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京都地方裁判所 昭和63年(ワ)1808号 判決 1991年10月01日

本訴原告(反訴被告)

連藤孝夫

右訴訟代理人弁護士

安保嘉博

高見澤昭治

本訴被告(反訴原告)

進々堂製パン株式会社

右代表者代表取締役

園田喜代史

右訴訟代理人弁護士

山田利夫

主文

一、本訴被告(反訴原告)は、本訴原告(反訴被告)に対し、金一七六万一八四五円及びこれに対する昭和六三年四月一日以降支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二、本訴原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

三、反訴被告(本訴原告)は、反訴原告(本訴被告)に対し、金九〇〇〇円及びこれに対する平成元年三月四日から右支払済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

四、反訴原告(本訴被告)のその余の請求を棄却する。

五、訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを七分し、その六を本訴原告(反訴被告)の負担とし、その余を反訴原告(本訴被告)の負担とする。

六、この判決は、第一項及び第三項について仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一本訴

1  本訴被告(反訴原告)は本訴原告(反訴被告)に対し、二三七〇万四六〇〇円及びこれに対する昭和六三年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二反訴

1  反訴被告(本訴原告)は反訴原告(本訴被告)に対し、一四五万一六三〇円及びこれに対する平成元年三月四日から支払済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本訴原告・反訴被告(以下、「原告」という)は、パンの製造販売に関するフランチャイズ・チェーンの本部である本訴被告・反訴原告(以下、「被告」という)との間で、被告のチェーン店になる契約を締結したが、その後、チェーン店の経営に行き詰って倒産した。原告は、原告が店舗を開こうとした場所が立地条件の整っていない場所であったにもかかわらず、被告が、誤った需要予測に基づいて原告に開店を促し、原告の経営破綻を招いた旨主張し、被告の契約締結上の過失及び独占禁止法違反の不法行為に基づいて、被告とのフランチャイズ契約を締結したことによって生じた損害の賠償を請求している。これに対し、被告は、反訴を提起し、原告に対し、パン等の商品の売掛代金、什器、備品の売買代金、フランチャイズ契約上のロイヤリティを請求している。

一争いのない事実

1  被告は、「ブール進々堂」の名称でフランチャイズ・チェーンを組織している。

2  原告は、昭和六二年一一月二日、被告との間で、被告が「ブール進々堂」フランチャイズチェーンシステムによる契約店舗を開業経営する権利を原告に与え、システムを構成するノウハウや情報を原告に提供すると共に、サービス・マーク等の標章を原告が使用することを許諾し、他方、原告は、契約店舗を経営し、ノウハウの提供やサービス・マークの使用の許諾の対価として被告にロイヤリティを支払うことなどを内容とするブール進々堂チェーン加盟契約(以下、「本件契約」という)を締結した。

3  原告は、昭和六二年一二月一〇日に、右契約に基づいて、京都市西京区川島北裏町七四所在のマンション「メイゾン桂東」(以下、「本件ビル」という)の一階一〇三号の店舗において、「焼きたてのパンの店ブール桂東口店」(以下、「本件店舗」という)の営業を開始したが、経営に行き詰まり、昭和六三年二月下旬に右店舗を閉店した。

4  反訴請求にかかる債権の発生原因事実(被告が、昭和六二年一二月九日から昭和六三年二月二九日までの間に原告に売り渡した商品の代金のうち、四一万五六四四円が支払われていないこと、被告が、昭和六二年一一月に、パン小売店用の什器、備品を代金一一二万六九八六円で売り渡したこと、原告は、本件契約において、営業を開始した月から月額三〇〇〇円のロイヤリティを被告に支払うことを約したが、昭和六二年一二月分から昭和六三年二月分までのロイヤリティの支払いをしていないこと)については当事者に争いがない。

二原告の主張

(一)  事実経過

(1) 被告は、本件契約前に需要予測調査を実施するに当たって、競合店の存在等の要因を十分考慮せず、不合理かつ非科学的な手法を用いた。

(2) 小谷社員は、需要予測調査表を作成して原告に交付する際、「ものすごく人が多い」「こんな良い場所はない」などと説明し、「絶対いける」「一日一〇万円以上の売上げは確実にいける」などと断定的に述べて、本件契約の締結を原告に勧誘した。

(3) 原告は、本件契約締結後、被告の指導に全て従って商品を調達準備し、毎日午前四時から午後九時まで夫婦で営業に専念し、懸命に宣伝活動を行った。ところが、現実の売上金額は被告の予想を大幅に下回り、一日として被告の予想金額に達しない状態が続いたため、原告は、本件店舗の経営に行き詰まり、昭和六三年二月下旬に本件店舗を閉店し、同年四月三〇日に手形の不渡りによる取引停止処分を受けた。

(4) 原告の経営が破綻した原因は、本件店舗に被告のチェーン店を開店する立地条件が備わっていなかったことに尽きる。ところが、被告は、本件契約締結前に、原告に「需要予測調査表」を示し、誤ったデータに基づき、出店は十分に可能である旨の誤った判断を原告に提供したものである。

(二)  責任原因

(1) フランチャイズ契約の特質

フランチャイズシステムにおいては、加盟店には本来の営業活動の自由がなく、一旦加盟してしまえば損失を避ける工夫を自らすることが困難なシステムであるから、事前にシステムについて十分な情報を開示することが必要である。

(2) 契約締結上の過失

被告が、本件店舗の立地調査及びこれに基づく売上の予想に関し、信義則上要求される注意義務を尽くさなかったために、原告に誤った情報を提供し、これを信用した原告に損害を与えたものであるから、被告には、本件契約を締結したことによって原告に生じた損害を賠償する責任がある。

(3) 独占禁止法違反の不法行為

昭和五七年六月一八日公正取引委員会告示第一五号の一般指定(以下、「一般指定」という)第八項は、独占禁止法二条九項三号を受けて、「自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について、実際のもの又は競争者に係わるものよりも著しく優良又は有利であると顧客に誤認させることにより、競争者の顧客を自己と取引するように誘因すること。」を禁止している。

被告会社の社員は、需要予測調査表を示すことにより「自己の供給する取引に関する事項について」、「実際のもの」すなわち開業後の売上、収益よりも「著しく優良又は有利であると」「顧客」すなわち原告に「誤認」させたから、一般指定八項に違反する行為を行ったものである。

そして、被告が独占禁止法違反の不当表示による違法な勧誘を行い、その結果、原告が損害を被った以上、被告には民法七〇九条に基づき、本件契約を締結したことによって原告に生じた損害を賠償する責任がある。

(三)  損害

(1) 店舗内装工事費用

五三五万円

(2) 店舗保証金没収金

二八八万四六〇〇円

(3) 仲介手数料

一六万円

(4) 営業保証金及び加盟金

六〇万円

(5) 材料費

四一万五六四四円

(6) 什器備品支払債務

一一二万六九八六円

(7) 逸失利益

一七一万円

(8) 経済的信用を喪失したことによる無形損害

一〇〇〇万円

(9) 弁護士費用

三〇〇万円

2 被告の主張

(一)  事実経過

被告は、商圏内の人口、世帯数、店舗前通行量の調査結果から、商圏内の潜在需要高は非常に高いと判断されたことから、出店は可能と判断したものである。

被告は、本件契約の締結前に、フランチャイズ・チェーン店の経営主体は原告にあり、かつ、経営者としての原告の経営努力等が不可欠であることについて詳細に説明した。

(二)  責任原因

(1) 被告は、本件契約の締結前の準備段階において、被告の調査結果や被告の有する企業上のノウハウ等を原告に開示し、原告の判断材料を提供したものであって、被告は信義則上要求される注意義務を尽くしたものである。被告の社員らの説明が仮に多少楽観的なものであったとしても、取引社会の駆け引きとして許容される範囲内のものである。したがって、被告には、契約締結上の過失責任はない。

(2) 被告は、経済的に優位にあることを利用して本件契約を締結したわけではなく、原告は自由意思に基づいて本件契約を締結したものであるから、被告には責任はない。

(3) 原告は、一定の資金すら調達できないのに、幻影を求めて転業し、かつ、原告は、十分な営業努力を払わず、開店後三ケ月も経たないうちに本件店舗を閉店してしまったものであるから、本訴請求は不当である。

第三当裁判所の判断

一事実経過

本件契約の締結から終了に至る事実経過に関し、当裁判所が証拠(<省略>)及び弁論の全趣旨により認定した事実は次のとおりである。

①  被告は、昭和四六年四月からフランチャイズ・チェーンの事業を開始し、日本フランチャイズチェーン協会に正会員として加盟している株式会社であり、平成元年七月の時点で、約一五〇の加盟店とフランチャイズ契約を締結していた。被告のフランチャイズ本部市場開発課では、昭和六二年当時、年間一五ないし二〇の店舗を新規に開店することを目標としていた。

②  原告は、家業の八百屋を手伝った後、約一〇年間、大津市内で市場の中の店舗を賃借して、八百屋を営業してきた。ところが、右店舗の所有者は、昭和六一年頃から、建物の改装のために、店舗を明け渡すよう原告に求めてきた。そして、原告は、昭和六二年に、市場の管理者から、被告のフランチャイズ・チェーン店を始める話を持ちかけられた。

③  昭和六二年七月頃、原告が八百屋を営業していた大津市内の市場の管理者が、原告を被告に紹介し、原告にパン屋を始める考えのあることを伝えた。そこで、被告のフランチャイズ本部市場開発課社員の小谷政人(以下、「小谷社員」という)が、同年七月一〇日に原告に面談し、その後、被告のフランチャイズ本部の部長安田修(以下、「安田部長」という)及び同本部市場開発課主任山中壽(以下、「山中主任」という)も小谷社員と共に原告と面談した。更に、小谷社員は、同月下旬に、原告を被告の直営店及びフランチャイズチェーン店数カ所に案内した。

④  小谷社員は、昭和六二年七月二三日に、本件ビルの近くの被告のフランチャイズ店に原告を自動車で案内した後、自動車を運転して本件ビルの前を通ったが、その時、本件ビルのテナントを募集している広告を見つけ、右店舗が非常に良い場所にあると原告に述べた。そこで、原告は、小谷社員に促されて本件ビルの管理業者の電話番号を書き留めた(<証拠>)。

⑤  原告が被告のチェーン店を営業する店舗は、原告と被告の双方が探すことになっていたが、本件ビル以外に適当な場所が見当たらなかったため、原告は、昭和六二年八月上旬頃、本件ビルで被告のフランチャイズ店を開店することについて改めて小谷社員の意見を求めた。そこで、小谷社員は、山中主任と店舗の内装工事についての被告の指定業者である広田治木芸有限会社(以下、「広田治木芸」という)の社員を伴って、本件ビルを見に行った。ところが、右ビルでテナントを募集している店舗の面積は三〇坪以上で、被告のフランチャイズチェーン店の店舗としては広すぎたため、小谷社員は、原告に半分位のスペースを賃借することをアドバイスし、本件ビルの管理業者に半分のスペースを賃借することが可能かどうかを問い合わせた。そして、本件ビルの管理業者が半分のスペースを賃貸することを了解したため、原告は、被告に対し、本件ビル内の店舗予定場所についての市場調査を行うことを依頼した。被告は、市場調査を行う前に、原告に対し、市場調査の結果が良くない場合には、被告のチェーン店を開くことはできない、その意味で、市場調査の結果が全てであるなどと説明していた。

⑥  本件ビルは、阪急電鉄桂駅の東側を阪急電鉄の線路敷に沿ってほぼ南北に伸びる道路の東側に建築された鉄筋コンクリート造六階建の建物で、本件店舗はその一階にある。本件ビルは、阪急電鉄桂駅の東出口の南方にあり(その距離は証拠上明確ではないが、<証拠>によれば、五〇メートル以上はあると思われる。)、本件店舗前の道路をはさんだ西側は、駐輪場になっているため、本件店舗の広告灯は阪急電鉄桂駅のホームからも見ることができる。路線バスも本件店舗前の道路を通行しているが、右道路には、二車線の道路としての十分な幅員がないため、センターラインが引かれておらず、歩道も設置されていない。阪急電鉄桂駅の東側出口の正面には、バスの停留所があり、その東側に、歩道をはさんで焼きたてパンを販売している二階建てのタカラブネガーデンハウスがある。同店は一階でパンを焼いてこれを販売し、二階が喫茶店になっている。阪急電鉄桂駅の東側には、多数の住宅があるが、本件店舗の更に南側の道路沿いには、寺院や小学校があり、住宅の数は比較的少ない(<証拠>)。

⑦  被告は、昭和六二年九月二日と四日の二回に亘り、午前七時から午後七時までの一二時間の本件店舗予定地前道路の通行量調査を実施すると共に、九月二日から四日にかけて本件店舗予定地付近の競合店の状況を調べ、この結果に基づいて本件店舗の売上を予測し、需要予測調査表(<証拠>)を作成した。なお、原告も、右の通行量調査に二時間程立ち会った。

需要予測調査において、被告は、商圏内人口、世帯数に基づく売上予測と、店前通行量からの売上予測の二つの手法による売上予測を行った。商圏内人口、世帯数に基づく売上予測は、本件店舗から半径五〇〇メートル以内の地域を本件店舗の商圏と定め、一世帯当たりのパン月間消費推定額に商圏内の世帯数を乗じて潜在需要額を求め、潜在需要額から競合店の推定売上高を控除して潜在購買力を推計するものであり、店舗通行量からの売上予測は、一日当たりの通行量調査の結果に推定される入店率を乗じて一日当たりの予想入店者数を求め、これに客一人当たりの推定購入価格を乗じて一日当たりの売上高を推計するものである。

商圏内人口、世帯数に基づく売上予測では、競合店の推定売上高が潜在需要額を上回り、潜在購買力はマイナス一三八万九二八〇円と試算された。一方、店舗通行量からの売上予測では、入店率を6.3、客一人当たりの推定購入価格を三八〇円と想定したことにより、日商売上高は一〇万〇七〇〇円と試算され、稼働日数を二六日とし、荒利益率を四八パーセントと推定した結果、一か月当たりの売上利益は、一二五万六七三六円と試算された。

被告は、本件店舗の経営を維持するためには、一日少なくとも八万円程度の売上を上げることが必要であると考えていたが、被告は、需要予測調査において、潜在需要額が高かったことや、店舗通行量からの売上予測の結果などに基づいて、本件店舗予定地への出店は可能と判断した。

⑧  小谷社員は、同月一〇日頃、需要予測調査表を、同月二〇日頃、損益計算書をそれぞれ原告に交付した。その際、小谷社員は、市場調査の結果について、ものすごく人が多い、良い結果が出たからやって下さいなどと原告に説明し、一日の売上が一〇万円あれば、一月に、原告の給料を二〇万円、原告の妻の給料を一〇万円とすれば、利益は約三〇万円になり、合計六〇万円が原告の収入になるなどと述べて、原告に本件店舗で被告のチェーン店の営業を始めることを強く勧めた。小谷社員は、需要予測調査は、あくまでも予測であるから、予測通りの売上が上がることを保証するものではないけれども、逆に予測以上の売上が上がる可能性もあること、需要予測調査のデータは正確であり、控え目に売上高を試算していることなどを説明し、原告が店舗の経営を開始すれば、被告も協力すると述べた。

そこで、原告は、親族の意見も聞いた上、同年九月中旬には、本件店舗で被告のフランチャイズ店の営業を開始する意思をほぼ固め、小谷社員に店舗の改装工事の見積りを依頼した。

⑨  山中主任は、昭和六二年九月中旬に、原告の委任を受けて本件店舗の賃貸人に賃貸借契約の条件を問い合わせた。そして、同月一七日、本件ビルの管理業者から被告の山中に対し、契約条件を記したファックス(<証拠>)が送付されてきた。原告は、賃貸人が提示した条件を了解し、同年一〇月九日、柳原書店の事務所で本件店舗の賃貸借契約を締結し(<証拠>)、同日、保証金の内金三〇〇万円を支払った。なお、本件契約の締結に際し、小谷社員は、家賃の確保等に懸念を示す家主に対し、被告がついているから安心してもらいたいと述べた。

⑩  同年九月末日、原告が八百屋を営業していた店舗の家主と原告との間で和解が成立した。原告は、一〇月二九日まで、八百屋の営業を続けていたが、一〇月末に、右和解に基づいて八百屋の店舗を明渡し、立退料として家主から四九〇万円を受領した。

⑪  原告は、昭和六二年一〇月に被告の実施する開店前教育及び直営店実習を受けた。そして、同年一一月二日に、被告との間で本件契約を締結し(<証拠>)、その頃、被告の指定する什器、備品を被告に注文し、同月一〇日頃には、本件ビルの賃貸人に保証金の残金を支払い、同月一二日には、広田治木芸に本件店舗の改装工事を発注した。原告は、パンの小売業だけではなく、コーヒーショップを営業することを希望し、広田治木芸と直接工事の打合せを行った。そして、同月二五日には、店舗の改装工事も完了し(<証拠>)、同年一二月一〇日に本件店舗が開店する運びとなった。

⑫  小谷社員は、昭和六二年一二月一〇日と一一日の両日に開店セールを行うことを企画し、二日間の売上目標を五二万三一三三円とする販売促進計画を立て(<証拠>)た。宣伝用のチラシの製作費は被告が負担し、新聞への折り込み代は加盟店が負担することになっていたが、被告は、開店セールのためにカラー写真入りのチラシを五〇〇〇枚用意し、その一部は新聞の折り込み広告とし、残りを被告の社員が手配りした。このとき、被告は、商圏内世帯数が三三三七世帯であることに基づいて(<証拠>)、五〇〇〇枚のチラシを作成することにしたものであるが、原告は、もっと多くのチラシを作成してもらいたいとの希望を被告に述べた。これに対し、小谷社員は、被告の費用で用意できるのは五〇〇〇枚が限度であると言って原告の依頼を断った。

⑬  そして、昭和六二年一二月一〇日に、本件店舗が開店したが、開店日当日の売上高は一五万九八〇〇円、同月一一日の売上高は一一万円に止まり、一二日以降は一日の売上高が六万円に満たない日が続いた(<証拠>)。同月下旬に被告の社員らがセールを企画して約三〇〇〇枚のチラシを配付したが、六万円を超える売上を一日だけ記録したに止まった。このため、原告は、当初は、被告の指定するとおりに基本商品の仕入れを行っていたが、次第に仕入れる商品の種類及び量を減らすようになった。翌昭和六三年に入ってからも、被告の社員がセールを企画してチラシを配付したり、原告の発案で四〇〇円以上の買い物をした客に五個入りのミカン袋を進呈するサービスが行われたりしたが、一日当たりの売上高が六万円を超えた日が一日あっただけで、売上は引き続き低迷した。そこで、原告は、同年二月に入って、本件店舗を閉店することを被告に仄めかすようになった。

そこで安田部長と山中主任は、昭和六三年二月八日、同月二三日、同月二七日の三度にわたり、原告と会い、原告に営業を継続するよう求めた。その際、安田部長らは、三月は売上の上がる時期であることを説明した上、特別のイベントを実施することを提案し、イベントの期間中は本部の指導員を毎日派遣して指導すること、被告が右イベントのためのチラシの製作費、折り込み料金等を負担し、イベントの粗品を被告の方で提供すること、イベント期間中については材料費を値引きすることなどを申し出た。

これに対し、原告は、親族の意見も聞いた上、本件店舗の経営を続けても、利益が得られる保証がないことなどを考慮し、同月二九日、一方的に本件店舗を閉店した。

⑭  被告は、チェーン店の開店に要する資金について、一〇坪の面積の店舗であれば、店舗を確保するための費用を除いて九〇〇万円の開業資金が必要であるが、本件においては、店舗の面積が一五坪であるから、建物の改装や什器、備品の整備のために五〇〇万円ないし六〇〇万円が余計に必要になると説明していた。これに対し、原告は、昭和六三年七月下旬頃、山中主任及び小谷社員に対し、自己資金五〇〇万円ないし六〇〇万円、八百屋の店舗の立退料約七〇〇万円ないし八〇〇万円、国民金融公庫からの借入金約一〇〇〇万円を用意する旨説明していた(<証拠>)。このため、被告の社員は、被告の取引銀行の系列のリース会社から三〇〇万円までの融資が受けられることから、原告が約二六〇〇万円の開業資金を用意することができると考えていた。ところが、実際に原告が用意した開業資金は、八百屋を営業していた店舗の家主から受領した立退料四九〇万円、国民金融公庫からの借入金九〇〇万円などであった(原告が現実に調達した自己資金の金額は、証拠上明らかでない)。そして、開店時には、原告は、手元に一〇〇万円程度の運転資金しか持っていなかった。そして、原告は、手持資金の不足を理由に、被告から購入した什器、備品の支払いをせず、開店直後から、仕入れた商品の代金の支払いを滞り勝ちであった。

⑮  被告は、平成元年一月三〇日の第三回口頭弁論期日において、本件契約を解除する旨の意思表示をした(もっとも、被告は、反訴状において本件契約が終了したことを認めている。)。

二本訴請求の責任原因について

1  契約締結上の過失責任について

フランチャイズ契約は、フランチャイズチェーンの本部機能を有する事業者(フランチャイザー)が、他の事業者(フランチャイジー)に、一定の地域内で、自己の商標、サービス・マーク、トレード・ネームその他の営業の象徴となる標識、及び経営のノウハウを用いて事業を行う権利を付与することを内容とする契約であるが、フランチャイザーにとっては、フランチャイジーの資金や人材を利用して事業を拡大することができ、フランチャイザーがフランチャイジーを指導、援助することが、フランチャイズ契約の重要な要素の一つとなっている。本件契約(<証拠>)においても、被告が原告に対して契約店舗の経営に必要な指導を行うことが契約の目的として定められ、被告が加盟店となろうとする事業者のために作成したパンフレット(<証拠>)にも、本部は加盟店を強力にバックアップするので危険性は少ないこと、被告が店舗の経営に必要な知識を基礎から指導するので初めて事業を経営する人でも安心して取り組めること等が記載されている。

このように、フランチャイズシステムにおいて、店舗経営の知識や経験に乏しく、資金力も十分でない個人が、本部による指導や援助を期待してフランチャイズ契約を締結することが予定されていることに鑑みると、フランチャイザーは、フランチャイジーの募集に当たって、契約締結に当たっての客観的な判断材料になる正確な情報を提供する信義則上の義務を負っていると解すべきである。

被告は、被告が本件契約の締結前に、被告の調査結果や被告の有する企業上のノウハウその他をオープンに開示したから、信義則上要求される注意義務を尽くした旨主張する。しかしながら、中小小売商業振興法一一条は、必要最小限の情報の開示義務を定めたものであると解されるから、同法所定の書面を開示しさえすれば、信義則上の保護義務違反の問題は生じないと解することは相当ではない。また、チェーン店の出店の成否は、大方は立地条件によって決まるものであり(<証拠>)、フランチャイズ契約に加盟しようとする個人等にとって、最大の関心事は、通常、加盟後にどの程度の収益を得ることができるかどうかという点であるから、フランチャイザーが、事前に行った市場調査の報告書や経営計画書を開示する場合には、これらの書類が、加盟店となろうとする個人等にとって、契約締結の可否を判断するための極めて重要な資料となることが多い。しかも、フランチャイザーは、蓄積したノウハウ及び専門的知識を用いて市場調査を行っているから、加盟店となろうとする個人等が、その結果を分析し、批判することは容易ではない。これらの点に鑑みれば、フランチャイザーが、加盟店の募集に際して市場調査を実施し、これを加盟店となろうとする個人等に開示する場合には、フランチャイザーは、加盟店となろうとする個人等に対して適正な情報を提供する信義則上の義務を負っていると解すべきであり、市場調査の内容が客観性を欠き、加盟店となろうとする個人等にフランチャイズ契約への加入に関する判断を誤らせるおそれの大きいものである場合には、フランチャイザーは、前記信義則上の保護義務違反により、契約加入者が被った損害を賠償する責任を負うと解すべきである。

そこで、被告が、右信義則上の保護義務を尽くしたか否かについて検討する。

被告は、需要予測調査において商圏内人口、世帯数に基づく売上予測と店舗通行量からの売上予測の二つの手法による売上予測を行い、前者の方法では、潜在購買力はマイナス一三八万九二八〇円と試算されたが、後者の方法では、一か月当たりの推定の売上利益額は一二五万六七三六円と試算された。そして、需要予測調査表(<証拠>)によれば、被告は、「市場性、競合店状況と潜在購買力、商圏等の現状把握を行った結果」、出店は可能であるとの判断に至ったものである。

しかしながら、

(一) 店舗通行量からの売上予測の際に、入店率を6.3パーセントと推定した理由について、証人山中壽は、本件店舗と立地条件の類似している摂津富田店の需要予測調査における入店率(<証拠>)を参考にした旨証言し、摂津富田店における入店率(5.3パーセント)よりも本件店舗の入店率を高くした理由については本件店舗が住宅地内にあることを理由として挙げている。しかしながら、本件店舗と摂津富田店との需要予測調査の入店率を比較すると、同店の男子学生の入店率が1.6パーセントとされているのに対して本件店舗の男子学生の入店率は9.2パーセントされ、同店の女子学生の入店率が6.4パーセントであるのに対して本件店舗の女子学生の入店率は10.3パーセントとされ、学生の入店率がかなり高く見積もられている。しかしながら、このように学生の入店率を摂津富田店よりも高く見積もることの合理的根拠は明らかにされていない。また、<証拠>によれば、本件店舗付近では、周辺の公共、商業施設を利用する人や、阪急電車を利用する通勤、通学生の通行の多いことが認められ、本件店舗が住宅地内にあることを前提に通行人の入店率を推定することは相当でないと認められる(<証拠>は、本件店舗の方が摂津富田店よりも付近に住む住民の数が多い旨証言しているけれども、付近住民の数が多いことは、世帯数に基づく売上予測に当たって考慮されるべきではあっても、店舗通行量からの売上予測において、入店率を高くする合理性のある理由ではないと思われる。)。

(二)一⑥で認定した事実によれば、競合店であるタカラブネガーデンハウスの方が阪急電鉄桂駅の東出口に近く、本件店舗よりも立地条件に恵まれていると認められる。ところが、被告が作成した需要予測調査表(<証拠>)の店前通行量からの売上予測においては、競合店の存在の売上高への影響が考慮されていない。また、右調査表の競合店調査の欄では、スーパー北野店のホール商品と焼きたてパンタカラブネ等の店舗が強力店として挙げられ、同調査表の商圏内人口、世帯数よりの売上予測では、競合店の推定売上高が潜在需要額を上回る結果となっているにもかかわらず、まとめの欄では、「周辺には焼きたてパン専門店が少ない」として、出店が可能との判断に至っているが、出店の可否の判断に際して、競合店の存在及びその影響がどのように考慮されたかは明らかではない。これらの点に鑑みれば、本件店舗の出店の可否の判断に当たって、競合店の存在とこれに対する対策が果たして十分に検討されていたのか疑問を抱かざるをえない。

(三) 本件店舗の開店後、原告は、被告の指示に基づいて商品を揃え、宣伝を行ったにもかかわらず、実際の売上高は、被告の予測を大きく下回った。

これらの点に鑑みると、被告の行った本件店舗の需要予測の結論の客観性、正確性には疑問があるといわざるを得ない。

もっとも、売上高の予測に関しては、売上高は季節的な要因で変動することも考えられること、開店後の宣伝活動の近隣住民への十分な浸透を図るためにはある程度の時間が必要であるとも考えられること、本件店舗付近の世帯数は、最近増加する傾向にあったこと(<証拠>)などに照らせば、本件店舗の開店後の売上の実績が被告の予測を下回ったからといって、出店を可能と考えた被告の判断が長期的に見ても誤っていたと断定することはできない。しかしながら、右に検討したとおり、被告は、本件店舗の売上高の予測に際してかなり楽観的ないし強気の見通しを立てたことは否定できないというべきところ、一⑧に認定した事実によれば、被告の社員は、原告にフランチャイズ契約への加入を勧誘するに当たり、チェーン店を増やすことによって被告の事業の宣伝、拡大しようとする余り、前記需要予測調査のデータの正確さ、市場調査の信頼性を過度に強調し、他方、市場調査における売上予測の限界やフランチャイズ・チェーン店の経営のリスク等についての十分な説明を行っていなかったものと推認される。このような被告の社員の説明の態様は、加盟店になろうとする個人等が、被告の指導に従って営業を行えば、開店直後から、市場調査に基づく損益計算書に記載された程度の利益を上げられるものと思い込むおそれの強いものであったと認められる。

したがって、被告は、原告に本件契約への加入を勧誘するに当たり、客観性、正確性に問題のある市場調査の結果の信頼性を過度に強調し、フランチャイズ契約への加入の可否についての適切な判断を困難にするおそれの強い情報を提供したものと認められるから、被告は、フランチャイズ契約の加盟店の募集に際し、適正な情報を提供すべき前記信義則上の保護義務を怠ったものというべきである。そして、一に認定した事実によれば、被告の右保護義務違反と原告による本件店舗の経営が破綻したこととの間には、相当因果関係があると認められるから、被告には、本件店舗の経営が破綻したことによって原告に生じた損害を賠償する責任があると解すべきである。

2  独占禁止法上の義務違反について

一般指定第八項は、ぎまん的顧客取引を禁止し、公正取引委員会が昭和五八年九月二〇日に作成した「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」と題する文書によれば、「本部が、加盟店の募集に当たり、その誘因の手段として、重要な事項について、十分な開示を行わず、又は虚偽若しくは誇大な開示を行ったときは、不公正な取引方法の一般指定の第八項(ぎまん的顧客取引)に該当するおそれがあろう。」とされているところ、原告は、被告が、被告の行う市場調査の結果が絶対的に信頼できるものであるかのように原告を誤信させ、市場調査の結果に基づいて被告とのフランチャイズ契約が締結されることになるため、危険が少なく、開店することができれば繁栄が約束され、安心感を持って営業ができ、場合によっては売上予測以上の売上を上げられることを記載したパンフレット(<証拠>)を示して原告に本件契約への加入を勧誘したことが独占禁止法の禁止するぎまん的顧客取引に他ならない旨主張する。

しかしながら、<証拠>のパンフレットの記載は、被告を本部とするフランチャイズチェーンに加盟しようとする個人や業者に対する勧誘の方法として、契約の締結前に被告が市場調査を実施したり、被告が加盟店の経営を指導、援助するシステムになっていることから、独力で店舗を経営する場合に比べてリスクが少ないことを強調する趣旨のものであると認められ、また、被告の社員が被告の実施する需要予測の信頼性を過度に強調したことがあったとしても、被告の社員は、あくまでも予測として需要予測の結果に関する情報を提供したものであり、市場調査の予測に誤りがないと断定したり、フランチャイズチェーンに加盟すれば、必ず一定の利益が得られることを保証することを約したことまでは証拠上認められない。したがって、被告が原告に本件契約への加入を勧誘するに当たり、虚偽または誇大な開示を行ったとは認められず、原告の指摘する<証拠>による被告の顧客勧誘行為は、独占禁止法で禁止されているぎまん的顧客取引には当たらないと解すべきである。したがって、独占禁止法違反を理由とする原告の損害賠償請求は理由がない。

三損害について

1  原告の被った損害について

(一) 店舗改装費用

<証拠>によれば、原告が本件店舗の改装工事を発注し、七三一万円の支払義務を負担し、原告が本件店舗の賃貸人を被告とする造作買取請求訴訟を提起し、和解金として賃貸人から二一〇万円を受領したことが認められる。右の差額五二一万円は、原告が本件店舗の経営に失敗したことによって原告に生じた支出であり、被告の保護義務違反と相当因果関係のある損害に当たると解すべきである。

(二) 本件店舗を賃借したことによる損害

原告は、本件店舗を賃借するに際し、本件ビルの管理業者に手数料として一六万円を支払った(<証拠>)ほか、本件ビルの賃貸人に保証金として六四〇万円を支払い(<証拠>)、その後、本件店舗の賃貸人から保証金三五一万五四〇〇円の返還を受けたことが認められる(<証拠>)。原告が管理業者に支払った仲介手数料一六万円、及び原告が支払った保証金のうち原告が負担することになった右の差額二八八万四六〇〇円は、本件店舗の経営に失敗したことによって原告に生じた負担であり、被告の保護義務違反と相当因果関係のある損害に当たると解される。

(三) 什器、備品等を購入したことによる損害

原告は、本件店舗における営業を開始するに当たり、什器備品を被告から代金一一二万六九八六円で購入する契約を締結し、その代金債務を負担することになったが、右債務は、本件店舗の経営が破綻したことによって原告に生じた損害であり、被告の義務違反と相当因果関係のある損害に当たると解される。

(四) 逸失利益等

原告は、逸失利益及びパン等の商品の仕入れ代金債務相当額についての損害賠償を請求している。しかしながら、フランチャイズ契約の加盟店は、独立した事業者として、自己の責任において経営を行うことが予定されており(<証拠>)、本件契約は、被告が原告の収益を保証する趣旨のものではないと解されるから、原告の逸失利益の請求は理由がない。また、商品の仕入れ代金債務は、通常の営業活動に伴う負担であり、本件店舗の経営が破綻したことによって原告に生じた損害とは認められない。

更に、原告は、本件契約締結時に加盟金として被告に支払った五〇万円及び保証金として支払った一〇万円の損害賠償を請求している。しかしながら、<証拠>によれば、加盟金は、店舗の立地調査、研修指導、開店時のスーパーバイザーの派遣等に付いて、被告から労務を提供を受けたことに対する対価であると認められ、一で認定した事実によれば、原告は、本件契約に基づいて、被告から右労務の提供を受けたものと認められるから、右加盟金相当額の損害が原告に生じたと認めることはできない。また、保証金についても、本件店舗の経営が破綻したことによって原告に生じた損害とは認められない(なお、原告は、契約上の保証金返還請求権をも主張しているものと善解する。後記四)。

(五) 無形的損害

弁論の全趣旨によれば、原告は、本件店舗の経営に失敗したことによって、無形的損害を被ったことが認められるが、本件店舗の規模、営業期間等に鑑みると、右無形的損害を償うためには、金三〇万円が相当である。

したがって、被告の前記保護義務懈怠と相当因果関係のある損害の合計額は、九六八万一五八六円となる。

2  民法七二二条二項の類推適用について

原告は、被告から提供された需要予測調査の結果を重要な判断材料として本件契約を締結し、その結果、短期間に経営に行き詰まり、前記損害を被ったものであるけれども、

(一) フランチャイズ契約においては、本部が加盟店を指導援助することが予定されているとはいえ、法的には、独立した事業主相互間の契約であり、加盟店は、自己の経営責任の下に事業を行うべきものであるから、契約上、加盟店の経営が破綻したことによる損失は、本来加盟店が負担すべきものである。

(二) 被告の社員から、本件店舗で被告のチェーン店の営業を開始することを促されたという事情があったにせよ、原告も、被告から提供された情報を検討し、親族の意見も聞いたうえ、自己の意思で本件店舗において被告のフランチャイズ店の営業を開始することを決断したものと認められる。

(三) 本件において、原告は、三か月足らずの営業を行ったのみで、経営状態を改善するための被告からの提案を拒否して本件店舗を閉店したものであるが、本件店舗で営業方法を工夫すること等によって経営の改善を図ることが客観的に不可能であったとは証拠上断定できない。

(四) 原告は、本件契約の締結前には、資金計画について被告の社員に対して楽観的な説明をしていたもので、その後も現実の資金繰りの状況について被告側に十分な説明をしていなかったものと認められ、このことが、被告側の適切な指導、援助を困難にした要因となっていると推認される。そして、この点については、原告側にも落度があったと認められる。

このような事情を考慮すれば、被告の義務違反と相当因果関係のある原告の損害の全てを被告が賠償すべき義務を負うと解することは、公平の原則に照らして相当ではなく、民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用して、損害賠償の額を定めるに当たって原告の責めに帰すべき事情を斟酌することができるものと解すべきである。そして、原告の責めに帰すべき事由の内容と、被告の義務違反の内容、程度等の事情を勘案すれば、原告に生じた損害の七割を減ずるのが相当であると認められる。

そして、被告の義務違反と相当因果関係のある原告の生じた損害の額は、九六八万一五八六円であるから、これから七割を減じて原告の損害額を算出すると次のとおり、二九〇万四四七五円となる。

9,681,586×0.3=2,904,475(端数切捨て)

3  弁護士費用について

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は、三〇万円とするのが相当である。

四保証金の返還請求について

本件契約の終了にともない、原告が、本件契約の締結に際して被告に支払った保証金一〇万円の返還を求める契約上の請求権を有することについては、被告もこれを認めている(反訴状)。

したがって、被告は、契約締結上の保護義務違反によって生じた損害の賠償として三二〇万四四七五円、及び本件契約の約定に基づき保証金一〇万円をそれぞれ原告に支払う義務がある。

五反訴請求について

原告は、反訴で請求されたパン等の商品の売掛代金四一万五六四四円、什器備品の売買代金一一二万六九八六円、ロイヤリティ九〇〇〇円の債権の発生原因事実を認めている。

六相殺の主張について

1  被告は、平成元年三月三日に、商品等の売掛代金債権と契約上の保証金返還債務とを対等額で相殺する意思表示をしたので、被告の右売掛代金債権は三一万五六四四円になり、原告の保証金返還請求権は消滅した。

2  原告は、平成三年一月二四日の第一五回口頭弁論期日において、本訴請求にかかる損害賠償請求権をもって、被告の反訴請求にかかる債権のうち、パン等の商品の売掛代金債権(三一万五六四四円)及び什器備品の売買代金債権(一一二万六九八六円)以上合計一四四万二六三〇円と、その対等額で相殺する旨の意思表示をした。したがって、原告が被告に対して有する損害賠償請求権のうち、一四四万二六三〇円と、被告が原告に対して有するパン等の商品の売掛代金債権と什器備品の売買代金債権は、右相殺の意思表示によって消滅した。

七結論

結局、原告の本訴請求は、被告に対し、一七六万一八四五円及びこれに対する被告の義務違反によって原告に損害が生じた日の後である昭和六三年四月一日以降支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がないことになり、被告の反訴請求は、ロイヤリティ九〇〇〇円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成元年三月四日から支払済みまで年一四パーセントの割合による金員の支払いを求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がないことになる。

(裁判官孝橋宏)

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