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仙台地方裁判所 平成11年(タ)126号 判決

原告 A野花子

上記訴訟代理人弁護士 小島妙子

同 内藤千香子

同 井野場晴子

被告 A野太郎

上記訴訟代理人弁護士 山田忠行

被告 B山松子

上記訴訟代理人弁護士 佐藤由紀子

主文

一  原告と被告A野太郎とを離婚する。

二  被告A野太郎は、原告に対し、五〇〇万円及びこれに対する平成一一年一一月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告A野太郎から原告に対して次のとおり財産分与をする。

(1)  被告A野太郎は、原告に対し、第一項の離婚判決が確定した日から六か月以内に八九四万四九二八円を支払え。

被告A野太郎が上記八九四万四九二八円の支払を怠ったときは、遅滞にかかる金額に対する第一項の離婚判決確定日から六か月が経過した日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  被告A野太郎は、原告に対し、第一項の離婚判決が確定した日以降において、C川市職員共済組合から退職共済年金を支給されたときは、当該支給にかかる金額の一〇分の三に相当する金員を、当該支給がされた日が属する月の末日までに支払え。

四  被告B山松子は、原告に対し、三〇〇万円及びこれに対する平成一一年一一月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告の被告B山松子に対するその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用は、原告に生じた費用の二分の一と被告A野太郎に生じた費用を被告A野太郎の負担とし、原告に生じた費用の五分の一と被告B山松子に生じた費用の五分の二を原告の負担とし、原告と被告B山松子に各生じたその余の費用を被告B山松子の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  主文第一項と同旨

二  主文第二項と同旨

三  被告A野太郎(以下「被告太郎」という。)は、原告に対し、二三七七万〇五九五円及びこれに対する本件離婚の判決が確定した日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告B山松子(以下「被告B山」という。)は、原告に対し、五〇〇万円及びこれに対する平成一一年一一月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、原告の夫である被告太郎と被告B山との不貞関係によって原告と被告太郎との婚姻関係(以下「本件婚姻」という。)が破綻させられたと主張して、被告太郎に対し、離婚及び離婚慰藉料五〇〇万円の支払を求めた上、上記離婚に併せて二三七七万〇五九五円の清算的財産分与を求め、被告B山に対し、本件婚姻を破綻させられたことによる慰藉料として五〇〇万円の支払を求めたものである。

一  基本的事実

(1)  原告と被告太郎は、昭和四二年六月三日婚姻した夫婦であり、その間に、昭和四三年三月二八日長女一江(以下「長女」という。)を、昭和四五年七月三〇日長男一郎(以下「長男」という。)を、それぞれもうけた。

(2)  原告と被告太郎は、婚姻した当時、市営住宅に同居して、原告が現在の株式会社D原で、被告太郎がC川市役所で、それぞれ働いていた。

原告と被告太郎は、長子が生まれた頃から、被告太郎の実家で、被告太郎の両親、弟二人及び妹と同居して生活していた。

原告が、昭和四九年四月からC川市建設局の施設で、昭和五〇年四月から同市民生局の施設で、それぞれ管理人などとして働くようになって、原告と被告太郎は、長女及び長男とともに、それらの施設に居住するようになった。

原告と被告太郎は、昭和五二年四月三日別紙物件目録記載一の土地(以下「本件土地」という。)上に同目録記載二の建物(以下「本件建物」という。)を新築し、以後そこを自宅として長女及び長男並びに被告太郎の両親、弟及び妹と同居して生活していた。

原告は、株式会社D原を辞めた後、C川市建設局、同市民生局、財団法人B野協会、E田株式会社、A田カウンセルセンターで働いてきたが、平成七年に仕事をやめて専業主婦となった。

被告太郎は、平成九年三月C川市の職員を定年退職した後、同年四月から平成一〇年五月までC川市ガス局で働き、その後は無職である。

(3)  被告太郎と被告B山は、平成一一年六月一三日から五日間の予定によるタイへの企画旅行を旅行業者に申し込んだ。

同年三月、原告は、上記旅行の申込書の控えを見つけた。

(4)  原告は、同年六月七日仙台家庭裁判所に対し被告太郎を相手方として夫婦関係調整の調停を申し立てたが、上記調停は同年九月二日不成立で終わった。

原告は、同年七月三日被告太郎と住んでいた自宅を出て長女が住むアパートに移り、以後被告太郎と別居している。

二  争点

(1)  原告の主張

被告太郎と被告B山は、両者の間で不貞関係を生じさせそれを継続して、本件婚姻を破綻させたものである。したがって、原告は、被告太郎に対し、民法七七〇条一項一号に基づく離婚を求めるとともに、離婚慰藉料五〇〇万円の支払を求め、被告B山に対し、本件婚姻を破綻させた不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰藉料五〇〇万円の支払を求める。

なお、原告は、被告太郎に対し、上記離婚に併せて、次のような清算的財産分与(合計二三七七万〇五九五円)を求める。

① 九一五万〇〇四二円

本件土地及び建物の時価相当額の二分の一

② 四三九万一一六六円

退職金の二分の一から分与済みの八〇〇万円を控除したもの

③ 一〇二二万九三八七円

被告太郎が現在から平均余命までの一八年間に支給されるであろう退職共済年金の総額からその間原告が受給するであろう老齢厚生年金の総額を控除した金額について新ホフマン係数により中間利息を控除して算定される現在額の二分の一

(2)  被告太郎の主張

本件婚姻は平成九年三月過ぎ頃には破綻していたものであるのに対し、被告太郎が被告B山と不貞関係を持ったのは本件婚姻の破綻後である平成一一年三月二四日以降であり、かつ、それも数回程度でしかない。

(3)  被告B山の主張

被告B山と被告太郎との間に不貞関係が存在したことはない。

(4)  そこで、本件では、被告太郎と被告B山との間に不貞関係が存在したか否か、存在していたとすると、それ以前に本件婚姻が破綻していたか否か、それが原因となって本件婚姻が破綻に至ったものか否か、これらが肯定されるとしたら被告太郎及び被告B山が原告に支払うべき慰藉料はいくらかが争点となる。

なお、本件婚姻につき離婚が認められる場合には、離婚に伴う財産分与の内容及び方法を検討することになる。

第三争点に対する判断

一  前記基本的事実、《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

(1)  被告太郎は、昭和三一年から昭和三九年まで陸上自衛隊に勤務していたが、その後C川市役所の臨時職員となって、昭和四〇年四月からC川市役所に職員として勤務するようになった。他方、原告は、株式会社D原に勤務していた。

原告と被告太郎は、昭和四二年六月三日婚姻し、市営住宅に同居して共稼ぎによる収入で生活していた。

昭和四三年三月二八日原告と被告太郎の間に長女が出生し、その後ほどなくして、原告と被告太郎は、長女とともに、被告太郎の実家で、その両親、弟二人及び妹と同居して生活するようになった。そして、昭和四五年七月三〇日長男が出生した。

(2)  昭和四九年四月から、原告がC川市建設局などの管理人などとして働くようになって、原告、被告太郎、長男及び長女は、被告太郎の実家を出て、管理人をしている施設に居住して生活していた。

(3)  原告と被告太郎は、昭和五二年三月八日本件土地を購入して被告太郎名義でその所有権移転登記を経由した上、本件土地上に同年四月三日本件建物を新築して、同月二三日被告太郎名義でその所有権保存登記を経由した。

本件土地及び本件建物取得のため、被告太郎を債務者として合計一一〇〇万円の住宅ローンが組まれ、原告と被告太郎の収入をもとに、毎月五万九八九二円の、半年毎に二三万五九〇二円の、各元利均等返済が行われるようになった。

原告と被告太郎、長男及び長女は、本件土地及び本件建物を自宅として、再度、被告太郎の両親、弟及び妹と同居した。

(4)  被告太郎は、平成九年三月C川市の職員を定年退職して、同年四月二三日二四四六万五八二八円(手取額)の退職金を支給され、その中から八〇〇万円を原告に配分し、その余については現在までの間にほとんど費消した。なお、前記住宅ローンは同年三月に完済された。

従前、原告と被告太郎は、一緒に旅行に出かけて二人で花の写真を撮ったりして楽しんでおり、特に、秋田県の角館町や福島県の二本松市には毎年のように旅行していたが、同年七月にも角館町に、平成一〇年一一月にも二本松市の菊人形祭りに、それぞれ連れだって出かけた。

(5)  しかるに、被告太郎は、既に同月頃には原告に隠れて被告B山と親密な交際をするようになっていて、被告B山と一緒にタイへの企画旅行を旅行会社に申し込み、また、平成一一年一月頃から頻繁に外出や外泊をするようになり、同年三月八日原告に上記旅行の申込書の控えを見つけられて、原告から被告B山との関係を問い詰められた。

それから、被告太郎は、原告から被告B山との不貞関係を責められるようになって、被告B山との関係を終わりにする旨の念書を同年四月六日と同月八日に書いたが、同月一二日頃からはそれを翻して被告B山との交際を継続したいという態度に変わり、被告B山との不貞関係を続けた。

(6)  そのため、毎日のように、原告は、被告B山との不貞関係を止めてくれるよう被告太郎に要求していた。これに対し、被告太郎は、原告に向かって、暴言をはいたり、暴力をふるったりし、同月二四日には原告にテレビやマッサージ機のリモコンを投げつけて眼瞼皮下出血の傷害を負わせた。

同年六月頃、被告太郎は、ほとんど自宅に戻ってこない状態になり、原告は、同月七日仙台家庭裁判所に対し被告太郎を相手方とする夫婦関係調整調停事件を申し立てた。

そして、同年七月三日、原告は、自宅で被告太郎に被告B山との不貞関係を止めてくれるよう要求したところ、被告太郎から、被告B山とは別れない、原告の顔も見たくない、ぶっ殺す、出ていけなどと言われて、暴力をふるわれそうになったことから、身の危険を感じて自宅を出ることにし、以後長女のアパートに身を寄せて生活するようになった。

その後、原告は、被告太郎を相手方として、仙台家庭裁判所に婚姻費用分担事件を申し立て、この手続において平成一二年五月二三日仙台家庭裁判所平成一一年(家)第六七七号により「被告太郎は原告に対し直ちに九〇万円を支払え。被告太郎は原告に対し同月から同居又は婚姻解消に至るまで毎月末日限り一〇万円を支払え。」との審判がなされた。

(7)  上記のような経過の中で、被告太郎と被告B山は、二人だけで泊まりがけの旅行に行くなど、不貞関係を続けた。

原告が平成一一年一〇月二六日当庁に被告らに対する本件訴訟を提起し、同年一二月六日本件第一回口頭弁論期日が開かれて、以後期日が重ねられたが、その間も被告らの不貞関係は継続していた。

(8)  本件土地の平成一一年度における固定資産税評価額は一二七八万二九一八円であり、本件建物のそれは二三二万一四三八円であり、その合計額は一五一〇万四三五六円である。

また、不動産鑑定士により、平成一二年一〇月当時のものとして、本件土地につき一五一三万七〇〇〇円、本件建物につき一一七万二〇〇〇円、上記合計一六三〇万九〇〇〇円という価格評価が出されている。

(9)  被告太郎は、株式会社七十七銀行C川市役所支店の総合口座(口座番号《省略》)の普通預金に同年三月一四日時点で五四万一〇三八円の、同支店の貯蓄預金口座(口座番号《省略》)に平成一一年六月八日時点で五七一五円の、株式会社仙台銀行八木山支店の総合口座(口座番号《省略》)の普通預金に同年一一月一一日時点で三万四一〇三円の、各預金を有していたほか、郵便貯金総合通帳(《省略》)に同月一二日時点で元金一〇〇万円の定額預金(ただし、これを担保として同日五九万八六三七円の自動貸付けを受けている。)を有していた。

(10)  被告太郎は、C川市職員共済組合から退職共済年金を支給されているところ、平成一〇年四月一日当時、その年金額は二八三万〇八〇〇円で、うち加給年金相当部分は二六万三九〇〇円であった。

他方、原告は、老齢厚生年金を支給されているところ、平成一二年六月当時その年金額は九六万〇三〇〇円であった。

二  検討

(1)  被告太郎と被告B山との不貞関係について

前記事実関係によれば、遅くとも平成一〇年一一月頃には被告太郎と被告B山との間に不貞関係が生じていたことは明らかであり、かつ、その不貞関係は本件訴訟が係属した後も続いていたことが認められる。

なお、被告太郎は、被告B山との性的関係がわずか数回程度である旨主張しているけれども、前記事実関係に照らし、上記主張を採用することはできない。

(2)  本件婚姻の破綻時期について

前記事実関係によれば、本件婚姻が完全に破綻したのは原告が自宅を出て長女のアパートに身を寄せた平成一一年七月三日以降のことであると認められる。

この点につき、被告太郎は、平成九年三月過ぎ頃が破綻時期である旨主張し、《証拠省略》にも上記主張に沿うかのような部分があるが、前記事実関係のとおり、原告と被告太郎は平成一〇年一一月には一緒に二本松市の菊人形祭りに出かけるなどしていたほか、原告は、平成一一年三月八日に被告らの不貞関係を知ってからも、逃げるようにして自宅を出た同年七月三日までの間、繰り返し被告太郎に上記不貞関係を止めてくれるよう求めていたのであるから、上記部分を措信することはできないのであって、上記主張を採用することはできない。

(3)  本件婚姻の破綻原因について

以上の認定・判断によれば、本件婚姻の破綻原因が被告らの不貞関係にあることは明らかである。

したがって、被告らが不貞関係を生じる以前に本件婚姻が破綻していた旨の被告太郎の主張は失当である。

(4)  慰藉料について

本件婚姻が破綻した原告が被告らの不貞関係にあることは前記のとおりであるところ、本件婚姻の破綻及びそれに至る過程の事情によって原告が受けた苦痛、被告らの有責性の程度(特に、被告太郎は原告に対して配偶者としての貞操義務を負っている。)、本件婚姻の期間が三三年以上に及んでいることなど本件に表れた諸事情を総合すると、被告太郎が原告に対して支払うべき離婚慰藉料は五〇〇万円が相当であり、被告B山が不法行為による損害賠償として原告に支払うべき慰藉料は三〇〇万円が相当である。

(5)  財産分与について

① 本件土地及び本件建物について

本件土地及び本件建物は、本件婚姻が継続中に原告と被告太郎が協力して形成した財産であると認められるから、離婚にあたり清算すべき共同財産である。そして、それらの登記名義人が被告太郎であること、現在それらを被告太郎が自宅にしていることに鑑みると、それらについては被告太郎が取得することにした上で、原告に対しては価格に基づく清算を行うこととする。そこで、清算の対象となる本件土地及び本件建物の価格であるが、前記一の(8)の認定事実に照らし、合計一六三〇万九〇〇〇円が相当である。

② 預貯金について

前記一の(9)で認定した預貯金合計一五八万〇八五六円は、本件婚姻継続中原告と被告太郎が協力して形成した財産であると認められるから、離婚にあたり清算すべき共同財産である。

なお、被告太郎には前記一の(9)で認定したような借入金の存在が窺われるが、被告太郎が前記退職金のうち原告に分配した八〇〇万円を除くその余の部分のほとんどを費消していることに照らし、本件では上記借入金を分与対象の積極財産額から控除しないこととする。

③ 退職共済年金について

原告の老齢厚生年金も被告太郎の退職共済年金も本件婚姻の継続中原告と被告太郎が協力して生活してきたことによって残された財産的権利と解すべきであるから、離婚における清算の対象と認められるところ、前記一の(10)の認定事実によれば、被告太郎の退職共済年金額からそのうちの加給年金に相当する額を控除すると二五六万六九〇〇円であり、さらに、上記二五六万六九〇〇円から原告の老齢厚生年金額を控除すると一六〇万六六〇〇円になる。そして、上記一六〇万六六〇〇円が上記二五六万六九〇〇円について占める割合を算定すると、約六二・六パーセントである。そこで、被告太郎が離婚後支給される退職共済年金のうち六〇パーセントを財産分与の対象とする。

ところで、原告は、被告太郎が平均余命まで生存したと仮定した場合に支給されると推定される退職共済年金の総額を基準に財産分与を行うべきであると主張している。たしかに、損害の公平な分担を目的とする不法行為制度においては、被害者の逸失利益につき一定の年数と金額を基礎とする推計を行って損害を算定しているわけであるが、それは逸失利益が推定によってしか算定できない性質のものだからである。これに対し、財産分与制度においては、実際に毎期において支給される年金額につきその都度分与を行うことが可能であり、かつ、それで足りるのであるから、原告が主張するような推計を行う必要はなく、むしろ推計によることが不相当なことは明らかである。

④ 退職金について

原告は、被告太郎が得た退職金の金額を財産分与の対象として主張しているけれども、前記認定のとおり清算の基準時点である現在において上記退職金は残存していないのであるから、上記主張は採用できない。

⑤ 分与の内容・方法について

本件では、共同財産の形成・維持につき原告と被告太郎のいずれか一方に他方を上回る貢献があったとまでは認められないので、原告に対する分与の割合を五〇パーセントと推定する。

そこで、まず、本件土地及び本件建物の価格一六三〇万九〇〇〇円の二分の一である八一五万四五〇〇円と、前記預貯金一五八万〇八五六円の二分の一である七九万〇四二八円との合計額八九四万四九二八円を、被告太郎から原告に対して分与する。ただし、被告太郎の資力に鑑みると、その履行について六か月の猶予期間をもうけるのが相当である。

次に、被告太郎が離婚後毎期ごとに支給される退職共済年金のうち六〇パーセントの二分の一である三〇パーセントを原告に対して分与する。そして、その履行期を被告太郎が退職共済年金を支給される月の末日と定める。

第四結論

以上のとおりであるから、主文第一項のとおり本件離婚請求を認容し、主文第二及び四項のとおり本件慰藉料請求を認容し、離婚に伴う財産分与につき主文第三項のとおり定める。

(裁判官 鈴木陽一)

〈以下省略〉

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