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京都地方裁判所福知山支部 昭和53年(ワ)20号 判決

原告

友次一枝

被告

達富忠雄

主文

一  被告は原告に対し、金一七一万円およびこれに対する昭和五二年一〇月三一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を原告の、その一を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告は原告に対し、金九三五万〇五九六円およびうち金八六五万〇五九六円については昭和五二年一〇月三一日から、うち金七〇万円については昭和五三年五月三一日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求の原因

一  事故の発生

1  日時 昭和五二年一〇月三一日午前一〇時ごろ

2  場所(地) 福知山市字土師新町二丁目五二番地先国道九号線上

3  加害車 普通貨物自動車

右運転者 被告達富忠雄

4  被害者 訴外塩見鉄之助(以下単に鉄之助)という)、当時八二歳

5  態様 自転車に乗り前記国道を進行していた被害者に、後方から進行してきた加害車両が衝突し、同人を頭骨々折、頭蓋内出血により、同日午後零時過ぎ死亡させた。

二  責任原因

1  運行供用者責任(自動車損害賠償保障法三条)

被告は、加害車両を所有し、業務用に使用し、自己のために運行の用に供していた。

2  不法行為責任(民法七〇九条)

被告は、前記日時、場所付近を加害車両を運転して進行中、自動車運転者としては、運転中は絶えず進路前方を注視し、交通の安全を確認しつつ進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然と進行した過失により本件事故を発生させた。

三  原告と被害者鉄之助との関係

原告は、昭和三三年ごろ、鉄之助に事実上の妻として迎えられ、以来原告と鉄之助は事実上の夫婦として生活してきたもので、鉄之助の戸籍上の妻である訴外塩見はるのは、昭和二〇年ごろ、他に男関係ができ福知山の鉄之助のもとから大阪に出て行き、それ以後両者の婚姻関係は完全に破綻していたものである。

四  損害

1  逸失利益

原告は、鉄之助と昭和三三年ごろより事実上の夫婦として旅館を共同で経営していたが、交通の便が良くなつたためか次第に客が減少し、経営が困難となつたので、昭和四六年一二月に廃業し、翌年には道路に面している部分を食堂、喫茶店等として賃貸し、その家賃収入で生活することとなり、本件事故当時における右家賃収入は一か月当り三五万五〇〇〇円であつた。

ところで、原告は戸籍の点を除いては、鉄之助と実質的な夫婦の関係にあり、勿論家計も同一で、内縁の妻として、鉄之助に対し扶養請求権を有したものであるから、原告は被告に対して右扶養請求権の侵害による損害賠償請求権を有する。

そこで、鉄之助は死亡当時八二歳であつたが、厚生省発表の第一三回生命表によると、鉄之助と同年齢男子の平均余命は四・六三年であり、これからしても原告は尚四・六三年の間は右の収入から鉄之助による扶養を期待できた訳で、当時鉄之助が建物取得のためのローン借入金の返済に充てていた一三万円を控除した月額二二万五〇〇〇円の二分の一相当額は原告の扶養に充てられるものと考えられる。よつて、ホフマン式計算法によりその現価を求めると、四八一万一四〇〇円となるから、原告は本件事故で鉄之助が死亡し右扶養請求権を侵害されたことにより右金額相当の損害を被つた。

月額一一万二五〇〇円×一二×三・五六四(四年のホフマン係数)=四八一万一四〇〇円

仮に、右金額が認容されないとしても、鉄之助の死亡による逸失利益相当分、即ち鉄之助が稼働することにより得るであろう収入の二分の一相当額は、原告の扶養に充てられるべきもので、本件事故による扶養請求権侵害の損害として相当因果関係があるというべきところ、その額は二九三万二五四七円となる。

昭和五三年度賃金センサス全産業、六〇歳以上の男子労働者の平均賃金年収二一四万七六〇〇円×二・七三一(残余就労可能年数三年のホフマン係数)×〇・五=二九三万二五四七円

2  葬儀費用

原告は、鉄之助の葬儀費用として七〇万円を支払つた。

3  慰藉料

原告は、鉄之助の妻として入籍こそしていないが、同人とは二〇年余に亘つて事実上の夫婦として生活してきたもので、夫を本件事故により失つたことによる原告の精神的損害を慰藉するに金員をもつてするには少なくとも三〇〇万円が相当である。

4  弁護士費用 八〇万円

五  結論

よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。)を求める。

第三請求原因に対する答弁

一  (事故の発生)の事実は認める。

二  (責任原因)の2の事実については、過失の点を除き認める。

三  (原告と被害者との関係)の事実は不知。

四  (損害)の事実は争う。

第四被告の主張

一  被告は、本件事故発生の直前、国道九号線の中央分離帯寄りの車線を制限速度で走行しており、被害者たる鉄之助は歩道寄りの車線を自転車に乗り被告と同方向に進行していた。この時被告と同一方向に同車線を走行していた数台の先行車はいずれも極く自然に被害者を追い抜いており、被害者が急に右折するなど全く考えられない状況であつた。このような場合に、被告が被害者鉄之助の側方を追い抜いて走行しようとしたのは当然のことで、そこに過失があるとは到底考えられない。本件事故現場のような幹線道路において、中央分離帯寄りの車線を走行する自動車運転者に、歩道寄りの車線を自転車に乗つて同一方向に進行し、かつ車線を変更する気配が全くない者がいた場合にまで、徐行し安全を確認して追い抜かなくてはならないという義務を負わすことは、幹線道路を設置した趣旨を没却するもので、本件事故については被告に過失はなく、専ら被害者の一方的過失により発生したものである。また少なくとも、損害賠償額の算定にあたり大幅な過失相殺がなされるべきである。

二  訴外亡塩見鉄之助(本件被害者)の相続人である妻の塩見はるの、子の塩見剛也の両名は、既に被告が保険契約を締結している訴外大東京火災海上保険株式会社から保険金として七二六万一八〇〇円(内訳は逸失利益一九六万円、慰藉料―本人と遺族の合計分―五〇〇万円、葬儀費用三〇万円、入院雑費五〇〇円、文書料一三〇〇円と算定された)を受領しており、鉄之助死亡による損害は、このように同人の正当な相続人が右保険金を受領したことによつて、十分に賠償されている。そこで偶々原告が内縁の妻たる立場にあつたとしても、その損害は最早や被告に請求すべきものではなく、保険金を受領した訴外塩見はるの、塩見剛也に請求すべきものである。

さらに本件の如く、正当な相続人に対して十分な損害賠償がなされた以上、偶々内縁の妻がいたとしても、右内縁の妻にまで賠償することを加害者たる被告に命ずることは、被告に不当な賠償義務を負わすものとなり、内縁の妻がいない場合と比較して著しく公平を失する結果となる。

第五被告の主張に対する原告の反論

一  本件事故発生場所は、国道九号線と六人部方面へ抜ける旧街道との交差点直前のところで、旧街道への右折のため国道九号線の中央に確保された一車線への入口、即ち中央線(センターライン)分離帯が斜めに切られている部分での事故であり、当時鉄之助は国道九号線から右交差点を右の旧街道へ右折し、六人部にある養魚池に行こうとしていたものである。被告も同所に右旧街道があることは知つていたし、また右国道の状況がさきのとおりであることも知り、あるいは知るべきであつた。

かような地点の直近で、自転車に乗り右国道の上り(京都方面行)車線の中央線寄りを進行している人がある場合、自動車運転者としては、その自転車乗りが右折すべく上り車線の右側車線を横断し、前記右折のための車線に入ることは当然予期すべきであつた。加えて、被告は自転車を操作していた人は老人で、ふらふらと走つていたことを認識していたのであるから、尚更のこと、被告は先ず徐行し自転車に乗つて進行していた鉄之助が右折してきてもこれと衝突しないよう十分な間隔をとり、さらに鉄之助に自車の存在を知らせるため十分な警音を発すべきであつたのに、二回警音を発しただけで、自車の存在を鉄之助に確知させることなく、徐行の措置もとらず、五〇キロメートル毎時の制限速度を超過した速度のまま鉄之助の右側を通過しようとしたため、おりから右折のため右方へ進路を変えんとした同人に自車を衝突させたもので、本件事故は被告の一方的過失に起因するものであることは、以上のことからも明白と言える。

二  被告および同人が保険契約を締結している訴外大東京火災海上保険株式会社のいずれも、本件事故による損害賠償についての交渉当初から、内縁の妻たる原告が存在し、かつ賠償請求をしている事実を知悉しておるのであるから、訴外塩見はるの、同塩見剛也に右保険会社から七二六万一八〇〇円が支払われたからといつて、そのことをもつて、被告が原告の本訴請求を拒絶する事由とし得ないことは当然である。

第六証拠〔略〕

理由

一  交通事故の発生

請求原因一(事故の発生)の事実は、当事者間に争いがない。

二  責任原因

被告本人尋問の結果によれば、本件加害車両(車両番号滋四四ぬ六八七六)は被告の所有で、本件事故当時被告自身が自己の業務のため右車両を運行の用に供していた事実が認められる。従つて、被告は自動車損害賠償保障法三条により、本件事故のため原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

三  原告と被害者訴外亡塩見鉄之助の関係

成立に争いのない甲第六、第七号証および証人西村まつゑ、同公手密雄の各証言並びに原告本人尋問(第一、二回)の結果を総合すると、原告は昭和三三年三月末ころより福知山市字天田(駅前)二〇〇番地の三において、右鉄之助と共同で「笹尾屋」なる屋号のもとに旅館営業を始めたが、当時鉄之助は剛也との二人暮らしで、旅館女中も決まつた人はなく近所の人に頼む程度のものであつたので、原告は我が子の秀正(昭和二四年四月二一日生)と共にここに移り住み、以来鉄之助が本件事故のため死亡するまで約二〇年の間同人と同居し、実質的に夫婦としての生活を営んでいた。この間、剛也は福知山高校一年に在学中の昭和三五年二月に母の許に行くとのことで大阪府豊中市内に移住することになつたが、原告としてはこの時初めて鉄之助に戸籍に届出のある妻はるのがいる事実を知つた。しかし、その後も鉄之助とはるのとの間には夫婦としての実体はなく、はるのはせいぜい年に一、二回笹尾屋を訪れる程度で、たまには同所に一泊して帰阪することもあつたが、鉄之助とは食事を共にすることさえない程であつたこと。鉄之助死亡の際には、はるのも葬儀には参列したが、その席での慣行上妻がつとめる役割は原告において取行なつたこと。またそのことについて親戚筋等からも格別異存めいた様子は窺われなかつたことが認められ、他に右認定に反する証拠もない。

四  損害

1  原告の鉄之助に対する扶養請求権の侵害に因る損害

原告本人尋問(第二回)の結果によると、被害者鉄之助は、本件事故当時、その所有不動産を賃貸し、原告の主張に沿う賃料を得て、これにより自己および原告の生計を維持していたことが窺われるけれども、さりとて原告のいう如くに、本件事故がなければ鉄之助はなお生き得たのであり、さすれば少なくとも同人が同年齢男子の平均余命に達するまではこれまで同様に賃料を取得し、それにつれ原告も同人の得る右賃料収入により扶養を受け得たものが、右事故により鉄之助が死亡したため、原告においても鉄之助の相続人らとの間に遺産等の清算を余儀なくされる羽目となり、その結果これら不動産より賃料を得ることが不可能となつたが、かように右賃料収入の喪失を一定期間早められた結果の損害はとりもなおさず本件事故と相当因果関係があるから、加害者たる被告にその賠償を求めるという点は、右原告本人尋問の結果および弁論の全趣旨によると、原告は鉄之助の遺産の清算等に関して、同人の相続人との間に福知山簡易裁判所で調停が成立し、この調停の結果前記賃料収入は得られなくなつたもののそれらと交換的に原告は他の資産を得た事実が窺えるのであつて、これらの事実を考えあわせると、原告において右賃料収入からの扶養を期待できなくなつたからといつて、これをもつて直ちに本件事故と相当因果関係のある損害とは認め難い。

さらに、鉄之助には少なくとも同人と同年齢の男子労働者の得る平均賃金相当額の収入が得られたものと考えられ、その二分の一相当額は本来原告の扶養に充てられるべきものであるところ、鉄之助が本件事故で死亡したことにより、原告は鉄之助の残余稼働可能年数(同人と同年齢男子の平均余命の二分の一程度)の間に得る収入の二分の一相当額の損害を被つたとの主張についても、原告本人尋問(第一、二回)の結果によると、鉄之助は昭和四七年に旅館営業を廃業して後は、専らその所有不動産より得る賃料収入で生活していた模様であり、本件事故当時は田を借受けて、そこで鯉の養殖をはじめていたが、これとてそれにより収益を得るまでには至つていなかつたことが認められるのであつて、かような事実に同人の年齢を考えあわせるとき、他に格別の資料もない本件にあつて、たやすく鉄之助には右平均賃金程度の収入を得られたものと推認することは困難という外なく、従つて原告のこの点についての主張もこれを認めるに足る証拠がないことに帰する。

2  葬儀費用

成立に争いのない甲第一三号証、原告本人尋問(第二回)の結果とこれにより成立を認める甲第八号証によると、原告は被害者鉄之助の葬儀を取り行ない葬儀関係費用として七四万八二一〇円を支弁した事実が認められる(なお甲第八号証中の五万二五四〇円―入院費および診断書料、五〇〇〇円―剛也渡し、とある分は葬儀関係費用と認め難い)が、鉄之助の本件事故当時における社会的地位、年齢、家族関係および交通事故による被害者死亡の場合に裁判上右事故による損害として一般的に認容される葬儀費用の額等の諸事情を考慮すると右のうち四〇万円の限度において本件事故と相当因果関係があるものと認める。

3  慰藉料

後記認定の本件事故の態様、被害者鉄之助の年齢、同人と原告との関係(さきに認定したとおりで、それはいわゆる重婚的内縁関係である。)、その他諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料額は二〇〇万円とするのが相当であると認められる。

五  過失相殺

先ず本件事故発生の態様についてみるに、成立に争いのない甲第五号証、甲第九号証の一ないし四および被告本人尋問の結果によると、本件事故発生現場付近の道路状況は、東行(京都方面)、西行車線ともに二車線宛の直線状で前後左右の見とおしはよく、路面はアスフアルト舗装され、平たんで、車両走行速度は毎時五〇キロメートルに制限されており、事故発生当時路面は乾燥していたこと、右車道の両側(南北)にはそれぞれ路側帯をはさんでアスフアルト舗装の歩道(北側歩道の幅員は二・〇メートル)が併設されていること、事故発生地点のやや前方(東方)には横断歩道が設けられてあり、そこからこの国道九号線を右折して二方に分れた脇道へ進行でき、右国道路面にも東行第二車線内には直進と右折の道路標示が施されていること、つぎに被告は加害車両を運転して前記東行の第二(中央寄り)車線内を時速約五〇キロメートルで進行中、約六七メートルばかり前方の第一(歩道寄り)車線内の第二車線沿いのところを東進して行く自転車乗り(被害者)の姿を認め、彼との間が約四一・六メートルになつたころ依然同様位置をふらふらと先行しており、しかもそれが老人であることを知り、危険を感じてこれに注意を与えるため警音を二回発したものの、同人はこれには格別の反応を示さなかつたこと、しかし同人はそのまま直進するものと考えた被告は当時交通量も多くなかつたのでそれ以上特に減速等の措置をとることなく進行したところ、自車が三四・五メートル程進む間に約六・三メートルばかり進んだ右自転車乗りがこの間に徐々に第二車線内に入り込んできていたのに気付き、慌てて右転把および急制動の措置をとつたが及ばず、さらに二二・三メートル先あたりで四・五メートル程進行した自転車右側に自車左前部を衝突させた事実が認められる。

右認定の事実によれば、本件衝突事故の発生については被害者鉄之助にも通行方法不適当、右折開始に際しての進路後方の安全不確認、右折合図なし等の重大な過失が認められるところ、前記認定の被告の過失の態様(進路前方における被害者の動向注視不十分、速度不適当)等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告の損害の三五%を減ずるのが相当と認められる。

六  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は一五万円とするのが相当であると認められる。

七  結論

よつて被告は、原告に対し、金一七一万円およびこれに対する本件不法行為の日である昭和五二年一〇月三一日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 相瑞一雄)

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