣旨で同年6月28日被告人の現在及び犯行当時における精神状態につき鑑定人として選任した医師Mは,同年7月27日付け鑑定書及び証人として出廷した第5回公判期日における供述中において,被告人の犯行当時における精神状態につき,「性倒錯(小児性愛)」(少なくとも6か月にわたり,13歳以下の小児との性行為に関する性的衝動・行為が反復し,社会的・職業的にその他の機能の障害を引き起こし,性欲動によるわいせつ誘拐・強制わいせつなどの犯罪に関係しうる成人の病理)及び「非社会性人格障害」(社会的行動パターンの偏りが強く持続し,そのため周囲と衝突し周囲を悩ませる状態である人格障害のうち,(ア)他者の感情への無関心や配慮のなさ,(イ)社会的規範や責務の無視,(ウ)持続的な人間関係が維持できないこと,(エ)欲求不満の耐性が低く暴力的になりやすい傾向,(オ)罪悪感を感じる能力に乏しく,自己の不利な体験や懲罰から学ぶことができないなどの特徴を持つもの)であり,犯行当時責任能力を限定する要因は何もなかったとする診断結果を示している(以下「M鑑定」という。)。

なお,当裁判所は,同公判期日において,被告人には訴訟能力があると認め,その後の訴訟手続を進行させることとしたが,上記各鑑定は,第9回公判期日において検察官,弁護人からそれぞれ被告人の犯行当時における責任能力の有無を立証趣旨として証拠請求され,採用,取り調べ済みとなっている。

3  そこで,両鑑定の信用性について検討を加える。

(1)  L鑑定人は,公判廷において,鑑定を実施するにあたり前提とした資料については,被告人の供述調書,学校の成績表,被告人の父親との面会結果や被告人との問診結果をもとにし,被害者の供述調書や犯行状況を撮影したビデオテープ等については特に必要を感じなかったことから,見ていなかった旨述べている。しかし,鑑定にあたっては,前提となる事実の取捨選択が重要となるにもかかわらず,被告人の犯行状況等の証拠となる被害者の供述調書やビデオテープを見ていないのでは,前提となる事実につき正しい把握はできず,この点においてL鑑定には問題がある。

また,L鑑定人が前提とした資料においても,被告人は捜査段階においては顔立ちが整った小さな顔の女性に対し性的な欲求を感じていた旨供述していた(乙3)のに対し,L鑑定人が問診した際には,本件各犯行をなしたのは,幼女に対する性欲とは全く別の理由であり,むしろ苦痛でさえあったが,汚染されてない幼女とで優秀な遺伝子を残すために行動したなどと捜査段階と異なる動機が供述されたにもかかわらず,その真実性や異なる動機を述べていた理由が検討されていない。 また,被告人は,判示の各犯行をなした際には,8ミリカメラやデジタルビデオカメラで犯行状況を撮影し,各犯行の際に,姦淫自体はやめてから,あるいは姦淫に至らない段階でも被害者にわいせつな行為を強いて射精をしていたこともあったのに,被告人が,このような問診時に述べていた動機と矛盾する行動をとったことについて合理的な説明はなされていない。

(2)  さらに,被告人は,平成12年8月8日,よう撃捜査に当たっていた司法警察員に目撃され,職務質問を受けた際,「何やってたの。」と質問されると,「友達の家探してたんですけど。」,「まず弁護士に電話架けさせてもらいます。」などと供述するなど犯行発覚を免れるために合目的的な対応をとり得ているが,精神分裂病との診断結果と整合しうるかという点についても疑問が残る。

(3)  以上に加えて,鑑定書の問診において被暗示性の強い誘導的な質問が散見されることや,鑑定人としての経験についても鑑定助手としての経験1回のみであったなどの事情もあることからすれば,L鑑定は総じて信用性に乏しいと言える。

4  他方で,M鑑定は,被害者の供述調書やビデオも閲覧した旨供述しており,前提とした資料につき不足している点はない上,被告人が犯行状況をビデオに撮っていた理由についても小児性愛者にしばしば見られる「自己の異常行動を記録」する症状として被告人の各行動につき合理的に説明し得ていること,問診時の際にも誘導的な質問は特に見受けられず,鑑定人として十数件の鑑定を経験している旨供述していることからすれば,その信用性は高い。

そして,前掲証拠によれば,被告人は各犯行状況をビデオカメラで撮影しようとしたり,被害女児に対して,種々詐言を用いて自己に対する警戒感を解かせて人目に付きにくい場所に誘い,嫌がり泣きじゃくるなどする被害女児に対して,自己の意に従わせるように治療である旨欺いたり,恫喝等をしており,さらに,被害女児に口止めをしたり,他人の気配を察していち早く逃走するなど,事態に即応し,自己の責任を弁えた合目的的な行動を取り得ていることが明らかであって,この点からも,上記M鑑定の結果を是認することができる。

5  なお,被告人が前記2のとおり,失立失歩の様相を呈したことは,単なる拘禁反応と見られるし(M鑑定),当公判廷において供述する女の人の声が聞こえるといった幻聴体験や車やさいころが見えるといった幻覚体験についても,それらの供述は総じて具体性に乏しく場当たり的で信用できないものである上,被告人によれば,被告人自身においてもそれらが幻覚や幻聴であることを認識し得ている旨供述しており,被告人の公判廷における受け答えの態度にも,そのような幻覚・幻聴による影響は認められないのであるから,上記供述の存在が,被告人の各犯行時における責任能力の欠如又は著しい減弱を疑わせるものとはいえない。

6  以上からすれば,被告人には精神分裂病その他の精神病に罹患している疑いはなく,各犯行当時においても,是非を弁別してその弁別に従って行為を統御する能力に何ら欠ける点がなかったことは明らかであるから,犯行時における精神状態が心神耗弱下にあったとする弁護人の主張には理由がないというべきである。

(量刑の理由)

1  本件は,被告人が,平成11年3月10日から平成12年8月1日までの約1年5か月の間に犯行当時3歳から10歳であった11名もの幼女に対しなした強姦未遂(判示第1,第6,第7,第11),強制わいせつ(同第2,第5,第8から第10)及び強姦致傷(同第3,第4)の事案である。

2  被告人は,前記のとおり公判廷においては犯行時の記憶がないなどと不合理な弁解を繰り返しているが,捜査段階においては本件各犯行に至る経緯及び動機について以下のような内容の供述をしていた。すなわち,被告人は,平成8年ころ,自宅近くの広瀬川の河川敷で犬の散歩をしている小学校高学年くらいの女の子を見つけ,その女の子が,自分の好みのタイプであったことから,一緒に散歩するようになった。この女の子に対しては何もしていないが,その女の子に欲情したのがきっかけで,次第に年齢の低い女の子について性欲を満たす対象とみるようになった。

被告人が,初めて女性を襲ったのは平成9年ころで,酔っぱらって外出した際に,小学校高学年くらいのきれいな顔立ちをした女の子を見つけ,その子を人に見つかりにくい場所に連れて行き,服の上から胸を触ったのを覚えている。その後,被告人は,4日に1回程度の割合で好みの女の子を捜しにいってはセックスを試みようとするようになったというのである。

被告人の供述する経緯及び動機は,単に幼女に対し性的欲求を覚えるや,その欲求を満たすために何のためらいもなく犯行を重ねるようになったというのに尽きるものである。幼女の人格や気持ち,幼女の両親をはじめとする親族の気持ち,被害幼女に与える影響を何ら顧みようとせず,己の性的欲望のはけ口としてこれらを踏みにじることを躊躇しない自己中心的で醜悪なものであって,他者への共感も良心のかけらもない,歪んだ卑しい人格態度を見て取ることができ,そこには一片の酌量の余地も見出すことができない。

3  また,本件は,被告人が,上述のように11名もの幼女に対してわいせつ行為や強姦行為を繰り返していた常習的連続的な犯行であって,その一事をもってしても被告人には厳しい非難がなされてしかるべきである。その犯行手口を見ても,被告人は,本件各犯行を敢行するにあたり,8ミリビデオカメラやデジタルビデオカメラを携えたり,幼女と性交がしやすくなるようにローションを準備していくなど計画性が明らかである上,肉体的にも精神的にもまだ成長過程にあって抵抗することができない幼女ばかりを狙ったものであり悪質極まりない。その犯行時間も子供が安心して出歩く時間帯の犯行であるほか,判示第11の犯行に至っては同第10の犯行と同一の建物においてわずか1週間後に敢行したものであり,さらにその1週間後には再度同一場所を訪れて物色とおぼしき不審な行動をとっているなど,大胆不敵というべきである。

そして,被告人は,犯行の対象となる幼女をみつけるや,「猫を探しているんだけど見なかった。」(判示第1,同第7,同第9,同第11),「女の子探すの手伝って。」(同第2),「本を探すの手伝って。」(同第3),「手伝って。お話しあるからおいで。」(同第4),「ちょっとだけお兄さんのお手伝いをしてね。」(同第5,第10),「5分間,悪いところがないか見てあげる。」(同第8)などと声をかけて人気がない場所まで連れ出しているのであって,いずれも幼女の優しい親切心や無垢で純真な心につけ込んだもので卑劣な犯行である。

(中略)

また,本件各犯行は,判示第11の犯行についてのみビデオテープが発見されていないものの,いずれもビデオカメラで撮影されているほか,被告人方から発見されたビデオテープ中には本件起訴にかかる被害幼女以外にも多数の幼女に対するわいせつ行為が撮影されており,類似事案と比較しても,本件各犯行の異常性と常習性は顕著である。

犯行後においても,被告人の犯行によって恐れを抱いている被害幼女らに対し,「言ったら殺しに行く。」(同第4),「絶対秘密だからね。」(同第10)などと言って被告人の犯行を秘密にしておくよう口止めし,実際に被害幼女の中には被告人から口止めをされたと述べて,両親にさえも被害を打ち明けずにいた幼女もいるのであって,狡猾極まりない。

4  被害結果も,誠に重大で深刻である。すなわち,被害者らはいずれも性交の意味すら理解し得ない当時3歳から10歳の幼女であるところ,姦淫こそ既遂に至ったものはないものの,被告人から執拗に姦淫を試みられ,それに近い姿勢を強いられたり,口淫をさせられるなどしているものであって,その被った肉体的・精神的な衝撃は甚大である。もちろん,いずれの幼女にも,一片の落ち度も見いだすことはできない。また,このような被害を受けた11名の幼女が既に抱き,あるいは抱くであろう成人男性一般に対する恐怖感はもとより,成長とともに本件被害の意味をいずれ理解できるようになったときに,改めて本件被害についての言い知れぬ屈辱感,嫌悪感にさいなまれることになるのは自明であり,本件被害による精神的後遺症が将来にわたり及ぼす悪影響も計り知れない。

被害幼女らの被告人に対する嫌悪感等は,当然のことながら顕著であり,「私に変なことをした男の人が刑務所から出てきたら怖いから,ずっと刑務所の中に入れてください。」(同第1),「犯人が牢屋から出てきたらとても怖いので,ずっと犯人を牢屋に入れておいて下さい。」(同第2),「もう絶対に会いたくありません。」(同第3),「今でも被告人のことを思い出すと,怖くて涙が出そうになります。」(同第4),「本当に怖かったです。」(同第5),「ずっと牢屋に入っていて欲しい。」(同第7),「もう会いたくありません。変なことをされて気持ちが悪くて,怖かったです。」(同第8),「消えちゃってほしい。怖い。」(同第9),「変なことをするお兄ちゃんはきらいなのでもうあいたくないです。」(同第11),被害を間近で目撃することになった被害幼女の姉においても「怖いし,嫌い。もう会いたくない。」(同第10)などと口々に訴えている。

さらに,被害幼女の両親の被告人に対する処罰感情も依然峻烈である。すなわち,被害幼女中6名の父親ないし母親が,当公判廷に証人として出廷し(同第2,第3,第5,第8,第10,第11),「犯人には重い処罰をしてほしい。」(同第2),「現在被告人に対し,強い怒りを持ってます。」(同第3),「被告人には厳重な処罰を望みます。」(同第5),「犯人には極刑をもって裁いてほしい。」(同第8),「被告人には,今後娘と同じ街を歩いてほしくない。」(同第10),「被害のことを忘れることができず,許せません。」(同第11)などと被害発生時から相当期間が経過した時点においても厳しい処罰感情を訴え,示談についても,応ずるつもりはない(同第2,第3,第8,第10,第11)か白紙の状態である(同第5)などと述べている。また,その他の被害幼女の両親についても検察官に対して,異口同音に「法律上死刑にできないというのであれば,せめて無期懲役にして一生刑務所に閉じこめておいてほしい」旨(同第1,第4,第6,第7,第9)訴えているところである。

さらに,本件は,犯行当時,幼女を狙った連続的犯行として幼女や幼女を持つ両親をはじめとして社会を震撼させた事案であったことなどの社会に与えた影響も看過することはできない。

5  しかるに,被告人は,当公判廷において精神病を装い,被害幼女に対し強姦したことは覚えていない,ボイスチェンジャーの声が聞こえてくる,女の人の声が聞こえてくる,大人の女性,車やさいころが見える,捜査段階に犯行を認めた供述調書に署名指印をした記憶はないなどと荒唐無稽の弁解を繰り返し述べては現実から逃避するかのような態度を示しており,被害幼女に対する謝罪の念はおろか,身柄拘束中に自分の行った各犯行に対する内省を深めている様子も全く見受けられない。

6  本件各犯行が長期間にわたり連続的常習的に敢行されていることに加え,前記責任能力についての判断中に触れた被告人の人格の偏りからすれば,被告人の幼女を対象とした性的犯罪の傾向は極めて顕著かつ深刻であって,再犯の可能性も極めて高いものと言わざるを得ない。

以上からすれば,被告人の刑事責任は極めて重大である。

7  そうすると,被告人が捜査段階では余罪を含め本件各犯行を認めていたこと,被告人は現在26歳とまだ若年であり,何らの前科もないこと,被告人の父親において被害者に対する損害賠償を一部なりともしようと努力しており,また,被告人が出所した後の更生を援助していく旨述べていることなど被告人にとって酌むべき事情を最大限に考慮しても,被告人には本件において法定刑中最高刑である無期懲役刑をもって処断するほかないと判断した。

よって,主文のとおり判決する。

(求刑―無期懲役)

(裁判長裁判官 前田巌 裁判官 佐々木直人 裁判官 目黒大輔)

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